特許第6769085号(P6769085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769085
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】チューンドマスダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20201005BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   E04H9/02 341A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-86747(P2016-86747)
(22)【出願日】2016年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-198228(P2017-198228A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 優也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治
(72)【発明者】
【氏名】石川 理都子
【審査官】 近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−334148(JP,A)
【文献】 特開2009−228772(JP,A)
【文献】 特開2013−108518(JP,A)
【文献】 特開平10−252253(JP,A)
【文献】 特開2009−243538(JP,A)
【文献】 特開2002−081493(JP,A)
【文献】 特開2015−183723(JP,A)
【文献】 特開2011−081709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象物の上方又は下方に配置された質量体が、前記制振対象物の上下振動に同調して上下振動することにより、前記制振対象物の前記上下振動を抑制するチューンドマスダンパーであって、
前記質量体と前記制振対象物との間に互いに並列に介挿されて前記質量体を支持する少なくとも3つの第1弾性部材と、
前記質量体と前記制振対象物との間に前記第1弾性部材と並列に介挿されて前記質量体を支持する少なくとも1つの第2弾性部材と、
前記第2弾性部材に並列に設けられつつ前記第2弾性部材に一体化された減衰部材と、を有し、
前記3つの第1弾性部材と前記質量体の重心の位置との水平方向の距離は、前記第2弾性部材と前記重心の位置との水平方向の距離よりも大きいことを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記質量体と前記制振対象物との間に位置する全ての前記第1弾性部材の前記上下方向の剛性値(N/m)の合計値は、前記質量体と前記制振対象物との間に位置する全ての前記第2弾性部材の前記上下方向の剛性値(N/m)の合計値よりも大きいことを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材と前記減衰部材とは、接着剤で接着されることにより一体化されていることを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項4】
請求項3に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材は、上下方向に沿った中心軸回りに線材を螺旋状に旋回してなるコイルばねであり、
前記減衰部材は、前記コイルばねの外周面の全周を覆う筒状部材であり、
前記筒状部材の内周面が前記コイルばねの外周部に前記接着剤で接着されていることを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項5】
請求項4に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材は1つだけ設けられ、
前記質量体の前記重心の平面位置は、前記第2弾性部材としての前記コイルばねの内周側に位置していることを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材と前記減衰部材とは、連結部材を介して連結されることにより一体化されていることを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項7】
請求項6に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材は、上下方向に沿った中心軸回りに線材を螺旋状に旋回してなるコイルばねであり、
前記減衰部材は、中心軸が上下方向を向きつつ前記コイルばねの内周側に収容された棒状粘弾性体であり、
前記連結部材は、前記コイルばねの上端と前記棒状粘弾性体の上端面とに接着される上側板部材と、前記コイルばねの下端と前記棒状粘弾性体の下端面とに接着される下側板部材と、を有することを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項8】
請求項7に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記コイルばねの前記中心軸の平面位置が、前記棒状粘弾性体の前記上端面及び前記下端面に含まれていることを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第1弾性部材には、粘弾性の減衰部材が一体化されていないことを特徴とするチューンドマスダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の床等の制振対象物の上下振動を抑制するチューンドマスダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制振対象物の上下振動を抑制する装置として、チューンドマスダンパー(以下、TMDとも言う)が知られている。TMDは、例えば建物の床を制振対象物として使用される。すなわち、TMDは、床に配置された質量体と、当該質量体と床との間に介挿されて同質量体を支持する弾性部材と、同弾性部材と並列に配置された減衰部材と、を有する。そして、床の上下振動に同調して略逆位相の上下振動を質量体がすることにより、床の上下振動を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−252253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、かかるTMD10’の一例として、質量体20’を、下方からダンピングコイルばね40’で支持した構成も考えられる。図1Aは、その概略縦断面図であり、図1Bは、図1A中のB−B断面図である。なお、図1A中では、コイルばね41’等のTMD10’の一部の構成を側面視で示している。
ここで、タンピングコイルばね40’とは、上記弾性部材としてのコイルばね41’の外周部を、減衰部材として機能する粘弾性の筒状部材45’で覆いつつ接着剤で接合一体化したものである。
【0005】
そして、このような構成のTMD10’によれば、コイルばね41’の上下方向の変形に伴って粘弾性の筒状部材45’も上下方向に変形する。よって、同調した質量体20’及び粘弾性の筒状部材45’の上下振動に基づいて、床1’の上下振動を減衰させることが可能となる。
【0006】
しかしながら、このような筒状部材45’たる減衰部材が一体化したコイルばね41’を用いると、当該一体化の不均一性等に起因して質量体20’がロッキング振動をする恐れがある。そして、その場合には、質量体20’は、床1’の上下振動と同調した略逆位相の上下振動をし難くなって、その結果、床1’の上下振動の抑制効果が減退してしまい得る。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、減衰部材が一体化された弾性部材をTMDに用いることで起こり得るTMDの質量体のロッキング振動を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
制振対象物の上方又は下方に配置された質量体が、前記制振対象物の上下振動に同調して上下振動することにより、前記制振対象物の前記上下振動を抑制するチューンドマスダンパーであって、
前記質量体と前記制振対象物との間に互いに並列に介挿されて前記質量体を支持する少なくとも3つの第1弾性部材と、
前記質量体と前記制振対象物との間に前記第1弾性部材と並列に介挿されて前記質量体を支持する少なくとも1つの第2弾性部材と、
前記第2弾性部材に並列に設けられつつ前記第2弾性部材に一体化された減衰部材と、を有し、
前記3つの第1弾性部材と前記質量体の重心の位置との水平方向の距離は、前記第2弾性部材と前記重心の位置との水平方向の距離よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、上記3つの第1弾性部材は、減衰部材が一体化された第2弾性部材よりも質量体の重心から離れた位置に配置されている。よって、質量体が安定して上下振動をするように、当該質量体を、これら3つの第1弾性部材は安定して支持することができる。そして、これにより、質量体のロッキング振動を防ぐことができる。
【0010】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記質量体と前記制振対象物との間に位置する全ての前記第1弾性部材の前記上下方向の剛性値(N/m)の合計値は、前記質量体と前記制振対象物との間に位置する全ての前記第2弾性部材の前記上下方向の剛性値(N/m)の合計値よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
上記請求項2に示す発明によれば、第1弾性部材の剛性値の合計値の方が、減衰部材が一体化された第2弾性部材の剛性値の合計値より大きい。よって、質量体を第1弾性部材で安定して支持することができて、これにより、質量体のロッキング振動を効果的に防ぐことができる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材と前記減衰部材とは、接着剤で接着されることにより一体化されていることを特徴とする。
【0013】
上記請求項3に示す発明によれば、第2弾性部材に減衰部材は接着剤で接着されることにより一体化されている。そのため、質量体の上下振動に伴って第2弾性部材に入力される上下変位を、第2弾性部材を介して減衰部材にも確実に入力することができて、これにより、減衰部材も質量体の上下振動に連動して確実に上下方向に変形する。よって、当該減衰部材を、制振対象物の上下振動の減衰に有効に寄与させることができる。
【0014】
請求項4に示す発明は、請求項3に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材は、上下方向に沿った中心軸回りに線材を螺旋状に旋回してなるコイルばねであり、
前記減衰部材は、前記コイルばねの外周面の全周を覆う筒状部材であり、
前記筒状部材の内周面が前記コイルばねの外周部に前記接着剤で接着されていることを特徴とする。
【0015】
上記請求項4に示す発明によれば、減衰部材たる筒状部材の内周面が、第2弾性部材たるコイルばねの外周部に接着剤で接着されている。そのため、質量体の上下振動に伴ってコイルばねに入力される上下変位が、当該コイルばねを介して筒状部材にも確実に入力されて、これにより、当該筒状部材も質量体の上下振動に連動して上下方向に変形する。よって、当該筒状部材たる減衰部材を、制振対象物の上下振動の減衰により有効に寄与させることができる。
【0016】
請求項5に示す発明は、請求項4に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材は1つだけ設けられ、
前記質量体の前記重心の平面位置は、前記第2弾性部材としての前記コイルばねの内周側に位置していることを特徴とする。
【0017】
上記請求項5に示す発明によれば、質量体の重心の平面位置は、第2弾性部材としてのコイルばねの内周側に位置している。よって、質量体が安定して上下振動するように、同質量体を当該コイルばねは支持することができる。そして、このことも、質量体のロッキング振動の防止に有効に寄与する。
【0018】
請求項6に示す発明は、請求項1又は2に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材と前記減衰部材とは、連結部材を介して連結されることにより一体化されていることを特徴とする。
【0019】
上記請求項6に示す発明によれば、第2弾性部材に減衰部材は連結部材を介して連結されることにより一体化されている。そのため、質量体の上下振動に伴って第2弾性部材に入力される上下変位を、上記連結部材を介して減衰部材にも確実に入力することができて、これにより、当該減衰部材も質量体の上下振動に連動して速やかに上下方向に変形する。よって、同減衰部材を、制振対象物の上下振動の減衰に確実に寄与させることができる。
【0020】
請求項7に示す発明は、請求項6に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第2弾性部材は、上下方向に沿った中心軸回りに線材を螺旋状に旋回してなるコイルばねであり、
前記減衰部材は、中心軸が上下方向を向きつつ前記コイルばねの内周側に収容された棒状粘弾性体であり、
前記連結部材は、前記コイルばねの上端と前記棒状粘弾性体の上端面とに接着される上側板部材と、前記コイルばねの下端と前記棒状粘弾性体の下端面とに接着される下側板部材と、を有することを特徴とする。
【0021】
上記請求項7に示す発明によれば、減衰部材としての棒状粘弾性体は、第2弾性部材としてのコイルばねの内周側に収容されている。また、連結部材としての上側板部材は、コイルばねの上端と棒状粘弾性体の上端面とに接着され、同じく連結部材としての下側板部材は、コイルばねの下端と棒状粘弾性体の下端面とに接着されている。そのため、質量体の上下振動に伴って上記のコイルばねに入力される上下変位を、上側板部材及び下側板部材を介して棒状粘弾性体にも確実に入力することができて、これにより、当該棒状粘弾性体も質量体の上下振動に連動して速やかに上下方向に変形する。よって、当該棒状粘弾性体たる減衰部材を、制振対象物の上下振動の減衰に確実に寄与させることができる。
【0022】
請求項8に示す発明は、請求項7に記載のチューンドマスダンパーであって、
前記コイルばねの前記中心軸の平面位置が、前記棒状粘弾性体の前記上端面及び前記下端面に含まれていることを特徴とする。
【0023】
上記請求項8に示す発明によれば、第2弾性部材としてのコイルばねの中心軸の平面位置が、減衰部材としての棒状粘弾性体の上端面及び下端面に含まれている。よって、質量体の上下振動に伴って上記のコイルばねに入力される上下変位を、上記の上端面及び下端面を介して棒状粘弾性体にも安定して入力することができる。
【0024】
請求項9に示す発明は、請求項1乃至8の何れかに記載のチューンドマスダンパーであって、
前記第1弾性部材には、粘弾性の減衰部材が一体化されていないことを特徴とする。
【0025】
上記請求項9に示す発明によれば、第1弾性部材には、粘弾性の減衰部材が一体化されていない。よって、一体化の不均一性の影響を受けることなく、当該第1弾性部材は、質量体が安定して上下振動するように、同質量体を安定して支持することができる。そして、これにより、質量体のロッキング振動をより効果的に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、減衰部材が一体化された弾性部材をTMDに用いることで起こり得るTMDの質量体のロッキング振動を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1Aは、ダンピングコイルばね40’を用いたTMD10’の概略縦断面図であり、図1Bは、図1A中のB−B断面図である。
図2図2Aは、本実施形態のTMD10の概略縦断面図であり、図2Bは、図2A中のB−B断面図である。
図3】コイルばね41の外周部を粘弾性シート45sで覆うことで形成された減衰部材の一例としての筒状部材45の概略斜視図である。
図4】二重床構造の概略側面図である。
図5図5Aは、TMD10aの変形例の概略側面図であり、図5Bは、図5A中のB−B断面図である。
図6】TMD10bのその他の実施形態の概略縦断面図である。
図7】TMD10cのその他の実施形態の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
===本実施形態===
図2A及び図2Bは、本実施形態のTMD10の説明図である。図2Aは、TMD10の概略縦断面図であり、図2Bは、図2A中のB−B断面図である。なお、図2A中では、コイルばね41等のTMD10の一部の構成を側面視で示している。
【0029】
このTMD10は、制振対象物となる構造床等の床1の上方に配置されている。そして、基本的に、このTMD10では、床1の上方に支持された質量体20が、床1の上下振動に同調して略逆位相の上下振動をすることにより、床1の上下振動を抑制する。
【0030】
このTMD10は、上記の質量体20と、同質量体20と床1の上面1suとの間に互いに並列に介挿されて質量体20を支持する4つの第1弾性部材30,30…と、同質量体20と床1の上面1suとの間に上記第1弾性部材30と並列に介挿されて同質量体20を支持する1つの第2弾性部材41と、当該第2弾性部材41に並列に設けられつつ同第2弾性部材41に一体化された減衰部材45と、を有する。
【0031】
質量体20は、例えば平面視略矩形形状の鋼製等の金属製部材であり、この例では、所定厚さの一枚の矩形鋼板が使用されている。但し、何等これに限らない。例えば、質量が足りない場合には、複数枚の矩形鋼板を積層して使用しても良い。
【0032】
第1弾性部材30は、例えば鋼製の線材を上下方向に沿った中心軸回りに螺旋状に旋回してなるコイルばね30である。
【0033】
また、第2弾性部材41も、同じく鋼製の線材を上下方向に沿った中心軸回りに螺旋状に旋回してなるコイルばね41である。但し、このコイルばね41の外周には、減衰部材として機能する粘弾性の筒状部材45が設けられている。すなわち、当該粘弾性の筒状部材45がコイルばね41の外周面の全周を覆いながら、当該筒状部材45の内周面がコイルばね41の外周部に接着剤で接着一体化されている。よって、質量体20の上下振動に伴ってコイルばね41に入力される上下変位が、当該コイルばね41を介して筒状部材45にも入力されて、当該筒状部材45も質量体20の上下振動に連動して上下方向に変形する。そして、これにより、当該筒状部材45も、その粘弾性に基づいて床1の上下振動を減衰する。
【0034】
なお、この例では、かかる筒状部材45は、アクリル系樹脂製の粘弾性シート45sを材料として形成されている。すなわち、図3の概略斜視図に示すように、当該粘弾性シート45sを、コイルばね41の外周部に周方向に沿って巻き付けて接着剤で接着するとともに、当該シート45sにおいて周方向に対向する小口面45sk,45sk同士を突き合わせて接着剤で接合することにより、同シート45sを筒状の形態にしている。そのため、この例では、同シート45sの小口面45sk,45sk同士を接合してなる接合部45sjが、周方向の1箇所に存在しているが、何等これに限らない。すなわち、予め筒状に連続して成形された粘弾性部材を筒軸方向に延ばす等することにより、上記の筒状部材45を、接合部45sjが存在しないシームレス形態で形成しても良い。
【0035】
ところで、上記のように第2弾性部材41と筒状部材45とを一体化すると、図1A及び図1Bを参照して既述のように、当該一体化の不均一性等に起因して質量体20がロッキング振動し易くなる。そして、これにより、床1の上下振動に同調して質量体20を略逆位相で上下振動させることが困難となって、その結果、床1の上下振動の抑制効果が減退してしまう恐れがある。
【0036】
そこで、本実施形態では、図2Bに示すように、筒状部材45たる減衰部材45が一体化された第2弾性部材41を、平面視略矩形形状の質量体20の平面中心C20su又はその近傍位置に配しているとともに、当該第2弾性部材41を周囲から囲むように4つの各第1弾性部材30,30…を同質量体20の四隅部にそれぞれ配置している。そして、これにより、これら各第1弾性部材30,30…は、それぞれ、第2弾性部材41よりも質量体20の重心の位置PG20から水平方向に関して遠い位置で同質量体20を支持している
すなわち、質量体20の重心の位置PG20(以下、平面位置PG20とも言う)は、質量体20の上面20suにおける平面中心C20suに位置しているが、この重心の平面位置PG20と4つの各第1弾性部材30,30…との水平方向の距離L30は、当該重心の平面位置PG20と第2弾性部材41との水平方向の距離L41よりも大きくなっている。更に詳しく言うと、重心の平面位置PG20と各第1弾性部材30の平面中心C30との水平距離L30は、当該重心の平面位置PG20と第2弾性部材41の平面中心C41との水平方向の距離L41(不図示)よりも大きくなっている。
【0037】
よって、質量体20は安定して支持されて、これにより、同質量体20は安定して上下振動することができる。そして、その結果、質量体20のロッキング振動を効果的に防ぐことができる。
【0038】
また、図2A及び図2Bを参照してわかるように、これら4つの第1弾性部材30たるコイルばね30には、減衰部材として機能する粘弾性の部材が一体化されていない。よって、各コイルばね30は、減衰部材の一体化の不均一性の影響を受けずに質量体20を安定して支持することができて、このことも、当該質量体20のロッキング振動の防止に有効に寄与する。
【0039】
更に、このように第2弾性部材41の他に第1弾性部材30を有していれば、TMD10の質量体20の上下振動を床1の上下振動に同調させるための調整作業を容易に行うこともできる。すなわち、第2弾性部材41には粘弾性の減衰部材45が一体化されているが、当該減衰部材45の上下方向の剛性値(N/m)は、ばらつく恐れがある。そのため、第2弾性部材41と減衰部材45とを一体化させた場合の上下方向の剛性値(N/m)が設計値からずれてしまう可能性が高く、その場合には、TMD10の質量体20の固有振動数を床1の固有振動数に一致させることが困難になる。しかし、この点につき、上述のように第1弾性部材30を有していれば、上記の剛性値(N/m)のずれ分を補うように、第1弾性部材30の上下方向の剛性値(N/m)を適宜選択することができて、その結果、TMD10の質量体20の固有振動数を床1の固有振動数に一致させる調整作業を比較的容易に行えるようになる。
【0040】
また、このTMD10は、上述のように4つの第1弾性部材30,30…と1つの第2弾性部材41とを有しているが、ここで、この例では、全4つの第1弾性部材30,30…の上下方向の剛性値(N/m)の合計値と、全1つの第2弾性部材41の上下方向の剛性値(N/m)の合計値とを比較した場合に、前者の合計値の方が後者の合計値よりも大きくなっている。よって、質量体20を第1弾性部材30で安定して支持することができて、このことも、質量体20のロッキング振動の防止に有効に寄与し得る。
【0041】
更に、この例では、図2Bに示すように、質量体20の重心の平面位置PG20は、第2弾性部材41としてのコイルばね41の内周側に位置している。よって、当該コイルばね41も、質量体20が上下方向に安定して振動するように同質量体20を支持することができて、このことも、質量体20のロッキング振動の防止に有効に寄与し得る。
【0042】
ところで、この例では、これら4つの全ての第1弾性部材30,30…が、第2弾性部材41よりも質量体20の重心の平面位置PG20から離れた位置に配置されているが、何等これに限らない。すなわち、少なくとも3つの第1弾性部材30,30,30が、第2弾性部材41よりも質量体20の重心の平面位置PG20から離れた位置に配置されていれば、同質量体20を安定して支持することができて、これにより、同質量体20のロッキング振動の防止を図れる。そのため、4つの第1弾性部材30,30…のうちの何れか1つの第1弾性部材30については、第2弾性部材41よりも質量体20の重心の位置PG20から近い位置に配されていても良い。
【0043】
また、必要に応じて、制振対象物としての床1の構成を、図4の概略側面図に示すような二重床構造にしても良い。すなわち、床1の上方に複数の二重床ユニット3,3…を配置し、各二重床ユニット3が有する複数の脚部3L,3L…を床1の上面1suに載置して支持させても良い。そして、このような場合にも、TMD10が床1の上下振動を抑制することで、当該二重床構造において第2の床となる二重床ユニット3の上面3suの上下振動も抑制可能となる。
【0044】
図5Aは、TMD10aの変形例の概略側面図である。また、図5Bは、図5A中のB−B断面図である。なお、図5A中では、コイルばね41等のTMD10aの一部の構成を側面視で示している。
【0045】
上述の実施形態では、図2Aに示すように減衰部材として筒状部材45を用い、当該筒状部材45の内周側に第2弾性部材41を配置していた。この点につき、この変形例では、図5A及び図5Bに示すように、第2弾性部材41たるコイルばね41の内周側に棒状の減衰部材47を収容している点で主に相違する。そして、これ以外の点は、概ね上述の実施形態と同じである。例えば、質量体20、第1弾性部材30、及び第2弾性部材41の各構成については、上述の実施形態と同じである。よって、以下では、主に上記の相違点について説明し、同じ構成については、同じ符号を付してその説明については省略する。
【0046】
図5A及び図5Bに示すように、この変形例では、減衰部材47としてアクリル系樹脂製の棒状粘弾性体47が使用されているとともに、当該棒状粘弾性体47は、その中心軸C47が上下方向を向いた姿勢で、第2弾性部材41としてのコイルばね41の内周側に収容されている。また、同コイルばね41と棒状粘弾性体47とは、連結部材49を介して連結されることにより一体化されている。詳しくは、同連結部材49は、コイルばね41の上端と棒状粘弾性体47の上端面47suとの両者に接着剤で接着される平面視円形で鋼製の上側板部材49uと、コイルばね41の下端と棒状粘弾性体47の下端面47sdとの両者に接着剤で接着される平面視円形で鋼製の下側板部材49dと、を有する。そして、これら板部材49u,49dを介してコイルばね41と棒状粘弾性体47とは一体化されている。
【0047】
よって、質量体20の上下振動に伴って上記のコイルばね41に入力される上下変位を、これら上側板部材49u及び下側板部材49dを介して棒状粘弾性体47にも速やかに入力することができて、これにより、当該棒状粘弾性体47も質量体20の上下振動に連動して上下方向に変形する。そのため、当該棒状粘弾性体47を、床1の上下振動を減衰する減衰部材47として確実に機能させることができる。
【0048】
また、同図5Bに示すように、この変形例では、コイルばね41の中心軸C41の平面位置が、棒状粘弾性体47の上端面47su及び下端面47sdにそれぞれ含まれている。よって、質量体20の上下振動に伴ってコイルばね41に入力される上下変位を、上記の上端面47su及び下端面47sdを介して棒状粘弾性体47に安定して入力することができて、このことも、上記の減衰作用の向上に有効に寄与する。
【0049】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0050】
上述の実施形態では、第1弾性部材30としてコイルばね30を用いていたが、何等これに限らない。例えば、板ばね等の他の種類のばねを用いても良い。
【0051】
上述の実施形態では、1つの質量体20につき4つの第1弾性部材30,30…を設けていたが、その個数は何等上記の4つに限らない。すなわち、その個数は、3つ以上であれば良い。例えば、第1弾性部材30を3つだけ設けても良いし、5つ以上設けても良い。
【0052】
上述の実施形態では、1つの質量体20につき1つの第2弾性部材41を設けていたが、その個数は1つ以上であれば、何等これに限らない。すなわち、第2弾性部材41を2つ以上設けても良い。
【0053】
上述の実施形態では、質量体20の平面形状を略矩形状としていたが、何等これに限らない。例えば、平面視円形状としても良いし、三角形等の四角形以外の多角形状としても良い。
【0054】
上述の実施形態では、制振対象物として床1を例示したが、何等これに限らない。すなわち、上方又は下方に質量体20を配置可能なものであれば、それを制振対象物として、上述の実施形態のTMD10や変形例のTMD10aを適用しても良い。
【0055】
上述の実施形態では、減衰部材としての筒状部材45及び棒状粘弾性体47の素材例としてアクリル系樹脂を示したが、何等これに限らない。すなわち、粘弾性の性状を有した素材であれば、上記以外の素材に基づいて筒用部材45及び棒状粘弾性体47を形成しても良い。
【0056】
上述の実施形態では、制振対象物として床1を例示し、床1の上方に質量体20を配置していた。しかし、何等これに限らず、図6の概略縦断面図に示すように、床1の下方に質量体20を配置しても良い。そして、この場合には、TMD10bは、例えば、上記の質量体20と、同質量体20と床1の下面1sdとの間に互いに並列に介挿されて質量体20を支持する4つの第1弾性部材30,30…と、同質量体20と床1の下面1sdとの間に上記第1弾性部材30と並列に介挿されて同質量体20を支持する1つの第2弾性部材41と、当該第2弾性部材41に並列に設けられつつ同第2弾性部材41に一体化された減衰部材45と、を有することとなる。
また、図7の概略側面図のような二重床構造の場合には、二重床ユニット3の下面3sdに質量体20を支持させても良い。そして、その場合には、TMD10cは、例えば、上記の質量体20と、同質量体20と二重床ユニット3の下面3sdとの間に互いに並列に介挿されて質量体20を支持する4つの第1弾性部材30,30…と、同質量体20と二重床ユニット3の下面3sdとの間に上記第1弾性部材30と並列に介挿されて同質量体20を支持する1つの第2弾性部材41と、当該第2弾性部材41に並列に設けられつつ同第2弾性部材41に一体化された減衰部材45と、を有することとなる。また、この場合の直接の制振対象物は、二重床ユニット3となり、床1は、二重床ユニット3を介して間接的に制振されることとなる。
【符号の説明】
【0057】
1 床(制振対象物)、1su 上面、1sd 下面、
3 二重床ユニット、3su 上面、3sd 下面、
3L 脚部、
10 TMD(チューンドマスダンパー)、
10a TMD(チューンドマスダンパー)、
10b TMD(チューンドマスダンパー)、
10c TMD(チューンドマスダンパー)、
20 質量体、20su 上面、
30 コイルばね(第1弾性部材)、
41 コイルばね(第2弾性部材)、
45 筒状部材(減衰部材)、45s 粘弾性シート、45sk 小口面、
45sj 接合部、
47 棒状粘弾性体(減衰部材)、上端面 47su、下端面 47sd、
49 連結部材、49u 上側板部材、49d 下側板部材、
C20su 平面中心、C30 平面中心、C41 中心軸(平面中心)、
C47 中心軸、PG20 平面位置(位置)、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7