(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジアミン成分が、m−フェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなり、m−フェニレンジアミンを25mol%以上含むジアミン成分またはm−フェニレンジアミンとp−フェニレンジアミンとからなり、m−フェニレンジアミンを65mol%以上含むジアミン成分である、請求項1に記載の絶縁被覆層の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、非常に耐熱性に優れた樹脂として知られており、様々な分野で広く利用されている。例えば、高い耐熱性に加えて、低誘電率で機械特性にも優れるため、要求特性の高い電線の絶縁層として用いられている。特許文献1には、芯線上に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4、4’−ジアミノジフェニルエーテルとの反応により得られるポリアミック酸をイミド化した絶縁層が設けられていることを特徴とする絶縁被覆電線が記載されており、このポリイミド絶縁被覆電線は、熱劣化に対する優れた抵抗性を有していることが記載されている。
【0003】
ポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の組み合わせによって結晶性となることがあり、その結果、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸をイミド化する際の条件に制限が生じることがある。例えば、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いると、結晶性のポリイミド樹脂が得られ易く、イミド化の条件によっては、特に、急速な昇温による短時間の熱処理によりイミド化を行おうとすると、部分的な結晶化を起こし易い。そのため、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリアミック酸をイミド化してポリイミド層を形成する場合、昇温速度を上げて生産性を高めることができない場合があった。
このようなテトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリアミック酸をイミド化してポリイミド絶縁被覆層を形成する方法であって、急速な昇温を行っても、結晶化を起こすことなく、ポリイミド絶縁被覆層を形成できる方法が特許文献2に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリアミック酸をイミド化してポリイミド絶縁被覆層を形成する際に、急速な昇温を行っても欠陥なくポリイミド絶縁被覆層を形成できる方法を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、耐熱性、機械的特性に優れたポリイミド樹脂の絶縁被覆層を、結晶化を起こすことなく、短時間で形成する工業的に有利な絶縁被覆層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の項に関する。
1. 基材にポリイミド前駆体組成物を塗布、焼付けする工程を有するポリイミド絶縁被覆層の製造方法であって、
ポリイミド前駆体組成物が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50〜100モル%含むテトラカルボン酸成分とm−フェニレンジアミンを25mol%以上含むジアミン成分とから得られるポリアミック酸を含み、かつ、このポリアミック酸が、最高加熱温度を300〜500℃とする条件下で加熱処理することにより、水蒸気透過係数が1.3g・mm/(m
2・24h)より大きいポリイミドフィルムを製造できるものであり、
焼付け工程において、
ポリイミド前駆体組成物を加熱する時間が10〜180秒間であり、
100℃から280℃までの平均昇温速度が5℃/s以上であり、
最高加熱温度が300〜500℃であることを特徴とする絶縁被覆層の製造方法。
2. ジアミン成分が、m−フェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなり、m−フェニレンジアミンを25mol%以上含むジアミン成分またはm−フェニレンジアミンとp−フェニレンジアミンとからなり、m−フェニレンジアミンを65mol%以上含むジアミン成分である、前記項1に記載の絶縁被覆層の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、耐熱性、機械的特性に優れたポリイミド樹脂の絶縁被覆層を、結晶化を起こすことなく、短時間で形成できる工業的に有利な方法を提供することができる。本発明のポリイミド絶縁被覆層の製造方法は、特に、絶縁電線の製造に好適に適用でき、優れた耐熱性を有するとともに、絶縁被覆層に欠陥がない、信頼性の高い絶縁電線を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、基材にポリイミド前駆体組成物を塗布し、短時間で昇温して高温で焼付けをするポリイミド絶縁被覆層の製造方法であって、ポリイミド前駆体組成物が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主として含むテトラカルボン酸成分とm−フェニレンジアミンを必須成分とするジアミン成分とから得られ、特定の水蒸気透過係数を有するポリイミドフィルムを与えるポリアミック酸を含むことを特徴とする。ここで、短時間で昇温して高温で焼付けをするとは、例えば、ポリイミド前駆体組成物を加熱する時間が10〜180秒間であり、かつ、100℃から280℃までの平均昇温速度が5℃/s以上となる条件で昇温し、最高加熱温度が300〜500℃である工程である。
【0009】
本発明で用いるポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸成分にはテトラカルボン酸二無水物も含まれる)とジアミン成分とを溶媒中で、例えば、水又は有機溶媒中で、又は水と有機溶媒の混合溶媒中で反応させることにより得られる。
【0010】
このポリアミック酸は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50〜100モル%含むテトラカルボン酸成分とm−フェニレンジアミンを25mol%以上含むジアミン成分とから得られるものである。また、最高加熱温度を300〜500℃とする条件下で加熱処理することにより、水蒸気透過係数が1.3g・mm/(m
2・24h)より大きいポリイミドフィルムを製造することができるものである。
【0011】
本発明で用いるテトラカルボン酸成分は、主成分が、すなわち50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。特に、耐熱性や機械的特性の観点から、テトラカルボン酸成分が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなることが好ましい。
【0012】
本発明では、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)を50モル%以下の範囲で用いてもよい。本発明でビフェニルテトラカルボン酸二無水物と組み合わせて用いることができるテトラカルボン酸二無水物は、特に限定するものではないが、得られるポリイミドの特性から芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましい。例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを好適に挙げることができる。3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸成分を用いる場合、なかでも、得られるポリイミドの特性から、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、またはピロメリット酸二無水物を用いることが特に好ましい。前述のテトラカルボン酸二無水物は一種である必要はなく、複数種の混合物であっても構わない。
【0013】
本発明で用いるジアミン成分は、m−フェニレンジアミンを必須成分として、具体的には25mol%以上含むことが好ましい。前述のとおり、通常、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いる場合、急速な昇温による短時間の熱処理によりイミド化を行おうとすると、部分的な結晶化を起こし易いが、ジアミン成分としてm−フェニレンジアミンを用いて、得られるポリアミック酸を、水蒸気透過係数が1.3g・mm/(m
2・24h)より大きいポリイミドフィルムを製造できるものとすることにより、急速な昇温を行っても、結晶化を起こすことなく、ポリイミド層を形成できる。
【0014】
本発明では、m−フェニレンジアミン以外のジアミン成分を75mol%以下の範囲で用いてもよい。本発明でm−フェニレンジアミンと組み合わせて用いることができるジアミンは、特に限定するものではないが、得られるポリイミドの特性から芳香族ジアミンが好ましい。例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−メチレンビス(2,6−キシリジン)、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンなどを好適に挙げることができる。なかでも、得られるポリイミドの特性から、p−フェニレンジアミン、または4,4’−ジアミノジフェニルエーテルのいずれか一種以上を用いることが特に好ましい。
【0015】
本発明で用いるポリアミック酸は、最高加熱温度を300〜500℃とする条件下で加熱処理することにより、水蒸気透過係数が1.3g・mm/(m
2・24h)より大きいポリイミドフィルムを製造できることが必要である。特に水蒸気透過係数が1.5g・mm/(m
2・24h)以上のポリイミドフィルムを製造できることが好ましい。得られるポリイミドフィルムの水蒸気透過係数がこれより小さい値である場合、ポリイミド絶縁被覆層の製造において、急速な昇温による短時間の熱処理によりイミド化を行おうとすると、部分的な結晶化を起こし易い。
【0016】
好ましい水蒸気透過率を有するポリイミドを与えるジアミン成分としては、m−フェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなり、m−フェニレンジアミンを25mol%以上含むジアミン成分、m−フェニレンジアミンとp−フェニレンジアミンとからなり、m−フェニレンジアミンを65mol%以上含むジアミン成分を好適に挙げることができる。
【0017】
ここで、イミド化過程における結晶化について説明する。イミド化過程においては、溶媒の蒸発とイミド化反応が平行して起こる。昇温速度が大きいと、イミド化反応の進行に対して溶媒の蒸発量が少なくなり、残存溶媒量が比較的多くなる。ポリアミック酸のイミド化が進行してイミド結合が生成すると、分子鎖の溶媒に対する溶解性が小さくなる。そのため、残存溶媒量が比較的多い状態では、分子鎖が結晶化して析出しやすくなる。一方、昇温速度が小さい場合、イミド化反応の進行に対して溶媒の蒸発量が多くなり、残存溶媒が少ないため、結晶化が起こりにくい。本発明のポリイミド前駆体組成物に用いるポリアミック酸からは気体を透過しやすいポリイミド樹脂が得られるため、溶媒が蒸発し易く、昇温速度が大きい条件における結晶化の問題が起こりにくくなる。
【0018】
本発明で用いるポリアミック酸は、略等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、溶媒中で、イミド化反応を抑制するために100℃以下、好ましくは80℃以下の比較的低温で反応させることにより、ポリアミック酸溶液として得ることができる。限定するものではないが、通常、反応温度は25℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、反応時間は0.1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度である。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、生産効率よく高分子量のポリアミック酸溶液を容易に得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気下でも行うことができるが、通常は不活性ガス、好ましくは窒素ガス雰囲気下で好適に行われる。略等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとは、具体的には、これらのモル比[テトラカルボン酸二無水物/ジアミン]で0.90〜1.10程度、好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0019】
本発明で用いる溶媒は、ポリアミック酸を重合可能であればいずれの溶媒でもよく、水溶媒であっても、有機溶媒であってもよい。溶媒は2種以上の混合物であってもよく、2種以上の有機溶媒の混合溶媒、又は水と1種以上の有機溶媒の混合溶媒も好適に用いることができる。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m−クレゾール、フェノール、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。なお、この反応に用いた溶媒が、本発明で用いるポリイミド前駆体組成物に含まれる溶媒であることができる。
【0020】
本発明で用いるポリアミック酸は、限定されないが、温度30℃、濃度0.5g/100mLで測定した対数粘度が0.2以上、好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.6以上であることが好適である。対数粘度が前記範囲よりも低い場合には、ポリアミック酸の分子量が低いことから、高い特性のポリイミドを得ることが難しくなることがある。
【0021】
本発明で用いるポリイミド前駆体組成物は、ポリアミック酸に起因する固形分濃度が、限定されないが、ポリアミック酸と溶媒との合計量に対して、好ましくは5質量%〜45質量%、より好ましくは5質量%〜40質量%、さらに好ましくは5質量%超〜30質量%であることが好適である。固形分濃度が5質量%より低いと使用時の取り扱いが悪くなることがあり、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなることがある。
また、本発明で用いるポリイミド前駆体組成物の30℃における溶液粘度は、限定されないが、好ましくは1000Pa・sec以下、より好ましくは0.5〜500Pa・sec、さらに好ましくは1〜300Pa・sec、特に好ましくは2〜200Pa・secであることが取り扱い上好適である。
【0022】
ポリイミド前駆体組成物は、加熱処理によって溶媒を除去するとともにイミド化(脱水閉環)することによってポリイミドとなるが、上記のような本発明のポリイミド前駆体組成物を用いることにより、ポリイミド絶縁被覆層の形成のために、短時間で昇温し高温で焼付ける工程を採用することが可能となる。ここで、短時間で昇温して高温で焼付けをするとは、例えば、ポリイミド前駆体組成物を加熱する時間が10〜180秒間であり、且つ、100℃から280℃までの平均昇温速度が5℃/s以上となる条件で昇温し、最高加熱温度が300〜500℃である工程である。
【0023】
本発明では、公知の方法により基材に上記のようなポリイミド前駆体組成物を塗布し、加熱(焼付け)することによりポリイミド絶縁被覆層を形成する。この焼付け工程においては、ポリイミド前駆体組成物を加熱する時間(加熱炉で加熱する場合、加熱炉内にある時間)を10〜180秒間とし、100℃から280℃までの平均昇温速度を5℃/s以上とし、最高加熱温度を300〜500℃とすることができる。100℃から280℃までの平均昇温速度の上限は、特に限定されないが、例えば、50℃/s以下が好ましい。
本発明においては、さらに、100℃から300℃までの平均昇温速度を5℃/s以上(すなわち、100℃〜300℃まで40秒以内)としてもよく、100℃から最高加熱温度(300〜500℃)までの平均昇温速度を5℃/s以上としてもよい。100℃までの平均昇温速度も、特に限定されないが、5℃/s以上としてもよい。
本発明においては、100℃から280℃までの平均昇温速度が5℃/s以上(すなわち、100℃〜280℃まで36秒以内)であれば、室温から最高加熱温度までの昇温条件に制限はなく、一定の昇温速度で昇温してもよく、また加熱処理中に昇温速度を変更してもよく、段階的に昇温してもよい。
このイミド化のための加熱処理は、例えば、空気雰囲気下、あるいは不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
なお、上記以外の条件で、本発明のポリイミド前駆体組成物を加熱処理してポリイミド絶縁被覆層を形成することもできる。
なお、基材は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択される。また、形成するポリイミド絶縁被覆層の厚みも、特に限定されず、用途に応じて適宜選択される。
【0024】
本発明により得られるポリイミド絶縁被覆層は、高度の耐電圧性、耐熱性、及び耐湿熱性を有する絶縁部材(被覆層)である。したがって、電気・電子部品関連、自動車分野、航空宇宙分野等に特に好適に使用でき、HV車モーター用コイルや超小型モーターの分野にも使用可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0026】
以下の例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
<固形分濃度>
試料溶液(その質量をw
1とする)を、熱風乾燥機中120℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で30分間加熱処理して、加熱処理後の質量(その質量をw
2とする)を測定する。固形分濃度[質量%]は、次式によって算出した。
固形分濃度[質量%]=(w
2/w
1)×100
<溶液粘度(回転粘度)>
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃で測定した。
<絶縁被覆層の状態観察(被覆膜評価)>
得られた被覆層について目視により状態観察を行った。濁りが全くないものを良好、濁りがある領域が10%を越えているものを濁りありとした。「濁りがある」ということは、ポリイミド樹脂が少なくとも一部結晶化していることを示している。
<昇温速度の測定>
被覆層形成工程において、キーエンス株式会社製の計測ユニットNR−TH08と解析ソフトWAVE LOGGERを用いて、サンプル温度が100℃から280℃に変化するまでの所要時間を測定した。
<水蒸気透過係数>
JIS K7129のB法に準拠して、40℃、相対湿度90%で測定を行った。
<弾性率、引張強度、引張伸度>
調製したポリイミド前駆体組成物をガラス基板上に塗工し、熱風オーブン中、80℃で30分加熱し、続いて350℃で30分加熱して硬化させ、厚さがおよそ25μmのポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムを幅10mm、長さ100mmに切り出して試験片とした。この試験片について、引張試験機(オリエンテック製;テンシロンRTG−1225)を使用して、温度25℃、湿度50%RH、クロスヘッド速度50mm/分、チャック間距離50mmの条件で、引張弾性率、引張強度、及び引張伸度を測定した。
【0027】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PPD:p−フェニレンジアミン
MPD:m−フェニレンジアミン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0028】
〔実施例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMPの373gを加え、これにODAの28.03g(0.14モル)、MPDの6.49g(0.06モル)を加え、50℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの58.84g(0.2モル)を加え、50℃で3時間撹拌して、固形分濃度18.5質量%、溶液粘度5.0Pa・sのポリイミド前駆体組成物を得た。
このポリイミド前駆体組成物を、膜厚50μmのポリイミドフィルム上に塗工した。得られたサンプルを事前に380℃に熱したSUS板の上に置いて1分間保持し、厚さがおよそ25μmの絶縁被覆層を作成した。その際のサンプル温度が100℃から280℃へ昇温する時間は12秒であった(昇温速度15℃/s)。得られたポリイミド前駆体組成物及び絶縁被覆層について、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0029】
〔比較例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMPの373gを加え、これにODAの32.04g(0.16モル)、MPDの4.33g(0.04モル)を加え、50℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの58.84g(0.2モル)を加え、50℃で3時間撹拌して、固形分濃度18.5質量%、溶液粘度5.0Pa・sのポリイミド前駆体組成物を得た。
このポリイミド前駆体組成物を用いて実施例1と同様にして絶縁被覆層を作成した。その際のサンプル温度が100℃から280℃へ昇温する時間は12秒であった(昇温速度15℃/s)。得られたポリイミド前駆体組成物及び絶縁被覆層について、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0030】
〔実施例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMPの370gを加え、これにMPDの17.41g(0.16モル)、PPDの7.46g(0.07モル)を加え、50℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの67.67g(0.23モル)を加え、50℃で3時間撹拌して、固形分濃度18質量%、溶液粘度5.0Pa・sのポリイミド前駆体組成物を得た。
このポリイミド前駆体組成物を用いて実施例1と同様にして絶縁被覆層を作成した。その際のサンプル温度が100℃から280℃へ昇温する時間は12秒であった(昇温速度15℃/s)。得られたポリイミド前駆体組成物及び絶縁被覆層について、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0031】
〔比較例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMPの370gを加え、これにMPDの14.92g(0.14モル)、PPDの9.95g(0.09モル)を加え、50℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの67.67g(0.23モル)を加え、50℃で3時間撹拌して、固形分濃度18質量%、溶液粘度5.0Pa・sのポリイミド前駆体組成物を得た。
このポリイミド前駆体組成物を用いて実施例1と同様にして絶縁被覆層を作成した。その際のサンプル温度が100℃から280℃へ昇温する時間は12秒であった(昇温速度15℃/s)。得られたポリイミド前駆体組成物及び絶縁被覆層について、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0032】
【表1】