(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオールの脂環式構造の含有量が、1〜50質量%である請求項1〜2のいずれか1項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
ポリカーボネートポリオールに占める脂環式構造/ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物の質量比が、10/0.1〜10/30である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
水性ポリウレタン樹脂分散体に占める脂環式構造/ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物の質量比が、10/0.1〜10/30である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも(a)主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物、(c)酸性基含有ポリオール化合物から得られる(A)ポリウレタンプレポリマーと、(B)鎖延長剤と、を反応させて得られるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<水性ポリウレタン樹脂分散体>
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、主鎖に脂環構造を有するポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン樹脂の酸性基が、下記式(1)で示されるジアルキルアミノメチロールアルカン化合物を含む中和剤で中和されている水性ポリウレタン樹脂分散体である。
【0017】
(式中、R
1及びR
2は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐上アルキル基、Zは3級炭素、あるいは4級炭素を含むアルキレン基を示す。なお、R
1及びR
2は互いに結合して環を形成していても良く、R
1及びR
2の任意の炭素原子は水酸基で置換されていても良い。)
【0018】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリポリオール化合物由来の構成単位、及び/またはポリイソシアネート化合物由来の構成単位の脂環式構造を有する。その脂環式構造の含有率は特に制限されないが、1〜50重量%が好ましく、5〜50質量%が更に好ましい。
脂環式構造の割合(以下、「脂環構造含有率(ポリウレタン)」と称することもある)をこの範囲とすることで、塗膜にした際に耐摩耗性が良好な水性ポリウレタン樹脂分散体とすることができ、かつ高固形分化した際の粘度上昇を抑えることができる。
【0019】
ここで、脂環構造含有率(ポリウレタン)は、水性ポリウレタン樹脂中に占める、脂環式基の重量割合とする。例えば、シクロヘキサン残基などのシクロアルカン残基(1,4−ヘキサンジメタノールの場合は、シクロヘキサンから2つの水素原子を除いた部分)や、ジシクロヘキシルメタン残基(4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの場合は、ジシクロヘキシルメタンから4つの水素原子と1つの炭素原子を除いた部分)や、イソホロン残基(イソホロンジイソシアネートの場合は、シクロヘキサンから5つの水素原子を除いた部分)に基づき、算出した値をいう。
【0020】
<<ポリウレタン樹脂>>
本発明におけるポリウレタン樹脂は、少なくとも(a)主鎖に脂環構造を有するポリカーボネートポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から得られる(A)ポリウレタンプレポリマーと、(B)鎖延長剤とを反応させて得られるものが好ましい。
なお、本発明の機能や特定を損なわない範囲において、反応工程を適宜変更することが可能である。
即ち、前記ポリウレタン樹脂は、主鎖に脂環構造を有するポリカーボネートポリオール化合物由来の構成単位、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位、酸性基含有ポリオール化合物由来の構成単位、及び鎖延長剤由来の構成単位を有する。
【0021】
<<<(a)主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオール化合物>>>
本発明で使用する(a)主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオール化合物(以下、「(a)ポリカーボネートポリオール化合物」ということもある。)は、1分子中に2つ以上の水酸基を有していればよい。また、その種類に特に制限はなく、複数種を併用することができる。
なお、本発明の特性や機能を損なわない程度において、ポリカーボネートポリオール化合物は、エステル結合やエーテル結合を有していてもよく、ポリカーボネートポリオール化合物は複数種を併用してもよい。
【0022】
前記ポリカーボネートポリオール化合物は、数平均分子量が400〜8,000であることが好ましく、数平均分子量が400〜4,000であることがより好ましい。
数平均分子量がこの範囲にあることで、適切な粘度及び良好な取り扱い性が得られ、更に(b)ポリイソシアネート化合物との反応性が充分なものとなることから、(A)ポリウレタンプレポリマー製造容易性、効率化等が向上する。
また得られたポリウレタン樹脂のソフトセグメントとしての性能の確保が容易であり、強靭な塗膜が得られるという利点を有する。さらに得られたポリウレタン樹脂を含む水性ポリウレタン樹脂分散体を用いて塗膜を形成した場合に、割れの発生を抑制し易い。
【0023】
本明細書において、数平均分子量は、JIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量とする。具体的には、水酸基価を測定し、末端基定量法により、(56.1×1,000×価数)/水酸基価[mgKOH/g]で算出する。前記式中において、価数は1分子中の水酸基の数である。
【0024】
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物は、主鎖に脂環式構造を有する。その脂環式構造の含有率は特に制限されないが、1〜50重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、13〜50重量%がより好ましい。
脂環式構造の割合(以下、「脂環構造含有率(ポリオール)」と称することもある)をこの範囲とすることで、塗膜にした際に耐摩耗性が良好な水性ポリウレタン樹脂分散体とすることができ、かつ高固形分化した際の粘度上昇を抑えることができる。
【0025】
ここで、脂環構造含有率(ポリオール)は、(a)ポリカーボネートポリオールに占める、脂環式基の重量割合とする。例えば、シクロヘキサン残基などのシクロアルカン残基(1,4−ヘキサンジメタノールの場合は、シクロヘキサンから2つの水素原子を除いた部分)や、テトラヒドロフラン残基などの不飽和へテロ環残基(テトラヒドロフランジメタノールの場合は、テトラヒドロフランから2つの水素原子を除いた部分)に基づき、算出した値をいう。
【0026】
ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得られる。製造が容易な点及び末端塩素化物の副生成がない点から、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール化合物が好ましい。
【0027】
本発明でいうポリカーボネートポリオール化合物は、その分子中に、1分子中の平均のカーボネート結合の数と同じ又はそれ以下の数のエーテル結合やエステル結合を含有していてもよい。
【0028】
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物は、上記で規定されている要件を満たしていれば特に限定されるものではないが、例えば、主鎖に脂環式構造を有するポリオールと炭酸エステル化合物とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールや、主鎖に脂環式構造を有するポリオールと、主鎖に脂環式構造を有するポリオール以外のポリオールと、炭酸エステル化合物とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。
中でも、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の分散性の観点から、主鎖に脂環式構造を有するポリオール化合物と、このポリオール以外のポリオールと炭酸エステル化合物とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
得られる水性ポリウレタン樹脂分散体を高固形分化する際に、粘度上昇を抑止できる観点から、主鎖に脂環式構造を有するポリオール化合物と炭酸エステル化合物とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0029】
前記主鎖に脂環式構造を有するポリオールとしては、特に制限されないが、例えば主鎖に炭素数5〜12の脂環式基を有するポリオールなどが挙げられる。具体的には、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘプタンジオール、2,5‐ビス(ヒドロキシメチル)−1,4−ジオキサン、2,7−ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、イソソルビドなどの主鎖に脂環式構造を有するジオールが挙げられ、中でも、入手の容易さから1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0030】
更に、前記ポリカーボネートポリオールの原料として、主鎖に脂環式構造を有するポリオール以外のポリオールを用いることもできる。そのようなポリオールとしては、例えば、脂肪族ポリオールモノマー、芳香族ポリオールモノマー、ポリエステルポリオールモノマー、ポリエーテルポリオールモノマーが挙げられる。
【0031】
脂肪族ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールなどの直鎖状脂肪族ジオール;2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオールなどの分岐鎖状脂肪族ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3官能以上の多価アルコールが挙げられる。
【0032】
芳香族ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,2−ベンゼンジメタノール、4,4’−ナフタレンジメタノール、3,4’−ナフタレンジメタノールなどが挙げられる。
【0033】
ポリエステルポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、6−ヒドロキシカプロン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオールなどのヒドロキシカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール、アジピン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオールなどのジカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0034】
ポリエーテルポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0035】
炭酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートなどの芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルなどが挙げられる。その他に、ポリカーボネートポリオールを生成することができるホスゲンなども使用できる。中でも、ポリカーボネートポリオールの製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステル、環状炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネートが特に好ましい。
【0036】
ポリオールモノマー及び炭酸エステルからポリカーボネートポリオールを製造する方法としては、例えば、反応器中に炭酸エステルと、この炭酸エステルのモル数に対して過剰のモル数のポリオールモノマーとを加え、常圧下、温度160〜200℃で12時間反応させた後、更に6.7kPa以下の圧力において200〜220℃で数時間反応させる方法が挙げられる。上記反応においては副生するアルコールを系外に抜き出しながら反応させることが好ましい。その際、炭酸エステルが副生するアルコールと共沸することにより系外へ抜け出る場合には、過剰量の炭酸エステルを加えてもよい。また、上記反応において、チタニウムテトラブトキシドなどの触媒を使用してもよい。
【0037】
ポリカーボネートジオールとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0038】
<<<(b)ポリイソシアネート化合物>>>
(b)ポリイソシアネート化合物としては、特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが挙げられる。
【0039】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
【0040】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチ
レンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
【0041】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート、2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0042】
ポリイソシアネート化合物としては、1分子当たりイソシアナト基を2個有するものを使用することができるが、(A)ポリウレタンプレポリマーがゲル化をしない範囲で、トリフェニルメタントリイソシアネートのような、1分子当たりイソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネート化合物も使用することができる。
【0043】
ポリイソシアネート化合物の中でも、塗膜の耐久性が上がる点から、脂環式ポリイソシアネートが好ましく、反応の制御が行いやすいという点から、イソホロンジイソシアネー
ト(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)が特に好ましい。
【0044】
ポリイソシアネートは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよく、アルファネート、ヌレートなどに変性されていてもよい。
【0045】
<<<(c)酸性基含有ポリオール>>>
(c)酸性基含有ポリオールは、1分子中に2個以上の水酸基(フェノール性水酸基は除く)と、1個以上の酸性基を含有するものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。(c)酸性基含有ポリオールとして、1分子中に2個の水酸基と1個のカルボキシ基を有する化合物を含有するものが好ましい。(c)酸性基含有ポリオールは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0046】
(c)酸性基含有ポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などのジメチロールアルカン酸、N,N−ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4−ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6−ジヒドロキシ−2−トルエンスルホン酸が挙げられる。中でも入手の容易さの観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4〜12のジメチルロールアルカン酸が好ましい。ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2−ジメチロールプロピオン酸がより好ましい。
【0047】
本発明において、(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、(c)酸性基含有ポリオールとの合計の水酸基当量数(総水酸基当量数)は、100〜1,000であることが好ましい。総水酸基当量数が、この範囲であれば、乾燥性、増粘性が上がりやすく、得られたポリウレタン樹脂を含む水性ポリウレタン樹脂分散体の製造が容易であり、硬度の点で優れた塗膜が得られやすい。
更に、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性、乾燥性と塗布して得られる塗膜の硬度の観点から、総水酸基当量数は、好ましくは140〜800、より好ましくは180〜600、特に好ましくは200〜400である。
【0048】
水酸基当量数は、以下の式(1)及び(2)で算出することができる。
各ポリオールの水酸基当量数=各ポリオールの分子量/各ポリオールの水酸基の数(フェノール性水酸基は除く)・・・(1)
ポリオールの総水酸基当量数=M/ポリオールの合計モル数・・・(2)
ポリウレタン樹脂(A)の場合、式(2)において、Mは、[〔(a)ポリカーボネートポリオール化合物の水酸基当量数×(a)ポリカーボネートポリオール化合物のモル数〕+〔(c)酸性基含有ポリオールの水酸基当量数×(c)酸性基含有ポリオールのモル数〕]を示す。
【0049】
<<<(A)ポリウレタンプレポリマー>>>
(A)ポリウレタンプレポリマーは、少なくとも、前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物とを反応させて得られる。
なお、前記(A)ポリウレタンプレポリマーは、末端停止剤を含んでもよい。
【0050】
即ち、(A)ポリウレタンプレポリマーは、ポリカーボネートポリオール化合物由来の構成単位、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位、及び酸性基含有ポリオール化合物由来の構成単位を有するものである。
なお、末端停止剤を含む場合には、ポリウレタンプレポリマーの末端が、末端停止剤由来の構造を有する。
【0051】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリカーボネートポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物、(c)酸性基含有ポリオール化合物、後述する(B)鎖延長剤、及び場合により末端停止剤の全量を100質量部とした場合に、前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物の割合は好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部、特に好ましくは35〜60質量部である。
【0052】
また、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の割合は好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは4〜9質量部である。前記末端停止剤の割合は、所望する(A)ポリウレタンプレポリマーの分子量等に応じて適宜決定することができる。
【0053】
前記(a)ポリオール化合物の割合を30質量部以上とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性を高くすることができる傾向があり、80質量部以下とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性がより向上する傾向がある。
【0054】
前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の割合を0.5質量部以上とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂の水系媒体中への分散性が良好になる傾向があり、10質量部以下とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が高くなる傾向がある。また、水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の耐水性を高くすることができ、得られるフィルムの柔軟性も良好にすることができる傾向がある。
【0055】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリカーボネートポリオール化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比は、1.05〜2.5が好ましく、1.1〜2.0が更に好ましく、1.3〜1.8が特に好ましい。
【0056】
前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比を1.05以上とすることで、分子末端にイソシアナト基を有しない(A)ポリウレタンプレポリマーの量が少なくなり、(B)鎖延長剤と反応しない分子が少なくなる。これにより、水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性が確保しやすくなる。
【0057】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥した後に、フィルムを形成しやすくなる。前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比を2.5以下とすることで、反応系内に残る未反応の前記(b)ポリイソシアネート化合物の量が少なくなり、前記(b)ポリイソシアネート化合物と前記(B)鎖延長剤が効率的に反応し、水と反応による望まない分子伸長を起こしにくくなるため、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体の調製を適切に行うことができ、貯蔵安定性がより向上する。更に、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が高くなる傾向がある。
【0058】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリカーボネートポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物、(c)酸性基含有ポリオール化合物、後述する(B)鎖延長剤及び、場合により末端停止剤との全量を100質量部とした場合に、(b)ポリイソシアネート化合物の量は、上記モル比の条件を満たす範囲で、(a)及び(c)の種類又は量に合わせて適宜設定することができる。
【0059】
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、(b)ポリイソシアネート化合物とから、前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合には、(a)、(c)を順不同で(b)と反応させることができ、(a)と(c)を同時に(b)に反応させても良い。
【0060】
前記ポリウレタンプレポリマーを得る反応の際には、反応性を向上させるために、触媒を用いることもできる。前記触媒としては、特に制限はされないが、例えば、スズ系触媒(トリメチルスズラウリレート、ジブチルスズジラウリレートなど)や鉛系触媒(オクチル酸鉛等)、チタン系触媒(チタンテトラブトキシドなど)などの金属塩、有機金属誘導体、アミン系触媒(トリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミンなど)、ジアザビシクロウンデセン系触媒が挙げられる。中でも、反応性の観点から、ジブチルスズジラウリレート、チタンテトラブトキシドが好ましい。
【0061】
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物とを反応させる際の反応温度としては、特に制限はされないが、40〜150℃が好ましく、更に好ましくは60〜120℃である。反応温度を40℃以上とすることで、原料が十分に溶解し又は原料が十分な流動性を得て、(A)ポリウレタンプレポリマーの粘度を低くして充分な撹拌を行うことができ、反応温度を150℃以下とすることで、副反応が起こる等の不具合を起こさずに、反応を進行させることができる。
【0062】
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物との反応は、無溶媒でも有機溶媒を加えて行ってもよい。
【0063】
無溶媒で反応を行う場合には、前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物の混合物が、攪拌性の観点から、液状であることが好ましい。
【0064】
有機溶媒を加えて反応させる場合、使用する有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、β−アルコキシプロピオンアミド(KJケミカルズ製KJCMPA(R)−100、KJCMBPA(R)−100)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、酢酸エチルなどが挙げられるが、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルが、ポリウレタンプレポリマーを水に分散し、鎖延長反応を行った後に加熱又は減圧により除去できるので好適に使用される。
【0065】
また、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、β−アルコキシプロピオンアミド、ジプロピレングリコールジメチルエーテルは、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体から塗膜を作製する際に造膜助剤として働くため好ましい。
【0066】
N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンは、水性ポリウレタン樹脂組成物の固形分を上げた際の粘度を低く抑えることが出来る点で、より好ましい。
【0067】
前記有機溶媒の添加量(使用量)は、前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物との全量に対して質量基準で、好ましくは0.1〜2.0倍であり、より好ましくは0.15〜0.8倍である。
【0068】
本発明において、ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価(AV)は、8〜40mgKOH/gが好ましく、より好ましくは、20〜35mgKOH/gであり、特に好ましくは24〜30mgKOH/gである。ポリウレタンプレポリマーの酸価を8mgKOH/g以上とすることで、水系媒体への分散性、貯蔵安定性を良くすることができる傾向がある。
【0069】
また、ポリウレタンプレポリマーの酸価を30mgKOH/g以下とすることで、得られるポリウレタン樹脂の塗膜の耐水性を高め、得られるフィルムの柔軟性を高くすることができる傾向があり、塗膜作製時の乾燥性を上げることができる傾向もある。
【0070】
更に水性ポリウレタン樹脂分散体の固形分を上げた際の粘度を低く抑えることができる点から、ポリウレタンプレポリマーの酸価は、12〜28mgKOH/gが好ましく、より好ましくは、16〜27mgKOH/gである。
【0071】
なお、本発明において、「ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価」とは、ポリウレタンプレポリマー(A)を製造するにあたって用いられる溶媒及び前記ポリウレタンプレポリマー(A)を水系媒体中に分散させるための中和剤を除いた、いわゆる固形分中の酸価を示す。
【0072】
具体的には、ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価は、下記式(3)によって導き出すことができる。
〔ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価〕=〔(酸性基含有ポリオール化合物(c)のミリモル数)×(酸性基含有ポリオール化合物(c)1分子中の酸性基の数)〕×56.11/〔ポリオール化合物(a)、酸性基含有ポリオール化合物(c)及びポリイソシアネート化合物(b)の合計の質量〕・・・(3)
【0073】
<<<鎖延長剤(B)>>>
鎖延長剤(B)としては、イソシアナト基と反応する基を複数有する化合物が挙げられ、例えば、エチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,4−ヘキサメチレンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、アジポイルヒドラジド、ヒドラジン、2,5−ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアミン化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール化合物、ポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコール類、水が挙げられ、中でも好ましくはポリアミン化合物、さらに好ましくはジアミン化合物、特に好ましくは1級ジアミン化合物が挙げられる。
なお、これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0074】
鎖延長剤(B)の添加量(使用量)は、得られるポリウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となるイソシアナト基に対して当量以下であることが好ましく、より好ましくはイソシアナト基に対して0.7〜0.99当量である。イソシアナト基の当量以下の量で鎖延長剤(B)を添加することで、鎖延長されたウレタンポリマーの分子量を低下させず、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の強度を高くすることができる傾向がある。
【0075】
鎖延長剤(B)は、ポリウレタンプレポリマーの水への分散後に添加してもよく、分散中に添加してもよい。鎖延長は水によっても行うことができる。この場合は分散媒としての水が鎖延長剤を兼ねることになる。
【0076】
<<中和剤>>
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、上述したポリウレタン樹脂中の酸性基を下記式(1)で示されるジアルキルアミノメチロールアルカン化合物を含む中和剤で中和して水系媒体中に分散したものである。
ここで、本発明において、ポリウレタン樹脂中の酸性基とは、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などをいう。
【0078】
(式中、R
1及びR
2は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐上アルキル基、Zは3級炭素、あるいは4級炭素を含むアルキレン基を示す。なお、R
1及びR
2は互いに結合して環を形成していても良く、R
1及びR
2の任意の炭素原子は水酸基で置換されていても良い。)
【0079】
上記R
1及びR
2の炭素原子数が5より大きい場合には、ポリウレタンプレポリマー(A)の分散性が低下し、水性ポリウレタン樹脂分散体が得られにくい場合がある。また得られた水性ポリウレタン樹脂分散体の安定性が低下し、ポリウレタン樹脂が沈降したりする場合もある。
【0080】
R
1及びR
2の炭素原子数は、それぞれ炭素原子数が1〜3であることが好ましく、1〜2以下であることが特に好ましい。
なお、R
1及びR
2は、同一のアルキル基であっても良く、異なるアルキル基であっても良い。
【0081】
塗膜を作製する際に乾燥性を向上させる場合には、R
1及びR
2がメチル基であることが特に好ましい。
【0082】
一方、水性ポリウレタン樹脂分散体を高固形分化する際に、粘度の上昇を抑制しやすいということに着目すれば、R
1及びR
2の両方、またはいずれか一方が、エチル基であることが好ましく、R
1及びR
2が両方ともエチル基であることがさらに好ましい。
【0083】
また、一般式(1)におけるZは、3級炭素、あるいは、4級炭素を含むアルキレン基であれば特に制限されない。ここで、本発明において、上記Zが「3級炭素、あるいは、4級炭素を含む」とは、上記Zが少なくとも3級炭素、及び4級炭素のいずれか一方を含んでいればよい。具体的には、3級炭素のみを含む場合、4級炭素のみを含む場合、3級炭素および4級炭素を同時に含む場合が挙げられる。上記Zはアルキル基で置換されていることにより、水性ポリウレタン樹脂分散体を製造する際のウレタン樹脂の分散性が高くなったり、水性ポリウレタン樹脂分散体を高固形分化する際に、粘度の上昇を抑制しやすくなったりする利点を有する。
【0084】
また、前記一般式(1)のジアルキルアミノメチロールアルカン化合物は、メチロール基を有するものである。メチロール基を有することで、無機粒子水分散体と混合した際の貯蔵安定性が高くなるという利点を有する。
【0085】
前記一般式(1)のジアルキルアミノメチロールアルカン化合物としては、例えば、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール、2−(ジメチルアミノ)−1−プロパノール、2−(ジエチルアミノ)−1−プロパノール、2−(ジメチルアミノ)−1−ブタノール、2−(ジエチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノールなどが挙げられる。
なお、R
1及びR
2の任意の炭素原子は水酸基で置換されている場合には、例えば、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1、3−プロパンジオール、2−(ジメチルアミノ)−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0086】
上記一般式(1)で表されるジアルキルアミノメチロールアルカン化合物の中でも、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1、3−プロパンジオール、2−(ジエチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノールが好ましい。これらのアミンを使用することで、水性ポリウレタン樹脂分散体を製造する際のウレタン樹脂の分散性が上がる傾向にある。
【0087】
また、上記一般式(1)で表されるジアルキルアミノメチロールアルカン化合物の中で
も、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を、基材に塗布し乾燥した際の乾燥性の点から、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノールを使用するのが好ましく、高固形分化する際に増粘を抑制しやすいという点からは、2−(ジエチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノールを使用するのが好ましい。
即ち、必要とする機能や特性に応じて、ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物を適宜選択することができる。
【0088】
本発明においては、上述したアミンを単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般式(1)で表されるジアルキルアミノメチロールアルカン化合物以外の塩基と混合した中和剤として使用することができる。
【0089】
ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物と併用して中和剤と機能する塩基としては、本発明の効果を阻害しないものであれば、当業者に公知の塩基を特に制限されず使用することができる。このような塩基としては、例えば、一般式(1)で表されるジアルキルアミノメチロールアルカン化合物以外のアミン、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N−メチルモルホリン、ピリジンなどの有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリ塩類、アンモニアが挙げられるが、好ましくは有機アミン類を用いることができる。
【0090】
ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物を使用する場合、前記の通り、他の塩基と併用することもできるが、その際の中和剤中のジアルキルアミノメチロールアルカン化合物の割合が1.0〜100モル%となるように調整するのが好ましい。
【0091】
ポリウレタン樹脂中の酸性基のモル数に対する中和剤のモル数の割合は、好ましくは0.5〜1.7、より好ましくは、0.7〜1.3であり、さらに好ましくは、0.9〜1.2である。この範囲内とすることで、分散性が良好となり、例えば、添加物としての無機粒子水分散体と混合した際にも、貯蔵安定性に優れた水性ポリウレタン樹脂分散体を得ることができる。
【0092】
ポリカーボネートポリオールに占める脂環式構造と、ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物との質量比は、好ましくは10/0.1〜10/30である。この範囲とすることで、水系媒体中への分散性がよく、かつ高固形分化した際の粘度上昇を制御可能な水性ポリウレタン樹脂分散体を得ることができる。
【0093】
また、水性ポリウレタン樹脂分散体に占める脂環式構造と、ジアルキルアミノメチロールアルカン化合物との質量比は、好ましくは10/0.1〜10/30である。この範囲とすることで、水系媒体中への分散性がよく、かつ高固形分化した際の粘度上昇を制御可能な水性ポリウレタン樹脂分散体を得ることができる。
【0094】
なお、ポリウレタン樹脂の酸性基のモル数は、基本的にはポリウレタン樹脂を得る際に用いた酸性基含有ポリオール(b)のモル数に、酸性基含有ポリオール(b)1分中の酸性基の数を掛けた数字である。また、中和剤のモル数は、水性ポリウレタン樹脂分散体に添加した中和剤のモル数である。
【0095】
<<水系媒体>>
水性ポリウレタン樹脂分散体においては、ポリウレタン樹脂は水系媒体中に分散されている。使用できる水としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水などが挙げられるが、入手の容易さや塩の影響で粒子が不安定になることなどを考慮すると、イオン交換水を用いることが好ましい。
なお、前記水系媒体には、ポリウレタンプレポリマーを製造する際に使用した有機溶媒や、別途新たに添加した有機溶媒を含んでも良い。
【0096】
<<水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法>>
次に、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法について説明する。
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、
前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物を、(b)ポリイソシアネート化合物と反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る工程(α)、
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程(β)、
前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する工程(γ)、
前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程(δ)
を含む。
【0097】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る工程(α)は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、大気雰囲気下で行ってもよい。(A)ポリウレタンプレポリマーを調製する方法は、先に記載したとおりである。
【0098】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程(β)において、水系媒体中にポリウレタンプレポリマーを分散させる方法としては、特に制限されないが、例えば、ホモミキサーやホモジナイザーなどによって攪拌されている水系媒体中に、(A)ポリウレタンプレポリマーを添加する方法、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている(A)ポリウレタンプレポリマーに水系媒体を添加する方法などを適宜採用できる。
【0099】
前記工程(β)と前記工程(γ)は、いずれを先に行ってもよい。すなわち、工程(α)で得られた(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体に分散させた後に(C)中和剤を加えてもよく、工程(α)で得られた(A)ポリウレタンプレポリマーに(C)中和剤を加えた後に水系媒体に分散させても良い。前記(C)中和剤を水系媒体に分散させた分散媒を予め用意し、当該分散媒に工程(α)で得られた(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体に入れることで、工程(β)と工程(γ)を同時に行うこともできる。製造工程数が削減され、製造が簡便になるという点で、(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基の不要な消費を避ける点で、(A)ポリウレタンプレポリマーを(C)中和剤を含む水系媒体に分散し、工程(β)と工程(γ)を同時に行うことが好ましい。
【0100】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程(δ)において、前記工程(δ)は冷却下でゆっくりと行ってもよく、必要に応じて60℃以下の加熱条件下で反応を促進して行ってもよい。冷却下における反応時間は、例えば、0.5〜24時間とすることができ、60℃以下の加熱条件下における反応時間は、例えば、0.1〜6時間とすることができる。
【0101】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造において、前記工程(β)と、前記工程(γ)とは、どちらを先に行ってもよいし、同時に行うこともできる。また、前記工程(β)と、前記工程(δ)は、同時に行ってもよい。更に、前記工程(γ)と、前記工程(δ)は、同時に行ってもよい。
分散安定性が向上する点からは、前記工程(β)を行った後に、前記工程(δ)を行うことが好ましい。また、前記工程(β)と、前記工程(γ)と、前記工程(δ)は、同時に行ってもよい。
【0102】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法の好適な例としては、以下の方法が挙げられる:
前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物を、(b)ポリイソシアネート化合物と反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る(工程(α));
次いで、前記(A)ポリウレタンプレポリマーを(C)中和剤を含む水系媒体中に分散させる(工程(β)及び(γ))、
分散媒中に分散した前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させること(工程(δ))により、水性ポリウレタン樹脂分散体を得る。
【0103】
水性ポリウレタン樹脂分散体中のポリウレタン樹脂の割合は、5〜60質量%が好ましく、より好ましくは15〜50質量%である。
【0104】
本発明のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは25,000〜10,000,000、より好ましくは、50,000〜5,000,000であり、更に好ましくは、100,000〜1,000,000である。
当該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を使用することができる。重量平均分子量を25,000以上とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥により、良好なフィルムを得ることができる傾向がある。重量平均分子量を1,000,000以下とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性をより高くすることができる傾向がある。
【0105】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体には、求められる機能や特性、用途などに応じて、増粘剤、光増感剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤などの添加剤を添加することもできる。
なお、前記添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの添加剤の種類は当業者に公知であり、一般に用いられる範囲の量で使用することができる。
【0106】
<塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物>
本発明は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物にも関する。
【0107】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、上記水性ポリウレタン樹脂分散体以外にも、他の樹脂を添加することもできる。他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。他の樹脂は、水中での分散性の観点から、1種以上の親水性基を有することが好ましい。親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基などが挙げられる。
【0108】
他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、及びポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0109】
ポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分とのエステル化反応又はエステル交換反応によって製造することができる。酸成分としては、ポリエステル樹脂の製造に際して酸成分として通常使用される化合物を使用することができる。酸成分としては、例えば、脂肪族多塩基酸、脂環族多塩基酸、芳香族多塩基酸等を使用することができる。ポリエステル樹脂の水酸基価は、10〜300mgKOH/g程度が好ましく、50〜250mgKOH/g程度がより好ましく、80〜180mgKOH/g程度が更に好ましい。
【0110】
前記ポリエステル樹脂の酸価は、1〜200mgKOH/g程度が好ましく、15〜100mgKOH/g程度がより好ましく、25〜60mgKOH/g程度が更に好ましい。
【0111】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、500〜500,000が好ましく、1,000〜300,000がより好ましく、1,500〜200,000が更に好ましい。
【0112】
アクリル樹脂としては、水酸基含有アクリル樹脂が好ましい。水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基含有重合性不飽和モノマー及び該水酸基含有重合性不飽和モノマーと共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとを、例えば、有機溶媒中での溶液重合法、水中でのエマルション重合法などの既知の方法によって共重合させることにより製造できる。
【0113】
水酸基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する化合物である。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物;これらのモノエステル化物のε−カプロラクトン変性体;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド;アリルアルコール;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0114】
水酸基含有アクリル樹脂は、アニオン性官能基を有することが好ましい。アニオン性官能基を有する水酸基含有アクリル樹脂としては、例えば、重合性不飽和モノマーの1種として、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などのアニオン性官能基を有する重合性不飽和モノマーを用いることにより製造できる。
【0115】
水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、組成物の貯蔵安定性や得られる塗膜の耐水性等の観点から、1〜200mgKOH/gが好ましく、2〜100mgKOH/gがより好ましく、3〜60mgKOH/gが更に好ましい。
【0116】
また、水酸基含有アクリル樹脂がカルボキシル基などの酸基を有する場合、該水酸基含有アクリル樹脂の酸価は、得られる塗膜の耐水性等の観点から、1〜200mgKOH/gが好ましく、2〜150mgKOH/gがより好ましく、5〜100mgKOH/gが更に好ましい。
【0117】
水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、1,000〜200,000が好ましく、2,000〜100,000がより好ましく、更に好ましくは3,000〜50,000の範囲内である。
【0118】
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体又は共重合体が挙げられ、例えば、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテル、ビスフェノールA又はビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテルなどが挙げられる。
【0119】
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノール化合物から製造された重合体が挙げられ、例えば、ビスフェノールA・ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0120】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートなどの各種ポリオール成分とポリイソシアネートとの反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。
【0121】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂などが挙げられる。前記ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。
【0122】
アルキド樹脂としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等の多塩基酸と多価アルコールに、更に油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(例えば、ロジン、コハクなど)などの変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂が挙げられる。
【0123】
ポリオレフィン樹脂としては、オレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと通常の重合法に従って重合又は共重合することにより得られるポリオレフィン樹脂を、乳化剤を用いて水分散するか、あるいはオレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと共に乳化重合することにより得られる樹脂が挙げられる。また、場合により、前記のポリオレフィン樹脂が塩素化されたいわゆる塩素化ポリオレフィン変性樹脂を用いてもよい。
【0124】
前記オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ドデセンなどのα−オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、スチレン類などの共役ジエン又は非共役ジエンなどが挙げられる。
なお、これらのモノマーは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0125】
また、オレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
なお、これらのモノマーは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0126】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物は、更に、硬化剤を含むことができる。硬化剤を含むことより、塗料組成物又はコーティング剤組成物を用いて得られる塗膜又は複層塗膜、コーティング膜や印刷物の耐水性などを向上させることができる。
【0127】
硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、メラミン樹脂、カルボジイミド、ポリオールなどを用いることできる。
なお、これらの硬化剤は、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0128】
アミノ樹脂としては、例えば、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分もしくは完全メチロール化アミノ樹脂が挙げられる。前記アミノ成分としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどが挙げられる。
アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒドなどが挙げられる。
【0129】
ポリイソシアネートとしては、例えば、1分子中に2個以上のイソシアナト基を有する化合物が挙げられ、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0130】
ブロック化ポリイソシアネートとしては、前述のポリイソシアネートのイソシアナト基
にブロック剤を付加することによって得られるものが挙げられ、ブロック化剤としては、
フェノール、クレゾールなどのフェノール系、メタノール、エタノールなどの脂肪族アルコール系、マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系、アセトアニリド、酢酸アミドなどの酸アミド系、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタムなどのラクタム系、コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどの酸イミド系、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム系、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン等のアミン系などのブロック化剤が挙げられる。
【0131】
メラミン樹脂としては、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミンなどのメチロールメラミン;これらのメチロールメラミンのアルキルエーテル化物又は縮合物;メチロールメラミンのアルキルエーテル化物の縮合物が挙げられる。
【0132】
ポリオールとしては、例えば、ポリロタキサン、及びそれから誘導される化合物が挙げられる。
【0133】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、着色顔料や体質顔料、光輝性顔料を添加することができる。
【0134】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料などが挙げられるが、着色顔料として、酸化チタン及び/又はカーボンブラックを使用することが好ましい。
なお、これらは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0135】
体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイトが挙げられるが、体質顔料として、硫酸バリウム及び/又はタルクを使用することが好ましく、硫酸バリウムを使用することがより好ましい。
なお、これらは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0136】
光輝性顔料は、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母を使用することができる。
【0137】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、機能や特定、用途に応じて、増粘剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤などの通常の添加剤を含有することができる。
なお、これらは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよく、市販品をそのまま使用してもよい。
【0138】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物の製造方法は、特に制限されないが、公知の製造方法を採用することができるが、好適には、塗料組成物及びコーティング剤組成物は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体と上述した各種添加剤を混合し、更に水系媒体を添加し、適用方法に応じた粘度に調整することにより製造される。
【0139】
塗料組成物の被塗装材質、コーティング剤組成物の被コーティング材質又はインク組成物の被適用材質としては、例えば、金属、プラスチック、無機物、木材などが挙げられる。
【0140】
塗料組成物の塗装方法又はコーティング剤組成物のコーティング方法としては、例えば、ベル塗装、スプレー塗装、ロール塗装、シャワー塗装、浸漬塗装などが挙げられる。インク組成物の適用方法としては、例えば、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法などが挙げられる。
【0141】
硬化後の塗膜の厚さは、特に制限されないが、1〜100μmの厚さが好ましく、より好ましくは、3〜50μmの厚さの塗膜を形成することが特に好ましい。
【0142】
<ポリウレタン樹脂フィルム>
本発明は、更に、上記水性ポリウレタン樹脂分散体から得られるポリウレタン樹脂フィルムにも関する。
【0143】
前記水性ポリウレタン樹脂分散体を用いて、ポリウレタン樹脂フィルムを得ることができる。具体的には、水性ポリウレタン樹脂分散体を離形性基材に適用し、加熱等の手段により乾燥、硬化させ、続いてポリウレタン樹脂の硬化物を離形性基材から剥離させることで、ポリウレタン樹脂フィルムが得られる。
【0144】
前記加熱方法としては、自己の反応熱による加熱方法と、前記反応熱と型の積極加熱とを併用する加熱方法などが挙げられる。型の積極加熱は、型ごと熱風オーブンや電気炉、赤外線誘導加熱炉に入れて加熱する方法が挙げられる。
【0145】
前記加熱温度は、40〜200℃であることが好ましく、より好ましくは60〜160℃である。このような温度で加熱することにより、より効率的に乾燥を行うことができる。
【0146】
前記加熱時間は、好ましくは0.0001〜20時間、より好ましくは1〜10時間である。このような加熱時間とすることにより、より硬度の高いポリウレタン樹脂フィルムを得ることができる。ポリウレタン樹脂フィルムを得るための乾燥条件としては、例えば、120℃で3〜10秒で加熱する方法が採用される。
【実施例】
【0147】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0148】
(実施例1;水性ポリウレタン樹脂分散体Aの合成)
攪拌装置、温度計、及び加熱装置を備えた反応容器に、ETERNACOLL UM90(3/1)(登録商標;宇部興産株式会社製ポリカーボネートポリオール;数平均分子量918;水酸基価122.2mgKOH/g;1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−ヘキサンジオール(モル比で3:1)と炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートポリオール、ポリオール化合物における脂環式構造の含有率39重量%)175.5g(0.191mol)、2,2−ジメチロールプロピオン酸25.9g(0.193mol)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート172.7g(0.658mol)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル153.8g、及びジブチルスズ(IV)ジラウレート0.3gを混合し、窒素雰囲気にて、攪拌しながら80〜90℃で4時間反応させた。
次いで、得られた反応混合物402.3gを取り出し、強攪拌させた水537gと2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール(DMAMP)21.2g(0.181mol)との混合液中に加えた。
その後、35%2−エチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液58.0g(0.175mol)を加えて更に反応させ、水性ポリウレタン樹脂分散体Aを得た。
【0149】
(実施例2;水性ポリウレタン樹脂分散体Bの合成)
攪拌装置、温度計、及び加熱装置を備えた反応容器に、ETERNACOLL UC100(登録商標;宇部興産株式会社製ポリカーボネートポリオール;数平均分子量969;水酸基価115.8mgKOH/g;1,4−シクロヘキサンジメタノールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートポリオール、ポリオール化合物における脂環式構造の含有率50重量%)190.4g(0.197mol)、2,2−ジメチロールプロピオン酸190.4g(0.197mol)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート26.3g(0.196mol)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル157.1g、及びジブチルスズ(IV)ジラウレート0.3gを混合し、窒素雰囲気にて、攪拌しながら80〜90℃で4時間反応させた。
次いで、得られた反応混合物403.2gを取り出し、強攪拌させた水543gと2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール(DMAMP)20.2g(0.173mol)との混合液中に加えた。
その後、35%2−エチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液55.5g(0.167mol)を加えて更に反応させ、水性ポリウレタン樹脂分散体Bを得た。
【0150】
(比較例1;水性ポリウレタン樹脂分散体Cの合成)
攪拌装置、温度計、及び加熱装置を備えた反応容器に、ETERNACOLL UH100(登録商標;宇部興産株式会社製ポリカーボネートポリオール;数平均分子量1010;水酸基価111.1mgKOH/g;1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートポリオール、ポリオール化合物における脂環式構造の含有率0重量%)191.6g(0.190mol)、2,2−ジメチロールプロピオン酸25.2g(0.188mol)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート168.3g(0.642mol)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル153.9g、及びジブチルスズ(IV)ジラウレート0.3gを混合し、窒素雰囲気にて、攪拌しながら80〜90℃で4時間反応させた。
次いで、得られた反応混合物419.9gを取り出し、強攪拌させた水568gと2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール(DMAMP)19.9g(0.170mol)との混合液中に加えた。
その後、35%2−エチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液56.7g(0.171mol)を加えて更に反応させ、水性ポリウレタン樹脂分散体Cを得た。
【0151】
(比較例2)
攪拌装置、温度計、及び加熱装置を備えた反応容器に、ETERNACOLL UM90(3/1)(登録商標;宇部興産株式会社製ポリカーボネートポリオール;数平均分子量918;水酸基価122.2mgKOH/g;1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−ヘキサンジオール(モル比で3:1)と炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートポリオール、ポリオール化合物における脂環式構造の含有率39重量%)175.4g(0.191mol)、2,2−ジメチロールプロピオン酸26.0g(0.194mol)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート174.7g(0.666mol)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル159.7g、及びジブチルスズ(IV)ジラウレート0.3gを混合し、窒素雰囲気にて、攪拌しながら80〜90℃で4時間反応させた。
次いで、得られた反応混合物410.6gを取り出し、強攪拌させた水531gと2−(ジメチルアミノ)エタノール(DMAE)15.1g(0.170mol)との混合液中に加えた。
その後、35%2−エチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液58.0g(0.175mol)を加えたが、ゲル化し、水性ポリウレタン樹脂分散体は得られなかった。
【0152】
(比較例3)
攪拌装置、温度計、及び加熱装置を備えた反応容器に、ETERNACOLL UM90(3/1)(登録商標;宇部興産株式会社製ポリカーボネートポリオール;数平均分子量869;水酸基価129.1mgKOH/g;1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−ヘキサンジオール(モル比で3:1)と炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートポリオール、ポリオール化合物における脂環式構造の含有率39重量%)157.1g(0.181mol)、2,2−ジメチロールプロピオン酸24.2g(0.180mol)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート158.2g(0.603mol)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル143.4g、及びジブチルスズ(IV)ジラウレート0.3gを混合し、窒素雰囲気にて、攪拌しながら80〜90℃で4時間反応させた。
次いで、得られた反応混合物460gを取り出し、強攪拌させた水600gとトリエチルアミン(TEA)16.8g(0.166mol)の混合液中に加えた。
その後、35%2−エチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液64.4g(0.194mol)を加えて更に反応させ、水性ポリウレタン樹脂分散体Dを得た。
【0153】
(分散性)
実施例1、2及び比較例1〜3に基づき、水性ポリウレタン樹脂分散体を製造した。
○:ウレタンプレポリマーが分散し、かつ分散性が良好な水性ポリウレタン樹脂分散体が得られた。
△:ウレタンプレポリマーが分散し、かつ分散した水性ポリウレタン樹脂分散体が得られたが、一部凝集物が観察された。
×:ウレタンプレポリマーが分散せず、水性ポリウレタン樹脂分散体が得られなかった。
【0154】
(増粘性)
実施例1〜5で得た水性ポリウレタン樹脂分散体を各固形分濃度まで撹拌しながら濃縮し、得られた濃縮液をレオメーター(TAインストゥルメンツ製ARES−RFS)により25℃での粘度を測定した。直径25mm、コーン角0.03998radのコーンプレートを使用し、せん断速度を0.1sec
−1とした。測定中での乾燥を防ぐため、信越シリコーンKF−96A−6CSで試料と空気の界面を覆った。
25℃での粘度が、10Pa・sとなる固形分を増粘性として表中に示した。数字が大きいほど、固形分を上げた際の粘度の上昇が小さく、高固形分化しやすい水性ポリウレタン樹脂分散体であることを示す。
【0155】
【表1】
【0156】
表中の略語は下記の通りである。
DMAMP;2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール
DMAE;2−(ジメチルアミノ)エタノール
TEA;トリエチルアミン
【0157】
表1の結果より、主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン樹脂であって、その酸性基が2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール(式(1)のR
1及びR
2の炭素原子数がいずれも1であり、Zがジメチルメチレン基(−(CH
3)C(CH
3)−))で中和されている水性ポリウレタン樹脂分散体A(実施例1)及びB(実施例2)と、比較例1〜3との比較から下記のことが分かった。
(1)主鎖に脂環式構造を有さないポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン樹脂を用いたもの(比較例1)に比べて、高固形分化した際に粘度を低く抑えることが出来た。特に脂環式構造の割合が高いほど、より顕著な効果を示した。
(2)水性ポリウレタン樹脂分散体A(実施例1)及びB(実施例2)と同様に、主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン樹脂であっても、トリエチルアミンを用いたもの(比較例3)では、高固形分化した際に粘度を低く抑えることができなかった。換言すれば、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノールを用いることで、高固形分化した際に粘度を低く抑えることができた。
また、主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン樹脂を使用した場合であっても、2−(ジメチルアミノ)エタノールを用いた場合には、水性ポリウレタン樹脂分散体を得ることすらできなかった。
【0158】
以上より、主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン樹脂と、式(1)で示される特定の中和剤との組み合わせにより、高い分散性を示し、且つ、高固形分化した際に粘度を低く抑えることが出来る水性ポリウレタン樹脂分散体を得られることが分かった。