(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤
B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有するものである。
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、極性樹脂への融着性、耐摩耗性、及び表面の
ベタツキ抑制に優れるが、これは、熱可塑性エラストマー組成物の相構造によるところが
大きいと推察される。即ち、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性ポリエス
テル系エラストマーCからなる連続相中に熱可塑性スチレン系エラストマーA及び軟化剤
Bからなる分散相が存在する相分離構造を有しており、強度が高く、極性樹脂との相溶性
の高い熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが表面に露出する連続相となることにより
、耐摩耗性及び極性樹脂への融着性が向上し、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化
剤Bとの相溶体が分散相となって周囲が連続相に囲まれることにより、軟化剤Bのブリー
ドアウトが阻害され、表面のベタツキが抑制される。
そこで、本発明では、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが連続相となるように、
3成分の組成比を設定し、さらに、溶融粘度の高い方が分散相となりやすいため、熱可塑
性スチレン系エラストマーAの分子量を高めに設定している。また、熱可塑性スチレン系
エラストマーAと軟化剤Bとが相溶するように、熱可塑性スチレン系エラストマーAにお
いて、ハードセグメントであるスチレンブロックの割合を低めに設定している。
【0012】
熱可塑性スチレン系エラストマーAは、柔軟性と成形性の観点から、スチレン系単量体
からなる重合体のブロック単位(s1)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単
位(b1)とからなるブロック共重合体(Z1)であることが好ましい。
【0013】
ブロック単位(s1)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレ
ン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチ
レン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0014】
ブロック共重合体(Z1)は、ブロック単位(s1)からなる硬い部分(ハードセグメント
)と、ブロック単位(b1)とからなる柔らかい部分(ソフトセグメント)とからなり、全
体の物性を決定する観点から、ブロック共重合体(Z1)におけるスチレン系単量体単位の
含有量は、10〜50質量%であり、15〜40質量%がより好ましい。
【0015】
ブロック単位(b1)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、
1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0016】
ブロック共重合体(Z1)は、水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐
候性及び機械的特性が向上することから、その一部又は全部が水素添加されていることが
好ましい。水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。本発明におい
て、水素添加率は、ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来する炭素−炭素二重結
合の含有量を、水素添加の前後において、
1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値か
ら求めることができる。
【0017】
ブロック共重合体(Z1)の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブチレ
ンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチ
レン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチ
レンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、
スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イ
ソブチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、(
α-メチルスチレン)- エチレン・ブチレンブロック共重合体、(α-メチルスチレン)−エ
チレン・ブチレン−(α-メチルスチレン)ブロック共重合体等が挙げられる。これらは、
単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び作業性の観点から、
スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレ
ン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレン−エチレン−エチレ
ン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれた少なくと
も1種が好ましく、SEBS及び/又はSEEPSがより好ましい。
【0018】
熱可塑性スチレン系エラストマーAは、さまざまな特性のものが工業的に大量に生産さ
れていて入手しやすい観点から、酸変性されていないことが好ましい。
【0019】
熱可塑性スチレン系エラストマーAの重量平均分子量は、熱可塑性スチレン系エラスト
マーAを分散相とし、また耐摩耗性及び極性樹脂への融着性が向上する観点から、200,00
0以上、好ましくは300,000以上であり、成形性の観点から、500,000以下、好ましくは450
,000以下である。熱可塑性エラストマーAが複数のエラストマーからなる場合は、各エラ
ストマーの重量平均分子量の加重平均値が上記範囲内で入るものとする。
【0020】
熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性スチレン系エラストマーAの含有量は、好ま
しくは10〜50質量%、より好ましくは15〜35質量%である。
【0021】
軟化剤Bは、例えばパラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族系オイル等のゴム用軟
化剤が挙げられるが、これらのなかでは、熱可塑性スチレン系エラストマーとの親和性が
良好で、ブリードが起きにくいという観点から、パラフィンオイルが好ましい。
【0022】
軟化剤Bの40℃での動粘度は、高い方が、加熱溶融時の揮発を防ぎ、耐ブリード性も良
くなることから、30mm
2/s以上、好ましくは60mm
2/s以上、より好ましくは80mm
2/s以上で
あり、極性樹脂への融着性向上の観点から、より好ましくは150mm
2/s以上であり、低い方
が取扱いが容易であることから、500mm
2/s以下、好ましくは450mm
2/s以下、より好ましく
は400mm
2/s以下であり、耐摩耗性向上の観点から、より好ましくは200mm
2/s以下である。
【0023】
軟化剤Bの含有量としては、軟化剤Bが少なすぎると組成物の柔軟性が低下し、各種配
合成分の分散性が低下する。また、軟化剤Bが多すぎると、オイルブリードが生じやすく
、極性樹脂への融着性が低下する。これらの観点から、軟化剤Bの含有量は、熱可塑性ス
チレン系エラストマーA 100質量部に対して、20質量部以上、好ましくは35質量部以上、
より好ましくは50質量部以上であり、200質量部以下、好ましくは175質量部以下、より好
ましくは150質量部以下である。
【0024】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の軟化剤Bの含有量は、好ましくは1〜40質量%
、より好ましくは5〜35質量%である。
【0025】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCは、ハードセグメント(硬い部分)とソフトセ
グメント(柔らかい部分)とを含むことが好ましく、ハードセグメントとして芳香族ポリ
エステルブロックを有し、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロックを有する
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体であることがより好ましい。
【0026】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のハードセグメントである芳香族ポリエ
ステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-又は2,6-ナフタレンジ
カルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、
4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステ
ルの1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレング
リコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサン
ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジヒドロキシジビフェニル、2,2-ビ
ス(4’-β-ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの1種又は2種以上
との重縮合体であることが好ましい。市販品としては、例えば、「Keyflex」(LGケミカ
ル社製、商品名)、「ペルプレン」(東洋紡績株式会社製、商品名)、「ハイトレル」(
東レ・デュポン株式会社製、商品名)、「フレクマー」(日本合成化学工業株式会社製、
商品名)等が挙げられる。
【0027】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエ
ーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなることが好ましい。
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエー
テルブロックの重量平均分子量は、400〜60,000が好ましい。脂肪族ポリエーテルブロッ
クの重量平均分子量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと同様に、ゲルパーミエーシ
ョンクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求め
る。
【0028】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCは、ソフトセグメントが多い方が融着性の面で
は有利になるが、摩耗性の面からはハードセグメントが多い方が好ましい。かかる観点か
ら、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCにおけるハードセグメントとソフトセグメン
トとの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、10/90〜30/70、好ましくは13
/87〜28/72、より好ましくは15/85〜25/75である。
【0029】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCのA硬度は、好ましくは50〜98、より好ましく
は60〜95、さらに好ましくは70〜90である。なお、本発明において、A硬度はデュロメー
タタイプA硬度である。
【0030】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量としては、熱可塑性ポリエステル系エ
ラストマーCが多いほど熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを連続相、熱可塑性スチ
レン系エラストマーAと軟化剤Bとを島相とする相分離構造をとりやすく、その結果極性
樹脂との融着性が良くなる。また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが少ない方が
柔軟性に優れる。これらの観点から、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は
、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対して、60質量部
以上、好ましくは100質量部以上、より好ましくは120質量部以上であり、300質量部以下
、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下である。また、熱可塑性スチ
レン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有
量は、好ましくは100質量部以上、より好ましくは110質量部以上、さらに好ましくは150
質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上であり、好ましくは500質量部以下、より好
ましくは450質量部以下、さらに好ましくは350質量部以下、さらに好ましくは300質量部
以下、さらに好ましくは250質量部以下である。
【0031】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有
量は、好ましくは40〜85質量%、より好ましくは55〜75質量%である。
【0032】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、熱可塑性ポリエステル系エラストマー
Cの総含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、好ましくは75質量%以上、より好まし
くは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、相溶化剤D、ポリオレフィンE等を
含有していてもよい。これらは、それぞれ単独であっても、併用されていてもよい。
【0034】
相溶化剤Dは、配合することで、極性樹脂との融着性が向上する。
【0035】
相溶化剤Dは、融着性向上効果に優れることから、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラ
ストマーD1、酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2、及びスチレン系エラスト
マーとウレタン系エラストマーのグラフトポリマーD3からなる群より選ばれた少なくと
も1種のエラストマーが好ましい。
【0036】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1としては、スチレン系単量体からなる
重合体のブロック単位(s2)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(b2)
とからなるブロック共重合体(Z2)の水素添加物を酸変性させたものが好ましい。
【0037】
ブロック単位(s2)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレ
ン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチ
レン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0038】
ブロック単位(b2)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、
1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0039】
ブロック共重合体(Z2)は、ブロック単位(s2)からなる硬い部分(ハードセグメント
)と、ブロック単位(b2)とからなる柔らかい部分(ソフトセグメント)とからなり、全
体の物性を決定する観点から、ブロック共重合体(Z2)におけるスチレン系単量体単位の
含有量は、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは20
〜50質量%である。
【0040】
ブロック共重合体(Z2)の水素添加は、一部であっても、全部であってもよいが、水素
添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が得られる。そ
れらの観点から、水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0041】
ブロック共重合体(Z2)の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン−ブチレ
ン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共
重合体、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチ
レン−エチレン・ブチレン(スチレン制御分布)−スチレンブロック共重合体、スチレン
−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニト
リル−ブタジエンゴム、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、スチレ
ン−エチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−
イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリブタジエン−
ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリイソプレン−ポリ(α-メ
チルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−クロロプレンゴム等が挙げ
られる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び
作業性の観点から、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)
、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エ
チレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチ
レン・ブチレン(スチレン制御分布)−スチレンブロック共重合体(SEB(S)S)及びス
チレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)からなる群より選ばれた少な
くとも1種であることが好ましい。
【0042】
ブロック共重合体(Z2)の水素添加物の酸変性は、特に限定されるものではないが、例
えば、水素添加物にカルボキシル基又は酸無水物基を導入することによって行うことがで
きる。上記のカルボキシル基又は酸無水物基の導入は、それ自体公知の方法に従って行う
ことができる。具体的には、例えば、水素添加物と、アクリル酸、メタクリル酸等で例示
される不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマール酸、ハイミック酸、イタコン酸等で
例示される不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸等
で例示される不飽和ジカルボン酸の無水物とを、有機過酸化物の存在下に、溶媒の存在下
又は非存在下に加熱して、グラフト反応させることにより得ることができる。また、商業
的に入手することもできる。
【0043】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の酸変性量は、相溶性及び作業性の観
点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%、さらに好ましくは0
.5〜3.0質量%である。
【0044】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の重量平均分子量は、耐熱性の観点か
ら、50,000以上が好ましく、溶融物の流動性及びゴム弾性の観点から、400,000以下が好
ましい。これらの観点から、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の重量平均
分子量は、好ましくは50,000〜400,000である。酸変性水添熱可塑性スチレン系エラスト
マーD1は、1種のみが用いられていてもよく、重量平均分子量や1,2-ビニル結合量等が
異なる2種以上が併用されていてもよい。2種以上が併用されている場合は、それらの加重
平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれが上記範囲内であることがより好ま
しい。
【0045】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1のA硬度は、好ましくは30〜97、より
好ましくは50〜93、さらに好ましくは70〜90である。
【0046】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2としては、エチレン−プロピレン共重合
体、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα−オ
レフィン共重合体エラストマー、これらと非共役ジエンとの共重合エラストマー、これら
の2種以上の混合物等が挙げられ、これらのものの少なくとも一部が酸変性されたもので
ある。これらの中では、エチレン−α−オレフィン共重合体の酸変性物及びプロピレン−
α−オレフィン共重合体の酸変性物が好ましい。
【0047】
酸変性処理は、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1と同様に行うことがで
きる。
【0048】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2の酸変性量は、相溶性及び作業性の観点
から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%である。
【0049】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2のA硬度は、好ましくは95以下、より好
ましくは10〜90、さらに好ましくは20〜90である。
【0050】
スチレン系エラストマーとウレタン系エラストマーのグラフトポリマーD3としては、
1個のスチレン系エラストマーブロックと1個のポリウレタンエラストマーブロックを有す
るジブロック共重合体であっても、スチレン系エラストマーとポリウレタンエラストマー
ブロックが合計で3個又は4個以上結合したポリブロック共重合体であってもよいが、耐熱
性に優れ、加熱溶融時に悪臭を放出しない観点から、1個のスチレン系エラストマーと1個
のポリウレタンエラストマーブロックが結合したジブロック共重合体が好ましい。市販品
としては、(株)クラレ社製のクラミロン(登録商標)TUポリマー等が挙げられる。
【0051】
相溶化剤Dは、多すぎると相分離が形成し難くなるため、相溶化剤を用いる場合は、相
分離構造を損なうことなく融着性を向上させる観点から、熱可塑性スチレン系エラストマ
ーA 100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0052】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の相溶化剤Dの含有量は、好ましくは0.5〜20質
量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0053】
ポリオレフィンEは、成形性の観点から、含んでいてもよい。
【0054】
ポリオレフィンEとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共
重合体等が挙げられる。
【0055】
ポリオレフィンEの含有量は、少ない方が柔軟性を保つことができることから、熱可塑
性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好まし
くは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0056】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、増粘剤を含有していてもよい。増粘
剤を配合することで、熱可塑性エラストマー組成物を溶融成形後、金型内での冷却時に樹
脂のコシが向上するため、短い冷却時間でも成形品を金型から取り出すことができるよう
になり、成形サイクル時間を短縮することができる。
【0057】
増粘剤としては、熱可塑性樹脂の成型加工の際に溶融張力を増大させる効果のあるもの
であればいずれでも用いることができるが、なかでもエポキシ系増粘剤、アクリル系増粘
剤等が好ましい。
【0058】
エポキシ系増粘剤としては、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物
が好ましい。
【0059】
エポキシ化合物の市販品としては、東亞合成(株)製のアルフォンUGシリーズ、日油(
株)製のマープルーフGシリーズ、BASF製のジョンクリルADRシリーズ等が挙げられる。
【0060】
アクリル系増粘剤としては、アクリル高分子性加工助剤や、アクリル変性ポリテトラフ
ルオロエチレン等が知られているが、本発明においては、アクリル変性ポリテトラフルオ
ロエチレンが好ましい。アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンは、アクリル変性によ
って熱可塑性樹脂との相溶性を向上させたポリテトラフルオロエチレンが、溶融混練で繊
維化(フィブリル化)して繊維状のネットワークを形成するため、熱可塑性樹脂組成物の
溶融粘度を増大させて成形性を向上させることができる。
【0061】
増粘剤を含む場合、熱可塑性エラストマー組成物中の増粘剤の含有量は、好ましくは1
〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%である。
【0062】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エ
ラストマーを含有していてもよい。なかでも極性エラストマーは、連続相である熱可塑性
ポリエステル系エラストマーCに取り込まれ、組成物全体の柔軟性や融着性を向上させる
ことができる。極性エラストマーとしては、特に制限されないが、例えばNBR(ニトリ
ルゴム)、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリウレタン系熱可塑性エラス
トマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範
囲で、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維等の補強剤、無機充填剤、絶縁
性熱伝導性フィラー、顔料、水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモ
ン、シリコーン等の難燃剤、帯電防止剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋助剤、熱安定剤、酸
化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着
色剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤
B、熱可塑性ポリエステル系エラストマーC、さらに必要に応じて相溶化剤D、ポリオレ
フィンE等を含む原料を混合し、冷却により固化させて得られる。
【0065】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず
、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混
合してもよいが、原料の混合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが溶融する条件
下で行うことが好ましい。
【0066】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが溶融する条件下とは、例えば、粘弾性測定に
よって決定できる熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの融点を基に定義することがで
き、静置状態で融点以上であれば溶融する条件であるが、溶融混練法では必ずしも静置状
態で測定された融点ではなく、融点よりも低い温度で溶融することもあり、温度が高いほ
ど溶融粘度が小さくなって混合しやすくなるが、あまり高いと熱分解が起きる恐れがある
。これらの観点から、混練を伴うときの好ましい溶融温度範囲は、融点に対して-30℃〜+
100℃であり、より好ましくは融点に対して-20℃〜+50℃である。
【0067】
溶融混練する場合には、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、
二軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、予めヘンシェルミキサー等
の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つ
のホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供しても
よい。
【0068】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する原料を混合して得られる生成物は、用途に応じ
て、ペレット、粉体、シート等の形状とすることができる。例えば、押出機によって溶融
混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等の
ペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定の
シート状成形品や金型成形品とする。また、溶融混練物をルーダー等でペレットにし成形
加工原料とすることもできる。シート状の熱可塑性エラストマー組成物に、台紙等を貼付
した中間製品としてもよい。
【0069】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、好ましくは70以
下、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。また、好ましくは20以上、
より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上である。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより
、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形
体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフ
ィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリ
ル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができ
る。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形
材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、
射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、複合成形用材料としても用いることができ、
様々な材料に融着するため、異種材料からなる部材の張り合わせにも好適に用いることが
できる。例えば、金属、セラミック、ガラス及び極性樹脂からなる群より選ばれた少なく
とも1種の部材に融着させるために用いられ、特に極性樹脂等に対して良好な接着性を示
す。
【0073】
金属としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレ
ス、鉄、銅、亜鉛めっき鋼、マグネシウム、マグネシウム合金等、また各種めっき処理品
等が挙げられる。
【0074】
極性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタ
クリレート等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリ
プロピレンオキサイド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン
系樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアル
コール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリス
ルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテル
ケトン樹脂、LCP(液晶ポリマー)、アイオノマー等の極性樹脂、これらの2種以上の混合
物等が挙げられる。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、極性樹脂に融着させた場合、該極性樹脂から
の剥離強度は、接着特性の観点から、120N/25mm以上が好ましい。
【0076】
本発明において、融着は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点以上の熱を加え
て、融液にした後、融点以下の温度にして固化することで、融着対象の界面に固着する現
象をいう。熱を加えるには、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、加熱蒸気、超音波
ウェルダー、高周波ウェルダー、レーザー等を用いることができる。従って、融着部の界
面が複雑な立体形状であっても、複雑な立体形状にうまくなじみ成形一体化することがで
きる。
【0077】
従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は部材と一体となって複合成形体とする
こともできる。これにより、複雑な接合面を有する部材や、互いに異なる形状の接合面を
有する部材の複合化も可能となる。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体は、射出成形、射出
圧縮成形、インサート成形、多色成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、熱プレス成形
、発泡成形、レーザー融着成形、押出成形等の方法により、成形加工して得ることができ
るが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接着剤のように自身が粘着性を有するも
のではなく、取り扱いが容易であるため、射出成形にも適用することができる。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体としては、熱可塑性
エラストマー組成物からなる成形体に極性樹脂がインサートされたインサート成形体、熱
可塑性エラストマー組成物と、極性樹脂とを多色成形して得られる複合成形体等が挙げら
れる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって
なんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の
方法により測定した。
【0081】
<成分A(熱可塑性スチレン系エラストマー)及び成分A’>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、ス
チレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を
決定する。
【0082】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で
分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0083】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光株式会社)製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工株式会社製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工株式会社製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm
)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工株式会社製ポリスチレン
【0084】
<成分B(軟化剤)及び成分B’>
〔動粘度〕
JIS Z 8803に従って、40℃の温度で測定する。
【0085】
<成分C(熱可塑性ポリエステル系エラストマー)及び成分C’>
〔ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)〕
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社
製、DPX-400)を用いて、重クロロホルム溶媒中、3〜5vol%濃度、25℃でプロトンNMR
測定を行い、分子構造中の各種酸素に隣接するメチレンピークのシグナル強度比から算出
する。
【0086】
〔A硬度〕
JIS K 6253 タイプAにて測定をする。
【0087】
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/mi
nで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、
より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
【0088】
<成分D(相溶化剤)及び成分D’>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、ス
チレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を
決定する。
【0089】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で
分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0090】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光株式会社)製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工株式会社製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工株式会社製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm
)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/分
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工株式会社製ポリスチレン
【0091】
〔A硬度〕
JIS K 6253で規定される方法に準拠して測定する。
【0092】
〔酸変性量〕
変性する前のベース材料と有機酸のブレンド物を0.1mmのスペーサーを用いてプレスしI
Rを測定し、特徴的なカルボニル(1600〜1900cm
-1)の吸収量と有機酸の仕込量から検量
線を作成し、酸変性体のプレス板のIR測定(IR測定器:堀場製作所製FT-210)を行い、変
性量(酸含有量)を決定する。
【0093】
実施例1〜12及び比較例1〜6
(実施例9は参考例である)
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の作製
パラフィンオイル以外の表5〜7に示す材料をドライブレンドし、これにパラフィンオイルを含浸させて混合物を作製した。その後、混合物を下記の条件で、押出機で溶融混練して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、厚さ3mm程度に切断し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0094】
〔溶融混練条件〕
押出機:KZW32TW-60MG-NH(商品名、(株)テクノベル製)
シリンダー温度:180〜220℃
スクリュー回転数:300r/min
【0095】
実施例及び比較例で使用した表5〜7に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレートを作
製した。
【0101】
〔射出成形条件〕
射出成形機:100MSIII-10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度:200℃
射出圧力:30%
射出時間:3sec
金型温度:40℃
【0102】
実施例及び比較例で得られた組成物について、下記の評価を行った。なお、結果を表5
〜7に示す。
【0103】
〔柔軟性〕
射出成形から1日経過したプレート(125mm角プレート)を用い、JIS K 6253で規定され
る方法に準拠してデュロメータA硬度を測定した。A硬度は、70以下が好ましい。
【0104】
〔熱融着性〕
厚さ4mm×幅25mm×長さ125mmの金型内に下記の極性樹脂をインサートし、下記条件で、
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形し、短冊状の融着試
験片を作製した。
【0105】
<インサート材(極性樹脂)>
(1) サイズ:厚さ2mm×幅25mm×長さ120mm
(2) 種類:PC(ポリカーボネート):三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユー
ピロンH-3000
【0106】
<射出成形条件>
射出成形機:三菱重工業(株)製、100MSIII-10E
射出成形温度:240℃
射出圧力:98MPa、射出速度:50%、保持圧:20%、保持時間:10sec
射出時間:2sec
金型温度:40℃
【0107】
得られた融着試験片を用い、雰囲気温度23℃で熱可塑性エラストマー層と極性樹脂層と
を180°方向に50mm/minで引張試験を行い、表皮材層と基材層の剥離強度(単位:N/25mm
)を測定した。剥離強度は、120N/25mm以上が好ましい。
【0108】
〔耐摩耗性(テーバー摩耗試験)〕
射出成形したプレート(125mm角プレート)を用い、JIS K 7204に準拠し、23℃、摩耗
輪;H-22、回転速度;72r/min、回転回数;1000回、荷重;1000gで摩耗損失量(mg)を測
定した。摩耗損失量は、300mg以下が好ましい。
【0109】
〔表面ベタツキ性〕
射出成形したプレート(125mm角プレート)を雰囲気温度23℃で24時間静置した後、表
面を目視により観察するとともに指で触り、以下の評価基準に従って、表面ベタツキ性を
評価した。
<評価基準>
◎:目視ではぬれ光沢はなく、表面がさらっとしてよく指が滑る。
○:目視ではぬれ光沢はなく、指で触ると貼りつきはしないがすべりが良くない。
△:目視ではぬれ光沢はないが、指で触ると貼りつくようなタックのある。
×:表面にぬれ光沢があって、指で触ると貼りつくようなタックのある。
【0110】
〔相分離構造〕
射出成形したプレート(125mm角プレート)の断面方向に、端から10mmまで切削した切
削面をミクロトームで0.1mm削って平面出しをした後、切削面をルテニウム塩溶液で1時間
染色した。走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズS4800型)で切断面を撮影して、相
分離構造を確認し、「海島」、「共連続」、「海島/共連続」のいずれの構造であるかを
判断した。なお、「海島/共連続」は、全体的には海島構造であるが、一部に分散相の連
続性がみられる共連続相が存在していることを示す。
【0111】
実施例4と比較例1の電子顕微鏡写真を
図1、2に示す。黒い箇所が熱可塑性スチレン
系エラストマーAと軟化剤Bからなる分散相であり、実施例4(
図1)では、熱可塑性ポ
リエステル系エラストマーCを連続相とする海島構造を形成している。これに対し、比較
例1(
図2)では、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bからなる相が連続相と
なっており、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの連続相と共連続構造を形成してい
る。
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
以上の結果より、実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、極性樹脂への融着
性、及び耐摩耗性に優れており、表面ベタツキが起き難く、射出成形による成形材料とし
ても有用であることが分かる。
これに対し、熱可塑性スチレン系エラストマーの重量平均分子量が小さすぎる比較例1
、2では、少なくとも一部で共連続構造が見られ、極性樹脂への融着性に欠けている上、
テーバー摩耗の値も大きくて耐摩耗性が劣るものである。また、射出成型したプレートを
23℃で24時間静置した後の表面を目視により観察したところ、ぬれ光沢はないが、指で触
ると貼りついてプレートが持ち上がってくるようなタックがある。
軟化剤の量が少なすぎる比較例3は、柔軟性が不十分であり、触感が劣るものである。
軟化剤の量が多すぎる比較例4は、共連続構造となっており、極性樹脂への融着性及び耐
摩耗性に欠けているうえ、射出成型したプレートには目視でわかるほどのぬれ光沢があり
、指で触ると貼りつくようなタックがあり、表面のベタツキが生じている。
熱可塑性ポリエステル系エラストマーの量が少なすぎる比較例5は、共連続構造となっ
ており、極性樹脂への融着性が不十分であり、耐摩耗性も劣っているうえ、射出成型した
プレートには、指で触るとタックがある。熱可塑性ポリエステル系エラストマーの量が多
すぎる比較例6は、柔軟性に欠けており、触感が劣るものである。