特許第6769744号(P6769744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6769744-肥料成分供給方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769744
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】肥料成分供給方法
(51)【国際特許分類】
   A01C 21/00 20060101AFI20201005BHJP
   C05G 3/40 20200101ALI20201005BHJP
   C05F 1/00 20060101ALI20201005BHJP
   C05G 5/12 20200101ALI20201005BHJP
   C05G 5/14 20200101ALI20201005BHJP
   C05G 5/30 20200101ALI20201005BHJP
【FI】
   A01C21/00 Z
   C05G3/40
   C05F1/00
   C05G5/12
   C05G5/14
   C05G5/30
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-107225(P2016-107225)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-212885(P2017-212885A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】市村 高央
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−524714(JP,A)
【文献】 特公昭49−3343(JP,B1)
【文献】 特開昭63−134593(JP,A)
【文献】 実開昭61−122643(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 21/00
C05G 1/00 − 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥料成分および水を含む液状物を、吸水可能な粒状体に含浸させてなるコア体と、該コア体の表面に被覆された水硬性組成物からなる被覆層とからなる肥料成分供給用粒体を、土壌に施用して、該土壌中に上記肥料成分を供給する肥料成分供給方法であって、
上記肥料成分が、フィッシュソリュブルであり、
上記吸水可能な粒状体が、木質材料の破砕物であり、
上記コア体の粒度が2〜20mmであり、かつ、上記被覆層の厚みが1〜5mmであり、
上記水硬性組成物が、セメント及び水を含むものであり、
上記土壌が酸性土壌であることを特徴とする肥料成分供給方法。
【請求項2】
上記肥料成分供給用粒体が、通水性を有する収容手段の中に収容された形態で、上記土壌に施用される請求項に記載の肥料成分供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料成分供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌に施用される肥料の種類として、緩効性肥料、速効性肥料、及び、遅効性肥料が挙げられる。
一方、魚かす処理工程において発生する有機質の副産物であるフィッシュソリュブルは、アミノ酸等の窒素含有成分を多く含んでいることが知られており、肥料や飼料として使用されている。フィッシュソリュブルを肥料として使用する場合、その使用方法として、土壌に直接散布する方法や、フィッシュソリュブルと他の肥料を混合してなる複合肥料として使用する方法が一般的である。しかし、フィッシュソリュブルの肥料としての効果は速効性であるため、その施用量や施用回数を調整する必要があった。このため、フィッシュソリュブルを用いて、緩効性肥料を製造するための方法が検討されている。
【0003】
フィッシュソリュブルを用いた緩効性肥料の製造方法として、例えば、特許文献1には、鰹ソリュウブル液にプロテアーゼを添加したものを、加熱処理することにより得られた透明液部を分取して有機消化液を得る工程と、得られた有機消化液と尿素とホルムアルデヒドの混合物をアルカリ性下で加熱して緩効性有機液を得る工程と、得られた緩効性有機液に燐酸及びカリウム成分含有水溶液を混合する工程を含む、緩効性有機液体複合肥料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−178091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
土壌中に肥料成分を長期間継続して安定的に供給する方法があれば、肥料の施用回数を減らし、かつ、肥料の過剰供給を防ぐことができ、好都合である。
本発明の目的は、土壌中に肥料成分を長期間継続して安定的に供給する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、肥料成分および水を含む液状物を、吸水可能な粒状体に含浸させてなるコア体と、該コア体の表面に被覆された水硬性組成物からなる被覆層とからなる肥料成分供給用粒体を、土壌に施用して、該土壌中に肥料成分を供給する肥料成分供給方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1] 肥料成分および水を含む液状物を、吸水可能な粒状体に含浸させてなるコア体と、該コア体の表面に被覆された水硬性組成物からなる被覆層とからなる肥料成分供給用粒体を、土壌に施用して、該土壌中に上記肥料成分を供給することを特徴とする肥料成分供給方法。
[2] 上記肥料成分が、窒素とカリウムのいずれか一方または両方を含む前記[1]に記載の肥料成分供給方法。
[3] 上記肥料成分が、水産業または畜産業における処理対象物の加工工程で発生する副産物を原料として用いてなる有機質成分である前記[1]または[2]に記載の肥料成分供給方法。
[4] 上記有機質成分がフィッシュソリュブルである前記[3]に記載の肥料成分供給方法。
[5] 上記コア体の粒度が0.1〜50mmであり、かつ、上記被覆層の厚みが0.1〜10mmである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の肥料成分供給方法。
[6] 上記土壌が酸性土壌である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の肥料成分供給方法。
[7] 上記肥料成分供給用粒体が、通水性を有する収容手段の中に収容された形態で、上記土壌に施用される前記[1]〜[6]のいずれかに記載の肥料成分供給方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の肥料成分供給方法によれば、土壌中に肥料成分を長期間継続して安定的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】通水性を有する収容手段に肥料成分供給用粒体を収容した状態の種々の例を示す図である。
図2】通水性を有する複数の収容手段に肥料成分供給用粒体を収容した状態の種々の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の肥料成分供給方法は、肥料成分および水を含む液状物を、吸水可能な粒状体に含浸させてなるコア体と、該コア体の表面に被覆された水硬性組成物からなる被覆層とからなる肥料成分供給用粒体を、土壌に施用して、該土壌中に肥料成分を供給する方法である。
肥料成分とは、植物を生育させることができる成分を含むものをいう。植物を生育させることができる成分としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン、バリン、トリプトファン、オルニチン等のアミノ酸や、これらのアミノ酸を構成単位として含む、ペプチドもしくはタンパク質等の、有機肥料成分;窒素、リン、カリウム、マグネシウム、ケイ素、硫黄等の、無機肥料の主要成分;鉄、銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルト、モリブデン等の、無機肥料の微量成分等が挙げられる。
植物を生育させることができる成分は、肥料成分中に1種を単独で、あるいは2種以上含まれていてもよい。
【0010】
肥料成分は、施用後、土壌中に長期間継続して安定的に肥料成分を供給できる観点から、窒素とカリウムのいずれか一方または両方を含むことが好ましい。なお、該「窒素」には、無機化合物に含まれる窒素(N)の他に、有機化合物(アミノ酸、ペプチド、タンパク質等)に含まれる窒素(N)も包含するものとする。
また、肥料成分として、水産業または畜産業における処理対象物の加工工程で発生する副産物を原料として用いてなる有機質成分を用いてもよい。該有機質成分を用いることで、水産業または畜産業において発生する副産物を、廃棄することなく有効活用できる。
有機質成分の具体例としては、食品加工業や水産加工業において排出される煮汁や、フィッシュミール処理工程で発生するフィッシュソリュブル等が挙げられる。中でも、入手の容易性や、窒素含有物(アミノ酸、ペプチド、タンパク質等)を十分に含んでいる観点から、フィッシュソリュブルが好適である。
【0011】
肥料成分は、肥料成分および水を含む液状物の状態で吸水可能な粒状体に含浸される。該液状物は、例えば、肥料成分と水を、用途に応じて適宜配合を調整して混合してなる水溶液又は懸濁液として調製することができる。また、上述した煮汁やフィッシュソリュブルは、肥料成分および水を含む液状物であることから、さらに水を加えることなく、そのまま使用することも可能である。
【0012】
吸水可能な粒状体としては、肥料成分および水を含む液状物を含浸することができる材料であればよく、無機質の材料と有機質の材料のいずれも使用することができる。
無機質の材料としては、例えば、頁岩、軽石、火山性ゼオライト、珪藻土、シラス、バーミキュライト、炭酸カルシウム含有物質(石灰岩、貝殻、鶏卵の殻等)等やこれらの焼成物;オートクレーブにより水熱合成したケイ酸カルシウム化合物の粉砕品および破砕品;アルミニウム粉により発泡させたケイ酸カルシウム化合物の粉砕品および破砕品;真珠岩や黒曜石を粉砕した後に、焼成して発泡させた焼成物;煉瓦や陶磁器等の破砕物等が挙げられる。
【0013】
有機質の材料としては、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール等の合成樹脂を発泡させたもの;天然または人工のゴム;木質材料の破砕物等が挙げられる。
上記木質材料における木の種類は、特に限定されるものではない。また、木質材料として、木材の切削時に発生するおがくずや、合板の作製時に発生する端切れ材や、建設廃材や、間伐などで発生する木材等の破砕物等を使用することができる。
また、肥料成分および水を含む液状物の含浸可能量をより増大させ、かつ、含浸に要する時間をより短くできる観点から、多孔質の吸水可能な粒状体が好ましい。
【0014】
粒状体は、粒度(粒状体が球状である場合には直径、棒状の場合には長手寸法)を調整せずに使用してもよく、あるいは、目的に応じて粒度が特定の範囲内となるように調整して使用してもよい。該粒度は、粒状体の形状によっても異なるが、含浸を行う際に肥料成分等を粒状体の内部にまで十分に浸漬させる観点からは、好ましくは50mm以下、より好ましくは30mm以下である。また、該粒度は、後述する成形を行う場合、成形の容易性の観点から、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下、特に好ましくは5mm以下である。
【0015】
粒状体に肥料成分および水を含む液状物を含浸させることで、内部に肥料成分等を有するコア体を得ることができる。
粒状体に、肥料成分および水を含む液状物を含浸させる方法としては、例えば、該液状物に上記粒状体を一定時間浸漬する方法や、該液状物と上記粒状体をミキサーにより混練する方法等が挙げられる。中でも、短時間で上記液状物を十分に浸漬させる観点から、ミキサーを用いて混練する方法が好ましい。
【0016】
上記ミキサーについては特に限定されるものではなく、粉体の混合において一般的に使用されるミキサー(例えば、モルタルやコンクリートの練り混ぜに使用されるミキサー)を用いればよい。
具体的には、縦型ミキサー、横型ミキサー、ナウターミキサー、傾胴ミキサー、強制ミキサー、二軸ミキサー等が挙げられる。縦型ミキサーとしては、例えば、ホバート社製の「ホバートミキサー」、ヘンシェル社製の「ヘンシェルミキサー」等が挙げられる。横型ミキサーとしては、例えば、レディゲ社製の「レディゲミキサー」等が挙げられる。
また、ペール缶等の容器に上記粒状体と上記液状物を投入して、ハンドミキサー等を用いて混練して含浸させてもよい。
【0017】
肥料成分および水を含む液状物の配合量は、該液状物の固形分濃度によっても異なるが、含浸後にコア体を成形することが容易であり、かつ、成形後のコア体が崩壊しない観点から、上記粒状体100質量部に対して、好ましくは10〜400質量部、より好ましくは50〜350質量部である。
【0018】
肥料成分および水を含む液状物を含浸させた、未成形の粒状体を、そのままコア体として使用してもよいが、該液状物が十分に含浸された肥料成分供給用粒体を得る観点から、該液状物を含浸させた粒状体を成形してなる成形物(成形造粒物)を、コア体として使用することが好ましい。
成形物を製造する方法としては、転動造粒、攪拌造粒、圧縮造粒、押出造粒等の各種造粒方法を用いることができる。また、造粒に用いられる装置としては、パンペレタイザー、ミキサー、ディスクペレッター等を用いることができる。
また、造粒を行う際に、必要に応じてバインダーを添加しても良い。
【0019】
コア体の粒度(直径または長手寸法)は、好ましくは0.1〜50mm、より好ましくは0.5〜25mm、さらに好ましくは1〜20mm、特に好ましくは2〜15mmである。該粒度が0.1mm以上であれば、コア体の表面に、より容易に被覆層を形成することができ、かつ、コア体に含浸される液状物の量を増やすことができる。該粒度が50mm以下であれば、より容易に成形物を成形することができる。
【0020】
被覆層を形成するための水硬性組成物としては、無機系の材料が好ましく、例えば、セメント、石膏類等が挙げられる。上記セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のJISに規定されている各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、スラグセメント、エコセメント、及びアルミナセメント等が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、汎用性の点から、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0021】
また、被覆層を形成するための水硬性組成物は、施用の対象となる土壌の性質や、生育を目的とする植物の種類によって、土壌のpHを調整する必要がある場合、土壌のpHを調整する目的で、リン酸塩、マグネシウム塩等の肥料成分を含んでいてもよい。
また、上記水硬性組成物は、被覆層の性状に影響を及ぼさない範囲内で、石灰石微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ、カルシウムアルミネート、ドロマイト等の混和材;ビニロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、カーボン、ガラス、鉄等からなる、有機質または無機質の繊維;上述した粒状体に用いられる無機質や有機質の材料と同じ材料;一般的にコンクリートやモルタルに用いられている骨材(細骨材、粗骨材);一般的にコンクリートやモルタルに用いられている、硬化促進剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、AE剤、減水剤、高性能減水剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤等の、硬化性状等を調整するための混和剤等を含んでいてもよい。
さらに、水硬性組成物は、水を含む。水は、通常、コア体に水硬性組成物を被覆する直前に、水以外の材料と混合されて、水硬性組成物の材料となる。
【0022】
コア体を水硬性組成物で被覆することにより、本発明で用いる肥料成分供給用粒体を得ることができる。
コア体を水硬性組成物で被覆する方法としては、(i)コア体をコーティング装置に投入して、該装置を回転させながら、水硬性組成物を投入(水硬性組成物を構成する水以外の材料と水を同時に投入)してコア体を被覆する方法、
(ii)コア体をコーティング装置に投入して、該装置を回転させながら、予め練り混ぜた水硬性組成物(水硬性組成物を構成する水以外の材料と水を練り混ぜてなるスラリー)をコーティング装置に投入し、コア体を被覆する方法、(iii)水硬性組成物を構成する水以外の材料をコーティング装置に投入して、該装置を回転させながら、コア体を投入して、更に水を投入し、コア体を被覆する方法等が挙げられる。
中でも、作業の容易性の観点から、上記(i)の方法が好ましい。
【0023】
上記コーティング装置としては、パンコーティング装置や、転動コーティング装置等が挙げられる。中でも、作業効率の観点から、パンコーティング装置が好ましい。
上記水硬性組成物からなる被覆層の厚さは、肥料成分供給用粒体が容易に崩壊しなくなり、肥料成分の供給量が過大になることを防ぎ、かつ、より長期間継続して肥料成分を供給することができる観点からは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上、特に好ましくは3mm以上である。また、肥料成分の供給量を多くする観点からは、好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下、さらに好ましくは6mm以下、特に好ましくは5mm以下である。
【0024】
また、被覆層の厚さを調整することで、土壌中への肥料成分の供給量を調整することができる。例えば、降雨量や散水量が多い場合、被覆層の厚さをより大きくすることで、肥料成分の供給量が過大になることを防ぎ、より長期間継続して肥料成分を供給することができる。一方、降雨量や散水量が少ない場合、被覆層の厚さをより小さくすることで、肥料成分の供給量が過小になることを防ぐことができる。
【0025】
コア体を水硬性組成物で被覆し、次いで、該水硬性組成物を十分硬化させることで、本発明に用いる肥料成分供給用粒体を得ることができる。
肥料成分供給用粒体の粒度(直径または長手寸法)は、好ましくは0.2〜60mm、より好ましくは1〜40mm、特に好ましくは5〜30mmである。該粒度が0.2mm以上であれば、肥料成分の供給をより長期間継続させることができ、かつ、大雨等による肥料成分供給用粒体の流出をより防ぐことができる。該粒度が50mm以下であれば、肥料成分の供給量が過小になることを防ぐことができる。
また、肥料成分供給用粒体を後述する通水性を有する収容手段に収容する場合、該粒体の粒度は、肥料成分供給用粒体の流出を防ぐ観点から、該収容手段を通過することができない大きさであることが好ましい。
【0026】
本発明で用いる肥料成分供給用粒体は、水硬性組成物からなる被覆層を有するため、土壌中への肥料成分の過剰供給を防ぐことができ、肥料成分を長期間継続して安定的に供給できる。特に、肥料成分として、窒素およびカリウム(特に、窒素)を長期間継続して安定的に供給することができる。
また、土壌中に脂肪酸が存在する場合、該脂肪酸によって、植物への肥料成分の吸収が阻害されることがあるが、本発明においては、コア体の表面を水硬性組成物からなる被覆層によって被覆することで、肥料成分が脂肪酸を含む場合(例えば、肥料成分がフィッシュソリュブル等の有機質成分である場合)であっても、脂肪酸が土壌中に供給されることを防ぐことができる。
【0027】
また、本発明で用いる肥料成分供給用粒体は、アルカリ性であるため、土壌に施用することで、土壌のpHをより高くすることができる。このため、石灰や苦土石灰等のpH調整材を使用せずに、土壌のpHを調整することができ、酸性土壌への施用に好適である。
また、肥料成分として、pHが酸性であるフィッシュソリュブルを用いた場合であっても、土壌のpHを低下させることがない。
【0028】
上述した肥料成分供給用粒体を、土壌に施用することで、該土壌中に肥料成分を供給することができる。
肥料成分供給用粒体を土壌に施用する方法としては、手作業であるいは市販の肥料散布機や種まき機等を用いて、土壌の表面に肥料成分供給用粒体を散布する方法や、肥料成分供給用粒体と土壌を混合する方法や、肥料成分供給用粒体を土壌に散布した後、該粒体を土壌で覆って該粒体を土壌中に埋設する方法等が挙げられる。
本発明で用いる肥料成分供給用粒体の施用量は、施用の対象となる土壌の性質、施肥の対象となる植物の種類や生育期間、散水量や年間降雨量等を勘案して定めることができる。
【0029】
また、土壌への肥料成分の供給を特定の範囲に限定したい場合や、直接施用することが困難な場所に施用する場合や、肥料成分の供給量が低下した肥料成分供給用粒体を後で回収する必要がある場合等においては、肥料成分供給用粒体が、通水性を有する収容手段の中に予め収容された形態で、土壌に施用することもできる。該収容手段は、通水性を有するものであれば良く、具体的には、セルロース繊維、ポリアミド合成繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等の有機繊維や、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ロックウール、スラグウール等の無機繊維等の繊維を用いた、織布または不織布からなる袋;鉄、プラスチック、木材、石材、陶磁器、水硬性組成物(例えば、セメントを含む組成物)等を原材料として形成した、収納スペースを有する容器等が挙げられる。
収容手段における通水性を有する部分は、収容手段の一部分(一領域)でも全体(全領域)であってもよい。
【0030】
通水性を有する部分の目開きの寸法は、好ましくは1〜25mm、より好ましくは3〜15mm、特に好ましくは5〜10mmである。目開きの寸法が1mm以上であれば、肥料成分を収容手段の外部に容易に供給することができる。また、目開き部分から収容手段内部に植物の根が入り込むことができるため、植物の成長を阻害することがなく、入り込んだ根が定着することで植物の倒伏や収容手段の流亡を防ぐことができる。さらに、昆虫類やミミズ等の小型の生物が、収容手段の内部に自由に出入りすることができ、かつ、収容された肥料成分供給用粒体同士の隙間に入り込んで棲みつくことができる。
また、目開きの寸法は、肥料成分供給用粒体の流出を防ぐ観点から、収容手段に収容された肥料成分供給用粒体が通過することができない寸法であることが好ましい。
【0031】
収容手段の中に収容される肥料成分供給用粒体の量は、用途に応じて適宜定めればよいが、好ましくは0.5〜50kg、より好ましくは1〜30kgである。また、該量が0.5kg以上であれば、肥料成分を十分に供給することができる。該量が50kg以下であれば、大きな労力を必要とせずに、収容手段の設置作業や撤去作業を実施することができる。
【0032】
以下、上記収容手段について、図1、2を参照にしながら説明する。
図1中、収容体4は、肥料成分供給用粒体1を、袋状である収容手段2に収容してなるものである。
また、収容体5は、肥料成分供給用粒体1を、円筒形の容器である収容手段3に収容してなるものである。
なお、収容手段の形状は、その内部に肥料成分供給用粒体を収容できるものであればよく、図1に示す形状(袋状、円筒形状)に限定されるものではない。
【0033】
本発明において、収容体は単体で使用してもよいが、より多量の肥料成分を供給する観点から、複数個の収容体からなる集合体として使用してもよい。
図2中、集合体9は、第一の収容体4を、複数個、通水性を有する第二の収容手段6の中に収容してなるものである。第二の収容手段6は、袋状である収容手段2と比べて、より大きな袋状のものである。なお、第二の収容手段は、第一の収容体を複数個収容できるものであればよく、上述した第一の収容手段と同様の構造を有し、大きさのみが異なるものを使用できる。第二の収容手段の中に収容される収容体の個数は、特に限定されるものではないが、設置作業や撤去作業を容易にする観点から、通常、2〜6個である。
【0034】
集合体10は、複数個の収容体5を、結束部材7を用いて互いに連結してなるものである。結束部材7としては、複数個の収容体5を互いに固定できるものであればよく、例えば、結束バンド、ロープ、針金等が挙げられる。収容体5は水平方向に並列に並べて連結しても良く、鉛直方向に積層して連結してもよい。
集合体11は、複数個の収容体5を結束部材7により基体8に固定してなるものである。基体8としては、複数個の収容体5を固定できるものであればよく、例えば、金属、木材、プラスチック、段ボールなどからなる板状のものであれば形状は特に限定されない。収容体5は横置き(図2に示す形態)でも縦置きでもよく、また、複数の段にして固定してもよい。
【0035】
肥料成分供給用粒体を収容手段の中に収容した形態で、土壌に施用する方法としては、土壌の表面に該収容手段を直接設置する方法や、土中に該収容手段を埋設して使用する方法等が挙げられる。
肥料成分供給用粒体を収容手段の中に収容した形態で土壌に施用することにより、以下の(1)〜(2)の効果を得ることができる。
(1)肥料成分供給用粒体の設置および回収が容易である。
(2)単位面積あたりの施肥量の調整が容易である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
木材加工工場において木材の切削時に発生したおがくずを、目開きが3mmである篩を用いて篩分けを行い、粒径が3mm以下であるおがくずからなる粉体を得た。なお、おがくずは多孔質の物質である。得られた粉体1kgと、肥料成分および水を含む液状物としてフィッシュミール工場において発生した可溶性タンパク質水溶液であるフィッシュソリュブル3kgを、ホバートミキサーを用いて2分間混合して、粉体にフィッシュソリュブルを含浸させた。
含浸後の粉体を、直径が1mであるパンペレタイザーを用いて造粒し、次いで、得られた成形物(成形造粒物)を1日自然乾燥させた後、篩分けにより、粒径が5〜10mmであるコア体(成形造粒物)を得た。
【0037】
該コア体を、前述のパンペレタイザーに入れて、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)と水を適宜添加しながらパンペレタイザーを回転させて、コア体のコーティングを行い、粒径が10〜15mmである肥料成分供給用粒体を調製した。
なお、コア体100質量部当たり、普通ポルトランドセメントの配合量は800質量部であり、水の配合量は概ね200質量部であった。
また、肥料成分供給用粒体10粒を、その中心を通る面で切断して、被覆層の厚みを測定したところ、該厚みは、平均で2.3mmであった。
【0038】
得られた肥料成分供給用粒体からの肥料成分の溶出量を、タンクリーチング試験による促進溶出試験を用いて測定した。
具体的には、得られた肥料成分供給用粒体20粒を、ポリ容器内に収容した蒸留水1,000gに投入し、常温(20℃)で静置した。静置後、表1に示す各材齢において、ポリ容器内の溶液10mlを採取して、該溶液中の全窒素濃度(mg/リットル)を「JIS K 0102:2013 (工場排水試験方法) 45.4(銅・カドミウムカラム還元法)」に準拠して測定した。また、該溶液中の全リン濃度(mg/リットル)を「JIS K 0102:2013 (工場排水試験方法) 46.3.1(ペルオキソ二硫酸カリウム分解法)」に準拠して測定した。また、該溶液中のカリウム濃度(mg/リットル)を「JIS K 0102:2013 (工場排水試験方法) 49.2(フレーム原子吸光法)」に準拠して測定した。
測定した濃度が大きいことは、窒素、リン又はカリウムの溶出量が多いことを意味する。
なお、フィッシュソリュブルには、有機肥料成分であるタンパク質、ペプチド及びアミノ酸が含まれている。窒素はタンパク質、ペプチド及びアミノ酸に含まれることから、溶液中の全窒素濃度を測定することで、肥料成分供給用粒体から溶出したタンパク質、ペプチド及びアミノ酸の全量中の窒素量がわかる。
また、各材齢における溶液のpHを、pHメータ(堀場製作所社製、商品名「ポータブル型pHメータ D−71」)を用いて測定した。
【0039】
[実施例2]
パンペレタイザーを用いて、粒径が15〜20mmである肥料成分供給用粒体を調製する以外は実施例1と同様にして、肥料成分供給用粒体を得た。
実施例1と同様にして、得られた肥料成分供給用粒体の被覆層の厚みを測定したところ、該厚みは、平均で4.1mmであった。
また、得られた肥料成分供給用粒体について実施例1と同様にして、全窒素濃度、全リン濃度、カリウム濃度、及びpHを測定した。
【0040】
[比較例1]
実施例1で得られたコア体(成形造粒物)を、普通ポルトランドセメントを用いたコーティングを行わずに、肥料成分供給用粒体とした。該肥料成分供給用粒体について実施例1と同様にして、全窒素濃度、全リン濃度、カリウム濃度、及びpHを測定した。
結果を表1、2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1から、本発明で用いる肥料成分供給用粒体(実施例1、2)によれば、肥料成分を長期間継続して安定的に供給できることがわかる。特に、窒素およびカリウムは安定的に供給されていることがわかる。また、実施例1〜2及び比較例1から、被覆層の厚さが増加するのに伴って、肥料成分の溶出量が少なくなっていることがわかる。
表2から、本発明に用いる肥料成分供給用粒体が投入された溶液(実施例1、2)のpHは高いことがわかる。このことから、本発明に用いる肥料成分供給用粒体を土壌に施用した場合、土壌のpHを高くできる(例えば、酸性土壌に施用することで、土壌のpHが中性領域となるように調整できる。)ことがわかる。
なお、実施例では、促進溶出試験を行っているため、材齢1日目から溶液のpHが高い値を示している。しかし、実際に肥料成分供給用粒体を土壌に施用した場合、pHの上昇は実施例よりも緩やかであり、また、土壌中への拡散や酸性土壌による中和によって、pHの上昇が緩衝されるため、本発明に用いる肥料成分供給用粒体を施用することによって、pHが過度に上昇して植物の生育に影響を及ぼすことはない。
【符号の説明】
【0044】
1 肥料成分供給用粒体
2 収容手段(袋状のもの;第一の収容手段)
3 収容手段(円筒形の容器;第一の収容手段)
4、5 収容体
6 第二の収容手段(収容手段2より大きい袋状のもの)
7 結束部材
8 基体
9、10、11 集合体
図1
図2