(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造体に一端が連結されるスタッド部の他端に、金属製の略円球形状のボール部を設けてなるボールスタッドと、当該ボールスタッドの前記ボール部を回動自在に収容する収容部を有する樹脂製のハウジングと、備えるボールジョイントの製造方法において、
前記ボールスタッドの前記ボール部を中子として金型内に挿入することでキャビティを形成し、前記金型内の該キャビティに樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記ボール部の外周を覆うように前記ハウジングを形成する工程と、
前記ボール部を前記ハウジングの収容部に収容した状態で、前記ハウジングとなる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する所定の目標温度になるまで前記ボール部を誘導加熱する誘導加熱工程と、
前記誘導加熱後の前記ボール部を、少なくとも樹脂素材に係るガラス転移点以下の温度になるまで冷却する冷却工程と、を有し、
前記誘導加熱工程及び前記冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を反復して行う
ことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
構造体に一端が連結されるスタッド部の他端に、金属製の略円球形状のボール部を設けてなるボールスタッドと、当該ボールスタッドの前記ボール部を回動自在に収容する収容部を有する樹脂製のハウジングと、を備えるボールジョイントを、サポートバーの両端に備えるスタビリンクの製造方法において、
前記ボールスタッドの前記ボール部を中子として金型内に挿入することでキャビティを形成し、前記金型内の該キャビティに樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記ボール部の外周を覆うように前記ハウジングを形成する工程と、
前記ボール部を前記ハウジングの収容部に収容した状態で、前記ハウジングとなる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する所定の目標温度になるまで前記ボール部を誘導加熱する誘導加熱工程と、
前記誘導加熱後の前記ボール部を、少なくとも樹脂素材に係るガラス転移点以下の温度になるまで冷却する冷却工程と、を有し、
前記誘導加熱工程及び前記冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を反復して行う
ことを特徴とするスタビリンクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のスタビリンクにおけるボールジョイントでは、ボールスタッドのボール部にボールシートを装着した後、ボールシートが装着されたボール部をハウジングに組み込んでいる。具体的には、ボール部にボールシートが装着されたボールスタッドを中子として金型内に挿入してキャビティを形成し、そのキャビティに樹脂を注入する射出成形を行う。この際、ボール部とボールシートとの間のクリアランスを所定値に設定し、樹脂の射出条件を適宜制御して射出成形を行うことにより、ボール部の締め代を適切な値に設定している。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載のボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理技術では、射出成形後におけるハウジングとなる樹脂素材の収縮によりボール部が締め付けられるため、ボール部とボールシートとの間のクリアランス精度を確保することが難しい。そのため、ボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理を精密に行うことが困難を伴うという問題があった。
【0008】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、ボールシートを用いることなくボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理を精密に行うことが可能なボールジョイントの製造方法、及びスタビリンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、請求項1に係るボールジョイントの製造方法は、構造体に一端が連結されるスタッド部の他端に、金属製の略円球形状のボール部を設けてなるボールスタッドと、当該ボールスタッドの前記ボール部を回動自在に収容する収容部を有する樹脂製のハウジングと、備えるボールジョイントの製造方法において、前記ボールスタッドの前記ボール部を中子として金型内に挿入することでキャビティを形成し、前記金型内の該キャビティに樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記ボール部の外周を覆うように前記ハウジングを形成する工程と、前記ボール部を前記ハウジングの収容部に収容した状態で、前記ハウジングとなる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する所定の目標温度になるまで前記ボール部を誘導加熱する誘導加熱工程と、前記誘導加熱後の前記ボール部を、少なくとも樹脂素材に係るガラス転移点以下の温度になるまで冷却する冷却工程と、を有し、前記誘導加熱工程及び前記冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を反復して行うことを特徴とする。
【0010】
請求項1に係るボールジョイントの製造方法において、誘導加熱工程では、ボール部を、ハウジングの収容部に収容した状態で、ハウジングとなる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する所定の目標温度になるまでボール部を誘導加熱する。この誘導加熱によって金属製のボール部が膨張する。このボール部の膨張に伴って、樹脂製のハウジングの収容部に係る内球面も膨張変形する。このハウジングの収容部に係る内球面の膨張変形は、ハウジングとなる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する所定の目標温度下で行われる。このため、ハウジングとなる樹脂素材には、塑性変形と弾性変形の組み合わせに係る膨張変形が生じる。
一方、冷却工程では、誘導加熱後のボール部を、少なくとも樹脂素材に係るガラス転移点以下の温度になるまで冷却する。この冷却によって、膨張していたボール部は、膨張前の元の姿に戻る。ただし、ハウジングの収容部に係る内球面の膨張変形のうち、弾性変形分は元の姿に戻るが、塑性変形分はそのままの姿に保持される。その結果、ボールスタッドのボール部と、ハウジングの収容部に係る内球面との間に、塑性変形分に基づく隙間ができる。
本発明者の研究によれば、誘導加熱工程及び冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を反復して行うと、ハウジングの収容部に係る内球面の膨張変形のうち塑性変形分が、ハウジングとなる樹脂素材に固有の値に収束する傾向があることがわかった。これは、前記トルク調整工程の反復回数を適切な値に設定すれば、ボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理を精密に実行可能であることを意味する。
【0011】
請求項1に係るボールジョイントの製造方法によれば、ボールシートを用いることなくボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理を精密に行うことができる。
【0012】
また、請求項4に係るスタビリンクの製造方法は、構造体に一端が連結されるスタッド部の他端に、金属製の略円球形状のボール部を設けてなるボールスタッドと、当該ボールスタッドの前記ボール部を回動自在に収容する収容部を有する樹脂製のハウジングと、を備えるボールジョイントを、サポートバーの両端に備えるスタビリンクの製造方法において、前記ボールスタッドの前記ボール部を中子として金型内に挿入することでキャビティを形成し、前記金型内の該キャビティに樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記ボール部の外周を覆うように前記ハウジングを形成する工程と、前記ボール部を前記ハウジングの収容部に収容した状態で、前記ハウジングとなる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する所定の目標温度になるまで前記ボール部を誘導加熱する誘導加熱工程と、前記誘導加熱後の前記ボール部を、少なくとも樹脂素材に係るガラス転移点以下の温度になるまで冷却する冷却工程と、を有し、前記誘導加熱工程及び前記冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を反復して行うことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係るスタビリンクの製造方法によれば、請求項1に係るボールジョイントの製造方法と同様に、ボールシートを用いることなくボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理を精密に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボールシートを用いることなくボール部に作用するハウジングの締め付けトルク管理を精密に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るボールジョイントの製造方法、及びスタビリンクの製造方法について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の実施形態に係るスタビリンク11の製造方法は、本発明の実施形態に係るボールジョイント13の製造方法を包含する概念である。そのため、本発明の実施形態に係るスタビリンク11の製造方法について説明することで、本発明の実施形態に係るボールジョイント13の製造方法の説明に代えることとする。
【0017】
<スタビリンク11>
はじめに、本発明の実施形態に係る製造方法により製造されるスタビリンク11について、これを車両(不図示)に取付けた例をあげて説明する。
図1は、スタビリンク11の車両への取り付け状態を表す斜視図である。
【0018】
車両の車体(不図示)には、
図1に示すように、懸架装置15を介して、車輪Wが取り付けられている。路面から車輪Wを介して車体に伝わる衝撃や振動を吸収し軽減するために、懸架装置15は、コイルスプリング15aとショックアブソーバ15bとを有する。
【0019】
左右の懸架装置15の間は、略コ字形状のばね鋼棒等からなるスタビライザ17を介して連結されている。車体のロール剛性(捩り変形に対する抵抗力)を高めて車両のローリングを抑制するために、スタビライザ17は、左右の車輪W間に延在するトーションバー17aと、トーションバー17aの両端部から屈曲して延びる一対のアーム部17bとを有する。懸架装置15及びスタビライザ17は、本発明の「構造体」に相当する。
【0020】
スタビライザ17と車輪Wを支持するショックアブソーバ15bとは、スタビリンク11を介して連結されている。当該連結は、左右の車輪W側において同じである。スタビリンク11は、
図1に示すように、例えば鋼管からなる棒状のサポートバー11aの両端部に、ボールジョイント13をそれぞれ設けて構成されている。サポートバー11aの先端部11a1(
図2参照)は、プレス加工により平板状に塑性変形されている。
【0021】
スタビリンク11は、サポートバー11a及びボールスタッド21を金型(不図示)内の所定位置にインサートした状態で、ハウジング23となる合成樹脂を前記金型内に注入するインサート射出成形工程によって製造される。これについて、詳しくは後記する。なお、以下の説明において、「インサート射出成形工程」という用語を用いる場合には、前記の工程を意味するものとする。
【0022】
スタビリンク11が有する一対のボールジョイント13のうち、一方のボールジョイント13はスタビライザ17のアーム部17bの先端部に締結固定され、他方のボールジョイント13はショックアブソーバ15bのブラケット15cに締結固定されている。なお、一対のボールジョイント13の構成は同じである。
【0023】
<ボールジョイント13>
次に、ボールジョイント13について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造されるボールジョイント13の縦断面図である。
【0024】
ボールジョイント13は、
図2に示すように、鋼等の金属製のボールスタッド21と、合成樹脂製のハウジング23とから構成される。ボールスタッド21は、一方の端部にスタッド部21aを有すると共に、他方の端部に略円球形状のボール部21bを有して構成されている。ボール部21bは、鋼等の金属製である。スタッド部21aとボール部21bとは溶接接合されている。スタッド部21aとボール部21bとを一体に形成してもよい。ハウジング23は、サポートバー11aの両端に設けられ、ボールスタッド21のボール部21bを回動自在に支持するように構成されている。
【0025】
ボールスタッド21のスタッド部21aには、大鍔部21a1と小鍔部21a2とが、相互に離間して形成されている。大鍔部21a1と小鍔部21a2との間には、周回凹部21a3が形成されている。大鍔部21a1よりも先端側(ボールスタッド21のボール部21bの反対側)のスタッド部21aには雄ねじ部21a4が螺設されている。
【0026】
ハウジング23の上端部と、スタッド部21aの周回凹部21a3との間には、これらの隙間を覆うように、ゴム等の弾性体からなる周回状のダストカバー27が装着される。ダストカバー27は、雨水、塵埃等のボールジョイント13への侵入を阻止する役割を果たす。
【0027】
ボールスタッド21のボール部21bを回動自在に支持するために、ハウジング23には、
図2に示すように、ボール部21bの外球面に応じた内球面を有する収容部23aが形成されている。ハウジング23の上部には、略円環状の凸形フランジ23bが形成されている。凸形フランジ23bは、収容部23aに対してボール部21bが周回状に露出する境界部21b1から立ち上がるように外方に延びる円錐面形状のテーパ部23b1を有する。テーパ部23b1の軸線Cに対する傾斜角は、ボールスタッド21の揺動角、軸径等に応じて適宜の値に設定される。
【0028】
ハウジング23の樹脂素材としては、熱可塑性を有する(射出成形により形成されるため)こと、所定の強度要件を満たすこと等を考慮して、例えばPA66−GF30(PA66に重量比30%のガラス繊維を入れたもの/融点:摂氏270度程度)が好適に用いられる。ただし、ハウジング23の樹脂素材としては、PA66−GF30の他、PA66−GF50(PA66に重量比50%のガラス繊維を入れたもの)、PEEK(polyetheretherketone)、PA66(Polyamide 66)、PPS(Poly Phenylene Sulfide Resin)、POM(polyoxymethylene)等のエンジニアリングプラスティック、スーパーエンジニアリングプラスティック、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスティック)、GRP(glass reinforced plastic:ガラス繊維強化プラスティック)、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスティック)等の素材を適宜用いてもよい。
【0029】
ボールスタッド21のボール部21bと、ハウジング23の収容部23a(以下、「ハウジング23の収容部23a」を「ハウジング収容部23a」と省略する場合がある。)との間には、
図2に示すように、僅かな隙間22が設けられている。ハウジング23の収容部23aに収容されたボール部21bの外球面が、僅かな隙間22を介して収容部23aの内球面に接触しつつ摺動することによって、ハウジング23に対してボールスタッド21が揺動(
図1の矢印α1参照)及び回転(
図1の矢印α2参照)自在に支持されている。このように、スタビリンク11に備わるボールジョイント13によって、懸架装置15及びスタビライザ17が円滑に連結されている。
【0030】
ハウジング23は、ボール部21bを確実に支持するために、
図2に示すように、その肉厚が厚い。そのため、ハウジング23は、インサート射出成形後の収縮量が大きい。このハウジング23の収縮によって、ボール部21bは、ハウジング収容部23aにより内方に向けて締め付けられる。この締め付けトルク管理を精密に行うために、後述のトルク調整が行われる。
なお、本発明の実施形態でいうトルク調整とは、ボールスタッド21に係る揺動トルク及び回転トルク、並びに、弾性リフト量の調整を包括して含む概念である。
【0031】
<高周波誘導加熱装置31>
次に、本発明の実施形態に係るスタビリンク11の製造方法に用いられる高周波誘導加熱装置31について、
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルク管理を、高周波誘導加熱装置31を用いて実行している状態を概念的に表す構成図である。
図4は、
図3に示す構成図の上面図である。
【0032】
高周波誘導加熱装置31は、
図3に示すように、コイル32,33と、交流電源34に接続された高周波電源35と、共振回路37と、温度計39と、制御回路41と、を備えて構成されている。高周波誘導加熱装置31は、コイル32,33に高周波電流を流すことにより、金属製のボール部21bを誘導加熱する機能を有する。
【0033】
コイル32,33は、
図3に示すように、ボールスタッド21のボール部21bにおける赤道部21cを囲むように、サポートバー11a、ボールジョイント13等の金属製部材に対して間隔を置いて配設されている。コイル32,33には、自己発熱による損傷を防ぐために、水冷及び/又は空冷のための機構(不図示)が適宜適用される。
【0034】
高周波電源35は、交流電源34から供給される交流電力を、所定の周波数に係る高周波電力に変換して、共振回路37に供給する。
【0035】
共振回路37は、例えば、コンデンサ(不図示)とコイル32,33により構成されるLC並列共振回路である。共振回路37は、適宜設定される共振作用を用いて増幅された交流電力をコンデンサに蓄え、コイル32,33に高周波電流を流す。この高周波電流によりコイル32,33に強い磁場Bが発生する。この磁場Bの作用により金属製のボール部21bに渦電流が誘起される。その結果、ボール部21bが誘導加熱される。
【0036】
温度計39は、ボール部21bの温度Tb を測定する機能を有する。温度計39としては、例えば放射温度計が用いられる。温度計39は、ボール部21bから放射される赤外線の強度を非接触で測定して、赤外線の強度を温度に変換することにより、ボール部21bの温度Tb を取得する。温度計39で取得されたボール部21bの温度Tb は制御回路41に送られる。
【0037】
制御回路41は、温度計39で取得されたボール部21bの温度Tb が、予め設定される目標温度Ttgを保つように、ボール部21bに作用する磁場Bの強さを制御する。
目標温度Ttgとしては、ハウジング23となる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する温度を適宜採用すればよい。具体的には、前記の温度範囲のうち、融点に近い温度を目標温度Ttgとして設定するのが好ましい。狙った精度のトルク管理を比較的少ない反復回数により得られるからである。こうした温度制御を行うことによって、後記するボール部21bを誘導加熱する誘導加熱工程において、ボール部21bの温度Tb が目標温度Ttgに保持される。
【0038】
<本発明の実施形態に係るスタビリンク11の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るスタビリンク11の製造方法について、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の実施形態に係るスタビリンク11の製造方法の手順を表す工程図である。
【0039】
図5に示すステップS11において、ボールスタッド21のボール部21bを中子として金型内に挿入することでキャビティを形成し、金型内のキャビティに例えばPA66−GF30等の合成樹脂を注入して射出成形を行うことにより、ボール部21bの外周を覆うようにハウジング23を形成する。
【0040】
ステップS12において、ボール部21bをハウジング収容部23aに収容した状態で、ハウジング23となる樹脂素材(PA66−GF30)に係るガラス転移点(PA66−GF30では摂氏50度程度)を超えるが融点(PA66−GF30では摂氏265度程度)を超えない範囲に属する目標温度Ttgになるまでボール部21bを誘導加熱する。ステップS12の誘導加熱工程は、ボールスタッド21を、ボールスタッド21の軸芯C周りに回転させながら行う。ボールスタッド21の回転速度は、ボール部21bにおける外球面の表面温度が均一になることを考慮して、適宜の速度を設定すればよい。
【0041】
ステップS13において、ステップS12で誘導加熱後のボール部21bを、少なくとも樹脂素材(PA66−GF30)に係るガラス転移点(PA66−GF30では摂氏50度程度)以下の温度になるまで冷却する。ステップS13の冷却工程は、ボールスタッド21を、ボールスタッド21の軸芯C周りに回転させながら行う。ボールスタッド21の回転速度は、ボール部21bにおける外球面の表面温度が均一になることを考慮して、適宜の速度を設定すればよい。
【0042】
その後、ステップS12の誘導加熱工程及びステップS13の冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を所定の回数(複数回)だけ反復して行うことにより、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルクを調整する。
【0043】
ステップS12の誘導加熱工程によって金属製のボール部21bが膨張する。このボール部21bの膨張に伴って、樹脂製のハウジング収容部23aに係る内球面も膨張変形する。このハウジング収容部23aに係る内球面の膨張変形は、ハウジング23となる樹脂素材に係るガラス転移点を超えるが融点を超えない範囲に属する目標温度Ttg下で行われる。このため、ハウジング23となる樹脂素材には、塑性変形と弾性変形の組み合わせに係る膨張変形が生じる。なお、樹脂素材の塑性変形は、樹脂素材の結晶化に伴い生じるものと考えられる。
【0044】
ステップS13の冷却工程では、ステップS12で誘導加熱後のボール部21bを、少なくとも樹脂素材に係るガラス転移点以下の温度になるまで冷却する。この冷却によって、膨張していたボール部21bは、膨張前の元の姿に戻る。ただし、ハウジング収容部23aに係る内球面の膨張変形のうち、弾性変形分は元の姿に戻るが、塑性変形分はそのままの姿に保持される。その結果、ボールスタッド21のボール部21bと、ハウジング収容部23aに係る内球面との間に、塑性変形分に基づく隙間22(
図2参照)ができる。この隙間22の大きさが、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルクを実質的に規定する。
【0045】
本発明者の研究によれば、ステップS12の誘導加熱工程及びステップS13の冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程を反復して行うと、ハウジング収容部23aに係る内球面の膨張変形のうち塑性変形分が、ハウジング23となる樹脂素材に固有の値に収束する、換言すれば、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルクが所定の値に収束する(
図6参照)ことがわかった。
これは、ステップS12の誘導加熱工程及びステップS13の冷却工程の組み合わせに係るトルク調整工程の反復回数を適切な値(ただし、反復回数は複数回)に設定すれば、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルク管理を精密に実行可能であることを意味する。
【0046】
本発明の実施形態に係るボールジョイント11の製造方法によれば、ボールシートを用いることなく、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルク管理を精密に行うことができる。
【0047】
また、本発明の実施形態に係るボールジョイント11の製造方法では、トルク調整工程の反復回数を増減することにより、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルクを調整する構成を採用すればよい。このように構成すれば、簡素かつ実用的な手段によって締め付けトルク管理を精密に行うことができる。
【0048】
また、本発明の実施形態に係るボールジョイント11の製造方法では、トルク調整工程において、ボールスタッド21をその軸芯C周りに回転させ、ハウジング23の樹脂素材に係る限界PV値に基づき設定される上限回転速度を下回る範囲でボールスタッド21の回転速度を増減することにより、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルクを調整する構成を採用してもよい。
なお、PV値とは、荷重圧力(P)及びすべり速度(V)の積の関数である。限界PV値とは、材料の摺動表面が摩擦発熱によって変形・溶融する際の限界となるPV値である。限界PV値を超える条件では、一般に、摩擦・摩耗が共に著しく大きくなるため、使用できなくなる。限界PV値は、耐熱性の高い樹脂ほど高くなる。実際には、限界PV値の半分程度のPV値となることを考慮して、樹脂素材の荷重圧力(P)及びすべり速度(V)が設定される。
【0049】
本発明の実施形態に係るボールジョイント11の製造方法によれば、トルク調整工程において、ハウジング23の樹脂素材に係る限界PV値に基づき設定される上限回転速度を下回る範囲でボールスタッド21の回転速度を増減することにより、ボール部21bに対するハウジング23の締め付けトルクを調整するため、ボール部21bにおける外球面の表面温度が均一になり、ハウジング収容部23aに係る内球面の加工精度が向上する結果として、簡素かつ実用的な手段によって締め付けトルク管理を一層精密に行うことができる。
【0050】
ここで、前記トルク調整工程を単一回数だけ行った場合(比較例)のハウジング収容部23aに係る内球面の表面粗度(
図7A参照)と、前記トルク調整工程を反復(ただし、反復回数は3回)して行った場合(実施例)のハウジング収容部23aに係る内球面の表面粗度(
図7B参照)とを比較すると、実施例(反復回)では比較例(単一回)と比べてその表面(ハウジング収容部23aに係る内球面)が平滑化されている(つまり、摩擦係数が低下している)ことがわかる。
【0051】
また、比較例及び実施例について、ハウジング収容部23aに係る内球面を電子顕微鏡により直接観察した。その結果を
図8A(比較例)、
図8B(実施例)にそれぞれ示す。
図8Aは、比較例のハウジング収容部23aに係る内球面を電子顕微鏡により観察した写真である。
図8Bは、実施例のハウジング収容部23aに係る内球面を電子顕微鏡により観察した写真である。電子顕微鏡によるハウジング収容部23aに係る内球面の観察によっても、
図8Bの実施例(反復回)では
図8Aの比較例(単一回)と比べてその表面(ハウジング収容部23aに係る内球面)が平滑化されていることが実証された。
【0052】
本発明者の研究によると、ハウジング収容部23aに係る内球面が平滑化されるのは、樹脂素材(PA66−GF30)の結晶化が関与しているものと考えられる。また、樹脂素材(PA66−GF30)の結晶化に伴い、樹脂素材に混入しているガラス繊維が沈降(表面への露出が減る)する現象が観測された。このガラス繊維の沈降現象も、ハウジング収容部23aに係る内球面の平滑化に関与しているものと考えられる。
【0053】
さらに、本発明者の研究によると、実施例(反復回)では比較例(単一回)と比べてその表面(ハウジング収容部23aに係る内球面)の硬さが高まっている(つまり、耐摩耗性が向上している)ことがわかった。
このことを実証するために、ハウジング収容部23aに係る内球面の硬さ(GPa)及び弾性率(GPa)を、DSI(Depth sensing Indentation)法によるナノインデンテーション法を用いて測定した。DSI法とは、測定対象に対して、ナノインデンター装置(不図示)に備わる圧子を押し当てることで負荷及び除荷時の押し込み深さを連続的に測定し、得られた荷重−押し込み深さ特性を用いることで、圧子の圧痕を直接観察することなく硬さや弾性率を求める方法である。
図9Aは、ナノインデンター装置に備わる圧子の押し込み深さを変えた際の、比較例のハウジング収容部23aに係る内球面の表面硬さを表す特性線図である。
図9Bは、圧子の押し込み深さを変えた際の、実施例のハウジング収容部23aに係る内球面の表面弾性率を表す特性線図である。
DSI法を用いた測定結果によれば、
図9A、
図9Bに示すように、実施例(反復回)では比較例(単一回)と比べてその表面(ハウジング収容部23aに係る内球面)の硬さが高まっている(つまり、耐摩耗性が向上している)ことが実証された。
なお、ハウジング収容部23aに係る内球面の硬度が高まるのも、ハウジング収容部23aに係る内球面の平滑化のケースと同様に、樹脂素材(PA66−GF30)の結晶化が関与しているものと考えられる。
【0054】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0055】
例えば、本発明に係るボールジョイント13を、車両のスタビリンク11に適用する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。本発明に係るボールジョイント13は、産業用ロボットが有するアームの関節部分、ショベルカー、クレーン車等の産業用車両が有するアームの関節部分の構造等に幅広く適用可能である。