特許第6769355号(P6769355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6769355ヤード管理装置、ヤード管理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769355
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】ヤード管理装置、ヤード管理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B65G 63/00 20060101AFI20201005BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20201005BHJP
   B65G 1/137 20060101ALI20201005BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20201005BHJP
【FI】
   B65G63/00 J
   G05B19/418 Z
   B65G1/137 A
   G06Q50/04
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-47225(P2017-47225)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-150135(P2018-150135A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】黒川 哲明
【審査官】 大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−269929(JP,A)
【文献】 特開2011−032038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 63/00
B65G 1/137
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程間の置場であるヤードに山積みされる金属材からなる初期山の当該金属材を、搬送機器により搬送して、当該ヤードの後工程への払出順に従った積順で山積みされる金属材からなる最終山を作成するためのヤード管理装置であって、
任意の2つの前記金属材についての、前記初期山からの搬送である初期搬送の相対的な順序を定める二項変数である初期搬送順変数と、前記金属材の前記初期山からの初期搬送が前記ヤードの仮置場への搬送であるか否かを定める変数である仮置き発生有無変数と、前記金属材が何れの前記最終山に属するかを表す変数である最終山割り当て変数とを決定変数とし、
前記初期山の識別情報および当該初期山の各積位置における前記金属材の識別情報と、前記金属材の前記払出順とを含む金属材情報を取得する金属材情報取得手段と、
任意の2つの前記金属材について、同じ前記最終山に山積みされ、且つ、前記初期山からの搬送順の先後と前記払出順の先後とが同じになる場合、当該2つの金属材のうち、前記初期山からの搬送順が先の金属材は、前記最終山への搬送の前に前記仮置場に仮置きすることが必要になることを前記決定変数を用いて表す第1の制約式を含む制約式を、前記金属材情報に基づいて設定する制約式設定手段と、
前記最終山の数を評価する評価指標と、前記仮置きが発生する前記金属材の数を評価する評価指標とを含む目的関数を、前記金属材情報に基づいて設定する目的関数設定手段と、
前記制約式を満足する範囲で前記目的関数の値が最小または最大になるときの前記決定変数の値を最適解として導出することを、数理計画法による最適化計算を行うことにより実行する最適化計算手段とを有することを特徴とするヤード管理装置。
【請求項2】
前記初期搬送順変数は、前記金属材の前記初期山からの初期搬送の順序を全順序とみなして任意の2つの前記金属材の前記初期山からの初期搬送の相対的な順序を定める二項変数であり、
前記制約式は、前記初期搬送順変数が比較可能であることが、前記初期搬送順変数を用いて表された式である第2の制約式と、前記初期搬送順変数が推移的であることを、前記初期搬送順変数を用いて表した線形不等式である第3の制約式とを更に含むことを特徴とする請求項1に記載のヤード管理装置。
【請求項3】
前記制約式は、第1の積み姿制約を満たさない2つの前記金属材は同じ最終山に山積みすることができないことを、禁止対集合に含まれる2つの前記金属材についての前記最終山割り当て変数を用いて表した線形不等式である第4の制約式と、第2の積み姿制約を、前記最終山割り当て変数を用いて表した線形不等式である第5の制約式とを更に含み、
前記第1の積み姿制約は、前記金属材のサイズに基づいて定められる制約であって、同じ前記最終山における複数の前記金属材の積み方に関する制約であり、
前記禁止対集合は、前記第1の積み姿制約を満たさない2つの前記金属材の集合であり、
前記第2の積み姿制約は、前記最終山の高さがその上限値を上回らないことを示す制約であることを特徴とする請求項1または2に記載のヤード管理装置。
【請求項4】
前記制約式は、同一の前記初期山において、下にある前記金属材よりも上にある前記金属材を先に前記初期山から初期搬送しなければならないことを、前記初期搬送順変数を用いて表した式である第6の制約式を更に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のヤード管理装置。
【請求項5】
前記制約式は、前記金属材は、必ず何れかの前記最終山に山積みされなければならないことを、前記最終山割り当て変数を用いて表した式である第7の制約式を更に有することを特徴とする請求項4に記載のヤード管理装置。
【請求項6】
前記初期山は、既着山と仮想山とを含み、
前記既着山は、前記最終山を作成するときに前記ヤードにおいて山積みされている山であり、
前記仮想山は、前記最終山を作成するときに前記ヤードに未到着の金属材であって、前記最終山の作成の対象となる金属材を、前記ヤードへの予定到着順が早いものほど上になるように山積みしたと仮定した場合の1つの山であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のヤード管理装置。
【請求項7】
前記金属材は、金属材グループであり、
前記金属材グループは、搬送機器にて前記金属材を搬送する際に分割されることのない複数の前記金属材からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のヤード管理装置。
【請求項8】
前記ヤードは、鉄鋼製造プロセスにおける製鋼工程と圧延工程との間の置場であり、
前記金属材は、鋼材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のヤード管理装置。
【請求項9】
工程間の置場であるヤードに山積みされる金属材からなる初期山の当該金属材を、搬送機器により搬送して、当該ヤードの後工程への払出順に従った積順で山積みされる金属材からなる最終山を作成するためのヤード管理方法であって、
任意の2つの前記金属材についての、前記初期山からの搬送である初期搬送の相対的な順序を定める二項変数である初期搬送順変数と、前記金属材の前記初期山からの初期搬送が前記ヤードの仮置場への搬送であるか否かを定める変数である仮置き発生有無変数と、前記金属材が何れの前記最終山に属するかを表す変数である最終山割り当て変数とを決定変数とし、
前記初期山の識別情報および当該初期山の各積位置における前記金属材の識別情報と、前記金属材の前記払出順とを含む金属材情報を取得する金属材情報取得ステップと、
任意の2つの前記金属材について、同じ前記最終山に山積みされ、且つ、前記初期山からの搬送順の先後と前記払出順の先後とが同じになる場合、当該2つの金属材のうち、前記初期山からの搬送順が先の金属材は、前記最終山への搬送の前に前記仮置場に仮置きすることが必要になることを前記決定変数を用いて表す第1の制約式を含む制約式を、前記金属材情報に基づいて設定する制約式設定ステップと、
前記最終山の数を評価する評価指標と、前記仮置きが発生する前記金属材の数を評価する評価指標とを含む目的関数を、前記金属材情報に基づいて設定する目的関数設定ステップと、
前記制約式を満足する範囲で前記目的関数の値が最小または最大になるときの前記決定変数の値を最適解として導出することを、数理計画法による最適化計算を行うことにより実行する最適化計算ステップとを有することを特徴とするヤード管理方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のヤード管理装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤード管理装置、ヤード管理方法、およびプログラムに関し、金属製造プロセスにおいて、スラブやコイルなどの金属材を次工程へ円滑に供給するために設けられたヤードで金属材の山仕分けや物流分野等におけるコンテナの山仕分けを行うために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
金属製造プロセスの一例である製鉄プロセスにおいて、例えば製鋼工程から次工程の圧延工程へ、金属材の一例である鋼材を搬送する際、鋼材は、一旦ヤードと呼ばれる一時保管場所に置かれた後、次工程である圧延工程の処理時刻に合わせてヤードから搬出される。そのヤードのレイアウトの一例を図5に示す。ヤードとは、図5に示すように、上流工程より払い出されたスラブなどの鋼材を、下流工程に供給するためのバッファーエリアとして、縦横に区画された置場501〜504である。縦方向の分割区分を"棟"、横方向の分割区分を"列"と称することが多い。つまり、クレーン(1A、1B、2A、2B)は棟内を移動可能であり、同一棟内での異なる列の間で鋼材の移送を行う。また搬送テーブルにより棟間の鋼材の移送を行う。搬送指令を作成する際は"棟"及び"列"を指定することにより、どこへ鋼材を搬送するかを示す(図5の置場501〜504に括弧書きで付されている番号(11)、(12)、(21)、(22)を参照)。
【0003】
次に、図5を例にヤードでの基本的な作業の流れを示す。まず、前工程である製鋼工程の連鋳機510から搬出された鋼材は、パイラー511を経由して受入テーブルXでヤードまで運ばれ、クレーン1A、1B、2A、2Bにより、区画された置場501〜504の何れかに搬送され、山積みして置かれる。そして、後工程である圧延工程の製造スケジュールに合わせ、再びクレーン1A、1B、2A、2Bにより払出テーブルZに載せられ、圧延工程へと搬送される。一般に、ヤードにおいて鋼材は、前記の様に山積みされた状態で置かれる。これは、限られたヤード面積を有効に活用するためである。
本明細書、特許請求の範囲、および図面では、「既着山」、「仮想山」、「初期山」、「最終山」、「仮山」を以下の意味で用いることとする。
既着山:現時点で、既にヤードにおいて形作られている山。
仮想山:現時点で、ヤードに到着していない金属材を、ヤードへの到着順が早いものほど上に山積みすると仮定した場合の山(現実に存在する山ではない)。
初期山:既着山と仮想山の総称。
最終山:後工程に払出すために積み上げた最終的な山(払出山ともいう)。
仮山:現時点以降に、初期山から、最終山へ移送する際に、やむを得ず仮置きを行う山。
【0004】
ヤードでは、次工程である熱間圧延工程における加熱炉の燃料原単位の削減のため、鋼材ができるだけ高い温度を保持した状態で加熱炉に装入されるようにすることが求められる。そのため、昨今ヤード内に保温設備を設置し、その中に鋼材を山積みされた状態で保管する場合がある。限られた保温設備を有効に活用するため、できるだけ設備限界まで高く鋼材を積み上げることが必要となる。一方、鋼材を積み上げる際には、次工程へ供給し易いよう、最終山において、次工程における処理順番に鋼材が上から積まれていること、最終山の積み形状が不安定な逆ピラミッド状でないことなどの制約(これを「積姿制約」と称する)がある。更に、山立て(最終山をつくること)を行う際の作業負荷も見逃せない要素である。従って、ヤード管制では、前述した積姿制約の下でできるだけ少ない作業負荷で、できるだけ高い最終山となるように山立てを行う作業計画を策定することが望まれる。
【0005】
また、ヤードにおいて後工程にスムーズに要求された鋼材を払い出すべく行う山仕分け(鋼材を複数の山に分けること)を行う際には、到着予定の鋼材が降格となる(鋼材の造り込みの際に生ずる品質トラブルなどの理由により当初予定の用途からグレードを下げ別の用途に振り替える)こと、或いは到着予定の鋼材に対して予定されていない精整処理が必要となったり、サイズが変わったりすることにより、当初の予定通りの鋼材が到着しないことは頻繁に起こり得る。また、ヤードの置場の状態も当初の予定通りに淡々と遷移することは、ほとんど期待できず、予定していない鋼材を予定していない置場に置かざるを得ないことは日常茶飯事である。
【0006】
更には、ヤードから後工程である熱間圧延工程への払出順に山に積まれていた鋼材の、後工程である熱間圧延工程における圧延順が、当該鋼材がヤードに到着した後に変更となることにより、当該山が払出順に積まれていなくなり、変更された圧延順に従い鋼材の積み替えを余儀なくされるケースも頻繁に起こり得る。ここで、鋼材が払出順に山に積まれるとは、当該山の何れの積位置においても、相対的に上にある1つまたは同時に搬送される複数の鋼材の方が、当該鋼材よりも下にある鋼材よりも早く後工程に払い出されることをいう。
【0007】
しかしながら、ここで要求される積み替え作業は、ヤードへの鋼材の受入作業や、ヤードからの鋼材の払出作業と並行して行う必要があることから、鋼材の積み替えの対応が可能な時間帯も限られるため、効率的に鋼材の積み替えを実行することが求められる。
従って、ヤードへの到着前後の様々な事情により、ヤード到着時の積み姿が払出順でなくなった山を払出順に積み替える作業を効率的に(即ち、できるだけ少ない搬送数で)行うニーズは極めて高い。
【0008】
これらのことが要求されるヤード管理方法に関し、特許文献1〜3に記載の発明がある。特許文献1〜3に記載の発明は、ヤードへの受入が完了あるいは受入途上にありながら受入れ済みの鋼材が払出順に山に積まれていない場合に、最終山において払出順に鋼材が積まれるように鋼材の積み替えを効率的に行う課題に対応する発明である。
【0009】
まず、特許文献1には、既にヤードにある既着山の鋼材を払出正順に積み替える際、必要とされる配替負荷や積姿制約を考慮して最適な最終山の山姿を、組み合わせ最適化問題として定式化し、タブサーチ手法を用いて算出する手法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の発明では、最終山の山姿を求める手法は示されているが初期山から最終山へ至る搬送順を求める手法をどのようにするかという点は明確に示されていない。また、最終山の山姿もヒューリスティックな手法で算出されているのでその最適性に対する保証はない。
【0010】
次に、特許文献2には、ヤードに到着済みの鋼材と未到着材とが混在する状況下で、当該時点での初期山の状態と最終山の状態とが与えられた場合の、初期山の状態から最終山の状態への鋼材の積み替え搬送問題に対し、各鋼材の搬送は高々2回という前提で初期搬送時刻変数および最終搬送時刻変数を用いて混合整数計画問題として定式化する手法が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の発明では、最終山を求めた後に搬送順を求める。つまり、最終山と鋼材の搬送順とを個別に最適化する。従って、鋼材の搬送数、即ち、仮置き数を最小化することができない虞がある。
【0011】
最後に、特許文献3に記載の発明は、山立ておよび搬送に関する制約条件を満たす数理計画問題に帰着させ、山仕分けおよび搬送順を同時に最適化する発明である。しかしながら、特許文献3に記載の発明では、鋼材を最終山および搬送順に割り当てる2次元の割り当て問題としている。従って、解空間が大きくなり、求解時間を要し、実規模の問題(例えば、搬送対象の鋼材数が30以上の問題)に適用した場合、許容可能な計算時間内(例えば5分程度)では求解できない虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4935032号公報
【特許文献2】特許第5365759号公報
【特許文献3】特開2010−269929号公報
【特許文献4】特開2016−81186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、初期山から最終山に金属材を積み替える際の最終山の山姿と金属材の搬送順とを同時に最適化することを実操業上使用可能な時間内に実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のヤード管理装置は、工程間の置場であるヤードに山積みされる金属材からなる初期山の当該金属材を、搬送機器により搬送して、当該ヤードの後工程への払出順に従った積順で山積みされる金属材からなる最終山を作成するためのヤード管理装置であって、任意の2つの前記金属材についての、前記初期山からの搬送である初期搬送の相対的な順序を定める二項変数である初期搬送順変数と、前記金属材の前記初期山からの初期搬送が前記ヤードの仮置場への搬送であるか否かを定める変数である仮置き発生有無変数と、前記金属材が何れの前記最終山に属するかを表す変数である最終山割り当て変数とを決定変数とし、前記初期山の識別情報および当該初期山の各積位置における前記金属材の識別情報と、前記金属材の前記払出順とを含む金属材情報を取得する金属材情報取得手段と、任意の2つの前記金属材について、同じ前記最終山に山積みされ、且つ、前記初期山からの搬送順の先後と前記払出順の先後とが同じになる場合、当該2つの金属材のうち、前記初期山からの搬送順が先の金属材は、前記最終山への搬送の前に前記仮置場に仮置きすることが必要になることを前記決定変数を用いて表す第1の制約式を含む制約式を、前記金属材情報に基づいて設定する制約式設定手段と、前記最終山の数を評価する評価指標と、前記仮置きが発生する前記金属材の数を評価する評価指標とを含む目的関数を、前記金属材情報に基づいて設定する目的関数設定手段と、前記制約式を満足する範囲で前記目的関数の値が最小または最大になるときの前記決定変数の値を最適解として導出することを、数理計画法による最適化計算を行うことにより実行する最適化計算手段とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明のヤード管理方法は、工程間の置場であるヤードに山積みされる金属材からなる初期山の当該金属材を、搬送機器により搬送して、当該ヤードの後工程への払出順に従った積順で山積みされる金属材からなる最終山を作成するためのヤード管理方法であって、任意の2つの前記金属材についての、前記初期山からの搬送である初期搬送の相対的な順序を定める二項変数である初期搬送順変数と、前記金属材の前記初期山からの初期搬送が前記ヤードの仮置場への搬送であるか否かを定める変数である仮置き発生有無変数と、前記金属材が何れの前記最終山に属するかを表す変数である最終山割り当て変数とを決定変数とし、前記初期山の識別情報および当該初期山の各積位置における前記金属材の識別情報と、前記金属材の前記払出順とを含む金属材情報を取得する金属材情報取得ステップと、任意の2つの前記金属材について、同じ前記最終山に山積みされ、且つ、前記初期山からの搬送順の先後と前記払出順の先後とが同じになる場合、当該2つの金属材のうち、前記初期山からの搬送順が先の金属材は、前記最終山への搬送の前に前記仮置場に仮置きすることが必要になることを前記決定変数を用いて表す第1の制約式を含む制約式を、前記金属材情報に基づいて設定する制約式設定ステップと、前記最終山の数を評価する評価指標と、前記仮置きが発生する前記金属材の数を評価する評価指標とを含む目的関数を、前記金属材情報に基づいて設定する目的関数設定ステップと、前記制約式を満足する範囲で前記目的関数の値が最小または最大になるときの前記決定変数の値を最適解として導出することを、数理計画法による最適化計算を行うことにより実行する最適化計算ステップとを有することを特徴とする。
【0016】
本発明のプログラムは、前記ヤード管理装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、初期山から最終山に金属材を積み替える際の最終山の山姿と金属材の搬送順とを同時に最適化することを実操業上使用可能な時間内に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ヤード管理装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図2図2は、ヤード管理方法の一例を説明するフローチャートである。
図3図3は、初期山に固定部がある場合の鋼材の搬送の形態の一例を示す図である。
図4図4は、発明例による最適化計算の結果と、比較例の手法による最適化計算の結果とを表形式で示す図である。
図5図5は、ヤードのレイアウトの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。以下の各実施形態では、鉄鋼製造プロセスにおいて、初期山の山姿を所与として、最終山の山姿と、初期山から最終山へ搬送する際の各鋼材の搬送数とを同時に最適化(導出)する場合を例に挙げて説明する。尚、初期山の少なくとも一部では、製鋼工程で製造された鋼材(スラブ)が圧延工程への搬送順に積まれていないものとする。また、以下の説明では、各鋼材の圧延工程への搬送順を必要に応じて払出順と称する。また、ヤードに未だ山積みされていない鋼材を必要に応じて未到着材と称し、ヤードに山積みされている鋼材を必要に応じて既到着材と称する。
【0020】
<経緯>
まず、最終山の山姿と、初期山から最終山へ搬送する際の各鋼材の搬送数とを同時に最適化することとした経緯について説明する。
特許文献4には、未到着材を対象に山仕分け計画を行うケースに対する発明が開示されている。既到着材を積み替える問題(以下、「既到着材積み替え問題」と称する)は、特許文献4に開示されているような未到着材を山分けする問題(以下、「未到着材山分け問題」と称する)とは本質的な違いがあり、それを以下に示す。
【0021】
鋼材がヤードに未到着の状態では、2つの鋼材のヤードへの受入順と払出順とが一致している場合(即ち、2つの鋼材の一方の鋼材の受入順および払出順が他方の鋼材よりも早い場合)、それら2つの鋼材を同じ最終山に積もうとすれば、先にヤードに受け入れた鋼材を一旦仮置きし、積み順を入れ替える必要がある。つまり受入順と払出順との関係で仮置きとなるか否かが決められる。一方、ヤードに到着している状態で考える場合には、受入順に対応する要素が、初期山での鋼材の積み順となる。つまり、初期山にて上に積まれている鋼材からアクセス出来るので、これが、受入順に対応する。ここで、ヤードに鋼材が未到着の状態では、「受入順」は全ての鋼材について一意に順序づけられる。これに対し、既到着の状態では、複数の初期山がある場合には、異なる初期山にある鋼材間でのアクセスが可能であることから、初期山の数分の自由度があり、搬送順を一意に決めることが出来ない。従って、全ての鋼材がヤードに未到着の状態を初期状態とする「未到着材山分け問題」より、鋼材がヤードに既に到着している状態を初期状態とする「既到着材積み替え問題」の方が問題の難易度が高いことが判る。
【0022】
この「既到着材積み替え問題」の難しさは評価の一つである仮置きの計数の難しさに表れる。つまり、仮置きの発生数は「未到着材山分け問題」では、鋼材のヤードへの到着順により判断できるので、最終山の山姿を決めれば山単位に個別に決定できる(他の山の影響はない)。これに対し、「既到着材積み替え問題」では、 単独の最終山の山姿を与えても、それを構成する際に必要な仮置きは、その最終山を構成する鋼材が存在していた(複数の)初期山の山姿や、それらの初期山から作られる他の(複数の)最終山の山姿や、初期山からの鋼材の搬送順(初期山の分解順)や、最終山への鋼材の搬送順(最終山の組立順)にも依存する。
【0023】
従って、「既到着材積み替え問題」では、「未到着材山分け問題」を解く場合のように、仮置きの発生数を山単位で決めることが出来ない。別の表現をすると、「既到着材積み替え問題」では、最終山の山姿を決める際、搬送順に、初期山の山数分の自由度があるので、搬送順と同時に考えない限り、仮置き数を最小化する最終山の山姿を解く問題を解決することが出来ない。
【0024】
以上のような知見の下、本発明者らは、最終山の山姿と、所与の初期山からその最終山に鋼材を積みける際の鋼材の搬送順とを同時に最適化することを、実操業上使用可能な時間内に実行する手法に想到した。以下に、その手法の具体例を説明する。
【0025】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態を説明する。
【0026】
(前提と問題設定)
本実施形態では、以下の前提の下で、初期山から最終山への鋼材を積み替える際の鋼材の搬送順および最終山の山姿を求める場合を例に挙げて説明する。
(1) 各鋼材の初期山の山姿および払出順(圧延順)は所与とする。ここで、鋼材グループの集合をN={1,2,・・・,n}と表記する。鋼材グループとは、搬送機器(主にクレーン)にて搬送する際に、分割されることのない(最小単位となる)複数の鋼材の纏まりを指す。
(2) 最終山の山姿は未知とし、決定変数とする。最終山の山姿は、その最終山の上から払出順になるように決定されることとする。従って、初期山の山姿から、未知の最終山の山姿と、初期山を最終山に積み替える際の鋼材の搬送順とを決定する。
【0027】
(3) 初期山(初期置場)から最終山(最終置場)への搬送回数は、何れの鋼材についても最大2回とする。即ち、仮山(仮置場)に搬送された鋼材は、次の搬送時には必ず最終山(最終置場)に搬送されるものとし、異なる仮山(仮置場)間で搬送されることはないものとする。
(4) 初期山と最終山の置場は異なっており、必ず全ての鋼材を初期山(初期置場)から最終山(最終置場)へ搬送する必要があるものとする(即ち、全ての鋼材が搬送対象になる)。
【0028】
また、本実施形態では、以下の制約の下で、鋼材の総搬送回数を少なくすることと最終山の山数を少なくすることとを目的とする最適化問題を解く。
(i) 最終山は、積み姿制約を満たし、上から順に払出順に積まれるものとする。
(ii) 各初期山の鋼材は、当該初期山の上から順にしか搬送できない。
(iii) 最終山を作成する際には、最下段から順に上にしか積み上げることができない。
(iv) 同時に搬送できる鋼材の数は、使用可能な搬送機器の数および能力に依存する。
前述したように、初期山(初期置場)から最終山(最終置場)への搬送回数は、何れの鋼材についても最大2回とするので(前記(3)の前提を参照)、鋼材の搬送回数を最小とすることは、仮置きの回数を最小にすることと等しい。
また、本実施形態では、前記(i)に示す積み姿制約には、以下の幅条件、長さ条件、および高さ条件が含まれる。
・幅条件
或る鋼材グループの最大幅が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小幅よりも狭いならば無条件で、当該或る鋼材グループを、当該下に位置する鋼材グループの上に置ける。或る鋼材グループの最大幅が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小幅よりも広い場合には、両者の幅の差が、作業制約により定まる基準値(例えば200[mm])未満であれば、当該或る鋼材グループを、当該下に位置する鋼材グループの上に置けるが、それを越えると置けない。
【0029】
即ち、幅条件を満たす場合は、或る鋼材グループの最大幅が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小幅よりも狭い場合と、或る鋼材グループの最大幅が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小幅よりも広く、且つ、両者の幅の差が基準値(例えば200[mm])未満である場合である。
【0030】
・長さ条件
或る鋼材グループの最大長が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小長よりも短いならば無条件で、当該或る鋼材グループを、当該下に位置する鋼材グループの上に置ける。或る鋼材グループの最大長が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小長よりも長い場合には、両者の長さの差が、作業制約により定まる基準値(例えば2000[mm])未満であれば、当該或る鋼材グループを、当該下に位置する鋼材グループの上に置けるが、それを越えると置けない。
【0031】
即ち、長さ条件を満たす場合は、或る鋼材グループの最大長が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小長よりも短い場合と、或る鋼材グループの最大長が、当該或る鋼材グループの下に位置する鋼材グループの最小長よりも長く、且つ、両者の長さの差が基準値(例えば2000[mm])未満である場合である。
【0032】
・高さ制約
最終山の積段数hは、最終山として山積みできる鋼材の数の上界hmax以下でなければならない。最終山として山積みできる鋼材の数の上界hmaxは、例えば10である。
【0033】
ここで、前述した(2)の「最終山の山姿は、その最終山の上から払出順になるように決定される」ことと、(i)の「積姿制約(幅条件および長さ条件)」により、任意の鋼材グループのペア{i,j}⊆Nについて、鋼材グループi,jを同一の最終山に積んで良いか悪いかが一意に定まる。前者の条件により、最終山における鋼材グループの積順の上下関係が定まり、この上下関係で鋼材グループを積んだ場合に、後者の条件(幅条件および長さ条件の少なくとも一方)に違反する場合、それらの鋼材グループは、同一の最終山に山積みできないことになる。従って、以下の(1)式のように、鋼材グループのペア(2つの鋼材グループ)の集合Fを禁止対集合として定義することができる。禁止対集合とは、同一の最終山に山積みすることができない鋼材グループのペア(禁止対)の集合のことを指す。
【0034】
【数1】
【0035】
<決定変数>
本実施形態では、任意の鋼材グループのペアに対し、初期山から鋼材を取り除く順序を定める変数と、任意の鋼材グループが何れの最終山(の位置)lに属するかを表す変数と、仮置きの発生の有無を表す変数とを決定変数とする。以下の説明では、任意の鋼材グループのペアに対し、初期山から鋼材を取り除く順序を定める変数を必要に応じて、初期搬送順序変数y(s,s')と称する。また、任意の鋼材グループが何れの最終山(の位置)lに属するかを表す変数を必要に応じて、最終山割り当て変数r(s,l)と称する。また、任意の鋼材グループに対し、仮置きの発生の有無を表す変数を必要に応じて、仮置き発生有無変数x(s)と称する。
【0036】
(a)初期搬送順変数y(s,s'):変数の数=n2
鋼材グループの集合Nの各要素が1つの頂点を持つ完全有向グラフをG=(N,E)とする。このとき、E={(s,s')∈N2|s≠s')である。有向枝集合E上に定義された0−1変数y(e)(∀e∈E)を導入し、以下の(2)式のように初期搬送順変数y(s,s')を定義する。
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、初期搬送とは、初期山にある鋼材グループを最終山(最終置場)または仮山(仮置場)に搬送することをいう。これに対し、最終搬送とは、初期山または仮山(仮置場)にある鋼材を最終山(最終置場)に搬送することをいう。sは、各鋼材グループを特定する変数であり、鋼材グループごとに異なる値が設定される(s'はsと区別できるように表記したものであり、s'や後述するs''も各鋼材グループを特定する変数である)。また、本実施形態では、鋼材グループを特定する変数s、s'、s''は、当該鋼材グループの鋼材グループIDであるものとする。
(b)最終山割り当て変数r(s,l)=変数の数=n×Lmax
最終山割り当て変数r(s,l)は、変数s(∈N)で特定される鋼材グループを配置する最終山l(∈L)を指定する0−1変数である。従って、以下の(3)式のように最終山割り当て変数r(s,l)を定義する。Lmaxは、最終山の数として想定される数の最大値である。Lmaxは、例えば、鋼材グループ数nである。
【0039】
【数3】
【0040】
(c)仮置き発生有無変数x(s):変数の数=n
仮置き発生有無変数x(s)は、初期山から最終山へ鋼材グループを初期搬送する際に、当該初期搬送が、仮山(仮置場)への搬送であるか、最終山(最終置場)への搬送であるのかを表す0−1変数である。従って、以下の(4)式のように仮置き発生有無変数x(s)を定義する。
【0041】
【数4】
【0042】
(d)最終山有無変数δ(l):変数の数Lmax
その他、最終山有無変数δ(l)を定義する。最終山有無変数δ(l)は、最終山lのそれぞれについて、山として存在するか否か(鋼材が積まれた山であるか否か)を表す0−1変数である。従って、以下の(5)式のように最終山有無変数δ(l)を定義する。
【0043】
【数5】
【0044】
(ヤード管理装置100の機能構成)
図1は、ヤード管理装置100の機能的な構成の一例を示す図である。ヤード管理装置100のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置、または専用のハードウェアを用いることにより実現される。図2は、ヤード管理装置100により実行されるヤード管理方法の一例を説明するフローチャートである。
[鋼材情報取得部101、ステップS201]
鋼材情報取得部101は、山積みの対象となる鋼材についての鋼材情報を取得する。鋼材情報は、鋼材グループ情報と、各鋼材グループの初期山の山姿を特定する情報と、山の最大高さを特定する情報と、を含む。
【0045】
鋼材グループ情報には、最終山の作成対象となる鋼材グループ(鋼材グループの集合N={1,2,・・・,n})のそれぞれについて、識別情報と、払出順と、鋼材数と、最大幅と、最小幅と、最大長と、最小長の情報が含まれる。鋼材グループとは、搬送機器(主にクレーン)にて搬送する際に、分割されることのない(最小単位となる)鋼材の纏まりを指す。
識別情報は、各鋼材グループを一意に識別する識別情報(鋼材グループID)である。
払出順は、各鋼材グループの払出順(圧延工程への搬送順)である。
【0046】
鋼材数(w:N→Z+)は、各鋼材グループを構成する鋼材の数である。1つの鋼材グループに含まれる鋼材の数w(i)は、例えば、1以上6以下(∀i∈N、1≦w(i)≦6)である。このように鋼材グループには、複数の鋼材が含まれる場合だけでなく、1つの鋼材のみが含まれる場合もある。
最大幅・最小幅は、それぞれ、各鋼材グループを構成する鋼材の最大幅・最小幅である。尚、最大幅・最小幅に代えて、各鋼材グループを構成するスラブのそれぞれの幅を鋼材グループ情報に含めてもよい。
最大長・最小長は、それぞれ、各鋼材グループを構成する鋼材の最大長・最小長である。尚、最大長・最小長に代えて、各鋼材グループを構成する鋼材のそれぞれの長さを鋼材グループ情報に含めてもよい。
【0047】
初期山の山姿を特定する情報は、初期山を一意に識別する識別情報である初期山IDと、当該初期山IDで識別される初期山の各積段に位置する鋼材グループIDとを含む。
前述したように、初期山には、既着山と仮想山とが含まれる。既着山は、最終山の作成対象となる鋼材のうち、鋼材情報が作成された時点(即ち、最終山を作成する時点)でヤードに山積みされている山である。仮想山は、最終山の作成対象となる鋼材のうち、鋼材情報が作成された時点(即ち、最終山を作成する時点)でヤードに未だ山積みされていない鋼材を、ヤードへの予定到着順が早いものほど上になるように山積みしたと仮定した場合の山である。本実施形態では、最終山の作成対象となる鋼材のうちヤードに未到着で未だ山積みされていない全ての鋼材が1つの仮想山に山積みされるものとする。このように本実施形態では、ヤードに未到着で未だ山積みされていない鋼材も仮想山として山積みされているとし(即ち、最終山の作成対象となる全ての鋼材がヤードにおいて山積みされているものとし)、その積姿を所与とする。
【0048】
山の最大高さを特定する情報は、最終山として山積みできる鋼材の数の上界hmax(∈Z+)を含む情報である。仮山および最終山として山積みできる鋼材の数の上界hmaxは、例えば、10である。ここでは、各鋼材の厚みが同じであるものとして、山の最大高さを特定する情報を、最終山として山積みできる鋼材の数の上界とした。各鋼材の厚みの情報が鋼材情報に含まれる場合には、山の最大高さを特定する情報として、最終山の最大の高さを採用してもよい。
尚、最終山の作成対象となる全ての鋼材を1つずつ搬送する場合には、個々の鋼材について、識別情報(鋼材ID)、払出順、幅、および長さの情報が鋼材グループ情報の代わりに取得される。また、初期山の山姿を特定する情報として、初期山の識別情報(初期山ID)が取得されると共に、初期山の各積段に位置する鋼材グループIDの代わりに、初期山の各積段に位置する鋼材IDが取得される。
鋼材情報の取得形態としては、例えば、ヤード管理装置100のユーザインターフェースの入力操作、外部装置からの送信、または可搬型の記憶媒体からの読み出しが挙げられる。
【0049】
[制約式・目的関数設定部102、ステップS202、S203]
制約式・目的関数設定部102は、前述した制約を数式で表した制約式と、前述した目的を数式で表した目的関数とを設定する。
<<制約式>>
まず、制約式について説明する。
(a)初期搬送順変数y(s,s')の定義制約
任意の2つの鋼材グループを初期山から取り除く順序は、鋼材グループの集合Nの全順序(推移的(以下の(7)式)であり、反対称且つ完全(以下の(6)式)な二項関係を言う)となることから、任意の2つの鋼材を初期山から取り除く相対的な順序を定める初期搬送順変数y(s,s')は、以下の(6)式で表される完全律(比較可能)および以下の(7)式で表される推移律を満たす。また、以下の(6)式および(7)式を満たす初期搬送順変数y(s,s')は、鋼材の全順序に対応する。
【0050】
【数6】
【0051】
(6)式は、変数sで特定される鋼材グループの初期搬送と、変数s'で特定される鋼材グループの初期搬送は、必ず一方が先で他方が後になることを示す。尚、これら2つの鋼材グループは、別の鋼材グループである。
(7)式は、変数sで特定される鋼材グループの初期搬送が、変数s'で特定される鋼材グループの初期搬送よりも先であり、変数s'で特定される鋼材グループの初期搬送が、変数s''で特定される鋼材グループの初期搬送よりも先であるなら、変数sで特定される鋼材グループの初期搬送は、変数s''で特定される鋼材グループの初期搬送よりも先であることを示す。尚、これら3つの鋼材グループは、別の鋼材グループである。
【0052】
また、初期山から鋼材グループを取り除く作業は、各初期山の上から順に行う必要がある。従って、同一の初期山において、変数sで特定される初期搬送が行われる鋼材グループよりも、変数s'で特定される初期搬送が行われる鋼材グループの方が下である場合、当該2つの鋼材グループに対し、以下の(8)式が成り立つ。尚、前述したように、鋼材グループのそれぞれに対し、初期搬送を特定する変数sが設定される。
【0053】
【数7】
【0054】
(b)最終山への山分け制約
最終山への山分け制約は、以下の(9)式〜(11)式を含む。
まず、以下の(9)式のように、最終山割り当て変数r(s,l)を使って、全ての鋼材グループは必ず何れかの最終山に山積みされなければならないことを表す制約式を用いる。
【0055】
【数8】
【0056】
また、前述した積み制約を表す制約式として、以下の(10)式を用いる。幅条件および長さ条件を表す制約式は、(1)式で定義される禁止対集合Fを用いて、以下の(10)式のように表される。
【0057】
【数9】
【0058】
(10)式は、変数s、kで特定される鋼材グループのペアが、禁止対集合Fに属する場合、その鋼材グループのペアを同一の最終山に山積みすることができないことを表す。
また、高さ条件を表す制約式は、(5)式で定義される最終山有無変数δ(l)を用いて、以下の(11)式のように表される。尚、(11)式の替わりに、以下の(12)式を用いてもよい。(11)式および(12)式の何れを用いても、最終山として山積みできる鋼材の数が、その上限値を上回らないようにする制約を課すことができる。(11)式および(12)式において、w(s)は、変数sで特定される鋼材グループに含まれる鋼材の数である。
【0059】
【数10】
【0060】
(c)最終山有無変数δ(l)の定義制約
最終山有無変数δ(l)は、最終山割り当て変数r(s,l)を用いて、以下の(13)式のように定義される。
【0061】
【数11】
【0062】
(d)最終山への搬送に伴う仮置き制約
鋼材グループの最終搬送順は、最終山lの山姿において、山ごとに当該山の最下段からその積順に従う。従って、同じ最終山lに配置される2つの鋼材グループにおいて、最終搬送順(最終山の積順)と初期搬送順との関係が逆になる場合、先に初期搬送される鋼材グループは仮置きが必要になる。つまり、変数sで特定される鋼材グループの初期搬送が、変数s'で特定される鋼材グループの初期搬送よりも先であり、且つ、同一の最終山lにおいて、変数s'で特定される鋼材グループの方が、変数sで特定される鋼材グループよりも下に積まれる(同一の最終山lにおいて、変数sで特定される鋼材グループの最終搬送順が、変数s'で特定される鋼材グループの最終搬送順よりも後である)場合、変数sで特定される鋼材グループは、仮置きが必要になる。従って、最終山において、変数s'で特定される鋼材グループの積順が、変数sで特定される鋼材グループの積順よりも下であるとすると、この条件を表す制約式は、以下の(14)式のようになる。
【0063】
【数12】
【0064】
(14)式は、変数sで特定される鋼材グループと、変数s'で特定される鋼材グループとが同じ最終山に山積みされ、且つ、変数sで特定される鋼材グループの方が、変数s'で特定される鋼材グループよりも先に初期搬送され、且つ、最終山における積順としては、下から、変数s'で特定される鋼材グループ、変数sで特定される鋼材グループの順になる場合、変数sで特定される鋼材グループは仮置きが必要であることを表す。(14)式では、左辺の変数が全て「1」のときに、変数sで特定される鋼材グループは仮置きが必要であることを表し、仮置き発生有無変数x(s)が「1」となる。尚、最終搬送順は最終山への鋼材グループの搬送順であり、払出順は最終山から次工程への鋼材グループの搬送順である。従って、前述した仮置きが必要になる条件は、変数sで特定される鋼材グループの初期搬送が、変数s'で特定される鋼材グループの初期搬送よりも先であり、且つ、同一の最終山lにおいて、変数sで特定される鋼材グループの払出順が、変数s'で特定される鋼材グループの払出順よりも先である場合(即ち、初期搬送の搬送順の先後と払出順の先後とが同じである場合)、変数sで特定される鋼材グループは、仮置きが必要になると言い換えることができる。
【0065】
(e)最終山位置区別制約
最終山位置区別制約は、最終山(の位置)lの区別をつけるための制約である。本実施形態では、以下の(15)式のように、最終山位置区別制約は、変数lが小さいものほど、高い最終山とする(最終山に含まれる鋼材の数を多くする)ことを表す制約であるものとする。
【0066】
【数13】
【0067】
最終山位置区別制約は、必ずしも必要な制約ではない。ただし、最終山位置区別制約により、計算時間を削減できる可能性がある。
【0068】
制約式・目的関数設定部102は、例えば、(6)式〜(11)式、(13)式〜(15)式に対し、変数s、s'、s''、k、w(s)、hmax、Lmaxを設定することにより、(6)式〜(11)式、(13)式〜(15)式の制約式を設定する。尚、(11)式に代えて(12)式を用いてもよいことは、前述した通りである。
【0069】
(8)式を設定する際には、初期山姿特定情報から、同一の初期山において相対的に下にある鋼材グループと上にある鋼材グループとを特定し、それら2つの鋼材グループのうち上にある鋼材グループ対して設定されている変数をs、下にある鋼材グループ対して設定されている変数をs'とする。
【0070】
(6)式および(14)式については、鋼材グループの集合Nの任意の2つの鋼材グループの組み合わせのそれぞれについて、s、s'を設定する。(7)式については、鋼材グループの集合Nの任意の3つの鋼材グループの組み合わせのそれぞれについて、s、s'、s''を設定する。
また、(14)式を設定する際には、鋼材グループ情報から、各鋼材グループの払出順を特定し、2つの鋼材グループのうち、払出順が先の鋼材グループに対して設定されている変数をs、後の鋼材グループに対して設定されている変数をs'とする。
【0071】
<<目的関数>>
次に、目的関数について説明する。
前述したように本実施形態では、鋼材グループの総搬送回数(即ち、仮置きの総回数)を少なくすることと最終山の山数を少なくすることとを目的とするので、以下の(16)式に示す目的関数Jを用いる。
【0072】
【数14】
【0073】
(16)式において、重み係数k1、k2は、それぞれの評価項目をどの程度重視するかによって予め設定されるものであり、各評価項目(鋼材グループの総搬送回数、最終山の山数)間の評価のバランスを表す。例えば、鋼材グループの総搬送回数よりも、最終山の山数を重要な評価項目とする場合には、重み係数k1の大きさを重み係数k2の大きさよりも大きくする。
制約式・目的関数設定部102は、例えば、(16)式に対し、変数s、N、k1、k2を設定することにより、(16)式の目的関数Jを設定する。
【0074】
[最適化計算部103、ステップS204]
最適化計算部103は、(6)式〜(11)式、(13)式〜(15)式の制約式を満足する範囲で、(16)式の目的関数Jの値が最小になるときの初期搬送順序変数y(s,s')、最終山割り当て変数r(s,l)、および仮置き発生有無変数x(s)を最適解として算出する。また、最適解の算出は、最適化問題を混合整数計画法等の数理計画法により解くための公知のアルゴリズム(solver等の利用を含む)を用いることにより実現できる。
【0075】
[後処理部104、ステップS205]
以上のようにして初期搬送順変数y(s,s')が導出されると、鋼材グループの集合Nに含まれるそれぞれの鋼材グループの初期搬送順(初期山から取り除く順序)を決定することができる。ただし、仮置きが発生すると判定された鋼材グループ(仮置き発生有無変数x(s)が「1」となる変数sが設定された鋼材グループ)の最終搬送順(仮山(仮置場)から最終山(最終置場)への搬送順)が定まらないので、これを決定する必要がある。即ち、前述したようにして決定した初期搬送順のどこに、仮置きが発生すると判定された鋼材グループの最終搬送順を割り込ませるのかを決定する必要がある。そこで、本実施形態では、後処理部104は、以下のようにして、各鋼材グループの最終的な搬送順を決定する。
【0076】
仮置きが発生すると判定された鋼材グループについては、初期搬送と最終搬送の2回の搬送が必要である。一方、仮置きが発生しないと判定された鋼材グループについては、初期搬送と最終搬送は一致する。従って、仮置きが発生すると判定された鋼材グループについては、仮置場から最終山への最終搬送を、仮想的な鋼材グループの初期搬送とみなす。そして、初期搬送に対応する本来の鋼材IDと、最終搬送に対応する仮想的な鋼材グループに対応する鋼材IDをそれぞれ変数sとして設定する。つまり、当該鋼材グループについては、仮想的に異なる二つの鋼材グループがあるがごとく2つの変数sを設定する。従って、ここでの搬送対象となる鋼材グループの数は、実際の搬送対象の鋼材グループの数に、仮置きが発生すると判定された鋼材グループの数を加算した値になる。このようにして前述したアルゴリズムに与える情報を変更することにより、搬送対象となる鋼材グループを全て初期搬送により初期山から最終山へ積み替えることができ、各鋼材グループの最終的な搬送順を求めることができる。具体的には、前述したアルゴリズムに対し、以下の変形を行う。尚、以下の説明では、仮置きが発生すると判定された鋼材グループを必要に応じて仮置き対象鋼材グループと称する。
【0077】
変数sは、初期搬送を特定する変数であり、鋼材グループの集合Nに含まれる各鋼材グループに対して設定される。また、仮置き対象鋼材グループに対しては、2つの変数sが設定される。本実施形態では、各鋼材グループに対する変数sは、当該鋼材グループの鋼材グループIDである。従って、鋼材グループIDとは異なるIDを仮想鋼材グループIDとして、仮置き対象鋼材グループ毎に設定する。そして、仮置き対象鋼材グループの鋼材グループIDと、当該仮置き対象鋼材グループに対して設定したその仮想鋼材グループIDとを当該仮置き対象鋼材グループに対する2つの変数sとして設定する。仮置き対象鋼材グループの数をt、その仮想鋼材グループ集合をTとすると、変数sの数は(n+t)になる。このように、仮置き対象鋼材グループについては、初期搬送を特定する2つの変数sが設定される。これら2つの変数sのうちの一方は、初期山からの初期搬送を特定する変数であり、他方は、仮山からの最終搬送(前述の様にこれを仮想鋼材グループの初期搬送として扱う)を特定する変数である。以上のように、仮置きが発生すると判定された鋼材グループを2つの鋼材グループと見なすことにより、当該鋼材グループの2回の搬送(初期山から仮山への初期搬送と、仮山から最終山への最終搬送)を、それぞれ初期搬送として扱うことができる。
【0078】
次に、初期山からの初期搬送を特定する変数sで特定される仮置き対象鋼材グループについての初期山の山姿は、初期搬送順変数y(s,s')により定まる初期搬送順が早い鋼材グループから順に上から積まれた1つの仮想的な第1の山とする。この第1の山の積段数はnである。また、この第1の山の各積段には、最適化計算部103により算出された初期搬送順に従い上から該当する鋼材グループの鋼材グループIDが割り当てられる。一方、最適化計算部103により仮置きと判定された鋼材グループについての初期山は、積段数2段の仮想的な第2の山とする。第2の山の2段目は、当該第2の山を構成する鋼材グループの鋼材グループIDであるsであり、1段目は、当該鋼材グループの最終搬送(仮山から最終山への搬送)に該当する鋼材グループIDであるn+sである(第1の山の数は1つで、第2の山の数は最適化計算部103により仮置きと判定された鋼材グループの数である)。
【0079】
ここで、初期山として、積段数nの第1の山を作るのは、最適化計算部103(ステップS204)で決定された、全ての鋼材グループの初期搬送順を、後処理部104(ステップS205)によって得られる搬送順に於いても維持する為である。また、仮置き対象鋼材グループに対応する積段数2段の第2の山を作るのは、仮置き対象鋼材グループについて、初期搬送と最終搬送の順序を規定する為である。仮置き対象鋼材グループの初期搬送に対応する鋼材グループIDが、積段数nの第1の山と積段数2の第2の山の両方に重複して割り当てられることにより、仮置き対象鋼材グループの初期搬送と最終山に直行する鋼材グループの初期搬送との順序関係と、仮置き対象鋼材グループの初期搬送と最終搬送との順序関係とが、後処理部104(ステップS205)によって同時に決定される。
次に、最終山の山姿は、最終山姿特定情報に対し、仮置き対象鋼材グループとなる鋼材グループの鋼材IDを、当該仮置き対象鋼材グループに与えられた仮想鋼材グループIDに置き換えたものとなる。
【0080】
後処理部104は、(6)式〜(8)式の制約式に対し変数s、s'、s''tを設定する。ただし、(6)式、(7)式の集合NはN∪Tに置き換えるものとする。 また(8)式も上記第1の山と第2の山に対して適用する。そして、後処理部104は、(6)式〜(8)式の制約式を満足する範囲で、以下の(17)式の目的関数Jの値が最小になるときの初期搬送順変数y(s,s')を最適解として算出する。あるいは、この後処理においては(17)式の目的関数は「0」となることが明らかなので、(17)式の目的関数を用いずに、その代わりに以下の(18)式の制約式を追加しても良い。
【0081】
【数15】
【0082】
【数16】
【0083】
後処理部104は、このようにして算出した初期搬送順変数y(s,s')の最適解に基づいて、鋼材グループの集合N及び仮想鋼材グループ集合Tに含まれる各鋼材グループが初期山から最終山に至るまでの全ての搬送の順序を導出する。また、後処理部104は、仮置き発生有無変数x(s)により、仮置き対象鋼材グループを導出する。
【0084】
[出力部105、ステップS206]
出力部105は、後処理部104で導出された、鋼材集合N及び仮想鋼材グループ集合Tに含まれる各鋼材の初期山から最終山に至るまでの搬送順を示す情報を出力する。出力の形態は、コンピュータディスプレイへの表示、ヤード管理装置100の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうち、少なくとも1つを含む。外部装置としては、例えば、クレーン、またはクレーンの動作を制御する制御装置が挙げられる。
【0085】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、ヤード管理装置100は、任意の2つの鋼材グループの初期搬送の相対的な順序を定める二項変数である初期搬送順変数y(s,s')と、最終山の位置を指定する変数である最終山割り当て変数r(s,l)と、初期搬送が仮山への搬送であるか否かを定める変数である仮置き発生有無変数x(s)とを用いて、同じ最終山に配置される任意の2つの鋼材グループについて、初期搬送順と払出順とが同じ関係になる場合、当該2つの鋼材グループのうち、初期搬送順が先の鋼材グループは仮置きが必要であることを表す線形不等式を含む制約式を設定する。そして、ヤード管理装置100は、設定した制約式を満足するように、最終山の山数と仮置きの発生とが、それらの評価のバランスに応じて最小になることを目的とする目的関数Jの値が最小になるときの初期搬送順変数y(s,s')、最終山割り当て変数r(s,l)、および仮置き発生有無変数x(s)を導出し、これらに基づいて、鋼材グループの集合Nに含まれる各鋼材グループの初期山から最終山に至るまでの搬送順を導出する。従って、初期山から最終山へ鋼材グループを積み替える際の最終山の山姿と鋼材グループの搬送順とを同時に最適化することを、実操業上使用可能な時間内に実現することができる。
【0086】
(変形例)
本実施形態では、目的関数Jを最小化する問題を例に挙げて説明した。しかしながら、鋼材グループの総搬送回数を評価する評価指標と、最終山の山数を評価する評価指標とを含む目的関数を用いていれば、目的関数Jを最小化する問題としなくてもよい。例えば、(16)式の右辺の各項に(−1)を掛けたものを目的関数とし、当該目的関数を最大化する問題としてもよい。
【0087】
また、工程間の置場として、2つの製造工程間の置場を対象とし、金属材として、半製品を対象としてもよいし、工程間の置場として、製造工程と出荷工程の間の置場を対象とし、金属材として、最終製品を対象としてもよい。この際に、複数の金属材をコンテナに収容して輸送、配置する場合には、金属材が収容されたコンテナを1つの金属材として取り扱ってもよい。さらに、工程間の置場としては、金属製造プロセスにおける置場に限定されるものでなく、一般的な工程間の物流、搬送を対象としてもよい。物流分野では内容物に限定されずコンテナの搬送、配置でも適用できる。従って、本発明では、金属材は、最終製品と、半製品と、コンテナとの何れか1つを含むものとする。
【0088】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、初期山と最終山の置場は異なっており、必ず全ての鋼材グループを初期山(初期置場)から最終山(最終置場)へ搬送する必要があることを前提とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、初期山において既に、最下段からの積順が払出順(下から上に向かって払出順が降順)となっている場合がある。このような場合、初期山において最下段からの積順が払出順(下から上に向かって払出順が降順)となっている部分は、積み替える必要がない。そこで、本実施形態では、このような部分については、初期山と最終山の置場が同一となることも許容する(即ち、初期山の状態から動かさない)場合について説明する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、第1の実施形態で説明した(4)の前提が異なることによる処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1図2に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0089】
本実施形態では、第1の実施形態で説明した(4)の前提に代えて、以下の(5)の前提を採用する。
(5) 初期山と最終山の置場が同一となることも許容し、初期山において最下段からの積順が払出順(下から上に向かって払出順が降順)となっている部分は搬送しないこととする(即ち、初期山の一部の鋼材グループ(最下段から連続する1つまたは複数の鋼材グループ)が搬送対象とならない場合があるものとする)。
【0090】
第1の実施形態で説明した(4)の前提と前記(5)の前提との違いは、(4)の前提の下では、(5)の前提では起こり得ない、同一の置場(山)で上部の鋼材グループの入れ替えが許容されている点である。このような鋼材グループの入れ替えを行うには、初期山の上部に存在していた鋼材グループが、仮山または最終山に搬送され、初期山の残った部分(下部)の上に別の鋼材グループが搬送されることになる。初期山の残った下部の上に搬送される鋼材グループには、当該初期山とは別の初期山にある鋼材グループと、当該初期山の上部にあった鋼材グループのうち、仮山に仮置きされた鋼材グループとが含まれる。
【0091】
従って、初期山に元々あった移動対象鋼材グループの"初期搬送順"が、初期山の残った部分の上に他の山から搬送される鋼材グループの"最終搬送順"よりも先でなければならない(以下の説明では、このことを必要に応じて入れ替えのための拘束条件と称する)。この入れ替えのための拘束条件を厳密に設定するには、任意の2つの鋼材グループ間の初期搬送順と最終搬送順との順序関係を規定する必要があるが、本実施形態では、そこまでの大掛かりな問題設定とせず、第1の実施形態で説明したアルゴリズムの変数体系の中で十分条件として、入れ替えのための拘束条件を表現する。尚、以下の説明では、初期山において最下段からの積順が払出順(下から上に向かって払出順が降順)となっており、積み替えの為の搬送を行わない部分を必要に応じて固定部と称し、当該初期山において固定部よりも上の、積み替えの為の搬送を行う部分を必要に応じて移動部と称する。
【0092】
このアルゴリズムは、第1の実施形態の(6)式〜(15)式の制約式に対し、以下の変更を行うことで実現できる。
まず、第1の実施形態で説明した(6)式〜(15)式の制約式に対し追加する制約式について説明する。
全ての鋼材グループを搬送対象とせず、初期山の一部をそのまま最終山として流用する場合には、全ての鋼材を搬送対象とする場合にはない以下のケースが想定されるので、そのための新たな制約を追加する必要がある。
図3は、初期山に固定部がある場合の鋼材の搬送の形態の一例を示す図である。
図3に示す初期山において、最下段から2段の鋼材グループI、IIが固定部であり、その上の鋼材グループIII、IV、Vが移動部であるとする。この場合、最終山では、固定部の鋼材グループI、IIがそのままである。また、初期山の移動部の鋼材グループIII、IV、Vのうち、鋼材グループIII、Vは別の最終山に搬送され、鋼材グループIVは仮山に搬送された後、再び当該初期山(即ち最終山)に搬送され、その鋼材グループIVの上に別の初期山から鋼材グループVI、VIIが搬送される。この様なケースに対しても適切に搬送順を計算するために、初期搬送順に制約を設ける必要がある。
【0093】
他の初期山または仮山から、固定部を持つ初期山(即ち最終山)へ鋼材グループを搬送する場合には、固定部の上部にある移動部の鋼材グループIII、IV、Vが初期搬送された後でないと、鋼材グループIV、VI、VIIの最終搬送はできない。従って、鋼材グループIV、VI、VIIの最終搬送は鋼材グループIII、IV、Vの初期搬送の後でなくてはならないという制約を設ける必要がある。よって、鋼材グループIII、IV、Vのような固定部の上部にある鋼材グループの初期搬送順は、鋼材IV、VI、VIIのような別の初期山または仮山から固定部の上部に搬送される鋼材グループの最終搬送順よりも先であることが必要十分条件である。ただし、第1の実施形態で説明したアルゴリズムでは、独立変数は、初期搬送順変数y(s,s')のみである(最終搬送順を定める変数がない)。よって、本実施形態では、以下のように十分条件を与える制約式を追加する。
即ち、初期山lの移動部の鋼材グループの初期搬送を特定する変数をiUとし、初期山lとは別の山(初期山または仮山)から初期山lに搬送される鋼材グループの初期搬送を特定する変数をiTとし、以下の(19)式の制約式を追加する。
【0094】
【数17】
【0095】
変数iTで特定される初期搬送が最終山への搬送である場合には、(19)式は前述した必要十分条件になるが、変数iTで特定される初期搬送が仮山への搬送である場合には、(19)式は十分条件になり、過剰な規制になる。尚、y(iU,iT)≧1−x(iT)とすると、x(iT)=1の場合、無条件となり、必要条件にしかならない。
また、図3の例における鋼材グループIVの様な、初期山lから初期搬送されて再び当該初期山lに戻る鋼材グループ(即ち、iUでありiTである)場合には(19)式は意味をなさなくなるが、この様な鋼材グループに対しては、以下の(20)式を設定する。
【0096】
【数18】
【0097】
次に、第1の実施形態で説明した(6)式〜(15)式の制約式に対し変更する部分について説明する。
初期搬送を特定する変数s、s'、s''のうち、少なくとも何れか1つが、初期山の固定部の鋼材グループに対して設定された変数である場合には、それらの変数s、s'、s''による初期搬送順変数y(s,s')、y(s',s)、y(s',s'')、y(s,s'')については、(6)式および(7)式の制約式を設定しないものとする。あるいは(8)式を以下の様に拡張することにより、固定部の鋼材に対しても(8)式以外の制約式は全て移動部(非固定部)の鋼材グループと同様に設定すれば良い。
【0098】
つまり、前記の(8)式は移動部(非固定部)の鋼材に対してのものであったが、一方の鋼材グループが固定部、もう一方の鋼材グループが非固定部の場合は、以下の(21)式の制約式を設定し、両方の鋼材グループが固定部の場合であって、それらが同一の初期山にある場合には、以下の(22)式の制約式を設定する。
【0099】
【数19】
【0100】
本実施形態では、制約式・目的関数設定部102は、例えば、以上のようにして(6)式〜(11)式、(13)式〜(15)式、(19)式、および(20)式の制約式を設定する。尚、前述したように、(21)式および(22)式の制約式を設定してもよい。そして、最適化計算部103は、(6)式〜(11)式、(13)式〜(15)式、(19)式、および(20)式(または、(6)式〜(11)式、(13)式〜(15)式、(19)式〜(22)式)を満足する範囲で、(16)式の目的関数Jの値が最小になるときの初期搬送順序変数y(s,s')、最終山割り当て変数r(s,l)、および仮置き発生有無変数x(s)を算出する。
【0101】
以上のように本実施形態では、鋼材のグループ少なくとも1つが初期山の固定部の鋼材グループである場合には、鋼材グループを搬送する際の制約を表す制約式である(8)式を設定しない、或いは、(21)式、(22)式の制約式を設定する。また、初期搬送順変数y(s,s')を用いて、初期山の移動部の鋼材グループの初期搬送が、当該移動部を有する初期山に搬送される鋼材グループの初期搬送よりも先になることを表す制約式((19)式)を加える。従って、第1の実施形態で説明した効果に加えて、搬送する必要がない初期山の固定部の鋼材グループを搬送しないように、初期山から最終山へ金属材を積み替える際の鋼材の搬送順を求めることができる。
【0102】
前述したように(8)式は、入れ替えのための拘束条件を十分条件で表現するので、このようにして得られる解は、最適解である保証はなく、実行可能解空間を狭めているので極端な場合には、最適解があるのに、実現不能(解なし)として計算される可能性がある。そこで、(8)式に代えて、入れ替えのための拘束条件を必要条件で表現する以下の(23)式の制約式を用いてもよい。
【0103】
【数20】
【0104】
(23)式は、初期山の移動部を有する初期山に搬送される鋼材グループが仮置きされる場合には、その鋼材グループの初期搬送と当該移動部の鋼材グループの初期搬送との順序は問わず、そうでない場合には、(8)式と同様に、初期山の移動部の鋼材グループの初期搬送が、当該移動部を有する初期山に搬送される鋼材グループの初期搬送よりも先になることを示す。(23)式では、移動部を有する初期山に搬送される鋼材グループが仮置きされる場合には、制限がなくなるので必要条件にしかならず、実行可能解空間を広げているので得られた解が実現不能な解になる(即ち、得られた解では搬送ができない)可能性がある。
【0105】
例えば、実現不能な解が求められることを確実に防止したい場合には(8)式を用い、移動部を有する初期山に搬送される鋼材グループが仮置きされることは稀である場合には(23)式を用いるというようにして、採用する制約式を選択すればよい。(23)式を用いた場合に実行可能解が得られればそれは真の最適解である。
また、本実施形態においても第1の実施形態で説明した変形例を採用することができる。
【0106】
<実施例>
次に、実施例を説明する。
以下の実施例では、以下の計算環境で計算を行った。
(i)プロセッサ:Intel(登録商標) Xeon(登録商標) CPU E5-2687W @ 3.1.GHz (2プロセッサ)
(ii)実装メモリ(RAM):128GB
(iii)OS: Windows(登録商標)7 Professional 64ビットオペレーティングシステム
(iv)最適計算ソフト:ILOG CPLEX Cplex11.0 Concert25(登録商標)
【0107】
本実施例では、最終山の作成対象の全ての鋼材(スラブ)の初期山の山姿と払出順とを与え、その全ての鋼材を移動する前提で、その初期山のそれぞれを、上から払出順に山積みされる最終山に積み替えるものとする。このとき、鋼材は1つずつ搬送されるものとする。この積み替えに対し、出来るだけ少ない搬送数で鋼材を搬送し、最終山の数を出来るだけ少なくすることを目的とする。尚、ここでは、全ての鋼材が移動することを前提としているので、搬送数を少なくすることは仮置き数を少なくすることと等価である。(16)式の重み係数は、k1=10、k2=1とした。また、最終山として山積みできる鋼材の数の上界hmaxは10とした。
また、特許文献3に記載の手法は、第1、第2の実施形態の手法と同様に、最終山と搬送順とを同時に最適化する手法である。そこで、第1の実施形態の手法(発明例)に対する比較例として、特許文献3に記載の手法を用い、両者の比較を行った。
【0108】
図4は、発明例による最適化計算の結果と、比較例の手法による最適化計算の結果とを表形式で示す図である。
図4において、計算条件のDataは、鋼材情報を識別するものであり、12通りの鋼材情報について、発明例と比較例との比較を行っていることを示す。また、計算条件のSLは、最終山の作成対象の鋼材の数である。また、計算条件の初期山数は、初期山の数である。比較例・発明例における最終山、仮置数は、それぞれ、最適化計算の結果として得られた最終山の数、仮置き数である。また、比較例・発明例における時間は、最適化計算に要した時間である。
まず、小規模の問題(n<20)で、両者の解が一致することを確認した。この結果を、図4のData1、2、3に示す。両者の解で、最終山数および仮置き数が一致していることが分かる。また、比較的規模の大きい問題でも、両者の解の一致を確認した(図4のData4を参照)。
次に、実際の操業と同程度の規模の問題で、計算時間を比較した結果を、図4のData5〜12に示す。ここでは、実用上許容される計算時間の限界値として想定される10分で解が求まらない場合には、その段階で計算を打ち切り、その段階で得られた実行可能解を記載している。最適解に到達していない場合にはその時点での双対ギャップを記載している(Data8、10を参照)。Data5〜12の8つのケースのうち、比較例では10分かけても実行可能解すら得られないケースが6つあり(Data5、6、7、19、11、12を参照)、残りの2つのケース(Data8、10)も最適解が得られなかった。これに対し、発明例ではいずれの場合も3分以内には最適解が得られることが分かる。
【0109】
<その他の変形例>
以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0110】
<請求項との関係>
以下に、請求項と実施形態との関係の一例を示す。尚、請求項の記載が実施形態の記載に限定されないことは、変形例などに示した通りである。
(請求項1)
初期搬送順変数は、例えば、初期搬送順変数y(s,s')を用いることにより実現される。仮置き発生有無変数は、例えば、仮置き発生有無変数x(s)を用いることにより実現される。最終山割り当て変数は、例えば、最終山割り当て変数r(s,l)を用いることにより実現される。
金属材情報取得手段は、例えば、鋼材情報取得部101を用いることにより実現される。鋼材情報は、例えば、鋼材グループ情報を用いることにより実現される。初期山の識別情報および当該初期山の各積位置における前記金属材の識別情報は、例えば、各鋼材グループの初期山の山姿を特定する情報(初期山IDと、当該初期山IDで識別される初期山の各積段に位置する鋼材グループID)を用いることにより実現される。前記金属材の前記払出順は、例えば、各鋼材グループの払出順(圧延工程への搬送順)を用いることにより実現される。
制約式設定手段は、例えば、制約式・目的関数設定部102を用いることにより実現される。第1の制約式は、例えば、(14)式を用いることにより実現される。
目的関数設定手段は、例えば、制約式・目的関数設定部102を用いることにより実現される。目的関数は、例えば、(16)式を用いることにより実現される。
最適化計算手段は、例えば、最適化計算部103を用いることにより実現される。
(請求項2)
第2の制約式は、例えば、(6)式を用いることにより実現される。
第3の制約式は、例えば、(7)式を用いることにより実現される。
(請求項3)
第4の制約式は、例えば、(10)式を用いることにより実現される。
第5の制約式は、例えば、(11)式または(12)式を用いることにより実現される。
禁止対集合は、例えば、禁止対集合Fを用いることにより実現される。
(請求項4)
第6の制約式は、例えば、(8)式を用いることにより実現される。
(請求項5)
第7の制約式は、例えば、(9)式を用いることにより実現される。
【符号の説明】
【0111】
100:ヤード管理装置、101:鋼材情報取得部、102:制約式・目的関数設定部、103:最適化計算部、104:後処理部、105:出力部
図1
図2
図3
図4
図5