(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、エンジンシステム1の全体構成の説明図である。エンジン100は、ターボ式過給機7を備える。ターボ式過給機7は、シャフト7cで接続されたコンプレッサ7aとタービン7bを備える。コンプレッサ7aはエンジン100の吸気通路51aに配設される。タービン7bはエンジン100の排気通路52aに配設される。これにより、タービン7bがエンジン100の排気エネルギにより回転すると、コンプレッサ7aも回転し、吸入空気を下流側に圧送する。
【0012】
エンジン100は、少なくとも吸気側に、吸気バルブの開閉タイミングを変更する可変動弁機構(図示せず)を備える。
【0013】
また、エンジン100は、クランク角センサ37を備える。クランク角センサ37は、エンジン100におけるクランク角を検出する。クランク角センサ37はコントローラ50に接続され、コントローラ50はエンジン100のクランク角を取得することができる。これによりコントローラ50は、例えば、エンジン100の回転速度を求めることができる。
【0014】
また、コンプレッサ7aの下流側におけるエンジン100の吸気通路51aには、電子制御スロットル41が設けられ、コントローラ50によってスロットル開度が制御される。また、電子制御スロットル41のさらに下流にはコレクタタンク46が設けられる。コレクタタンク46内には、空気冷却器31aが設けられる。空気冷却器31aには、冷却水を循環させるポンプ31bとサブラジエータ31cが接続され、これらで水冷インタークーラを構成する。
【0015】
吸気通路51bからはリサーキュレーション通路34が分岐し吸気通路51aに接続する。リサーキュレーション通路34は、コンプレッサ7aをバイパスする。リサーキュレーション通路34には、リサーキュレーションバルブ33が設けられ、その開閉がコントローラ50によって制御される。リサーキュレーションバルブ33の開閉が制御されることによって、コンプレッサ7aの下流の過給圧が高くなりすぎないように調整される。
【0016】
また、コンプレッサ7aの上流側の吸気通路51bにはエアフローメータ38が設けられる。エアフローメータ38は、コントローラ50に接続される。そして、コントローラ50は吸気通路51bを通過する吸気量を取得する。
【0017】
排気通路52aには、タービン7bをバイパスするバイパス通路が設けられる。そして、このバイパス通路の開閉を制御するウェストゲートバルブ19が設けられている。ウェストゲートバルブ19は、コントローラ50によって、その開閉が制御される。なお、ウェストゲートバルブ19は、図中等においてW/Gバルブと標記される場合もある。
【0018】
排気通路52bには、排気浄化用の排気触媒44、45が設けられる。排気触媒44にはNOxトラップ触媒が、45には三元触媒等が、それぞれ用いられる。
【0019】
吸気通路51bと排気通路52bは、EGR通路53を介して接続される。EGR通路53にはEGRクーラー43が設けられる。また、EGR通路53には、EGRバルブ42が設けられる。EGRバルブ42は、コントローラ50に接続される。そして、エンジン100の運転状態に応じて、コントローラ50によりEGRバルブ42の開度が制御される。なお、ここでいう運転状態とは、エンジン100の回転速度、負荷のことである。
【0020】
排気通路52bにおいて、EGR通路53との接続部とエアフローメータ38との間にはアドミッションバルブ39が設けられる。アドミッションバルブ39はコントローラ50によってその開閉が制御され、吸気通路51bと排気通路52bとの間に差圧を作り出す。そして、この差圧によって、排気の一部をEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスとして排気通路52bから吸気通路51bに再循環させる。
【0021】
なお、アドミッションバルブ39は、そのデフォルト状態において全開であり、コントローラ50によって制御されることにより閉方向に操作される。
【0022】
また、アドミッションバルブ39は排気通路52bに比して吸気通路51bを負圧にする制御に専従する。一方、EGRバルブ42はEGRガスの導入制御に専従する。EGRバルブ42の制御は、エンジン100の回転速度と負荷とで定まる運転状態毎にEGR率を割り付けたマップに基づいて行われる。当該マップについては後述する。以下、EGRバルブ42及びアドミッションバルブ39を制御することによりEGRガスを吸気通路51bに導入する制御を、EGR制御という。
【0023】
コントローラ50は、前述の各種センサ及び図示しないその他のセンサからの出力を読み込み、これらに基づいて点火時期、空燃比等の制御を行う。
【0024】
また、コントローラ50は、無過給状態かつ目標空燃比が理論空燃比の状態で実行されるストイキ燃焼モードと、過給状態かつ目標空燃比が理論空燃比よりもリーンな状態で実行されるリーン燃焼モードと、をエンジン100の運転状態に応じて切り替えて実行する。なお、本実施形態においては、リーン燃焼モード実行中は空気過剰率λ=2となるように目標空燃比を設定する。
【0025】
図2は、運転領域毎の燃焼モードを示す燃焼モードマップである。横軸の回転速度は、上述した通りクランク角センサ37の検出値に基づいて算出する。縦軸の負荷は、例えばアクセルペダル開度センサで検出するアクセルペダル開度に基づいて算出する。
【0026】
図中のλ=1の領域がストイキ燃焼モードを実行する領域(ストイキ燃焼領域ともいう)であり、λ=2の領域がリーン燃焼モードを実行する領域(リーン燃焼領域ともいう)である。リーン燃焼領域は、低中回転速度・低中負荷領域の一部の領域である。つまり、リーン燃焼モードは、それほど大きな負荷が要求されない運転領域で実行される。
【0027】
なお、リーン燃焼モードにおいて過給状態にするのは、次の理由による。
【0028】
エンジン100が発生するトルクは燃焼させる燃料量に依存するため、発生させるトルクが一定の場合には、空気過剰率のいかんにかかわらず、燃焼させる燃料量も一定になる。つまり、
図2の運転点Aにおけるトルクをλ=2で発生させるためには、同トルクをλ=1で発生させる場合に比べて、空気量を2倍にする必要がある。このように、リーン燃焼モードにおいては、無過給状態では必要な空気量が得られなくなるおそれがあるため、ターボ式過給機7による過給を行う。
【0029】
ところで、ストイキ燃焼モードからリーン燃焼モードへの切り替え時に、エンジン100が発生するトルクの変化(トルクショック)が生じると、運転性が悪化してしまう。そこでコントローラ50は、以下に説明する燃焼切替制御によって、ストイキ燃焼モードからリーン燃焼モードへの切り替え時におけるトルクショックを抑制する。
【0030】
図3は、燃焼切替制御のルーチンを示すフローチャートである。
【0031】
当該制御ルーチンは、まず、トルクを一定に維持したままターボ式過給機7の仕事量を増大させ、その後に目標空燃比を変更するものである。以下、ステップにしたがって詳細に説明する。
【0032】
ステップS1000で、コントローラ50は燃焼切替制御実行条件が成立するか否かを判定する。具体的には、
図4に示すサブルーチンを実行することにより判定する。
【0033】
図4のステップS2000で、コントローラ50は、現在の運転点がリーン燃焼領域に含まれるか否か、及び、後述するリーン燃焼モード許可条件が成立しているか否かを判定する。コントローラ50は、リーン燃焼領域であってリーン燃焼モード許可条件が成立している場合には、ステップS2010で燃焼切替制御実行条件が成立していると判断する。いずれか一方でも満たさない場合には、そのまま
図4のサブルーチンを終了する。つまり、コントローラ50は燃焼切替制御実行条件が成立していないと判断する。
【0034】
現在の運転点がリーン燃焼領域に含まれるか否かは、
図5に示すサブルーチンにより判定する。コントローラ50は、ステップS3000において、エンジン100の回転速度が所定範囲内、かつエンジン100のトルクが所定範囲内であるという条件を満たすか否かを判定する。コントローラ50は、当該条件を満たす場合はステップS3010にて現在の運転点がリーン燃焼領域に含まれると判定し、満たさない場合はそのまま本サブルーチンを終了する。ステップS3000で用いる回転速度の所定範囲は、
図2のNE1〜NE2であり、トルクの所定範囲は、
図2のQ1〜Q2である。具体的な数値は本実施形態を適用するエンジンの仕様毎に異なる。
【0035】
リーン燃焼モード許可条件が成立しているか否かは、
図6に示すサブルーチンにより判定する。コントローラ50は、ステップS4000で環境条件が成立し、かつNOxトラップ触媒44のトラップ量が予め設定したトラップ限界未満であり、かつ関連システムに故障がない、という条件が成立するか否かを判定する。各条件の詳細については後述する。
【0036】
コントローラ50は、当該条件が成立している場合にはステップS4010にてリーン燃焼許可条件が成立していると判定し、成立していない場合はそのまま本サブルーチンを終了する。
【0037】
ステップS4000で行う判定の内容は以下の通りである。
【0038】
環境条件とは、車両が置かれた環境の気温や大気圧等である。例えば、いわゆる極低温や、高地のように気圧が低い環境下のように、リーン燃焼モードではエンジン100の燃焼安定度を確保することが難しい環境がある。そこで、リーン燃焼モードでも燃焼安定度を確保できる環境条件を予め調べておき、当該条件を満たす場合に環境条件が成立していると判定する。
【0039】
トラップ限界は、NOxトラップ触媒44の容量に応じて定まる値である。また、トラップ量は、種々の公知技術を用いて推定可能であり、例えば、エンジン100の運転領域、排気温度、空燃比、空気流量等の履歴を用いて推定可能である。
【0040】
空燃比がリーンになるほどエンジン100からのNOx排出量が増加するので、トラップ量がトラップ限界に達した状態でリーン燃焼モードを実行すると、NOxトラップ触媒44でNOxをトラップできない。一方、三元触媒45は排気の空燃比が理論空燃比から外れると浄化効率が著しく低下する。すなわち、トラップ量がトラップ限界に達した状態でリーン燃焼モードを実行すると、車外に排出されるNOxの量が増加してしまう。そこで、NOxトラップ量がトラップ限界未満であるか否かを判定する。
【0041】
関連システムとは、主にエンジン100の運転に関連するシステムであり、例えば、ターボ式過給機7、ウェストゲートバルブ19、可変動弁機構、燃料噴射に関連する機構、点火に関連する機構等である。これらが故障している場合には、適切な運転ができないので、それぞれのシステムについて、本実施形態とは別に故障判定が行われる。ステップS4000では、それらの判定結果を読み込んで判定を行う。
【0043】
コントローラ50は、ステップS1000で燃焼切替制御実行条件が成立していると判定した場合はステップS1010の処理を実行し、そうでない場合は本ルーチンを終了する。
【0044】
ステップS1010で、コントローラ50は燃焼切替要求フラグをセットする。
【0045】
ステップS1020で、コントローラ50はウェストゲートバルブ19を全閉にする閉弁制御を開始する。これは、ターボ式過給機7の仕事量を増大させるためである。
【0046】
ウェストゲートバルブ19が全閉になったら、コントローラ50はステップS1030で第1切替ステップとして点火時期の遅角を開始する。ターボ式過給機7の仕事量が増大すると、エンジン100の吸入空気量が増加し、これに応じて理論空燃比になるよう燃料噴射を行うとトルクが増大してトルクショックが発生してしまう。一方、点火時期を遅角させると、燃焼効率が低下するためエンジン100が発生するトルクは減少するとともに、排気温度が上昇することでターボ式過給機7の仕事量を増大させることができる。そこで、ステップS1030では、エンジン100の発生するトルクが一定に保たれるように点火時期を遅角する。
【0047】
ステップS1040で、コントローラ50は、最大筒内圧が予め設定した失火判定閾値より高いか否かを判定する。ここでいう最大筒内圧とは、1サイクル中におけるシリンダ内圧力の最大値である。最大筒内圧は、センサにより検知してもよいし、筒内に流入する空気量、燃料噴射量、空燃比、点火時期等に基づいて推定してもよい。失火判定閾値とは、予め設定した値であり、最大筒内圧がこれ以上低下すると失火するという値(失火限界)よりも、やや高い値が設定されている。失火限界はエンジンの仕様によって異なるので、本実施形態を適用するエンジン毎に実験等により求める。
【0048】
コントローラ50は、ステップS1040で最大筒内圧が失火判定閾値より高い場合にはステップS1050の処理を実行する。そうでない場合には、コントローラ50はステップS1100において、燃焼切替制御を中止して、点火時期をストイキ燃焼モード用の設定値に戻す。このように、最大筒内圧が失火判定閾値まで低下した場合には燃焼切替制御を中止する、換言すると、最大筒内圧が失火限界判定閾値以上を維持できる範囲内で点火時期を遅角させるので、燃焼切替制御中に失火してしまうことを回避できる。
【0049】
コントローラ50は、ステップS1050で点火時期の遅角を継続し、ステップS1060で、過給圧が目標過給圧に達したか否かを判定する。過給圧はセンサにより検出する。目標過給圧は、リーン燃焼モードで空気過剰率λ=2を実現するために必要な過給圧であり、予め設定しておいた値である。
【0050】
コントローラ50は、ステップS1060の判定結果が肯定的な場合はステップS1070でウェストゲートバルブ19を全開にし、否定的な場合は本ルーチンを終了する。
【0051】
ステップS1080で、コントローラ50は第2切替ステップとして点火時期及びバルブタイミングをリーン燃焼モード用の設定値に変更する。リーン燃焼モード用の点火時期は、ストイキ燃焼モード用の点火時期よりも進角側に設定される。同じくバルブタイミングは、吸気弁閉時期がストイキ燃焼モード用のバルブタイミングよりも進角側に設定される。ここで吸気弁閉時期を進角させるのは、体積効率を向上させるためである。体積効率とは、エンジンの燃焼済みの排気と未燃焼の吸気とを交換する能力を表す指標であり、空気取り入れ口における温度・圧力下での吸気量V1と、排気量V0との比であるV1/V0で表される。
【0052】
ステップS1090で、コントローラ50は燃焼切替制御完了条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、
図7に示すサブルーチンを実行する。
【0053】
図7のステップS5000で、コントローラ50は、空燃比が目標空燃比になっており、かつエンジン100の発生するトルクが目標トルクになっており、かつ過給圧が目標過給圧になっている、という条件が成立しているか否かを判定する。コントローラ50は、当該条件が成立している場合にはステップS5010で燃焼切替制御完了条件が成立したと判断し、そうでない場合にはそのまま本ルーチンを終了する。
【0054】
図7のサブルーチンにより燃焼切替制御完了条件が成立していると判定された場合には、コントローラ50はステップS1110において燃焼切替要求フラグをクリアし、本ルーチンを終了する。
【0055】
図8は、上述した制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【0056】
タイミングT1で燃焼切替要求フラグがセットされたら(S1000)、ウェストゲートバルブ19が閉弁を開始し、タイミングT2でウェストゲートバルブ19が全閉になる(S1020)。これに伴い、ターボ式過給機7の仕事量が増大するので、吸気圧力及びシリンダ空気質量流量が増大する。目標空燃比はストイキのままなので、シリンダ空気質量流量の増大に伴い、燃料流量(燃料噴射量)も増大する。
【0057】
また、タイミングT2では、点火時期の遅角が開始される(S1030)。これにより最大筒内圧が低下し始める。タイミングT3で吸気圧力が目標過給圧に到達したら、ウェストゲートバルブ19の開弁と(S1060、S1070)、点火時期及びバルブタイミングのリーン燃焼モード用の設定値への変更と(S1080)、を開始する。なお、ウェストゲートバルブ19の開度は、運転状態に基づいて定まるシリンダ空気質量流量の要求値に応じて制御される。
【0058】
そして、タイミングT4で燃焼切替制御完了条件が成立したら、燃焼切替要求フラグがクリアされる(S1090、S1110)。
【0059】
次に、上述した本実施形態による作用効果についてまとめる。
【0060】
本実施形態の燃焼切替制御は、無過給状態かつ理論空燃比で実行するストイキ燃焼モードから、過給状態かつ理論空燃比よりリーンな空燃比で実行するリーン燃焼モードへ切り替える制御である。そして、燃焼切替制御は、切り替え前のトルクを維持しつつ、最大筒内圧が予め設定した失火限界判定閾値以上を維持できる範囲内で、点火時期の遅角または体積効率の低下の少なくとも一方を行うステップ(第1切替ステップ)を含む。さらに、燃焼切替制御は、第1切替ステップの後に、空燃比を理論空燃比からリーン側へ変化させながら点火時期の進角または体積効率の向上の少なくとも一方を行うステップ(第2切替ステップ)を含む。第1切替ステップによれば、燃焼安定度を確保できる範囲内で、トルクを一定に維持しつつターボ式過給機7の仕事量を増大させることができる。そして、第1切替ステップの後に第2切替ステップを行うことにより、燃焼モードの切り替え途中における中間空燃比となる時間を短縮することができる。すなわち、本実施形態の燃焼切替制御によれば、燃焼安定度を確保しつつ、速やかにストイキ燃焼モードからリーン燃焼モードへの切り替えを行うことができる。
【0061】
また、本実施形態では、コントローラ50は吸気圧力を取得する吸気圧力取得部としての機能も有し、吸気圧力がリーン燃焼モードにおける目標吸気圧に達したら、目標当量比をストイキからリーンに切り替えるとともに、第2切替ステップを開始する。これにより、ストイキ燃焼モードからリーン燃焼モードへの切り替えを、速やかかつ的確なタイミングで行うことができる。
【0062】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる燃焼切替制御は、上述した第1切替ステップの内容が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0063】
図9は、第2実施形態に係る燃焼切替制御のルーチンを示すフローチャートである。
図3と同内容のステップには、同じステップ番号を付してある。
図9のルーチンで
図3と異なるのは、
図3のステップS1030−S1050に代えて、
図9ではステップS1035を実行している点と、
図3のステップS1110に相当するステップが無い点である。
【0064】
ステップS1035で、コントローラ50は吸気弁閉時期を切替時用の設定値に制御する。具体的には、吸気圧力(過給圧)が上昇してもシリンダ空気質量流量が一定となるように、吸気弁閉時期を徐々に遅角させる。なお、シリンダ空気質量流量の取得には、種々の公知技術を適用することができ、例えば、エンジン回転速度、バルブタイミング、吸気圧力、吸気温度等に基づいて推定する。
【0065】
上述した通り、第1実施形態では、ターボ式過給機7の仕事量の増大によるトルク増大を抑制するために、点火時期を遅角させて燃焼効率を低下させている。これに対し第2実施形態では、吸気弁閉時期を遅角させることでエンジン100の体積効率を低下させ、これによりターボ式過給機7の仕事量の増大によるトルク増大を抑制する。
【0066】
なお、吸気弁閉時期を遅角させた場合でも、点火時期はストイキ燃焼モードにおける点火時期、つまり最適点火時期のままなので、最大筒内圧はほぼ一定に維持される。このため、
図3のステップS1040及びS1100に相当するステップを省略している。
【0067】
図10は、
図9の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【0068】
タイミングT1で燃焼切替要求フラグがセットされたら(S1000)、ウェストゲートバルブ19が閉弁を開始し、タイミングT2でウェストゲートバルブ19が全閉になる(S1020)。これに伴い、ターボ式過給機7の仕事量が増大するので、吸気圧力が増大する。ただし、吸気弁閉時期が遅角することで体積効率が低下するので、シリンダ空気質量流量は一定に維持される。目標空燃比はストイキのままなので、燃料流量(燃料噴射量)も一定である。
【0069】
また、タイミングT2では、吸気弁閉時期の遅角が開始される(S1035)。これにより体積効率が低下するので、吸気圧(過給圧)が上昇してもシリンダ空気質量流量は一定に維持される。タイミングT3で吸気圧力が目標過給圧に到達したら、ウェストゲートバルブ19の開弁と(S1060、S1070)、点火時期及びバルブタイミングのリーン燃焼モード用の設定値への変更と(S1080)、を開始する。なお、ウェストゲートバルブ19の開度は、運転状態に基づいて定まるシリンダ空気質量流量の要求値に応じて制御される。
【0070】
そして、タイミングT4で燃焼切替制御完了条件が成立したら、燃焼切替要求フラグがクリアされる(S1090、S1110)。
【0071】
上述した通り、本実施形態では、コントローラ50はシリンダ空気質量流量(シリンダ内に流入する空気の質量流量である空気流量)を取得する空気流量取得部としての機能も有する。そして、コントローラ50は、第1切替ステップで吸気弁閉時期の遅角により体積効率を低下させる場合には、シリンダ空気質量流量がリーン燃焼モードにおける目標吸気流量に収束するよう吸気弁閉時期を遅角させる。このように、取得したシリンダ空気質量流量に基づいて吸気弁閉時期の制御をすることで、移行制御中の吸気弁閉時期を予め設定しておく必要がなくなる。すなわち、吸気弁閉時期を予め設定するための適合作業が必要なくなる。なお、本実施形態では体積効率を低下させるための手法として吸気弁閉時期の遅角を用いたが、これに限られるわけではない。例えば、電子制御スロットル41の開度を減少させてもよいし、過給機や慣性過給による過給効果を低下させてもよい。
【0072】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る燃焼切替制御では、上述した第1切替ステップとして、点火時期の遅角と吸気弁閉時期の遅角とを行う。以下、第1実施形態及び第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0073】
図11は、第3実施形態に係る燃焼切替制御のルーチンを示すフローチャートである。
図3と同内容のステップには、同じステップ番号を付してある。
図3の制御ルーチンでは、ステップS1040の判定結果が否定的であった場合にステップS1100の処理を実行するのに対し、
図11の制御ルーチンでは、後述するステップS1042及びステップS1044の処理を実行する。以下、この相違点を中心に説明する。
【0074】
コントローラ50は、ステップS1040において最大筒内圧が失火判定閾値以下であると判定したら、ステップS1042において点火時期の遅角を中止し、その時点における点火時期に固定する。最大筒内圧は徐々に低下するので、最大筒内圧が失火判定閾値に達するのとほぼ同時にステップS1042の処理を実行することになる。これにより、最大筒内圧が失火限界よりも低くなって失火することを防止できる。
【0075】
そして、コントローラ50は、ステップS1044において、第2実施形態と同様に吸気弁閉時期の遅角を開始してから、ステップS1060以降の処理を実行する。
【0076】
図12は、
図11の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【0077】
タイミングT1で燃焼切替要求フラグがセットされたら(S1000)、ウェストゲートバルブ19が閉弁を開始し、タイミングT2でウェストゲートバルブ19が全閉になる(S1020)。これに伴い、ターボ式過給機7の仕事量が増大するので、吸気圧力及びシリンダ空気質量流量が増大する。目標空燃比はストイキのままなので、シリンダ空気質量流量の増大に伴い、燃料流量(燃料噴射量)も増大する。
【0078】
また、タイミングT2では、点火時期の遅角が開始される(S1030)。これにより最大筒内圧が低下し始める。
【0079】
タイミングT3で最大筒内圧が失火限界判定閾値まで低下したら、吸気弁閉時期の遅角を開始する。そして、タイミングT4で吸気圧力が目標過給圧に到達したら、ウェストゲートバルブ19の開弁と(S1060、S1070)、点火時期及びバルブタイミングのリーン燃焼モード用の設定値への変更と(S1080)、を開始する。なお、ウェストゲートバルブ19の開度は、運転状態に基づいて定まるシリンダ空気質量流量の要求値に応じて制御される。
【0080】
そして、タイミングT5で燃焼切替制御完了条件が成立したら、燃焼切替要求フラグがクリアされる(S1090、S1110)。
【0081】
上述した通り、本実施形態では、第1切替ステップで点火時期の遅角及び吸気弁閉時期の遅角を行う。そして、点火時期を遅角した後に吸気弁閉時期の遅角を開始し、かつ吸気弁閉時期を変化させている間は、点火時期を一定に維持する。点火時期の遅角によれば、シリンダ空気質量流量を減らすことなくエンジン100のトルクを抑制できるので、ターボ式過給機7の仕事量を速やかに増大させることができる。一方、吸気弁閉時期の遅角によれば、燃焼安定度を低下させることなくエンジン100のトルクを抑制できる。したがって、本実施形態のように、最大筒内圧が失火限界判定閾値に到達するまで点火時期の遅角を行い、その後に点火時期を一定に維持しつつ吸気弁閉時期の遅角を行うことで、失火を防止しつつターボ式過給機7の仕事量を速やかに増大させることができる。
【0082】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る燃焼切替制御は、上述した第1切替ステップで点火時期の遅角を行う場合に、切替前のストイキ燃焼モード中にEGR制御を行っていたか否かに応じて、点火時期を遅角させる速度(以下、「遅角速度」ともいう)を変化させる点を特徴とする。
【0083】
図13は、
図2の運転領域マップにEGR制御を実行する領域(以下、「EGR領域」ともいう)を付加したものである。EGR領域内では、コントローラ50は、回転速度及び負荷が高くなるほど高いEGR率となるようにEGRバルブ42及びアドミッションバルブ39を制御する。
【0084】
ストイキ燃焼モードがEGR領域で行われている状態で燃焼切替制御を開始し、第1切替ステップとして点火時期を遅角させる場合を考える。
【0085】
EGRガスは基本的に不活性ガスとして作用するため、筒内の空気量に対するEGRガス量の割合(以下、EGR率ともいう)が高くなるほど、筒内の火炎伝播速度は低下する。換言すると、EGR率が高いほど燃焼は不安定になる。したがって、点火時期を遅角させることで燃焼効率が低下すると、EGR領域では非EGR領域に比べて失火が生じ易くなる。
【0086】
そこで第4実施形態では、EGR領域でストイキ燃焼モードを実行している状態で燃焼切替制御を開始する場合でも、失火することなくリーン燃焼モードへ切り替えるために、以下に説明する制御ルーチンを実行する。
【0087】
図14は、第4実施形態に係る燃焼切替制御のルーチンを示すフローチャートである。
図3、
図11と同内容のステップには、同じステップ番号を付してある。
図14の制御ルーチンは、ステップS1020とステップS1030との間に、ステップS1022とステップS1024とを実行する点と、ステップS1030で点火時期の遅角と併せてEGRバルブ42の閉弁を行う点と、が
図11の制御ルーチンと相違する。以下、これらの相違点を中心に説明する。
【0088】
ステップS1020でウェストゲートバルブ19が全閉になったら、コントローラ50はステップS1022でEGR率が0%より大か否か、つまり現在の運転領域がEGR領域か否かを判定する。この判定は、
図13の運転領域マップを用いて行う。コントローラ50は、EGR領域であればステップS1024の処理を実行し、非EGR領域であればステップS1024をスキップしてステップS1030の処理を実行する。
【0089】
ステップS1024で、コントローラ50は、点火時期の遅角速度を非EGR領域で切替制御を実行する場合の遅角速度よりも低くなるように制限する。EGRガスの導入によって燃焼が不安定になっている状態で急激に燃焼効率を低下させると、失火する可能性が高まるので、失火を回避するために本ステップにおいて点火時期の遅角速度を制限する。失火を回避し得る遅角速度は、本実施形態を適用するエンジンの仕様毎に異なるので、実験等により予め調べてコントローラ50に記憶しておく。なお、ステップS1022では点火時期の遅角を開始せず、点火時期を遅角させる際の遅角速度を設定するだけである。
【0090】
そして、コントローラ50は、ステップS1024において点火時期の遅角速度を制限したら、ステップS1030において、点火時期の遅角を開始するとともに、EGRバルブ42を全閉にし、ステップS1040以降の処理を実行する。
【0091】
図15は、
図14の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【0092】
タイミングT1で燃焼切替要求フラグがセットされたら(S1000)、ウェストゲートバルブ19が閉弁を開始し、タイミングT2でウェストゲートバルブ19が全閉になる(S1020)。これに伴い、ターボ式過給機7の仕事量が増大するので、吸気圧力及びシリンダ空気質量流量が増大する。目標空燃比はストイキのままなので、シリンダ空気質量流量の増大に伴い、燃料流量(燃料噴射量)も増大する。
【0093】
また、タイミングT2では、点火時期の遅角とEGRバルブ42の閉弁が開始される(S1030)。点火時期の遅角により最大筒内圧が低下し始め、EGRバルブ42の閉弁によりEGR率が低下し始める。点火時期の遅角速度は、非EGR領域から切り替える場合よりも低く制限される。
【0094】
タイミングT3で最大筒内圧が失火限界判定閾値まで低下したら、吸気弁閉時期の遅角を開始する。そして、タイミングT4で吸気圧力が目標過給圧に到達したら、ウェストゲートバルブ19の開弁と(S1060、S1070)、点火時期及びバルブタイミングのリーン燃焼モード用の設定値への変更と(S1080)、を開始する。なお、ウェストゲートバルブ19の開度は、運転状態に基づいて定まるシリンダ空気質量流量の要求値に応じて制御される。
【0095】
そして、タイミングT5で燃焼切替制御完了条件が成立したら、燃焼切替要求フラグがクリアされる(S1090、S1110)。
【0096】
上述した通り、本実施形態の燃焼切替制御は、ERG制御を実行中のストイキ燃焼モードからEGR制御を実行しないリーン燃焼モードへの切り替えるものである。この燃焼切替制御では、第1切替ステップで点火時期の遅角を開始するのと同時にEGR率を低下させ、かつ点火時期を遅角させる速度を、EGR制御を実行しない場合に比べて遅くする。EGR率が高いほど燃焼安定度は低くなるが、本実施形態によれば失火を防止することができる。
【0097】
なお、本実施形態では、ステップS1024においてEGR領域であればEGR率の大きさによらず点火時期の遅角速度を一律に制限しているが、EGR率の大きさに応じて制限の度合いを変えてもよい。この場合、EGR率が高いほど、遅角速度を低い速度に制限することとなる。
【0098】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。