(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量%で炭素:0.20%以上0.35%以下、ケイ素:0%を超え0.35%以下、マンガン:0%を超え1.00%以下、ニッケル:0.50%以上1.50%以下、クロム:2.00%以上2.50%以下、モリブデン:0.90%以上1.50%以下、バナジウム:0.20%以上0.30%以下を含有する低合金鋼から、最大外径が500mm〜1000mmのロータ粗材を成形する成形工程と、
前記ロータ粗材に、940℃以上960℃以下の温度範囲で加熱した後、2.0℃/min以上の冷却速度で200℃以下になるまで冷却して、油焼き入れを施す焼入れ工程と、
前記焼入れ工程の後に、655℃〜665℃の温度範囲で、かつ、数式P=T(C+log10)で定義される焼き戻しパラメータPが19700以上19900以下となる条件(Tは絶対温度(K)、Cは材料定数(C=20))で、前記ロータ粗材に焼き戻しを施す焼き戻し工程と、
を含むタービンロータの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、蒸気の圧力エネルギーを回転エネルギーとして取り出す蒸気タービンが知られている。この蒸気タービンのタービンロータは、高温の蒸気に晒されるため、高い耐高温性が要求される。例えば特許文献1にはタービンロータに用いられる材料として、このような耐高温性を向上させた低合金耐熱鋼が開示されている。
【0003】
ところで、従来、大型の蒸気タービン(復水タービン)では、外径寸法が1000mmを超えるような大型のタービンロータが用いられている。このような大型のタービンロータでは、耐高温性を向上させるため、いわゆる傾斜焼き入れ(傾斜熱処理)という手法が用いられている。
傾斜焼き入れを行うことで、一本のタービンロータの部位毎に、タービンの高圧部及び低圧部でそれぞれ要求される耐高温性を持ったタービンロータを製造可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記の傾斜焼き入れを用いてタービンロータの製造を行うと、タービンの高圧部で要求される耐高温性を持つ領域と、低圧部で要求される耐高温性を持つ領域との間に、どちらの特性も有しない中間の領域としていわゆる遷移領域が形成される。しかしながら、中小型の蒸気タービンに用いられるタービンロータに上記の傾斜焼き入れを施すと、タービンロータの全長が短いため、タービンロータの全体が遷移領域となってしまい、タービンロータがタービンの高圧部及び低圧部のいずれの要求も満足できない特性を持ってしまう。即ち、従来の大型のタービンロータと同様に傾斜焼き入れを採用しても、耐高温性能を有する小型のタービンロータを製造することは非常に難しいといった問題がある。
【0006】
本発明は、中小型のタービンに用いられる高低圧一体型のタービンロータとして、十分な耐高温性を有するタービンロータの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様に係るタービンロータは、 重量%で炭素:0.20%以上0.35%以下、ケイ素:0%を超え0.35%以下、マンガン:0%を超え1.00%以下、ニッケル:0.50%以上1.50%以下、クロム:2.00%以上2.50%以下、モリブデン:0.90%以上1.50%以下、バナジウム:0.20%以上0.30%以下を含有する低合金鋼から、最大外径が
500mm〜1000mmロータ粗材を成形する成形工程と、前記ロータ粗材に、940℃以上960℃以下の温度範囲で加熱した後
、2.0℃/min以上の冷却速度で
200℃以下になるまで冷却して、油焼き入れを施す焼入れ工程と、前記焼入れ工程の後に、
655℃〜665℃の温度範囲で、かつ、数式P=T(C+log
10)で定義される焼き戻しパラメータPが19700以上19900以下となる条件(Tは絶対温度(K)
、Cは材料定数(C=20))で、前記ロータ粗材に焼き戻しを施す焼き戻し工程と、を含んでいる。
【0008】
このような工程によってタービンロータを製造することで、中小型のタービンに用いられる最大外径寸法が1000mm以下のタービンロータに十分な耐高温性を持たせることができる。即ち、中小型のタービンのタービンロータであっても、十分な高温クリープ強度、低温靱性、耐SCC性(耐応力腐食割れ性)を持たせることができる。この結果、タービンの高圧部ではタービンロータのロータディスク(タービン動翼が固定される部分)の薄肉化が可能となり、タービン動翼の段数を増加させることができる。また、ロータディスクの薄肉化によってタービンロータでの回転負荷が低減され、信頼性の向上につながる。また、タービンロータの低温靱性の向上によって、タービンの低圧部では高応力の状態に対応可能となる。この結果、タービンロータの耐高温性能の不足のためにタービンの運転温度条件を調整する等の対策を講じる必要がなくなり、特にタービンの高圧側での温度を低く抑える必要がなくなり、タービン効率の向上につながる。
【0009】
本発明の第二の態様に係るタービンの製造方法は、上記第一の態様におけるタービンロータの製造方法で得られるタービンロータの回転軸線の方向に並ぶように、前記タービンロータに複数の動翼列を固定する動翼列設置工程と、前記タービンロータ、及び、前記動翼列を前記回転軸線を中心として相対回転可能となるように、前記タービンロータを覆うケーシングを設けるケーシング設置工程と、前記ケーシングに、前記回転軸線の方向に前記動翼列と交互に配置されるように複数の静翼列を固定する静翼列設置工程と、を含んでいる。
【0010】
このようなタービンの製造方法によれば、タービンロータを上記の製造方法で製造することで、中小型のタービンのタービンロータであっても、十分な高温クリープ強度、低温靱性、耐SCC性(耐応力腐食割れ性)を持たせることができる。この結果、タービンの高圧部ではタービンロータのロータディスクの薄肉化が可能となり、タービン動翼の段数を増加させることができる。また、ロータディスクの薄肉化によってタービンロータでの回転負荷が低減され、信頼性の向上につながる。また、タービンの低圧部では、低温靱性の向上によって、高応力の状態に対応可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記のタービンロータの製造方法、及び、タービンの製造方法によると、中小型のタービンに用いられる高低圧一体型のタービンロータとして、十分な耐高温性を有するタービンロータを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態〕
はじめに、
図1を参照して本発明の実施形態に係るタービンの製造方法で製造される蒸気タービン1について説明する。
【0014】
蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Sの量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方の内部空間に回転自在に設けられて、図示しない発電機等の機械に動力を伝達するタービンロータ30と、ケーシング10に固定された静翼列40と、タービンロータ30に固定された動翼列50と、タービンロータ30を回転軸線O回りに回転可能に支持する軸受部60と、を備えている。
【0015】
ケーシング10は、その内部空間を気密に封止するように形成されて、蒸気Sの流路を画成している。
【0016】
調整弁20は、ケーシング10に複数個取り付けられており、それぞれ図示しないボイラから蒸気Sが流入する調整弁室21と、弁体22と、弁座23と、蒸気室24とを備えている。この調整弁20では、弁体22が弁座23から離れることで蒸気Sの流路が開き、これによって、蒸気Sが蒸気室24を介してケーシング10の内部空間に流入する。
【0017】
タービンロータ30は、ロータ本体31と、ロータ本体31の外周から径方向外側に延出した複数のディスク32とを備えている。このタービンロータ30は、回転エネルギーを、図示しない発電機等の機械に伝達するようになっている。
【0018】
軸受部60は、ケーシング10に固定されて、ジャーナル軸受装置61及びスラスト軸受装置62を備えており、ケーシング10の内部に挿通されたタービンロータ30を回転可能に支持している。
【0019】
静翼列40は回転軸線Oの方向に間隔をあけて複数が、ケーシング10に固定されて設けられている。各々の静翼列40は、タービンロータ30を囲繞するように放射状に多数配置された複数の静翼41を備えて環状静翼群を構成している。
そして、各静翼列40は、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、回転軸線Oの方向の下流側に隣接する後述する動翼列50側に案内するようになっている。
【0020】
動翼列50は、タービンロータ30におけるディスク32の外周に複数が固定され、タービンロータ30から径方向外側に延出している。これら動翼列50は、ディスク32に放射状に多数配置された複数の動翼51を備えて環状動翼群を構成しており、各静翼列40の下流側に交互に配置されている。
【0021】
次に、蒸気タービン1の製造方法について
図2を参照して説明する。
まずはじめに、タービンロータ30の製造方法について説明する。
即ち、成形工程ST1を実行する。成形工程ST1では、重量%で炭素:0.20%以上0.35%以下、ケイ素0.35%以下、マンガン:1.00%以下、ニッケル:0.50%以上1.50%以下、クロム:2.00%以上2.50%以下、モリブデン:0.90%以上1.50%以下、バナジウム:0.20%以上0.30%以下、残部鉄および不純物(製造工程で混入が避けられないもの)を含有する低合金鋼から、最大外径寸法が1000mm以下のロータ粗材30Aを鍛造により成形する。ここで、ロータ粗材30Aの最大外径寸法は、複数のディスク32のうち、最も外径が大きいディスク32の外径寸法d(
図1参照)を示す。
【0022】
ここで、ロータ粗材30Aの各化学成分の限定理由を説明する。
(1)炭素:0.20%以上0.35%以下
鋼の焼き入れ性を増大させるために不可欠な元素である。タービンロータ30に必要な強度及び靱性を出すためには0.20%以上の炭素が必要となるが、多すぎると十分な靱性が得られず加工性が低下するので、0.20%以上0.35%以下とした。
【0023】
(2)ケイ素0.35%以下、及び、マンガン:1.00%以下
ケイ素及びマンガンは、鋼の脱酸作用を促進させるために必要な元素である。ケイ素の含有量が多すぎると靱性及び加工性が低下するため、0.35%以下とした。マンガンは焼き入れ性及び機械的強度を増大させるが、含有量が多すぎると靱性が低下するので1.00%以下とした。
【0024】
(3)ニッケル:0.50%以上1.50%以下
焼き入れ性を向上させ、低温における機械的強度及び靱性を向上させるために有効な元素であるが、含有量が多すぎると高温における強度が低下し、焼き戻し脆性を助長するため0.50%以上1.50%以下とした。
【0025】
(4)クロム:2.00%以上2.50%以下
高温における強度及び靱性の改善に有効な元素である。またベイナイト焼き入れ性を増大させるので、質量効果の点から2.00%以上2.50%以下とした。
【0026】
(5)モリブデン:0.90%以上1.50%以下
炭素及びクロムとの共存下で、高温における強度を増大させ、焼き戻し脆性を緩和する効果がある。また、ベイナイト焼き入れ性を増大させるため、適当な熱処理を施せば靱性の改善にも有効である。しかし、含有量が多すぎても上記の効果は飽和するだけであるため、0.90%以上1.50%以下とした。
【0027】
(6)バナジウム:0.20%以上0.30%以下
高温における強度を上げるのに最も有効な元素である。含有量が多すぎても靱性が低下するため、0.20%以上0.30%以下とした。
【0028】
次に、焼き入れ工程ST2を実行する。即ち、焼き入れ工程ST2では、ロータ粗材30Aに対し、940℃以上960℃以下の温度範囲で加熱した後に、少なくとも500℃以下250℃以上の温度範囲で2.0℃/min以上の冷却速度で油焼き入れを施す。
【0029】
そして、焼き戻し工程ST3を実行する。即ち、焼き戻し工程ST3では、焼き入れを行った後のロータ粗材30Aに対して、630℃以上の温度範囲で、かつ、焼き戻しパラメータPが19700以上19900以下となる条件で、ロータ粗材30Aに焼き戻しを施す。
【0030】
ここで、焼き戻しパラメータPは、下記の式(1)で定義される数値である。
P=T(C+logt)・・・(1)
Tは絶対温度(K)、tは時間(h)、Cは材料定数である。また、本実施形態では、材料定数:C=20である。
換言すると、630℃以上の温度範囲で、以下の表5に示す所定の0.2%耐力、引張強さ、伸び、絞り、衝撃値、及び50%FATTを有するように、焼き戻し工程ST3を実行する。
【0031】
このように上記の工程を経ることでタービンロータ30が製造される。
さらに、タービンロータ30に動翼列50を設置する動翼列設置工程ST4を実行する。動翼列設置工程ST4では、ディスク32に周方向に間隔をあけて動翼51を固定していく。そして各動翼列50が回転軸線Oの方向に並ぶように回転軸線Oの方向に互いに間隔をあけて設けられる。
【0032】
さらに、タービンロータ30を軸受部60によって支持するとともにケーシング10に軸受部60及びタービンロータ30を固定するケーシング設置工程ST5を実行する。これにより、ケーシング10がタービンロータ30を外周側から覆って、タービンロータ30及び動翼列50が回転軸線Oを中心としてケーシング10に対して相対回転可能となる。
【0033】
また、ケーシング10の内側には、静翼列設置工程ST6を実行することで、回転軸線Oの方向に動翼列50と交互に配置されるように複数の静翼列40を固定する。各々の静翼列40をケーシング10に固定する際には、周方向に間隔をあけて動翼51を固定していく。
実際には、ケーシング設置工程ST5、及び静翼列設置工程ST6では、例えば、まず反割れのケーシング10の下部を設置し、その後、静翼列40をケーシング10の下部に固定する。この状態で、動翼列50が設けられたタービンロータ30をケーシング10の下部に組み込む。また、反割れのケーシング10の上部に静翼列40を固定しておき、このケーシング10の上部を、タービンロータ30を組み込んだケーシング10の下部に設置する。
【0034】
以上説明した本実施形態におけるタービンの製造方法によると、中小型の蒸気タービン1に用いられる最大外径寸法が1000mm以下のタービンロータ30に、十分な耐高温性を持たせることができる。即ち、中小型の蒸気タービン1のタービンロータ30であっても、本実施形態の製造方法によって十分な高温クリープ強度、低温靱性、耐SCC性(耐応力腐食割れ性)を持たせることができる。
【0036】
この結果、蒸気タービン1の高圧部(前段側の部分:
図1の紙面に向かって左側の部分)でタービンロータ30のディスク32の薄肉化が可能となり、動翼列の列数を増加させることができる。また、ディスク32の薄肉化によってタービンロータ30の重量が低減され、タービンロータ30の回転負荷が低減されるため、信頼性の向上につながる。
【0037】
また、タービンロータ30の低温靱性の向上によって、蒸気タービン1の低圧部(後段側の部分:
図1の紙面に向かって右側の部分)では高応力の状態に対応可能となる。この結果、タービンロータ30の耐高温性能の不足のために蒸気タービン1の運転温度条件を調整する等の対策を講じる必要がなくなり、特に蒸気タービン1の高圧側での温度を低く抑える必要がなくなり、タービン効率の向上につながる。
【0038】
従って、中小型の蒸気タービン1に用いられる高低圧一体型のタービンロータとして、十分な耐高温性を有するタービンロータ30を製造することが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0040】
〔実施例〕
タービンロータ30の耐高温性を確認する材料試験を下記の通り行った。
(試験材)
試験材として、ロータ粗材30Aと同じ材料から30〔mm〕×30〔mm〕×150〔mm〕の試験材ブロックを準備した。
【0041】
(熱処理シミュレーション)
上記の試験材に対して、外径がφ500〔mm〕、φ1000〔mm〕、φ1500〔mm〕のロータ粗材30Aを想定した熱処理シミュレーションを実行した。
熱処理シミュレーションでは実機ロータ材の予備熱処理と調質熱処理を模擬した熱処理を実施した。熱処理シミュレーションではまず溶体化処理を実施した。この溶体化処理は試験片に実施された熱処理の影響を無くす目的で実施する。即ち、1200℃まで加熱し1hr保持した後、空冷する。その後、実機ロータの予備熱処理に相当する焼ならし焼もどし処理を実施した。焼ならしでは1010℃に加熱し、5hr保持した後、実機ロータの空冷に相当する冷却速度で200℃以下まで炉冷した。さらに焼もどしは720℃まで加熱し9hr保持した後に200℃以下まで炉冷した。その後、実機ロータの調質熱処理に相当する熱処理を実施した。950℃に加熱し9hr保持した後、実機の油冷に相当する冷却速度で200℃以下になるまで炉冷した。その後、実機の焼もどし工程に相当する熱処理を実施した。即ち、焼戻温度(T℃)まで加熱し10h保持した後に200℃以下になるまで炉冷した。
【0042】
ここで、焼き戻し工程での上記の温度T〔℃〕として、4つの温度条件を設定した。即ち、T=645〔℃〕、655〔℃〕、665〔℃〕、675〔℃〕の4つの条件を設定した。
【0043】
(材料試験)
上記の試験材から試験片を加工し、材料試験を実行した。上記の熱処理サイクルを実行した場合の、0.2%耐力〔MPa〕、引張強さ〔MPa〕、伸び〔%〕、絞り〔%〕、衝撃値〔J/cm
2〕、50%FATT〔℃〕について、外径がφ500〔mm〕、φ1000〔mm〕、φ1500〔mm〕の各ケース(中心部を想定)と、表層部を想定したケースについて、4つの温度条件で試験を行った試験結果は、下記の表1から表4に示す通りである。
【表1】
【0047】
そして上記の試験結果から、ロータ粗材30Aが下記の表5に示す特性を満足するように、上述の実施形態ではロータ粗材30Aの外径寸法をφ1000〔mm〕以下とし、かつ、630℃以上の温度範囲で焼き戻しを行うようにした。
【表5】