【文献】
山村寛、外2名,起源を異にする溶存有機物による不可逆的膜ファウリング,環境工学研究論文集,2004年,第41巻,第257頁−第267頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記FEEM作成工程は、励起波長Ex(Y軸)、蛍光波長Em(X軸)、蛍光強度(Z軸)で表される三次元スペクトルを蛍光強度に従って等高線図を作成したものであることを特徴とする請求項1に記載の分離膜の汚染状態分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。
【0024】
(第1実施の形態)
本発明の第1実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法及び分離膜の汚染状態分析方法を行うための膜ろ過システムを、
図1〜
図6を参照して説明する。
図1は本実施の形態に係る膜ろ過システム10を示す模式図、
図2はホルダの分離膜への取付け部位の拡大図、
図3は蛍光分光法及び近赤外分光法による分離膜の汚染状態分析方法のフローチャート、
図4は三次元励起蛍光マトリクススペクトル(FEEM)を説明する図、
図5は総ろ過水量に対する蛍光強度(積分値)の変化を示す図、及び
図6は蛍光強度(算出された積分値)とFP値の相関関係から作成した検量線を示す図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係るろ過システム10は、ろ過対象水1が流入する浸漬槽12及び浸漬槽12に浸漬される分離膜14を有する。分離膜14の下流には、この分離膜14によってろ過されたろ液2を下流に送液する送液ポンプ16が設けられており、送液ポンプ16を作動させることで浸漬槽12内のろ過対象水1が分離膜14によりろ過される。したがって、ろ過対象水1の流路3は、
図1に示す破線矢印にて概念的に示される。
【0026】
膜ろ過の方式としては、ケーシング型と浸漬型のどちらを選択しても良いが、分離膜14への後述するホルダ22、42の取付け易さの点からは浸漬型の膜ろ過方式が好ましく、本実施の形態においては浸漬型の膜ろ過方式を採用している。
【0027】
ろ過対象水1としては、海水、河川水、雨水、井水、下水、産業排水等、どのようなものであってもよい。したがって、水処理としては、海水の淡水化処理、半導体製造業における超純水製造処理、上水道事業における浄水処理、下水処理、産業排水処理等、種々の処理を挙げることができる。
【0028】
本実施の形態においては、上水道事業における浄水処理に、ろ過対象水1として河川水を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0029】
分離膜14は、平膜、中空糸膜、管状膜等、いずれの膜を用いてもよい。分離膜の材質は、ろ過対象水1の性状に合わせて、そのろ過に使用可能な材質を適宜に選択することができる。しかしながら、後述する蛍光分光法による分析を行う場合は、検出すべき膜ファウリング物質とスペクトルが重複しない材質の分離膜を用いることが好ましい。そのような分離膜の材質としては、PVDF、PTFE、セルロース糸、PVCが挙げられる。本実施の形態においては、分離膜14の材質としてPVDFを用いている。
【0030】
また、分離膜14としては、外圧式と内圧式のものがあり、特に限定されるものではないが、後述するホルダ22、42の取付け易さという点から外圧式のものが好ましい。本実施の形態においては外圧式の中空糸膜を分離膜14として用いている。
【0031】
さらに、分離膜14の孔径についても特に限定はなく、用途に応じて逆浸透膜(RO)、ナノろ過膜(NF)、限外ろ過膜(UF)及び精密ろ過膜(MF)等から選択することができる。本実施の形態においては、上水道事業における浄水処理という処理の目的から、限外ろ過膜(UF)及び精密ろ過膜(MF)から分離膜14が選択されることが好ましい。
【0032】
さらに、膜ろ過システム10は、ろ過対象水1の流路3に設けられた分離膜14のろ過対象水1側表面14aに着脱可能に取り付けられるホルダ22を有する分光蛍光光度計20と、同じく分離膜14のろ過対象水1側表面14aに着脱可能に取り付けられるホルダ42を有する近赤外光分光光度計40と、を有する。
【0033】
ホルダ22以外に、分光蛍光光度計20は、分光蛍光光度計本体30と、ホルダ22と分光蛍光光度計本体30との間に介在して分光蛍光光度計本体30からの励起光を伝達する励起光伝達手段26(一の光伝達手段)と、同じくホルダ22と分光蛍光光度計本体30との間に介在して励起光を浴びた分離膜14が放出する蛍光を伝達する蛍光伝達手段28(他の光伝達手段)と、を有する。励起光伝達手段26及び蛍光伝達手段28は、これらを保護する保護チューブ24(
図2参照)により被覆されている。
【0034】
ホルダ22は、
図2に示すように、分離膜14への取付け状態において、励起光伝達手段26及び蛍光伝達手段28の分離膜14側端部が固定されるホルダ本体部22aと、該ホルダ本体部22aから一端が突出し、他端に分離膜14を構成する中空糸14bを挟持するための鉤部を有する2本の挟持突起22bを有する。挟持突起22bと中空糸14bの係合状態において、分離膜14と分光蛍光光度計本体30との間での光の送受信が可能となる。
【0035】
励起光伝達手段26及び蛍光伝達手段28は、それぞれ、励起光及び蛍光を伝達可能なものであればよく、例えば、光ファイバが用いられる。
【0036】
分光蛍光光度計本体30は、
図1に示すように、励起波長220nm〜600nmの励起光を順次照射可能な光照射部32と、この励起光を吸収した試料が放出する蛍光を受信し、蛍光波長220nm〜650nmに分光する受信・分光部34を有する。さらに、分光蛍光光度計本体30は、FEEM作成部36を有しており、FEEM作成部36、光照射部32及び受信・分光部34は、制御部38により制御される。
【0037】
制御部38は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータである。制御部38は、ROMに記憶させたプログラムをRAM上に展開して対応する処理をCPUに実行させる。尚、上記プログラムはROMに記憶されている場合に限らず、NVRAM(Non−Volatile Randam Access Memory)に記憶されていればよい。
【0038】
FEEM作成部36は、FEEMを作成することを目的とするプログラムである。本プログラムがRAM上に展開された場合、FEEM作成部36は、光照射部32が照射した励起波長の情報及び受信・分光部34が受信し、分光した蛍光波長の情報に基づき、FEEMを作成する。FEEMとは、
図4に示すように、上記励起波長ExをY軸、上記蛍光波長EmをX軸、蛍光の強さ(蛍光強度)をZ軸として表される三次元スペクトルを蛍光強度に従って等高線図に書き変えて作成したものである。
【0039】
次に、近赤外光分光光度計40について説明する。近赤外光分光光度計40は、ホルダ42以外に、近赤外光分光光度計本体50と、ホルダ42と近赤外光分光光度計本体50との間に介在して近赤外光分光光度計本体50からの近赤外光を伝達する近赤外光伝達手段44(一の光伝達手段)と、同じくホルダ42と近赤外光分光光度計本体50との間に介在して試料(分離膜14の中空糸14b)に吸収された光以外の光を伝達する光伝達手段46(他の光伝達手段)と、を有する。近赤外光伝達手段44及び光伝達手段46は、これらを保護する保護チューブ48(
図2参照)により被覆されている。
【0040】
ホルダ42は、
図2に示すように、分離膜14への取付け状態において、近赤外光伝達手段44及び光伝達手段46の分離膜14側端部が固定されるホルダ本体部42aと、該ホルダ本体部42aから一端が突出し、他端に分離膜14を構成する中空糸14bを挟持するための鉤部を有する2本の挟持突起42bを有する。挟持突起42bと中空糸14bの係合状態において、分離膜14と近赤外光分光光度計本体50との間での光の送受信が可能となる。
【0041】
近赤外光伝達手段44及び光伝達手段46は、それぞれ、近赤外光及びその反射光を伝達可能なものであればよく、例えば、光ファイバが用いられる。
【0042】
近赤外光分光光度計本体50は、所定波長範囲の近赤外光を照射可能な光照射部52と、この近赤外光を吸収した試料(分離膜の中空糸14b)が放出する光(すなわち、試料が吸収した光以外の光)を受信し、分光する受信・分光部54を有する。さらに、近赤外光分光光度計本体50は、吸収スペクトル作成部56を有しており、吸収スペクトル作成部56、光照射部52及び受信・分光部54は、制御部58により制御される。
【0043】
制御部58は、分光蛍光光度計30の制御部38同様、CPU、RAM、ROM等を備えたコンピュータであり、制御部58は、ROMに記憶させたプログラムをRAM上に展開して対応する処理をCPUに実行させる。尚、上記プログラムはROMに記憶されている場合に限らず、NVRAMに記憶されていればよい。
【0044】
吸収スペクトル作成部56は、近赤外光の吸収スペクトルを作成することを目的とするプログラムである。本プログラムがRAM上に展開された場合、吸収スペクトル作成部56は、受信・分光部54が受信し、分光した波長の情報に基づき、吸収スペクトルを作成する。
【0045】
本実施の形態において吸収スペクトルは、吸光度をY軸、分光した波長をX軸として表される二次元スペクトルであり、浸漬槽12においてろ過対象水1で浸漬された分離膜14のろ過後に測定した吸収スペクトルA
1と浸漬槽12においてろ過対象水1で浸漬された分離膜14のろ過前に測定した吸収スペクトルA
0の差分として表される。すなわち、この差分の吸収スペクトルは、ろ過により分離膜14に捕捉された物質に由来するスペクトルを表す。
【0046】
分光蛍光光度計20及び近赤外光分光光度計40は、常時、分離膜14の汚染状態を分析するものでもよいが、膜ろ過システム10の定期点検時に使用するようなものでもよい。
【0047】
以上の構成を有する膜ろ過システム10による水処理におけるろ過対象水1のろ過に用いた分離膜14の汚染状態分析方法について、
図3を参照して以下に説明する。
【0048】
膜ろ過システム10においては、既にホルダ22が分離膜14の中空糸14bに取り付けられ、同様にホルダ42が分離膜14の中空糸14bに取り付けられており、蛍光分光法及び近赤外分光法による分離膜14の分析が可能な状態となっている。この状態において、分離膜14の汚染状態分析方法の実施に先立ち、膜ろ過システム10の運転が実施される。すなわち、送液ポンプ16の起動により所定量のろ過対象水1(河川水)が分離膜14によってろ過される。
【0049】
次に、送液ポンプ16を停止し、浸漬槽12内のろ過対象水1を図示しない排水経路を介して排水し、分離膜14をろ過対象水1から露出させる。この状態において、以下に示すようにろ過後の分離膜14の汚染状態を分析する。なお、分離膜14をろ過対象水1から露出させることで、以下の分析の際に後述する分離膜14(中空糸14b)と各光伝達手段(励起光伝達手段26、蛍光伝達手段28、近赤外光伝達手段44及び光伝達手段46)の分離膜14側端部との間にろ過対象水1が介在し、このろ過対象水1に含まれるコロイド成分及びSS(懸濁物質又は浮遊物質)等の影響による不具合が回避される。したがって、S/N比を向上させることができる。
【0050】
[光受信工程(S101)]
まず、分光蛍光光度計本体30及び近赤外光分光光度計本体50の電源をそれぞれ投入し、両者を起動する。
【0051】
これにより、分光蛍光光度計本体30において、制御部38は光照射部32及び受信・分光部34に信号を送る。この信号により、光照射部32は励起光伝達手段26(一の光伝達手段)を介して分離膜14に励起波長220nm〜600nmの励起光を順次照射する。そして、励起光を吸収した分離膜14が放出した蛍光が蛍光伝達手段28(他の光伝達手段)を介して分光蛍光光度計本体30に伝達される。また、上記制御部38の信号により、分光蛍光光度計本体30に伝達された蛍光を受信・分光部34が受信し、蛍光波長220nm〜650nmに分光する。
【0052】
同時に、近赤外光分光光度計本体50において、制御部58は光照射部52及び受信・分光部54に信号を送る。この信号により、光照射部52は所定波長範囲の近赤外光を近赤外光伝達手段44(一の光伝達手段)を介して分離膜14に照射する。そして、分離膜14(中空糸14b)が吸収した光以外の反射光・透過光が光伝達手段46(他の光伝達手段)を介して近赤外光分光光度計本体50に伝達される。また、上記制御部58の信号により、近赤外光分光光度計本体50に伝達された反射光・透過光を受信・分光部54が受信し、任意の波長に分光する(以上、光受信工程S101)。
【0053】
[分光スペクトル作成工程(S102)]
分光スペクトル作成工程S102は、蛍光分光法においてはFEEM作成工程に対応し、近赤外分光法においては吸収スペクトル作成工程に対応する。
【0054】
蛍光分光法においては、制御部38はFEEM作成部36に信号を送る。これにより、FEEM作成部36は、光照射部32が照射した励起光の波長についての情報及び受信・分光部34が受信し、分光した蛍光波長についての情報に基づき、
図4に示すような三次元励起蛍光マトリクススペクトル(FEEM)を作成する。
【0055】
近赤外分光法においては、制御部58は吸収スペクトル作成部56に信号を送る。これにより、吸収スペクトル作成部56は、受信・分光部54が受信し、分光した波長についての情報に基づき吸収スペクトルを作成する。
【0056】
[分光スペクトル分析工程(S103)]
分光スペクトル分析工程S103は、蛍光分光法においてはFEEM分析工程に対応し、近赤外分光法においては吸収スペクトル分析工程に対応する。
【0057】
蛍光分光法においては、作成されたFEEMのうち、蛍光波長290nm〜330nm及び励起波長220nm〜240nmの範囲に区画される領域AP1、蛍光波長290nm〜320nm及び励起波長265nm〜295nmの範囲に区画される領域P1、蛍光波長320nm〜395nm及び励起波長245nm〜295nmの範囲に区画される領域P2、蛍光波長395nm〜480nm及び励起波長250nm〜295nmの範囲に区画される領域H1、及び蛍光波長395nm〜520nm及び励起波長300nm〜375nmの範囲に区画される領域H2の少なくとも1個以上の領域を用い、当該領域の蛍光強度を積分した値(AP
i、P1
i、P2
i、H1
i、H2
i)を求める。予備的な試験結果によれば、領域AP1、P1、P2、H1及びH2にスペクトルのピークが存在する物質は、膜ファウリングの進行に連れて増大するという知見が得られており、分離膜14がろ過した総ろ過水量の増加に対応した上記積分値(AP
i、P1
i、P2
i、H1
i、H2
i)の変化を観察することで、分離膜14の汚染状態を把握することができる。
【0058】
また、近赤外分光法においては、作成された吸収スペクトルのうち、膜閉塞物質である糖たんぱく質の糖構造部に対応するピークの面積を算出する。そして、分離膜14がろ過した総ろ過水量の増加に対応したこのピーク面積の変化を観察することで、分離膜14の汚染状態を把握することができる。
【0059】
なお、分光スペクトル分析工程S103については、制御部38及び制御部58の制御により行ってもよいし、蛍光分光光度計20が作成したFEEM及び近赤外光分光光度計40が作成した吸収スペクトルに基づき、他の手法により行うこととしてもよい。したがって、本実施の形態に係る分離膜14の汚染状態分析方法及び分離膜14の汚染状態分析方法を行うための膜ろ過システム10によれば、ろ過対象水1ではなく分離膜14が蛍光分光法及び近赤外分光法の双方を用いる分析に供されるので、ろ過対象水1中に存在する物質やその物質の濃度の影響による分析誤差・検出限界等の問題を回避することができる。また、分離膜14を分析することで膜を透過する成分が分析に与える影響を排除し、分離膜14に捕捉される膜閉塞成分のみの選択的な分析が可能となる。
【0060】
さらに、分離膜14は蛍光分光法及び近赤外分光法の双方により分析されることから、前準備を含む分析操作が簡易なものとなるとともに、要する時間も短縮され、簡易且つ迅速な分析が可能となる。
【0061】
また、一般に、膜ファウリングに重要な影響を及ぼす物質である上述の高分子の多糖様物質が糖たんぱく質であることが明らかになっているが、蛍光分光法で検出できるのはたんぱく質構造部であり、糖構造の部分は検出することができなかった。
【0062】
本実施の形態によれば、蛍光分光法により糖たんぱく質のたんぱく質構造部を検出し、近赤外分光法により糖たんぱく質の糖構造部を検出することが可能となるため、蛍光分光法と同レベルの分析の簡易性及び迅速性のメリットを維持したまま、膜ファウリング原因物質をより的確に分析することが可能となる。
【0063】
さらに、各光伝達手段(励起光伝達手段26、蛍光伝達手段28、近赤外光伝達手段44及び光伝達手段46)によって、分光光度計本体(分光蛍光光度計本体30及び近赤外光分光光度計本体50)とろ過対象水1の流路3に設けられた分離膜14との間での光の送受信が可能となる。すなわち、分離膜14のその場(オンサイト)分析が可能となるから、分析を行うにあたり浸漬槽12から分離膜14を取り出し、分析後に再び分離膜14を浸漬槽12に取り付けるといった作業が不要となり、さらに分離膜14の汚染状態の分析に係る作業が簡易化されている。
【0064】
同時に、分析は基本的に分離膜14への光の照射により行われ、分離膜14が切除されることもないから、分析後の分離膜14を継続して使用することが可能となる。
【0065】
そのうえ、三次元励起蛍光マトリクススペクトル(FEEM)によれば、分離膜14に捕捉された各物質に由来するスペクトルの分離性能が従来よりも向上し、それらのスペクトル同士の重複が排除され、目的とする物質のスペクトルを的確に抽出することが可能となる。
【0066】
また、膜ファウリングと関係する領域AP1、P1、P2、H1及びH2にスペクトルのピークが存在する物質を選択的にモニターすることができ、目的とする物質以外からの不必要なスペクトルを排除することができる。したがって、S/N比を向上させることができる。
【0067】
なお、領域AP1、P1及びP2には、糖ファウリングの原因物質である糖たんぱく質のスペクトルのピークが存在し、領域H1及びH2には、糖ファウリングに関与する物質であるフミン物質のスペクトルのピークが存在するとの知見が得られている。なお、AP1は、上記糖たんぱく質のうち、芳香族系の官能基を有する糖たんぱく質のスペクトルのピークが存在する領域である。
【0068】
また、発明者は新たに、
図5に示すように、領域AP1、P1及びP2の蛍光強度は膜ファウリングの進行の初期〜終期にかけて漸次増加し(同図中のPを参照乞う)、領域H1及びH2の蛍光強度は膜ファウリングの進行の初期〜中期よりも終期において大きく増大する(同図中のHを参照乞う)との知見を得た(尚、同図中、縦軸はFEEMの所定領域における蛍光強度の積分値(例えば、P1
i)を示し、横軸は総ろ過水量を示す。)。
【0069】
そこで、上記実施の形態におけるFEEM分析工程(分光スペクトル分析工程S103)において、FEEM作成工程において作成されるFEEMのうち、領域AP1、P1及び領域P2のうち少なくとも1個の領域と、領域H1及び領域H2のうち少なくとも1個の領域とを用いることとしてもよい。
【0070】
これによれば、領域AP1、P1及び領域P2のうち少なくとも1個の領域並びに領域H1及び領域H2のうち少なくとも1個の領域の各積分値の総ろ過水量に対する変化をモニターすることで、
図5に示すように、領域H1〜H2の積分値の増加割合に対して領域AP1、P1〜P2の積分値の増加割合が大きい場合には膜ファウリングの進行が初期〜中期の段階にあり、領域AP1、P1〜P2の積分値の増加割合に対して領域H1〜H2の増加割合が大きくなる場合には、膜ファウリングの終期段階にあると判定することができる。すなわち、膜ファウリングの進行及び膜ファウリングの終期をより的確に把握することができ、分離膜14が完全に閉塞する前に分離膜14に対する適切な処置を施すことが可能となる。
【0071】
なお、
図5に示すような領域AP1、P1〜P2及び領域H1〜H2の蛍光強度の増加現象の違いは、領域AP1、P1〜P2にスペクトルのピークを有する糖たんぱく質は膜に直接付着して膜ファウリングをもたらし、領域H1〜H2にスペクトルのピークを有するフミン物質は分離膜よりも分離膜に付着した膜閉塞物質に付着して膜ファウリングを促進するという現象が生じていることに起因するものであると推察される。
【0072】
また、上記実施の形態の分光スペクトル分析工程S103であるFEEM分析工程において、FEEMが主成分分析法により変換されたデータを用いることも可能である。かかる変換データによれば、FEEMで表わされる等高線図中の山部や谷部のうち、例えば、膜ファウリングに寄与する部分を効率良く抽出することが可能となる。
【0073】
さらに、本願発明は、分離膜の汚染状態分析方法において作製されるFEEMを用いたろ過対象水の水質評価法方法を提供する。以下に、上記実施の形態に係る膜ろ過システム10を用いる場合を例に本実施の形態に係るろ過対象水の水質評価方法について、
図6を参照して説明する。
【0074】
[検量線作成工程(S201)]
まず、膜閉塞指標値が既知のろ過対象水を少なくとも3種類準備する。かかるろ過対象水としては、複数箇所の河川から採取した河川水を用いることができる。好ましくは、膜閉塞指標値が未知の測定対象となるろ過対象水と膜閉塞指標値が近いと予測されるろ過対象水を選択すべきである。
【0075】
膜閉塞指標値はどのようなものを用いても良いが、例えば、ファウリングポテンシャル(登録商標)(FP)、MFI、UMFI、MFI−NF、CF−MFIを挙げることができる。本実施の形態では、FPを膜閉塞指標として用いる。FPは、本願発明の発明者の執筆した文献「浄水処理におけるファウリングポテンシャル(登録商標)の提案と浸漬型膜ろ過システムの適用事例」(膜(MEMBRANE),39(4),194−200(2014))によれば、以下のように説明される。
【0076】
「ファウリングポテンシャル(FP)の測定には、公称孔径0.22μmの疎水性PVDF膜(ミリポア社製GVHP、直径25mm)を使用する。これを撹拌式加圧セルに装着し、HPLC用送液ポンプで加圧ろ過を行う。
【0077】
ろ過は、セルの攪拌子を1,450rpmで回転させながら全量定速ろ過(膜透過流束20m/日)で行い、膜差圧がある程度上昇した後、膜をセルから取り外し、1%-シュウ酸洗浄(洗浄時間60分、洗浄温度20℃程度)と膜面のスポンジ洗浄を行う。洗浄後、膜をセルに再び装着し、供試水のGVHP膜ろ過水でろ過を行い、再び膜差圧を測定する。
【0078】
この膜差圧とろ過開始時の膜差圧の差(m-Aq at25℃)を総ろ過水量(m
3/m
2-膜)で除した値をファウリングポテンシャル(fouling potential:FP)と定義している。なお、試料水は、予め0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、濁度成分を除去した後に供試する。」
【0079】
次に、膜ろ過システム10を用いて少なくとも3種類のろ過対象水を所定量ろ過する動作を、それぞれのろ過対象水について分離膜14を交換しつつ行う。次に、ろ過に用いた各分離膜14についてFEEMを作成する。
【0080】
そして、作成されたFEEMについて、例えば、領域P1や領域P2の積分値P1
i、P2
iを算出し、算出した積分値をY軸とし、各ろ過対象水のFPをX軸として検量線を作成する。この検量線を、
図6に示す(以上、検量線作成工程S201)。同図は、蛍光強度(算出された積分値)と後述するFP値の相関関係から作成した検量線を示す図である。
【0081】
[膜閉塞指標値決定工程(S202)]
次に、膜閉塞指標値決定工程S202について説明する。本工程では、膜閉塞指標値(すなわち、FP値)が未知のろ過対象水を膜ろ過システム10を用いて上記検量線作成工程S201と同様の条件で膜ろ過し、膜ろ過に用いた分離膜14についてFEEMを作成する。
【0082】
そして、作成したFEEMについて、工程S201同様に、例えば、領域P1や領域P2の積分値P1
i、P2
iを算出する。
【0083】
この積分値を、
図6に示すように、上記工程S201で作成した検量線に当てはめてFPを決定する。
【0084】
したがって、本実施の形態に係るろ過対象水の水質評価方法によれば、ろ過対象水中の膜ファウリング原因物質(バイオポリマーと呼ばれる高分子物質群、多糖様物質)の測定は通常高度な分析機器を用いた長時間の測定が必要となるところ、上記実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法により簡易に作成可能なFEEMと膜閉塞指標(FP)の相関関係から予め検量線を作成しておくことで、膜閉塞指標値(FP値)が未知のろ過対象水についてFEEMを作成することで簡単にそのろ過対象水の膜閉塞指標値を決定することができる。よって、ろ過対象水の水質を簡易且つ迅速に評価することが可能となる。
【0085】
また、本実施の形態に係る分離膜14の汚染状態分析方法においては、1個の分離膜を用いてろ過対象水の膜ろ過を行い、分離膜の汚染状態の分析を行っているが、これに限定されるものではなく種々の変形が可能である。
【0086】
以下に、本実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法の変形例を、分離膜の配置を変更した膜ろ過システムを用いる場合を例に
図7により説明する。
図7において、上述の
図1に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。さらに、
図7においては、分光蛍光光度計20及び近赤外光分光光度計40の記載を省略する。
図7(A)は本実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法の一の変形例に用いる膜ろ過システムにおける分離膜の配置を示す模式図であり、
図7(B)は本実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法の他の変形例に用いる膜ろ過システムにおける分離膜の配置を示す模式図である。
【0087】
一の変形例においては、同図(A)に示すように、浸漬槽12内において分離膜14−1及び分離膜14−2が並列に配置されており、他の変形例においては、同図(B)に示すように、浸漬槽12内において分離膜14−3及び分離膜14−4が直列に配置されている。
【0088】
一の変形例及び他の変形例においても、上水道事業における浄水処理という処理の目的から、上記実施の形態同様に分離膜14−1〜4は限外ろ過膜(UF)及び精密ろ過膜(MF)から選択される。
【0089】
具体的には、例えば、分離膜14−1及び分離膜14−3は、孔径0.45μmの限外ろ過膜(UF)であり、分離膜14−2及び分離膜14−4は、孔径0.01μmである。
【0090】
その後、ろ過対象水1の膜ろ過、膜ろ過後の分離膜14−1〜4の蛍光分光法及び近赤外分光法による分析がなされる。
【0091】
したがって、一の変形例によれば、分離膜14−1の分析結果から、粒径0.45μm以上であって膜閉塞に寄与する成分の分析が可能となり、分離膜14−2の分析結果から、粒径0.45μm未満〜0.01μm以上の範囲の膜閉塞に寄与する成分の分析を行うことが可能となる。すなわち、孔径の異なる分離膜を用いることで、膜閉塞成分の粒径についての情報をより詳細に得ることが可能となる。これにより、0.01〜1μm程度の粒径を有する糖たんぱく質であって膜ファウリングに関与していると考えられる成分(TEP(透明細胞外重合物質)、EPS(細胞外ポリマー)等)のより精度の高い分析が可能となる。
【0092】
また、他の変形例によれば、分離膜14−3の分析結果から粒径0.45μm以上であって膜閉塞に寄与する成分の分析が、分離膜14−4の分析結果から粒径0.01μm以上であって膜閉塞に寄与する成分の分析が、それぞれ可能となる。
【0093】
以上のように、分離膜の孔径の差と、流路における分離膜の配置によって、より詳細な膜閉塞成分の粒子サイズに関する情報を得ることが可能となる。
【0094】
また、上記変形例により得られる膜閉塞成分についての情報は、粒子サイズに関する情報のみとは限られない。例えば、親水性の異なる2種類の分離膜を用いることも可能である。これによれば、分離膜の親水性の差を利用して、膜閉塞成分の親水性の違いに関する情報を得ることが可能となる。
【0095】
さらに、本変形例に係る分離膜の汚染状態分析方法は、膜ろ過システム10における分離膜の配置を変更したものを用いて実施しているが、膜ろ過システム10を用いることは必須ではない。すなわち、ろ過対象水のろ過を少なくとも2種類の分離膜で行う膜ろ過系であればどのような膜ろ過系を用いてもよい。
【0096】
(第2実施の形態)
本発明の第2実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法を、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は蛍光分光光度計60のブロック図、及び
図9は本実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法を説明する図である。なお、本実施の形態において第1実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0097】
本実施の形態においては、蛍光分光法による分析を行う。
図8に示すように、本実施の形態において用いる分光蛍光光度計60は、分析すべき試料を挿入する試料挿入部62を有する点において上記第1実施の形態と相違する。試料挿入部62には、試料を固定する試料固定プレート70が挿入される。
【0098】
試料固定プレート70は、
図9(A)に示すように、略中央部に矩形の孔部72を有する板状体であって、孔部72の図示左右方向には、長さ方向略中央に湾曲した凹部74aを有する一対の固定ピン74が設けられている。
【0099】
また、本実施の形態においては、流路3は第1実施の形態と共通する。すなわち、ろ過対象水1は、浸漬槽12中の分離膜14によってろ過され、ろ液2となる。
【0100】
以下、本実施の形態に係る分離膜の汚染状態分析方法を、第1実施の形態と異なる点について主に説明する。
【0101】
まず、分離膜14の汚染状態分析方法の実施に先立ち、送液ポンプ16を起動させ、所定量のろ過対象水1(河川水)のろ過を行う。
【0102】
[切除工程(S301)]
切除工程S301では、
図9(A)に示すように、ろ過後の分離膜14の中空糸14bの一部を切除する。切除する長さは、固定ピン74で固定可能な長さであれば良い。
【0103】
[固定工程(S302)]
固定工程S302では、切除した中空糸14bの外周面を固定ピン74の凹部74aにそれぞれ当接させ、プレート上に中空糸14bを固定する。この際、
図9(B)に示すように、中空糸14bが孔部72を横断するように行う(以上、固定工程S302)。
【0104】
固定工程後、プレート70を分光蛍光光度計60の試料挿入部62に挿入する。
【0105】
[照射工程(S303)]
次に照射工程S303について説明する。試料挿入部62にプレート70が挿入された状態において、分光蛍光光度計60の電源を投入して起動する。これにより、分光蛍光光度計60において、制御部38は光照射部32に信号を送る。この信号により、光照射部32は、
図9(B)に示すように、矢印200方向に、すなわち、中空糸14bの孔部72を横断する部位に孔部72の挿通方向に励起波長220nm〜600nmの励起光を順次照射する(以上、照射工程S303)。
【0106】
以降、上記第1実施の形態と同様に受信・分光部34が蛍光を受信し、FEEM作成部36がFEEMを作成し、分離膜14の汚染状態の分析が実施される。
【0107】
したがって、本実施の形態によれば、分析の前処理は分離膜14の一部の切除及びプレート70への固定で終了し、分析操作はプレート70に固定された分離膜14の一部に光を照射することで実質的に行われる。したがって、前処理及び分析操作が簡素化され、且つ分析時間が短縮され、簡易且つ迅速な分析が可能となる。
【0108】
同時に、上記第1実施の形態同様、分離膜14が蛍光分光法を用いる分析に供されるので、ろ過対象水1中に存在する物質やその物質の濃度の影響による分析誤差・検出限界等の問題を回避することができる。また、分離膜14を分析することで膜を透過する成分が分析に与える影響を排除し、分離膜14に捕捉される膜閉塞成分のみの選択的な分析が可能となる。
【0109】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記第1実施の形態では、蛍光分光法及び近赤外分光法を用い、第2実施の形態では蛍光分光法を用いているが、これに限られるものではなく、例えば、近赤外分光法のみを用いてもよい。
【0110】
また、上記実施の形態においては、作成されたFEEMのうち、領域AP1、P1、P2、H1及びH2の少なくとも1個以上の領域をFEEM分析工程において用いているが、当該領域を用いることは必須というわけではない。すなわち、
図4に示すようなFEEMをそのままFEEM分析工程において用いることも可能である。
【0111】
これによれば、例えば、既知の膜閉塞成分を付着させた分離膜の蛍光分光法による分析から作成したFEEMと、ろ過対象水1を所定量ろ過させた分離膜14の蛍光分光法による分析から作成したFEEMとを比較し、それらの波形パターンの共通点及び差異点の割合から、分離膜に付着した膜閉塞成分を特定し、当該膜閉塞成分の量を推定するということも可能となる。
【0112】
さらに、本発明とナノ粒子計を併用してもよい。ナノ粒子計の多くは、10〜400nm程度の粒子の大きさの情報とゼータ電位などの電荷の情報が与えられるものであるが、多糖、たんぱく質等のポリマーの特性に関する情報は得られない。かかるナノ粒子計に対して本発明を併用する事により、膜ファウリング物質の質と大きさの両方の情報と、ろ過抵抗への関与に関する情報が得られるので、より好ましい。
【0113】
なお、ナノ粒子計の計側法は、特に制限はなく、ナノ粒子追跡解析法(NTA又はPTA)、レーザー誘起破壊検知法(LIDB)、電気抵抗ナノパルス法(TRPS、通称:qNano)、動的光散乱法(DLS)のいずれでもよい。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0115】
1.ろ過対象水のろ過
本実施例における水処理は、原水を浄化して上水道水とするための水処理を想定しており、原水としては河川水を用いた。
【0116】
ろ過対象水(河川水)を、材質がPVDFである分離膜(平膜、孔径0.22μm)を用いて約1lろ過した。
2.蛍光分光法による分離膜の汚染状態の分析
分離膜の汚染状態の分析には、本実施の形態に係る膜ろ過システム10にも使用可能な分光蛍光光度計(日立製作所製)を用いた。
【0117】
ろ過対象水をろ過した分離膜のろ過対象水側表面に対して励起光を照射し、分離膜への励起光の照射及び分離膜からの蛍光の受信・分光を行い、FEEMを作成した。
【0118】
図10に、作成したFEEMを示す。このように作成されたFEEMから、分離膜の汚染状態を分析可能であることが示された。