【文献】
Chem. Commun.,2006年,3223-3225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定する方法であって、
前記核酸試料である第一核酸と、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基を有する第二核酸と、前記第一核酸と相補的な領域及び前記第二核酸と相補的な領域を有する第三核酸とをハイブリダイズさせ、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基とを近接させる工程(a)と、
前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基との結合反応を行い、前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであった場合には、前記第一核酸と前記第二核酸とが結合した第四核酸が生成される工程(b)と、
前記第四核酸を回収する工程(c)と、
回収した前記第四核酸を前記第一核酸と前記第二核酸とに開裂させる工程(d)と、
前記第一核酸又は前記第二核酸の存在を検出し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出された場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであると判定し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出されなかった場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンではないと判定する工程(e)と、を備え
、
前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基が下記式(1)で表される基であり、
前記結合反応が縮合剤を用いた脱水縮合である、方法。
【化1】
[式(1)中、AはO、S又はNHを表す。]
【背景技術】
【0002】
5−ヒドロキシメチルシトシンは修飾核酸の一種であり、シトシンの5位がヒドロキシメチル化されたものである。古くからバクテリオファージ等で存在することが知られてきたが、ヒトに関してもエピジェネティクスな遺伝子の発現抑制に関与する5−メチルシトシンが酵素TET1(Ten Eleven Translocation methylcytosine dioxygenase)により酸化されて生成されることが2009年に報告された(非特許文献1、2)。
【0003】
この5−ヒドロキシメチルシトシンは脱メチル化の過程で生じる中間体であると考えられるが、中枢神経系の細胞に多く集中していることから、それ自体がエピジェネティクスな調整に関与している可能性がある(非特許文献3、4)。
【0004】
しかしながら、現段階において5−ヒドロキシメチルシトシンの役割には不明な点が多く、胚性幹細胞の自己複製能にも影響を与えること等が示されており、今後も研究が進展することにより明らかになっていくものと考えられる。
【0005】
ヒト等の哺乳類ゲノム中の5−ヒドロキシメチルシトシンの発見は、生命科学分野に新たな知見をもたらすものであるが、バイサルファイト処理を施して得られたDNA中の5−メチルシトシンの割合に関するデータに影響を与える可能性が高い。これは5−メチルシトシン検出ためのバイサルファイト処理による塩基変換が5−ヒドロキシメチルシトシンでも同様に起こることに起因し、これまでの研究で得られたデータにおいて5−メチルシトシンとして計上された値に5−ヒドロキシメチルシトシンを含むからである。
【0006】
このような背景から5−メチルシトシンと5−ヒドロキシメチルシトシンを区別して検出する技術は今後のエピジェネティクス研究において非常に重要なものといえる。
【0007】
現在開発されている、5−ヒドロキシメチルシトシンの検出方法としては、5−ヒドロキシメチルシトシンを含むDNAに対して酸化還元剤を施した後に、改めてバイサルファイト処理を行うもの(特許文献1)、グリコシルトランスフェラーゼでヒドロキシル基を糖で修飾した後、酵素TET1にて5−メチルシトシンを脱メチル化処理、更にバイサルファイト処理を行うもの(特許文献2)、タングステン酸化剤による5−ヒドロキシメチルシトシン特異的なウラシル誘導体への塩基変換(特許文献3)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/017853号
【特許文献2】国際公開第2011/127136号
【特許文献3】国際公開第2012/141324号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kriaucionis S. and Heintz N., The nuclear DNA base 5-hydroxymethylcytosine is present in Purkinje neurons and the brain., Science, 324, 929-930, 2009.
【非特許文献2】Tahiliani M., et al., Conversion of 5-methylcytosine to 5-hydroxymethylcytosine in mammalian DNA by MLL partner TET1., Science, 324, 930-935, 2009.
【非特許文献3】Globisch D., et al., Tissue distribution of 5-hydroxymethylcytosine and search for active demethylation intermediates., PLoS ONE, 5, e15367, 2010.
【非特許文献4】Szwagierczak A., et al., Sensitive enzymatic quantification of 5-hydroxymethylcytosine in genomic DNA., Nucleic Acids Research, 38, e181, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に記載の方法は、DNA中の5−ヒドロキシメチルシトシン全てを一括して処理できることから、塩基配列のシーケンシングと組み合わせることにより網羅的な解析が可能となるものである。しかしながら、ある特定の疾病に関連した1〜数箇所程度の局所的な検出を目的とする場合には、余分な情報が多く効率が悪い場合がある。
【0011】
また、特許文献1及び2に記載の方法は、煩雑なバイサルファイト法に加え、その前段階で酸化還元反応や酵素反応を用いる複雑なものである。反応工程数が増加することにより、貴重なDNAサンプルのロスや検出感度の低下が問題となる場合がある。
【0012】
研究の進展に伴い5−ヒドロキシメチルシトシンの頻度や出現パターンと疾病やその他の生命現象との関連が明らかになり、DNA中の局所的な5−ヒドロキシメチルシトシン検出及び定量が臨床研究の現場で必要になると予想される。
【0013】
このような背景のもと、発明者らは、以前に、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定する新たな方法を開発した。当該方法は、核酸試料である第一核酸と、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基を有する第二核酸と、前記第一核酸と相補的な領域及び前記第二核酸と相補的な領域を有する第三核酸とをハイブリダイズさせ、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基とを近接させる工程と、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基との結合反応を行い、前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであった場合には、前記第一核酸と前記第二核酸とが結合した第四核酸が生成される工程と、前記第四核酸の存在を検出し、前記第四核酸が検出された場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであると判定するものであった。
【0014】
ところで、少量の核酸試料を用いて核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定することが必要な場合がある。しかしながら、例えば電気泳動等により上記の第四核酸の存在を検出する場合には、比較的大量の第四核酸が必要である。このため、核酸試料が少量しか用意できない場合、第四核酸を少量しか形成できず、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定することが困難な場合がある。
【0015】
このような場合、第四核酸の存在を、酵素反応を利用した生化学的手法により検出することが考えられる。しかしながら、第四核酸は天然の核酸と構造が異なっているため、非天然の構造が障害となり、酵素反応を行うことができない場合がある。
【0016】
そこで、本発明は、核酸試料が少量しか存在しない場合においても、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下の態様を含む。
[1]核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定する方法であって、前記核酸試料である第一核酸と、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基を有する第二核酸と、前記第一核酸と相補的な領域及び前記第二核酸と相補的な領域を有する第三核酸とをハイブリダイズさせ、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基とを近接させる工程(a)と、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基との結合反応を行い、前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであった場合には、前記第一核酸と前記第二核酸とが結合した第四核酸が生成される工程(b)と、前記第四核酸を回収する工程(c)と、回収した前記第四核酸を前記第一核酸と前記第二核酸とに開裂させる工程(d)と、前記第一核酸又は前記第二核酸の存在を検出し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出された場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであると判定し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出されなかった場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンではないと判定する工程(e)と、を備える方法。
[2]前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基との結合がエステル結合である、[1]に記載の方法。
[3]前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基が下記式(1)で表される基である、[1]又は[2]に記載の方法。
【化1】
[式(1)中、AはO、S又はNHを表す。]
[4]前記第四核酸は、塩基性条件下で前記第一核酸及び前記第二核酸に開裂する、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記第二核酸が固相上に固定化されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記第一核酸又は前記第二核酸の存在が核酸増幅法により検出される、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記第一核酸又は前記第二核酸の存在が電気泳動を用いて検出される、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[8]下記式(2)で表される核酸誘導体。
【化2】
[式(2)中、AはO、S又はNHを表し、R
1はリボース又はデオキシリボースを表し、R
4はデオキシリボースを表し、R
2、R
3及びR
5はポリヌクレオチドを表す。]
[9]核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かの判定用キットであって、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基を有する第二核酸と、前記核酸試料である第一核酸と相補的な領域及び前記第二核酸と相補的な領域を有する第三核酸を備えるキット。
[10]前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基が下記式(1)で表される基である、[9]に記載のキット。
【化3】
[式(1)中、AはO、S又はNHを表す。]
[11]縮合剤を更に備える、[9]又は[10]に記載のキット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、核酸試料が少量しか存在しない場合においても、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定する方法>
1実施形態において、本発明は、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定する方法であって、前記核酸試料である第一核酸と、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基を有する第二核酸と、前記第一核酸と相補的な領域及び前記第二核酸と相補的な領域を有する第三核酸とをハイブリダイズさせ、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基とを近接させる工程(a)と、前記塩基と前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基との結合反応を行い、前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであった場合には、前記第一核酸と前記第二核酸とが結合した第四核酸が生成される工程(b)と、前記第四核酸を回収する工程(c)と、回収した前記第四核酸を前記第一核酸と前記第二核酸とに開裂させる工程(d)と、前記第一核酸又は前記第二核酸の存在を検出し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出された場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであると判定し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出されなかった場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンではないと判定する工程(e)と、を備える方法を提供する。
【0021】
本実施形態の方法によれば、核酸試料が少量しか存在しない場合においても、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定することができる。また、操作も簡便で正確な判定が可能である。本実施形態の方法は、DNA中の局所的な5−ヒドロキシメチルシトシンの検出に特化しており、検出効率がよい。また、従来法と比較して反応工程が少ないため、貴重なDNAサンプルのロスも防ぐことができる。
【0022】
図1は、本実施形態の方法を説明する図である。図中の第一核酸は核酸試料であり、5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かの識別対象の塩基Xを有する核酸である。また、第二核酸は5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yを有する核酸であり、前記5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yに隣接する少なくとも3塩基がグアニン又はシトシンである。ここで、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yは、第二核酸の5’末端に位置していることが好ましい。また、第三核酸は、第一核酸と相補的な領域及び第二核酸と相補的な領域を有する核酸断片であり、第一核酸及び第二核酸とハイブリダイズすることにより、塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとを近接させることができる核酸である。
【0023】
以下、本実施形態の方法の各工程を説明する。
[工程(a)]
図1に示すように、本工程では、第一核酸と第二核酸と第三核酸とをハイブリダイズさせ、塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとを近接させる。
【0024】
核酸試料が2本鎖核酸である場合には、熱変性処理や化学変性処理等により1本鎖化した後に第一核酸として用いるとよい。
【0025】
第一核酸、第二核酸及び第三核酸のハイブリダイズは、核酸のハイブリダイゼーションを行う一般的な温度、pH、塩濃度、緩衝液等の条件下で行うことができるが、後述する工程(b)における第一核酸と第二核酸との結合反応を行う反応溶液と同一の反応溶液中で行うことが好ましい。
【0026】
上記の反応溶液は、緩衝作用のある塩を含むことが好ましい。反応溶液のpHは、6.5〜8.5であることが好ましく、pH7.0〜8.0であることがより好ましい。また、緩衝作用のある塩の濃度は、5〜250mMであることが好ましく、10〜100mMであることがより好ましい。緩衝作用のある塩としては、カコジル酸塩、リン酸塩、トリス塩等が挙げられる。
【0027】
緩衝作用のある塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。緩衝作用のある塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本明細書において、核酸は、DNA又はRNAであれば特に限定されず、天然のものであってもよく、合成されたものであってもよい。天然の核酸としては、例えば、動物、植物、微生物、培養細胞等の生体試料から抽出された、ゲノムDNA、mRNA、rRNA、hnRNA、miRNA、tRNA等が挙げられる。生体試料からの核酸の抽出は、フェノール/クロロホルム法等の公知の方法により行うことができる。
【0029】
合成された核酸としては、β−シアノエチルホスフォロアミダイト法、DNA固相合成法等の公知の化学的合成法により合成されたDNA、PCR等の公知の核酸増幅法により増幅された核酸、逆転写反応により合成されたcDNA等が挙げられる。核酸増幅法としては、例えば、PCR法、LAMP法、SMAP法、NASBA法、RCA法等が挙げられる。
【0030】
[工程(b)]
本工程では、近接させた塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとの結合反応を行う。その結果、塩基Xが5−ヒドロキシメチルシトシンであった場合には、第一核酸と第二核酸とが結合した第四核酸が生成される。また、塩基Xが5−ヒドロキシメチルシトシン以外の塩基であった場合には、第四核酸は生成されない。
図1においては、塩基Xが5−ヒドロキシメチルシトシンであるため、第四核酸が生成される。
図1中、Zは第一核酸と第二核酸との結合部位を表す。
【0031】
本工程において、塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとの結合は、共有結合であってもよい。また、当該共有結合は、例えばエステル結合であってもよい。
【0032】
塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとの共有結合は、上述した工程(a)で塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとを適切な位置に近接させた後、縮合剤を反応させることにより形成してもよい。
【0033】
この場合、縮合剤としては、水中で作用することができる脱水縮合剤等が挙げられる。縮合剤は予め反応溶液中に添加していてもよく、工程(a)の後に反応溶液中に添加してもよい。
【0034】
より具体的な縮合剤としては、例えば、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド;エチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等のカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0035】
5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yは、下記式(1)で表される基であってもよい。
【化4】
【0036】
式(1)中、AはO、S又はNHを表す。5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yが上記式(1)で表される基であることにより、上述した工程(a)で塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとを、両者の特異的な結合に適切な位置に近接させることができる。その結果、塩基Xが5−ヒドロキシメチルシトシンであった場合には、塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとが結合可能になる。
【0037】
上記式(1)において、AがOである場合、上記式(1)で表される基は、5−カルボキシビニルウラシルの一部である。
【0038】
塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとの共有結合は、上述した工程(a)で塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとを適切な位置に近接させた後、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Y自身の作用による化学結合で形成してもよい。
【0039】
このような5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとしては、例えばカルボキシル基が挙げられる。
【0040】
塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとが共有結合を形成するのに要する時間は、1秒以上、10秒以上、30秒以上、1分間以上、5分間以上、10分間以上、又は15分間以上の時間とすることができる。また、60分間以下、45分間以下、又は30分間以下の時間とすることができる。
【0041】
塩基Xと5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基Yとが共有結合を形成するのに要する時間は、1分間〜60分間であってもよく、1分間〜45分間であってもよく、5分間〜45分間であってもよく、5分間〜30分間であってもよく、10分間〜30分間であってもよく、15分間〜30分間であってもよい。
【0042】
[工程(c)]
本工程において、上記の第四核酸を回収する。なお、識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンでなかった場合には、前記第一核酸と前記第二核酸とが結合した第四核酸は生成されないため、本工程で第四核酸が回収されることはない。
【0043】
第四核酸の回収方法は特に制限されず、例えば、上記の第二核酸を固相上に固定化しておき、上記の工程(a)〜(c)を実施した後、固相を洗浄することが挙げられる。これにより、第四核酸が生成されていた場合には、固相上に第四核酸を回収することができる。なお、本工程においては、第四核酸のみを回収することが好ましく、特に未反応の(第四核酸を形成していない)第一核酸及び第二核酸を完全に除去することが好ましい。
【0044】
[工程(d)]
続いて、本工程において、回収した前記第四核酸を前記第一核酸と前記第二核酸とに開裂させる。なお、識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンでなかった場合には、第四核酸が回収されることはないため、本工程において第一核酸及び第二核酸が生成されることはない。
【0045】
前記第四核酸を前記第一核酸と前記第二核酸とに開裂させる前記工程は、塩基性条件下で行うことが好ましい。これにより、天然の核酸構造を有する第一核酸及び第二核酸に開裂させることができる。このため、得られた第一核酸又は第二核酸に、酵素反応等の生化学的手法を適用することが可能となる。
【0046】
塩基性条件としては、例えば、pH9〜11の条件が挙げられる。pHの調製は、第四核酸に、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液(水酸化アンモニウム水溶液)等を添加することにより行うことができる。
【0047】
また、第四核酸を第一核酸と第二核酸とに開裂させた後、溶媒のpHを中性に調整してもよい。試料のpHの調整は中和することにより行ってもよい。あるいは、例えばエタノール沈殿等を行った後、所望のバッファーに交換してもよい。あるいは、適切なカラムを用いてバッファー交換を行ってもよい。
【0048】
[工程(e)]
続いて、本工程において、前記第一核酸又は前記第二核酸の存在を検出し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出された場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであると判定し、前記第一核酸又は前記第二核酸が検出されなかった場合には前記塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンではないと判定する。
【0049】
第一核酸又は第二核酸の存在は核酸増幅法により検出してもよい。核酸増幅法としては上述したものが挙げられる。核酸増幅法を用いることにより、第一核酸又は第二核酸が少量しか存在しない場合においても第一核酸又は第二核酸を検出することができる。
【0050】
第一核酸又は第二核酸が十分量存在する場合には、第一核酸又は第二核酸の存在を、例えば電気泳動を用いて検出してもよい。より具体的には、例えば、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等が挙げられる。この場合、第一核酸又は第二核酸に特異的なバンドが検出されるか否かにより、第一核酸又は第二核酸の存在を検出することができる。
【0051】
本実施形態の方法において、上記の第二核酸は固相上に固定化されていてもよい。固相としては、例えば、ビーズ等の粒子、スライドガラス等の板状基板、膜等が挙げられる。また、上記の板状基板には、凹部(ウェル)や流路等が設けられていてもよい。
【0052】
<核酸誘導体>
1実施形態において、本発明は、下記式(2)で表される核酸誘導体を提供する。式(2)中、AはO、S又はNHを表し、R
1はリボース又はデオキシリボースを表し、R
4はデオキシリボースを表し、R
2、R
3及びR
5はポリヌクレオチドを表す。
【化5】
【0053】
本実施形態の核酸誘導体は、上述した第四核酸に相当する。より具体的には、R
3、R
4、R
5が第一核酸に由来するポリヌクレオチド鎖であり、R
1、R
2が第二核酸に由来するポリヌクレオチド鎖である。
【0054】
上述した、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定する方法において、本実施形態の核酸誘導体が形成されることは、識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであることを示す。
【0055】
<キット>
1実施形態において、本発明は、核酸試料中の識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かの判定用キットであって、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基を有する第二核酸と、前記核酸試料である第一核酸と相補的な領域及び前記第二核酸と相補的な領域を有する第三核酸と、を備えるキットを提供する。
【0056】
本実施形態のキットにおいて、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基は、下記式(1)で表される基であってもよい。式(1)中、AはO、S又はNHを表す。
【化6】
【0057】
本実施形態のキットは、縮合剤を更に備えていてもよい。縮合剤としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0058】
本実施形態のキットにおいて、上記の第二核酸は固相上に固定化されていてもよい。固相としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実験例1]
4つの反応チューブに、表1に示す塩基配列を有する、第一核酸(1)、第一核酸(2)、第二核酸、第三核酸、3−モルフォリノプロパンスルフォン酸溶液、MgCl
2溶液及び蒸留水を、それぞれ表2に示す濃度となるように混合した。表1中、「
hmC」は5−ヒドロキシメチルシトシンを表し、「
CVU」は5−カルボキシビニルウラシルを表す。
【0061】
第二核酸において、5−ヒドロキシメチルシトシン特異的結合基は5−カルボキシビニルウラシル基(より詳細には、5−カルボキシビニルウラシル基のカルボキシル基)である。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
続いて、反応チューブ2及び5に、縮合剤である4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(340mM)を20μLずつ添加して混合した。また、反応チューブ1及び4に、蒸留水を20μLずつ添加して混合した。
【0065】
続いて、反応チューブ1、2、4、5をサーマルサイクラーにセットし、37℃で12時間静置した。
【0066】
続いて、反応チューブ2及び5から、10μLずつ取り出して、それぞれ新しい反応チューブ3及び6に移した。続いて、反応チューブ3及び6に、1M NaOH水溶液を10μLずつ添加して、37℃で12時間静置した。その後、反応チューブ1〜6内の試料を、15%ポリアクリルアミドゲル(モノアクリルアミド:ビスアクリルアミド=19:1)を用いた電気泳動に供し、反応の確認を行った。
【0067】
図2は、電気泳動の結果を示す写真である。
図2のレーン1〜6には、それぞれ上記の反応チューブ1〜6内の試料を電気泳動した。標的(核酸試料)として5−ヒドロキシメチルシトシンを含む第一核酸(1)を用いた反応系がレーン1〜3であり、5−ヒドロキシメチルシトシンを含まない第一核酸(2)を用いた反応系がレーン4〜6である。
【0068】
図2中、レーン1の「a」で示す位置のバンドは第三核酸に相当する。また、「b」で示す位置のバンドは第一核酸(1)又は第一核酸(2)に相当する。また、「c」で示す位置のバンドは第二核酸に相当する。また、レーン2の「d」で示す位置のバンドは第四核酸に相当する。また、「e」で示す位置のバンドは第一核酸(1)と第二核酸とが第三核酸とハイブリダイズしたものに相当する。また、レーン3はチューブ3の内容物であり第四核酸が消失していることが示されている。
【0069】
対照実験として、5−ヒドロキシメチルシトシンを含まない第一核酸(2)を用いた反応系がレーン4〜6である。
図2中、「f」で示す位置のバンドは第一核酸(2)と第二核酸とが第三核酸とハイブリダイズしたものに相当する。レーン4〜6では連結反応が生じずに、いずれも変化していないことを示している。
【0070】
その結果、識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンである第一核酸(1)を反応させた反応チューブ2の試料のみにおいて、第四核酸の生成が観察された。
【0071】
また、チューブ2の反応液を塩基性条件下に置いたチューブ3では、第四核酸の消失が観察された。この結果から、第一核酸及び第二核酸の結合による第四核酸の生成、並びに、第四核酸の第一核酸及び第二核酸への開裂が可逆的であることが確認された。非天然型の核酸構造である第四核酸を、天然の核酸構造を有する第一核酸及び第二核酸に開裂させることにより、酵素反応等の生化学的な手法を適用することが可能となる。
【0072】
また、識別対象の塩基がシトシンであった第一核酸(2)を反応させた反応チューブ5の試料中には、第四核酸の生成は認められなかった。また、チューブ5の反応液を塩基性条件下に置いたチューブ6にも変化は見られなかった。
【0073】
以上の結果は、本実験例の反応により、識別対象の塩基が5−ヒドロキシメチルシトシンであるか否かを判定することができることを示す。