(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダ室(40)を有するシリンダ(22)と、該シリンダ室(40)の内部で偏心回転動作をするピストン(25)と、上記シリンダ室(40)を低圧側シリンダ室(40a)と高圧側シリンダ室(40b)に区画するブレード(26)と、シリンダ(22)の軸方向の両端を閉塞するシリンダ端板(23,24)とを備え、ブレード(26)がピストン(25)の自転を規制するように構成された回転式圧縮機であって、
上記シリンダ端板(23,24)に上記高圧側シリンダ室(40b)と連通する吐出ポート(42)が形成され、
上記ピストン(25)とブレード(26)とが一体に形成され、
上記ピストン(25)の外周面におけるブレード(26)の根元部分に平面部(25a)が形成され、
上記ピストン(25)の外周の角部には、該ピストン(25)の偏心回転動作中に少なくとも上記吐出ポート(42)と重なる部分に、上記平面部(25a)に沿って面取り(25b)が形成され、
上記面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)に連通する範囲に形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧縮機構(60)で圧縮された冷媒が吐出ポート(55)を通ってシリンダ室(50)からケーシング内の空間へ流出するとき、その吐出行程の終盤では、吐出ポート(55)の面積の大半はピストン(53)の端面に塞がれる。そして、このときには、
図9に示すように、シリンダ室のうちで冷媒を吐出する空間になっている高圧側シリンダ室(50a)と上記吐出ポート(55)との間にピストン(53)の角部(53a)が存在する状態になっているために、その高圧側シリンダ室(50a)から吐出ポート(55)へ流出する冷媒ガスの流れに図に矢印で示すように渦が発生し、冷媒の流れが乱れて圧力損失が大きくなってしまう。また、上記のように渦が発生することにより吐出ガスが吐出ポート(55)内に滞留しやすくなり、逆に言うと吐出ガスがシリンダ室(50)から吐出ポート(55)を通ってケーシング内へスムーズに流出するのが阻害される。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダ室の内部でピストンが自転をせずに偏心回転運動をするように構成された揺動ピストン式の回転式圧縮機において、吐出行程の終盤に高圧側シリンダ室から冷媒ガスが流出するときに渦が発生するのを抑制して圧力損失が大きくなるのを抑え、かつ吐出ガスが吐出ポート内に滞留するのを抑制して冷媒ガスがシリンダ室からスムーズに流出する構成を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、シリンダ室(40)を有するシリンダ(22)と、該シリンダ室(40)の内部で偏心回転動作をするピストン(25)と、上記シリンダ室(40)を低圧側シリンダ室(40a)と高圧側シリンダ室(40b)に区画するブレード(26)と、シリンダ(22)の軸方向の両端を閉塞するシリンダ端板(23,24)とを備え、ブレード(26)がピストン(25)の自転を規制するように構成された回転式圧縮機を前提としている。
【0008】
そして、この回転式圧縮機は、上記シリンダ端板(23,24)に上記シリンダ室(40)の高圧側シリンダ室(40b)と連通する吐出ポート(42)が形成され、
上記ピストン(25)とブレード(26)とが一体に形成され、上記ピストン(25)の外周面におけるブレード(26)の根元部分に平面部(25a)が形成され、上記ピストン(25)の外周の角部には、該ピストン(25)の偏心回転動作中に少なくとも上記吐出ポート(42)と重なる部分に
、上記平面部(25a)に沿って面取り(25b)が形成され、上記面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)に連通する範囲に形成されていることを特徴としている。
【0009】
この第1の発明では、吐出行程中に、シリンダ室(40)で圧縮された高圧の冷媒ガスは、高圧側シリンダ室(40b)から吐出ポート(42)を通ってシリンダ室(40)から流出する。また、ピストン(25)の角部に面取り(25b)が形成されている箇所は、吐出行程の終盤に冷媒が流れる箇所であり、この面取り(25b)に沿って冷媒が流れることにより渦が発生しにくくなり、
図5に示すように冷媒がシリンダ室(40)スムーズに流出する。
【0010】
また、この第1の発明では、吐出行程の終盤には、上記面取り(25b)によって上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)とが連通するようになる。したがって、吐出ポート(42)に残っている油が吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出する。
【0011】
この第1の発明では、上記ピストン(25)とブレード(26)とが一体に形成された回転式圧縮機において、吐出行程の終盤に冷媒の流れに渦が生じるのが抑えられるから、冷媒がシリンダ室(40)からスムーズに流出する。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記ピストン(25)の外周の角部の面取り(25b)が、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間に形成されるコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の偏心回転動作中に吐出ポート(42)を通過するときに吐出ポート(42)と重なる部分に形成されていることを特徴としている。
【0013】
この第2の発明では、吐出行程の終盤に、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに冷媒が流れる箇所に、上記ピストン(25)の面取り(25b)を形成している。したがって、吐出行程の終盤に冷媒の流れに渦が生じるのがより確実に抑えられるから、冷媒がシリンダ室(40)からよりスムーズに流出
する。
【0014】
第3の発明は、
第1の発明において、上記平面部(25a)が、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)内に収まる範囲に形成されていることを特徴としている。低圧側シリンダ室(40a)は、上記コンタクトポイント(29)を挟んで上記吐出ポート側の空間と反対側に位置する空間である。
【0015】
第4の発明は、
シリンダ室(40)を有するシリンダ(22)と、該シリンダ室(40)の内部で偏心回転動作をするピストン(25)と、上記シリンダ室(40)を低圧側シリンダ室(40a)と高圧側シリンダ室(40b)に区画するブレード(26)と、シリンダ(22)の軸方向の両端を閉塞するシリンダ端板(23,24)とを備え、ブレード(26)がピストン(25)の自転を規制するように構成された回転式圧縮機であって、
上記シリンダ端板(23,24)に上記高圧側シリンダ室(40b)と連通する吐出ポート(42)が形成され、上記ピストン(25)の外周の角部には、該ピストン(25)の偏心回転動作中に少なくとも上記吐出ポート(42)と重なる部分に面取り(25b)が形成され、上記面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)に連通する範囲であって、吐出ポート(42)と重なる範囲に形成され、上記ピストン(25)とブレード(26)とが一体に形成され、上記ピストン(25)の外周面におけるブレード(26)の根元部分に平面部(25a)が形成され、
上記平面部(25a)が、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)内に収まる範囲に形成されていることを特徴としている。低圧側シリンダ室(40a)は、上記コンタクトポイント(29)を挟んで上記吐出ポート側の空間と反対側に位置する空間である。
【0016】
第5の発明は、第1から第4の発明において、上記吐出ポート(42)が上記シリンダ(22)の周方向への長さが径方向への長さよりも長い長円形状に形成され、上記吐出ポート(42)の開口部の全体またはほぼ全体がシリンダ室(40)に重なるように配置されていることを特徴としている。
【0017】
この第5の発明では、上記吐出ポート(42)が上記シリンダ(22)の周方向への長さが径方向への長さよりも長い長円形状に形成され、上記吐出ポート(42)の開口部の全体またはほぼ全体がシリンダ室(40)に重なるようにしているので、吐出行程の終盤に吐出ポート(42)内に冷媒が残りにくくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ピストン(25)の角部に面取り(25b)が形成されている箇所を、吐出行程の終盤に冷媒が流れる箇所にして、この面取り(25b)に沿って冷媒が流れることにより渦が発生しにくくなるようにしている。そして、
図5に示すように冷媒がシリンダ室(40)からスムーズに流出するようにしているので、吐出行程で発生する圧力損失を低減できる。
【0019】
また、上記第1の発明によれば、上記平面部(25a)を、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)内に収まる範囲に形成し、上記面取り(25b)を、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)に連通する範囲に形成したことにより、吐出行程の終盤に吐出ポート(42)に残っている油が吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出するようになる。したがって、油の圧縮や冷媒の液圧縮が生じにくくなり、シリンダ(22)の芯ずれが生じるのを抑制できる。また、液圧縮を抑えることにより軸受荷重に過大な負荷がかかるのも抑えられるから、軸受荷重に起因する機械損失が大きくなるのも抑制できる。
【0020】
上記第1の発明によれば、上記ピストン(25)とブレード(26)とが一体に形成された回転式圧縮機で、ピストン(25)の外周面におけるブレード(26)の根元部分に平面部(25a)を形成された構成において、吐出行程の終盤の渦の発生を抑えることができ、第2の発明と同様に冷媒の流れをスムーズにして吐出行程時の圧力損失を低減できる。
【0021】
上記第2の発明によれば、吐出行程の終盤に、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに冷媒が流れる箇所に、上記ピストン(25)の面取り(25b)を形成しているから、吐出行程の終盤において渦の発生をより確実に抑えることができ、冷媒の流れをスムーズにして吐出行程時の圧力損失を低減
できる。
【0022】
上記第5の発明によれば、上記吐出ポート(42)を上記シリンダ(22)の周方向への長さが径方向への長さよりも長い長円形状に形成し、上記吐出ポート(42)の開口部の全体またはほぼ全体がシリンダ室(40)に重なるようにしたことにより、吐出行程の終盤に吐出ポート(42)内に冷媒が残りにくくなるようにしているので、吐出ポート(42)に残った高圧の冷媒が次の圧縮行程のときに圧縮室で膨張する再膨張が生じにくくなる。再膨張が生じると、圧縮行程の開始時のシリンダ室(40)の圧力が上昇して運転効率が低下するが、本発明によれば、再膨張による運転効率の低下を抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
【0026】
図1は、実施形態1に係る回転式圧縮機(1)の縦断面図である。この圧縮機(1)は、揺動ピストン式圧縮機であり、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されるものである。
【0027】
上記圧縮機(1)はケーシング(10)を備え、このケーシング(10)の内部には、上記冷媒回路の冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、該圧縮機構(20)を駆動する電動機(30)とが収容されている。
【0028】
上記ケーシング(10)は、縦長円筒状の密閉容器で構成されており、円筒状の胴体部(11)と、該胴体部(11)の上側開口部を閉塞する有底円筒状の上側鏡板部(12)と、上記胴体部(11)の下側開口部を閉塞する有底円筒状の下側鏡板部(13)とを備えている。
【0029】
上側鏡板部(12)及び下側鏡板部(13)は、椀状の底部(12a,13a)と該底部(12a,13a)の外周端から軸方向へ延びる円筒部(12b,13b)とが一体に形成された部材である。各鏡板部(12,13)の円筒部(12b,13b)の外径は、上記胴体部(11)の内径とほぼ同一寸法である。上側鏡板部(12)の円筒部(12b)は胴体部(11)の上端部に嵌合する状態で固定され、下側鏡板部(13)の円筒部(13b)は胴体部(11)の下端部に嵌合する状態で固定されている。
【0030】
上記圧縮機構(20)及び上記電動機(30)は、上記胴体部(11)の内周面に固定されている。
【0031】
上記電動機(30)は、共に円筒状に形成されたステータ(31)及びロータ(32)を備えている。上記ステータ(31)は、上記ケーシング(10)の胴体部(11)に固定されている。このステータ(31)の中空部に上記ロータ(32)が配置されている。このロータ(32)の中空部には、該ロータ(32)を貫通するように駆動軸(35)が固定されており、ロータ(32)と駆動軸(35)が一体で回転するようになっている。
【0032】
この駆動軸(35)は、上下に延びる主軸部(35a)を有し、この主軸部(35a)の下端寄りに偏心部(35b)が一体に形成されている。この偏心部(35b)は、主軸部(35a)よりも大径に形成され、その軸心は主軸部(35a)の軸心に対して所定距離だけ偏心している。
【0033】
また、主軸部(35a)の下端部には遠心ポンプ(36)が設けられている。この遠心ポンプ(36)は、ケーシング(10)の底部に形成される油溜め部の潤滑油に浸漬している。そして、この遠心ポンプ(36)は、上記駆動軸(35)の回転に伴って潤滑油を駆動軸(35)内の給油路(37)へ汲み上げた後で、圧縮機構(20)の各摺動部へ供給する。
【0034】
上記圧縮機構(20)は、
図1の部分拡大図である
図2に示すように、環状に形成された固定側の部材(21)であるシリンダ(22)と、シリンダ(22)の軸方向一方端(上端)に固定されるフロントヘッド(シリンダ端板)(23)及びシリンダ(22)の軸方向他方端(下端)に固定されるリアヘッド(シリンダ端板)(24)を有している。シリンダ端板(23,24)はシリンダ(22)の軸方向の両端を閉塞している。シリンダ(22)及びシリンダ端板(23,24)は、上側から下側に向かってフロントヘッド(23)、シリンダ(22)及びリアヘッド(24)の順に積層され、軸方向に延びる複数のボルトによって締結されている。
【0035】
上記駆動軸(35)は、上記圧縮機構(20)を上下に貫通している。フロントヘッド(23)とリアヘッド(24)には、駆動軸(35)を偏心部(35b)の上下両側で支持する軸受け部(23a,24a)が形成されている。
【0036】
シリンダ(22)は、上端がフロントヘッド(23)によって閉塞される一方、下端がリアヘッド(24)に閉塞され、シリンダ(22)の内部の空間がシリンダ室(40)を構成している。該シリンダ室(40)には、該シリンダ室(40)の中で偏心回転運動をするように、上記駆動軸(35)の偏心部(35b)に摺動自在に外嵌されたピストン(25)が収容されている。圧縮機構(20)の横断面図である
図3に示すように、ピストン(25)の外周面には、該外周面から径方向外側へ延びるブレード(26)が一体に形成されている。また、ピストン(25)の外周面におけるブレード(26)の根元部分には平面部(25a)が形成されている。
【0037】
シリンダ(22)には、平面視で円形の溝が形成されている。この円形溝は、一対のブッシュ(28,28)を収容するブッシュ溝(27)になっている。このブッシュ溝(27)には、平面視で半月状に形成された一対のブッシュ(28,28)がブレード(26)を挟む状態で内嵌されている。このことにより、ブレード(26)がピストン(25)の自転を規制するようにしている。
【0038】
上記シリンダ室(40)は、上記ブレード(26)によって低圧側シリンダ室(40a)と高圧側シリンダ室(40b)とに区画されている。上記シリンダ(22)には、その外周壁に、低圧側シリンダ室(40a)に連通する吸入ポート(41)が駆動軸(35)の軸心と直角の方向に沿って形成されている。
【0039】
上記フロントヘッド(23)には、高圧側シリンダ室(40b)に連通する吐出ポート(42)が駆動軸(35)の軸心と平行な方向に沿って形成されている。この吐出ポート(42)は、吐出弁(43)で開閉されるようになっている。上記吐出ポート(42)の形状は、
図3に示すように、駆動軸(35)の中心と吐出ポート(42)の中心を結ぶ線分に対してほぼ直交する方向が長軸側となる、長円形状(楕円形状であってもよい)であり、上記シリンダ(22)の周方向への長さが径方向への長さよりも長い。上記吐出ポート(42)は、軸心と平行な方向に視て、その開口部の全体がシリンダ室(40)に重なるように(シリンダ室(40)から径方向外側に出ないように)配置されている。
【0040】
上記フロントヘッド(23)の上面には、吐出ポート(42)及び吐出弁(43)を覆うようにマフラ(44)が取り付けられている。マフラ(44)は、その内部に区画されるマフラ空間(45)が、上部の吐出開口(44a)を通じてケーシング(10)の内部空間に連通するように形成されている。
【0041】
本実施形態では、
図3〜
図5に示すように、上記ピストン(25)の外周の角部に面取り(25b)が形成されている。この面取り(25b)は、上記ピストン(25)の偏心回転動作中に少なくとも上記吐出ポート(42)と重なる部分に形成されている。具体的には
図4に示すように、面取り(25b)は吐出行程の終盤に吐出ポート(42)と重なるようになっている。より詳細には、上記ピストン(25)の外周の角部の面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間に形成されるコンタクトポイント(29)が、上記ピストン(25)の時計回り方向への偏心回転動作中に吐出ポート(42)を通過するときに、該吐出ポート(42)と重なる部分に形成されている。
【0042】
上記平面部(25a)は、
図4に示すように、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が、上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに、上記吐出ポート(42)内に収まる範囲(言い換えると吐出ポート(42)から出ない範囲)に形成されている。一方、上記面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)に連通する範囲に形成されている。
図4においては、吐出ポート(42)はコンタクトポイント(29)の右側に位置する空間であり、低圧側シリンダ室(40a)はコンタクトポイント(29)の左側に位置する空間である。そして、上記面取り(25b)は、コンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過する
図4の状態で、上記平面部(25a)とは違って、上記吐出ポート(42)内に収まらない範囲(言い換えると吐出ポート(42)から出る範囲)に形成されている。
【0043】
上記ケーシング(10)には、
図1,
図2に示すように、上記吸入ポート(41)に接続される吸入管(14)が取り付けられ、冷媒が吸入管(14)を通って上記圧縮機構(20)へ吸入される。
【0044】
また、上記ケーシング(10)には、上側鏡板部(12)の底部(12a)を貫通して吐出管(15)が取り付けられている。この吐出管(15)の下側の端部は、上記ケーシング(10)の内部に開口している。上記圧縮機構(20)の吐出ポート(42)は、上記マフラ(44)の吐出開口(44a)を通じて上記ケーシング(10)の内部の空間に連通しており、上記圧縮機構(20)から吐出された冷媒は、上記ケーシング(10)の内部空間と上記吐出管(15)を通じて上記ケーシング(10)の外へ流出する。
【0045】
−運転動作−
本実施形態の圧縮機(1)において、電動機(30)を起動するとロータ(32)が回転し、その回転が駆動軸(35)を介して圧縮機構(20)のピストン(25)に伝達される。ピストン(25)は、駆動軸(35)の偏心部(35b)に装着されているので、駆動軸(35)の回転中心の周りの周回軌道上を旋回する。また、ピストン(25)に一体に形成されたブレード(26)がブッシュ(28)に保持されているので、ピストン(25)は自転をせずに揺動しながら公転(偏心回転)する。
【0046】
圧縮機構(20)のピストン(25)が回転すると、
図6において0°の状態から90°,180°,さらに270°の状態を経て0°の状態に戻る方向へピストン(25)が移動して、低圧側シリンダ室(40a)の容積が拡大しながら高圧側シリンダ室(40b)の容積が縮小する動作が繰り返し行われる。そして、低圧側シリンダ室(40a)に吸入された冷媒が高圧側シリンダ室(40b)で圧縮されて吐出される。以上のようにして、冷媒の吸入行程、圧縮行程及び吐出行程が、ピストン(25)の一回転を1サイクルとして連続的に行われる。
【0047】
吐出ポート(42)から吐出された冷媒は、マフラ(44)内に形成されたマフラ空間(45)を経て、圧縮機構(20)からケーシング(10)内の空間へ流出する。ここで、吐出行程中に、シリンダ室(40)で圧縮された高圧の冷媒ガスは、高圧側シリンダ室(40b)から吐出ポート(42)を通ってケーシング(10)内の空間へ流出していく。また、吐出行程の終盤には、冷媒が流れる箇所にピストン(25)の角部に面取り(25b)が形成されているので渦が発生しにくくなり、
図5に矢印で示すように冷媒がスムーズに流れる。
【0048】
また、吐出行程の終盤には、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過し(
図4参照)、このときには吐出ポート(42)にはほぼ油だけが残る。このとき、上記面取り(25b)によって上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)とが連通している。したがって、吐出ポート(42)に残っている油は、吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出する。
【0049】
−実施形態1の効果−
本実施形態によれば、ピストン(25)の角部に面取り(25b)が形成されている箇所を、吐出行程の終盤に冷媒が流れる箇所にして、この面取り(25b)に沿って冷媒が流れることにより渦が発生しにくくなるようにしている。そして、
図5に示すように冷媒がシリンダ室(40)からスムーズに流出するようにしているので、吐出行程で発生する圧力損失を低減できる。
【0050】
また、吐出行程の終盤に吐出ポート(42)に残っている油は、吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出していくので、吐出ポート(42)内の油が吐出弁の閉鎖に対する抵抗にならないようになる。したがって、吐出弁(43)の閉じ遅れが生じるのを抑えられる。
【0051】
また、吐出行程の終盤には、吐出ポート(42)に残っている油が吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出していくので、油の圧縮や冷媒の液圧縮が生じにくくなる。したがって、シリンダ(22)の芯ずれが生じるのを抑制できる。また、液圧縮が生じないようにしたことで軸受荷重に過大な負荷がかかるのも抑えられるから、軸受荷重による機械損失が大きくなるのも抑制できる。
【0052】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2に係る揺動ピストン式圧縮機は、
図7,
図8に示すように、圧縮機構(20)のピストン(25)とシリンダ(22)の形状が実施形態1とは異なるものである。
【0053】
ピストン(25)は、その内部に環状メタル(38)を介してクランク軸(35)が内嵌している。本実施形態のピストン(25)は、その外周面が非円形状に形成されている。具体的に、ピストン(25)の外周面は、ブレード(26)の長手方向の中心線を通過する仮想鉛直平面を挟んだ両側の部位が径方向外方へ膨出するような略楕円形状ないし略卵形状に形成されている。つまり、本実施形態のピストン(25)の外周面は、ブレードの長手方向に沿った方向に延びる仮想平面を挟んで右側(回転角度90°側)に膨出する第1膨出部(251)と、仮想平面を挟んで左側(回転角度270°側)に膨出する第2膨出部(252)とを有している。
【0054】
一方、シリンダ(22)のシリンダ室(40)の内周面形状は、ピストン(25)の外周面形状に対応するような非円形状に形成されている。即ち、シリンダ室(40)の内周面形状は、ブレード(26)を通過する仮想平面を挟んだ両側の部位が径方向外方に膨出するような非円形状に形成されている。つまり、シリンダ室(40)の内周面形状は、揺動運動を行うピストン(25)の外周面の外側の包絡線に基づいた非円形状に形成されている。
【0055】
吐出ポート(42)の形状は、実施形態1と同様に、駆動軸(35)の中心と吐出ポート(42)の中心を結ぶ線分に対してほぼ直交する方向が長軸側となる、長円形状(楕円形状であってもよい)であり、上記シリンダ(22)の周方向への長さが径方向への長さよりも長くなっている。この実施形態2では、吐出ポート(42)は、その開口部のほぼ全体がシリンダ室(40)に重なるように(言い換えると一部がシリンダ室(40)の径方向外側に位置するように)配置されている。ただし、吐出ポート(42)は、実施形態1と同様に、その開口部の全体がシリンダ室に重なっていてもよい。
【0056】
上記ピストン(25)の外周の角部には、実施形態1と同様に、該ピストン(25)の偏心回転動作中に少なくとも上記吐出ポート(42)と重なる部分に面取り(25b)が形成されている。上記ピストン(25)の外周の角部の面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間に形成されるコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の偏心回転動作中に吐出ポート(42)を通過するときに該吐出ポート(42)と重なる部分に形成されている。
【0057】
また、上記平面部(25a)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)内に収まる範囲に形成されている。一方、上記面取り(25b)は、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過するときに上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)に連通する範囲に形成されている。
【0058】
その他の構成は実施形態1と同様である。
【0059】
この実施形態2においても、吐出行程中に、シリンダ室(40)で圧縮された高圧の冷媒ガスは、高圧側シリンダ室(40b)から吐出ポート(42)を通ってケーシング(10)内の空間へ流出していく。また、吐出行程の終盤には、冷媒が流れる箇所にピストン(25)の角部に面取り(25b)が形成されているので渦が発生しにくくなり、
図8に示すように、冷媒が滞留せずにスムーズに流れる。したがって、このときに発生する圧力損失は面取り(25b)を形成しない場合よりも小さくなる。
【0060】
また、吐出行程の終盤には、上記シリンダ(22)とピストン(25)との間のコンタクトポイント(29)が上記ピストン(25)の回転中に吐出ポート(42)を通過し、このときには、吐出ポート(42)にはほぼ油だけが残る。このとき、上記面取り(25b)によって上記吐出ポート(42)と低圧側シリンダ室(40a)とが連通している。したがって、吐出ポート(42)に残っている油は、吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出していく。このように、吐出行程の終盤に吐出ポート(42)に残っている油が吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出していくので、実施形態1と同様に吐出弁(43)の閉じ遅れが生じるのを抑えられる。
【0061】
また、吐出行程の終盤に吐出ポート(42)に残っている油が吐出ポート(42)から低圧側シリンダ室(40a)へ流出するので、油の圧縮や冷媒の液圧縮が生じにくくなり、シリンダ(22)の芯ずれが生じるのを抑制できる。さらに、軸受荷重に過大な負荷がかかるのも抑えられるから、軸受荷重による機械損失が大きくなるのも抑制できる。
【0062】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0063】
例えば、上記実施形態では、本発明をピストン(25)にブレード(28)が一体的に形成された揺動ピストン式圧縮機に適用した例を説明したが、本発明は、ピストンにブレードが揺動可能に連結された構成の揺動ピストン式圧縮機に適用してもよい。要するに、本発明は、ピストン(25)が自転をせずに公転をする揺動ピストン式の回転式圧縮機であれば適用可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、ピストン(25)の角部の面取り(25b)を平面により構成しているが、面取り(25b)を曲面により構成して、いわゆるアールをつけた形状にしてもよい。
【0065】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。