【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、独立請求項の対象だけで既に解決される。各従属請求項に、本発明の有利な実施形態および発展形態が記載されている。
【0012】
切り離すべき部分片と残留させるべき主部とに面状のガラス部材を分ける所定の分割線に沿って、当該ガラス部材から部分片を切り離す本発明の方法は、ガラス部材の体積に線条状の傷を分割線に沿って並べて形成し、かつ、当該傷を超短パルスレーザのレーザパルスによって形成し、ガラス部材の材料はレーザパルスに対して透過性であり、レーザパルスはガラス部材の体積においてプラズマを生成し、プラズマは上述の線条状の傷を形成し、ガラス部材上におけるレーザパルスの入射点を当該ガラス部材の表面上において分割線に沿って移動させ、当該分割線に沿って並んで配置された線条状の傷を入れた後、部分片と主部とをそれぞれ完全体として維持しながら、並んだ線条状の傷において部分片を分割線に沿って主部から引き離すように、ガラス部材の主部の領域を加熱して膨張させ、および/または、ガラス部材の部分片の領域を冷却して圧縮させることに基づいている。
【0013】
主部の膨張および/または部分片の圧縮によって、これらの各部のサイズは互いに相対的に異なって変化することとなる。部分片を冷却する場合、たとえば、主部に対する部分片の「収縮」が生じる。かかる相対的なサイズ変化によって、部分片は主部から引き離される。
【0014】
有利には、分割線に沿って並んで配置された線条状の傷を入れた後に、分割線に沿ってガラスに局所的な引張応力を引き起こして、隣り合った線条状の傷間に亀裂形成を引き起こすように、ガラス部材上におけるレーザ放射の入射点、有利には二酸化炭素レーザの入射点を、当該ガラス部材の表面上において分割線に沿って移動させる。かかる工程は「クリービング工程」とも称される。このクリービング工程は、加熱後に局所的に冷却を行って、材料に生成された引張応力を増大させることによって、支援することもできる。
【0015】
クリービング工程は事前分割処理に供される。ガラス部材に分割線において熱力学的な応力を生成するため、ガラス部材に分割線に沿って、有利にはCO
2レーザを用いて照射がなされる。この照射により、線条の傷を繋ぐ亀裂形成を分割線に沿って生じさせることができ、これにより、分割線に沿って少なくとも局所的な分割を生じさせることができ、しかも、このことは通常、主部から部分片が引き離されることなく生じさせることができる。この観点において有利なのは、主部の領域において加熱を行う工程の前、および/または、部分片の領域において冷却を行う工程の前に、クリービング工程を行うことである。
【0016】
線条パターン自体、および、クリービング工程によって材料に引き起こされる追加の亀裂は双方とも、材料の、分割線に沿って延在する事前傷となる。
【0017】
本発明は、主部および部分片をそれぞれ完全体として維持するものである。主部および部分片をそれぞれ完全体として維持することの利点は、両部分とも引き続き使用できることである。どのような目的で当該分割方法を使用するかに応じて、主部または部分片のいずれか一方または双方の部分が関心対象となり得る。特に主部が関心対象である場合には、生じる残留部分および破片が少なくなり、部分片を溶解する必要なく出発材料として再使用することができるので、部分片の維持が有利である。両部分が関心対象である場合には、両部分の形状が正確に相補的となることに利点が奏され得る。さらに、切り離すべき部分を複数のより小さい小片に分割する手法と比較して、プロセスコストも格段に削減される。
【0018】
本発明に使用される、材料に規定された傷を極小空間に超短パルスレーザのレーザパルスによって形成する精密分割手法は、レーザ光との相互作用ゾーンにおいて、互いに密に位置するサブミクロン中空チャネルの形成、すなわち1μm未満の径の中空チャネルの形成によって、材料の局所的破壊が生じることに基づいている。
【0019】
レーザパルスによって形成される線条状の傷は有利には、少なくとも200μmの長さ、特に有利には500μmの長さを有する。こうするためには、適切なパルスエネルギーおよびパルス幅を選択する。線条状の傷の上記の最低限の長さが有利である理由は、この最低限の長さによって部分片の切り離しが容易になるからである。
【0020】
長い線条状の傷を形成するために特に有利なのは、超短パルスレーザをいわゆるバーストモードで動作させることである。この動作モードでは、レーザパルスを単パルスとして出力するのではなく、短時間で連続して出力される複数のパルスの列として出力し、このパルスの列は1つのパルスパケットすなわちバーストを構成する。したがって本発明の発展形態では、超短パルスレーザの動作は、バーストの形態ないしはパルスパケットの形態でのレーザパルスの時間的に連続する出力の形態でなされ、有利にはこれらの各バーストは、線条の傷のうちそれぞれ1つを形成する。
【0021】
かかるパルスパケットは一般的に、通常のシングルショットモードでの単パルスよりある程度大きいエネルギーを有する。しかし、バーストのパルス自体のエネルギーは単パルスより格段に小さい。また、1バーストにおいてパルスのパルスエネルギーが低減していくことも典型的である。
【0022】
本発明の適切なレーザ光源は、波長1064nmのネオジムドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネットレーザである。レーザ光源はとりわけ、10kHz〜120kHzの間の繰り返し周波数、有利には30kHz〜110kHzの間、非常に特に有利には35kHz〜105kHzの間の繰り返し周波数で動作する。スキャン速度は有利には、繰り返し周波数に依存して、隣り合った線条状の傷間の距離が4μm〜10μmの範囲内になるように選択することができる。
【0023】
レーザパルスの適切なパルス幅は100ps未満、有利には10ps未満の範囲内である。パルス持続時間は1ps未満とすることもできる。レーザ光源の典型的な出力は、特に有利には40〜100Wの範囲内である。線条状の傷を達成するためには、本発明の有利な一発展形態では、200μJ超のバーストでパルスエネルギーを使用し、さらに有利には、バースト総エネルギーは500μJ超である。
【0024】
超短パルスレーザをバーストモードで動作させる場合、繰り返し周波数はバーストの出力の繰り返し周波数である。パルス幅は基本的に、レーザを単パルスモードまたはバーストモードで動作させるか否かに依存しない。バーストにおけるパルスのパルス長は典型的には、単パルスモードのパルスのパルス長と同様である。
【0025】
本発明においてマイクロパーフォレーションが使用される場合には、(微量を除いて)分割継目から材料が除去されない。分割すべき両部分は、線条状の傷を入れた後は、実質的には未だ互いに結合している。
【0026】
本発明のマイクロパーフォレーションを行った後は、分割線に沿って規定破損線が材料に存在することとなる。これは、当該規定破損線に沿って未だ分割していないが、材料に適切な応力が引き起こされた場合にはこの規定破損線に沿って材料を良好に分割できる、というものである。そのために適しているのは、特にクリービング工程である。
【0027】
基本的には、たとえば面状のガラス基材を曲げることによっても、面状のガラス基材に応力を簡単に生じさせることができる。曲げられると、材料の体積の半分が延びて、この半分に引張応力が生じ、それと同時に、当該材料の他方の体積半分が縮んで、ここに圧縮応力が生じる。上述の両体積半分は、基材の両表面の中間に位置する平面によって互いに区切られ、この平面は「中性ゾーン」とも称される。というのも、この平面では引張応力も圧縮応力も生じないからである。ガラス基材を曲げることは、規定破損線に沿って分割するために適しており、しかも、主に規定破損線が可能な限り直線である場合に適している。
【0028】
それに対して、本発明の、ガラス部材の主部の領域の加熱および/または部分片の領域の冷却によって、当該部材の実質的に全厚に及ぶ引張応力を当該部材に生じさせることができる。すなわち、同時に圧縮応力を発生させることなく引張応力を発生することができる、ということである。
【0029】
本発明の第1の態様は、部材の部分片の領域は加熱しないようにしながら、当該部材の主部の領域のみを加熱することによって膨張させる、というものである。こうすることにより、部材の主部の領域の方が、当該部材の部分片の領域より大きく膨張する。この膨張によってガラスに引張応力が生じることができ、この引張応力によって主部から部分片が分割線に沿って切り離される。さらに、部分片は主部から引き離される。よって、部材から内側の部分片を切り離す必要がある場合には、基材を加熱して内側幾何形状を切り抜くことができる。内側幾何形状は、所定の温度に達したときに取り出すことができる。
【0030】
内側幾何形状を有しないガラス部材の加熱を実現する一例は、内側幾何形状の辺りにおいて切り抜かれた加熱プレートを用いて加熱することである。さらに他にも、ガラス部材の主部の領域のみを加熱する数多くの態様が可能であり、たとえば、部分片を覆いながらガラス部材を光作用によって加熱することが可能である。主部に高温の流体を吹き付け、ないしは噴射し、または、主部においてCO
2レーザを移動させることによって、主部を加熱することもできる。
【0031】
本発明の第2の態様は、部材の主部の領域のみを加熱することによって膨張させ、かつ、部材の部分片の領域を冷却して圧縮させる、というものである。このようにして、材料における引張応力をさらに増大させることができる。
【0032】
内側の部分片の場合の一例は、内側幾何形状が切り抜かれた加熱プレートを用いてガラス部材の加熱を実現し、ガラス部材の内側幾何形状の領域をさらに冷却させるように、この切抜部を通じて部材に空気を吹き付ける、というものである。また、部材の内側幾何形状を空気とは異なる流体によって冷却すること、または冷却プレートを用いることも可能である。
【0033】
しかし、部材の主部の領域の加熱と、部分片の領域の冷却とを、同時に行う必要はない。たとえばガラス部材全体を加熱し、(これによって結果的には主部の領域も加熱される)、その後に部分片の領域を冷却させることも可能である。またその逆に、部材全体を冷却して、その後に主部の領域を加熱することも可能である。
【0034】
本発明の第3の態様は、部材の主部の領域を冷却しないようにしながら、部材の部分片の領域のみを冷却して圧縮させることである。
【0035】
本発明では、部分片はいかなる場合においても、当該部分片において追加の補助工程を行うことなく、主部から切り離される。追加の補助工程を回避することについての利点は、ガラス部材において加熱および/または冷却の結果として生じ得る引張応力を、かかる追加の補助工程に分配せずに、引張応力の全部が所望の分割線に作用することである。よって本発明では、部分片も主部も、分割線に沿って線条を入れることによる傷によっては損傷しない。引き離し後は、部分片および主部は、この入れられた傷のみをカットエッジに有する。
【0036】
マイクロパーフォレーションを用いた、使用される精密分割手法によって、カットエッジにおいて非常に高いエッジ品質が達成される。ガラスエッジの性状はガラス部材の曲げ強度に非常に重要であるから、エッジ品質が高いと、主部および部分片の曲げ強度も向上する。換言すると、破片飛散、ノッチおよび他の凹凸が可能な限り少なくかつ可能な限り小さい、有利には全く無い、可能な限り清浄なガラスエッジは、ガラス破損のおそれを低下するために寄与することができる。
【0037】
ガラス部材の主部の領域を加熱する場合において、その次に強化処理またはセラミック化プロセスが行われる場合には、加熱工程を強化処理またはセラミック化プロセスに統合することができる。
【0038】
本発明の一発展形態では、ガラス部材の主部の領域を加熱して膨張させ、および/または、部分片の領域を冷却して圧縮させて、主部の平均温度と部分片の平均温度との間に、少なくとも150℃、有利には少なくとも200℃、特に有利には少なくとも300℃の温度差を生じさせる。
【0039】
本発明の一発展形態では、ガラス部材の主部の領域を加熱して膨張させ、部分片が分割線に沿って、複数の並んだ線条状の傷において主部から引き離した後に、上述の行った加熱を利用して主部を熱強化処理する。
【0040】
本発明の上述の発展形態では、ガラス部材の既に加熱された部分を直接強化処理し、これによって、さらに高いエネルギーコストが生じることはない。つまり、主部は高いエネルギー効率で熱強化処理される。切り離しの直後に行われる、加熱された部分の強化処理は、特に、線条形成を用いた、使用される精密分割手法によって行うことができ、これによって高いエッジ品質が得られる。このことによって特に、主部からの部分片の切り離しによって形成されたエッジを研磨し、または他の態様で処理する必要がなくなる。
【0041】
さらに、なされた加熱を利用して主部をセラミック化することもできる。このようにして、高いエネルギー効率で主部をセラミック化すること、すなわち、ガラス・結晶混合体に変換することができる。よって、エネルギー削減のためには、切り離しプロセスの次にセラミック化を行うことが有利である。
【0042】
したがって、プロセスラインはたとえば以下のように実現することができる:まずガラス部材に、規定された少なくとも1つの分割線に沿って、レーザパルスにより線条すなわちマイクロパーフォレーションを形成する。この分割線のうち少なくとも1つは、本発明でいうところの非直線の分割線である(この例では、部分片を描出する内側輪郭を前提としている)。さらに、まず本発明の方法とは異なる態様で、たとえば曲げることによってガラス部材に応力を加えることにより、またはCO
2レーザを照射することによって、ガラス部材を分割する他の分割線、たとえば外側輪郭を付与することができる。この他の分割線に沿って分割することにより生じたエッジは、分割後に研磨することができ、たとえばいわゆるC研磨を行うことができる。他のオプションのステップは、ガラス部材の洗浄および印刷とすることができる。その際に有利なのは、内側輪郭が主部から切り離されるが、主部からは引き離されないように、線条を互いに結合するクリービング工程を当該内側輪郭の分割線に沿って行うことである。その後に本発明の方法を用いて、主部を加熱して膨張させることにより、主部から部分片を引き離す。このようにして内側輪郭が切り出され、部分片および主部の双方に生じたカットエッジは非常に高いエッジ品質を示し、特に、チッピングが10μm未満、特に有利には5μm未満であり、かつ30μm未満のRz値、有利には20μm未満、特に有利には10μm未満のRz値の粗さであることを特徴とする。最後に、既に分割のために行った加熱を利用して、主部を熱強化処理する。行った加熱を利用して、主部をセラミック化することもできる。次に、ガラス部材の主片および/または部分片をパッケージングすることができる。
【0043】
熱強化処理ないしは熱硬化は、硬化すべきガラス部材を急冷することに基づいている。まず、部材の表面が冷却するが、内部には未だ、より高温またはより軟質の相が存在する。内部と周辺との温度差は、外部と周辺との温度差より大きい。その後、ガラス部材の内部はますます圧縮し得るが、この圧縮は、既に固化した表面によって阻止される。このことによって内部に引張応力が生じ、かつ、表面には圧縮応力が発生する。
【0044】
このような熱強化処理の利点は、これが強度を向上させる比較的低コストの手法であることである。これにより、本発明の本発展形態では、切り離しとその後の強化処理とを行う効率的な方法が実現される。よって、本発明の本実施形態の経済的有用性が向上する。その上、熱強化処理されたガラス部材は通常、良好にカットして分割することができなくなる。しかし、強化処理が行われた後のマイクロパーフォレーション、カットおよび分割は、本発明の本実施形態では絶対に必須というものではない。というのも、必要な分割工程は全て、未だ強化処理がなされていないガラス部材において既に行うことができるからである。このことは、(上記に説明した一例のプロセスラインに従えば)本発明でいうところの非直線の分割線に沿った分割、および、従来の手法を用いて分割を行える、場合によっては他の分割線に沿った分割の双方について当てはまる。
【0045】
欧州特許出願公開第2781296号明細書に記載の方法は、表面が硬化または強化処理されたガラスにも使用することができる。しかし当該方法の欠点は、かかるガラスは(上記にて既に述べたように)未だ硬化処理ないしは強化処理がなされていないガラスほど良好にカットしたり容易に剥離することができなくなるので、硬化または強化処理されたガラスでの輪郭画定工程中に損傷となる亀裂形成のおそれが増大することである。その上、レーザ出力およびカット速度等のレーザパラメータを厳密に正確に維持しなければならない。これらの欠点は、本発明の上記の発展形態によって回避される。
【0046】
本発明の一発展形態では、ガラス部材の材料は、3×10
−6K
−1超の熱膨張係数、有利には4×10
−6K
−1超の熱膨張係数、特に有利には7×10
−6K
−1超の熱膨張係数を有する。
【0047】
ガラスの熱膨張係数は、温度の変化による膨張または圧縮に起因して当該ガラス部材の寸法がどの程度変化するかを表すパラメータである。この「熱膨張係数」とは、線膨張係数α=(1/L)(ΔL/ΔT)をいい、ここでΔTは温度差を表し、ΔLは元の長さLの1次元における変化を表す。
【0048】
本発明の一発展形態では、ガラス部材は少なくとも2mmの厚さ、有利には少なくとも3mmの厚さ、特に有利には少なくとも4mmの厚さ、さらに有利には少なくとも5mmの厚さを有する。本発明の、面状のガラス部材から部分片をレーザアシストにより切り離す方法は、特に上掲の厚さの面状のガラス部材に適している。それに対して、従来の分割手法を用いて、たとえば曲げモーメントを加えて、全般的に曲線の分割線、局所的に角を有する分割線、または、それ自体で閉じられた分割線に沿ってガラスを分割することは、ガラスの厚さが厚くなるにつれてますます困難になる。その根拠は、従来の分割手法では基材厚が厚くなるにつれて、未だ接触している両部分間に引っ掛かりが生じるおそれがますます増大するからである。よって、ガラス部材が比較的厚くなると、従来の手法で確実に分割を行うことは困難になるか、または不可能にもなり得る。
【0049】
欧州特許出願公開第2781296号明細書に記載された方法は、照射された領域において熱により基材材料の流動が誘発されることに基づいて、切り離すべき輪郭を、重力に起因して滴状に隆起させることにより、他の残りの基材材料との間にギャップを形成するものである。しかし、この方法の欠点は、限られたガラス厚にしか適していないことである。つまり、ガラスが過度に厚いと、基材の平面における、切り離すべき輪郭の加熱に起因する膨張に対する材料の流動によるギャップ形成の効果は、ますます弱くなってしまう。それに対して、面状のガラス部材から部分片をレーザアシストにより切り離す本発明のこの方法は、特に比較的厚いガラス部材に適している。5mm超の厚さのガラスを加工することも可能であり、特に、8mm超の厚さのガラスを上手く加工することも可能である。
【0050】
さらに、ガラス部材が最大20mmの厚さ、さらに有利には最大15mmの厚さ、特に有利には最大10mmの厚さを有することが有利である。上掲の範囲内のかかる最大厚のガラスは、本発明の方法によって両部分を分割して確実に分割するためにも非常に適している。
【0051】
ガラス部材が厚くなると、1加工工程で、ないしは分割線に沿ってレーザビームの入射点を1回移動するだけで、全厚にわたってマイクロパーフォレーションを行うことができなくなるか、または少なくとも不都合になることが多い。部分片を簡単かつ確実に切り離せるようにするためには、むしろ、2回以上通過をそれぞれ異なる焦点深度で行うことが有利である。
【0052】
本発明の一発展形態では、分割線のどの点においても分割線から少なくとも5μmかつ最大50μmの距離に、有利には最大40μmの距離に、特に有利には最大30μmの距離に離隔したオフセット線に沿って並んだ複数の線条状の傷を、ガラス部材の体積に形成し、オフセット線に沿って並んだ複数の線条状の傷を、分割線に沿って形成された線条状の傷の長手方向に投影したものは、分割線に沿って形成された線条状の傷と200μm未満の重なり部分、有利には100μm未満、有利には50μm未満の重なり部分を有する。
【0053】
さらに、上述の第1のオフセット線から離隔した第2のオフセット線に沿っても同様に、ガラス部材の体積に線条状の傷を形成することができる。
【0054】
本発明の一発展形態では、部分片の第1の横方向次元における最小寸法は少なくとも5mm、有利には少なくとも10mm、特に有利には少なくとも20mmであり、かつ、当該部分片の、第1の横方向次元に対して直交する第2の横方向次元における最小寸法は、少なくとも5mm、有利には少なくとも10mm、特に有利には少なくとも20mmである。
【0055】
切り離すべき部分片は、上述の両横方向次元において、すなわち面状のガラス部材に対して平行に、つまり当該部材の平面内にて延在する両次元において、それぞれある程度の最低限の広がりを有するのが有利である。このことは、切り離すべき部分片が大きいほど、本方法において引き起こされる、部分片に対する主部の相対的な膨張が(または、主部に対する部分片の圧縮も)引き起こす引張応力が大きくなることに基づく。追加的にクリービング工程を行う場合も、特に内側の部分片(内側輪郭)の場合には、以下例に基づいて説明するように、ある程度の最低限の広がりが有利である。
【0056】
このことはたとえば、部分片にマイクロパーフォレーションが形成されるだけでなく、部分片がクリービング工程によって既に、分割線に沿って完全に主部から分割されると仮定することにより、具体的に理解することができる。ここで部分片が、たとえば主部の内側に存在する10mm×10mmの寸法の正方形である場合、主部が10%膨張または部分片が10%圧縮すると、どの横方向次元においても1mmのギャップ全幅が、すなわち、正方形の部分片の周囲に0.5mmのギャップ全幅が生じる。それに対して、部分片の寸法が1mm×1mmのみであると仮定した場合、ギャップ幅は0.05mmのみとなる。
【0057】
部分片の面積が大きいほど、主部と部分片との間に温度差によって生じる引張応力(クリービング工程を行わない場合)、または、引き起こされるギャップ幅(クリービング工程を行う場合)は大きくなる。部分片の各横方向次元における最小寸法が少なくとも5mm、有利には少なくとも10mm、特に有利には少なくとも20mmであると、有利であることが判明している。かかる寸法に達すると、多くのガラス材料の場合、材料の部分片の領域を常温に維持し、場合によっては部分片の領域にさらに空気を吹き付けることによって材料を冷却しながら、材料の主部の領域をガラス転移温度未満の温度まで加熱することによって、引き離しを生じさせることができる。
【0058】
しかし、部分片が上掲の寸法を超えることは、(有利であるが)必ずしも必須ではない。たとえば、窒素等の特殊な冷却液、冷却プレート等を用いて冷却することによっても、比較的小さい部分片でも切り離しに十分な引張応力を生じさせるように、部分片を非常に強力に冷却することができる。ガラス如何に応じて、比較的小さい部分片も切り離せるようにすべく、永久変形を伴わない主部のより強力な加熱が可能になるように、ガラス転移温度を高くすることもできる。
【0059】
また、ガラス部材の主部の領域を不均一に加熱すること、および/または、部分片の領域を不均一に冷却することも可能である。たとえば、部分片の末端部または舌片をより大きく冷却することができる。
【0060】
主部からの部分片の所望の引き離しは、本発明の方法では種々のパラメータに依存する。1つの重要なパラメータは、部分片の第1または第2の横方向次元における最小寸法Lである。他の1つの重要なパラメータは、本発明の方法において主部の平均温度と部分片の平均温度との間に生じる温度差ΔT(単位K)である。もう1つの重要なパラメータは、使用されるガラスの熱膨張係数(線膨張係数)α=(1/L)(ΔL/ΔT)である。これら3つのパラメータを用いて、本発明の方法において加熱および/または冷却により主部と部分片との間に生じる最小ギャップ幅Sを、簡単に推定することができる:S=ΔL/2=L・ΔT・α/2。有利には、主部から引き離される部分片のエッジ面の平均粗さRより最小ギャップ幅Sが大きくなるように、パラメータL、ΔTおよびαを互いに合わせて調整する。平均粗さRは通常の定義では、エッジ面上の1点から平均面までの平均距離を表すものであり、ここで平均面は、理想的なエッジ面と一致し、または、(数学的にいうと)平均面を基準とするエッジ面の有効断面形状の偏差の総和が最小になるように当該有効断面形状と交差するものである。
【0061】
よって本発明の方法の一発展形態では、面状のガラス部材の平面内における部分片の最小寸法L、主部の平均温度と部分片の平均温度との間に生じる単位Kの温度差ΔT、ガラス部材の材料が有する熱膨張係数α、および、主部から切り離される部分片のエッジ面の平均粗さRが、不等式L・ΔT・α>Rを満たす。
【0062】
本発明の一発展形態では、主部が面状のガラス部材の平面においてとる2次元の形状が、数学的トポロジーでいうところの星形にならないように、ガラス部材を分割線によって分ける。
【0063】
分割線それ自体の曲がりまたは角がきつくなるほど、従来の分割手法を用いて全般的に曲線の規定破損線、または局所的に角を有する規定破損線に沿って、ガラスを分割することは困難になる。部分片の一部またはほとんどが内側にある場合(それ自体閉じた分割線によって部分片が内側にある場合を除く)、すなわち、分割線が未だ完全には閉じていないだけでも既に、部分片の切り離しが特に困難になる。かかる状況の判断基準は、ガラス部材の主部に相当する2次元の領域が、数学的にいうと星形領域でなくなっていることである。つまり、2次元の領域内に完全に包含される直線の接続区間を含む当該領域の他のいずれか任意の点に到達できる点が、当該2次元の領域内に存在しない、ということである。
【0064】
ガラス部材の主部が数学的トポロジーでいうところの星形でない場合に特に困難に陥る従来の分割手法は多くあるが、本発明は、かかる状況に特に適している。
【0065】
主部は、星形でない形状を容易にとることができるが、可能な限り清浄な切り離しを実現するために(必ずしも必要でないにしても)有利なのは、部分片が星形の形状をとることである。その根拠は、部分片に相当する2次元の領域が、2次元の領域内に完全に包含される直線の接続区間を含む当該領域の他のいずれか任意の点に到達できる少なくとも1つの点を有するからである。よって、部分片に相当する領域が収縮時に、主部に相当する領域に引っ掛かることがないように、かかる星点を基準として領域を収縮させることができる。上述の領域の「収縮」とは、部分片の冷却に相当するものということができる。
【0066】
部分片がガラス部材の平面内においてとり得る、数学的にいうところの星形の2次元形状の例としては、正多角形、角が丸み付けされた正多角形、楕円形または円の形状がある。
【0067】
本発明の一発展形態では、主部が面状のガラス部材の平面において部分片を完全に包囲するように、ガラス部材を分割線によって分ける。
【0068】
それ自体で閉じた分割線に沿ったガラスの分割、すなわち、2次元の面において内側に位置する部分片の切り離し、または換言すると、面状のガラス部材への孔または切抜部の形成は、従来の分割手法では困難であった。このことは特に、曲げモーメントを加える上述の問題に拠るものであり、また、マイクロパーフォレーションの場合にはレーザパルスによって材料をほとんど除去せず、または全く除去しない場合があることにも拠る。それに対して本発明は、かかる状況に特に適している。
【0069】
本発明の方法は、内側の部分片、または換言すると内側輪郭、またはそれ自体閉じた分割線のほぼいかなる形状にも、適用することができる。上記にて述べたように、可能な限り清浄な切り離しを実現するために(必ずしも必須でないにしても)有利なのは、部分片が面状のガラス部材の平面において、星形である2次元形状を有することである。たとえば、丸形、簡単な角形、またはさらに複雑な形状の部分片を、ガラス部材から取り出すことができる。
【0070】
本発明の一発展形態では、レーザパルスの光伝播方向がガラス部材の表面に対して斜めに延在し、これにより線条状の傷の長手方向も当該表面に対して斜めに延在し、さらに分割線が光入射平面に対して斜めに、有利には垂直に延在するように、レーザパルスの向きをガラス部材の表面に対して斜めにする。光入射平面は、レーザビームの伝播方向と面法線とによって定まるものである。
【0071】
よって換言すると、傷チャネルの長手方向がガラス部材の表面の法線方向から偏差するように傷チャネルを入れる、ということである。したがって、分割すべき両部分間には斜めのカット面または分割面が生じる。
【0072】
斜めに延在する線条状の傷の形成、または換言すると、角度をつけてパーフォレーションを材料に傾斜することにより、部分片の切り出しを容易にすることができる。というのもこのことによって、嵌合の代わりにある程度の開放角が生じ、これによって引っ掛かりのおそれがさらに低下するからである。
【0073】
レーザ加工装置を複数回通過させて比較的厚いガラスを加工する場合、典型的には複数の異なる焦点深度を使用する。具体的には、形成される線条の長さがガラスの全厚を完全に横断するのに十分ではない場合、それぞれ異なる深度の複数の線条を形成するため、分割線上においてレーザを複数回通過させる、ということである。焦点深度が大きくなると、すなわち、傷チャネルからガラスへの侵入面までの距離が遠いほど、線条状の傷の長さは短くなることになり得る。その原因は、傾斜角を使用することによってレーザ放射の一部が基材表面によって反射されるからである。ここで「傾斜角」とは、ガラス部材の面法線とレーザパルスの入射方向との間の0ではない角度をいう。よって、ガラスが比較的厚い場合には、傾斜角を小さく抑えることが有利である場合が多い。傾斜角が小さくても、本発明の方法によって既に、引っ掛かりのおそれを伴うことなく切り出しを行うことができる。
【0074】
内側幾何形状を切り出す多くの適用例のうちの1つは、ガラスから、たとえば石灰ソーダガラスから、ホブ天板を作製することである。その際には、石灰ソーダガラスをさらに、上述のように強化処理する。
【0075】
本発明の方法により、2つの面状すなわちプレート状または板状のガラス部材のセットの形態で、本発明に係る物を製造することができる。
【0076】
2つの面状のガラス部材の本発明のセットが特徴とする点は、一方の面状のガラス部材の平面における当該一方の面状のガラス部材の2次元形状が、他方の面状のガラス部材の平面における当該他方の面状のガラス部材の2次元形状に対して相補的であり、各面と、当該各面を接続するエッジ面との間の移行部を成す、一方の面状のガラス部材の2つの各エッジが、各面と、当該各面を接続するエッジ面との間の移行部を成す、他方の面状のガラス部材の2つのエッジと同一形状を有し、2つの面状のガラス部材のこれらの各エッジ面にそれぞれ、並んで延在する複数の線条状の傷が設けられており、これらの複数の線条状の傷は当該エッジ面の窪部を成し、線条状の傷の各長手方向はそれぞれ、一方のエッジから他方のエッジへ向かう方向に延在することである。
【0077】
よって理論的には、摩擦および引っ掛かりの問題を除外すれば、一方の面状のガラス部材を他方の面状のガラス部材とぴったり接合することができる。
【0078】
本発明の一発展形態では、一方の面状のガラス部材の平面における当該一方の面状のガラス部材の2次元形状は、他方の面状のガラス部材の平面における当該他方の面状のガラス部材の2次元形状を包囲する。
【0079】
本発明の一発展形態では、一方の面状のガラス部材は熱強化処理されている。本発明の本発展形態では、この強化処理される面状のガラス部材は、熱強化処理によって、広がりが僅かに拡大した状態に留まることができる。これによって、本発明の本発展形態では、一方の面状のガラス部材を他方の面状のガラス部材とぴったり接合することが、理論的にだけでなく実用的にも可能となり得る。というのも、強化処理によって一方の面状のガラス部材の僅かな拡大が生じることにより、摩擦および引っ掛かりの問題が回避されるからである。ぴったり接合できる2つの面状のガラス部材の上述のセットは、液体密になるほどの高精度で嵌合することができる。これは、たとえば液体密のガラス製蓋部を製造するために使用することができる。
【0080】
また、一方または双方の面状のガラス部材の、線条状の傷を有するエッジ面を研磨することも可能である。このことによっても、接合を実用上可能にすることができる。
【0081】
さらに、2つの面状のガラス部材の本発明のセットの一方の面状のガラス部材をセラミック化することもできる。
【0082】
複数のレーザ加工工程をそれぞれ異なる焦点深度で使用する、本発明の方法の上述の発展形態により、面状すなわちプレート状または板状のガラス部材の形態で、本発明に係る物を製造することができる。
【0083】
本発明の面状のガラス部材が特徴とする点は、エッジ面において並んで延在する複数の線条状の傷が設けられており、これらの線条状の傷はエッジ面の窪部を成し、線条状の傷の長手方向は、当該面状のガラス部材の各面とエッジ面との間の移行部となる一方のエッジから他方のエッジへ向かう方向に延在し、エッジ面は、当該エッジ面全体に沿って延在する少なくとも1つのオフセットを有し、当該少なくとも1つのオフセットは、線条状の傷の長手方向に対して実質的に垂直に延在し、オフセットは、少なくとも2μmかつ最大30μmの段部を成すことである。
【0084】
本発明のもう1つの実施形態の、面状のガラス部材から部分片を除去する本発明の方法は、ガラス部材を、除去すべき部分片と残留すべき主部とに分ける分割線を定め、ガラス部材の体積に線条状の傷を分割線に沿って並べて形成し、かつ、当該傷を超短パルスレーザのレーザパルスによって形成し、ガラス部材の材料はレーザパルスに対して透過性であり、レーザパルスはガラス部材の体積においてプラズマを生成し、プラズマは上述の線条状の傷を形成し、ガラス部材上におけるレーザパルスの入射点を当該ガラス部材の表面上において分割線に沿って移動させ、当該分割線に沿って並んで配置された線条状の傷を入れた後にガラス部材を強化処理して、ガラス部材の強化処理後、部分片の領域において亀裂形成をトリガし、亀裂形成の伝播は、分割線に沿って整列して並んだ線条状の傷によって制限されて、主部を完全体として維持しながら、部分片を分割線に沿って、並んだ線条状の傷において主部から除去することができるようにすることに基づいている。
【0085】
面状のガラス部材から部分片を除去する方法では、基材全体すなわちガラス部材全体を強化処理する。この強化処理を行える手法は種々存在し、たとえば熱強化処理または化学強化処理が可能である。強化処理後、部分片において自己割断がトリガされ、上述の線条形成は、結果として生じる亀裂の伝播限界として作用する。これによって、たとえば熱強化処理された単板安全ガラスによって公知であるように、部分片のみがガラス小片に破砕する。有利には、面状のガラス部材の平面における部分片の形状は、単純に一続きである。必須ではないが、この2次元の形状が星形または凸形であると有利となり得る。
【0086】
以下、添付図面を参照して、本発明を詳細に説明する。図面中、同一の符号は同一または対応する要素を示している。