(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の一態様に係るリード部材は、(1)長方形状のリード導体と、該リード導体にその両面側から貼り合わされた絶縁フィルムとを備えたリード部材であって、前記絶縁フィルムが、前記リード導体の長さ方向の前後両端を除く領域で該リード導体に貼り合わされていて、該絶縁フィルムの幅が前記リード導体の幅よりも広く、前記リード導体の
幅方向の左右両端側に該絶縁フィルム同士が貼り合わされるマージン部を有し、該マージン部が、
前記リード導体の側縁と前記絶縁フィルムの前縁
との交点から
該絶縁フィルムの側縁の前方隅部に亘って匙の形状にえぐられて
おり、前記匙の形状にえぐられている部分は、前記リード導体の長さ方向の長さが前記リード導体の幅方向の長さよりも短く形成され、前記リード導体の側縁と前記絶縁フィルムの前縁との交点から該絶縁フィルムの側縁の前方隅部までを結ぶ直線と前記リード導体の側縁とのなす角(優角)が91°〜110°の範囲にある。封入体の外部では、絶縁フィルムのマージン部がえぐられているので、マージン部の面積をより一層小さくすることができる。封入体の外部では、折り曲げられる絶縁フィルムの幅が狭くなるので、折り曲げられた絶縁フィルムを折り曲げ前の元の状態に戻す力を小さくできる。また、封入体の外部ではマージン部が反り返らなくなり、電池収納スペース周辺での作業(溶接作業や電池格納作業)の邪魔にならない。よって、リード部材を折り曲げ易
い。
【0012】
(
2)前記マージン部が、前記絶縁フィルムの後縁から匙の形状にえぐられている。封入体の内部では幅が狭くなり、折り曲げられた絶縁フィルムを折り曲げ前の元の状態に戻す力を小さくできる。この結果、リード部材を折り曲げ易い。
(
3)前記リード導体の側縁と前記絶縁フィルムの後縁との交点から該絶縁フィルムの側縁に亘って前記絶縁フィルムがえぐられている。これにより、マージン部の面積を小さくすることができる。
(
4)前記リード導体の側縁と前記絶縁フィルムの後縁との交点から該絶縁フィルムの側縁の
後方隅部までを結ぶ直線と前記リード導体の側縁とのなす角(優角)が91°〜110°の範囲にある。なす角が91°未満の場合には、スプリングバックの測定結果が85°以下になるものがあった。一方、なす角が110°を超えた場合には、実験結果には示していないが、絶縁フィルムの前後方向の長さが最も短い部分が電池の封入体の外にあるようにすると、リード導体に貼られた絶縁フィルムが封入体の外に長く出過ぎて好ましくない。よって、なす角を91°〜110°の範囲にすれば、リード部材の折れ曲がった状態を容易に維持することができる。
(
5)上記リード部材を、多層フィルムで形成した封入体で封止した非水電解質蓄電デバイスである。リード部材を折り曲げて使用し易い。
【0013】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るリード部材、非水電解質蓄電デバイスの具体例について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電デバイスを説明する図であり、
図2,3は、本発明の一実施形態に係るリード部材を説明する図である。非水電解質蓄電デバイスは、リチウムイオン電池などの非水電解質電池、電気二重層コンデンサ(EDLC)やリチウムイオンキャパシタなどのキャパシタなどを含む。
【0014】
図1(A)は非水電解質電池の組み立てを説明する。非水電解質電池は、正極板および負極板がセパレータを介して積層された積層電極群2を有し、積層電極群2や電解液が封入体1に収納されている。
封入体1は、非水電解質電池の外装ケースを構成し、
図3(B)に示す金属箔層1bの両面に内層の樹脂フィルム1aと外層の樹脂フィルム1cとを貼り合わせた多層フィルムで形成されている。シール部8は、多層フィルムの周縁に位置し、熱溶着により封入体1を密封する。
【0015】
図2に示すように、リード部材3,4の一端側が封入体1の内部に引き入れられている。一方、非水電解質電池の外観を示す
図1(B)に示すように、リード部材3,4の他端側は、シール部8から密封封止した状態で封入体1の外部に引き出されている。
リード部材3,4は、長方形状のリード導体5,6を有している。リード導体5,6は、薄い導体箔または導体条を、
図3(A)に示す幅Dが例えば1mm〜90mm程度、長さLが例えば10mm〜100mm程度にカットして形成されている。
【0016】
リード導体5,6は、例えば、アルミニウム、ニッケル、ニッケルめっきを施した銅またはニッケルクラッド銅などで形成される。なお、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタでは、正極側のリード導体にはアルミニウムが使用され、負極側のリード導体にはニッケルやニッケルめっきを施した銅やニッケルクラッド銅などが使用される。電気二重層コンデンサでは、正極側および負極側のリード導体にもアルミニウムが使用される。
【0017】
リード部材3,4は、絶縁フィルム7をそれぞれ有している。絶縁フィルム7は、封入体1からの引き出し部分に貼り付けられており、封入体1の樹脂フィルムに融着してシール性の低下を防止するとともに、リード部材3,4と封入体1の金属箔層との電気的接触を防止する機能を有している。
絶縁フィルム7は、薄い樹脂箔を、
図3(A)に示す幅Sが例えば3mm〜110mm程度、長さI(第1絶縁長ともいう)が例えば2mm〜20mm程度にカットして形成されている。
【0018】
このように、絶縁フィルム7はリード導体5,6よりも幅広いものが用いられており、リード導体5,6の幅方向(
図3(A)の左右方向に相当する)に突出する。絶縁フィルム7は、リード導体5,6の表面および裏面にそれぞれ設けられ、リード導体5,6の側縁から突出した絶縁フィルム7(後述のマージン部)同士がリード導体の両面側からそれぞれ貼り合わされている。
【0019】
図3(B)に示すように、絶縁フィルム7は、リード導体5,6の金属面に接着または溶着する内側層(接着層とも言う)7aと、封入体1に融着される外側層(耐熱層とも言う)7bとの例えば2層で形成することができる。
ところで、封入体の外部に引き出されたリード部材は、封入体の前縁(
図3(B)に符号9で示す)の位置で、絶縁フィルムとともに折り曲げて使用されることがあるが、スプリングバックが発生する場合がある。本発明者は、実験を重ねて解析したところ、リード部材の折れ曲がった状態を容易に維持するためには、絶縁フィルムのマージン部をえぐるとよいことが分かった。
【0020】
図4は、本発明の一実施形態に係るリード部材の詳細を説明する図である。
図4に示すように、絶縁フィルム7は、導体取付部(中央部分ともいう)10と、マージン部(耳部分ともいう)11とを有している。
導体取付部10は、リード導体5,6の長さ方向(封入体からの引き出し方向と同じ方向であり、本発明の前後方向に相当する)の前後両端を除く領域でリード導体5,6にそれぞれ貼り合わされている。
【0021】
マージン部11は、絶縁フィルム7のうちリード導体5,6よりも幅広の部分であり、導体取付部10の左右両端側にそれぞれ設けられている。
そして、絶縁フィルム7は例えば4つの凹部12a〜12dを有している。詳しくは、
図4に示すリード導体5,6の右側縁から右方向に突出したマージン部11には、その前方側(電池の外側になる部分)と後方側(電池の内側になる部分)とに、凹部12a,12bが1つずつ設けられている。また、導体5,6の左側縁から左方向に突出したマージン部11にも、その前方側(電池の外側になる部分)と後方側(電池の内側になる部分)とに、凹部12c,12dが1つずつ設けられている。
【0022】
凹部12a〜12dは、例えば、絶縁フィルム7の前縁や後縁であってその左右両端に位置する角部をそれぞれ絶縁フィルムの内部から前縁または後縁を見たときに下に凸な曲線になるようにえぐって形成されており、角部を所定の曲率で凹むように切り取った形状である。
右側のマージン部11の前方側に位置した凹部12bを例に挙げて説明すると、リード導体5,6の右側縁と絶縁フィルム7の前縁との交点A2から、同じく右側のマージン部11における絶縁フィルム7の右側縁の前方隅部B2に亘って形成される。
左側のマージン部11の前方側に位置した凹部12cは、リード導体5,6の左側縁と絶縁フィルム7の前縁との交点A3から、同じく左側のマージン部11における絶縁フィルム7の左側縁の前方隅部B3に亘って形成される。スプリングバック防止のためには、凹部は、絶縁フィルムの前縁にあればよい。
【0023】
右側のマージン部11の後方側に位置した凹部12aは、リード導体5,6の右側縁と絶縁フィルム7の後縁との交点A1から、同じく右側のマージン部11における絶縁フィルム7の右側縁の後方隅部B1に亘って形成される。また、左側のマージン部11の後方側に位置した凹部12dは、リード導体5,6の左側縁と絶縁フィルム7の後縁との交点A4から、同じく左側のマージン部11における絶縁フィルム7の左側縁の後方隅部B4に亘って形成される。
【0024】
言い換えると、前方に位置する2つの凹部12b,12cは、リード導体5,6の側縁と絶縁フィルム7の前縁との交点A2,A3から絶縁フィルム7の前縁の前方隅部B2,B3までをそれぞれ結ぶ直線よりも、絶縁フィルム7の内部に向けて後退している。
一方、後方に位置する2つの凹部12a,12dは、リード導体5,6の側縁と絶縁フィルム7の後縁との交点A1,A4から絶縁フィルム7の後縁の後方隅部B1,B4までをそれぞれ結ぶ直線よりも、絶縁フィルム7の内部に向けて後退している。
【0025】
右側のマージン部11の前方側に位置した凹部12bを例に挙げて説明すると、リード導体5,6の右側縁と絶縁フィルム7の前縁との交点A2から、同じく右側のマージン部11における絶縁フィルム7の右側縁の前方隅部B2までを直線で結ぶ。この直線とリード導体5,6の右側縁とのなす角(優角)をθとすると、このθは91°〜110°の範囲になる。
【0026】
右側のマージン部11の後方側に位置した凹部12aも、リード導体5,6の右側縁と絶縁フィルム7の後縁との交点A1から、同じく右側のマージン部11における絶縁フィルム7の右側縁の後方隅部B1までを直線で結ぶ。この直線とリード導体5,6の右側縁とのなす角(優角)をθとすると、このθも91°〜110°の範囲になる。他の左側の凹部12c,12dも上記右側と同じ値である。
【0027】
図4に示すように、マージン部11の側端の長さ(第2絶縁長ともいう)iとすると、この第2絶縁長iは絶縁フィルム7の第1絶縁長Iよりも短くなり、第1絶縁長Iと第2絶縁長iとの差は0.5mm以上2mm以下の範囲に設定されている。
【0028】
図5は、スプリングバックの評価結果を示す図である。この実験には、まず、絶縁フィルムが封入体の前縁から突出する突出量を1mmとし、封入体の前縁の位置で、リード導体を絶縁フィルムとともに90°折り曲げる。1時間放置した後、折り曲げ前の位置に対する折り曲げたリード部材の位置(角度)を、分度器を用いて測定する。サンプル数は100とする。
【0029】
まず、試料1のリード部材は、リード導体の幅Dが4mm、マージン部の幅(片側)dが1.5mmであり、マージン部には計4つの凹部が設けられている。
図4で説明した、リード導体5,6の側縁と絶縁フィルム7の前縁との交点から、絶縁フィルム7のマージン部の側縁の隅部までを直線で結び、この直線とリード導体5,6の側縁とのなす角θは4つの凹部とも95°であった。この試料1では、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°以上であり、スプリングバック評価はA判定であった。
次に、試料2のリード部材は、リード導体の幅Dが5mm、マージン部の幅(片側)dが2mmであり、マージン部には計4つの凹部が設けられている。なお、上記なす角θは100°であった。この試料2でも、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°以上であり、スプリングバック評価はA判定であった。
【0030】
続いて、試料3のリード部材は、リード導体の幅6が5mm、マージン部の幅(片側)dが2.5mmであり、マージン部には計4つの凹部が設けられている。なお、上記なす角θは110°であった。この試料3でも、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°以上であり、スプリングバック評価はA判定であった。
これに対し、試料4のリード部材は、リード導体の幅Dが5mm、マージン部の幅(片側)dが2mmであり、マージン部には角部が削り取られておらず、上記なす角θは90°であった。この試料4では、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°よりも小さくなったものが散見されたため、スプリングバック評価はB判定であった。
【0031】
さらに、試料5のリード部材は、リード導体の幅Dが5mm、マージン部の幅(片側)dが2mmであり、マージン部には絶縁フィルムの外部に向けて膨らみ、丸みを帯びた計4つの凸部が設けられている。なお、上記なす角θは110°であった。この試料5でも、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°よりも小さくなったものが散見されたため、スプリングバック評価はB判定であった。
【0032】
試料1〜3のように、絶縁フィルムの4つの角部に凹部を形成すれば、マージン部の面積をより一層小さくすることができる。具体的には、封入体の外部(凹部12b,12c)では、折り曲げられる絶縁フィルムの幅が狭くなるので、折り曲げられた絶縁フィルムを折り曲げ前の元の状態に戻す力を小さくできる。さらに、マージン部が反り返らなくなり、電池収納スペース周辺での作業(溶接作業や電池格納作業)の邪魔にならない。また、封入体の内部(凹部12a,12d)では幅が狭くなり、折り曲げられた絶縁フィルムを折り曲げ前の元の状態に戻す力を小さくできる。この結果、リード部材を折り曲げ易い。
【0033】
さらに、なす角θが91°未満の場合には、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°よりも小さくなったものが散見されたため、スプリングバック評価はB判定であった。一方、なす角θが110°を超えた場合には、実験結果には示していないが、絶縁フィルムの前後方向の長さが最も短い部分でも電池の封入体の外にあるようにすると、リード導体に貼られた絶縁フィルムが封入体の外に長く出過ぎて好ましくない。よって、なす角θを91°〜110°の範囲にすれば、リード部材の折れ曲がった状態を容易に維持することができる。
【0034】
また、第1絶縁長Iと第2絶縁長iとの差が0.5mm未満の場合には、実験結果には示していないが、1時間放置後における折り曲げたリード部材の角度が85°よりも小さくなったものが散見されたため、スプリングバック評価はB判定であった。これに対し、第1絶縁長Iと第2絶縁長iとの差が2mmを超えた場合には、実験結果には示していないが、絶縁フィルムの前後方向の長さが最も短い部分が電池の封入体の外にあるようにすると、リード導体に貼られた絶縁フィルムが封入体の外に長く出過ぎて好ましくない。よって、第1絶縁長Iと第2絶縁長iとの差を0.5mm〜2mmの範囲にすれば、リード部材の折れ曲がった状態を容易に維持することができる。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。