特許第6769701号(P6769701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769701
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20201005BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20201005BHJP
   H01F 38/08 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   H02M3/155 Y
   H01F37/00 A
   H01F37/00 M
   H01F38/08 B
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-208179(P2015-208179)
(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公開番号】特開2016-197987(P2016-197987A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年8月27日
【審判番号】不服2019-13893(P2019-13893/J1)
【審判請求日】2019年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-77359(P2015-77359)
(32)【優先日】2015年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】田島 豊
【合議体】
【審判長】 田中 秀人
【審判官】 山崎 慎一
【審判官】 小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−218530(JP,A)
【文献】 特開2004−201439(JP,A)
【文献】 特開平6−217559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M3/155
H01F37/00
H01F38/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力の蓄積と放出を行うリアクトルを備えた電力変換器において、
前記リアクトルは、
土台となる第1磁性体と、
前記第1磁性体の上に立てた状態で配置される複数の支柱状磁性体と、
前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の小リアクトルを形成する複数の巻線と、
前記複数の支柱状磁性体の上に配置される第2磁性体と
前記複数の巻線の間を電気的に接続する配線とを備え、
前記複数の小リアクトルは、前記配線により電気的に直列又は並列に接続され、それぞれ生じる磁束が、隣接する前記小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置されることを特徴とする電力変換器。
【請求項2】
前記リアクトルは、直列接続された前記複数の小リアクトルから成る組を、複数組電気的に並列に接続して構成されることを特徴とする請求項1記載の電力変換器。
【請求項3】
放熱器と、
前記放熱器の上に配置され、前記配線を含む配線基板と、
を更に備え、
前記第1磁性体は、前記複数の巻線と前記配線とを電気的に接続するために前記複数の巻線の各端部が導入される貫通孔を有し、
前記配線基板は、前記配線が、前記第1磁性体及び前記放熱器と絶縁されるように構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記配線は、前記複数の巻線の間を電気的に接続するようにパターニングされた金属板からなり、
前記配線基板は、前記金属板と、前記金属板と前記放熱器との間を絶縁する絶縁体とから構成されることを特徴とする請求項3に記載の電力変換器。
【請求項5】
前記配線は、前記複数の巻線の間を電気的に接続するようにパターニングされた金属板からなり、
前記配線基板は、前記放熱器の上に形成された樹脂材料又は接着剤からなる第1絶縁体と、
前記金属板と、前記金属板の上に形成された樹脂材料からなる第2絶縁体とから構成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の電力変換器。
【請求項6】
前記放熱器の下面にそれぞれ配置され、前記リアクトルとそれぞれ接続される、半導体スイッチング素子を含むパワーモジュール回路、第1回路基板及びコンデンサと、前記第2磁性体の上に配置され、前記リアクトルと接続される第2回路基板とのうち、少なくともいずれかを更に備えることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の電力変換器。
【請求項7】
前記複数の巻線は、前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の第1小リアクトルを形成する複数の第1巻線と、前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の第2小リアクトルを形成する複数の第2巻線とを有し、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、互いに絶縁するように、それぞれ電気的に直列又は並列に接続され、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、それぞれ生じる磁束が隣接する前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電力変換器。
【請求項8】
前記複数の支柱状磁性体は、前記複数の第1巻線がそれぞれ巻かれた複数の第1支柱状磁性体と、前記複数の第2巻線がそれぞれ巻かれた複数の第2支柱状磁性体とが接合されることにより構成されることを特徴とする請求項7に記載の電力変換器。
【請求項9】
前記複数の巻線は、前記複数の支柱状磁性体のうち隣接する前記支柱状磁性体に巻かれないように、前記支柱状磁性体に互い違いに巻かれて複数の第1小リアクトルを形成する複数の第1巻線と、前記複数の支柱状磁性体のうち前記第1巻線が巻かれない残りの前記支柱状磁性体に巻かれて複数の第2小リアクトルを形成する複数の第2巻線とを有し、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、互いに絶縁するようにそれぞれ電気的に直列又は並列に接続され、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、生じる磁束が互いに逆方向になるように配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を用いて電力変換を行う電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を用いた電カ変換器として、リアクトルを用いたチョッパ型のDC−DCコンバータが知られている。このDC−DCコンバータは、主に、半導体スイッチング素子を含むパワーモジュール、コンデンサ、リアクトル及びこれらを搭載する回路基板等からなる。これらの部品は個々に独立して構成され、放熱器又はケース等に固定される。
【0003】
特許文献1は、平面状の変圧器及び/又は平面状のインダクタと電力スイッチとを一体化した電力変換器(コンバータ)を開示する。この電力変換器では、トランス又はリアクトル等の磁性体部品が複数に分割され、各々が小型且つ薄型化されている。これらの部品は、互いに間隔を空けて、ケースに接合又は固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−502293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された電力変換器では、リアクトルを複数に分割し、且つ薄型化しても、リアクトル間や背の低い部品との間に隙間が生じ、それらをケース等の支持体に固定するための固定部品や足部、ボルト締め等に要するスペースが必要であった。
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑み、部品間の隙間を低減でき、部品の固定に要するスペースを削減できる電力変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電力変換器は、電力の蓄積と放出を行うリアクトルを備える。リアクトルは、第1磁性体と、第1磁性体の上に立てた状態で配置される複数の支柱状磁性体と、複数の支柱状磁性体に巻かれて複数の小リアクトルを形成する複数の巻線と、複数の支柱状磁性体の上に配置される第2磁性体と、複数の巻線の間を電気的に接続する配線とを備える。複数の小リアクトルは、配線により電気的に直列又は並列に接続され、それぞれ生じる磁束が隣接する小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リアクトルを薄型に構成することにより、部品間の隙間を低減でき、部品の固定に要するスペースを削減できる電力変換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る電力変換器の構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの詳細な構成を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルを構成する直接接続された小リアクトルの配置を示す図である。
図4】(a)は、本発明の第1実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す回路図である。(b)は、本発明の第1実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す平面図である。(c)は、(b)のX−X方向から見た断面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルを構成する並列接続された小リアクトルの配置を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す回路図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す回路図である。
図8】本発明の第4実施形態に係る電力変換器を3相の双方向チョッパ回路で構成した例を示す図である。
図9】本発明の第5実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す図である。
図10】本発明の第6実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す図である。
図11】本発明の第7実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す側面図である。
図12】本発明の第8実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す側面図である。
図13】本発明の第9実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す側面図である。
図14】(a)は、本発明の第10実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す上面図である。(b)は、(b)のY−Y方向から見た断面図である。(c)は、(b)のX−X方向から見た断面図である。
図15】本発明の第11実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図16】本発明の第12実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図17】本発明の第13実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図18】(a)は、本発明の第13実施形態の変形例に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。(b)は、本発明の第13実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す回路図である。
図19】本発明の第14実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図20】本発明の第14実施形態の変形例に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図21】本発明の第14実施形態の変形例に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図22】本発明の第14実施形態の変形例に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。
図23】(a)は、本発明の第15実施形態の変形例に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す断面図である。(b)は、本発明の第15実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電力変換器を単相の双方向チョッパ回路で構成した例を示す図である。この電力変換器は、端子T1,T2、接地端子GND、コンデンサC1,C2、リアクトルL、スイッチング素子Q1,Q2、ダイオードD1,D2を備える。端子T1と接地端子GNDとの間には、例えば直流電源(図示しない)が接続され、端子T2と接地端子GNDとの間には、例えばインバータ(図示しない)が接続される。
【0012】
コンデンサC1は、端子T1と接地端子GNDとの間に接続され、図示しない直流電源からの電圧又は直流電源へ供給する電圧を平滑化する。コンデンサC2は、端子T2と接地端子GNDとの間に接続され、図示しないインバータから出力される電圧又はインバータへ供給する電圧を平滑化する。
【0013】
リアクトルLは、直流電力の蓄積及び放出を行うもので、一方の端子は端子T1に接続され、他方の端子はスイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点Pに接続される。
【0014】
スイッチング素子Q1は、例えばMOSFET等の半導体スイッチング素子から構成され、ソースは接地端子GNDに接続され、ドレインは接続点Pに接続され、ゲートは制御回路(図示しない)に接続される。ダイオードD1は、スイッチング素子Q1に並列に接続される。具体的には、ダイオードD1のアノードは接地端子GNDに接続され、カソードは接続点Pに接続される。
【0015】
スイッチング素子Q2は、例えばMOSFET等の半導体スイッチング素子から構成され、ソースは接続点Pに接続され、ドレインは端子T2に接続され、ゲートは図示しない制御回路に接続される。ダイオードD2は、スイッチング素子Q2に並列に接続される。具体的には、ダイオードD2のアノードは接続点Pに接続され、カソードは端子T2に接続される。
【0016】
なお、図示しない制御回路は、スイッチング素子Q1を高速でオン/オフさせる第1制御信号及びスイッチング素子Q2を高速でオン/オフさせる第2制御信号を生成する。制御回路で生成された第1制御信号は、スイッチング素子Q1のゲートに供給され、第2制御信号はスイッチング素子Q2のゲートに供給される。
【0017】
また、スイッチング素子Q1,Q2、ダイオードD1,D2の各々に個別の半導体素子を使用することができる。スイッチング素子Q1とダイオードD1とを同一パッケージに収めた半導体モジュールと、スイッチング素子Q2とダイオードD2とを同一のパッケージに収めた半導体モジュールとを使用することもできる。
【0018】
次に、電力変換器の昇圧動作について説明する。この場合、端子T1が入力側になり、端子T2が出力側になる。制御回路は、昇圧動作時には、高速でオン/オフする第1制御信号をスイッチング素子Q1に供給するとともに、低レベル信号をスイッチング素子Q2に供給する。これにより、スイッチング素子Q1のみが高速でオンとオフを繰り返す。スイッチング素子Q1がオンになると、順に、T1→L→Q1→GNDの経路で電流が流れる。これにより、リアクトルLに直流電力が蓄積される。
【0019】
次に、スイッチング素子Q1がオフになると、順に、T1→L→D2→T2の経路で電流が流れる。このとき端子T2に発生する電圧は、端子T1に印加される電圧に、リアクトルLに蓄積された直流電力による起電力が加えられた電圧である。従って、端子T1に印加される電圧より端子T2に発生する電圧が大きくなり、昇圧される。
【0020】
次に、電力変換器の降圧動作について説明する。この場合、端子T2が入力側になり、端子T1が出力側になる。制御回路は、降圧動作時は、高速でオン/オフする第2制御信号をスイッチング素子Q2に供給するとともに、低レベル信号をスイッチング素子Q1に供給する。これにより、スイッチング素子Q2のみが高速でオンとオフを繰り返す。スイッチング素子Q2がオンになると、順に、T2→Q2→L→T1の経路で電流が流れる。これにより、リアクトルLに直流電力が蓄積される。
【0021】
次に、スイッチング素子Q2がオフになると、順に、T2→D2→L→T1の経路で電流が流れようとする。このとき端子T1に発生する電圧は、リアクトルに蓄積された直流電力による起電力分のみである。したがって、端子T2に印加される電圧より端子T1に発生する電圧が小さくなり、降圧される。
【0022】
図2は、リアクトルLの詳細な構成を示す図である。リアクトルLは、互いに電気的に直列に接続された4個の小リアクトルl1〜l4から構成されている。図3は、直列に接続された小リアクトルl1〜l4の配置を示す図である。隣接する小リアクトル(小リアクトルl1とl2、及び、小リアクトルl3とl4)は、磁束Mの向き(白抜きの矢印で示す)が逆になるように、巻線の向きが決定されて配置されている。これにより、例えば、小リアクトルl1とl2とで磁束が加算され、小リアクトルl3とl4とで磁束が加算される。
【0023】
図4は、第1実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す図である。図4(a)は電気配線を示す図、図4(b)は上面図、図4(c)は図4(b)のX−X方向から見た断面図である。なお、図4(a)中の1〜4の数字は端子番号であり、図4(b)に示す端子番号に一致する。
【0024】
リアクトルLは、図4(b)及び図4(c)に示すように、上面及び下面を有する土台となる第1磁性体12と、第1磁性体12の上に立てた状態で配置された複数の支柱状磁性体13と、複数の支柱状磁性体13の各々に巻かれることにより複数の小リアクトルl1〜l4を形成する巻線15と、複数の支柱状磁性体13の上に配置され、上面及び下面を有する第2磁性体14とを備える。放熱器11は、例えばアルミニウム等の熱伝導率の高い材料からなり、リアクトルLにおいて発生する熱を外部に伝達し、放熱する。
【0025】
第1磁性体12は、例えば矩形の平板状であり、放熱器11の上に設けられる。支柱状磁性体13は、それぞれ、例えば四角柱状であり、第1磁性体12から突出するように形成される。第2磁性体14は、例えば矩形の平板状である。図4に示す例において、4本の支柱状磁性体13は一方向に配列される。支柱状磁性体13は、それぞれ、下側の底面において第1磁性体12の表面と連結し、上側の底面において第2磁性体14の下面に連結している。第2磁性体14の上には、巻線15を相互に接続するための配線16が設けられている。
【0026】
以上の構成により、次の効果が得られる。
(第1の効果)
リアクトルLを小リアクトルl1〜l4に分割して薄型で扁平な箱形状にできるので、放熱器11のような大きな面を有する部品又はケースの面に対して、間隙なくリアクトルLを密接又は密着させて配置することが容易である。その結果、スペースを効率よく使用することができ、リアクトルLの周辺に生じる隙間を低減することができる。また、薄型で扁平な箱状のリアクトルLと放熱器11とは大きな面で接合することにより、接着、接合又は簡易的な接合で十分な接合力が得られる。したがって、固定に必要な端子部のスペースを削減できる。
【0027】
(第2の効果)
リアクトルLを複数の小リアクトルl1〜l4に分割しても、これら小リアクトルl1〜l4は全て第1磁性体12を共通した土台とするので、複数の小リアクトルl1〜l4を密集させ、かつ隣接させて配置できる。つまり、リアクトルLは、個々の小リアクトルl1〜l4の間の隙間を低減又はなくすことができるため、小型化が可能である。また、仮に多数の小リアクトルであっても、一体化して形成できるので、個々の小リアクトルを個別にケースに入れたり、固定したりすることが不要である。その為、個々の小リアクトルを固定するための端子部が不要であり、全体で多数の端子部が形成され、大きなスペースが必要になるという事態を避けることができる。
【0028】
(第3の効果)
リアクトルLを放熱器11に接合する場合、特に、薄型のリアクトルLを大面積で接合できるので、放熱経路が短くなるとともに、放熱面積が増大する。その結果、リアクトルLの放熱性能が向上する。
【0029】
(第4の効果)
リアクトルLが複数の小リアクトルl1〜l4に分割され、各小リアクトルl1〜l4は立てた状態で配置されるので、巻線15は土台となる第1磁性体12に対して縦に積まれる状態になる。したがって、リアクトルLの全体を薄くできると共に、巻線15が面方向の広がりを抑えることができる。また、巻線15が面方向に広がることを避けるために支柱状磁性体13を細くせざるを得ないという事態を避けることができる。
【0030】
(第5の効果)
磁束は、第1磁性体12、支柱状磁性体13及び第2磁性体14により形成されるクローズドループを通る。このため磁束が外部に漏れることがないので大きなインダクタンスを実現でき、かつ飽和磁束の低下を防ぐことができる。
【0031】
さらに、リアクトルLを、互いに直列接続された小リアクトルで構成する場合は、次の効果が得られる。
【0032】
(第6の効果)
小リアクトルの各々の巻線を少なくできる。その結果、巻線幅を小さくでき、リアクトルLの全体を薄型化できる。
【0033】
(第7の効果)
電力変換器に大きな電流を流す用途の場合は、一般に、磁性体部分にエアギャップが設けられる。上述した構成では、小リアクトルが互いに直列に、かつ同じ面に立てた状態で配置されているので、各小リアクトルに小さなエアギャップを設ければ、全体として大きなギャップを実現できる。また、リアクトルLのサイズ、すなわち高さを最小化できる。
【0034】
また、リアクトルLは、互いに並列に接続された小リアクトルl1〜l4で構成されるようにしてもよい。図5は、並列に接続された小リアクトルl1〜l4の配置を示す図である。隣接する2個の小リアクトルl1とl2の巻線15と、他の隣接する2個の小リアクトルl3とl4の巻線15とは、それぞれ磁束Mの向き(太い矢印で示す)が逆になるように接続されて配置されている。各小リアクトルl1〜l4間の接続は、第2磁性体14上において配線16により行われる。
【0035】
リアクトルLを、並列接続された小リアクトルl1〜l4で構成する場合は、次の効果が得られる。
【0036】
(第8の効果)
個々の小リアクトルl1〜l4を流れる電流が小さくなって磁束量が減るので、磁性体が磁気飽和する懸念が小さくなる。その結果、支柱状磁性体13を細くできるとともに、第1磁性体12及び第2磁性体14も薄くすることができ、リアクトルLの全体を薄型化かつ小型化できる。
【0037】
(第9の効果)
各小リアクトルl1〜l4を流れる電流が小さくなるので、電カ変換器の全体の電流が大きい場合であっても、直列の場合と比べて巻線15を細くできる。例えば、平角線等の大きな断面積の配線を使用すべき電流が流れる場合であっても、並列接続する構成を採用することにより、比較的小さな断面積の所謂銅線等を使用することが可能となる。このため、巻線15の形成が容易であり、巻線15の部分の隙間を削減することもできる。
【0038】
(第10の効果)
また、各小リアクトルl1〜l4を流れる電流が小さくなるので、複数の小リアクトルの各々に半導体スイッチング素子を接続し、高速でスイッチング動作をさせる場合には、電流が小さいのでサージ電圧やノイズを低減できる。その結果、高速スイッチングによる電気的な動作における損失を低減できる。また、高周波駆動されるリアクトルL及びコンデンサ等の小型化も一層容易になる。
【0039】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る電力変換器は、リアクトルLが、それぞれ直列接続された4個の小リアクトルl1〜l4(巻線)から成る3つの組を、互いに並列に接続することにより構成される点で第1実施形態と異なる。第2実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0040】
図6は、第2実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す図である。図6(a)は1組分の電気配線を示す図、図6(b)は上面図、図6(c)は図6(b)のX−X方向から見た断面図である。図6(a)中の1〜4の数字は端子番号であり、図6(b)に示す端子番号に一致する。
【0041】
第2実施形態において、リアクトルLは、それぞれ第1実施形態のリアクトルLに対応する第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3から成る。第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3が、1つの第1磁性体12上に、小リアクトルl1〜l4の配列方向に直交する方向に配列されることにより、計12個の小リアクトルl1〜l4は、第1磁性体12上に格子状に配列される。第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3は、第2磁性体14の上に形成された配線16により互いに並列に接続される。
【0042】
第2実施形態に係る電力変換器によれば、次の効果が得られる。すなわち、第1実施形態で説明した直列接続時の第6の効果及び第7の効果と、並列接続時の第8の効果〜第10の効果とが同時に得られる。特に、複数の小リアクトルの直列接続により各小リアクトルの高さの抑制やエアギャップの削減を実現でき、さらに、第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3の並列接続によって電流が減少する。その結果、高速スイッチング動作が容易になってリアクトルLの小型化を実現できる。
【0043】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る電力変換器は、リアクトルLを構成する複数の小リアクトルを、基板上に設けられた配線パターンにより接続する点で第2実施形態と異なる。第3実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1及び第2実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0044】
図7は、第3実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す図である。図7(a)は上面図、図7(b)は図7(a)のX−X方向から見た断面図である。リアクトルLは、第2磁性体14上に配置された配線基板17と、配線基板17の上面に形成された配線パターン18とを備える。配線パターン18は、第1実施形態及び第2実施形態における配線16に対応する。
【0045】
第3実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、配線基板17に形成された配線パターン18のみより複数の小リアクトルの間が接続されることにより、製造コストを低減できる。また、バスバー配線等を別途設けたり、配線16を宙に配置したりする必要がないため、周辺のデッドスペース含む配線スペースを削減できる。なお、互いに並列に配置された第1リアクトルL1〜第3リアクトルL3の間も配線パターン18のみにより接続可能である。
【0046】
(第4実施形態)
本発明の実施の形態に係る電力変換器は、単相でなく多相の電力を変換する点で第2及び第3実施形態と異なる。第4実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第3実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0047】
図8は、第4実施形態に係る電力変換器を三相の双方向チョッパ回路で構成した例を示す図である。第4実施形態に係る電力変換器は、第1実施形態におけるリアクトルLの代わりに、第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3を備え、第1実施形態におけるスイッチング素子Q1、スイッチング素子Q2、ダイオードD1及びダイオードD2から成るスイッチング回路の代わりに、第1パワーモジュール回路P1、第2パワーモジュール回路P2及び第3パワーモジュール回路P3を備える。
【0048】
第1パワーモジュール回路P1は、第1実施形態に係る電力変換器のスイッチング回路と同様に、スイッチング素子Q1、スイッチング素子Q2、ダイオードD1及びダイオードD2を備える。第2パワーモジュール回路P2及び第3パワーモジュール回路も、第1パワーモジュール回路P1と同様に、スイッチング素子Q1、スイッチング素子Q2、ダイオードD1及びダイオードD2をそれぞれ備える。第1リアクトルL1の一方の端子は端子T1に接続され、他方の端子は第1パワーモジュール回路P1のスイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点に接続される。第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3も同様に、一方の各端子が端子T1に接続され、他方の各端子が第2パワーモジュール回路P2及び第3パワーモジュール回路P3それぞれに接続される。
【0049】
端子T1と接地端子GNDとの間には、例えば直流電源(図示しない)が接続され、端子T2と接地端子GNDとの間には、例えばインバータ(図示しない)が接続される。第1パワーモジュール回路P1、第2パワーモジュール回路P2及び第3パワーモジュール回路P3の各スイッチング素子Q1,Q2は、互いに異なる位相でスイッチング動作を行うように、図示しない制御回路によって制御される。なお、図6(b)及び図7(a)において、端子番号3の小リアクトルl4の各端子は、配線16又は配線パターン18によってそれぞれ互いに接続されるが、第4実施形態に係る電力変換器を実現するためには、この配線16又は配線パターン18を除去し、端子番号3の小リアクトルl4の各端子を各パワーモジュール回路に接続すればよい。
【0050】
第4実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、第4実施形態に係る電力変換器は、例えば多相インターリーブ制御によって各位相を互いにずらすことにより、リアクトルやコンデンサ等の電子部品の小型化を図りつつ、発生する電気ノイズを低減させることができる。
【0051】
特に、第4実施形態に係る電力変換器は、例えば3相よりも大きな相数で多相化を実現しても、各リアクトル間の隙間が増えたり、配線スペースが増大したりする事態を防止できる。例えば5相や10相といった多くの相に多相化を行ったとしても、相数n(2以上の整数)に応じた数の第1リアクトルL1〜第nリアクトルLnが、1つの第1磁性体12に対して形成されればよい。したがって、複数の小リアクトルに分割することにより生じる配線や固定に要するスペース又は隙間等は生じない。
【0052】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態に係る電力変換器は、図9に示すように、第2磁性体14にスリット19が形成される点で第2実施形態と異なる。第5実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第4実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0053】
図9は、第5実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す上面図である。第2磁性体14は、3列に配置された第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3の各列の間に対応するように形成された線状のスリット19を有する。スリット19は、第2磁性体14の上面から下面に貫通するように形成される。厳密には、スリット19は、少なくとも、1つの第nリアクトルLnが備える複数の支柱状磁性体13の各上面が、第2磁性体14の下面と連結された状態を保持可能なように形成されればよい。スリット19は、並列に配列されたそれぞれ複数の小リアクトルl1〜l4の組である第1リアクトルL1〜第3リアクトルL3の間を磁気的に分離(分断)する。
【0054】
第5実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、例えば互いに異なる位相で動作する第1リアクトルL1〜第3リアクトルL3を近接して配置する場合であっても、第2磁性体14に形成されたスリット19により、第1リアクトルL1〜第3リアクトルL3の各間において磁路が遮断される。その結果、磁束が他の第nリアクトルLnに回り込むことに起因する誤動作を防止できる。また、第2磁性体14にスリット19を形成したとしても、リアクトル自体の大型化や隙間の拡大等といった弊害は生じない。
【0055】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態に係る電力変換器は、第5実施形態と同様に、第2磁性体14にスリット19が形成される点で第3実施形態と異なる。第6実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第5実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0056】
図10は、第6実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す図であり、図10(a)は上面図、図10(b)は図10(a)のX−X方向から見た断面図である。第2磁性体14は、3列に配置された第1リアクトルL1、第2リアクトルL2及び第3リアクトルL3の各列の間に対応するように形成された線状のスリット19を有する。換言すれば、第6実施形態に係る電力変換器は、第5実施形態に係る電力変換器に、第3実施形態における配線基板17及び配線パターン18を追加したものである。
【0057】
第6実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、例えば第2磁性体14を分割するようにスリット19を形成する場合であっても、配線基板17により分割された第2磁性体14を保持して固定できる。したがって、第2磁性体14を他の手段により保持及び固定しなければならないという懸念なく、電気的な動作の都合によって第2磁性体14を細分化することができる。また、他の手段による第2磁性体14の保持及び固定が不要なため、サイズを増大させることなく細分化できる。これにより、電気的な誤動作を、より確実に防止できる。
【0058】
(第7実施形態)
本発明の第7実施形態に係る電力変換器は、第1磁性体12及び第2磁性体が、それぞれ箔状である点で第1〜第6実施形態と異なる。第7実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第6実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0059】
図11は、第7実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す断面図である。図11に示す例において、リアクトルLは、小リアクトルl1,l2と小リアクトルl3,l4との間に設けられた間隙により、第1磁性体12及び第2磁性体14がそれぞれ湾曲可能に構成される。
【0060】
第7実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、リアクトルLは、搭載場所や形状に合わせて、湾曲、撓み、変形又は屈曲させることができる他、例えば円形状等に形成することができる。これにより、例えば電カ変換器の搭載場所が平坦でない場合であっても、リアクトルLを搭載部分の形状に合わせることができるので、搭載面において隙間が生じるという事態を避けることができる。
【0061】
さらに、従来は搭載が難しかった隙間への電力変換器の搭載が可能になる。特に、第1磁性体12に幾つもの支柱状磁性体13を配置する場合、必要に応じて屈曲部に該当する第1磁性体12には支柱状磁性体13を配置しないようにすれば、湾曲等の形状を容易に実現できる。
【0062】
(第8実施形態)
本発明の第8実施形態に係る電力変換器は、リアクトルLが他の部品と一体に形成される点等で第3実施形態と異なる。に係る電力変換器において、リアクトル以外の部品とリアクトルとを一体に構成したものである。第8実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第7実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0063】
図12は、第8実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す側面図である。この電力変換器は、図7に示す第3実施形態に係る電力変換器において、放熱器11と配線基板17とが横方向(図7中の右方向)に拡張され、拡張された放熱器11と配線基板17との間にコンデンサC1,C2及びパワーモジュール回路P1〜P3が配置されることにより構成される。配線基板17上の配線パターン18は、コンデンサC1,C2及びパワーモジュール回路P1〜P3の端子の位置まで、適宜延長される。
【0064】
第8実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、放熱器11と配線基板17が面方向に拡張されることにより、リアクトルLは、他の部品を取り付け可能な支持体とすることができる。面方向に配置された部品を備える電力変換装置は、板状、すなわち、薄型で扁平な箱形状とされる。
【0065】
薄型で扁平な箱形状の電力変換装置は、容易に作製することができる他、他部品、例えばパワーモジュール回路、ドライブ基板又は放熱器等との隙間をなくした接合や、実装、接続が容易に可能である。このように、他部品を密着して接続、接合できるので、リアクトル周辺のデッドスペース(部品間の隙間)を減らし、また、固定に必要な足部も大幅に削減できる。
【0066】
(第9実施形態)
本発明の第9実施形態に係る電力変換器は、図13に示すように、支柱状磁性体13及び巻線15として中間基板20を備える点で第1実施形態と異なる。第9実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第8実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0067】
図13は、第9実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す側面図である。第9実施形態に係る電力変換器は、第1磁性体12と第2磁性体14との間に積層された複数の中間基板20(図示例では4枚)を備える。中間基板20は、第1実施形態における支柱状磁性体13に相当する支柱用磁性体21と、第1実施形態における巻線15に相当し、支柱用磁性体21の周りを囲むように形成された配線パターン22とにより構成される。
【0068】
配線パターン22同士は、複数の中間基板20の各々に形成されたスルーホール及び接続配線(いずれも図示は省略する)により、巻線状に接続され、これにより複数の小リアクトルが形成される。小リアクトル同士の配線は、第1実施形態に係る電力変換器等と同様に、第2磁性体14の上で行われる。
【0069】
第9実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、中間基板20を設計に応じた必要枚数の中間基板20により、リアクトルが製造可能であり、個別に巻線を巻いて配置する必要がない。その結果、大量生産の効果によって、低コスト化を図ることができる。
【0070】
(第10実施形態)
本発明の第10実施形態に係る電力変換器は、図14に示すように、配線パターン18aが上面に形成された配線基板17が、第1磁性体12側に形成される点等において第3実施形態と異なる。第10実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第9実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0071】
図14は、第10実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す図である。図10(a)は上面図、図10(b)は図10(a)のY−Y方向から見た断面図、図10(c)は図10(a)のX−X方向から見た断面図である。なお、図10(a)は、説明の便宜のため、図10(c)のA−A方向から見た上面図、すなわち、第1磁性体12、支柱状磁性体13、巻線15及び第2磁性体14を省略した上面図である。
【0072】
配線基板17は、放熱器11の上面に配置される。配線基板17は、複数の巻線15の間を電気的に接続する配線となる配線パターン18aを含む。第1磁性体12は、各巻線15と配線パターン18aとを電気的に接続するために各巻線15の端部が導入される貫通孔(図示しない)を有する。貫通孔は、スリット状であってもよい。配線基板17は、配線パターン18aの、各巻線15と電気的に接続される箇所以外の領域が、第1磁性体12及び放熱器11と絶縁されるように構成される。詳細には、配線基板17は、絶縁体から成る基体の上面に配線パターン18aが形成され、少なくとも配線パターン18aの上面には、図示を省略した絶縁層が形成される。
【0073】
配線パターン18aは、巻線15と接続される端子番号1〜4の各端子に連結する領域が、面方向に拡張されている。図10に示す例では、配線パターン18aは、第1リアクトルL1〜第3リアクトルL3の各小リアクトルl1〜l4に対応する領域において他所より拡張される。詳細には、各配線パターン18aは、各小リアクトルl1〜l4の下方に対応する領域において、巻線15の適正な接続に必要な距離だけ互いに離間するように、拡張して形成される。このように、配線パターン18aは、電流経路として必要のない領域まで拡張される。
【0074】
第10実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。例えば電力変換器が、チョッパ型回路を用いて電力変換する場合、リアクトルLに流れる電流は、方向が等しく、電流値が増減する。この場合、巻線15に銅損は、第1磁性体12、支柱状磁性体13及び第2磁性体14による鉄損より大きい。特に、電力変換器が大電力を変換する場合、リアクトルLに流れる電流も大きくなり、巻線15によるジュール損も大きくなる。第10実施形態に係る電力変換器では、巻線15において発生した熱を、第1磁性体12の下面に配置された配線パターン18aに、短距離且つ低熱抵抗で直接的に伝達することができる。
【0075】
また、配線パターン18aが、扁平なリアクトルLの下において拡張されていることにより、熱拡散の量を向上することができる。更に、配線基板17の下面に放熱器11が配置されることにより、巻線15において発生した熱を更に効果的に放熱することができ、リアクトルLの温度上昇を抑制することができる。また、リアクトルLが各小リアクトルl1〜l4に分割されることにより、発熱密度を低減させることができるとともに、各小リアクトルl1〜l4と配線パターン18aとの接続のための複数の貫通孔を第1磁性体12が有することにより、巻線15と配線パターン18aとの間の熱抵抗を更に低減させることができる。特に、巻線15における発熱が大きい場合、より効果的にリアクトルLの温度上昇を抑制することができる。
【0076】
(第11実施形態)
本発明の第11実施形態に係る電力変換器は、図15に示すように、配線基板17の代わりに、金属板31及び絶縁体32を備える点において第10実施形態と異なる。第11実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第10実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0077】
図15は、第11実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す図である。金属板31は、複数の巻線15の間を電気的に接続するようにパターニングされることにより形成される。金属板31の平面パターンは、例えば、第10実施形態における配線パターン18aと同様である。絶縁体32は、例えば樹脂材料や接着剤からなり、少なくとも金属板31と放熱器11との間を絶縁する。図15に示す例では、金属板31と第1磁性体12との間も同様に絶縁体32により絶縁されるが、第10実施形態等と同様に、他の手段により絶縁されてもよい。
【0078】
第11実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。例えば、巻線15等を接続する配線基板は、セラミック基板や金属ベース基板等の高価な絶縁基板でなく、放熱器11上に絶縁体32を介して、予めパターニングされた金属板31を固定することにより、製造コストを低減することができる。
【0079】
(第12実施形態)
本発明の第12実施形態に係る電力変換器は、図16に示すように、絶縁体32が、第1絶縁体33及び第2絶縁体32から構成される点において第11実施形態と異なる。第12実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第11実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0080】
図16は、第12実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルLの構造を示す図である。第1絶縁体33は、例えば樹脂材料又は接着剤からなり、放熱器11の上面に形成される。第2絶縁体32は、例えば樹脂材料からなり、少なくとも金属板31の上面に形成される。
【0081】
第12実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。例えば、予め第1絶縁体33を放熱器11の上面に形成し、第1絶縁体33の上面にパターニングされた金属板31を形成することにより、第1磁性体12の下面に絶縁層を介して配線パターンを形成し、再び絶縁層を介して放熱器11と接合するという手間を省くことができ、製造コストを低減することができる。
【0082】
特に、放熱器11上の金属板31に巻線15を接続した段階において、第1磁性体12は、金属板31上に狭小の隙間を空けた状態になる。巻線15と金属板31との接合箇所が多いことにより機械的強度が生じるので、この隙間に樹脂等を充填して第2絶縁体32により機械的な接合を成すことができる。これにより製造工程が単純化され、さらに製造コストを低減することができる。
【0083】
(第13実施形態)
本発明の第13実施形態に係る電力変換器は、放熱器11に他の部品が形成される点において第11実施形態と異なる。第12実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第12実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0084】
図17は、第13実施形態に係る電力変換器の構造を示す図である。放熱器11の下面には、半導体スイッチング素子を含むパワーモジュール回路P1〜P3、電力変換器の各部品を接続する回路基板(第1回路基板)B1及びコンデンサC1〜C2が配置される。
【0085】
第13実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、リアクトルLが薄型且つ扁平な板状であるため、放熱器11の下面側に電力変換回路を構成するパワーモジュール回路P1〜P3、回路基板(第1回路基板)B1及びコンデンサC1〜C2等を配置しやすい。特にリアクトルL用の配線は金属板31として放熱器11の上面すぐの箇所に位置するので、パワーモジュール回路P1〜P3、回路基板(第1回路基板)B1及びコンデンサC1〜C2等の配線も容易に接続することができる。
【0086】
図18に示すように、電力変換器は、第2磁性体14の上に配置された回路基板(第2回路基板)B2を更に備えるようにしてもよい。これにより、回路の規模が大きく、回路基板B1の面積が大きい場合であっても、第2磁性体14の上面側に回路基板B2を配置することにより、スペースを有効活用して回路を集積させることができ、高さが過大になることを防止することができる。
【0087】
(第14実施形態)
本発明の第14実施形態に係る電力変換器は、リアクトルが絶縁型の変圧器(トランス)として動作する点等において第11実施形態と異なる。第14実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第13実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0088】
図19は、第14実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す図である。図19(a)は断面図、図19(b)は電気配線を示す図である。第14実施形態におけるリアクトルは、複数の支柱状磁性体13の各々に巻かれて第1小リアクトルl11〜l14を形成する複数の第1巻線151と、複数の支柱状磁性体13の各々に巻かれて第2小リアクトルl21〜l24を形成する複数の第2巻線152とを備える。
【0089】
第1巻線151及び第2巻線152は、互いに絶縁するように、それぞれ電気的に直列に接続される。第1巻線151及び第2巻線152それぞれの間の接続は、例えば、第2磁性体14の上に配置された金属板31により行われる。第1小リアクトルl11〜l14は、第1入力端子S11と第1出力端子S12との間にそれぞれ形成され、第2小リアクトルl21〜l24は、第2入力端子S21と第2出力端子S22との間にそれぞれ形成される。
【0090】
第1小リアクトルl11〜l14及び第2小リアクトルl21〜l24は、それぞれ生じる磁束が隣接する第1小リアクトルl11〜l14及び第2小リアクトルl21〜l24で生じる磁束と逆向きとなるように配置される。つまり、図19(a)に示す例において、第1小リアクトルl11及び第2小リアクトルl21は、同一方向の磁束を生じ、生じる磁束が隣接する第1小リアクトルl12及び第2小リアクトルl22で生じる磁束と逆向きとなるようにそれぞれ配置される。このように、リアクトルは、電気的に1組の巻線から構成されるチョークコイルに限るものでなく、電気的に複数の組の巻線から構成されるトランスであってもよい。
【0091】
第14実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。例えば、トランスを構成するために、金属板31又は配線基板17等により、各小リアクトルの間を容易に接続することができる。また、全体サイズが大きくなりがちな大電力用トランスにおいて、第1巻線151及び第2巻線152の形成後に磁束を閉ループとするため第2磁性体14を広い面積において、容易かつ協力に接合することにより、製造コストを低減しつつ、サイズが過大になることを防止することができる。
【0092】
また、図20に示すように、金属板31及び絶縁体32からなる配線基板は、第11実施形態と同様に放熱器11と第1磁性体12との間に配置されるようにしてもよい。これにより、第1巻線151及び第2巻線152等において発生した熱を、拡張された金属板31に短距離且つ低熱抵抗で放熱器11に伝達し、より効果的にトランスの温度上昇を抑制することができる。
【0093】
また、図21に示すように、第14実施形態に係る電力変換器は、第1磁性体12の下面側及び第2磁性体14の上面側にそれぞれ配置された2つの放熱器11を備えるようにしてもよい。これにより、第1巻線151及び第2巻線152それぞれにおける発熱を、2つの放熱器11に効率よく伝達させることができ、より効果的にトランスの温度上昇を抑制することができる。
【0094】
また、図22に示すように、支柱状磁性体13は、複数の第1巻線151がそれぞれ巻かれた複数の第1支柱状磁性体131と、複数の第2巻線152がそれぞれ巻かれた複数の第2支柱状磁性体132とが接合されることにより構成されるようにしてもよい。例えば、リアクトルは、複数の第1支柱状磁性体131が形成された第1磁性体12と同等の複数の第2支柱状磁性体132が形成された第2磁性体14を用意し、それぞれ第1巻線151及び第2巻線152を第1支柱状磁性体131及び第2支柱状磁性体132に巻いた後、第1支柱状磁性体131及び第2支柱状磁性体132の各上面を互いに接合することにより形成される。これにより、トランスとして動作可能なリアクトルを容易に製造することができる。
【0095】
また、図22に示す例では、パワーモジュール回路P1〜P3、回路基板B及びコンデンサC1〜C2が上下2つの放熱器11にそれぞれ配置される。第13実施形態と同様に、薄型且つ扁平な板状の放熱器11に電力変換回路を構成する部品を容易に配置することができるとともに、スペースを有効活用して回路を集積させることができ、高さが過大になることを防止することができる。
【0096】
(第15実施形態)
本発明の第15実施形態に係る電力変換器は、第1巻線151と第2巻線152とが同一の支柱状磁性体13に巻かれない点等において第14実施形態と異なる。第15実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1〜第14実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0097】
図24は、第15実施形態に係る電力変換器で使用されるリアクトルの構造を示す図である。図24(a)は断面図、図24(b)は電気配線を示す図である。第15実施形態におけるリアクトルは、複数の第1巻線151は、隣接する支柱状磁性体13に巻かれないように、複数の支柱状磁性体13に互い違いに巻かれて複数の第1小リアクトルl11〜l12を形成する。複数の第2巻線は、複数の支柱状磁性体13のうち第1巻線151が巻かれない残りの支柱状磁性体13に巻かれて複数の第2小リアクトルl21〜l22を形成する。
【0098】
第1巻線151及び第2巻線152は、互いに絶縁するように、それぞれ電気的に直列に接続される。第1小リアクトルl11〜l12は、第1入力端子S11と第1出力端子S12との間にそれぞれ形成され、第2小リアクトルl21〜l22は、第2入力端子S21と第2出力端子S22との間にそれぞれ形成される。複数の第1小リアクトルl11〜l12及び複数の第2小リアクトルl21〜l22は、生じる磁束が互いに逆方向になるように配置される。
【0099】
第15実施形態に係る電力変換器によれば、以下の効果が得られる。すなわち、第1巻線151と第2巻線152とが、複数の支柱状磁性体13に交互に巻かれることにより、トランスの高さを抑え、より薄い構造とすることができる。
【0100】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明を第1〜第15実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0101】
既に述べた第1〜第15実施形態において、電流変換器は、例えば、電圧上昇防止用遅れリアクタンス源、高調波電流を阻止する力率改善回路、直流電流の平滑化回路等に利用可能である。
【0102】
上記の他、上記の実施形態において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0103】
11 放熱器
12 第1磁性体
13 支柱状磁性体
14 第2磁性体
15 巻線
16 配線
17 配線基板
18,18a 配線パターン(配線)
31 金属板
32 第2絶縁体(絶縁体)
33 第1絶縁体(絶縁体)
131 第1支柱状磁性体(支柱状磁性体)
132 第2支柱状磁性体(支柱状磁性体)
151 第1巻線(巻線)
152 第2巻線(巻線)
C1,C2 コンデンサ
D1,D2 ダイオード
L リアクトル
Ln 第nリアクトル
l1〜l4 小リアクトル
l11〜l14 第1小リアクトル(小リアクトル)
l21〜l24 第2小リアクトル(小リアクトル)
P1 第1パワーモジュール回路(パワーモジュール回路)
P2 第2パワーモジュール回路(パワーモジュール回路)
P3 第3パワーモジュール回路(パワーモジュール回路)
Q1,Q2 スイッチング素子(半導体スイッチング素子)


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23