(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768506
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】メタクロレインの連続的製造方法における含水率の調節方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/75 20060101AFI20201005BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20201005BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
C07C45/75
C07C47/22 H
!C07B61/00 300
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-528410(P2016-528410)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公表番号】特表2016-527239(P2016-527239A)
(43)【公表日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2014065065
(87)【国際公開番号】WO2015010942
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年5月19日
【審判番号】不服2019-2642(P2019-2642/J1)
【審判請求日】2019年2月27日
(31)【優先権主張番号】13177889.6
(32)【優先日】2013年7月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ ブアクハート
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク グルート
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート ケルブル
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】トアステン バルドゥーフ
【合議体】
【審判長】
佐々木 秀次
【審判官】
村上 騎見高
【審判官】
齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−188831号公報(JP,A)
【文献】
特開平10−306054号公報(JP,A)
【文献】
特表2011−519831号公報(JP,A)
【文献】
特開昭61−125485号公報(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/073841号(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C45/00-45/90
C07C47/00-47/58
C07C49/00-49/92
C07C68/00-68/08
C07C69/00-69/96
B01D61/00-61/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンニッヒ反応を連続的に実施するための方法であって、
−反応空間内において、プロピオンアルデヒドとホルムアルデヒドとを反応させてメタクロレインとし、反応生成物であるメタクロレインを蒸留塔内で少なくとも部分的に分離し、前記蒸留塔の供給部の下側で取り出される水およびアミン触媒を含有する流出物を、続いて少なくとも部分的に、少なくとも1つの膜分離段階を用いて主に水からなる流と含水率の低下した流とに分離し、ここで、前記主に水からなる流が膜分離段階の透過液であり、前記含水率の低下した流が膜分離段階の濃縮液であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記含水流出物を分割して、一部を前記膜分離段階に送り、別の一部を反応空間に返送することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応を、前記プロピオンアルデヒドに対してそれぞれ0.1〜20モル%の有機塩基および0.1〜20モル%の酸の存在下に、温度100〜300℃および圧力5〜100barで実施することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機塩基が第二級アミンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記主に水からなる流を第二の膜分離段階を用いて、主に水からなる第二の流と、含水率の低下した第二の流とに分離することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記膜分離段階の膜が、ポリアミド、アセチルセルロースまたはポリエーテルスルホンからの分離活性層を有していることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記膜上の温度が10〜70℃であり、膜間差圧が20〜100barであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記膜分離段階が、第一の膜分離段階と第二の膜分離段階を含み、かつ、前記第一の膜分離段階を用いて分離された含水率の低下した第一の流を、全部または部分的に前記反応空間に返送することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
製造設備内の含水率および/または触媒含有率を測定して、必要な場合、追加の水および/または触媒を前記反応空間に供給することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記含水率および/または触媒含有率を、プローブを用いてオンラインで測定するか、または前記膜分離段階によって排出された水の計量によって測定することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記膜分離段階によって分離された、少なくとも1つの主に水からなる流を、生物学的後処理に供給することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第二の膜分離段階によって分離された、主に水からなる流を、生物学的後処理に供給することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記含水率の低下した流を燃焼に供給することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記含水率の低下した第二の流を、燃焼および/または第一の膜分離段階および/または前記反応空間に供給することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記膜分離段階が、第一の膜分離段階と第二の膜分離段階を含み、かつ、前記第一の膜分離段階を用いて分離された含水率の低下した第一の流を前記反応空間に返送する、および/または燃焼に導入することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記膜分離段階が、第一の膜分離段階と第二の膜分離段階を含み、かつ、反応生成物を蒸留塔内で少なくとも部分的に分離し、前記蒸留塔の塔下部からの水性流出物を前記第一の膜分離段階に送る、および/または前記反応空間に返送することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインの製造方法における含水率の調節に関する。メタクロレインは、化学合成において特にメタクリル酸、メチルメタクリレート、または作用物質、香料もしくは調味料を製造するための中間生成物として使用される。特に、本発明は、マンニッヒ縮合を用いるホルムアルデヒドとプロピオンアルデヒドとからのメタクロレインの製造方法における含水率の調節に関する。
【0002】
可能な限り容易で経済的かつ環境に配慮した、メタクロレインの製造方法に高い関心が持たれている。
【0003】
種々のアミン触媒プロセス、特に、アミンを含む反応水が生じるメタクロレインの製造方法が公知である。メタクロレインの工業的に重要な製造方法は、プロパナールおよびホルムアルデヒドを出発点として、マンニッヒ反応によって行われる。そのようなメタクロレインの製造方法は、特に、刊行物US7,141,702、US4,408,079、JP3069420、JP4173757、EP0317909およびUS2,848,499に記載されている。
【0004】
ここで、当然ながら、前記反応を連続的に実施することが特に重要である。ここで、マンニッヒ反応またはアルドール類似付加の副生成物としてアミンを含む水が生じる。この水は、一方では、出発材料および触媒溶液のための反応媒体および溶媒であり、特に、反応熱および反応操作を適度にするために必要とされる。他方、そのようなプロセスでは、水、例えば触媒を含む水は返送される。しかし、この手法の欠点は、時とともに、水が反応循環中で濃縮され、除去しなければならないことである。反応生成物であるメタクロレインがほぼ除去された後、前記水は、活性および不活性の触媒成分と一緒に処理に供給される。
【0005】
水は、出発材料ならびに任意に触媒成分と一緒に前記反応に達することがあり、そこで同時に水分平衡に影響を及ぼすこともさらに考慮に入れられるべきである。
【0006】
したがって、使用されたホルマリンによって相当量の水が前記系に達する;ホルマリンの選択された濃さもしくは濃度に応じて(通常、市販および一般的に生産される、水中のホルムアルデヒド36〜60質量%のホルマリン濃度が使用される)、したがってそれ自体として水への基礎負荷(Grundlast)が生じ、この負荷は、有価生成物であるメタクロレインの分離後に、前記反応の間に形成された水と一緒に処理される必要がある。さらに、反応および後処理における水分平衡に関して、副反応も水を放出することが考慮されなければならない。これは、プロパナールの副反応の場合にも、触媒活性アミンの副生成物の場合にも当てはまる。前記触媒活性アミンは、エシュバイラー・クラークによる反応条件下もしくはロイカート・ヴァラッハ類似反応において、部分的にもはや触媒活性ではない高度にアルキル化された(hoeher alkyliert)誘導体を形成する。例えば、ジメチルアミンからホルムアルデヒドとの反応によって当量のトリメチルアミンが生じる一方、水が放出される。
【0007】
他方、前記プロセスでは、水、例えば触媒を含む水が返送される。この手法の欠点は、時とともに前記水が反応循環中で濃縮され、除去しなければならないことである。それに反して返送せずに済ます場合、前記反応の始めに新しい触媒が添加される必要がある。このことは、前記方法をそれほど経済的にせず、廃水を生態系上憂慮すべきものにする。さらに、水相中には、ある程度の量の分離されなかったメタクロレインも含まれており、このメタクロレインは、このようにして前記系から取り除かれ、それによって、前記方法の総収率は低下する。前記水相の返送は、例えば、JP4173757A(JP19900300135)に記載されている。
【0008】
DE3213681では、これに関して複数の代替案が提案されている。水相中において、もしくはこの水相および触媒の他に、高沸点性の副生成物および残りのモノマーおよびメタクロレインをさらに含んでいる蒸留塔底部において触媒量が少ない場合、これらを処理することが提案されている。濃度が比較的高い場合、水分量を減らすために、前記塔底物をきわめて費用がかかるまた別の蒸留に供することが提案されている。その場合、残留分は反応区間に返送される。しかし、この手法はエネルギー上不利であるだけでなく、前記第二の蒸留の場合、収率が低下するのに加えて、沸点が比較的低いため一緒に留去されるだろうメタクロレインが排除される。
【0009】
DE3213681の第三の代替案では、前記塔底物は分割されて、一部が反応空間に返送されるため、それによって含水率が増加して影響が及ぼされることがある。前記塔底物(およびしたがって前記水相)の別の一部は排除される。しかし、この手法は、排除された含分が生成物の他に触媒量も含んでおり、この触媒量は、調整のために前記系に新たに再供給する必要があることが欠点である。したがって、収率が低下する一方、他方では触媒消費量が増加する。
【0010】
したがって、先行技術を考慮して、本発明の課題は、反応水が形成される連続的に行われる反応において、含水率を調節することであった。特に、連続的なマンニッヒ反応において含水率を調節することが課題であった。
【0011】
特に、本発明の課題は、メタクロレインを製造するために連続的に行われるマンニッヒ反応において含水率を調節することであり、ここで、反応空間に返送された蒸留塔底物から、水および少量の別の成分のみが取り除かれる。
【0012】
さらに、さらなる課題は、水を取り除いて、この水をその後に生物学的後処理に使用し、および熱酸化装置で燃焼するために排出された、高沸点物を含む、含水率が比較的低い別の相を得ることであった。
【0013】
さらに、前記方法は、現行設備の比較的容易かつ経済的な変更によって実現できることが望ましい。それに応じて、前記変更はわずかな投資費用しか伴わないのが望ましい。ここで、前記設備は前記変更後にも容易に整備でき、かつわずかな維持費用しか生じさせないことが望ましい。特に、先行技術と比べて軽減された所要エネルギーを有し、および比較的少ない触媒流出を可能にする方法を提供することが課題である。
【0014】
明確に記載されていないさらなる課題は、以下の記載および請求項の関連全体から明らかである。
【0015】
前記課題は、マンニッヒ反応を連続的に実施するのに好適な新規の方法を用いて解決される。この方法は、少なくとも1つのアミン触媒を含む水相を、少なくとも1つの膜分離段階を用いて、主に水からなる流と含水率の低下した流とに分離することを特徴としている。
【0016】
前記反応の反応生成物は、あらかじめ、例えば塔内で少なくとも部分的に分離されてよい。この場合、例えば前記塔の供給部の下側で取り出される含水流出分は、続いて少なくとも1つの膜分離段階を用いて分離される。
【0017】
前記塔の含水流出分は、取り出された後に分割されるのが特に好ましい。ここで、この取り出されたうちの第一の部分は膜分離段階に送られ、別の部分は反応空間に返送される。このようにして、この反応空間内の含水率を一定に保つことが可能である。前記反応空間に返送された流が一定に保たれるのが特に好ましい。相応して、前記膜段階に送られた部分もしくは流は、容量に関して、前記塔における塔底物量、特に水分量に応じて変化してよい。
【0018】
しかし、別の実施態様も、前記好ましい実施態様の代替として可能である。例えば、前記反応生成物は、相分離器内で少なくとも1つのアミン触媒を含む水相と分離されてよい。そのような場合、この水相は全部または部分的に膜分離段階に送られ、前記反応生成物は、例えば蒸留塔に運ばれる。その場合、前記塔の塔底物は、さらにまた前記相分離器に返送され、膜分離段階に送られ、反応空間に返送されるか、または例えば熱処理に直接送られてよい。
【0019】
前記膜分離段階の膜は、主に水からなる流が透過液であり、含水率の低下した流が前記膜分離段階の濃縮液であるように選択されるのが好ましい。しかし、含水率の低下した流が透過液であり、主に水からなる流が濃縮液である膜を使用することも可能である。
【0020】
主に水からなる流が透過液であり、含水率の低下した流が前記膜分離段階の濃縮液である前記第一の好ましい実施態様は、本発明をより容易に理解するために以下に例示的に記載される。しかし、その逆の、含水率の低下した流が透過液であり、主に水からなる流が濃縮液であるあまり好ましくない実施態様も、特に明確な記載がなくてもさらなる記載にそれぞれ一緒に含まれることが明確に示されている。
【0021】
好ましくは、前記提案されたマンニッヒ反応は、2〜6個の炭素原子を有するアルデヒドとホルムアルデヒドとを反応空間内で不飽和アルデヒドにする反応である。特に好ましいのは、プロパナールとホルムアルデヒドとを反応させてメタクロレインにするマンニッヒ反応である。
【0022】
特に、前記反応は、それぞれ2〜6個の炭素原子を有するアルデヒドに対して0.1〜20モル%の有機塩基、好ましくは第二級アミン、および0.1〜20モル%の酸、好ましくは有機酸の存在下に、100〜300℃の温度および5〜100barの圧力で反応を実施することを特徴としている。圧力および温度は、通常、前記反応が常に反応混合物の沸点未満で行われ、前記反応が液相中でも進行するように調節される。
【0023】
メタクロレインの製造に好適な、マンニッヒ反応をベースにする方法は当業者に公知であり、相応の調査論文、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry 2012、Wiley−VCH Verlag GmbH&Co.KGaA、Weinheim、Acrolein and Methacrolein、DOI:10.1002/14356007.a01_149.pub2の対象である。特に、本発明による、アミンを含む反応水の供給前に実施されるのが特に好ましい方法は、連続的に実施されるマンニッヒ反応を指しており、例えば、出願書類整理記号13002076.1の欧州特許出願に開示されている。本発明によれば、そのような好ましい予備段階を説明するために、メタクロレイン合成に関する前記出願の開示が参照される。
【0024】
前記酸は、通常、無機酸または有機のモノカルボン酸、ジカルボン酸もしくはポリカルボン酸であり、好ましくはモノカルボン酸、特に脂肪族モノカルボン酸である。プロパナールとホルムアルデヒドとを反応させるために、少なくとも1つの有機酸、特に好ましくは酢酸が使用されるのが特に好ましい。酸の含分は、プロパナールに対して0.1〜20モル%、有利には0.5〜10モル%、好ましくは1〜5モル%である。
【0025】
前記有機塩基は、好ましくはアミン、特に好ましくは第二級アミンである。アミンとして考慮に入れられるのは例えば:ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、メチルイソプロピルアミン、メチルイソブチルアミン、メチル−sec−ブチルアミン、メチル−(2−メチルペンチル)アミン、メチル−(2−エチルヘキシル)アミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピペラジン、N−ヒドロキシエチルピペラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンイミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルシクロヘキシルアミン、メチルシクロペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミンまたは相応の混合物である。有機塩基の含分は、プロパナールに対して0.1〜20モル%、有利には0.5〜10モル%、好ましくは1〜5モル%である。
【0026】
アミン対酸の当量比は、前記反応混合物中で、前記反応前にpH値2.5〜9になるように選択されるのが好ましい。
【0027】
前記アミンを含む反応水には、前記成分および副成分の他に、残留している出発材料またはその後続生成物、例えばパラホルムアルデヒド、または有機溶媒、例えばプロパノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メトキシエタノールがさらに含まれていてよい。特に、前記触媒系の副生成物、例えば、第三級アミンまたはその塩が含まれていてもよい。
【0028】
前記方法では、前記生成物、例えば、メタクロレインの分離は、(前記の通り)蒸留塔によって行われるのが好ましい。そのような塔の下側半分に供給部が存在している。この塔の下部には、主に前記反応の反応水からなる塔底物が集まる。この塔底物は、さらに、触媒成分、例えば有機酸および第二級アミンもしくはこれから形成された塩、ならびに前記反応の副生成物を含んでいる。この水性触媒溶液は、前記供給部の下側で、特に前記塔の塔底部で取り除くことができる。ここで、前記反応水は、触媒溶液として添加された水、前記反応で形成された水、および任意にホルムアルデヒド溶液の水から構成される。
【0029】
アルドール縮合またはマンニッヒ反応、例えばプロパナールとホルムアルデヒドとからのメタクロレインの製造では、反応混合物は塔に供給され、そこで水蒸気によってストリッピングされる。この生成物は、水と一緒に塔頂部で前記塔を離れる。この混合物は縮合されて、相分離容器によって上相と下相とに分離される。上相は、生成物、例えばメタクロレインを含んでいる。下相は、主に水からなる。好ましくは、この水は、まだその中に溶解している生成物を除去するために、少なくとも部分的に、好ましくは全部が再び前記塔に返送されてよい。
【0030】
プロパナールとホルムアルデヒドとからメタクロレインを製造する場合に生成される反応水は、触媒溶液として添加された水、前記反応で形成された水、および任意にホルムアルデヒド溶液の水から構成される。さらなる、しかし考慮される比較的少量の水源は、工業用出発材料の成分、例えばプロピオナール、ならびに触媒成分と出発材料、副生成物および反応生成物との種々の副反応で形成される水、ならびに前記反応条件下に生じるそれらのすべての成分からの反応水である。前記アミンを含む反応水には、前記成分および副生成物の他に、残留している出発材料またはその後続生成物がさらに含まれていてよい。ここで、特に、前記触媒成分、例えば第二級アミンおよび有機酸、ならびにそれから形成される塩が挙げられる。これらの触媒の副生成物は、処理に関して特に重要である。ここで、特に、高度にアルキル化されたアミン、例えば特に、ジメチルアミンを当初の触媒アミンとして使用する場合、トリメチルアミンが例として挙げられる。少量の出発材料または生成物は、前記アミンを含む反応水に含まれていてもよい。その例は、メタクロレイン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドおよびプロパナールである。いわば前記アミンを含む反応水に含まれている前記反応の副生成物として、例えばメタクロレインの二量体、オリゴマーまたはポリマーが挙げられるとされる。さらに、プロセス操作に応じて、さらなる助剤、例えば有機溶媒、例えばメタノール、ギ酸、プロパノール、ジオキサン、テラヒドロフランまたはメトキシエタノール(ならびに、反応マトリックスに含まれているか、または反応マトリックスで生じるさらなる物質)が含まれていてよい。
【0031】
前記反応の特に好ましい実施態様では、主に水からなる流、好ましくは第一の膜分離段階の透過液は、第二の膜分離段階を用いて、主に水からなる第二の流、好ましくは水を含む第二の透過液と、含水率の低下した第二の流、好ましくは第二の濃縮液とに分離される。この第二の透過液は、きわめて高い含水率ならびにきわめて少ない割合の触媒成分、生成物、出発材料および副生成物を有していることを特徴としている。したがって、たいていの場合、この透過液を生物学的処理に供給することが可能である。そのような処理は、類似の、本発明によらない設備の廃水では不可能である。ここで、あまり負荷がかかっていない水を得るためには、さらなる蒸留工程を行うか、またはしかし、前記廃水を熱処理、例えば熱酸化装置に供給する必要がある。
【0032】
本発明による方法の第一の膜分離段階の第一の透過液に関しても、この透過液を生物学的後処理に供給できることがすでに考えられうる。このことは、前記設備の作動形態、およびそれから結果的に生じる、前記物質を有する透過液の負荷と関係している。それとはかかわりなく、そのような透過液は、前記設備から排出された塔底物よりも前記物質による負荷が少ない。したがって、比較的強く負荷された透過液も蒸留を用いてより容易に精製される。
【0033】
さらに、本発明による方法は、1つか、または2つの膜分離段階を有する実施態様であるかどうかは別として、前記塔の塔底物中に溶解した触媒成分の大部分がこのようにして前記設備中に残留している先行技術と比べて、大きな利点を有している。このことは、含水率を低下させるために、単に前記塔底物を取り出すことと比べてきわめて有利である。同じことが前記塔底物中に溶解した生成物にも当てはまる。この生成物は膜分離段階では一緒に排出されないため、本発明による方法を用いるプロセスの総収率はむしろ高まる。
【0034】
本発明による方法では、例えば、混合物から水を分離するのに好適なナノろ過または逆浸透膜の膜が使用されてよい。そのために、水の後処理もしくは水の脱塩の分野、さらにまた、例えば飲料水または発電所のボイラー用水を得るために使用される膜が公知である。ポリアミド、アセチルセルロースまたはポリエーテルスルホン、特に好ましくはポリアミドからの分離活性層を有している膜であるのが好ましい。その好適な例は、Dow Filmtec SW30HR Membranである。
【0035】
通常、前記膜は、スパイラル型構成部材(Spiralwickelelemente)として存在している。そのような膜の詳細な構造は、例えば、Th.Melin、R.Rautenbach “Membranverfahren−Grundlagen der Modul− und Anlagenauslegung”、3rd edition、Springer Verlag、Berlin、173〜175ページで確認できる。
【0036】
本発明によれば、前記膜分離段階は、10〜70℃、好ましくは30〜40℃の膜上の局所的温度を有しているのが好ましい。同じく、20〜100bar、好ましくは50〜90bar、特に好ましくは70〜90barの膜間差圧(Transmembrandruck)であるのが好ましい。前記膜分離段階をそのような製造設備に含めるための詳細な設備技術は、当業者に公知であり、例えば、Th.Melin、R.Rautenbach、“Membranverfahren−Grundlagen der Modul− und Anlagenauslegung”、3rd edition、Springer Verlag、Berlin、205〜226ページおよび245〜308ページで確認できる。
【0037】
第一もしくは一つだけの膜分離段階で得られる第一の濃縮液は、全部または部分的に反応空間に返送されるのが好ましい。この場合、部分的とは、前記濃縮液の一部が、その他に前記設備内で濃縮されたであろう副生成物を除去するために排出されることを意味する。これは連続的に行われてよい。任意には、この排出はバッチ式に行われる。したがって、排出は、例えば規則正しい間隔で行われてよい。そのような副生成物の含有量は、インラインプローブを用いて測定されるのが特に好ましい。この場合、前記排出は、あらかじめ設定された上限値を超過した場合に行われてよい。副生成物の種類によって、このプローブは、pH値測定、IRプローブまたはRIプローブ、粘度測定または伝導率測定であってよい。前記蒸留塔内の温度プローブの相応のデータを得ることも可能である。しかし、単に、前記透過液の排出された水分量を、前記膜分離段階の後で計量することも可能である。この排出された水中で、排出された水の濃度を測定することもできる。同じく、排出された触媒成分もしくはその後続生成物の、前記濃縮液中の量を測定することもできる。
【0038】
したがって、前記相応の副生成物は、きわめて容易に前記反応混合物から分離することができ、その結果、前記方法は、費用のかかる洗浄工程を必要とせずに、総じて高い収率で実施することができる。
【0039】
さらに、前記製造設備内の含水率および/または触媒含有率を測定することができる。これは、例えば、前記濃縮液を前記反応空間に返送するための導管において行われてよい。特に、濃縮液を取り出した後、説明した理由から、例えば有機酸およびアミンを添加することによって触媒濃度を調整する必要がある。その場合、必要に応じて、前記計量値に基づいて、触媒が前記反応空間に供給されてよい。
【0040】
さらに、前記設備の排出された透過液によって、前記反応で形成される、もしくは前記出発材料および触媒を添加することによって前記設備に供給されるより多くの水を除去することが可能である。そのために、前記濃縮液を返送するための導管内で、または前記反応空間で直接、そのために好適なプローブを用いてオンラインで含水率が測定されるのが好ましい。単に、前記膜分離段階によって排出された水の量が測定されるのが特に好ましい。その場合、さらなる水を添加することによって、前記設備を一定の水濃度で運転することができる。
【0041】
前記反応空間の入口における含水率は、総質量の75%以下であるのが好ましい。
【0042】
すでに説明した通り、濃縮液は、燃焼、例えば熱酸化装置に供給されてよい。特に、第二の濃縮液は、燃焼、および/または第一の膜分離段階、および/または前記反応空間に供給されてよい。このようにして、きわめて効率的に水を取り出すこと、および返送の場合、燃焼させる必要があるきわめて少量の廃棄液体が得られる。さらに、前記熱酸化装置に供給される相は、先行技術と比べて、明らかに比較的少ない含水率を有しており、したがって、明らかに省エネルギーに燃焼させることができる。
【0043】
それに対して、前記第一の濃縮液は、好ましくは前記反応空間に返送される、および/または、特に好ましくは(前述の通り)必要な場合に燃焼に導入される。
【0044】
さらに、本発明のさらなる実施態様では、前記蒸留塔の塔下部からの水性流出分が、第一の膜分離段階に送られる、および/または割合に応じて前記反応空間に返送されるように前記設備を構成することも可能である。このことは、一方では、前記流を単に部分流に分離することによって連続的に行うことができる。ここで、部分流は、まさに、前記反応で形成されて前記出発材料と一緒に供給された量の水を、前記膜分離段階によって排出する必要がある量の水と一緒に運ぶことができる。その場合、この部分流は排出されて前記膜分離段階に送られる。前記別の部分流は、前記反応器に返送される。
【0045】
他方、前記流れ(Fluss)を必要に応じて制御することもできる。例えば、前記設備を、慣らし運転する場合に単に前記反応空間に返送させてのみ運転し、前記設備内に比較的大量の水が集まってからようやく前記塔底物を前記膜分離段階に送ることが可能である。例えば、弁または三方活栓の形態の切替装置を、含水率および/または副生成物濃度に関してプローブで把握されたデータを用いて自動制御することもできる。
【0046】
本発明の大きな利点は、前記方法が、現行設備の比較的容易かつ経済的な変更によって実施できることである。前記変更はわずかな投資費用しか伴わない。ここで、前記設備は容易に整備でき、かつわずかな維持費用しか生じさせない。整備のために、例えば、流をぞれぞれの膜分離段階に通すことができる。このようにして、それぞれの膜分離段階を洗浄、例えば膜洗浄剤による洗浄に供することが可能である一方、本来の製造設備は引き続き運転される。さらに、例えば、複数の膜を1つの膜分離段階において並列に配置することも可能である。その場合、本発明のそのような実施態様によって、個々の膜がオフラインに切り替えられて洗浄される間、前記膜分離段階を引き続き利用することがさらに可能である。
【符号の説明】
【0048】
図1:
1 ホルマリンの計量供給
2 プロピオンアルデヒドの計量供給
3 ジメチルアミンの計量供給
4 酢酸の計量供給
5 反応器もしくは反応空間
6 塔頂生成物
7 塔底生成物
8 膜分離段階の供給流
9 塔底から反応器への還流
10 膜段階から反応器への濃縮液の還流
11 濃縮液の排出
12 水相の塔への還流
13 生成物メタクロレイン
14 蒸留塔
15 凝縮器
16 相分離器
17 膜分離段階
18 透過液
図2:
1 ホルマリンの計量供給
2 プロピオンアルデヒドの計量供給
3 ジメチルアミンの計量供給
4 酢酸の計量供給
5 反応器もしくは反応空間
6 塔頂生成物
7 塔底生成物
8 膜分離段階の供給流
9 塔底から反応器への還流
10 膜段階から反応器への濃縮液の還流
11 濃縮液の排出
12 水相の塔への還流
13 生成物メタクロレイン
14 蒸留塔
15 凝縮器
16 相分離器
17 第一の膜分離段階
18 第一の膜段階から第二の膜分離段階に向かう透過液
19 第二の膜分離段階
20 第二の膜分離段階の透過液
21 第二の膜分離段階から第一の膜分離段階に向かう濃縮液