(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768559
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】誘電性薄膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 3/00 20060101AFI20201005BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20201005BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20201005BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20201005BHJP
H01B 3/02 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
H01B3/00 F
C01G51/00 C
C23C14/06 L
C23C14/34 C
H01B3/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-37572(P2017-37572)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-142514(P2018-142514A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 忠義
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−069428(JP,A)
【文献】
特開平09−050618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00
C01G 51/00
C23C 14/06
C23C 14/34
H01B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる誘電性薄膜であって、
組成式FeaCobNicMwNxOyFzで表わされ、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.23≦a+b+c≦0.35、0.10≦w≦0.50、0≦x≦0.50、0≦y≦0.50、0≦z≦0.50、0.20≦x+y+z≦0.70、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、
前記金属粒子の平均粒子径が3.0〜4.0[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.1〜1.0[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.2〜1.5の範囲に含まれ、緩和時間τが1.0×10-8[s]以下であることを特徴とする誘電性薄膜。
【請求項2】
請求項1記載の誘電性薄膜において、
前記金属粒子の平均粒子間隔が0.30〜0.55[nm]の範囲に含まれていることを特徴とする誘電性薄膜。
【請求項3】
請求項1または2記載の誘電性薄膜において、
0.27≦a+b+c≦0.32であることを特徴とする誘電性薄膜。
【請求項4】
請求項1記載の誘電性薄膜において、
前記金属粒子の粒子径の標準偏差が0.39〜0.42[nm]の範囲に含まれ、かつ、前記金属粒子の粒子間隔の標準偏差が0.28〜0.36[nm]の範囲に含まれていることを特徴とする誘電性薄膜。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の誘電性薄膜の製造方法であって、
Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性材料と、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなる金属と、の複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、基板の温度を200〜300[℃]の範囲に制御しながら当該基板の上に前記誘電性薄膜を成膜することを特徴とする誘電性薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電性薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人により、絶縁体マトリックスにナノメーターサイズの金属粒子が分散しているナノグラニュラー構造を有する誘電性薄膜が提案されている(特許文献1参照)。薄膜の誘電率を向上させ、かつ、電気絶縁性を確保する観点から金属含有量が適当に調節されている。金属および誘電体の含有比率が調節されることによって、金属粒子の粒径および分布状態ならびに金属粒子間の誘電体の厚みなどの薄膜構造が、誘電率の向上の観点から最適化されることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5799312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、GHz帯域などの高周波帯域における誘電特性を向上させるためには、誘電率の緩和減少を考慮する必要がある。一般的にナノグラニュラー構造などの構造分散を有する誘電体材料の誘電率の周波数特性は、デバイ・フローリッヒモデルによる式(1)によって説明することができる。
【0005】
ε(ω)=ε
∞+Δε/{1+(iωτ)
β} ‥(1)。
【0006】
ここで「ε
∞」は緩和後の高周波帯域における誘電率であり、「Δε」は電気分極の強度であり、「τ」は誘電緩和の緩和時間であり、「β」は緩和時間の分布を表す指標(0≦β≦1であり、0の時に分布が最大、1の時に分布が最小となる)である。高周波帯域の誘電率を高めるためには、緩和時間τを小さくすることが必要となる。
【0007】
そこで、本発明は、誘電特性のさらなる向上を図り得る誘電性薄膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分と、N、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる誘電性薄膜に関する。
【0009】
本発明の誘電性薄膜は、組成式Fe
aCo
bNi
cM
wN
xO
yF
zで表わされ、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.23≦a+b+c≦0.35、0.10≦w≦0.50、0≦x≦0.50、0≦y≦0.50、0≦z≦0.50、0.20≦x+y+z≦0.70、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、前記金属粒子の平均粒子径が3.0〜4.0[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.1〜1.0[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.2〜1.5の範囲に含まれ、緩和時間τが1.0×10
-8[s]以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の誘電性薄膜において、前記金属粒子の平均粒子間隔が0.30〜0.55[nm]の範囲に含まれていることが好ましい。
【0011】
本発明の誘電性薄膜において、0.27≦a+b+c≦0.32であることが好ましい。
【0012】
本発明の誘電性薄膜において、前記金属粒子の粒子径の標準偏差が0.39〜0.42[nm]の範囲に含まれ、かつ、前記金属粒子の粒子間隔の標準偏差が0.28〜0.36[nm]の範囲に含まれていることが好ましい。
【0013】
本発明の誘電性薄膜の製造方法は、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性材料と、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなる金属と、の複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、基板の温度を200〜300[℃]の範囲に制御しながら当該基板の上に前記誘電性薄膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の誘電性薄膜によれば、GHz帯における誘電率の顕著な向上が図られている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】薄膜におけるFeおよびCoの合計原子比率a+bおよび電気抵抗率の関係に関する説明図。
【
図3】薄膜におけるFeおよびCoの合計原子比率a+bおよび緩和時間τの関係に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態としての誘電性薄膜は、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分と、N、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる誘電性薄膜に関する。
【0017】
本発明の誘電性薄膜は、組成式Fe
aCo
bNi
cM
wN
xO
yF
zで表わされ、MはMg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.23≦a+b+c≦0.35、0.10≦w≦0.50、0≦x≦0.50、0≦y≦0.50、0≦z≦0.50、0.20≦x+y+z≦0.70、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、前記金属粒子の平均粒子径が3.0〜4.0[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.1〜1.0[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.2〜1.5の範囲に含まれ、緩和時間τが1.0×10
-8[s]以下となる。
【0018】
(製造方法)
本発明の誘電性薄膜は基板上に成膜される。基板としては、石英ガラスまたはコーニング社製♯7059(コーニング社の商品名)などのガラス基板、表面を熱酸化した単結晶SiウエハまたはMgO基板が採用される。
【0019】
誘電性薄膜は、例えばFe、CoおよびNiのうち少なくとも1つを含む合金円板上に、M元素を含む窒化物、酸化物またはフッ化物の誘電体(絶縁体)のチップが配置された複合ターゲットが用いられ、スパッタリング法によって成膜される。複合ターゲットに代えて、金属ターゲットおよび誘電体ターゲットを用いて、スパッタリング法により、薄膜の組成比を調節するために各ターゲットのスパッタ電力およびスパッタ電力供給時間などの因子が調節されながら誘電性薄膜が成膜されてもよい。
【0020】
スパッタ成膜に際して、Arガス、ArおよびN
2の混合ガスまたはArおよびO
2の混合ガスが雰囲気ガスとして用いられる。成膜時間の長短により膜厚が制御され、例えば0.3〜3[μm]の誘電性薄膜が製造される。成膜時における基板温度は200〜300[℃]の範囲に収まるように基板が加熱された。成膜時のスパッタ圧力は1〜60[mTorr]に調節され、スパッタ電力は50〜350[W]に調節された。
【0021】
(実施例・比較例)
基板の上に、スパッタリング法により実施例1〜5および比較例1〜12のそれぞれの薄膜が作製された。基板としては、薄膜の誘電率測定のため、基板の一部にAuまたはPtの電極膜が形成された、約0.5mm厚のコーニング社製#7059(コーニング社の商品名)ガラス基板が用いられた。表1には、各実施例および各比較例の薄膜の組成を表わす原子比率a、b、c、w、x、y、zの数値が、成膜時の基板温度とともに示されている。スパッタリングに際して用いられる複合ターゲットの組成が調節されることにより、薄膜の組成が調節された。
【0023】
ネットワークアナライザー(製造社:Rhode and Schwarz;型式ZNB20)によって、各実施例および各比較例の薄膜の1MHz、10MHz、100MHz、1GHzおよび10GHzのそれぞれにおける誘電率が測定され、デバイ‐フローリッヒモデルにより緩和時間τが測定された。直流4端子法を基本とする電気抵抗率の測定装置を用いて、各実施例および各比較例の薄膜の電気抵抗率が測定された。表2には、各実施例および各比較例の薄膜の膜厚とともにこれらの測定結果が示されている。高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)を通じて得られた画像の解析により、薄膜の平均粒子径、その標準偏差およびその粒子の平均アスペクト比、平均粒子間隔およびその標準偏差が測定された。表3には、各実施例および各比較例の薄膜のこれらの測定結果が示されている。
【0026】
(金属含有量および薄膜特性の相関関係)
図1には、成膜温度200[℃]で作製された実施例3(a+b=0.30,c=0),実施例4(a+b=0.32,c=0)および比較例1(a+b=0.14,c=0),比較例2(a+b=0.17,c=0)の薄膜の誘電率の測定結果が示されている。
図1から、FeおよびCoの合計原子比率a+bが比較的高い実施例3、実施例4の薄膜は、FeおよびCoの合計原子比率a+bが比較的低い比較例1、比較例2の薄膜よりも、1MHz、10MHz、100MHz、1GHzおよび10GHzのそれぞれにおける誘電率が高いことがわかる。
【0027】
図2には、実施例1〜5のそれぞれの薄膜(該当数番の丸付き数字参照)および比較例10〜12のそれぞれの薄膜(該当数番の四角付き数字参照)のFeおよびCoの合計原子比率a+bおよび電気抵抗率の関係が示されている。
図2から、FeおよびCoの合計原子比率a+bが0.35より高い比較例10〜12のそれぞれの薄膜は電気絶縁性が低下していることがわかる。電気抵抗率が1×10
6[μΩcm]以下となると電気絶縁性が確保されないため誘電体として機能しなくなる。
【0028】
図3には、実施例1〜5のそれぞれの薄膜(該当数番の丸付き数字参照)および比較例4の薄膜(該当数番の四角付き数字参照)のFeおよびCoの合計原子比率a+bおよび緩和時間τとの関係が示されている。
図3から、FeおよびCoの合計原子比率a+bが0.24より高い実施例1〜5のそれぞれの薄膜は、緩和時間τが1×10
-8 [s]以下となっていることがわかる。合計原子比率a+bが0.35より高くなると、誘電体として機能しなくなるため、緩和時間τの測定ができなくなる。