特許第6769281号(P6769281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769281
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】内燃機関システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/025 20060101AFI20201005BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20201005BHJP
   F01N 3/033 20060101ALI20201005BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20201005BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20201005BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20201005BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20201005BHJP
   B01D 46/42 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
   F01N3/025 101
   F01N3/035 E
   F01N3/033 A
   F01N3/033 G
   F01N3/033 K
   F01N11/00
   F02D41/38
   B01D53/94 245
   B01D53/94ZAB
   B01D53/94 280
   B01D53/94 222
   B01D53/94 228
   B01D53/94 241
   B01D53/94 400
   B01D53/96 500
   !B01D46/42 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-243162(P2016-243162)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-96314(P2018-96314A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 聖
【審査官】 沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−208979(JP,A)
【文献】 特開2008−069648(JP,A)
【文献】 特開2013−068185(JP,A)
【文献】 特開2003−172185(JP,A)
【文献】 特開2010−116817(JP,A)
【文献】 特開2014−077369(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/026809(WO,A1)
【文献】 特開2007−138898(JP,A)
【文献】 特開2010−031697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
B01D 46/00−46/54
B01D 53/73
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94
B01D 53/96
F02D 41/00−41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内に燃料を噴射する筒内噴射インジェクタと、
前記内燃機関から排出される排気が流通する排気通路と、
前記排気通路に設けられ、前記排気通路を流通する物質を酸化する酸化触媒と、
前記排気通路における前記酸化触媒より上流側の位置に設けられ、前記排気通路内に燃料を噴射する排気管インジェクタと、
前記排気通路における前記酸化触媒より下流側の位置に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記筒内噴射インジェクタ及び前記排気管インジェクタの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記酸化触媒の性能劣化を検知しない時に、前記排気管インジェクタによる燃料噴射量と前記筒内噴射インジェクタによる燃料のポスト噴射量との比率を所定の比率に制御することにより、前記フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼させる前記フィルタの再生処理を行い、
前記酸化触媒の性能劣化を検知した時に、前記酸化触媒の性能劣化を検知しない時と比較して、前記筒内噴射インジェクタによる燃料のポスト噴射量の比率を増加させて前記フィルタの再生処理を行う
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記酸化触媒の出口部及び入口部における排気の実測温度差と、前記内燃機関の運転条件ごとに予め記憶した予測温度差との差分を算出し、前記差分が所定の劣化判定閾値より大きい場合に前記酸化触媒の性能劣化を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記酸化触媒の性能劣化を検知した場合に、
前記差分を所定の劣化程度閾値と比較することにより、前記酸化触媒の性能劣化の程度を判定し、前記性能劣化の程度に応じて、前記排気管インジェクタによる燃料噴射量と前記筒内噴射インジェクタによる燃料のポスト噴射量との比率を決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DPFフィルタの再生処理を行う内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を含んだ内燃機関システムには、内燃機関から排出される排気を浄化するための排気浄化装置が設けられる。そして、この排気浄化装置としては、排気通路に設けられる酸化触媒と、その下流側に設けられるフィルタとを備えるものが知られている。酸化触媒は、排気に含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)といった有害物質を酸化して無害化することにより、排気を浄化する。一方、フィルタは、排気中に含まれる煤等の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集することにより、排気を浄化する。
【0003】
このような内燃機関システムでは、フィルタに捕集した粒子状物質が堆積すると、フィルタのPM捕集機能が低下する。そこで、フィルタにおける粒子状物質の堆積量が所定量を超えると、フィルタに流入する排気を昇温させ、粒子状物質を燃焼させて除去することによりフィルタのPM捕集機能を回復させる、フィルタの再生処理が実行される。
【0004】
ここで、排気を昇温させる一の手段としては、酸化触媒の上流側に設けた排気管インジェクタから排気通路内に燃料を噴射し、その燃料を酸化触媒で酸化することによって排気を昇温させる方法が挙げられる。
【0005】
また、排気を昇温させる他の手段としては、内燃機関の気筒内に燃料を噴射する筒内噴射インジェクタにより、燃料のポスト噴射を行うという方法も挙げられる。このポスト噴射とは、気筒への燃料のメイン噴射を行った後に、筒内噴射インジェクタから少量の燃料を追従して噴射することである。このポスト噴射を行えば、気筒内から排気通路へ未燃燃料が排出されやすくなり、この未燃燃料が酸化触媒で酸化されることにより、排気が昇温される。
【0006】
ところで、フィルタの再生処理を実行する際に、筒内噴射インジェクタによる噴射量と排気管インジェクタによる噴射量との比率を、内燃機関の運転条件に応じて適宜変更する技術が従来知られている(例えば、特許文献1を参照)。例えば、この特許文献1では、内燃機関の冷間始動運転時であって酸化触媒が活性化温度に到達しておらず、排気温度が上昇しにくいような内燃機関の運転状況である場合には、ポスト噴射制御と燃料添加制御とを協働させて実行する。一方、暖機後であって酸化触媒が活性化温度に到達している場合には、燃料添加制御のみを実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−106753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の内燃機関システムでは、酸化触媒がリン被毒を受けることによってその性能が劣化した場合、排気管インジェクタから噴射された燃料が十分に酸化されず、フィルタの再生効率が低下するという問題や、未燃燃料が大気中に放出されるという問題が生じる。より詳細には、例えばエンジンオイルの添加剤として有機リン化合物を含んだものを使用した場合、気筒内における燃料の燃焼によって有機リン化合物がリン酸化物となり、このリン酸化物が酸化触媒に流入する。そして、このリン酸化物が酸化触媒の担体表面に吸着してリン化合物を形成することにより、酸化触媒がリン被毒を受けてその性能が不可逆的に劣化する。
【0009】
そこで本発明は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、酸化触媒がリン被毒を受けてその性能が劣化しても、粒子状物質を捕集するフィルタの再生処理を効率良く且つ確実に行うことが可能な内燃機関システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様によれば、
内燃機関の気筒内に燃料を噴射する筒内噴射インジェクタと、
前記内燃機関から排出される排気が流通する排気通路と、
前記排気通路に設けられ、前記排気通路を流通する物質を酸化する酸化触媒と、
前記排気通路における前記酸化触媒より上流側の位置に設けられ、前記排気通路内に燃料を噴射する排気管インジェクタと、
前記排気通路における前記酸化触媒より下流側の位置に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記筒内噴射インジェクタ及び前記排気管インジェクタの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記酸化触媒の性能劣化を検知しない時に、前記排気管インジェクタによる燃料噴射量と前記筒内噴射インジェクタによる燃料のポスト噴射量との比率を所定の比率に制御することにより、前記フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼させる前記フィルタの再生処理を行い、
前記酸化触媒の性能劣化を検知した時に、前記酸化触媒の性能劣化を検知しない時と比較して、前記筒内噴射インジェクタによる燃料のポスト噴射量の比率を増加させて前記フィルタの再生処理を行う
ことを特徴とする内燃機関システムが提供される。
【0011】
なお、本発明の一の態様に係る内燃機関システムにおいては、
前記制御装置は、
前記酸化触媒の出口部及び入口部における排気の実測温度差と、前記内燃機関の運転条件ごとに予め記憶した予測温度差との差分を算出し、前記差分が所定の劣化判定閾値より大きい場合に前記酸化触媒の性能劣化を検知してもよい。
【0012】
また、本発明の一の態様に係る内燃機関システムにおいては、
前記制御装置は、
前記酸化触媒の性能劣化を検知した場合に、
前記差分を所定の劣化程度閾値と比較することにより、前記酸化触媒の性能劣化の程度を判定し、前記性能劣化の程度に応じて、前記排気管インジェクタによる燃料噴射量と前記筒内噴射インジェクタによる燃料のポスト噴射量との比率を決定してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一の態様に係る内燃機関システムによれば、酸化触媒がリン被毒を受けてその性能が劣化しても、フィルタの再生処理を効率良く且つ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関システム1を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るDPF20の再生処理の流れを示したフローチャートである。
図3】アクセル開度Acと内燃機関2の回転速度Neとに応じた筒内噴射インジェクタ13の燃料の目標噴射量Q1のマップを概念的に示す図である。
図4】目標噴射量Q1と内燃機関2の回転速度Neとに応じた予測温度差Tyのマップを概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
(内燃機関システムの構成)
まず、本発明の実施形態に係る内燃機関システムの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関システム1を示す模式図である。内燃機関システム1は、内燃機関2と、この内燃機関2に接続された吸気通路3と、同じく内燃機関2に接続された排気通路4と、吸気通路3と排気通路4を接続して設けられたEGR装置5と、排気通路4に設けられた排気浄化装置6と、各部に対して電気的に接続された制御装置7と、を備えている。
【0017】
内燃機関2は、車両に搭載された4気筒の圧縮着火式内燃機関、すなわちディーゼルエンジンである。内燃機関2は、図1に示すように、内燃機関本体8と、燃料噴射装置9と、回転速度センサ10と、を有している。なお、図示例は直列4気筒の内燃機関2を示すが、内燃機関2のシリンダ配置形式、気筒数等は任意である。
【0018】
内燃機関本体8は、図に詳細は示さないが、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含んでいる。この内燃機関本体8の内部には、図1に示すように、4つの気筒11が形成されている。
【0019】
燃料噴射装置9は、いわゆるコモンレール式燃料噴射装置であって、気筒11の内部に燃料を噴射する役割を果たす。この燃料噴射装置9は、図1に示すように、燃料を高圧状態で貯留するコモンレール12と、このコモンレール12に接続されて4つの気筒11の内部に燃料をそれぞれ噴射する4つの筒内噴射インジェクタ13と、を有している。
【0020】
回転速度センサ10は、内燃機関2の回転速度である単位時間当たりの回転速度Ne(rpm)を検出する役割を果たす。この回転速度センサ10は、図1に示すように、制御装置7に電気的に接続されており、その検出結果が制御装置7に入力される。
【0021】
吸気通路3は、外部から吸引した吸気を内燃機関2の各気筒11に供給する役割を果たす。この吸気通路3は、図1に示すように、内燃機関本体8(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド14と、この吸気マニホールド14に一端が接続された吸気管16と、を有している。
【0022】
排気通路4は、内燃機関2から排出された排気を外部へ排出する役割を果たす。この排気通路4は、図1に示すように、内燃機関本体8(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド17と、この排気マニホールド17に一端部が接続された排気管19と、を有している。
【0023】
EGR装置5は、排気通路4内の排気の一部(「EGRガス」という)を吸気通路3内に還流させる役割を果たす。このEGR装置5は、図1に示すように、一端が排気マニホールド17に接続されて他端が吸気マニホールド14に接続されたEGR通路20と、EGR通路20を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ21と、このEGRクーラ21の下流側に設けられてEGRガスの流量を調節するEGRバルブ22と、を備える。このようなEGR装置5によれば、EGRガスを還流させて吸気中の酸素濃度を低下させることにより気筒11内での燃焼温度を低下させ、排気中の窒素酸化物の低減等を図ることができる。
【0024】
排気浄化装置6は、排気管19を流通する排気を浄化する役割を果たす。この排気浄化装置6は、排気管19の所定位置に設けられた酸化触媒ユニット23と、この酸化触媒ユニット23の下流側の位置に設けられたパティキュレートフィルタユニット24(以下、「DPFユニット24」と称す)と、このDPFユニット24より更に下流側の位置に設けられたNOx触媒ユニット25と、このNOx触媒ユニット25より更に下流側の位置に設けられたアンモニア酸化触媒26と、を備える。
【0025】
酸化触媒ユニット23は、図1に示すように、酸化触媒27と、この酸化触媒27の入口部に設けられて入口部温度T1を検出する入口部温度センサ28と、酸化触媒27の出口部に設けられて出口部温度T2を検出する出口部温度センサ29と、排気管19における酸化触媒27より上流側の位置に設けられ、排気管19内に燃料を噴射する排気管インジェクタ18と、を有している。このように構成される酸化触媒ユニット23によれば、排気管19を流通する排気中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)が酸化触媒27によって酸化されることにより、排気が浄化される。また、排気管インジェクタ18から燃料が噴射されると、この燃料が酸化触媒27によって酸化されることにより、排気が昇温される。
【0026】
DPFユニット24は、図1に示すように、パティキュレートフィルタ30(特許請求の範囲に言う「フィルタ」であって、以下、「DPF30」と称す)と、DPF30の上流側及び下流側に跨って設けられた差圧センサ31と、を有している。このように構成されるDPFユニット24によれば、排気中に含まれる煤等の粒子状物質が、DPF30によって捕集されることにより、排気中から除去される。また、DPF30の上流側及び下流側における排気の差圧が差圧センサ31によって検出され、その検出結果に基づいてDPF30における粒子状物質の堆積量が推定される。そして、その堆積量が所定量を超えると、制御装置7が、DPF20に堆積した粒子状物質を燃焼させるDPF20の再生処理を実行する。
【0027】
このDPF20の再生処理の実行時には、制御装置7が、酸化触媒ユニット23の排気管インジェクタ18を制御して排気管19内に燃料を噴射させる。そうすると、上述のように酸化触媒27によって排気が昇温され、この昇温した排気がDPF30に流入することにより、DPF20に堆積した粒子状物質が燃焼して除去される。これにより、DPF20のPM捕集能が回復する。
【0028】
更に、DPF20の再生処理の実行時には、上述の排気管インジェクタ18による燃料噴射に加えて、制御装置7が、内燃機関2の筒内噴射インジェクタ13を制御して気筒11内に燃料のいわゆるポスト噴射を行わせる。このポスト噴射とは、気筒11への燃料のいわゆるメイン噴射を行った後に、筒内噴射インジェクタ13から少量の燃料を追従して噴射することである。このポスト噴射を行えば、気筒11内から排気通路4へ未燃燃料が排出されやすくなり、この未燃燃料が酸化触媒27で酸化されることにより、排気が昇温される。
【0029】
NOx触媒ユニット25は、図1に示すように、選択還元型NOx触媒32(以下、「SCR32:Selective Catalytic Reduction」と略す)と、このSCR32の入口部に設けられた添加弁33と、を有している。このように構成されるNOx触媒ユニット25によれば、還元剤としての尿素水が添加弁33からSCR32に添加されると、この尿素水が加水分解されることによりアンモニアが生成する。そして、このアンモニアが排気中のNOxと反応することにより、NOxが還元される。
【0030】
アンモニア酸化触媒26は、SCR32から排出された余剰のアンモニアを酸化することにより、排気を浄化する役割を果たす。これにより、内燃機関システム1の外部へアンモニアが排出されることが抑制されている。
【0031】
制御装置7は、各種センサ等から検出結果を取得し、それに基づいて各部の動作を制御する役割を果たす。この制御装置7は、図1に示すように、内燃機関システム1を構成する各部、例えば、内燃機関2の回転速度センサ10と筒内噴射インジェクタ13、EGR装置5のEGRバルブ22、酸化触媒ユニット23の入口部温度センサ28と出口部温度センサ29と排気管インジェクタ18、DPFユニット24の差圧センサ31、NOx触媒ユニット25の添加弁33に対して電気的に接続されている。また、制御装置7は、アクセル開度Acを検出するアクセル開度センサ34にも電気的に接続されている。そして、制御装置7は、回転速度センサ10、入口部温度センサ28、出口部温度センサ29、差圧センサ31、及びアクセル開度センサ34から検出結果を取得し、その検出結果に基づいて、筒内噴射インジェクタ13、EGRバルブ22、排気管インジェクタ18、及び添加弁33等の動作を制御する。
【0032】
(DPFの再生処理の流れ)
次に、内燃機関2を構成するDPF20の再生処理の流れについて説明する。図2は、DPF20の再生処理の流れを示したフローチャートである。DPF20の再生処理が開始されると、制御装置7は、まず酸化触媒ユニット23の入口部温度センサ28から排気の入口部温度T1を取得すると共に、出口部温度センサ29から排気の出口部温度T2を取得する(S1)。
【0033】
次に、制御装置7は、実測温度差Tjを算出する(S2)。この実測温度差Tjは、酸化触媒27の入口部と出口部における排気の実測温度の差分である。制御装置7は、ステップS1で取得した入口部温度T1と出口部温度T2を用い、温度差T2−T1を算出することにより、実測温度差Tjを取得する。
【0034】
次に、制御装置7は、予測温度差Tyを取得する(S3)。この予測温度差Tyは、内燃機関2の運転条件に基づいて予測される酸化触媒27の入口部と出口部における排気の温度差である。制御装置7は、まず図1に示される回転速度センサ10から内燃機関2の回転速度Neを取得すると共に、アクセル開度センサ34からアクセル開度Acを取得する。一方、制御装置7がその内部に有する記憶部35には、図3に示すマップが予め記憶されている。このマップでは、図に詳細は示さないが、横軸に示される内燃機関2の回転速度Neと、縦軸に示されるアクセル開度Acとの各格子点に、筒内噴射インジェクタ13の燃料噴射量、具体的には筒内噴射インジェクタ13への指示値である燃料の目標噴射量Q1(実験等により予め算定されたもの)がそれぞれ入力されている。制御装置7は、このマップを参照することにより、取得したアクセル開度Acと内燃機関2の回転速度Neに応じた目標噴射量Q1を取得する。また、制御装置7の記憶部35には、図4に示すマップも予め記憶されている。このマップでは、図に詳細は示さないが、横軸に示される内燃機関2の回転速度Neと、縦軸に示される目標噴射量Q1との格子点に、酸化触媒27の入口部と出口部における排気の温度差の予測値がそれぞれ入力されている。制御装置7は、このマップを参照することにより、予測温度差Tyを取得する。
【0035】
次に、制御装置7は、図2のステップS2及びS3で算出及び取得した実測温度差Tjと予測温度差Tyの差分Ty−Tjを算出し、この差分が所定の劣化判定閾値Trより大きいか否かを判定する(S4)。この劣化判定閾値Trは、酸化触媒27がリン被毒を受けてその性能が劣化しているか否かを判定するための閾値である。この劣化判定閾値Trについては、図に詳細は示さないが、前述の予測温度差Tyと同様に、内燃機関2の運転条件毎、具体的には内燃機関2の回転速度Ne及び筒内噴射インジェクタ13の目標噴射量Q1毎の値が入力されたマップが、図1に示す制御装置7の記憶部35に予め記憶されている。そして、制御装置7が、このマップを参照することにより、アクセル開度Acや内燃機関2の回転速度Neに応じた劣化判定閾値Trを取得する。
【0036】
ここで、酸化触媒27のリン被毒による性能劣化について詳述すると、例えばエンジンオイルの添加剤として有機リン化合物を含んだものを使用した場合、気筒11内における燃料の燃焼によって有機リン化合物がリン酸化物となり、このリン酸化物が酸化触媒27に流入する。そして、図に詳細は示さないが、このリン酸化物が酸化触媒27の担体表面に吸着してリン化合物を形成することにより、酸化触媒27がリン被毒を受けてその性能が不可逆的に劣化する。このように酸化触媒27が劣化した場合、排気管インジェクタ18から噴射された燃料が十分に酸化されず、DPF20の再生効率が低下するという問題や、未燃燃料が大気中に放出されるという問題が生じる。そこで、酸化触媒27にリン被毒による性能劣化が生じているか否かを判定し、性能劣化が生じている場合には、前述のような問題を回避するための対策を事前に施すこととしている。なお、酸化触媒27の性能が劣化している場合、酸化触媒27に流入した燃料が十分に酸化されない(燃焼しない)ため、実測温度差Tjが予測温度差Tyより小さくなる。従って、制御装置7は、実測温度差Tjと予測温度差Tyの差分として、Ty−Tjを算出している。
【0037】
そして、ステップS4における判定の結果、差分Ty−Tjが劣化判定閾値Tr以下である場合(S4:No)、制御装置7は、酸化触媒27にはリン被毒による性能劣化が生じていないと判断し、通常方式によるDPF20の再生処理を実行する(S5)。より詳細には、前述のように、DPF20の再生処理時には、制御装置7が、排気管インジェクタ18による排気管19内への燃料噴射と、筒内噴射インジェクタ13による気筒11内への燃料のポスト噴射とを併用することにより、排気を昇温させる。通常方式によるDPF20の再生処理においては、制御装置7が、排気管インジェクタ18による燃料噴射量と、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量との比率を、予め定めた所定の比率に制御する。本実施形態では、酸化触媒27で酸化しようとする燃料の総量を100%とすると、その内の約A%の量の燃料を筒内噴射インジェクタ13によるポスト噴射によって供給すると共に、残りの約B(=100−A)%の量の燃料を排気管インジェクタ18による排気管噴射によって供給している。なお、この両者の比率は一例に過ぎず、任意の比率に設定することが可能である。
【0038】
一方、ステップS4における判定の結果、差分Ty−Tjが劣化判定閾値Trより大きい場合(S4:Yes)、制御装置7は、酸化触媒27にリン被毒による性能劣化が生じていると判断し、その性能劣化の程度を判断すべく、差分Ty−Tjが所定の劣化程度第1閾値Ta(特許請求の範囲に言う、「劣化程度閾値」)より大きいか否かを判定する(S6)。この劣化程度第1閾値Taは、劣化判定閾値Trに所定値を加算することにより算出された劣化判定閾値Trより大きい値であって、図1に示す制御装置7の記憶部35に予め記憶されている。なお、この劣化程度第1閾値Taについても、前述の予測温度差Tyと同様に、内燃機関2の運転条件毎の値が入力されたマップを記憶部35に予め記憶しておき、制御装置7がそのマップを参照することにより、筒内噴射インジェクタ13の目標噴射量Q1及び内燃機関2の回転速度Neに応じた劣化程度第1閾値Taを取得するようにしてもよい。
【0039】
そして、ステップS6における判定の結果、差分Ty−Tjが劣化程度第1閾値Ta以下である場合(S6:No)、制御装置7は、酸化触媒27には僅かな劣化しか生じていないと判断し、低度劣化方式によるDPF20の再生処理を実行する(S7)。この低度劣化方式によるDPF20の再生処理においては、制御装置7が、酸化触媒27の性能劣化を検知しない時に実行した通常方式によるDPF20の再生処理と比較して、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を増加させてDPF20の再生処理を行う。本実施形態では、酸化触媒27で酸化しようとする燃料の総量を100%とすると、その内の約C(>A)%の量の燃料を筒内噴射インジェクタ13によるポスト噴射によって供給すると共に、残りの約D(=100−C)%の量の燃料を排気管インジェクタ18による排気管噴射によって供給している。なお、この両者の比率は一例に過ぎず、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率が通常方式の場合の比率より大きい値であれば、任意の値に設定することが可能である。
【0040】
このような低度劣化方式によるDPF20の再生処理によれば、酸化触媒27の性能劣化によってDPF20の再生効率が低下するのを未然に防止することができる。すなわち、筒内噴射インジェクタ13によってポスト噴射された燃料は、気筒11から排出されて排気通路4を流通する間に高温に晒されるため、排気管インジェクタ18によって排気管噴射された燃料と比較して、酸化触媒27に到達した時点でより小さな分子に分解されている。このように小さく分解された燃料は、リン被毒を受けて性能が劣化した酸化触媒27でも分解されやすいため、確実に酸化が行われる。このように、確実なる酸化が可能な筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を、通常方式によるDPF20の再生処理の場合よりも増加させることにより、酸化触媒27の性能劣化に拘わらず、DPF20の再生処理を効率良く且つ確実に行うことができる。
【0041】
一方、ステップS6における判定の結果、差分Ty−Tjが劣化程度第1閾値Taより大きい場合(S6:Yes)、制御装置7は、次に差分Ty−Tjが所定の劣化程度第2閾値Tb(特許請求の範囲に言う、「劣化程度閾値」)より大きいか否かを判定する(S8)。この劣化程度第2閾値Tbは、劣化程度第1閾値Taに更に所定値を加算することにより算出された劣化程度第1閾値Taより大きい値であって、図1に示す制御装置7の記憶部35に予め記憶されている。なお、この劣化程度第2閾値Tbについても、前述の予測温度差Tyと同様に、内燃機関2の運転条件毎の値が入力されたマップを記憶部35に予め記憶しておき、制御装置7がそのマップを参照することにより、筒内噴射インジェクタ13の目標噴射量Q1及び内燃機関2の回転速度Neに応じた劣化程度第2閾値Tbを取得するようにしてもよい。
【0042】
そして、ステップS8における判定の結果、差分Ty−Tjが劣化程度第2閾値Tb以下である場合(S8:No)、制御装置7は、酸化触媒27には中程度の劣化が生じていると判断し、中度劣化方式によるDPF20の再生処理を実行する(S9)。この中度劣化方式によるDPF20の再生処理においては、制御装置7が、低度劣化方式によるDPF20の再生処理と比較して、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を更に増加させてDPF20の再生処理を行う。本実施形態では、酸化触媒27で酸化しようとする燃料の総量を100%とすると、その内の約E(>C)%の量の燃料を筒内噴射インジェクタ13によるポスト噴射によって供給すると共に、残りの約F(=100−E)%の量の燃料を排気管インジェクタ18による排気管噴射によって供給している。なお、この両者の比率は一例に過ぎず、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率が低度劣化方式の場合の比率より大きい値であれば、任意の値に設定することが可能である。
【0043】
このような中度劣化方式によるDPF20の再生処理によれば、確実なる酸化が可能な筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を、低度劣化方式によるDPF20の再生処理の場合よりも更に増加させることにより、酸化触媒27の性能劣化に拘わらず、DPF20の再生処理を一層効率良く且つ一層確実に行うことができる。
【0044】
一方、ステップS8における判定の結果、差分Ty−Tjが劣化程度第2閾値Tbより大きい場合(S8:Yes)、制御装置7は、酸化触媒27には酷い劣化が生じていると判断し、高度劣化方式によるDPF20の再生処理を実行する(S10)。この高度劣化方式によるDPF20の再生処理においては、制御装置7が、中度劣化方式によるDPF20の再生処理と比較して、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を更に増加させてDPF20の再生処理を行う。本実施形態では、酸化触媒27で酸化しようとする燃料の総量を100%とすると、その内の約G(>E)%の量の燃料を筒内噴射インジェクタ13によるポスト噴射によって供給すると共に、残りの約H(=100−G)%の量の燃料を排気管インジェクタ18による排気管噴射によって供給している。なお、この両者の比率は一例に過ぎず、筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率が中度劣化方式の場合の比率より大きい値であれば、任意の値に設定することが可能である。例えば、G=100、H=0に設定して、酸化触媒27で酸化しようとする燃料の総量の全てを、筒内噴射インジェクタ13によるポスト噴射のみによって供給してもよい。
【0045】
このような高度劣化方式によるDPF20の再生処理によれば、確実なる酸化が可能な筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を、中度劣化方式によるDPF20の再生処理の場合よりも更に増加させることにより、酸化触媒27の性能劣化に拘わらず、DPF20の再生処理を一層効率良く且つ一層確実に行うことができる。
【0046】
以上により、DPF20の再生処理が終了する。
【0047】
このようなDPF20の再生処理によれば、酸化触媒27がリン被毒を受けてその性能が劣化しても、酸化触媒27における確実なる酸化が可能な筒内噴射インジェクタ13による燃料のポスト噴射量の比率を増加させるので、効率良く且つ確実にDPF20の再生処理を行うことができる。
【0048】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態としては以下に示すような変形例も考えられる。
【0049】
(1) 本実施形態では、劣化程度第1閾値Taと劣化程度第2閾値という2つの劣化程度閾値を設定することにより、酸化触媒27の性能劣化の程度を、低度劣化、中度劣化、高度劣化という3段階に分けて分類した。しかし、性能劣化の程度は任意の段階数に分けて分類することが可能であり、段階数に応じた個数の劣化程度閾値を設定すればよい。
【0050】
(2) 本実施形態では、予測温度差Tyを、内燃機関2の運転条件ごとに予め記憶し、その運転条件として筒内噴射インジェクタ13の目標噴射量Q1と内燃機関2の回転速度Neとを用いた。しかし、内燃機関2の運転条件は本実施形態に限定されず、例えば排気の流量等を用いてもよい。
【0051】
(3) 本実施形態では、酸化触媒27の入口部温度T1と出口部温度T2との温度差である実測温度差Tjに基づいて、酸化触媒27に劣化が生じているか否かの判定やその劣化の程度を判定した。しかし、これらの判定は、例えば酸化触媒27の出口部温度T2を所定の予測値や閾値と比較することにより行ってもよい。
【符号の説明】
【0052】
2 内燃機関
4 排気通路
7 制御装置
11 気筒
13 筒内噴射インジェクタ
18 排気管インジェクタ
20 DPF(フィルタ)
27 酸化触媒
Tj 実測温度差
Ty 予測温度差
Tr 劣化判定閾値
Ta 劣化程度第1閾値
Tb 劣化程度第2閾値
図1
図2
図3
図4