特許第6768587号(P6768587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768587
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】対象物の切削方法および除去方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20201005BHJP
   B23D 49/11 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   E04G23/02 Z
   B23D49/11
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-76987(P2017-76987)
(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公開番号】特開2018-178444(P2018-178444A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】蔡 成浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆寛
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−196169(JP,A)
【文献】 特開2016−140948(JP,A)
【文献】 特開2008−255655(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102814551(CN,A)
【文献】 実開昭63−18974(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
B23D 45/00−65/04
B26B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレードによって対象物を切削して切れ目を形成する切削方法であって、
前記ブレードの長手方向の端部は、長手方向の中間部に対して略T字状に拡幅し、
前記端部の端辺および側辺に沿って切削刃が設けられ、
前記ブレードを、前記端部と反対側の端部を中心として揺動させる電動工具を用いて、前記対象物を前記切れ目の方向に切削することを特徴とする切削方法。
【請求項2】
前記ブレードの前記中間部は、略円弧状に拡幅して前記切削刃が設けられた前記端部と連続することを特徴とする請求項1記載の切削方法。
【請求項3】
前記ブレードを、前記対象物の厚さ方向の面内において、前記切れ目の方向に対し傾斜して配置し、
前記ブレードを揺動させながら、前記切削刃が設けられた前記端部を前にして前記ブレードを前記切れ目の方向に進行させることで、
前記対象物を前記切れ目の方向に切削することを特徴とする請求項1または請求項2記載の切削方法。
【請求項4】
前記切れ目の始点もしくは終点または前記切れ目の途中において、
前記ブレードを揺動させながら、前記切削刃が設けられた前記端部を前にして前記ブレードを前記対象物の厚さ方向に進行させることで、
前記対象物を前記厚さ方向に切削することを特徴とする請求項3記載の切削方法。
【請求項5】
対象物を除去する除去方法であって、
請求項1から請求項4のいずれかに切削方法により前記対象物を切削して格子状の切れ目を形成した後、前記対象物の前記切れ目で囲まれた部分を除去することを特徴とする除去方法。
【請求項6】
前記対象物がアスベストを含むことを特徴とする請求項5記載の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の切削方法および除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既往の建築物では、耐火等を目的としてアスベストを含む吹付材を建築部材に吹付けているものがある。しかしながら、アスベストは健康被害の要因と言われており、現在その除去処理が進められている。
【0003】
このような吹付材を除去する際、従来は電動ピックにて吹付材をハツリ落として除去を行っていた。しかし、大量の粉塵が発生して作業環境が劣悪となることが多く、また電動ピックは重量物であるので作業性も悪い。さらに、ハツリガラの回収に多くの手間を要し、周囲を傷付けずに部分的な除去を行うことも難しかった。
【0004】
これに対し、吹付材を切削して格子状の切れ目を入れ、切れ目で囲まれた吹付材のパネル状部分を除去する方法が知られており(例えば、特許文献1、2参照)、上記の点を改善することが可能である。特許文献1、2ではウォータージェットを用いて吹付材を切削しているが、切削用の電動工具を用いて吹付材を切削することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-255655号公報
【特許文献2】特開2010-222786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウォータージェットを用いて吹付材の切削を行う場合、アスベストや切削用の研磨剤等を含んだ水の飛散を防ぐため、作業環境を覆う必要があり手間が掛かる。また切削後の水を回収してアスベスト等を分離する必要もある。
【0007】
一方、上記した切削用の電動工具には、丸鋸を高速で回転させて切削を行うものや、鋸刃を高速で進退させて切削を行うものがある。しかし、前者の場合、吹付材の切削時に粉塵が大量に飛散するという問題がある。さらに、厚みがある吹付材を切削するには大きな丸鋸が必要となり作業性が悪くなる。また後者の場合、建築部材に達するまで吹付材を切削しようとすると、建築部材に刃が当たって跳ね返りを受けることがあり作業性が悪い。また建築部材の付近で吹付材の切残しが生じやすい。
【0008】
切削用の電動工具には、上記の他、ブレードを高速で揺動させて切削を行うものもある。このような電動工具は、粉塵の飛散が最も少なく、また本体も小型軽量であり作業性も良い。ただし、吹付材に切れ目を入れる際に便利な使いやすいブレードが無かった。
【0009】
図9は従来のブレードの例を示す図である。例えば図9(a)のブレード10aは円の一部を扇形に切欠いた形状を有しており、残りの円周に沿って配置された鋸刃を有する。ブレード10aの中央に位置する取付部20を電動工具の揺動軸(不図示)に取付け、当該揺動軸を中心としてブレード10aを矢印に示すように高速で揺動させつつ、ブレード10aを図の右側に移動させることで対象物100を切削し、切れ目を入れることができる。
【0010】
しかしながら、ブレード10aの切削深さには限りがあり、切削深さを大きくしようとするとブレード10aの半径を大きくせざるを得ない。ブレード10aの半径を大きくすると切削時の負荷が大きくなり、電動工具のパワー不足により切削できなくなることもある。また対象物100に切れ目を入れるに当たり、切削の無駄が多く発塵量も大きい。例えば対象物100を図のAに示す位置まで切削すれば良い場合でも、点線Bに示す範囲まで余分に切削してしまうことになり、効率が悪く発塵量の増加にもつながる。
【0011】
一方、図9(b)のブレード10bは略I字状であり、その端辺に沿って鋸刃を設けたものである。このタイプのブレード10bは、図の矢印に示すように揺動させながら対象物100の厚さ方向に押し込むことにより、対象物100を深く切削できる。しかしながら、切れ目を図の右側に延ばしてゆくにはブレード10bを抜き差ししながら対象物100を厚さ方向に切削する工程を繰り返す必要があり、手間が掛かる。
【0012】
図9(c)のブレード10cは端部が略三角形状となっており、その両斜辺に沿って鋸刃が設けられている。このブレード10cを図の右側に移動させながら対象物100の切削を行うことは可能であるが、ブレード10cの揺動方向(図9(c)の矢印参照)と鋸刃の配列方向(ブレード10cの斜辺の方向に対応する)が異なるため、図9(a)のようにブレード10aの揺動方向と鋸刃の配列方向が略一致する場合に比べて切削はしにくくなる。またこのようなブレード10cには刃厚の大きいものが多く、切削時の抵抗が大きくなり作業性が悪く、また切削体積が増える分発塵量も多くなる。
【0013】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、対象物に好適に切れ目を入れることができる対象物の切削方法および当該切削方法を利用した対象物の除去方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した課題を解決するための第1の発明は、ブレードによって対象物を切削して切れ目を形成する切削方法であって、前記ブレードの長手方向の端部は、長手方向の中間部に対して略T字状に拡幅し、前記端部の端辺および側辺に沿って切削刃が設けられ、前記ブレードを、前記端部と反対側の端部を中心として揺動させる電動工具を用いて、前記対象物を前記切れ目の方向に切削することを特徴とする切削方法である。
【0015】
前記ブレードの前記中間部は、略円弧状に拡幅して前記切削刃が設けられた前記端部と連続することが望ましい。
【0016】
また、前記ブレードを、前記対象物の厚さ方向の面内において、前記切れ目の方向に対し傾斜して配置し、前記ブレードを揺動させながら、前記切削刃が設けられた前記端部を前にして前記ブレードを前記切れ目の方向に進行させることで、前記対象物を前記切れ目の方向に切削することが望ましい。
【0017】
さらに、前記切れ目の始点もしくは終点または前記切れ目の途中において、前記ブレードを揺動させながら、前記切削刃が設けられた前記端部を前にして前記ブレードを前記対象物の厚さ方向に進行させることで、前記対象物を前記厚さ方向に切削することも望ましい。
【0018】
本発明では、上記のブレードを、切削刃を設けた端部と反対側の端部を中心として高速で揺動させつつ、ブレードを進行させることにより対象物を切削できる。これにより発塵量を少なくでき、作業環境が向上し作業性も良い。
【0019】
対象物に切れ目をいれる際は、例えばブレードを切れ目の方向に対して斜めに配置した状態で、ブレードを揺動させつつ切れ目の方向に進行させることで、対象物を切削して切れ目をいれることができる。この際、ブレードの端部の端辺の切削刃で対象物を好適に切削できるのに加え、ブレードの端部の側辺の切削刃でも対象物を切削でき、当該切削刃が無い場合に比べ対象物の切削が容易になり、切削深さも大きくすることができる。
【0020】
また本発明のブレードは、ブレードを揺動させつつ対象物の厚さ方向に進行させることで、対象物を深く切削することもできる。このようにブレードを対象物の厚さ方向や切れ目の方向に進行させる工程を組み合わせることで、高い切削速度で効率良く少ない粉塵で対象物を切削することができ、周囲を傷付けずに所望の箇所のみに正確に切れ目を入れることができ、母材の凹凸等に合わせた切削を行うことも可能になる。
【0021】
また、ブレードの中間部が略円弧状に拡幅して切削刃を有する端部と連続することにより、ブレードの中間部を細幅として軽量化しつつ、ブレードの強度や耐久性を維持し、ブレードの揺動を切削刃を有する端部に確実に伝えることが可能になる。このように中間部を軽量化できる分、切削刃を有する端部の幅を拡げ且つブレードの全長を大きくすることができ、切削深さを大きくすることが可能になる。
【0022】
第2の発明は、対象物を除去する除去方法であって、第1の発明の切削方法により前記対象物を切削して格子状の切れ目を形成した後、前記対象物の前記切れ目で囲まれた部分を除去することを特徴とする除去方法である。前記対象物は、例えばアスベストを含む。
このように、前記のブレードを用いて対象物を切削して格子状に切れ目をいれ、切削時の振動により対象物を母材等から剥離したうえで、切れ目で囲まれたパネル状の部分を取出して除去することで、対象物の除去処理が容易になり、作業性も良く所望の範囲だけ除去を行い存置したい部分を無傷で残すことも可能である。特にアスベストを含む吹付材等の除去を上記の方法で行うことで、粉塵の発生量を少なくし、作業の手間を軽減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、対象物に好適に切れ目を入れることができる対象物の切削方法および当該切削方法を利用した対象物の除去方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ブレード1を示す図。
図2】ブレード1を取付けた電動工具4を示す図。
図3】対象物100の切れ目110を示す図。
図4】対象物100の切削方法を示す図。
図5】対象物100の切削方法を示す図。
図6】吹付材100aを吹付けた鉄骨梁200aを示す図。
図7】吹付材100aの除去方法を示す図。
図8】吹付材100aの切削について示す図。
図9】ブレード10a、10b、10cを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(1.ブレード1)
図1は本発明の実施形態に係る切削方法に用いるブレード1を示す図である。図1(a)はブレード1を上から見た図であり、図1(b)はブレード1を側方から見た図である。
【0027】
このブレード1は、図2に示すように電動工具4の揺動軸41に取付けて用い、矢印に示すように揺動軸41を中心として平面内で高速で揺動させて対象物の切削を行うものである。ブレード1の揺動角は例えば3°程度である。
【0028】
図1に示すように、ブレード1の長手方向(図1の左右方向に対応する)の一方の端部11は、長手方向の中間部13に対して略T字状に拡幅した形状を有する。この端部11には、鋸刃111、112(切削刃)が設けられる。
【0029】
鋸刃111は端部11の端辺に設けられる。鋸刃111は略円弧状に配列される。その円弧の曲率半径は、端部11の端辺と後述する取付部120との間の距離、より詳細には端辺と後述する孔121の中心との間の距離に略等しい。
【0030】
鋸刃112は、端部11の側辺に設けられる。側辺は、上記した端辺の両側にある辺である。鋸刃112はブレード1の長手方向に沿って配列される。
【0031】
ブレード1の長手方向の他方の端部12(上記の端部11と反対側の端部)は、前記した電動工具4の揺動軸41に取付けられる。端部12には、揺動軸41への取付を行うための取付部120が設けられる。
【0032】
この例では、取付部120として、90°間隔で4方向に突出する突出部分を有する略円形の孔121と、当該孔121の周囲に30°間隔で形成された複数の小孔122を設けているが、これに限ることはない。
【0033】
ブレード1の端部11、12の間の中間部13は、略円弧状に滑らかに拡幅して端部11に連続する。このようにブレード1の中間部13が略円弧状に拡幅して端部11に連続することで、中間部13の幅が連続的に変化することとなり、中間部13の幅が急変する箇所に応力が集中するのを防止できる。ブレード1の中間部13を細幅としつつ上記の工夫を施すことで、ブレード1を軽量化しながらその強度や耐久性を維持でき、ブレード先端への確実な振動伝達の点でも有利である。
【0034】
図1(b)に示すように、ブレード1は、2枚の鋼板2、3の端同士を面で接合して形成される。鋼板2はブレード1の端部12を構成し、鋼板3はブレード1の端部11および中間部13を構成する。
【0035】
鋼板2は厚さ1.25mm程度の薄厚のものであり、かぎ状に折り曲げられる。これにより、ブレード1の端部12の取付部120の位置が、ブレード1の端部11や中間部13より上に来るようになっている。
【0036】
鋼板3はより薄厚のものであり、その厚さはブレード1の端部11に当たる位置で1mm程度である。このように端部11における刃厚を薄くすることで、切削時の抵抗を小さくすることができ、また切削体積も減るので発塵量も少なくすることができる。なお、中間部13に当たる位置では鋼板3がさらに薄く、0.7mm程度である。
【0037】
(2.ブレード1による切削方法)
次に、ブレード1により対象物の切削を行う切削方法について説明する。ここでは、電動工具4に取付けたブレード1によって図3のように対象物100の所定の切削範囲を切削して切れ目110を形成する例を説明する。対象物100は母材200の表面に設けられているものとする。
【0038】
この例では、前記のように電動工具4に取付けたブレード1を高速で揺動させながら、まず切削範囲(切れ目110)の始点において、図4(a)の矢印に示すように、鋸刃111、112を有する端部11を前にして、ブレード1を対象物100の厚さ方向に進行させる。なお、「前」とはブレード1の進行方向の先をいうものとする。
【0039】
これにより、ブレード1の鋸刃111によって図4(b)に示すように対象物100が切削される。ブレード1は鋸刃111が母材200の位置に来るまで進行させ、母材200の位置まで対象物100が切削される。
【0040】
次に、図4(c)の矢印aに示すように、鋸刃111、112を有する端部11を前にして、ブレード1を切れ目110の方向に進行させ、切れ目110を延ばしてゆく手順となる。切れ目110の方向は、対象物100の厚さ方向と直交する方向である。
【0041】
本実施形態では、この際、ブレード1を、対象物100の厚さ方向の面内(図4(c)に示す面内)において、切れ目110の方向(矢印a参照)に対し傾斜して配置する。これにより鋸刃111を対象物100に斜めにあてがった状態で、ブレード1を切れ目110の方向に進行させる。
【0042】
ブレード1の鋸刃111の配列方向は、矢印bに示すブレード1の揺動方向と略一致しており、鋸刃111が矢印bに示すように対象物100の切削面101と略平行に振動することにより対象物100を好適に切削できる。ブレード1の鋸刃112は、上記したブレード1の揺動とともに、ブレード1が矢印aに示す切削方向に進行することで、対象物100の切削面102を削り、その切削屑を外側に掻き出すことができる。
【0043】
このように、本実施形態ではブレード1の端部11の端辺の鋸刃111で対象物100を好適に切削できるのに加え、ブレード1の端部11の側辺の鋸刃112でも対象物100を切削でき、当該鋸刃112が無い場合に比べ対象物100の切削が容易になり、鋸刃112の分切削深さも大きくすることができる。
【0044】
こうして対象物100の切削を行うことで、図4(d)に示すように切れ目110が延長される。本実施形態では、切れ目110の終点で図4(e)に示すように再度ブレード1を対象物100の厚さ方向に押し込むことで、対象物100の厚さ方向の面内において、帯状の切れ目110を切残しなく切削できる。
【0045】
図5(a)のように対象物100の切削範囲(切れ目110)の途中において母材200に凸部210がある場合には、例えば凸部210の前段で図5(b)に示すようにブレード1を対象物100の厚さ方向に押し込み、その後図5(c)に示すように凸部210の上面に沿って前記と同様にブレード1を切れ目110の方向に進行させた後、図5(d)に示すように凸部210の後段で再度ブレード1を対象物100の厚さ方向に押し込む。これにより、母材200の凹凸に応じて対象物100の切削を行い、切残しが生じたり母材200を傷付けたりすることなく所望の切れ目110をきれいに形成することができる。
【0046】
このように、本実施形態では、ブレード1を傾けて切れ目110の方向に進行させる工程や、ブレード1を対象物100の厚さ方向に進行させる工程の組み合わせにより、対象物100を好適に切削して切れ目110を形成できる。また前記のように丸鋸を回転させる場合や、円の一部を扇形に切欠いた形状のブレードを揺動させる場合(図9(a)参照)に比べ、切削体積が小さいため発塵量が少なく、余分な箇所を切削することもない。
【0047】
(3.吹付材100aの除去方法)
本実施形態では、上記のように対象物を切削して切れ目を入れることで、対象物の除去処理が容易になる。これを図6図8を参照して説明する。
【0048】
ここでは、図6(a)に示すように、スラブ300の底面の鉄骨梁200a(母材)の表面に吹き付けられた吹付材100a(対象物)を除去する例を説明する。吹付材100aは鉄骨梁200aの耐火等を目的として吹付けられ、アスベストが含まれるものとする。なお、図6(b)、(c)はそれぞれ図6(a)の線A−A、B−Bに沿った断面を示す図である。
【0049】
鉄骨梁200aは複数のH形鋼201を長手方向に連結することにより構成される。図6の例では、隣り合うH形鋼201のウェブの端部同士に跨るように添接板203を配置し、添接板203と両H形鋼201のウェブの端部をボルト204、ナット205を用いて締結することで、隣り合うH形鋼201同士が連結される。
【0050】
本実施形態では、図4、5等で説明したようにブレード1による吹付材100aの切削を行い、図7(a)に示すように吹付材100aに格子状の切れ目110を形成し、その際の振動により吹付材100aを鉄骨梁200aから剥離させる。
【0051】
その後、切れ目110で囲まれた吹付材100aのパネル状部分100a’を塊として取出し除去することで、図7(b)に示すように鉄骨梁200aの表面の吹付材100aが除去される。取出したパネル状部分100a’は袋等に入れて搬出することができ、その回収も容易である。
【0052】
本実施形態では、前記のように切削を行うことにより、図8(a)に示すように吹付材100aを鉄骨梁200aの隅部まできれいに切削して切れ目110を形成することができ、切残しが生じることはない。一方、前記の丸鋸や円の一部を扇形に切欠いた形状のブレードを用いる場合、図8(b)のように隅部に円弧状の切残しが生じ、その除去に別途の作業が必要になることがある。
【0053】
また添接板203やボルト204、ナット205等を取付けた部分についても、その凹凸に合わせてブレード1を図5等で説明したように進行させることで、図8(c)に示すように吹付材100aを凹凸に合わせてきれいに切削し、添接板203やボルト204、ナット205等を傷付けずに切れ目110を形成することが可能である。
【0054】
このように、本実施形態では、前記のブレード1を、鋸刃111、112を設けた端部11と反対側の端部12を中心として高速で揺動させつつ、ブレード1を進行させることにより対象物100を切削できる。これにより発塵量を少なくでき、作業環境が向上し作業性も良い。
【0055】
また対象物100に切れ目110をいれる際は、例えばブレード1を切れ目110の方向に対して斜めに配置した状態で、ブレード1を揺動させつつ切れ目110の方向に進行させることで、対象物100に好適に切れ目110をいれることができる。この際、ブレード1の端部11の端辺の鋸刃111で対象物100を好適に切削できるのに加え、ブレード1の端部11の側辺の鋸刃112でも対象物100を切削でき、当該鋸刃112が無い場合に比べ対象物100の切削が容易になり、切削深さも大きくすることができる。
【0056】
また本実施形態のブレード1は、ブレード1を揺動させつつ対象物100の厚さ方向に進行させることで対象物100を深く切削することもできる。このようにブレード1を対象物100の厚さ方向や切れ目110の方向に進行させる工程を組み合わせることで、高い切削速度で効率良く少ない粉塵で対象物100を切削することができ、周囲を傷付けずに所望の箇所のみに正確に切れ目110を入れることができ、母材200の凹凸等に合わせた切削を行うことも可能になる。
【0057】
加えて、ブレード1の中間部13に、略円弧状に拡幅して端部11と連続するくびれを設けることで、ブレード1の中間部13を細幅として軽量化しつつ、ブレード1の強度や耐久性を維持でき、ブレードの揺動を端部11に確実に伝えることも可能となる。このように中間部13を軽量化できる分、鋸刃111、112を有する端部11の幅を拡げ且つブレード1の全長を大きくすることができ、切削深さを大きくすることが可能になる。
【0058】
アスベストを含む吹付材100aの除去時には、ブレード1を用いて吹付材100aを切削して格子状に切れ目110をいれ、切削時の振動により吹付材100aと鉄骨梁200aの付着を取って吹付材100aを鉄骨梁200aから剥離したうえで、切れ目110で囲まれたパネル状部分100a’を取出して除去できる。これにより吹付材100aの除去処理が容易になり、作業性も良く所望の範囲だけ除去を行い存置したい部分を無傷で残すことも可能である。特に、アスベストを含む吹付材100aの除去を上記の方法で行うことで、粉塵の発生量を少なくし、作業の手間を軽減することができる。
【0059】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限らない。例えばブレード1の詳細形状は、長手方向の端部11が中間部13に対して略T字状に拡幅しており、端部11の端辺および側辺に沿って鋸刃111、112が設けられていれば、特に限定されない。
【0060】
また、本実施形態では切削対象の例としてアスベストを含む吹付材100aを挙げたが、切削対象はこれに限ることはない。例えば切削対象をモルタル等としてもよい。その母材についても鉄骨梁200aに限ることはなく、各種の鋼材であってよい。あるいは切削対象であるモルタルを上面に設けたコンクリート床版などであってもよい。また、ブレード1の切削刃も鋸刃111、112に限ることはなく、切断砥石などであってもよい。
【0061】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0062】
1、10a、10b、10c:ブレード
2、3:鋼板
4:電動工具
11、12:端部
13:中間部
20、120:取付部
41:揺動軸
100:対象物
100a:吹付材
100a':パネル状部分
101、102:切削面
110:切れ目
111、112:鋸刃
200:母材
200a:鉄骨梁
300:スラブ
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9