特許第6768589号(P6768589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768589
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】励磁装置および無励磁作動ブレーキ
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20201005BHJP
   H01F 7/06 20060101ALI20201005BHJP
   F16D 55/00 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   H01F7/16 E
   H01F7/06 E
   F16D55/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-84404(P2017-84404)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-182250(P2018-182250A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 晶
(72)【発明者】
【氏名】松井 豊
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−149527(JP,A)
【文献】 特開2011−149528(JP,A)
【文献】 特開平01−044008(JP,A)
【文献】 特開平02−101711(JP,A)
【文献】 実開平01−050406(JP,U)
【文献】 特開2008−303961(JP,A)
【文献】 米国特許第04966255(US,A)
【文献】 米国特許第05185542(US,A)
【文献】 特開平02−218808(JP,A)
【文献】 特開2009−170831(JP,A)
【文献】 実公昭49−008169(JP,Y1)
【文献】 実開平03−097905(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/16
H01F 7/06
F16D 55/00
F16D 65/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成された外極部材と、
筒状に形成されて前記外極部材の中空部内に嵌入され、径方向の外側に向けて開放される環状凹部を有する内極部材と、
前記環状凹部の壁面に形成された絶縁被膜と、
前記環状凹部内に多条に直巻きされた励磁コイルとを備え、
前記内極部材は、
軸線方向に延びる筒部と、
前記筒部の一方の端部から径方向の外側に延び、前記外極部材の一方の端部内に嵌合した第1のフランジ部と、
前記筒部の他方の端部から径方向の外側に延びる第2のフランジ部とを有し、
前記第2のフランジ部と前記外極部材の他方の端部との間に断磁部が形成され、
前記環状凹部は、前記筒部と、前記第1のフランジ部および前記第2のフランジ部とによって形成されていることを特徴とする励磁装置。
【請求項2】
請求項1記載の励磁装置において、
前記第2のフランジ部における前記環状凹部とは反対側の端面は、この第2のフランジ部の厚みが径方向内側で相対的に厚くなり、かつ径方向外側で相対的に薄くなる形状に形成されていることを特徴とする励磁装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の励磁装置と、
前記外極部材の他方の端面からなる外磁極面および前記第2のフランジ部の他方の端面からなる内磁極面に一方の端面が対向し、軸線方向にのみ移動可能なアーマチュアと、
前記アーマチュアの他方の端面と対向する摩擦面を有し、被制動軸と一体に回転する被制動部材と、
前記アーマチュアを前記被制動部材に押圧する制動ばねとを備えた無励磁作動ブレーキ。
【請求項4】
請求項3記載の無励磁作動ブレーキにおいて、
さらに、前記励磁装置の前記内極部材に設けられ、前記第2のフランジ部からアーマチュア側に延設された筒状の延設部と、
前記内極部材の前記第2のフランジ部および前記延設部と前記外極部材とによって囲まれて形成されたばね収容空間とを備え、
前記制動ばねは、前記ばね収容空間に収容されていることを特徴とする無励磁作動ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励磁コイルがフィールドコアの内極部材に巻回された励磁装置およびこの励磁装置を備えた無励磁作動ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁連結装置は、電磁クラッチと電磁ブレーキとに分けることができる。電磁クラッチは、駆動側部材と従動側部材との間の動力伝達経路に配置され、励磁装置の励磁コイルに通電または通電を断つことにより、動力を伝達または動力伝達を遮断するものである。
【0003】
電磁ブレーキは、駆動側部材の動力伝達が遮断された後に、励磁装置の励磁コイルに通電または通電を断つことにより、従動側部材の慣性回転を制動して従動側部材を静止状態に保持するものである。
電磁ブレーキには、例えば特許文献1に開示されているように、励磁作動ブレーキ(図1)と無励磁作動ブレーキ(図2)とがある。励磁作動ブレーキは、励磁コイルが通電されることにより制動が行われ、励磁コイルの通電が断たれることにより制動が解除されるものである。無励磁作動ブレーキは、励磁コイルが通電されることにより制動が解除され、励磁コイルの通電が断たれることにより制動状態になるものである。
【0004】
電磁連結装置に使用される従来の励磁装置としては、例えば特許文献2や特許文献3に記載されているものがある。
特許文献2に開示された励磁装置は、励磁コイルが巻回されたコイルボビンと、このコイルボビンの中空部に嵌合された内極部材と、コイルボビンおよび内極部材が内部に嵌合された外極部材とを有している。
【0005】
特許文献3に開示された励磁装置は、コイルボビンが内極部材の外周面にインサート成型によって形成されている。内極部材は、断面形状がL字状の環状部材である。すなわち、内極部材は、軸線方向の一方の端部に環状の円板部を有する円筒状に形成されている。
コイルボビンは、円筒部と、この円筒部の両端部に設けられた一対のフランジ部とからなる断面形状が溝形状の環状部材である。一対のフランジ部のうち、一方のフランジ部は、内極部材の円板部に沿って成型されており、この円板部密着している。他方のフランジ部は、アーマチュアと隙間をおいて対向するもので、一方のフランジ部と平行になる姿勢を自らの剛性で維持している。
このコイルボビンの環状凹部(コイル巻きスペース)に励磁コイルが直接巻き付けられている。
【0006】
励磁装置の小型化を図るためには、特許文献3に開示されているように、内極部材の外周面にコイルボビンを設け、内極部材に対して励磁コイルが直接巻き付けられるように励磁コイルの巻き付け作業を行う方が有利である。この理由は、励磁コイルを巻き付けるときに内極部材を保持して行うことができ、コイルボビンを保持して行う場合よりコイルボビンの各部の剛性を低くする(薄く形成する)ことができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭63−187564号公報
【特許文献2】特開平7−332392号公報
【特許文献3】特開平7−317814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載されている励磁装置では、製造設備が複雑になるとともに、コイルボビンが原因で小型化できないという問題があった。
特許文献3記載の励磁装置に用いられているコイルボビンの他方のフランジ部を内極部材にインサート成型するためには、他方のフランジ部を一方のフランジ部とは反対側から囲むような治具やスライド型が必要になる。このため、他方のフランジ部の成型作業に手間がかかる。このような成型作業を実施する成型装置は構造が複雑になる。
【0009】
また、このコイルボビンにおいては、励磁コイルの巻き線作業中に他方のフランジ部が変形して励磁コイルの巻き崩れが発生するおそれがある。このため、他方のフランジ部は、肉厚を厚く形成して強度を高くする必要がある。
インサート成型されるコイルボビンの肉厚寸法が大きくなると、コイルを巻き付けるスペースが狭くなり、励磁コイルの巻き数が少なくなる。励磁コイルの巻き数が少ないと、アーマチュアの磁気吸引力は低下する。このため、小型の励磁装置およびこの励磁装置を備えた電磁連結装置の開発が困難である。
【0010】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、簡単に製造できるとともにコイルスペースを十分に確保できる小型の励磁装置およびその小型の励磁装置を備えた無励磁作動ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明に係る励磁装置は、筒状に形成された外極部材と、筒状に形成されて前記外極部材の中空部内に嵌入され、径方向の外側に向けて開放される環状凹部を有する内極部材と、前記環状凹部の壁面に形成された絶縁被膜と、前記環状凹部内に多条に直巻きされた励磁コイルとを備え、前記内極部材は、軸線方向に延びる筒部と、前記筒部の一方の端部から径方向の外側に延び、前記外極部材の一方の端部内に嵌合した第1のフランジ部と、前記筒部の他方の端部から径方向の外側に延びる第2のフランジ部とを有し、前記第2のフランジ部と前記外極部材の他方の端部との間に断磁部が形成され、前記環状凹部は、前記筒部と、前記第1のフランジ部および前記第2のフランジ部とによって形成されているものである。
【0012】
本発明は、前記励磁装置において、前記第2のフランジにおける前記環状凹部とは反対側の端面は、この第2のフランジ部の厚みが径方向内側で相対的に厚くなり、かつ径方向外側で相対的に薄くなる形状に形成されていてもよい。
【0013】
本発明に係る無励磁作動ブレーキは、前記発明に係る励磁装置と、前記外極部材の他方の端面からなる外磁極面および前記第2のフランジの他方の端面からなる内磁極面に一方の端面が対向し、軸線方向にのみ移動可能なアーマチュアと、前記アーマチュアの他方の端面と対向する摩擦面を有し、被制動軸と一体に回転する被制動部材と、前記アーマチュアを前記被制動部材に押圧する制動ばねとを備えているものである。
【0014】
本発明は、前記無励磁作動ブレーキにおいて、さらに、前記励磁装置の前記内極部材に設けられ、前記第2のフランジ部からアーマチュア側に延設された筒状の延設部と、前記内極部材の前記第2のフランジ部および前記延設部と前記外極部材とによって囲まれて形成されたばね収容空間とを備え、前記制動ばねは、前記ばね収容空間に収容されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る励磁装置においては、内極部材と絶縁被膜とが実質的にコイルボビンになる。このため、コイルボビンを使用する従来の励磁装置と較べると、コイルボビンを成型する金型が不要になるから、製造設備を簡素化することができる。
また、コイルボビンを使用する従来の励磁装置と較べると、コイルボビンの設置スペースにも励磁コイルを巻くことができるから、励磁コイルの巻き数が多くなる。
【0016】
このため、内極部材の大きさが同等であってもアーマチュアを吸引する磁気吸引力は増大する。このことは、磁気吸引力が同等であれば小型化可能であることを意味する。
したがって、本発明によれば、簡単に製造できるとともにコイルスペースを十分に確保できる小型の励磁装置を提供することができる。
【0017】
本発明に係る無励磁作動ブレーキは、簡単に製造できて小型化可能な励磁装置を備えている。このため、製造が簡単でしかも小型化された無励磁作動ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態による励磁装置を備えた無励磁作動ブレーキの断面図である。
図2】第1の実施の形態による励磁装置の一部を拡大して示す断面図である。
図3】第2の実施の形態による励磁装置を備えた無励磁作動ブレーキの断面図である。
図4】第3の実施の形態による励磁装置を備えた無励磁作動ブレーキの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る励磁装置および無励磁作動ブレーキの一実施の形態を図1および図2によって詳細に説明する。
図1に示す無励磁作動ブレーキ1は、本発明に係る励磁装置2を使用して動作するもので、図1において左側となる一方側の端部がサーボモータ3のリアハウジング3aに装着されている。以下においては、無励磁作動ブレーキ1に対してリアハウジング3aが位置する方向(図1においては左方)を一方といい、この方向とは反対の方向を他方という。
【0020】
リアハウジング3aは、サーボモータ3のモータ軸4を回転自在に支持している。モータ軸4は、リアハウジング3aから他方側に突出している。この実施の形態においては、このモータ軸4が本発明でいう「被制動軸」に相当する。
この無励磁作動ブレーキ1は、サーボモータ3への通電が断たれたときにモータ軸4を制動し、モータ軸4を静止した状態に保持する。
【0021】
励磁装置2は、モータ軸4が挿通された筒部5を有する内極部材6と、この内極部材6が中空部内に嵌入された筒状の外極部材7と、これら両部材間に収容された励磁コイル8などを用いて構成されている。
内極部材6は、モータ軸4が挿通される貫通孔11が形成された筒部5と、この筒部5の一方の端部から径方向の外側に向けて延びる第1のフランジ部12と、筒部5の他方の端部から径方向の外側に向けて延びる第2のフランジ部13とによって構成されている。第1のフランジ部12と第2のフランジ部13を軸線方向から見た形状は円形である。第1のフランジ部12は、後述する外極部材7に嵌合する形状に形成されている。
【0022】
この内極部材6には、筒部5と、第1および第2のフランジ部12,13とからなる環状凹部14が形成されている。環状凹部14は、内極部材6の径方向の外側に向けて開放されている。この環状凹部14の内壁面には絶縁被膜15が設けられている。図1は、構成を理解し易いように絶縁被膜15の厚みを誇張して描いてある。この実施の形態による絶縁被膜15は、カチオン電着塗装によって生成された塗膜である。
【0023】
図1においては、絶縁被膜15が環状凹部14の内壁面のみに施されているように描かれているが、実際は、内極部材6の内壁面と外壁面のすべてに絶縁被膜15が施された後に、内極部材6の磁束通過部分から除去される。磁束通過部分とは、第1のフランジ部12における、後述する外極部材7と接触する外周面12aと、第2のフランジ部13における、後述するアーマチュア16と対向する内磁極面17である。図1においては、使用時に励磁装置2内を通る磁束を符号Φによって示す。絶縁被膜15の除去は、切削仕上げ加工により絶縁被膜15を内極部材6から削り落とすことによって行われる。なお、図1は、環状凹部14内の絶縁被膜15のみを図示し、その他の部位に残存している絶縁被膜15を省略して描いてある。
【0024】
励磁コイル8は、内極部材6の環状凹部14内に多条に直巻きされている。このように内極部材6に巻回されて円筒状に形成された励磁コイル8の外周面には、フッ素樹脂からなるテープ(図示せず)が巻かれて固定されている。この励磁コイル8の巻き始め端部と巻き終わり端部は、リード線18の先端の被覆剥離部(図示せず)にからげて半田付けされている。
【0025】
内極部材6の第2のフランジ部13は、磁気回路の短絡を防止するために、外極部材7の内面から離間している。すなわち、第2のフランジ部13と外極部材7の他方の端部との間には、環状の隙間からなる断磁部21が形成されている。この実施の形態による断磁部21は、空間によって構成されているが、この断磁部21には絶縁樹脂(図示せず)が充填されていてもよい。
第2のフランジ部13の外周部であって、環状凹部14とは反対側に位置する端面22はテーパー状に形成されている。このテーパーの形状は、第2のフランジ部13の厚みが径方向内側で相対的に厚くなり、かつ径方向外側で相対的に薄くなる形状である。なお、この端面22は、図示してはいないが、テーパー状の他に、階段状に形成することもできる。この場合、段数は1段でもよいし、複数段でもよい。
【0026】
外極部材7は、円筒状または四角筒状に形成されている。この外極部材7の中空部の穴の形状は、軸線方向から見ると円形である。この実施の形態による外極部材7は、図示してはいないが、外面および内面の全域にカチオン電着塗装が施され、この塗装により生成された膜からなる絶縁被膜で覆われている。この絶縁被膜は、成膜後に外極部材7の磁束を通す部分から除去されている。この磁束を通す部分とは、外極部材7の一方の端部であって内極部材6の第1のフランジ部12と接続される内周面7aと、外極部材7の他方の端面、すなわち後述するアーマチュア16と対向する外磁極面23である。
【0027】
この外極部材7と上述した内極部材6との接続は、外極部材7の内周面7aに内極部材6の第1のフランジ部12の外周面12aを嵌合状態で圧入することによって行われている。この圧入を行うに当たっては、圧入する以前に圧入部分に接着剤(図示せず)が予め塗布される。また、この圧入は、いわゆる「アンダーカット」と呼称される状態になるように行われる。このアンダーカットとは、図2に示すように、内極部材6の内磁極面17が外極部材7の外磁極面23より後述するアーマチュア16から離間する方向に所定の寸法dだけ偏って位置することである。
【0028】
外極部材7の一方の端部には、励磁コイル8に接続されたリード線18を外部に引き出すための切欠き溝24が形成されている。
外極部材7の他方の端部には、制動ばね25を保持するためのばね孔26と、ねじ孔27とが形成されている。ねじ孔27には、後述するブレーキ構成部品を支持する支持ボルト28が螺着される。制動ばね25は、後述するアーマチュア16を励磁装置2から離間する方向へ押圧するためのものである。
【0029】
この実施の形態による制動ばね25は、圧縮コイルばねによって構成されている。外極部材7が円筒状に形成される場合は、ばね孔26とねじ孔27とが外極部材7の軸心を中心として周方向に交互に60°間隔で形成される。外極部材7が四角筒状に形成される場合は、外極部材7の四角形状を呈する外磁極面23の二つの対角線のうち、一方の対角線上の二つの角部にばね孔26がそれぞれ形成され、他方の対角線上の二つの角部にねじ孔27がそれぞれ形成される。
【0030】
支持ボルト28は、円筒状のカラー29に通された状態でねじ孔27に螺着されている。カラー29は、後述するアーマチュア16を軸線方向にのみ移動自在に支持するガイドとなるもので、非磁性材によって形成されている。
支持ボルト28が支持するブレーキ構成部品とは、励磁装置2の内磁極面17および外磁極面23に隣接して位置するアーマチュア16と、このアーマチュア16の他方の端面と対向するブレーキディスク31と、このブレーキディスク31の他方の端面と対向するサイドプレート32と、モータ軸4の軸端部に固定されたハブ33などである。
【0031】
アーマチュア16は、外極部材7が円筒状に形成されている場合は円板状に形成されたものが用いられ、外極部材7が四角筒状に形成されている場合は四角板状に形成されたものが用いられる。アーマチュア16の中心部には、モータ軸4を通すための貫通穴34が穿設されている。また、円板状のアーマチュア16の外周部の4箇所あるいは四角板状のアーマチュア16の四隅部には、カラー29が係合する切欠き溝35が形成されている。このように切欠き溝35にカラー29が係合することによって、モータ軸4の軸線方向へのアーマチュア16の移動が許容されるとともに、アーマチュア16の回転が規制される。
【0032】
ブレーキディスク31は、アーマチュア16の他方の端面と対向する第1の摩擦面31aと、サイドプレート32の一方の端面と対向する第2の摩擦面31bとを有する円板状に形成されている。このブレーキディスク31の軸心部には、ハブ33の四角柱状の嵌合部33aと嵌合する四角形状の穴36が形成されている。このため、ブレーキディスク31は、モータ軸4に対して軸線方向への移動が許容される状態でモータ軸4と一体に回転する。この実施の形態においては、ブレーキディスク31が本発明でいう「被制動部材」に相当する。
【0033】
サイドプレート32は、ステンレス鋼などの非磁性材料によってアーマチュア16と同様に円板状または四角板状に形成され、複数の支持ボルト28によって外極部材7に固定されている。サイドプレート32の中心部には、ハブ33を通すための貫通穴が穿設されている。
ハブ33は、非磁性材によって形成され、サイドプレート32を貫通し、サイドプレート32より他方側に突出している。また、ハブ33は、軸心部にモータ軸4が貫通しており、サイドプレート32から突出した突出側端部において、複数の無頭ねじ37によってモータ軸4に固定されている。
【0034】
このように構成された無励磁作動ブレーキ1においては、サーボモータ3が停止しているときは励磁コイル8への通電も断たれるから、制動状態になる。すなわち、この場合は、制動ばね25のばね力でアーマチュア16が他方へ押され、ブレーキディスク31がアーマチュア16とサイドプレート32とによって挟まれて制動力が生じる。一方、サーボモータ3が回転するときは、励磁コイル8に通電され、この無励磁作動ブレーキ1が制動解放状態になる。すなわち、アーマチュア16が磁気によって制動ばね25のばね力に抗して励磁装置2に吸着され、ブレーキディスク31に作用する制動力が消失する。
【0035】
この実施の形態による励磁装置2においては、内極部材6と絶縁被膜15とが実質的にコイルボビンになる。このため、コイルボビンを使用する従来の励磁装置と較べると、コイルボビンを成型する金型が不要になるから、この励磁装置2を製造するための製造設備を簡素化することができる。
【0036】
また、コイルボビンを使用する従来の励磁装置と較べると、コイルボビンの設置スペースにも励磁コイル8を巻くことができるから、励磁コイル8の巻き数が多くなる。このため、従来の励磁装置と較べて、内極部材6の大きさが同等であってもアーマチュア16を吸引する磁気吸引力は増大する。このことは、磁気吸引力が同等であれば小型化可能であることを意味する。
したがって、この実施の形態によれば、簡単に製造できるとともにコイルスペースを十分に確保できる小型の励磁装置を提供することができる。
【0037】
この実施の形態による無励磁作動ブレーキ1は、上述したように簡単に製造できて小型化可能な励磁装置2を備えている。このため、この実施の形態によれば、製造が簡単でしかも小型化された無励磁作動ブレーキを提供することができる。
【0038】
この実施の形態の第2のフランジ部13における環状凹部14とは反対側の端面22は、この第2のフランジ部13の厚みが径方向内側で相対的に厚くなり、かつ径方向外側で相対的に薄くなる形状に形成されている。
このため、外極部材7から第2のフランジ部13の外周部への磁束Φの短絡による損失を減らすことができ、アーマチュア16を吸引する吸引力の低下を防ぐことができる。
【0039】
この実施の形態よる内極部材6の内磁極面17は、アンダーカットが実現されるように、外極部材7の外磁極面23よりアーマチュア16から離間する方向に所定の寸法dだけ偏って位置している。このため、励磁コイル8への通電が断たれたときに残留磁束によってアーマチュア16の解放が遅れることを防ぐことができる。
【0040】
(第2の実施の形態)
本発明に係る励磁装置および無励磁作動ブレーキは、図3に示すように構成することができる。図3において、図1および図2によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図3に示す無励磁作動ブレーキ41は、図1に示した無励磁作動ブレーキ1とは、励磁装置42の一部と制動ばね43とが異なるだけで、その他の構成は同一のものである。
励磁装置42の内極部材44は、第2のフランジ部13からアーマチュア16側に延設された延設部45を有している。この延設部45は円筒状に形成されている。この実施の形態による内極部材44の内磁極面17は、この延設部45の先端面によって形成されている。
【0041】
この延設部45の径方向外側には、ばね収容空間Sが形成されている。ばね収容空間Sは、延設部45と、内極部材44の第2のフランジ部13と、外極部材7とによって囲まれて形成されている。この実施の形態においては、このばね収容空間Sに制動ばね43が配置されている。この制動ばね43は、一つの圧縮コイルばねによって構成され、延設部45が内部に挿入された状態で第2のフランジ部13とアーマチュア16との間に圧縮された状態で設けられている。
なお、図示してはいないが、この実施の形態を採る場合であっても、内磁極面17が外磁極面23よりアーマチュア16とは反対側に偏って位置する「アンダーカット」の構成を採ることができる。
【0042】
この実施の形態によれば、延設部45の先端面が内極部材44の内磁極面17になり、第2のフランジ部13が内磁極面17からアーマチュア16とは反対側に離間するようになる。このため、磁束Φが内磁極面17と外磁極面23とに集中し、アーマチュア16を吸引する吸引力が増大する。
また、第2のフランジ部13が制動ばね43のばね受け部材として機能するから、外極部材7に制動ばねが保持される場合と較べて外磁極面23の面積が大きくなる。このため、アーマチュア16を吸引する吸引力がより一層大きくなるから、小型であるだけでなく、通電時に確実に非制動状態になる無励磁作動ブレーキを提供することができる。
【0043】
(第3の実施の形態)
本発明に係る励磁装置および無励磁作動ブレーキは、図4に示すように構成することができる。図4において、図1および図2によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図4に示す無励磁作動ブレーキ51は、図1に示した無励磁作動ブレーキ1とは、励磁装置52の一部と制動ばね53とが異なるだけで、その他の構成は同一のものである。
【0044】
図4に示す励磁装置52の内極部材54は、第2のフランジ部13からアーマチュア16側に延設された延設部55を有している。この実施の形態による延設部55は、円錐台形状に形成されている。
この実施の形態による内極部材54の内磁極面17は、この延設部55の先端面によって形成されている。
【0045】
この延設部55の径方向外側にはばね収容空間Sが形成されている。ばね収容空間Sは、延設部55と、内極部材54の第2のフランジ部13と、外極部材7とによって囲まれて形成されている。この実施の形態においては、このばね収容空間Sに制動ばね53が配置されている。この制動ばね53は、一つの円錐コイルばねによって構成されている。この円錐コイルばねは、第2のフランジ部13側からアーマチュア16側に向かうにしたがって径が次第に小さくなる形状に形成されており、延設部55が内部に挿入された状態で第2のフランジ部13とアーマチュア16との間に圧縮された状態で設けられている。
なお、図示してはいないが、この実施の形態を採る場合であっても、内磁極面17が外磁極面23よりアーマチュア16とは反対側に偏って位置する「アンダーカット」の構成を採ることができる。
【0046】
この実施の形態によれば、延設部55の先端面が内極部材54の内磁極面17になり、第2のフランジ部13が内磁極面17からアーマチュア16とは反対側に離間するようになる。このため、磁束Φが内磁極面17と外磁極面23とに集中し、アーマチュア16を吸引する吸引力が増大する。
また、第2のフランジ部13が制動ばね53のばね受け部材として機能するから、外極部材7に制動ばねが保持される場合と較べて外磁極面23の面積が大きくなる。このため、アーマチュア16を吸引する吸引力がより一層大きくなる。
さらに、制動ばね53として円錐コイルばねが用いられているから、径が一定の圧縮コイルばねを使用する場合と較べると軸線方向に小型になる。
したがって、この実施の形態によれば、更なる小型化が可能になるとともに、通電時に確実に非制動状態になる無励磁作動ブレーキを提供することができる。
【0047】
上述した第1〜第3の実施の形態ではブレーキディスク31の両面が摩擦面になる無励磁作動ブレーキ1,41,51を示したが、本発明に係る無励磁作動ブレーキは、ブレーキディスク31におけるアーマチュア16と対向する片面のみが摩擦面になる単面ブレーキとして構成してもよい。
【0048】
また、第1〜第3の実施の形態においては、本発明に係る励磁装置2,42,52を無励磁作動ブレーキに組み込む例を示した。しかし、本発明に係る励磁装置は、例えば特許文献1の図1や、特許文献3の図6などに開示された励磁作動ブレーキの励磁装置として使用することができる。さらに、本発明による励磁装置は、図示してはいないが、電磁クラッチの励磁装置としても使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,41,51…無励磁作動ブレーキ、2,42,52…励磁装置、4…モータ軸(被制動軸)、5…筒部、6,44,54…内極部材、7…外極部材、8…励磁コイル、12…第1のフランジ部、13…第2のフランジ部、14…環状凹部、15…絶縁被膜、16…アーマチュア、17…内磁極面、21…断磁部、22…端面、23…外磁極面、25,43,53…制動ばね、31…ブレーキディスク(被制動部材)、31a…第1の摩擦面、31b…第2の摩擦面、45,55…延設部、S…ばね収容空間。
図1
図2
図3
図4