(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768786
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】最適な癌療法のためのFR−αおよびGARTタンパク質の定量
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20201005BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20201005BHJP
C07K 14/82 20060101ALI20201005BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20201005BHJP
A61K 33/24 20190101ALN20201005BHJP
A61K 31/519 20060101ALN20201005BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20201005BHJP
A61P 11/00 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
G01N33/68ZNA
G01N27/62 V
C07K14/82
!A61P35/00
!A61K33/24
!A61K31/519
!A61P43/00 121
!A61P11/00
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-504740(P2018-504740)
(86)(22)【出願日】2016年8月1日
(65)【公表番号】特表2018-532978(P2018-532978A)
(43)【公表日】2018年11月8日
(86)【国際出願番号】US2016045072
(87)【国際公開番号】WO2017020048
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年3月30日
(31)【優先権主張番号】62/199,202
(32)【優先日】2015年7月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505343745
【氏名又は名称】エクスプレッション、パソロジー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】EXPRESSION PATHOLOGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】トッド、ヘンブロー
(72)【発明者】
【氏名】ファビオラ、チェッキ
(72)【発明者】
【氏名】ウンギョン、アン
(72)【発明者】
【氏名】マニッシュ、モンガ
【審査官】
三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/002922(WO,A1)
【文献】
特開2014−236745(JP,A)
【文献】
特表2014−513068(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0111436(US,A1)
【文献】
CHRISTOPH, D.C. et al.,Significance of Folate Receptor Alpha and Thymidylate Synthase Protein Expression in Patients with Non-Small-Cell Lung Cancer Treated with Pemetrexed,Journal of Thoracic Oncology,2013年 1月,Vol. 8, No. 1,pp. 19-30
【文献】
GIOVANNETTI, E. et al.,Cellular and Pharmacogenetics Foundation of Synergistic Interaction of Pemetrexed and Gemcitabine in Human Non-Small-Cell Lung Cancer Cells,Molecular Pharmacology,2005年,Vol. 68,pp. 110-118
【文献】
HANAUSKE, A.-R. et al.,In Vitro Chemosensitivity of Freshly Explanted Tumor Cells to Pemetrexed Is Correlated with Target Gene Expression,Investigational New Drugs,2007年,Vol. 25,pp. 417-423
【文献】
CHRISTOPH, D.C. et al.,Assessment of Folate Receptor-α and Epidermal Growth Factor Receptor Expression in Pemetrexed-Treated Non-Small-Cell Lung Cancer Patients,Clinical Lung Cancer,2014年 9月,Vol. 15, No. 5,pp. 320-330
【文献】
DURUISSEAUX, M. et al.,The Role of Pemetrexed in Lung Adenocarcinoma, Mixed Subtype with Bronchioloalveolar Carcinoma Features,Current Drug Targets,2010年,Vol. 11,pp. 74-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺癌に罹患している患者の治療を選択するための指標を提供する方法であって、
(a)その患者から得られた腫瘍サンプルから調製されたタンパク質消化物中の配列番号1で示される指定のFR−αフラグメントペプチドのレベルおよび配列番号2で示される指定のGARTフラグメントペプチドのレベルを定量し、質量分析を用いた選択反応モニタリングにより前記サンプル中のFR−αペプチドおよびGARTペプチドの両方のレベルを計算する工程;
(b)前記FR−αフラグメントペプチドのレベルをFR−α参照レベルと比較し、前記GARTフラグメントペプチドのレベルをGART参照レベルと比較する工程;
(c)そのGARTフラグメントペプチドのレベルが前記参照レベルより低く、かつ、そのFR−αフラグメントペプチドのレベルが検出される場合に、有効量のペメトレキセドを含んでなる治療計画を選択するための指標を提供する工程;および
(d)そのGARTフラグメントペプチドのレベルが前記参照レベルを上回り、かつ、そのFR−αフラグメントペプチドが検出されない場合に、有効量のペメトレキセドを含まない治療計画を選択するための指標を提供する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
GARTフラグメントペプチドの前記参照レベルが、分析された生体サンプルタンパク質900amol/μg、+/−250amol/μg、+/−150amol/μg、+/−100amol/μg、+/−50amol/μg、または+/−25amol/μgであり、かつ、前記FR−αフラグメントペプチドが、検出の下限を上回って検出されるかまたは検出されない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量のペメトレキセドを含んでなる前記治療計画が、有効量のシスプラチンをさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質消化物がプロテアーゼ消化物を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質消化物がトリプシン消化物を含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析が、タンデム型質量分析、イオントラップ型質量分析、トリプル四重極型質量分析、MALDI−TOF型質量分析、MALDI型質量分析、イオントラップ/四重極ハイブリッド型質量分析および/または飛行時間型質量分析を含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
使用される質量分析の様式が、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、並列反応モニタリング(PRM)、知的選択反応モニタリング(iSRM)、および/または多重選択反応モニタリング(mSRM)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍サンプルが、細胞、細胞集合体、または固形組織である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記腫瘍サンプルがホルマリン固定固形組織であり、かつ、前記組織はパラフィン包埋組織である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体サンプルの前記タンパク質消化物が、Liquid Tissueプロトコールによって調製される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記指定のFR−αフラグメントペプチドを定量することが、既知量のスパイクされた内部標準ペプチドと比較することによって前記サンプル中のそのFR−αペプチドの量を決定することを含んでなり、その生体サンプル中の天然ペプチドおよびその内部標準ペプチドの両方は、配列番号1に示されるFR−αフラグメントペプチドの同じアミノ酸配列に対応する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記指定のGARTフラグメントペプチドを定量することが、既知量のスパイクされた内部標準ペプチドと比較することによって前記サンプル中のそのGARTペプチドの量を決定することを含んでなり、その生体サンプル中の天然ペプチドおよびその内部標準ペプチドの両方は、配列番号2に示されるGARTフラグメントペプチドの同じアミノ酸配列に対応する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記内部標準ペプチドが同位体標識ペプチドであり、かつ、前記ペプチドは、18O、17O、15N、13C、および2H、またはそれらの組合せから選択される少なくとも1つの安定重同位体を含んでなる、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、「最適な癌療法のためのFR−αおよびGARTタンパク質の定量」と題する、2015年7月30日に出願された米国仮特許出願第62/199,202号の利益を主張するものであり、その内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
序文
癌患者を治療するための新規の改善された方法が提供される。この方法は、患者からの腫瘍組織中の特定のタンパク質のレベルを測定し、次いで、それらのレベルに基づいて、最適化された投薬計画で患者を治療する。より具体的には、この方法は、治療する医師が、抗癌薬であるペメトレキセド、および/またはGARTタンパク質を攻撃することによって同様に腫瘍細胞を死滅させる働きをする、ロメトレキソール、AG2034、LY309887およびペリトレキソールなどの葉酸代謝拮抗薬クラスの他の抗癌薬を含む治療計画での治療に患者が奏効するかまたは奏効する可能性が高いかどうかを確認することを可能にする。
【背景技術】
【0003】
ペメトレキセドは、葉酸受容体−α(FR−α)、葉酸受容体−β(FR−β)、プロトン共役型葉酸輸送体(PCFT)、および葉酸輸送体1(RFC)を介して腫瘍細胞に侵入する葉酸代謝拮抗薬クラスのメンバーである。いったん腫瘍細胞内へ入ると、これらの薬物の生化学的作用様式は、グリシンアミドリボヌクレオチドシンセターゼ(GART)タンパク質の機能と、チミジル酸シンターゼ(TS)およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を含む他の細胞タンパク質の機能とを阻害することである。この阻害によって、腫瘍細胞は核酸を合成することができなくなり、これにより細胞分裂が妨げられ、最終的に腫瘍細胞は死滅する。腫瘍細胞におけるFR−αの存在は、腫瘍細胞へのペメトレキセド(および類似の薬物)の能動的取り込みを媒介するが、腫瘍細胞の増殖および分裂のためのGARTタンパク質(およびTSおよびDHFRなどの他のタンパク質)への依存は、ペメトレキセドの生化学的機能によって中断される。
【0004】
腫瘍組織におけるFR−αおよびGARTタンパク質の発現の存在および/または定量的レベルは、全長257アミノ酸のFR−αタンパク質(葉酸受容体α、成人葉酸結合タンパク質、FBP、葉酸受容体、葉酸受容体−成人、および卵巣腫瘍関連抗原MOv18とも呼ばれる)の部分配列および全長433アミノ酸のGARTタンパク質(三官能性プリン生合成タンパク質アデノシン−3、GARトランスホルミラーゼ、5’−ホスホリボシルグリシンアミドトランスホルミラーゼ、ホスホリボシルグリシンアミドホルミルトランスフェラーゼ、PGFT、PRGS、グリシンアミドリボヌクレオチドシンセターゼ、GARS、GARFT、AIRシンセターゼ、およびAIRSとも呼ばれる)の部分配列に由来する指定のペプチドを定量することにより決定される。FR−αタンパク質の発現が検出され、かつ、GARTタンパク質の特定のレベルが指定の定量的レベルを下回る場合、その患者は、ペメトレキセド治療薬と、ペメトレキセドと同様に機能する他の薬物とを含む治療方式で処置される。あるいは、FR−αレベルが検出レベルを下回り、かつ、GARTタンパク質のレベルが指定の定量的レベルを上回ることが判明した場合、その患者は、ペメトレキセド治療薬も、ロメトレキソール、AG2034、LY309887およびペリトレキソールなどの同様に機能する他の薬物も含まない治療方式で処置される。
【0005】
指定のFR−αおよびGARTペプチドは、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring)(MRM)とも呼ばれる質量分析に基づく選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring)(SRM)を用いて検出され、これは本明細書ではSRM/MRMアッセイと呼ばれる。SRM/MRMアッセイを使用して、例えば、ホルマリン固定癌組織などの癌患者組織から手に入れた細胞において直接、指定のFR−αおよびGARTフラグメントペプチドの存在を検出し、その量を定量的に測定する。次いで、特定のペプチドの量を使用して、腫瘍サンプル中の無傷のFR−αおよびGARTタンパク質の量を定量する。その後、それらの癌細胞中に存在するFR−αおよびGARTタンパク質の量に基づいて、個々の癌患者の疾患を治療するために、特定の最適化された治療薬および治療戦略が決定され、実施される。
【発明の概要】
【0006】
肺癌に罹患している患者を治療する方法であって、その患者から得られた腫瘍サンプルから調製されたタンパク質消化物中の指定のFR−αフラグメントペプチドのレベルおよび指定のGARTフラグメントペプチドのレベルを定量し、質量分析を用いた選択反応モニタリングにより前記サンプル中のFR−αペプチドおよびGARTペプチドの両方のレベルを計算する工程と;そのFR−αフラグメントペプチドのレベルをFR−α参照レベルと比較し、そのGARTフラグメントペプチドのレベルをGART参照レベルと比較する工程と、その後、そのGARTフラグメントペプチドのレベルがその参照レベルより低く、かつ、そのFR−αフラグメントペプチドのレベルが検出される場合に、有効量のペメトレキセドを含む治療計画でその患者を治療する工程、または、そのGARTフラグメントペプチドのレベルがその参照レベルを上回り、かつ、そのFR−αフラグメントペプチドが検出されない場合に、有効量のペメトレキセドを含まない治療計画でその患者を治療する工程とを含む方法が提供される。その治療計画がペメトレキセドを含む場合には、有効量のシスプラチンを場合により含み得る。
【0007】
これらの方法において、そのGARTフラグメントペプチドの参照レベルは、分析された生体サンプルタンパク質900amol/μg、+/−250amol/μg、+/−150amol/μg、+/−100amol/μg、+/−50amol/μg、または+/−25amol/μgであり得、その時、そのFR−αフラグメントペプチドは、検出の下限を上回って検出されるかまたは検出されない。
【0008】
そのタンパク質消化物は、プロテアーゼ消化物、例えば、トリプシン消化物であり得る。その質量分析は、例えば、タンデム型質量分析、イオントラップ型質量分析、トリプル四重極型質量分析、MALDI−TOF型質量分析、MALDI型質量分析、イオントラップ/四重極ハイブリッド型質量分析および/または飛行時間型質量分析などの方法であり得る。使用される質量分析の様式は、例えば、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、並列反応モニタリング(Parallel Reaction Monitoring)(PRM)、知的選択反応モニタリング(intelligent Selected Reaction Monitoring)(iSRM)、および/または多重選択反応モニタリング(multiple Selected Reaction Monitoring)(mSRM)であり得る。
【0009】
指定のFR−αペプチドは、配列番号1として示されるアミノ酸配列を有し得、かつ/または指定のGARTペプチドは、配列番号2として示されるアミノ酸配列を有し得る。
【0010】
その腫瘍サンプルは、細胞、細胞集合体または、有利には、固形組織、例えば、ホルマリン固定固形組織などであり得、場合によりパラフィン包埋ホルマリン固定組織であり得る。その生体サンプルのタンパク質消化物は、例えば、米国特許第7,473,532号に記載されているLiquid Tissueプロトコールによって調製され得る。
【0011】
上記の方法において、指定のFR−αフラグメントペプチドを定量することは、例えば、既知量のスパイクされた内部標準ペプチドと比較することによって行うことができ、その場合、その生体サンプル中の天然ペプチドおよびその内部標準ペプチドの両方は、配列番号1に示されるFR−αフラグメントペプチドの同じアミノ酸配列に対応する。指定のGARTフラグメントペプチドを定量することは、既知量のスパイクされた内部標準ペプチドと比較することによって行うことができ、その場合、その生体サンプル中の天然ペプチドおよびその内部標準ペプチドの両方は、配列番号2に示されるGARTフラグメントペプチドの同じアミノ酸配列に対応する。これらの方法において、その内部標準ペプチドは、同位体標識ペプチドであり得、かつ、
18O、
17O、
15N、
13C、および
2H、またはそれらの組合せから選択される少なくとも1つの安定重同位体を含んでなり得る。場合により、指定のFR−αフラグメントペプチドおよび/またはGARTフラグメントペプチドを検出および定量することは、どの薬剤が治療に使用されるかについての処置決定が、生体サンプル中の他のペプチド/タンパク質と組み合わせて指定のFR−αフラグメントペプチドおよびGARTペプチドそれぞれの特定のレベルに基づくように、他のタンパク質からの他のペプチドを多反復で検出および定量することと組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、腫瘍細胞が発現するGARTタンパク質のレベルが分析されたタンパク質900amol/ugより低い患者の全生存曲線を示す。これらの患者は、ペメトレキセドおよびシスプラチンの治療組合せで処置した場合に、腫瘍細胞が分析されたタンパク質900amol/ugを超えて発現する患者よりも、全生存が長くなる可能性がはるかに高い。
【
図2】
図2は、腫瘍細胞が検出可能なレベルのFR−αタンパク質を発現する患者の全生存曲線を示す。そのような患者は、ペメトレキセドおよびシスプラチンの治療組合せで処置した場合に、腫瘍細胞が検出可能なレベルのFR−αを発現しない患者よりも、全生存が長くなる可能性がほんのわずかに高い。
【
図3】
図3は、腫瘍細胞が検出可能なレベルのFR−αタンパク質を発現し、さらに、腫瘍細胞が分析されたタンパク質900amol/ugより低く発現する患者は、ペメトレキセドおよびシスプラチンの治療組合せで処置した場合に、腫瘍細胞が検出可能なレベルのFR−αを発現せず、さらに、分析されたタンパク質900amol/ugより高く発現する患者よりも、全生存が長くなる可能性がはるかに高いことを示す。
【
図4】
図4は、腫瘍細胞が検出可能なレベルのMRP1タンパク質を発現する患者は、ペメトレキセドおよびシスプラチンの組合せで処置した場合に、生存が長くなる可能性は、腫瘍細胞が検出可能なレベルのMRP1タンパク質を発現しない患者以下であることを示す。
【
図5】
図5は、腫瘍細胞が発現するNQO1タンパク質レベルが分析されたタンパク質2400amol/ugより低い患者は、ペメトレキセドおよびシスプラチンの組合せで処置した場合に、腫瘍細胞がNQO1タンパク質レベルを2400amol/ugを超えて発現する患者よりも、生存が長くなる可能性がほんのわずかに高いことを示す。
【
図6】
図6は、腫瘍細胞が発現するXRCC1タンパク質レベルが分析されたタンパク質521amol/ugより低い患者は、ペメトレキセドおよびシスプラチンの組合せで処置した場合に、腫瘍細胞がXRCC1タンパク質レベルを521amol/ugを超えて発現する患者よりも、生存が長くなる可能性がほんのわずかに高いことを示す。
【0013】
癌患者が癌治療剤であるペメトレキセドに好都合に臨床的に奏効するかどうかを決定することにより癌患者の治療戦略を確認し、最適化するための方法が提供される。ペメトレキセドはアリムタ(Alimta)(登録商標)とも呼ばれる。具体的に言えば、患者由来の腫瘍サンプルまたはサンプル群中のFR−αおよびGARTタンパク質の組合せを測定するための診断方法が提供される。腫瘍サンプルは、有利には、ホルマリン固定組織サンプルである。
【0014】
特定のFR−αおよびGARTペプチドフラグメントの組合せ、ならびにそれらのペプチドに関する特定の特性を同時に測定するSRM/MRMアッセイを用いて、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織から誘導された細胞中のFR−αおよびGARTタンパク質の量を決定する。ペプチドフラグメントは全長FR−αおよびGARTタンパク質に由来する;有利には、FR−αに使用される特定のペプチド配列は、DVSYLYR(配列番号1)であり、GARTタンパク質の検出および定量に使用されるペプチド配列はVLAVTAIR(配列番号2)である。FFPE組織の消化物中のFR−αおよびGARTタンパク質からの特定のペプチドの検出および正確な定量は、タンパク質のホルマリン固定中に起こるランダムなタンパク質架橋により、非常に予測不可能である。しかしながら、驚くべきことに、これらの特定のFR−αおよびGARTペプチドは、腫瘍組織のFFPEサンプルから調製された消化物において同時に、確実に検出および定量され得ることが見出されている。米国特許出願第13/993,045号参照。その内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部とされる。
【0015】
より具体的には、このSRM/MRMアッセイは、ホルマリン固定癌患者組織などの患者組織サンプルから手に入れた細胞から調製された複雑なタンパク質溶解物サンプルにおいて、これらのペプチドを直接測定することができる。ホルマリン固定組織からタンパク質サンプルを調製する方法は、米国特許第7,473,532号に記載されており、その内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部とされる。米国特許第7,473,532号に記載されている方法は、便宜には、Expression Pathology Inc.から入手可能なLiquid Tissue試薬およびプロトコール(ロックビル、Md.)を用いて行い得る。
【0016】
癌患者からの、最も広くかつ有利に利用可能な形態の組織、および癌組織は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織である。外科的に除去された組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、世界中で癌組織サンプルを保存する最も一般的な方法であり、標準的な病理学の行為において認められている慣行である。ホルムアルデヒドの水溶液は、ホルマリンと呼ばれる。「100%」ホルマリンは、ホルムアルデヒドの飽和水溶液(約40容量%または37質量%)からなる。酸化および重合度を制限するために、少量の安定剤、通常はメタノールを添加する。組織を保存する最も一般的な方法は、全組織を、一般に10%中性緩衝ホルマリンと呼ばれる水性ホルムアルデヒドに長時間(8時間〜48時間)浸漬し、続いて、室温での長期貯蔵のために固定された全組織のパラフィンワックス包理を行うことである。
【0017】
SRM/MRMアッセイからの結果は、肺癌組織を含む、組織を採取し保存した患者の特定の癌内のFR−αおよびGARTタンパク質の両方の正確で寸分の誤りもない定量的レベルを相関させるために使用され得る。これは癌に関する診断情報を提供するだけでなく、医師または他の医療専門家が患者に適切な療法を決定することを可能にする。この場合、このアッセイを利用することにより、患者の癌組織におけるFR−αおよびGARTタンパク質発現の両方の特定のレベルに関する情報を提供することができ、患者が、抗癌治療薬であるペメトレキセドによる、および潜在的には、GART、TS、および/またはDHFRタンパク質の機能を特異的に阻害するように設計された、葉酸代謝拮抗薬クラスの他の類似の薬物による療法に好ましく奏効するかどうかを決定することが可能になる。
【0018】
ペメトレキセドにより癌患者を治療することは、癌が増殖するのを防ぎ、それによって、癌患者、特に、肺癌患者の生存を延ばすための最も一般的かつ効果的な戦略の1つである。FR−αタンパク質は、肺癌細胞を含む多くのタイプの腫瘍細胞に異常に存在する受容体タンパク質である。通常、FR−αタンパク質は、葉酸および還元型葉酸誘導体を細胞に導入し、健康な正常細胞の成長、分裂および修復の制御を助ける。しかしながら、肺癌を含むいくつかの癌では、癌細胞はFR−αタンパク質を異常に発現し、癌細胞は制御されない方法で増殖および分裂する。従って、ペメトレキセドはFR−αタンパク質を介して癌細胞に侵入するため、臨床医がFR−αタンパク質が患者の癌細胞に存在するかどうかを知ることは非常に有用である。GARTタンパク質は、プリン代謝に関与し、それに従って、細胞の核酸合成機能の不可欠な部分である多機能トランスフェラーゼ/リガーゼタンパク質であり、それなしで細胞は核酸を合成し、増殖/分裂することはできない。従って、ペメトレキセドでGARTタンパク質の機能を阻害することにより、腫瘍細胞の核酸合成が妨げられ、腫瘍細胞死が引き起こされる。従って、ペメトレキセドが腫瘍細胞に対して毒性効果を有するかどうかを決定するために、臨床医が患者の腫瘍細胞におけるGARTタンパク質のレベルを知ることは有用である。
【0019】
癌患者組織、特に、FFPE組織におけるタンパク質の存在を決定するために現在適用されている最も広く使用されている方法は、免疫組織化学(IHC)である。IHC方法論では対象となるタンパク質を検出するために抗体を使用する。IHC検査の結果は、病理学者または病理検査技師によって解釈されることが最も多い。この解釈は主観的であり、特定の癌タンパク質標的を標的とする治療薬に対する感受性を予測する定量的データを提供しない。従って、IHC検査は、FR−αおよびGART陽性腫瘍細胞集団がペメトレキセドでの治療に対して感受性であるかどうかを決定することができない。
【0020】
Her2 IHC検査など、他のIHCアッセイを含む研究は、そのような検査から得られた結果が間違っているかまたは誤解を招く可能性があることを示唆している。これは、異なる検査室がIHC陽性および陰性状態の分類に異なる規則を使用する可能性が高いためである。また、検査を行っている各病理学者が、異なる基準を用いて、結果が陽性または陰性であるかを判定する可能性もある。ほとんどの場合、これは、検査結果がどちらとも決めにくい、すなわち、結果が強陽性でも強陰性でもない場合に起こる。他の場合では、癌組織の1つの領域からの組織は検査結果が陽性であり得るし、一方、その癌の異なる領域からの組織は検査結果が陰性であり得る。
【0021】
不正確なIHC検査結果は、癌と診断された患者が最良のケアを受けられないことを意味し得る。癌の全部または一部は特定の標的癌タンパク質に対して陽性であるが、検査結果によりそれが陰性と分類される場合、患者は癌タンパク質を標的とする薬剤から潜在的に利益を得ることができるにもかかわらず、医師は正しい治療的処置を実施する可能性が低い。癌は癌タンパク質標的陰性であるが、検査結果によりそれが陽性と分類される場合、患者は恩恵を受ける可能性が低いだけでなく、薬剤の二次的リスクにさらされるにもかかわらず、医師は特定の治療的処置を用いる可能性がある。
【0022】
従って、腫瘍、特に、肺腫瘍におけるFR−αおよびGARTタンパク質の定量的レベルを正確に評価する能力において大きな臨床的価値があり、そのため、患者は不要な毒性および他の副作用を軽減しながらうまくいく治療計画を受ける最大の機会を有する。
【0023】
ペプチドの検出および指定のFR−αおよびGARTフラグメントペプチドの定量的レベルの決定は、SRM/MRM方法論によって質量分析計で決定され、この場合、各ペプチドのSRM/MRMシグネチャークロマトグラフィーピーク面積は、Liquid Tissue溶解物中に存在する複雑なペプチド混合物内で決定される(米国特許第7,473,532号を参照、上記のとおり)。次いで、FR−αおよびGARTタンパク質の定量的レベルを、1つの生体サンプル中のFR−αおよびGARTタンパク質のそれぞれからの個別指定ペプチドのSRM/MRMシグネチャークロマトグラフィーピーク面積を、個別指定FR−αおよびGARTフラグメントペプチドのそれぞれについて既知量の「スパイクされた」内部標準のSRM/MRMシグネチャークロマトグラフィーピーク面積と比較するSRM/MRM方法論によって決定する。
【0024】
1つの実施態様では、内部標準は、合成ペプチドが、
2H、
18O、
17O、
15N、
13C、またはそれらの組合せなどの1つ以上の重同位体で標識された1つ以上のアミノ酸残基を含む同じ正確なFR−αおよびGARTフラグメントペプチドの合成型である。そのような同位体標識された内部標準は、質量分析により、天然のFR−αおよびGARTフラグメントペプチドクロマトグラフィーシグネチャーピークとは異なり区別され、かつ、比較ピークとして使用され得る予測可能で一貫性のあるSRM/MRMシグネチャークロマトグラフィーピークが生成されるように合成される。従って、内部標準が既知量で生体サンプルからのタンパク質またはペプチド調製物に「スパイク」され、質量分析によって分析される場合、天然ペプチドのSRM/MRMシグネチャークロマトグラフィーピーク面積を内部標準ペプチドのSRM/MRMシグネチャークロマトグラフィーピーク面積と比較し、この数値比較は、生体サンプルからの元のタンパク質調製物中に存在する天然ペプチドの絶対モル濃度および/または絶対重量のいずれかを示す。フラグメントペプチドの定量的データは1サンプル当たりに分析されたタンパク質の量に従って表示される。
【0025】
FR−αおよびGARTフラグメントペプチドのSRM/MRMアッセイを開発するためには、単にペプチド配列以外の追加の情報を質量分析計で利用する必要がある。その追加の情報は、指定のFR−αおよびGARTフラグメントペプチドの正確かつ集中的な分析を実施するように質量分析計(例えば、トリプル四重極型質量分析計)に命令および指示するために使用される。SRM/MRMアッセイは、トリプル四重極型質量分析計で効果的に実施し得る。そのタイプの質量分析計は、細胞内に含まれる総てのタンパク質からの数十万から数百万個の個別ペプチドからなり得る非常に複雑なタンパク質溶解物内の単一の単離された標的ペプチドを分析するための最も好適な機器の1つであると考えられ得る。追加の情報は、トリプル四重極型質量分析計などの質量分析計に、非常に複雑なタンパク質溶解物内の単一の単離された標的ペプチドの分析を可能にする正しい命令を提供する。また、SRM/MRMアッセイは、MALDI、イオントラップ、イオントラップ/四重極ハイブリッド、またはトリプル四重極型の機器を含む他のタイプの質量分析計でも開発および実施することはできるが、現在SRM/MRMアッセイに最も有利な機器プラットフォームは、トリプル四重極型機器のプラットフォームであると考えられることが多い。一般的な標的ペプチドについて、特に、指定のFR−α(配列番号1)およびGART(配列番号2)フラグメントペプチドについての追加の情報は、各ペプチドのモノ同位体質量、その前駆体電荷状態、前駆体m/z値、m/z遷移イオン、および各遷移イオンのイオンタイプの1つ以上を含み得る。指定のFR−αおよびGARTフラグメントペプチドのペプチド配列ならびにこれらの指定のFR−αおよびGARTフラグメントペプチドについて記載した必要な追加の情報を表1に示す。
【0027】
FR−αおよびGART定量化のための適当な参照レベルを決定するために、腫瘍サンプルを、癌、この場合肺癌に罹患している患者コホートから得た。肺腫瘍サンプルを標準的な方法を用いてホルマリン固定し、サンプル中のFR−αおよびGARTのレベルを上記の方法を用いて測定した。組織サンプルはまた、当技術分野で周知の方法を用いるIHCおよびFISHを用いて検査し得る。コホートの患者をペメトレキセド治療薬で処置し、当技術分野で周知の方法を用いて、例えば、治療後の時間間隔で患者の全生存を記録することによって、患者の奏効を測定した。好適な参照レベルは、当技術分野で周知の統計的方法を用いて、例えば、ログランク検定の最小p値を決定することによって決定した。参照レベルを決定したら、それを使用して、FR−αおよびGART発現レベルによってペメトレキセド治療計画から恩恵を受ける可能性があることが示される患者を同定した。
【0028】
当業者であれば、ペメトレキセドをまた、追加の薬物または薬物組合せ、例えば、薬物シスプラチンとの組合せなどを含む治療計画の一部として使用し得ることを認識するであろう。肺癌を治療するための治療計画は当技術分野で公知であり、非常に一般的で広く使用される薬物組合せは、ペメトレキセドと組み合わせたシスプラチンである。患者腫瘍サンプル中のFR−αおよびGARTタンパク質のレベルは、典型的には、amol/μgで表されるが、他の単位を使用することもできる。当業者であれば、参照レベルを、中心値を中心とする範囲、例えば、+/−250、150、100、50または25amol/μgとして表すことができることを認識するであろう。以下に詳細に説明する特定の実施例では、GARTタンパク質についての好適な参照レベルは900amol/μgであることが判明し、一方、FR−αタンパク質についての好適な参照レベルは検出の下限である400amol/μgであることが判明した。しかしながら、当業者は、臨床結果および経験に基づいて、これらの参照レベルよりも高いまたは低いレベルを選択することができることを認識するであろう。
【0029】
同じLiquid Tissue生体分子調製物から核酸およびタンパク質の両方を分析することができるため、タンパク質を分析した同じサンプル中の核酸から疾患診断および薬物治療決定に関する追加の情報を生成することが可能である。例えば、FR−αおよびGARTタンパク質がある特定の細胞によって増加したレベルで発現されるならば、SRMによってアッセイした場合、データは、細胞の状態およびそれらの制御されない増殖の可能性、最適療法の選択、および潜在的な薬剤耐性に関する情報を提供することができる。同時に、遺伝子ならびに/またはそれらがコードする核酸およびタンパク質の状態(例えば、mRNA分子およびそれらの発現レベルまたはスプライス変異)に関する情報を同じLiquid Tissue(商標)生体分子調製物中に存在する核酸から得ることができる。核酸は、FR−αおよびGARTタンパク質を含むタンパク質のSRM分析と同時に評価することができる。1つの実施態様では、FR−αおよびGARTタンパク質ならびに/または1、2、3、4もしくはそれ以上の追加のタンパク質に関する情報は、それらのタンパク質をコードする核酸を調べることによって評価し得る。それらの核酸は、例えば、以下の1つ以上の、2つ以上、または3つ以上によって調べることができる:配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応法、制限断片多型解析、欠失の同定、挿入、および/または限定されるものではないが、単一塩基対多型、転移、トランスバージョン、またはそれらの組合せを含む突然変異の存在の決定。
【実施例】
【0030】
実施例:肺癌患者集団におけるペメトレキセド感受性についてのFR−αおよびGARTタンパク質発現レベルの予測値の決定
患者
37名の患者は、非小細胞肺癌(NSCLC)を有すると確認された。治療前に、腫瘍を外科的に除去し、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織として保存し、総てを組織学的に腺癌として確認した。続いて、37名の患者総てをシスプラチンおよびペメトレキセドの標準的な併用化学療法計画で処置した。
【0031】
方法
FFPE腫瘍組織の腫瘍細胞を手に入れ、組織顕微解剖によって腫瘍組織から単離し、上記のLiquid Tissue試薬を用いた下流の質量分析のために可溶化した。選択反応モニタリング質量分析(SRM−MS)を用いてタンパク質レベルを定量した。FR−αおよびGARTタンパク質を含む様々なタンパク質のレベルに関連するこの研究における患者の全生存曲線を作成した。
【0032】
結果
初期診断およびペメトレキセドを用いた治療計画の開始後の生存延長から明らかなように、治療薬ペメトレキセドによって特異的に標的とされるタンパク質を含む複数のタンパク質にわたる定量的SRM/MRMデータは、GARTおよびFR−αタンパク質の組合せレベルと、ペメトレキセドを用いた癌患者の治療による良好な治療結果との強く有意な相関を示す。GARTタンパク質単独では、ペメトレキセドおよびシスプラチンを用いた治療に対する全生存の増加との相関(p=0.007)を示した。FR−αタンパク質単独では、ペメトレキセドおよびシスプラチンを用いた治療に対する全生存の増加との相関(p=0.089)を示さなかった(
図1および
図2)。しかしながら、GARTおよびFR−αタンパク質の両方の組合せは、ペメトレキセドおよびシスプラチンを用いた治療からのこの癌患者集団における全生存の増加と非常に有意な相関(p=0.0005)を示した(
図3)。他のタンパク質の定量的レベルは、全生存曲線に示される生存の増加の欠如から明らかなように、ペメトレキセドおよびシスプラチンを用いた治療に対する良好な治療結果と相関しなかった(
図4〜6)。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]