特許第6769074号(P6769074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769074
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】安定化された塩化ビニル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20201005BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20201005BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20201005BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20201005BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20201005BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20201005BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08K9/04
   C08K5/56
   C08L23/00
   C08L25/00
   C08K5/09
   C08J3/22CEV
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-69332(P2016-69332)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179136(P2017-179136A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079120
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕市
(72)【発明者】
【氏名】田井 康寛
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−165842(JP,A)
【文献】 特開平01−299855(JP,A)
【文献】 特開平05−051565(JP,A)
【文献】 特表2001−504157(JP,A)
【文献】 特開平10−053668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00−27/24
C08K 5/09
C08K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、
(a)アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩60〜40重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を持たない樹脂40〜60重量%とからなり、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチ0.05〜2.0重量部及び
(b)ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及び酸化ポリエチレンワックスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部
を含む塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、マスターバッチ0.1〜1.0重量部及び/又はステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及び酸化ポリエチレンワックスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を有する有機物質0.1〜1.0重量部を含む請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩80〜10重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を持たない樹脂20〜90重量%を溶融混練した後、固化し、粉砕して、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチを粉体状組成物として得る第1の工程及び
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記マスターバッチ0.05〜2.0重量部と酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部を配合する第2の工程
を有する
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、
(a)アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩80〜10重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を持たない樹脂20〜90重量%とからなり、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチ0.05〜2.0重量部及び
(b)ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及び酸化ポリエチレンワックスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部
を含む塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
第2の工程において、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、マスターバッチ0.1〜1.0重量部及び/又はステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及び酸化ポリエチレンワックスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸価を有する有機物質0.1〜1.0重量部を配合する請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定化された塩化ビニル系樹脂組成物に関し、詳しくは、表面に樹脂からなる被覆を有するアセチルアセトン金属塩を熱安定剤として含むマスターバッチを塩化ビニル系樹脂組成物に配合してなり、経時的にも、また、加熱下においても、アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能の劣化なしに、安定性を有する塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム、アセチルアセトン亜鉛のようなアセチルアセトン金属塩は、塩素含有樹脂組成物、なかでも、ポリ塩化ビニルを含む塩化ビニル系樹脂組成物のための有効な熱安定剤として古くより知られている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤は、そのような安定剤と共に滑剤、着色剤、充填剤や、その他の添加剤からなる粉体や粒状物とした安定剤組成物、所謂ワンパックとして、塩化ビニル系樹脂組成物の製造において用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
安定剤としてアセチルアセトン金属塩を含む上述した安定剤組成物は、通常、アセチルアセトン金属塩と、必要に応じて、滑剤、着色剤、充填剤や、その他の添加剤と共に常温下に混合すれば、粉体として得ることができ、また、それらを混合した後、加熱造粒すれば、粒状物として得ることができる(特許文献2参照)。
【0005】
一方、ポリプロピレンやポリスチレンのような熱可塑性樹脂に紫外線遮蔽性、制振性、抗菌性等の機能性を付与するために、上記アセチルアセトン金属塩を熱可塑性樹脂に高濃度で配合し、押出機を用いて溶融混練し、ペレットとし、これをマスターバッチとして上記と同じ熱可塑性樹脂に配合し、成形品とすることが提案されている(特許文献3参照)。このようなマスターバッチは、上述したように、これまで、一般的に、マスターバッチに用いられている樹脂成分と同じ樹脂に配合して、最終的な樹脂組成物とされている。
【0006】
上述したように、アセチルアセトン金属塩は、塩化ビニル樹脂組成物のための安定剤として有用であるが、一方において、従来、種々の問題を有することが知られており、例えば、アセチルアセトン金属塩は経時的に安定剤としての性能が劣化しやすいことが知られている(特許文献4参照)。
【0007】
本発明者らは、アセチルアセトン金属塩及びそれを含む安定剤組成物の性能の改善を目的とした研究の過程において、アセチルアセトン金属塩をその他の成分と混合し、加熱造粒して、粒状物として、塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤組成物を製造したとき、多くの場合、その際の加熱によって、アセチルアセトン金属塩が分解する結果、安定剤としての性能の劣化しない安定剤組成物を得ることができないこと、従って、また、従来のアセチルアセトン金属塩やこれを含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル樹脂組成物を加熱成形したとき、多くの場合、得られる成形品に望ましくない熱着色が生じることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−299855号公報
【特許文献2】特開2012−167232号公報
【特許文献3】特開平10−72552号公報
【特許文献4】特表2001−504157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、アセチルアセトン金属塩における上述した問題を解決するために、鋭意、研究した結果、アセチルアセトン金属塩と共に種々の安定剤や、その他の添加剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤組成物中において、また、アセチルアセトン金属塩とその他の種々の添加剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物において、アセチルアセトン金属塩が経時的に又は加熱下に酸価を有する有機物質、代表的には、滑剤としてよく用いられるステアリン酸や酸化ポリエチレンワックス等と反応し、分解して、アセチルアセトンを生成し、その結果として、アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能が劣化することを見出した。
【0010】
そこで、本発明者らは、特定のアセチルアセトン金属塩と樹脂を溶融混練し、固化し、粉砕して、粉体状組成物とすれば、アセチルアセトン金属塩は、その表面が上記樹脂によって被覆されているので、そこで、上記粉体状組成物をマスターバッチとして、酸価を有する有機物質と共に塩化ビニル樹脂に配合して塩化ビニル系樹脂組成物とするとき、その塩化ビニル系樹脂組成物においては、アセチルアセトン金属塩が経時的に又は加熱下に上記酸価を有する有機物質と反応して、分解することがないので、その塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的にも、また、加熱下にも安定性を有することを見出した。
【0011】
かくして、本発明者らは、アセチルアセトン金属塩を安定剤として含む塩化ビニル系樹脂組成物において、アセチルアセトン金属塩が経時的に又は加熱下に安定剤としての性能が劣化する問題を解決して、アセチルアセトン金属塩を安定剤として含みながら、経時的にも、また、加熱下においても、アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能の劣化がなく、安定化された塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、
(a)アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩80〜10重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂20〜90重量%とからなり、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチ0.05〜2.0重量部及び
(b)酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部
を含む塩化ビニル系樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法であって、
アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩80〜10重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂20〜90重量%を溶融混練した後、固化し、粉砕して、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチを粉体状組成物として得る第1の工程及び
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記マスターバッチ0.05〜2.0重量部と酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部を配合する第2の工程
を有する塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、上述したように、特定のアセチルアセトン金属塩と樹脂とからなり、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチ、詳しくは、上記特定のアセチルアセトン金属塩と樹脂を溶融混練した後、固化し、粉砕して、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含む粉体状組成物としてのマスターバッチを含むので、ステアリン酸や酸化ポリエチレンワックスのような酸価を有する有機物質を同時に含みながら、上記アセチルアセトン金属塩は、経時的に又は加熱下に上記酸価を有する有機物質と反応し、分解することがない。
【0015】
その結果、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物においては、経時的にも、また、加熱下においても、上記アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能の劣化がないので、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的にも、加熱下においても、安定であって、着色が起こらない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、
(a)アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩80〜10重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂20〜90重量%とからなり、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチ0.05〜2.0重量部及び
(b)酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部
を含む。
【0017】
本発明において、上記マスターバッチは、上記アセチルアセトン金属塩80〜10重量%と上記樹脂20〜90重量%とからなり、特に、好ましくは、上記アセチルアセトン金属塩60〜40重量%と上記樹脂40〜60重量%とからなる。
【0018】
マスターバッチにおける上記アセチルアセトン金属塩と上記樹脂の配合割合によっては、そのようなマスターバッチを塩化ビニル系樹脂組成物に混合し、押出成型したとき、得られた成型体の表面に上記樹脂が分散せずに、「ブツ」と呼ばれる0.1mm〜0.2mm程度の粒や痘痕を生成して、光沢不良を起こすことがある。しかし、マスターバッチにおける上記アセチルアセトン金属塩と上記樹脂の配合割合を上記アセチルアセトン金属塩60〜40重量%と上記樹脂40〜60重量%とするとき、上述したような光沢不良の殆どない外観にすぐれた成型体を得ることができる。
【0019】
上記アセチルアセトン金属塩と上記樹脂の配合割合に関し、上記アセチルアセトン金属塩の割合が80重量%を超えるときは、上記樹脂と混練できず、マスターバッチを作成することが困難であり、反対に、上記アセチルアセトン金属塩の割合が10重量%よりも少ないときは、得られるマスターバッチに含まれるアセチルアセトン金属塩の量が少ないので、塩化ビニル系樹脂組成物の製造に多量のマスターバッチを必要とし、塩化ビニル系樹脂組成物の製造費用を徒に高めることとなる。
【0020】
上記マスターバッチ中のアセチルアセトン金属塩は、上記樹脂からなる被覆を有しており、アセチルアセトン金属塩の粒子のそれぞれがその表面に上記樹脂からなる被覆を有していてもよく、また、複数の上記金属塩の粒子が上記樹脂からなる被覆を共有していてもよい。
【0021】
上記マスターバッチは、上記アセチルアセトン金属塩と上記樹脂を溶融混練した後、固化し、粉砕して、粉体状組成物として得ることができる。
【0022】
上記アセチルアセトン金属塩と上記樹脂を溶融混練するための手段及び方法は、特に、限定されるものではなく、例えば、単軸又は二軸以上の多軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等、従来、知られている溶融混練手段が用いられる。好ましくは、単軸又は二軸以上の多軸押出機が用いられる。
【0023】
上記のように、上記アセチルアセトン金属塩と上記樹脂を溶融混練することによって、上記アセチルアセトン金属塩の表面に上記樹脂からなる被覆を形成することができる。
【0024】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記マスターバッチ0.05〜2.0重量部と酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部を含む。
【0025】
上記塩化ビニル系樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記マスターバッチの量が0.05重量部よりも少ないときは、得られる塩化ビニル樹脂組成物における安定剤の量が少なすぎて、経時的に又は加熱下において、着色が起こりやすい。しかし、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記マスターバッチの量が2.0重量部よりも多いときは、塩化ビニル系樹脂組成物中のマスターバッチの前記樹脂の量やアセチルアセトン金属塩の量が過剰になるため、押出成型によって得られた成型体の外観不良やプレートアウトが生じやすくなる。
【0026】
本発明によれば、塩化ビニル系樹脂100重量部は、好ましくは、上記マスターバッチを0.1〜1.0重量部の範囲で含む。
【0027】
また、上記酸価を有する有機物質とは、塩化ビニル系樹脂組成物において、通常、用いられる添加剤であって、酸価を有するものであれば、特に限定されるものではないが、好ましい例として、例えば、滑剤であるステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及び酸化ポリエチレンワックスよりなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0028】
本発明による塩化ビニル樹脂組成物において、酸価を有する有機物質の割合は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、通常、0.01〜2.0重量部の範囲であり、好ましくは、0.1〜1.0重量部の範囲である。
【0029】
本発明においてマスターバッチに配合する樹脂として用いる上記樹脂は、酸価を持たないことが知られており、そのような酸価を持たない樹脂を用いたマスターバッチはアセチルアセトン金属塩を分解するおそれがない。
【0030】
上記以外の樹脂、例えば、ポリエステル樹脂等を用いた場合は、得られたマスターバッチは塩化ビニル系樹脂に混合することができないおそれがあり、また、アセチルアセトン金属塩を分解するおそれがある。
【0031】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、このように、安定剤として、表面に前記酸価を実質的にもたない樹脂からなる被覆を有するので、同時に酸価を有する有機物質を含んでいても、経時的にも、また、加熱下においても、上記酸価を有する有機物質と反応して、分解することがなく、かくして、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的にも、また、加熱下においても、アセチルアセトン金属塩による安定剤としての効果によって、安定性を保持している。
【0032】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、
アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム及びアセチルアセトン亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアセチルアセトン金属塩80〜10重量%とポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びABS樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂20〜90重量%を溶融混練した後、固化し、粉砕して、表面に上記樹脂からなる被覆を有する上記アセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチを粉体状組成物として得る第1の工程及び
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記マスターバッチ0.05〜2.0重量部と酸価を有する有機物質0.01〜2.0重量部を配合する第2の工程
を有する方法によって得ることができる。
【0033】
本発明において、上記塩化ビニル系樹脂は、特に、限定されるものではないが、具体例として、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニリトル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体等の塩素含有樹脂や、これらのブレンド物、更には、上記とその他の塩素を含まない合成樹脂、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリリレート共重合体、ポリエステル等とのブレンド物や、ブロック共重合体、グラフト共重合体等を挙げることができる。
【0034】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、上述したアセチルアセトン金属塩を含むマスターバッチと酸価を有する有機物質と共に、必要に応じて、その他の安定剤と適宜の添加剤、例えば、前記以外の滑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、充填剤等を含んでいてもよい。
【0035】
上記その他の安定剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の有機酸金属塩や、ジペンタエリスリトールを含む種々の多価アルコールやその有機酸とのエステル、ハイドロタルサイトを挙げることができる。上記有機酸金属塩は滑剤としても用いられる。
【0036】
酸化防止剤、着色剤、充填剤等の添加剤は、塩化ビニル樹脂組成物において、通常、用いられるものであれば、特に、制約なしに、従来、知られているものが適宜に用いられる。
【0037】
更に、本発明による塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部について、可塑剤0〜15重量部を含んでもよい。
【0038】
上記可塑剤としては、従来、塩化ビニル樹脂組成物に用いられているもの、例えば、フタレート系可塑剤、アジペート系可塑剤、ホスフェート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を含め、いずれも適宜に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の実施例を比較例と共に挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0040】
実施例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)とポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16)を重量比1:1でコニカルミキサーでブレンドした。
【0041】
シリンダー径30mmの2軸押出機(L/D=40)((株)塚田樹機製RT30)を用いて、上記ブレンド物をシリンダー温度190℃、金型温度200℃にて溶融混練し、押出して、アセチルアセトンカルシウムとポリエチレン樹脂からなる組成物をペレットとして得た。このペレットをアトマイザーで微粉砕して、マスターバッチを粉末状組成物として得た。
【0042】
参考例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製アロディアスタブX77)とポリエチレン
樹脂(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16)を重量比
1:2でコニカルミキサーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様に
して、マスターバッチを粉末状組成物として得た。
【0043】
実施例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製アロディアスタブX77)とポリスチレン
樹脂(PSジャパン(株)製ポリスチレンHF−77)を重量比1:1でコニカルミキサ
ーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様にして、マスターバッチを
粉末状組成物として得た。
【0044】
参考例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)とポリプロピレン
樹脂(サンアロマー(株)製PM−900A(MFR=30)を重量比1:2でコニカル
ミキサーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様にして、マスターバ
ッチを粉末状組成物として得た。
【0045】
参考例3
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)とポリエチレン樹
脂(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16)を重量比3
:1でコニカルミキサーでブレンドした。
【0046】
予め、200℃に加熱した加圧式ニーダー型混合機((株)モリヤマ製DS0.5−3GHH−E型ニーダー)を用いて、上記ブレンド物を10分間、溶融混練した後、冷却し、固化させて、アセチルアセトンカルシウムとポリエチレン樹脂からなら固体状組成物を得た。この固体状組成物をアトマイザーで微粉砕して、マスターバッチを粉末状組成物として得た。
【0047】
参考例4
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)とポリエチレン樹
脂(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16)を重量比1
:4でコニカルミキサーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様にし
て、マスターバッチを粉末状組成物として得た。
【0048】
実施例3
アセチルアセトン亜鉛(堺化学工業(株)製)とポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン
(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16)を重量比1:1でコニカルミキサ
ーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様にして、マスターバッチを
粉末状組成物として得た。
【0049】
実施例4
アセチルアセトンマグネシウム(堺化学工業(株)製)とポリエチレン樹脂(日本ポリ
エチレン(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16)を重量比1:1でコニカ
ルミキサーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様にして、マスター
バッチを粉末状組成物として得た。
【0050】
実施例5
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)とABS樹脂(日
本エイアンドエル(株)製 サンタックUT−61、MFR=35)を重量比1:1でコ
ニカルミキサーでブレンドした。このブレンド物を用いて、実施例1と同様にして、マス
ターバッチを粉末状組成物として得た。
【0051】
比較例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)をそのまま、用いた。
【0052】
比較例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)とポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL UJ370(MFR=16))を室温で重量比1:1でコニカルミキサーでブレンドして、アセチルアセトンカルシウムとポリエチレン樹脂からなる混合物を得、これをアトマイザーで微粉砕して、マスターバッチを粉末状混合物として得た。
【0053】
以上のようにして得られた上記実施例及び比較例によるマスターバッチをそれぞれ下記組成物と共に粒状組成物とし、これを塩化ビニル樹脂に配合し、ロールシートとプレスシートに成形して、得られた各シートの着色の度合いを目視にて調べて、上記アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能を下記の試験によって調べた。
【0054】
試験方法1(加熱粒状化による性能変化の試験)
下記の組成物を調製した。
【0055】
【表1】
【0056】
上記実施例及び比較例において得られたマスターバッチのそれぞれ0.5Kgと上記組成物4.4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、80℃まで撹拌加熱した後、常温まで放冷し、かくして、粒状化してなる粒子状組成物を得た。
【0057】
塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に上記粒子状組成物2重量部を配合し、得られた塩化ビニル樹脂組成物を170℃で8インチロールにて3分間混練してロールシートを得た。このロールシートについて、配合したアセチルアセトン金属塩の安定剤としての熱着色防止効果を目視で評価した。
【0058】
更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得た。このプレスシートについても、配合したアセチルアセトン金属塩の安定剤としての熱着色防止効果を目視で評価した。併せて、上記粒子状組成物の臭気についても評価した。
【0059】
結果を表2に示す。得られたロールシートとプレスシートの熱着色の評価は次の基準によった。シートに着色が認められないときを○とし、シートにやや着色が認められるが、許容できる範囲であるときを△とし、シートに顕著に着色が認められるときを×とした。また、粒子状組成物の臭気の評価は次の基準によった。臭気が認められないときを○、臭気が幾分、認められるが、許容できる範囲であるときを△とし、臭気が著しいときを×とした。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例によるマスターバッチを含む塩化ビニル樹脂組成物からのシートには、熱着色は認められなかった。
【0062】
しかし、比較例1に示すように、アセチルアセトン金属塩をそのまま、塩化ビニル樹脂に配合してなる塩化ビニル樹脂組成物からのシートには、著しい熱着色が認められた。また、粒子状混合物も臭気の著しいものであった。
【0063】
比較例2によるマスターバッチを配合した塩化ビニル系樹脂組成物からのシートも、著しい熱着色が認められた。また、粒子状混合物も臭気の著しいものであった。
【0064】
評価方法2(単純混合による経時変化試験)
上記実施例及び比較例において得られたマスターバッチ0.5Kgと前記組成物の4.4Kgを20L容量のコニカルミキサーに投入し、室温(30℃)にて混合して、粒子状組成物を得た。
【0065】
上記粒子状組成物をその製造の直後にその一部の2重量部をとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に加え、得られた塩化ビニル樹脂組成物を170℃で8インチロールにて3分間混練してシートを得た。このロールシートについて、上記粒子状組成物による着色防止効果を目視で評価した。更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得、このプレスシートについても、上記粒子状組成物による着色防止効果を目視で評価した。
【0066】
また、上記粒子状組成物の一部をポリエチレン袋に入れ、30℃で1か月間保管した後、その2重量部をとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に加え、得られた塩化ビニル樹脂組成物を170℃で8インチロールにて3分間混練してシートを得た。このロールシートについて、上記粒子状組成物による着色防止効果を目視で評価した。更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得た。このプレスシートについても、上記粒子状組成物による着色防止効果を目視で評価した。
【0067】
更に、上記30℃で1か月間保管した粒子状組成物から3Kgをとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100Kgに加え、ヘンシェルミキサーにて80℃まで撹拌混合して、塩化ビニル樹脂組成物を得た。シートダイを装着した(株)東洋精機製作所製2軸コニカル押出機のスクリュー及びシートダイ温度を各180℃に設定して、上記塩化ビニル樹脂組成物30Kgを用いて、幅30mm×長さ30cmのテープ状成型体を得た。得られた成型体の外観について、表面を目視で評価した。
【0068】
結果を表3に示す。製造直後の粒子状組成物を配合した塩化ビニル樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートの着色はそれぞれロールシートの着色(1)とプレスシートの着色(1)として示し、製造後、30℃で1か月間保管した粒子状組成物を配合した塩化ビニル樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートの着色はそれぞれロールシートの着色(2)とプレスシートの着色(2)として示す。シートの着色の評価の基準は前記と同じである。
【0069】
成型体の外観は以下のようにして評価した。即ち、マスターバッチに配合した樹脂の分散不良による0.1〜0.2mm程度の粒や痘痕の数が成型体(幅30mm×長さ30cm)の表面に1個以下であり、外観が平滑性にすぐれるときを○とし、3個以下であって、許容できる外観を有するときを△とし、4個以上のときを外観不良とし、×とした。
【0070】
【表3】

【0071】
実施例による製造直後及び製造後1か月保管した後の粒子状組成物を含む塩化ビニル樹脂組成物はいずれも、熱着色なしにロールシートとプレスシートを与えた。
【0072】
一方、アセチルアセトン金属塩をそのまま、用いて、粒子状組成物とし、これを塩化ビニル樹脂に配合してなる塩化ビニル樹脂組成物と、アセチルアセトン金属塩とポリエチレン樹脂の単なる混合物を用いて、粒子状組成物とし、これを塩化ビニル樹脂に配合してなる塩化ビニル樹脂組成物はいずれも、製造直後の粒子状組成物を含む塩化ビニル樹脂組成物は、熱着色なしにロールシートとプレスシートを与えたが、1か月間保管した粒子状組成物を配合した塩化ビニル樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、著しい着色が認められた。
【0073】
また、実施例による製造後1か月保管した後の粒子状組成物を含む塩化ビニル樹脂組成物のうち、マスターバッチ中のアセチルアセトン金属塩と樹脂の割合が1:1の場合に成型体が外観に特にすぐれることが認められた。