(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、負極基材と、繊維状物質を含有し、上記負極基材に配置される負極活物質層とを備え、上記負極活物質層が、第1領域と、第2領域とを有し、上記第1領域が、上記第2領域と上記負極基材との間に配され、上記第1領域における上記繊維状物質の質量含有率が上記第2領域における上記繊維状物質の質量含有率よりも高く、上記第2領域が球状黒鉛又は塊状黒鉛を含有する非水電解質蓄電素子用の負極である。
【0013】
当該負極は、一般に充放電容量が小さい繊維状物質の添加量を抑制しつつ非水電解質蓄電素子に用いた場合に金属析出の抑制効果が高い。このように、当該負極を備える非水電解質蓄電素子は、金属の析出が生じ始める充電状態(SOC:State of Charge)が高く、金属の析出が抑制されるため、寿命や安全性に優れ、信頼性が高い。この理由は定かでは無いが、上記繊維状物質が負極活物質層に含有されていることで、リチウム等、電解質塩として溶解している金属の析出が抑制される。これは、アスペクト比の高い繊維状物質を用いることで、非水電解質が通過しやすい厚み方向の空隙が確保されることによって、充電反応時においてリチウム等の金属イオンが負極基材側に容易に到達しやすくなること等によると考えられる。一方、繊維状炭素の内部には、金属イオンが入りにくいことから、繊維状炭素が負極活物質層の外表面に露出している場合は、金属が表面に析出しやすくなる。また、繊維状物質は一般に充放電容量が小さいことから、高エネルギー密度化には添加量の抑制が求められる。そこで、負極活物質層における繊維状物質を負極基材近傍に集中させて繊維状物質の分布を不均一化することで、当該負極は、繊維状炭素の全体的な添加量を抑制しつつ、金属の析出抑制効果を得ることができると推測される。
【0014】
ここで、「黒鉛」とは、粉末X線回折法による(002)面に相当するピークの半値幅(002)が0.35°以下の炭素材料をいう。なお、線源にCuKα線を用いた場合に2θ=25.5°〜27.5°の間に現れるピークを(002)面に相当するピークとする。
【0015】
上記負極活物質層における上記繊維状物質の含有率としては、7質量%以下が好ましい。上記繊維状物質の含有率を7質量%以下とすることで、高容量の非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0016】
上記負極活物質層は、第1領域を含む第1層と第2領域を含む第2層とを有する。上記第1層における上記繊維状物質の含有率としては、10質量%以下が好ましい。上記負極基材側に配される第1領域を含む第1層における上記繊維状物質の含有率を10質量%以下とすることで、高容量かつ金属析出が抑制された非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0017】
上記第1層と上記第2層との厚み比としては、4:9〜9:4が好ましい。上記第1層と上記第2層との厚み比を上記範囲とすることで、金属析出の抑制効果をより高めることができる。
【0018】
本発明の他の一態様は、当該負極を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)である。当該蓄電素子は、当該負極を備えるため、金属の析出が生じ始めるSOCが高く、金属の析出が抑制されるため、寿命や安全性に優れ、信頼性が高い。
【0019】
本発明の他の一態様は、負極基材に、繊維状物質を含有する第1負極合剤ペーストを塗工した後に、全固形分に対する上記繊維状物質の含有量が、上記第1負極合剤ペーストの全固形分に対する上記繊維状物質の含有量よりも低く、球状黒鉛又は塊状黒鉛を含有する第2負極合剤ペーストを塗工することを有する非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法である。当該負極の製造方法によれば、金属析出の抑制効果が高い負極を製造することができる。従って、非水電解質蓄電素子が当該負極を備えることにより、金属の析出が生じ始めるSOCが高く、金属の析出が抑制されるため、寿命や安全性に優れ、信頼性が高い非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【0020】
<負極>
図1は、本発明の非水電解質蓄電素子の一実施形態に係る負極を示す概略断面図である。負極1は、負極基材2と、繊維状物質を含有し、この負極基材2の一方の面上に負極の最表層として直接配される負極活物質層3とを備える。
【0021】
[負極基材]
負極基材2は、導電性を有する基材である。負極基材2の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材2の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材2としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。なお、「導電性」を有するとは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10
7Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10
7Ω・cm超であることを意味する。
【0022】
上記負極基材2の平均厚みの上限としては、例えば30μmであってもよいが、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。負極基材2の平均厚みを上記上限以下とすることで、エネルギー密度をより高めることができる。一方、この平均厚みの下限としては、例えば1μmであってよく、5μmであってもよい。なお、平均厚みとは、任意に選んだ10カ所において測定した厚みの平均値をいう。
【0023】
[負極活物質層]
負極活物質層3は、負極基材2に直接又は中間層を介して負極1の最表層として配される。負極活物質層3は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。また、負極活物質層3は、繊維状物質を含有する。上記負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0024】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えば黒鉛(グラファイト)が挙げられる。また、上記負極合剤としては、上記黒鉛以外のその他の負極活物質を含んでいてもよい。
【0025】
(黒鉛)
上記黒鉛としては、例えば球状黒鉛又は塊状黒鉛が好ましい。黒鉛としては、人造黒鉛及び天然黒鉛が挙げられる。「人造黒鉛」は、粉末X線回折法による(002)面に相当するピークの半値幅(002)が0.32°超0.35°以下の黒鉛である。「天然黒鉛」は、上記半値幅(002)が0.32°以下の黒鉛である。なお、「天然黒鉛」の上記半値幅(002)の下限は、例えば0.29°である。
【0026】
上記黒鉛の平均格子面間隔(d002)は、0.340nm未満が好ましく、0.338nm未満がより好ましい。また、上記黒鉛の平均格子面間隔(d002)は、0.335nm以上であることが好ましい。上記黒鉛のアスペクト比(最大長径/最大長径に直交する幅の平均値)としては、例えば1以上10未満が好ましい。上記人造黒鉛のアスペクト比としては、例えば1以上3以下が好ましい。上記天然黒鉛のアスペクト比としては、1以上10未満が好ましい。上記アスペクト比の黒鉛を用いることで、繊維状物質と混合させたときに良好な導電性を発揮でき、優れた高率充放電性能を示すことなどができる。なお、上記アスペクト比とは、電子顕微鏡で観察される任意の10の黒鉛粒子における最大長径/最大長径に直交する幅の平均値とする。上記球状黒鉛又は塊状黒鉛は、人造黒鉛又は天然黒鉛のうち、アスペクト比が1以上3以下のものをいう。球状黒鉛又は塊状黒鉛のアスペクト比は、1以上2以下が好ましい。球状黒鉛は、真球に近い形のものが好ましいが、楕円形、卵形等であってもよく、表面に凹凸を有していてもよい。塊状黒鉛は、複数の黒鉛粒子が凝集した粒子を含んでいてもよい。
【0027】
上記黒鉛の真密度としては、2.1g/cm
3以上が好ましい。このように真密度の高い黒鉛を用いることで、エネルギー密度をより高めることができる。一方、上記黒鉛の真密度の上限としては、例えば2.5g/cm
3である。真密度は、ヘリウムガスを用いたピクノメータによる気体容積法で測定される。
【0028】
上記負極活物質層3における上記黒鉛の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、90質量%であってもよく、92質量%であってもよい。黒鉛の含有量を上記下限以上とすることで、充放電効率をより高めることができる。
【0029】
一方、上記負極活物質層3における上記黒鉛の含有量の上限としては、95質量%が好ましく、92質量%であってもよい。黒鉛の含有量を上記上限以下とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0030】
(他の負極活物質)
上記黒鉛及以外に含まれていてもよい他の負極活物質としては、通常使用される公知の材料が挙げられ、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;チタン酸リチウム等の複合酸化物等が挙げられる。また、難黒鉛化性炭素や易黒鉛化性炭素といった非晶質系炭素が含有されていてもよい。
【0031】
(繊維状物質)
上記繊維状物質が負極活物質層3に含有されていることで、リチウム等、電解質塩として溶解している金属の析出が抑制される。上記繊維状物質としては、導電性材料であることが好ましい。導電性材料であることにより、活物質層の電子伝導性の低下を抑制することができる。上記繊維状物質としては、例えば炭素材料、金属材料、金属酸化物等を挙げることができ、これらの中では炭素材料がより好ましい。炭素材料であることにより、繊維状物質が活物質としても機能するので、エネルギー密度の低下を抑制することができる。
【0032】
上記繊維状物質のアスペクト比(最大長径/最大長径に直交する幅の平均値)としては、10以上であり、例えば10以上200以下が好ましい。上記サイズの繊維状物質を用いることで良好な導電性を発揮することができ、含有量を比較的少なくしつつ、金属の析出を効果的に抑制することができる。また、上記繊維状物質のサイズとしては、最大長径の平均値が2μm以上10μm以下、最大長径に直交する幅の平均値が50nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0033】
上記繊維状物質が炭素材料である場合、上記繊維状物質の平均格子面間隔(d002)としては、0.340nm未満が好ましい。このように繊維状物質の平均格子面間隔(d002)が小さく、結晶化度が高い場合、導電性がより高まり、金属の析出抑制効果をより向上することができる。なお、この繊維状物質の平均格子面間隔(d002)の下限としては、例えば0.330nmとすることができる。また、上記繊維状物質の粉末X線回折法による(002)面に相当するピークの半値幅(002)は、例えば0.5°以上である。また、この繊維状物質の半値幅(002)は、0.7°未満であることが好ましい。
【0034】
また、上記繊維状物質が炭素材料である場合、上記繊維状物質は、例えば紡糸法等により高分子を繊維状にし、不活性雰囲気下で熱処理する方法や、触媒存在下、高温で有機化合物を反応させる気相成長法等によって得ることができる。上記繊維状物質としては、気相成長法によって得られた繊維状物質(気相成長繊維状物質)が好ましい。繊維状物質は、市販されているものを用いることができる。
【0035】
負極活物質層3における上記繊維状物質の含有量の上限としては、7質量%が好ましく、6質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。繊維状物質の含有量を上記範囲とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0036】
(その他の任意成分)
上記繊維状物質以外に含まれていてもよい他の導電剤としては、金属、導電性セラミックス、アセチレンブラック等の繊維状物質以外の炭素材料等が挙げられる。
【0037】
上記バインダーとしては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等のエラストマー以外の熱可塑性樹脂;多糖類高分子等が挙げられる。
【0038】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0039】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0040】
また、上記負極合剤は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0041】
(負極活物質層の全体構成)
次に、負極活物質層3の具体的構成について説明する。負極活物質層3は、第1層4と、第2層6と、第3層5とを有する。第1層4は、第1領域4aを含む。第2層6は、第2領域6aを含む。第3層5は、第1層4と第2層6との間に配される。第1領域4aは、負極基材2の一方の面上に配される。より詳細には、第1領域4aは、第2領域6aと負極基材2との間に配され、負極基材2側から厚み方向(図中X方向)から見て第2領域6aの表面が負極1の最表面となる。なお、第1領域4aは、第1層4の負極基材2側から負極活物質層3の厚み10%の範囲である。また、第2領域6aは、第2層6の最表面側から負極活物質層3の厚み10%の範囲である。すなわち、第1領域4aは、負極活物質層3の基材側から厚み10%の領域であり、第2領域6aは、負極活物質層の最表面側から厚み10%の領域である。
【0042】
(第1層)
第1層4は、負極活物質及び繊維状物質を含む負極合剤から形成される。また、第1層4は、負極活物質として黒鉛を含有することが好ましい。第1層4は、必要に応じてその他の負極活物質、その他の導電剤、エラストマー等のバインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0043】
第1層4における上記繊維状物質の含有量の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。繊維状物質の含有量を上記範囲とすることで、高容量かつ金属の析出が抑制された非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0044】
また、上述のように、第1層4は負極基材2の一方の面上に配される第1領域4aを有する。第1領域4aにおける上記繊維状物質の質量含有率は、上記第2領域6aにおける上記繊維状物質の質量含有率よりも高い。換言すれば、断面画像において、第1領域4aに占める繊維状物質の割合(面積比)が、第2領域6aよりも高いことが好ましい。
【0045】
第1層4における他の成分(黒鉛及び繊維状物質以外の成分)の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。他の成分の含有量を上記下限以上とすることで、良好な結着性や塗布性等を発揮することができる。一方、この他の成分の含有量の上限としては、例えば10質量%であり、6質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、4質量%がさらに好ましい。他の成分の含有量を上記上限以下とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0046】
第1層4の単位面積当たりの質量(単位面積当たりの固形分換算の塗布質量)の下限としては、3mg/cm
2が好ましく、4mg/cm
2がより好ましい一方、第1層4の単位面積当たりの質量の上限としては、10mg/cm
2が好ましく、9mg/cm
2がより好ましい。第1層4の単位面積当たりの質量を上記上限以下とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0047】
(第2層)
第2層6は、負極活物質を含む負極合剤から形成される。第2層6は、繊維状物質を含有してもよい。さらに、第2層6は、第1層4と同様に必要に応じて上記その他の負極活物質、その他の導電剤、エラストマー等のバインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。また、第2層6は、最表面に第2領域6aを有する。第2領域6aは、球状黒鉛又は塊状黒鉛を含有する。
【0048】
第2層6の単位面積当たりの質量(単位面積当たりの固形分換算の塗布質量)の下限としては、3mg/cm
2が好ましく、4mg/cm
2がより好ましい。一方、第2層6の単位面積当たりの質量の上限としては、10mg/cm
2が好ましく、9mg/cm
2がより好ましい。第2層6の単位面積当たりの質量を上記上限以下とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0049】
第1層4と第2層6との厚み比としては、4:9〜9:4が好ましく、1:1〜9:4がより好ましい。第1層4と第2層6との厚み比を上記範囲とすることで、金属析出の抑制効果をより高めることができる。
【0050】
(第3層)
第3層5は、負極活物質を含む負極合剤から形成される。第3層5を形成する負極合剤としては、上記通常の負極活物質を含有することができる。また、第3層5は、繊維状物質を含有してもよい。さらに、第3層5を形成する負極合剤は、第1層4と同様に必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0051】
第3層5が繊維状物質を含有する場合、上記繊維状物質の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、7質量%がより好ましい。一方、この含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。繊維状物質の含有量を上記範囲とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0052】
第3層5の単位面積当たりの質量(単位面積当たりの固形分換算の塗布質量)の下限としては、1mg/cm
2が好ましく、2mg/cm
2がより好ましい。一方、第3層5の単位面積当たりの質量の上限としては、10mg/cm
2が好ましく、9mg/cm
2がより好ましい。負極活物質層3の単位面積当たりの質量を上記上限以下とすることで、金属の析出抑制効果をより向上することができる。
【0053】
第1層4と第3層5との厚み比としては、10:1〜1:10が好ましい。第1層4と第3層5との厚み比を上記範囲とすることで、金属析出の抑制効果をより高めることができる。
【0054】
[中間層]
当該負極1は、負極基材2の表面に被覆層として図示しない中間層を備え、負極活物質層3が負極基材2に上記中間層を介して積層されていてもよい。中間層は、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材2と負極活物質層3との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0055】
<負極の製造方法>
当該負極は、負極基材に直接又は中間層を介して上記負極活物質層を積層することにより得ることができる。上記負極活物質層の積層は、負極基材に、繊維状物質を含有する第1負極合剤ペーストを塗工した後に、全固形分に対する上記繊維状物質の含有量が、上記第1負極合剤ペーストの全固形分に対する上記繊維状物質の含有量よりも低く、球状黒鉛又は塊状黒鉛を含有する第2負極合剤ペーストを塗工することにより得ることができる。また、当該負極が第3層を備える場合、第3層は、第1負極合剤ペーストを塗工した後に、第3負極合剤ペーストを塗工することにより得ることができる。
【0056】
上記第1負極合剤ペースト、第2負極合剤ペースト及び第3負極合剤ペーストは、上記第1層、第2層及び第3層の各成分と分散媒(溶媒)とを含む。上記分散媒としては、水やN−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒を適宜選択して用いればよい。負極合剤ペーストの塗工は公知の方法により行うことができる。通常、負極基材に第1負極合剤ペーストを塗工後、乾燥させて分散媒を揮発させる。その後、第2負極合剤ペーストを塗工し、乾燥させて、分散媒を揮発させる。その後、塗膜を厚さ方向にプレスすることが好ましい。これにより、負極活物質層の多孔度を小さくしたり、密着性を高めたりすることなどができる。上記プレスは、例えばロールプレス等、公知の装置を用いて行うことができる。なお、負極基材に、第1負極合剤ペーストを塗工後、乾燥させずに第2負極合剤ペーストを塗工し、その後、乾燥及びプレスを行ってもよい。また、負極基材に、第1負極合剤ペーストを塗工した後、乾燥及びプレスを行ってから、第2負極合剤ペーストを塗工してもよい。
【0057】
なお、当該負極が中間層を備える場合、中間層は、負極基材に、中間層形成用ペーストを塗工することにより得ることができる。
【0058】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。当該非水電解質二次電池においては、非水電解質として、当該非水電解質が用いられている。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属製ケース等を用いることができる。
【0059】
当該蓄電素子によれば、当該負極を備えるため、金属の析出が生じ始める充電状態の割合が高く、金属の析出が抑制されるため、寿命や安全性に優れ、信頼性が高い。
【0060】
(正極)
上記正極は、正極基材及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0061】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0062】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10
7Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10
7Ω・cm超であることを意味する。
【0063】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0064】
上記正極活物質としては、例えばLi
xMO
y(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα−NaFeO
2型結晶構造を有するLi
xCoO
2,Li
xNiO
2,Li
xMnO
3,Li
xNi
αCo
(1−α)O
2,Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2等、スピネル型結晶構造を有するLi
xMn
2O
4,Li
xNi
αMn
(2−α)O
4等)、Li
wMe
x(XO
y)
z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO
4,LiMnPO
4,LiNiPO
4,LiCoPO
4,Li
3V
2(PO
4)
3,Li
2MnSiO
4,Li
2CoPO
4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0066】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0067】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0068】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が挙げられる。
【0069】
(負極)
当該非水電解質二次電池(蓄電素子)に備わる負極は、上述した通りである。
【0070】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0071】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0072】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池(蓄電素子)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。なお、上記非水電解質は、固体電解質等であってもよい。
【0073】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0074】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0075】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0076】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0077】
上記リチウム塩としては、LiPF
6、LiPO
2F
2、LiBF
4、LiClO
4、LiN(SO
2F)
2等の無機リチウム塩、LiSO
3CF
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、LiC(SO
2CF
3)
3、LiC(SO
2C
2F
5)
3等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF
6がより好ましい。
【0078】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0079】
<蓄電素子の製造方法>
当該非水電解質二次電池(蓄電素子)は、負極として当該負極を用いること以外は、公知の方法により製造することができる。当該製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器(ケース)に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備えることができる。上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池(蓄電素子)を得ることができる。
【0080】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記負極活物質層が上記第3層を有さず、第2層が第1層上に直接積層されていてもよい。
【0081】
また、上記実施の形態においては、蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン非水電解質二次電池が挙げられる。
【0082】
図2に、本発明の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池10の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図2に示す非水電解質二次電池10は、電極体12が電池容器13(ケース)に収納されている。電極体12は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード14’を介して正極端子14と電気的に接続され、負極は、負極リード15’を介して負極端子15と電気的に接続されている。上記負極として、本発明の一実施形態に係る負極が用いられている。また、電池容器13内には非水電解質(非水電解液)が注入されている。
【0083】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図3に示す。
図3において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池10を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
(負極の作製)
(1)第1層の形成
球状人造黒鉛と天然黒鉛(鱗片状)とを質量比80:20の割合で混合して、負極活物質とした。ヘリウムガスを用いたピクノメータによる気体容積法によって測定した球状人造黒鉛及び天然黒鉛の真密度は、それぞれ2.20g/cm
3、2.25g/cm
3であった。球状人造黒鉛のアスペクト比は1.2、天然黒鉛のアスペクト比は4.0であった。この負極活物質、繊維状炭素、CMC、及びSBRをそれぞれ固形分比89.7:7.0:1.2:2.1の割合で含有し、水を分散媒とする塗料液(負極合剤ペースト)を調製した。第1層中の繊維状物質の添加量は、7.0質量%となるようにした。塗料液を厚さ20μmの銅箔基材に塗布し、乾燥させた。乾燥後の第1層の単位面積当たりの塗布量は、9mg/cm
2となるようにした。
【0086】
上記繊維状物質は、昭和電工社の気相成長法炭素繊維「VGCF(登録商標)」(最大長径に直交する幅の平均値(平均直径)150nm、最大長径(繊維長)2〜10μm、平均格子面間隔(d002)0.3388nm、半値幅(002)0.5999°)を用いた。
【0087】
(2)第2層の形成
球状人造黒鉛と天然黒鉛とを質量比80:20の割合で混合して、負極活物質とした。負極活物質、CMC、及びSBRをそれぞれ固形分比96.7:1.2:2.1の割合で含有し、水を分散媒とする塗料液(負極合剤ペースト)を調製した。塗料液を厚さ20μmの銅箔基材に塗布し、乾燥させた。乾燥後の第2層の単位面積当たりの塗布量は、4mg/cm
2となるようにした。このようにして作製した負極活物質層中の繊維状物質の添加量は、4.8質量%であった。第1層と第2層の厚みの比は、9:4であった。
【0088】
(3)試験極の作成
3cm×3cmの面積の塗工部に集電端子を溶着できる部分を付けた形状に加工し、実施例1の負極(試験極)を得た。
【0089】
(セル(非水電解質蓄電素子)の作製)
得られた上記負極を用いて、非水電解質蓄電素子であるセルを作製した。対極には負極単独での挙動を把握するために、金属リチウムを用いた。負極の塗工部と同面積になるよう金属リチウムを加工し、ニッケル箔集電体に貼りつけたものを対極(正極)とした。セパレータにはポリエチレン製の微多孔膜を用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比が6:7:7となるように混合した溶媒に、LiPF
6を1mol/lとなるように溶解させたものを用いた。セパレータを介して、負極と対極(金属リチウム)とを対向させ、各集電端子が外部に露出するようにして、袋状に加工したアルミラミネート膜の内部に収納し、電解液を注入後、気密封止した。これにより実施例1の非水電解質蓄電素子(セル)を得た。
【0090】
[実施例2〜3、比較例1〜5]
第1層及び第2層の繊維状物質の添加量及び単位面積当たりの塗布量、並びに負極活物質層中の繊維状物質の添加量を表1に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜3及び比較例1〜5の非水電解質蓄電素子(セル)を得た。なお、以下の表1中の「−」は、該当する成分を用いなかったことを示す。
【0091】
[評価]
実施例及び比較例の各セルを用い、以下の評価を行った。
【0092】
(Li電析SOCの測定)
電流密度を上記の容量確認試験を行った2サイクル目の充電容量を1Cとして、1CA/cm
2にて充電終止電圧の規制を設けることなく、定電流充電を行った。これにより、負極の充電状態(以下「SOC」という。)に対する電位(Li
+/Li)のプロファイルを取得した。充電が進むにつれて負極に対する過電圧が増加していくが、Li電析が生じると、電析部分に電流が流れることにより、過電圧の減少が生じる。電流の割合が急激に増加し、過電圧が減少し始める変曲点に当たるSOCを充電時のLi電析SOC値として、充電受入性を評価した。このLi電析SOC値を表1に示す。Li電析SOC値が69.0%以上である場合、充電受入性が高く、リチウムの析出が十分に抑制されていると評価できる。評価結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示されるように、繊維状物質が添加された第1層と繊維状物質が無添加の第2層とが積層された負極活物質層を備える実施例1〜3は、リチウムの析出の抑制効果が高いことが分かる。また、第1層の繊維状物質の含有率が7%かつ第1層と第2層の厚み比が9:4の実施例1は、リチウムの析出の抑制効果が優れていた。これに対し、2層構造を有していない負極活物質層又は第1層に繊維状物質が添加されていない負極活物質層を備える比較例1〜5は、実施例1〜3と比較するとリチウム電析SOC値が低いことが示された。