特許第6769596号(P6769596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人北里研究所の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769596
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】膀胱癌診断薬及び生体試料の判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20201005BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20201005BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20201005BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20201005BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20201005BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/50 P
   G01N33/574 A
   G01N33/53 M
   C12Q1/68
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-107206(P2016-107206)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-215150(P2017-215150A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小寺 義男
(72)【発明者】
【氏名】松本 和将
(72)【発明者】
【氏名】岩村 正嗣
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−532477(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0273148(US,A1)
【文献】 特開2015−156866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Putative endoplasmin−like protein(HSP90B2Pタンパク質若しくはLeucine−rich repeat−containing protein 4C(LRRC4Cタンパク質に対する特異的結合物質、
HSP90B2P遺伝子若しくはLRRC4C遺伝子を増幅可能なプライマーセット、又は
HSP90B2P遺伝子若しくはLRRC4C遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするプローブ、
を備える、膀胱癌診断薬。
【請求項2】
生体試料中のHSP90B2Pタンパク質又はLRRC4Cタンパク質の存在量を測定する工程と、
測定された前記タンパク質の存在量が、対照と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、
を備える、生体試料の判定方法。
【請求項3】
生体試料中のHSP90B2P遺伝子又はLRRC4C遺伝子の発現量を測定する工程と、
測定された前記遺伝子の発現量が、対照と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、
を備える、生体試料の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱癌マーカー及びその使用に関する。より具体的には、膀胱癌マーカー、膀胱癌診断薬及び生体試料の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱癌の初発症状は無症候性血尿で認められることが多く、膀胱癌の診断は、主に、尿細胞診、超音波検査、膀胱鏡検査、生検試料の病理検査等により行われている。尿細胞診は進行性癌や低分化癌の検出率は良好であるが、表在性癌や高分化癌での有効性は満足のいくものではない。また、膀胱鏡検査は、進行癌のみではなく、表在性癌や高分化癌の検出にも優れ、確定診断に重要である反面、侵襲度が高く、身体負担を伴う検査である。また、表在性癌は高率に再発をきたし、治療後も定期的な膀胱鏡検査を含む経過観察が必要となる(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kaufman D. S., et al., Bladder cancer., Lancet, 374 (9685), 239-249, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、日本で保険適用されている膀胱癌マーカーには、Nuclear Matrix Protein22(NMP22)と尿中Bladder Tumor Antigen(BTA)の2種類が存在する。しかしながら、NMP22は炎症や尿路結石を有する患者で偽陽性を示す場合があり、尿中BTAは血尿による偽陽性を示す場合がある。このため、新たな膀胱癌マーカーの開発が望まれている。そこで、本発明は、新たな膀胱癌マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を含む。
[1]Putative endoplasmin−like protein(HSP90B2P)タンパク質、Leucine−rich repeat−containing protein 4C(LRRC4C)タンパク質、V(D)J recombination−activating protein 1(RAG1)タンパク質若しくはProtein Shroom2(SHROOM2)タンパク質、又はHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子からなる膀胱癌マーカー。
[2]HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質若しくはSHROOM2タンパク質に対する特異的結合物質、HSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子を増幅可能なプライマーセット、又はHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするプローブ、を備える、膀胱癌診断薬。
[3]生体試料中のHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の存在量を測定する工程と、測定された前記タンパク質の存在量が、対照と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、を備える、生体試料の判定方法。
[4]生体試料中のHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された前記遺伝子の発現量が、対照と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、を備える、生体試料の判定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新たな膀胱癌マーカーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[膀胱癌マーカー]
1実施形態において、本発明は、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質若しくはSHROOM2タンパク質、又はHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子からなる膀胱癌マーカーを提供する。
【0008】
本明細書では、遺伝子名HSP90B2Pにより特定される遺伝子にコードされるタンパク質をHSP90B2Pタンパク質という。HSP90B2Pタンパク質は、Putative endoplasmin−like protein、又はPutative heat shock protein 90 kDa beta member 2とも呼ばれるものである。ヒトHSP90B2Pタンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はQ58FF3である。また、ヒトHSP90B2PのmRNAのRefSeq IDはNR_073383である。
【0009】
本明細書では、遺伝子名LRRC4Cにより特定される遺伝子にコードされるタンパク質をLRRC4Cタンパク質という。LRRC4Cタンパク質は、Leucine−rich repeat−containing protein 4C、又はNetrin−G1 ligandとも呼ばれるものである。ヒトLRRC4Cタンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はQ9HCJ2、A8K0T1、Q7L0N3等である。また、ヒトLRRC4CのmRNAのRefSeq IDはNM_020929、NM_001258419等である。また、マウスLRRC4Cタンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はQ8C031である。また、マウスLRRC4CのmRNAのRefSeq IDはNM_001289742等である。
【0010】
本明細書では、遺伝子名RAG1により特定される遺伝子にコードされるタンパク質をRAG1タンパク質という。RAG1タンパク質は、V(D)J recombination−activating protein 1、又はRING finger protein 74とも呼ばれるものであり、Endonuclease RAG1とE3 ubiquitin−protein ligase RAG1の2つのドメインを含んでいる。ヒトRAG1タンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はP15918、E9PPC4、Q8IY72、Q8NER2等である。また、ヒトRAG1のmRNAのRefSeq IDはNM_000448である。また、マウスRAG1タンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はP15919である。また、マウスRAG1のmRNAのRefSeq IDはNM_009019である。
【0011】
本明細書では、遺伝子名SHROOM2により特定される遺伝子にコードされるタンパク質をSHROOM2タンパク質という。SHROOM2タンパク質は、Protein Shroom2、Apical−like protein又はProtein APXLとも呼ばれるものである。ヒトSHROOM2タンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はQ13796、B9EIQ7等である。また、ヒトSHROOM2のmRNAのRefSeq IDはNM_001649である。また、マウスSHROOM2タンパク質のUniProtKBデータベースのアクセッション番号はA2ALU4である。また、マウスSHROOM2のmRNAのRefSeq IDはNM_001290684等である。
【0012】
実施例において後述するように、発明者らは、膀胱癌患者の手術前血清及び手術後血清のエクソソーム分画に含まれるタンパク質を液体クロマトグラフィー質量(LC/MS)分析法により網羅的に分析、比較し、膀胱癌患者の手術前血清に特異的に存在するタンパク質として、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質及びSHROOM2タンパク質を同定した。
【0013】
したがって、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質若しくはSHROOM2タンパク質、又はHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子を、膀胱癌マーカーとして利用することができる。
【0014】
また、実施例において後述するように、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質及びSHROOM2タンパク質は、腎細胞癌患者の手術前血清中には検出されなかった。したがって、本実施形態のマーカーは膀胱癌に特異的なマーカーである。
【0015】
[膀胱癌診断薬]
1実施形態において、本発明は、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質若しくはSHROOM2タンパク質に対する特異的結合物質、HSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子を増幅可能なプライマーセット、又はHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子若しくはSHROOM2遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするプローブ、を備える、膀胱癌診断薬を提供する。本実施形態の膀胱癌診断薬は、診断用キットであるということもできる。
【0016】
(特異的結合物質)
特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体は、例えば、マウス等の動物に、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質若しくはSHROOM2タンパク質又はそれらの断片を抗原として免疫することによって作製することができる。あるいは、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。
【0017】
上記の抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、市販の抗体であってもよい。
【0018】
アプタマーとは、標的物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。標的ペプチドに特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、標的ペプチドに特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo−hybrid法等により選別することができる。
【0019】
本実施形態の膀胱癌診断薬は、被検者由来の血清、血漿、尿を含む体液、組織等を試料に用い、試料中のHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質を検出するものであってもよい。特に、血清、血漿又は尿は低侵襲で採取可能な生体試料であるため、患者の負担が少なく、容易に膀胱癌に罹患しているか否かを診断することができる。
【0020】
HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の検出方法としては、サンドイッチELISA、ウエスタンブロット、逆相タンパク質アレイを用いた検出、免疫組織化学染色等が挙げられる。なお、逆相タンパク質アレイを用いた検出とは、試料を固相にアレイ状に固定し、検出対象物質に特異的な抗体等を反応させることにより、試料中の検出対象物質を検出する解析方法である。
【0021】
(プライマーセット)
HSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子を増幅可能なプライマーセットとは、これらの遺伝子のmRNAをRT−PCR等により増幅することができるものであれば特に制限されない。
【0022】
これらの遺伝子のmRNAは、上述したIDで特定されるRefSeqデータベースのエントリーに記載された塩基配列を有している。なお、mRNAにはスプライシングバリアント等が存在する場合があるため、これらの遺伝子のmRNAは上述したRefSeq IDで特定されるものに限られるものではない。
【0023】
例えば、被検者由来の組織等を試料に用い、本プライマーセットを用いたRT−PCR等を行うことにより、試料中の、HSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子のmRNAを検出することができる。
【0024】
(プローブ)
プローブとしては、HSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするものであれば特に限定されない。プローブは、担体上に固定されてDNAマイクロアレイ等を構成していてもよい。例えば、上記のDNAマイクロアレイに、被検者由来の組織から抽出したmRNAを接触させ、プローブにハイブリダイズしたHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子のmRNAを検出することにより、被検者が膀胱癌に罹患しているか否かを判定することができる。
【0025】
[生体試料の判定方法]
1実施形態において、本発明は、生体試料中のHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の存在量を測定する工程と、測定された前記タンパク質の存在量が、対照と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、を備える、生体試料の判定方法を提供する。
【0026】
本実施形態の判定方法により、生体試料が膀胱癌患者由来のものであるか否かを判定することができる。すなわち、本実施形態の判定方法は、膀胱癌の診断方法であるということもできる。本実施形態の判定方法によれば、膀胱癌を特異的に検出することができる。
【0027】
本実施形態の判定方法において、生体試料は、血清、血漿又は血清若しくは血漿から精製されたエクソソームであってもよい。生体試料中のHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の存在量を測定する工程は、上述した特異的結合物質を用いた、サンドイッチELISA、ウエスタンブロット、逆相タンパク質アレイを用いた検出、免疫組織化学染色等により行うことができる。ここで、測定したHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の存在量は、段階希釈した既知濃度の上記タンパク質を基準に用いて定量値に換算してもよい。
【0028】
本実施形態の判定方法では、生体試料中のHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の存在量が、対照試料中のHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の存在量と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する。対照としては、例えば健常人由来の生体試料が挙げられる。あるいは、予め健常人由来の生体試料中に存在する、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の量に基づいて基準値を設定しておき、当該基準値と比較してHSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質又はSHROOM2タンパク質の量が多い場合に、生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定してもよい。
【0029】
本実施形態の判定方法は、生体試料中のHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された前記遺伝子の発現量が、対照と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、を備えるものであってもよい。
【0030】
本実施形態の判定方法において、生体試料は、被検者由来の組織等であってもよい。生体試料中のHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量を測定する工程は、上述したプライマーセットを用いたRT−PCR、定量的RT−PCR等により行うことができる。あるいは、上述したプローブを用いたDNAマイクロアレイ解析、ノーザンブロッティング等により、HSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量を測定してもよい。ここで、測定したHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量は、段階希釈した既知濃度の各遺伝子の断片等を基準に用いて定量値に換算してもよい。
【0031】
また、本実施形態の判定方法では、生体試料中のHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量が、対照試料中の上記遺伝子の発現量と比較して多い場合に、前記生体試料は膀胱癌患者由来のものであると判定する。対照としては、例えば健常人由来の生体試料が挙げられる。あるいは、予め健常人由来の生体試料におけるHSP90B2P遺伝子、LRRC4C遺伝子、RAG1遺伝子又はSHROOM2遺伝子の発現量に基づいて基準値を設定しておき、当該基準値と比較して上記遺伝子の発現量が多い場合に、生体試料は腎細胞癌患者由来のものであると判定してもよい。
【実施例】
【0032】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
20症例の膀胱癌患者の手術前血清と手術後血清を採取した。続いて、20症例の手術前血清の混合血清試料、及び20症例の手術後血清の混合血清試料を作製し、これらの混合血清を用いたプロテオーム解析を行い、膀胱癌患者の手術前血清に特異的に存在するタンパク質を探索した。
【0034】
具体的には、まず、手術前、手術後の各々の混合血清200μLにリン酸緩衝液1100μLを添加して、19,000×g、4℃で30分間遠心し、上清を回収した。続いて、回収した上清を100,000×g、4℃で90分間超遠心し、沈殿を回収した。続いて、回収した沈殿を2回洗浄し、エクソソーム画分とした。
【0035】
続いて、回収したエクソソーム画分に界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムを含む溶液を加えて加熱処理し、超音波破砕機で溶解後、トリプシン消化した。続いて、手術前血清由来のサンプルと手術後血清由来のサンプルを安定同位体標識試薬(型式「Tandem Mass Tag 2−plex」、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)でそれぞれ標識して等量混合し、陽イオン交換カラムで8つのフラクションに分画した。続いて得られたフラクションの各々を液体クロマトグラフィー(型式「Easy−nLC 1000」、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)及び四重極・フーリエ変換ハイブリッド質量分析計(型式「Q−Exactive」、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を組み合わせた液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)により解析し、比較した。
【0036】
その結果、膀胱癌患者の手術前血清に手術後血清よりも有意に多く含まれているタンパク質として、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質及びSHROOM2タンパク質を見出した。各タンパク質の手術後血清中の存在量に対する手術前血清中の存在量(変動率)を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質及びSHROOM2タンパク質は、いずれも、世界ヒトプロテオーム機構がまとめた、血中タンパク質リスト(Human Peoteome Plasma Project:HPPP)中の約2000種類のタンパク質に含まれていなかった。中でも、HSP90B2Pタンパク質は、世界ヒトプロテオーム機構がまとめた、血中タンパク質データベース(Plasma Proteome Database:PPD)中の約10500種類のタンパク質にも含まれていなかった。したがって、HSP90B2Pタンパク質が血液中に存在することは発明者らが今回初めて明らかにしたことである。
【0039】
また、腎細胞癌患者の手術前及び手術後の血清を用いて上記と同様の解析を行った結果、HSP90B2Pタンパク質、LRRC4Cタンパク質、RAG1タンパク質及びSHROOM2タンパク質は、腎細胞癌患者の手術前及び手術後の血清中には検出されないことが明らかとなった。この結果はこれらのタンパク質が膀胱癌特異的なマーカーであることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、新たな膀胱癌マーカーを提供することができる。