特許第6768908号(P6768908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768908
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】構造を改善した複合電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20201005BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20201005BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20201005BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20201005BHJP
【FI】
   H01M4/36 C
   H01M10/0525
   H01M10/0562
   H01M10/0565
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-189479(P2019-189479)
(22)【出願日】2019年10月16日
(65)【公開番号】特開2020-98767(P2020-98767A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2019年10月21日
(31)【優先権主張番号】107139243
(32)【優先日】2018年11月6日
(33)【優先権主張国】TW
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512306818
【氏名又は名称】輝能科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】PROLOGIUM TECHNOLOGY CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】512316932
【氏名又は名称】プロロジウム ホールディング インク
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】楊思▲ダン▼
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−197590(JP,A)
【文献】 特開平11−007942(JP,A)
【文献】 特開2016−018735(JP,A)
【文献】 特開2009−094029(JP,A)
【文献】 特開2015−185237(JP,A)
【文献】 特開2016−029651(JP,A)
【文献】 特開2000−340261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/0525
H01M 10/0562
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、
前記活物質を覆う人工的不動態皮膜と、
第1の変形しない電解質および第1の変形可能な電解質を含み、前記第1の変形可能な電解質の容積含有率は前記第1の変形しない電解質の容積含有率より高い、前記人工的不動態皮膜を覆う中間層と、
第2の変形しない電解質および第2の変形可能な電解質を含み、前記第2の変形しない電解質の容積含有率は前記第2の変形可能な電解質の容積含有率より高い、前記中間層を覆う外層と、を備える構造を改善した複合電極材料であって、
前記中間層の前記第1の変形可能な電解質および前記外層の前記第2の変形可能な電解質は、軟質固体電解質と、イオン性液体、イオン性液体電解質、ゲルまたは液体電解質またはそれらの組合せから選択される少なくとも1つの電解質と、から構成されることを特徴とする、
構造を改善した複合電極材料。
【請求項2】
前記人工的不動態皮膜の厚さは100ナノメートル未満であることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項3】
前記人工的不動態皮膜は、前記活物質を完全に覆う固体電解質から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項4】
前記人工的不動態皮膜は非固体電解質であることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項5】
前記人工的不動態皮膜は、導電性材料、リチウムを含まないセラミック材料およびそれらの組合せからなる群から選択され、前記導電性材料は炭素質材料または導電性ポリマーを含み、前記リチウムを含まないセラミック材料はジルコニア、シリカ、アルミナ、酸化チタンまたは酸化ガリウムを含むことを特徴とする、請求項4に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項6】
前記中間層の前記第1の変形しない電解質および前記外層の前記第2の変形しない電解質は結晶質またはガラス質の固体電解質であることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項7】
前記中間層の厚さは500ナノメートル以下であることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項8】
前記外層と前記人工的不動態皮膜との間の距離は500ナノメートルより大きい、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項9】
前記中間層の前記第1の変形可能な電解質の容積含有率は、前記中間層の前記第1の変形可能な電解質と前記第1の変形しない電解質の総容積含有率の50%より高いことを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項10】
前記中間層の前記第1の変形可能な電解質の容積含有率は、前記中間層の前記第1の変形可能な電解質と前記第1の変形しない電解質の総容積含有率の90%より高いことを特徴とする、請求項9に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項11】
前記外層の前記第2の変形しない電解質の容積含有率は、前記外層の前記第2の変形可能な電解質と前記第2の変形しない電解質の総容積含有率の50%より高いことを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項12】
前記外層の前記第2の変形しない電解質の容積含有率は、前記外層の前記第2の変形可能な電解質と前記第2の変形しない電解質の総容積含有率の90%より高いことを特徴とする、請求項11に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項13】
リチウム電池の正電極または/および負電極として機能することを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項14】
前記中間層の前記第1の変形可能な電解質および前記第1の変形しない電解質は、約500ナノメートルより小さい直径を有する穴に充填され、前記外層の前記第2の変形可能な電解質および前記第2の変形しない電解質は、約500ナノメートルより大きい直径を有する穴に充填されることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項15】
前記中間層の前記第1の変形しない電解質および前記外層の前記第2の変形しない電解質は、酸化物系固体電解質、アジ化リチウム(LiN)固体電解質またはリチウム−アルミニウム合金固体電解質から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項16】
前記酸化物系固体電解質はリチウムアルミニウムチタンホスフェ−ト(LATP)電解質であることを特徴とする、請求項15に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項17】
前記軟質固体電解質は、硫化物系固体電解質、水素化物固体電解質またはポリマー固体電解質から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の構造を改善した複合電極材料。
【請求項18】
前記ポリマー固体電解質はポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリ塩化ビニル(PVC)を含むことを特徴とする、請求項17に記載の構造を改善した複合電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料に関し、特に、リチウムイオン二次電池システムに適合した構造を改善した複合電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
液体電解質は、通常、リチウムイオン輸送の媒体として既存のリチウムイオン二次電池に用いられる。しかしながら、液体電解質は揮発性を有し、人体および環境に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、液体電解質は引火性を有するため、電池使用者にとって大きな安全確保上の懸念でもある。
【0003】
さらに、リチウム電池が不安定になる1つの理由は、負電極の表面活性がより大きく、正電極の電圧がより高いことである。液体電解質は電極に直接接触すると、その間の界面が不安定になり、発熱反応が起こって不動態化層が形成される。これらの反応は、液体電解質とリチウムイオンを消費し、熱を発生させる。局所的な短絡が生じると、局所温度が急速に上昇する。不動態化層は不安定になり、熱を放出する。この発熱反応は累積的であり、電池全体の温度が上昇し続ける。電池使用の安全性上の懸念の1つは、電池温度が開始温度(トリガー温度)まで上昇すると、熱暴走が始まって電池の発火または爆発を引き起こすことである。これは、使用するための大きな安全性上の問題である。
【0004】
近年、固体電解質が研究の焦点となっている。固体電解質のイオン導電率は、液体電解質のイオン導電率と同様であるが、蒸発および燃焼という特性は持っていない。また、固体電解質と活物質の表面の間の界面は、化学的または電気化学的に関わらず、比較的安定している。しかしながら、液体電解質とは異なり、固体電解質と活物質との接触面積は非常に小さく、接触表面は不十分であり、電荷移動係数は低い。そのため、正電極および負電極の活物質の電荷移動界面抵抗が大きいという問題がある。これは、リチウムイオンの効率的な伝達には不利である。従って、液体電解質を固体電解質に完全に置き換えることは依然として困難である。
【0005】
上述の問題を解決するために、本出願人は、異なる割合の固体電解質とゲル/液体電解質で構成された、特許文献1などの複合電極材料を提供する。従って、より良好なイオン伝導が達成されるとともに、電荷移動抵抗が低下し、有機溶媒の量が減少する。しかしながら、有機溶媒の量をさらに減らすことができれば、リチウム電池の安全性と安定性は大幅に改善されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国出願第16/253,928号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述の欠点を克服するための構造を改善した複合電極材料を提供することである。液体電解質が活物質と接触するのを効率的に防止するために人工的不動態皮膜(APF)が使用される。従って、不必要なリチウムイオンの消費とリチウム電池の消耗が回避できる。
【0008】
また、本発明の別の目的は、異なる割合のデュアル型電解質で構成された中間層および外層を含む構造を改善した複合電極材料を提供することである。従って、固体電解質と活物質とが直接接触することにより引き起こされる、高い電荷移動抵抗と小さな接触表面の問題は解消される。有機溶媒の量は減少し、電池の安全性が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記を実行するために、本発明は、活物質、人工的不動態皮膜、中間層および外層を含む構造を改善した複合電極材料を開示する。人工的不動態皮膜は活物質を覆い、中間層および外層は順に外側を覆う。中間層および外層の両方は、変形しない電解質と変形可能な電解質を含む。中間層では、変形可能な電解質の含有量は、変形しない電解質の含有量より多い。外層では、変形しない電解質の含有量は、変形可能な電解質の含有量より多い。活物質は、その表面が人工的不動態皮膜でコーティングされており、電解質と活物質の接触が効果的にブロックされ、リチウム電池の消耗につながりうるLiイオンの不必要な消費が防止される。同時に、中間層および外層は、異なる濃度比で形成される。ゲル/液体電解質の量は大幅に減少する。加えて、固体電解質と活物質とが直接接触することにより引き起こされる、高い電荷移動抵抗と小さな接触表面の問題は解消される。従って、より良好なイオン伝導が達成されるとともに、安全性が向上される。
【0010】
本発明の適用性のさらなる範囲は、以下に示されている詳細な記載から明白になるだろう。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内の様々な変更および修正は当業者であればこの詳細な記載から明白になるため、詳細な説明および具体的な例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、例示として示されているにすぎないことは理解されたい。
【0011】
本発明は、以下に例示されているにすぎず、それゆえ本発明を限定するものでない詳細な記載からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の構造を改善した複合電極材料の概略図である。
図2】本発明の構造を改善した複合電極材料を部分的に拡大した概略図である。
図3】本発明の構造を改善した複合電極材料の別の実施形態を部分的に拡大した概略図である。
図4】本発明のリチウム電池に適合した構造を改善した複合電極材料の概略図である。
図5】本発明のリチウム電池に適合した構造を改善した複合電極材料の別の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、構造を改善した複合電極材料を提供する。固体電解質およびゲルまたは液体電解質の両方は、それぞれに利点および欠点がある。今日では、ゲルまたは液体電解質を固体電解質で完全に置き換えることは依然として困難である。従って、固体電解質とゲルまたは液体電解質を混合することがより適当な方法である。
これら2種類の電解質の両方の利点を、異なる割合の分布構成により利用し、これらの電解質の欠点をなくすかまたは最小限に抑えてより良好なイオン伝導を達成する。また、活物質およびゲルまたは液体電解質の欠点によって不動態保護皮膜が形成されると考えられる。人工的不動態皮膜(APF)は、ゲルまたは液体電解質が活物質と接触するのを効率的に低減または防止するために使用される。以下は、活物質構造および電極構造の説明である。
【0014】
図1〜3を参照されたい。これらの図は、本発明の構造を改善した複合電極材料の概略図、本発明の構造を改善した複合電極材料を部分的に拡大した概略図、および本発明の構造を改善した複合電極材料の別の実施形態を部分的に拡大した概略図である。
本発明の複合電極材料10は、複数の活物質11、中間層12および外層13を含む。人工的不動態皮膜(APF)101は、活物質11の外面に形成され、活物質11を覆って、ゲルまたは液体電解質が活物質11と接触するのを防止または低減する。従って、人工的不動態皮膜(APF)101は、内層とみなしうる。APF101の材料は、非固体電解質系またはリチウムイオン移動に基づくかまたはそうでない固体電解質系でありうる。APF101の厚さは、実質的に100ナノメートル未満である。非固体電解質系は、導電性材料、リチウムを含まないセラミック材料およびそれらの組合せからなる群から選択できる。リチウムを含まないセラミック材料は、ジルコニア、シリカ、アルミナ、酸化チタンまたは酸化ガリウムを含みうる。さらに、APF101がリチウムを含まないセラミック材料から構成される場合、APF101は、機械的堆積、物理的/化学的堆積またはそれらの組合せによって形成しうる。機械的堆積では、ボールミルまたは流動床を使用しうる。
APF101の厚さは、APF101が機械的堆積により形成される場合、実質的に100ナノメートル未満である。物理的/化学的堆積によれば、原子スケールで積層された皮膜構造が形成される。APF101の厚さは、実質的に20ナノメートル未満でありうる。APF101が導電性材料から構成される場合、APF101は、上記と同じ方法により形成しうる。
【0015】
そのような非固体電解質系から構成されるAPF101では、APF101の厚さがより厚い場合、イオンを移動させるための媒体として追加の電解質が必要である。原子スケールで積層された皮膜構造など、APF101の厚さがより薄い場合、イオン移動は直接行われうる。
【0016】
固体電解質系には、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、リチウム−アルミニウム合金固体電解質またはアジ化リチウム(LiN)固体電解質が含まれ、これらは結晶質であってもよく、またはガラス質であってもよい。APF101は、炭素質材料(グラファイトまたはグラフェンなど)または導電性ポリマーを含みうる導電性材料から選択される。実際、図2の構造は、図3の構造よりも良好である。また、図2では、APF101は、好ましくは、固体電解質系から構成される。
【0017】
上記の固体電解質についてのさらなる材料の例を以下に説明する。硫化物系固体電解質は、LiS−Pのガラス状態、Lix’y’PSz’の結晶状態、およびLiS−Pのガラスセラミック状態からなる群の1つ以上から選択できる(式中、Mは、Si、Ge、およびSnからなる群の1つ以上から選択される)。
x’+4y’+5=2Z’、0≦y’≦1(式1)
【0018】
好ましくは、LiS−Pのガラス状態は、70LiS−30Pのガラス状態、75LiS−25Pのガラス状態、および80LiS−20Pのガラス状態からなる群の1つ以上から選択できる。LiS−Pのガラスセラミック状態は、70LiS−30Pのガラスセラミック状態、75LiS−25Pのガラスセラミック状態、および80LiS−20Pのガラスセラミック状態からなる群の1つ以上から選択できる。Lix’y’PSz’の結晶状態は、LiPS、LiSnS、LiGeS、Li10SnP12、Li10GeP12、Li10SiP12、Li10GeP12、Li11、L9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、β−LiPS、LiSI、Li11、0.4LiI−0.6LiSnS、およびLiPSClからなる群の1つ以上から選択できる。
【0019】
酸化物系固体電解質は、蛍石構造の酸化物系固体電解質でありうる。例えば、それはモル分率3〜10%のイットリア安定化ジルコニア(YSZ)でありうる。酸化物系固体電解質は、ドーピングLaGaOなどのABO酸化物系固体電解質でありうる。または、酸化物系固体電解質は、Li1+x+y(Al,Ga)(Ti,Ge)2−xSi3−y12でありうる(式中、0≦x≦1および0≦y≦1)。さらに、酸化物系固体電解質は、LiO−Al−SiO−P−TiO、LiO−Al−SiO−P−TiO−GeO、Na3.3Zr1.7La0.3SiPO12、Li3.5Si0.50.5、Li3xLa2/3xTiO、LiLaZr12、Li0.38La0.56Ti0.99Al0.01、またはLi0.34LaTiO2.94でありうる。
【0020】
上述したように、APF101自体をイオンが通過するか否かに基づいて、APFの構造設計は以下の説明のようになりうる。
APF101は、活物質11を完全に覆うことができ、APF101は、ゲルまたは液体電解質と活物質11の表面との接触を可能にする孔を有し、またはAPFは上記の組合せでありうる。
【0021】
例えば、図2を参照されたい。APF101は、活物質11を本質的に完全に覆って、ゲルまたは液体電解質が活物質11と接触するのを防止する。例えば、図3を参照する。APF101は、ゲルまたは液体電解質が流れ、活物質11の表面とわずかに接触するのを可能にする孔を有する。APF101は、粉末積層非固体電解質系により形成されうる。粉末積層構造は、ゲルまたは液体電解質と活物質11の接触を低減するように細孔を形成しうる。
また、図3の構造に基づいて、粉末積層構造は、活物質11の表面に形成される固体電解質界面(SEI)層を支持し、化学的、電気化学的および熱的安定性を増加させる。従って、SEI層の亀裂および再構築は回避されうる。さらに、リチウムイオン消費が減少しうる。図2〜3では、APF101の厚さは約数ナノメートル〜数十ナノメートルである。
【0022】
次に、以下の段落では、APF101の外側にある中間層12および中間層12の外側にある外層13を説明する。構造の理解を容易にするために、まず、電極の製造工程を説明する。一般的に言えば、電極10を、活物質11、導電性材料、結合剤、ならびに有機溶媒およびリチウム塩を含むゲルまたは液体電解質と混合する。本発明では、APF101は、活物質11の表面に形成される。APF101を有する活物質11を、導電性材料、結合剤、ならびに有機溶媒およびリチウム塩を含むゲルまたは液体電解質と混合する。次いで、ゲルまたは液体電解質を抽出し、ゲルまたは液体電解質の第1の容積M1を得る。
活物質11を導電性材料および結合剤と混合した後、粒子のサイズおよび材料特性に起因して、導電性材料、結合剤および活物質の間に異なるサイズの多数の穴が生じる。一般的に、スラリーの溶媒が活物質間で乾燥される領域ではより大きな穴が形成されるかまたは積み重ねられる。より大きな穴の直径は、約500ナノメートルより大きく、かつ/または穴と人工的不動態皮膜101との間の距離は、500ナノメートルより大きい。活物質11の表面により近いかまたは/かつより多くの導電性材料およびより多くの結合剤と混合される領域ではより小さな穴が形成される。より小さな穴の直径は、約500ナノメートル未満であり、かつ/または活物質11により近いこれらの穴は、人工的不動態皮膜101の外側から500ナノメートルの距離まで分布している。一般的に、より小さな穴の総容積は、より大きな穴の総容積より小さい。好ましくは、より小さな穴の総容積は、より大きな穴の総容積よりはるかに小さい。
【0023】
中間層12は、第1の変形可能な電解質121および第1の変形しない電解質122を含む。外層13は、第2の変形可能な電解質131および第2の変形しない電解質132を含む。穴は電解質で満たす必要があるため、電解質は、穴の空間を容易に満たす本発明の相状態によって定義されない。
本発明では、電解質は、その硬度および圧縮性に応じて変形可能な電解質および変形しない電解質として定義される。変形しない電解質はより硬い品質の固体電解質であり、穴のサイズや形状に応じて変形することはない。従って、変形しない電解質だけが穴に大まかに充填されうる。変形可能な電解質は液体電解質、ゲル電解質またはワックス状の電解質であり、穴のサイズや形状に応じて変形しうる。従って、変形可能な電解質は、変形しない電解質を充填した後穴の残りの空間に確実に充填しうる。
【0024】
より大きな穴または活物質11から遠く離れている穴を、より多くの量またはより高濃度の第2の変形しない電解質132で充填する。より小さな穴または活物質11により近い穴を、より少ない量またはより低濃度の第1の変形しない電解質122で充填する。次いで、第1の変形可能な電解質121および第2の変形可能な電解質131を、活物質からの距離に応じて充填する。第1の変形可能な電解質121および第2の変形可能な電解質131を充填する場合、軟質固体電解質1211を最初に充填してよい。次いで、変形しない電解質と軟質固体電解質の間に残っているギャップを埋めうる電解質の少なくとも1つを、イオン性液体、イオン性液体電解質、ゲルまたは液体電解質1212、またはそれらの組合せから選択する(図2および図3参照)。従って、ゲルまたは液体電解質の使用量は大幅に削減され、ゲルまたは液体電解質によって引き起こされる危険が防止される。図に示すように、中間層12の第1の変形可能な電解質121は、軟質固体電解質1211およびゲルまたは液体電解質1212を含む。外層13の第2の変形可能な電解質131は、軟質固体電解質およびイオン性液体、イオン性液体電解質、ゲルまたは液体電解質またはそれらの組合せから選択される少なくとも1つの電解質を含む。
【0025】
従って、変形可能な電解質の第2の容積M2が得られる。続いて、第1の変形しない電解質122および第1の変形可能な電解質121を、APF101から約500ナノメートルまでの範囲内の穴および/または500ナノメートル未満の直径を有する穴に充填して、中間層12を形成する。第2の変形しない電解質132および第2の変形可能な電解質131を、APF101からからの距離が約500ナノメートルを超える穴および/または500ナノメートルより大きい直径を有する穴に充填して、外層13を形成する。これらの図面、例えば、図1〜3における活物質11および関連する分布は、単なる概略図であり、材料の分布を制限することを意図したものではない。
一部の穴では、ゲルまたは液体電解質の代わりに、第1の変形しない電解質122および第2の変形しない電解質132の充填がなされている。従って、第2の容積M2は第1の容積M1より大きくならない。さらに、M2の容積の一部は軟質固体電解質によるものである。従って、ゲルまたは液体電解質の使用量は大幅に削減されうる。第1の変形可能な電解質121および第2の変形可能な電解質131は、同じまたは異なる材料である。第1の変形しない電解質122および第2の変形しない電解質132は、同じまたは異なる材料である。
【0026】
従って、中間層12では、第1の変形可能な電解質121の含有量は、第1の変形しない電解質122の含有量より高い。外層13では、第2の変形しない電解質132の含有量は、第2の変形可能な電解質131の含有量より高い。電極の形成に起因し、中間層12および外層13の両方が導電性材料および結合剤を含むことには疑いの余地がない。
一般的に、中間層12の第1の変形可能な電解質121の容積含有率は、中間層12の第1の変形可能な電解質121と第1の変形しない電解質122の総容積含有率の50%より高く、好ましくは、90%より高い。外層13の第2の変形しない電解質132の容積含有率は、外層13の第2の変形可能な電解質131と第2の変形しない電解質132の総容積含有率の50%より高く、好ましくは、90%より高い。従って、改善された安全性(ゲルまたは液体電解質の使用量の削減)とより良好なイオン伝導(小さな接触表面および固体電解質と活物質との間の不十分な接触表面、ならびにより低い電荷移動係数の問題の解決)の両方が達成される。
【0027】
中間層12は、活物質11(またはAPF101)と直接接触し、イオンを移動させる。中間層12が、主に変形しない電解質で構成されている場合、固体電解質と活物質との接触表面がより少なく不十分であることおよび電荷移動係数が低いことなど、従来技術と同じ問題に直面する。従って、中間層12は、主に変形可能な電解質から構成される。
第1の変形可能な電解質121の容積含有率は、第1の変形しない電解質122の容積含有率より高い。中間層12の第1の変形可能な電解質121の容積含有率は、中間層12の第1の変形可能な電解質121と第1の変形しない電解質122の総容積含有率の50%より高く、好ましくは、90%より高い。より良好な非指向性イオン伝導を提供できる。また、第1の変形可能な電解質121と活物質11(またはAPF101)との接触表面の状態は、固体電解質と活物質との接触表面よりもはるかに良好である。電荷移動界面抵抗は低減される。中間層12と人工的不動態皮膜101との間の距離が500ナノメートル以下であるか、または中間層12の第1の変形可能な電解質121および第1の変形しない電解質122が約500ナノメートルより小さい直径を有する穴に充填される。従って、中間層12の厚さは500ナノメートル以下である。
【0028】
外層13と人工的不動態皮膜101との間の距離が500ナノメートルより大きいか、または外層13の第2の変形可能な電解質131および第2の変形しない電解質132は、約500ナノメートルより大きい直径を有する穴に充填される。従って、外層13は、主に変形しない電解質から構成される。
外層13の第2の変形しない電解質132の容積含有率は、外層13の第2の変形可能な電解質131と第2の変形しない電解質132の総容積含有率の50%より高く、好ましくは、90%より高い。有機溶媒(ゲルまたは液体電解質)の使用量が削減され、より良好な熱的性能が得られ、安全性が維持される。外層13では、イオン伝導の方向は、固体電解質の粒子の変形しない電解質の接触によって決定される。従って、イオン伝導は特定の方向であり、リチウムイオンの高速かつ大量の輸送の実施を可能にする。
【0029】
中間層12の第1の変形しない電解質122および外層13の第2の変形しない電解質132は、酸化物系固体電解質、アジ化リチウム(LiN)固体電解質またはリチウム−アルミニウム合金固体電解質などの硬質固体電解質から選択される。ここで、酸化物系固体電解質はリチウムアルミニウムチタンホスフェ−ト(LATP)電解質でありうる。
中間層12の第1の変形可能な電解質121および外層13の第2の変形可能な電解質131は、イオン性液体、イオン性液体電解質、ゲルまたは液体電解質、または軟質固体電解質を含みうる。ここで、軟質固体電解質は、硫化物系固体電解質、水素化物固体電解質またはポリマー固体電解質から選択される。ポリマー固体電解質は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリ塩化ビニル(PVC)を含む。
【0030】
有機溶媒の使用量をさらに削減するために、中間層12の第1の変形可能な電解質121および外層13の第2の変形可能な電解質131は、主にイオン性液体、イオン性液体電解質、または軟質固体電解質を含みうる。言い換えれば、第1の変形可能な電解質121および第2の変形可能な電解質131の主要な組成は、イオン性液体、イオン性液体電解質、軟質固体電解質、またはそれらの組合せである。ゲルまたは液体電解質の割合が減少する。
【0031】
当然、上記に詳細に記載していない残りの変形しないまたは変形可能な電解質もまた使用しうる。上記のリストは単なる例示であり、本発明を前述の変形しないまたは変形可能な電解質に限定することを意図したものではない。
【0032】
電池システムに実際に適用される場合、本発明の複合電極材料10は、正電極など、1つの電極として機能しうる。図4を参照されたい。電池システムでは、複合電極材料10、別の電極30、セパレータ42、および2つの電流集電装置41、43が形成される。さらに、2つの電極、正電極および負電極の両方が、本発明の複合電極材料10を使用してよい(図5参照)。
【0033】
従って、本発明では、ゲルまたは液体電解質が活物質と接触するのを効率的に防止または低減するために、人工的不動態皮膜(APF)が使用される。従って、不必要なリチウムイオンの消費およびリチウム電池の消耗が回避されうる。また、中間層および外層は、異なる割合の変形しない電解質と変形可能な電解質とで構成される。従って、外層はリチウムイオンの高速移動を可能にし、中間層は非指向性イオン伝導を提供する。従って、より良好なイオン伝導が達成される。さらに、有機溶媒(ゲルまたは液体電解質)の使用量が削減され、より良好な熱的性能が得られ、安全性が維持される。また、イオン性液体またはイオン性液体電解質の割合が増加すると、有機溶媒の量をさらに削減できる。さらに、デュアル電解質システム、変形しない電解質および変形可能な電解質は、イオン伝導を効果的に増加させうる。特に、変形しない電解質が酸化物系固体電解質である場合、高い化学安定性が維持される。また、このデュアル電解質システムによって、イオン導電率と電極適合性が向上する。
【0034】
以上のように、本発明を説明してきたが、本発明を多くの方法で変更できることは自明であろう。そのような変更は、本発明の趣旨および範囲からの逸脱とみなされるべきではなく、当業者であれば自明であるようなそのような改変はすべて、以下の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5