【文献】
WANG, Xiaorui, et al.,Highly Selective Fluorogenic Multianalyte Biosensors Constructed via Enzyme-Catalyzed Coupling and Aggregation-Induced Emission,Journal of the American Chemical Society,米国,American Chemical Society,2014年 7月 1日,136(28),9890-9893
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記物質Aが、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、抗体、抗原、酵素、ホルモン、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖類、ビタミン類、脂質、薬剤、基質、ホルモン類、神経伝達物質、イミノジ酢酸、2−アミノフェニル硼素酸、4−アミノベンズアミジン、グルタチオンおよびこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪被検物質の測定方法≫
本発明に係る被検物質の測定方法(以下「本方法」ともいう。)は、
特異的結合物質Aを含み、重合開始能を有する複合体を調製する工程1、
工程1で得られた複合体と、前記物質Aと特異的に結合する物質Cとを結合させる工程2、
工程2で得られた系中で、前記重合開始能を有する部位により反応し、かつ、重合することで着色または発光するモノマーまたはオリゴマー(以下「モノマー等」ともいう。)を重合させる工程3、および、
前記モノマー等を重合することで生じる、着色または発光により前記物質Aまたは物質Cを測定する工程4を含む。
なお、本発明における被検物質とは、具体的には、前記物質Aまたは物質Cのことである。
【0022】
本方法は、臨床診断分野に特に好適に用いられ、次世代高感度検出・診断装置等に好適に利用できると考えられる。
また、本方法は、ELISA法、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)、イムノクロマト法等における増感方法としても使用できる。
【0023】
本方法は、前記用途に好適に用いることができる等の点から、水系媒体(例:PBS)中で行うことが好ましい。
【0024】
<工程1>
本方法は、特異的結合物質Aを含み、重合開始能を有する複合体を調製する工程1を含む。
本方法では、この工程1で得られた複合体を用いることで、具体的には、この複合体上または複合体付近において、重合することで着色または発光するモノマー等を重合させることで、短時間、高感度で被検物質を測定、定量等することができる。
【0025】
(特異的結合物質A)
前記物質Aは、特異的結合性を有する物質であれば特に制限されず、具体的には、前記物質Cと特異的に結合する物質である。
前記物質Aは、複合体を構成する成分であり、本方法の使用態様により、被検物質ともなる成分でもある。
なお、本発明において、「結合」とは、吸着等を含む概念である。
【0026】
前記物質Aとしては、例えば、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、抗体、抗原、酵素、ホルモン、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖類、ビタミン類、脂質、薬剤、基質、ホルモン類、神経伝達物質、イミノジ酢酸、2−アミノフェニル硼素酸、4−アミノベンズアミジン、グルタチオンおよびこれらの誘導体が挙げられる。
物質Aは、1種単独でもよく、2種以上の混合物でもよい。
【0027】
前記タンパク質としては、特に制限されず、アミノ酸のみで構成される単純タンパク質;糖鎖を含む糖タンパク質、脂質を含むリポタンパク質、リン原子を含むリンタンパク質、核酸を含む核タンパク質,金属原子を含む金属タンパク質などのアミノ酸以外の成分を含む複合タンパク質等が挙げられる。
より具体的には、免疫グロブリン、サイトカイン、ホルモン、アルブミン、グロブリン、プロテインA、プロテインG、プロテインL、Fc結合タンパク、(ストレプト)アビジン、レクチン、濾胞刺激ホルモンなどの蛋白ホルモン、これらの機能性変異体等が挙げられる。
【0028】
前記ペプチドとしては、インシュリン、C−ペプチド(CPR)、ナトリウム利尿ペプチド(NP)、I型コラーゲン−C−テロペプチド(I CTP)、可溶性メソテリン関
連ペプチド等が挙げられる。
【0029】
前記抗体としては、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれを用いてもよい。
なお、前記抗体としては、いずれのイムノグロブリンクラスおよびサブクラスでもよく、さらには抗体断片でもよい。抗体断片とは、前述の抗体の一部分を意味し、具体的にはF(ab’)
2、Fab’、Fab、Fv、Disulfide−linked Fv、single chain Fv(scFv)およびその重合体等がこれにあたる。
【0030】
前記抗原としては、血液の抗原、細菌等の菌類、カビ、原虫またはウィルスなどの微生物、これらの一部、癌抗原、代謝産物、農薬、汚染物質、細胞表面の抗原等が挙げられる。
前記核酸としては、DNA、RNA、GNA、LNA、PNA、TNA、プラスミド、ファージ、合成オリゴヌクレオチド等が挙げられる。
前記糖類としては、ヘパリン、ルイスX、ガングリオシド、グルコース等の糖類または多糖類が挙げられる。
前記ビタミン類としては、ビオチン等が挙げられる。
前記脂質としては、レシチンを含む物質が挙げられ、具体的には、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン等が挙げられる。
【0031】
前記薬剤としては、特に制限されないが、アルカロイド、ステロイド、バルビツール酸塩などの5または6環員のラクタム類、アンフェタミンなどの炭素原子2〜3個のアルキルを有するアミノアルキルベンゼン、オキシアゼパムなどのベンズ複素環類、プリン類、カンナビノールなどのマリファナ誘導体、チロキシンなどのホルモン類、プロスタグランジン類、イミプラミンなどの3環式の抗うつ剤、メトトレキサートなどの抗新生物剤、ペニシリンなどの抗生物質等が挙げられる。
【0032】
前記基質としては、デンプン等が挙げられる。
前記ホルモン類としては、チロキシン等が挙げられる。
前記神経伝達物質としては、グルタミン酸、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、グリシン、ペプチド性神経伝達物質等が挙げられる。
【0033】
また、前記物質Aとしては、特異的結合性を有する物質を含む試料(例:尿、血液、血漿、血清、唾液)に含まれたものであってよい。該試料はそのまま本方法に用いてもよいし、特異的結合性を有する物質を分離するなどの前処理をして本方法に用いてもよい。
【0034】
これらの中でも、物質Aとしては、診断薬用等に適したリガンド結合固相担体が得られる等の点から、抗体または抗原が好ましい。
【0035】
(複合体)
前記複合体は、前記物質Aを含み、かつ、重合開始能を有すれば(重合開始能を示す部位を有すれば)特に制限されない。
重合開始能を有する部位は、複合体を調製する際に用いる化合物等の原料と反応した別の物質から間接的に生じる部位(基)でもよいが、複合体を調製する際に用いる化合物等の原料由来の部位(基)であることが好ましく、重合開始剤または増感剤由来の重合開始能を有する部位(基)であることがより好ましい。
【0036】
前記重合開始能を有する部位により開始される重合は、ラジカル重合性でもイオン重合性でもよいが、特にラジカル重合性であることが好ましい。
【0037】
前記重合開始剤としては、熱重合開始剤や光重合開始剤を用いることができるが、得られる複合粒子を臨床診断分野などに用いる場合には、熱重合により重合系が悪影響を受けることがあるため、特に光開始剤が好ましい。
また、前記増感剤としては、光増感剤が好ましい。
前記重合開始剤および増感剤はそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよく、重合開始剤および増感剤を併用してもよい。
【0038】
本方法において、重合開始剤由来の重合開始能を示す部位を有する複合体を用いる場合、該複合体上で前記モノマー等が重合するため、該複合体が存在するその場所で着色または発光が生じる。このように、該複合体を用いることで、着色または発光が生じる場所が特定の場所に定まるため、イムノクロマト法などの被検物質が流動する場合でも、ELISA法などの被検物質が流動しない場合でも、該複合体は好適に用いることができるが、特に、イムノクロマト法などの被検物質が流動する被検物質の測定方法において、より効果が発揮される。
【0039】
一方、本方法において、増感剤由来の重合開始能を示す部位を有する複合体を用いる場合、トリエチルアミン等を用いることにより発生されるラジカルや、酸素と反応することにより発生される一重項酸素などにより、該複合体付近で前記モノマー等が重合し、該複合体が存在する付近で着色または発光が生じる。このため、イムノクロマト法などの被検物質が流動する被検物質の測定方法に該複合体を用いてもよいが、ELISA法などの被検物質が流動しない被検物質の測定方法に該複合体は好適に用いられる。
【0040】
前記熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキサイド、2,2’−アゾビス〔2−N−ベンジルアミジノ〕プロパン塩酸塩などの水溶性開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤等が挙げられる。
【0041】
前記光重合開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン類、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール類、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド;IRGACURE184、369、651、500、907、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61;Darocure1116、1173、LucirinTPO(以上、BASF社製);ユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0042】
前記光増感剤としては、ローダミンやフルオレセインのようなキサンテン系色素をはじめとして、フタロシアニン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素、アクリジン系色素などが挙げられる。また、これら以外の他の光増感剤の例としては、N.F. Turroの「Molecular Photochemistry」, p 132, W.A. Benjamin Inc., NY. 1965に記載されている化合物が挙げられる。
【0043】
前記複合体における重合開始剤または増感剤由来の重合開始能を有する部位(基)の割合は、該複合体上または該複合体付近で前記モノマー等の重合が容易に起こり、該複合体上または該複合体付近でより確実に着色または発光が生じる等の点から、複合体1物質量(mol)に対し、好ましくは1〜1000等量、より好ましくは、2〜100等量である。
【0044】
前記複合体は、例えば、前記物質Aと重合開始剤または増感剤とを結合させることで得ることができる。このような結合は、常法に従い行えばよいが、共有結合法で行うのが好ましい。例えば、前記物質Aがアミノ基を有する抗体であれば、該抗体のアミノ基と、重合開始剤または増感剤の一部とを化学的に結合させたものが挙げられる。
【0045】
なお、このような結合としては、前記物質Aと重合開始剤または増感剤とが直接結合していてもよいし、何らかを介して結合していてもよい。
このような例としては、前記物質Cと特異的に結合する一次抗体と該一次抗体に結合した二次抗体とを含む複合体であって、該二次抗体に重合開始剤または増感剤が結合した複合体や、前記物質Cと特異的に結合する抗原と該抗原に結合した抗体とを含む複合体であって、該抗体に重合開始剤または増感剤が結合した複合体が挙げられる。
【0046】
また、前記複合体は、アガロース、マイクロタイタープレート内面、メンブレン、ラテックス粒子、各種素材によるビーズ等の臨床診断分野で通常用いられる固相担体を含んでいてもよい。このような固相担体を含む複合体としては、該固相担体に前記物質Aが結合し、該物質Aに重合開始剤または増感剤等が結合した複合体や、前記物質Aと重合開始剤または増感剤等とが前記固相担体を介して結合した複合体が挙げられる。
【0047】
なお、前記結合の際には、従来公知の縮合剤、例えば、1−Ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochlorideなどを用いてもよい。
【0048】
<工程2>
本方法は、工程1で得られた複合体と、前記物質Aと特異的に結合する物質Cとを結合させる工程2を含む。
前記物質Cとしては、前記物質Aと特異的に結合すれば特に制限されず、その具体例としては、前記物質Aとして例示した物質と同様の物質が挙げられる。
【0049】
この工程2で得られる複合体と物質Cとの結合体は、固定化された状態であることが好ましい。具体的には、抗原を含む複合体を用い、前記物質Cとして抗体を用いる場合には、予め抗体をマイクロタイタープレート内面やメンブレンなどの前記固相担体上に固定し、そこに複合体が結合した結合体であってもよく、予め複合体をマイクロタイタープレート内面やメンブレンなどの前記固相担体上に固定し、そこに抗体が結合した結合体であってもよい。
このように、前記複合体と物質Cとの結合体が固定化されることで、例えば、イムノクロマト法などにおいて、所定の場所、例えば、着色または蛍光ライン等により、被検物質を測定することができる。
【0050】
前記複合体と物質Cとを結合させる方法としては、用いる複合体および物質Cに応じて適宜選択すればよく、例えば、抗原を含む複合体を用い、前記物質Cとして抗体を用いる場合には、抗原抗体反応により結合させればよい。
また、前記複合体と物質Cとを結合させる際には、複合体をPBS等の臨床診断分野等で通常用いられる液に溶解させた溶液を用いてもよい。
【0051】
なお、前記複合体と物質Cとを結合させる際には、前記複合体と物質Cとが直接結合していてもよいし、何らかを介して結合していてもよい。例えば、物質Aとして抗体を含む複合体を用い、前記物質Cとして抗原を用いる場合には、予め抗原を前記固相担体上に固定し、そこに複合体を直接結合させてもよいし、予め複合体を前記固相担体上に固定し、そこに抗原を直接結合させてもよいし、予め物質Cと特異的に結合する物質A以外の物質A'として抗体を前記固相担体上に固定し、そこに物質Cとして抗原を結合させ、さらにそこに複合体を結合させてもよい。
前記物質A、A'、C、複合体および固相担体はそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0052】
前記物質A'としては、前記物質Cと特異的に結合する物質A以外の物質であれば特に制限されず、その具体例としては、前記物質Aとして例示した物質と同様の物質が挙げられる。
【0053】
なお、前記固相担体上に前記物質A、A'、Cまたは複合体を結合させた後は、必要により、洗浄工程やブロッキング工程を行うことが好ましい。
前記洗浄工程を行うことで、所望の場所以外の場所に存在する遊離の物質A、A'、Cまたは複合体を除去することができ、該遊離の物質により、被検物質の誤測定を抑制することができる。
また、前記ブロッキング工程を行うことで、前記物質A、A'、Cまたは複合体を前記固相担体上等にトランスファー(ブロッティング)した後に、非特異的な結合部位を予め飽和させておくことで、被検物質を測定する際のバックグラウンドが高くなることを抑制することができる。
【0054】
<工程3>
本方法は、工程2で得られた系中で、前記重合開始能を有する部位により反応し、かつ、重合することで着色または発光するモノマー等を重合させる工程3を含む。
前記重合は、複合体が存在する場所またはその付近においてのみ起こる。
【0055】
(モノマー等)
前記モノマー等としては、重合することで着色または発光するモノマーまたはオリゴマーであれば特に制限されない。モノマー等は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
なお、本発明において、「重合することで着色または発光する」とは、重合する前は、着色しておらず、または、光(例:紫外線)を照射しても発光せず、重合することで初めて着色する、または、光を照射すると発光する、好ましくは、蛍光を生じることをいう。
【0056】
本方法では、前記複合体が存在する場所またはその付近においてのみ、前記モノマー等の重合が起こり、そこで、着色または発光する。このように、前記モノマー等を用いる場合には、重合が起こった場所以外では着色または発光しないため、蛍光色素などの着色ラベルを用いた従来の測定方法では必要であった、未反応の着色ラベルを取り除くための洗浄工程などを行わなくても、被検物質の誤測定を抑制することができ、高感度で正確な被検物質の測定が可能となる。
【0057】
前記モノマー等としては、反応性基を有する凝集誘起発光性の化合物(以下「凝集発光物」ともいう。)であることが好ましく、重合性基を有する凝集誘起発光性の化合物であることがより好ましい。
凝集発光物は、モノマーの段階では蛍光を発することはなく、重合により凝集すると光照射により蛍光を生じ、さらに凝集しても濃度消光しないため、前記工程4において、高蛍光強度のシグナルを得ることができ、該蛍光強度をもとに被検物質を定量することもできる。
【0058】
前記反応性基としては、2分子間を架橋できる基であることが好ましく、重合性基がより好ましい。重合性基としては、ラジカル重合性基、カチオン重合性、アニオン重合性などのイオン重合性基、配位重合性基等が挙げられ、中でもラジカル重合性基がさらに好ましく、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基が特に好ましい。
該ラジカル重合性のエチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基を含む基が好ましい。
また、前記イオン重合性基としては、エポキシ基を含む基等が挙げられる。
【0059】
前記重合性基と、凝集誘起発光性の化合物とは、直接結合していても、多価の有機基を介して結合していてもよく、二価の有機基を介して結合していることが好ましく、炭素数1〜10の有機基を介して結合していることが好ましい。
【0060】
前記凝集発光物としては、特に制限されないが、水溶性の化合物が好ましい。水溶性であるとは、25℃における水100gに対する凝集発光物の溶解量が1g以上であることをいい、前記凝集発光物としては、前記溶解量が、好ましくは2g以上、より好ましくは3g以上の化合物が挙げられる。前記凝集発光物として、このような水溶性の化合物を用いることで、有機溶剤等を使用しなくても被検物質を測定することができるため好ましい。
【0061】
前記凝集発光物は、例えば、反応性基を有さない従来公知の凝集誘起発光性を示す化合物(以下「非反応凝集発光物」ともいう。)に反応性基を導入することや、従来公知の凝集誘起発光性を示す化合物を合成しながら反応性基を導入することで得ることができる。
反応性基を導入する方法としては特に制限されず、従来公知の方法、反応性基を有する化合物を用いて、該化合物由来の基を導入する方法が挙げられる。
なお、本発明における反応性基は、反応性基を有する化合物由来の、反応性基を含む基であってもよい。
【0062】
前記非反応凝集発光物としては、凝集誘起発光性を示す化合物として公知の化合物であればよく特に制限されないが、炭化水素芳香族系の化合物、ヘテロ芳香族系の化合物、シロール系の化合物、ローダミン系の化合物等が挙げられる。具体的な例としては、Chem.Rev,2015,115,p11718−11940、Chem.Commun,2010,46,p9013−9015または特開2013−163767号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0063】
前記非反応凝集発光物としては、市販品を用いてもよく、従来公知の方法、例えば、米国特許出願公開第2012/299474号明細書に記載の方法で合成した化合物、米国特許出願公開第2013/177991号明細書や、特開2014−12654号公報に記載されたテトラフェニルエチレンの誘導体を用いてもよい。
【0064】
前記凝集発光物としては、反応性基を有するテトラフェニルエチレンまたはその誘導体が好ましい。
前記テトラフェニルエチレンの誘導体とは、テトラフェニルエチレン骨格を有する化合物のことをいう。
前記反応性基を有するテトラフェニルエチレンまたはその誘導体としては、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0066】
前記式(1)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立して、水素原子、有機基、水溶性基、反応性基または有機金属基であり、a〜dはそれぞれ独立して、1〜5の整数である。R
1〜R
4のうち、少なくとも1つは反応性基である。なお、aが2以上の場合、複数のR
1は同一であっても異なっていてもよく、複数のR
1が互いに結合して環を形成していてもよい。b〜dが2以上の場合も同様である。さらに、R
1とR
2、R
2とR
4、R
3とR
4、R
3とR
1がそれぞれ結合して環を形成していてもよい。
【0067】
前記有機基としては、炭素数1〜10の有機基が挙げられ、炭素数1〜6の有機基が好ましい。該有機基としては、炭化水素基が挙げられる。斯かる炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基を包含する概念である。また、該有機基は後述する水溶性基を有していてもよい。
前記a〜dはそれぞれ独立して、1または2が好ましく、1がより好ましい。
【0068】
前記R
1〜R
4における反応性基としては、前記と同様の反応性基が挙げられ、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を含む基が好ましく、(メタ)アクリロイル基を含む基がより好ましい。反応性基は少なくとも1つの反応性基を含む基であればよい。
【0069】
前記水溶性基としては、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびその塩、スルホ基およびその塩、リン酸基およびその塩、ボロン酸基等が挙げられ、リン酸基が好ましい。
【0070】
前記オリゴマーとしては、着色しておらず、または、光(例:紫外線)を照射しても発光しない化合物であり、重合することで初めて着色する、または、光を照射すると発光する化合物であれば、その分子量等は特に制限されない。
【0071】
前記モノマー等の添加量は、重合することで着色する、または、光を照射すると発光する程度であれば特に制限されないが、十分に着色または発光する重合体が得られる等の点から、前記複合体1物質量(mol)に対し、好ましくは1〜1000等量、より好ましくは2〜100等量である。
【0072】
(架橋剤)
前記工程3の際には、より短時間で被検物質を測定、定量等することができる等の点から、さらに、架橋剤を用いることが好ましい。
架橋剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0073】
前記架橋剤としては、架橋体が得られれば特に制限されず、従来公知の架橋剤を用いることができる。
前記架橋剤としては、例えば、多官能重合性不飽和基含有化合物が挙げられ、特開2016−19973号公報に記載の化合物等を用いることができる。
これらの中でも、N,N'−メチレンビスアクリルアミド、N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミド等の多官能(メタ)アクリルアミド化合物が好ましい。
【0074】
前記架橋剤の添加量は、特に制限されないが、より短時間、高感度で被検物質を測定できる等の点から、前記モノマー等100質量部に対し、好ましくは1〜20000質量部、より好ましくは200〜10000質量部である。
【0075】
前記モノマー等を重合する方法は、公知の方法で行うことができ、重合反応による着色または発光が生じる条件であり、かつ、物質AやC等に影響がなければ、特に限定されない。
前記複合体中の重合開始能を有する部位が光重合開始剤または光増感剤由来の部位である場合には、光照射、具体的には放射線照射により重合することができる。
この場合であって、i線を含む放射線を用いる場合、低濃度の被検物質を高感度で測定できる等の点から、露光量としては、好ましくは10〜20000mJ/cm
2、より好ましくは20〜2000mJ/cm
2である。
【0076】
<工程4>
本方法は、前記モノマー等を重合することで生じる、着色または発光により、好ましくは蛍光により、前記物質Aまたは物質Cを測定する工程4を含む。
本方法では、被検物質である前記物質Aまたは物質Cが存在する場合にのみ着色または発光(好ましくは蛍光)が生じ、該着色または発光を測定することで、被検物質を測定、診断、定量等することができる。
具体的には、本方法では、前記複合体が存在する場所またはその付近においてのみ、前記モノマー等の重合が起こり、そこで、着色または発光する。そして、該複合体が存在する場所は、前記物質Aまたは物質Cが存在する場所でもあるため、前記着色または発光を測定することで、被検物質である物質Aまたは物質Cを検出、定量等することができる。
【0077】
前記着色は、目視や色差計などで確認することができる。
また、前記発光は、蛍光であることが好ましく、該蛍光は、重合体に光を照射することで生じる蛍光をマルチラベルリーダーARVO X5などを用いて確認することができる。
【0078】
≪キット≫
本発明のキットは、前記物質Aまたは前記物質Aと特異的に結合する物質Cを測定するためのキットであり、本方法に好適に用いられる。
該キットは、特異的結合物質Aを含み、重合開始能を有する複合体と、
前記重合開始能を有する部位により反応し、かつ、重合することで着色または発光するモノマー等とを含む。
さらに、該キットは、前記物質Aと特異的に結合する物質C含んでもよく、物質Cと特異的に結合する物質A以外の物質A'を含んでもよい。
また、該キットは、臨床診断分野等で用いられる従来公知の部材、例えば、前記固相担体等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0080】
[合成例]
4−ヒドロキシベンゾフェノン0.991g(5mmol)、金属亜鉛末817mg(2.5当量、12.5mmol)を、ジムロート冷却器装着の3つ口フラスコに入れ、窒素置換後、テトラヒドロフラン120mlを加えた。ドライアイス−アセトンでフラスコを冷却し、ここに四塩化チタン2.37g(2.5当量、12.5mmol)を5分間かけ滴下した。滴下終了から30分後、反応容器の冷却を止め、室温で12時間撹拌した。次いで、60℃に加温し、7時間反応させた。溶媒を留去し、残渣を一度酢酸エチルに溶解させ、シリカゲルカラムで粗くろ過することで、粗生成物を得た。次いで、この粗生成物を再度、シリカゲルカラムで分離(酢酸エチルとヘキサンとの混合液。体積比で50:50)し、化合物(A)535mg(収率59%)を得た。なお、本合成例によってE体、Z体の異性体が約1:1の割合の混合物として得られた。
【0081】
化合物(A)のNMR測定の結果を以下に示す。なお、本発明において、NMR測定は、日本電子(株)製のECX400Pを用いて行った。
1H−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:7.1〜7.0ppm(ベンゼン環上水素、8H)、6.9〜6.8ppm(ベンゼン環上水素、約4H)、6.6〜6.5ppm(ベンゼン環上水素、約4H)
【0082】
化合物(A)である4,4'−(1,2−Diphenyletene−1,2−diyl)diphenol 600mg(1.65mmol)にジクロロメタン12mlを加えた(この段階では懸濁状態)。次いで、ここにトリエチルアミン366mg(2.2当量,3.63mmol)を加えたところ、液は均一となった。次いで、窒素雰囲気で氷冷し、ここにクロロりん酸ジエチル284mg(1.0当量、1.65mmol)を滴下し、1時間撹拌後、室温で更に撹拌した。反応溶液に水を加え酢酸エチルで抽出し、水洗した後、溶媒を留去することで粗生成物を得た。ここで得た粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し、化合物(B)を332mg(収率40%)、化合物(C)を278mg(収率26%)得た。
【0083】
化合物(B)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:7.2〜7.0ppm(ベンゼン環上水素、12H)、6.9〜6.8ppm(ベンゼン環上水素、約2H)、6.6〜6.5ppm(ベンゼン環上水素、約2H)、4.2〜4.0ppm(−CH
2−CH
3、4H)、1.3〜1.1ppm(−CH
2−CH
3、6H)
31P−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:−5.9ppm
【0084】
化合物(C)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:7.2〜7.0ppm(ベンゼン環上水素、16H)、4.2〜4.0ppm(−CH
2−CH
3、8H)、1.3〜1.1ppm(−CH
2−CH
3、12H)
31P−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:−5.9ppm
【0085】
化合物(B)であるDiethyl(4−(2−hydroxyphenyl)−1,2−diphenylvinyl)phenyl)phosphate 110mg(0.220mmol)に塩化メチレン3mlを加え、0.1%の4−Methoxyphenol(塩化メチレン溶液)110mgおよびN,N−ジイソプロピルエチルアミン42mg(1.5当量、0.33mmol)を加え溶解させ、ドライエアー雰囲気下で氷冷した。そこに、メタクリル酸クロライド29mg(1.3当量、0.286mmol)を塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下し、氷冷下、室温で反応させた。反応液を酢酸エチルで抽出し、次いで、水洗した後、有機層を減圧留去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(D)113mg(収率90%)を得た。
【0086】
化合物(D)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:7.2〜6.9ppm(ベンゼン環上水素、16H)、6.2ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、5.7ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、4.2〜4.0ppm(−CH
2−CH
3、4H)、1.9ppm(メタクリル基メチル水素、3H)、1.3〜1.1ppm(−CH
2−CH
3、6H)
31P−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:−5.9ppm
【0087】
化合物(D)である(4−(2−(4−Diethoxyphosphoryl)oxy)phenyl)−1,2−diphenylvinyl)phenyl methacrylate 50mg(0.088mmol)を塩化メチレン3mlに溶解させ、そこに4−Methoxyphenolを0.3mg添加した。そこに、氷冷下、ドライエアー雰囲気で、20%ヨードトリメチルシラン(TMSI)塩化メチレン溶液0.22g(2.5当量)を滴下し、1週間程度そのまま反応させた。反応溶液を減圧留去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール−クロロホルム)で分離し、化合物(E)を45mg(収率49%)得た。
【0088】
化合物(E)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl
3)化学シフトσ:7.2〜6.7ppm(ベンゼン環上水素、16H)、6.3ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、5.7ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、1.9ppm(メタクリル基メチル水素、3H)
31P−NMR(溶媒:CDCl
3)化学シフトσ:−6.8ppm
【0089】
化合物(C)である4−(2−4−Diethoxyphosphoryl)oxy)phenyl−1,2−diphenylvinyl)phenyl diethylphosphate 113mg(0.179mmol)を塩化メチレン6mlに溶解させ、氷冷下、窒素雰囲気で、20%TMSI塩化メチレン溶液0.88g(5当量)を滴下した。3日間室温(25℃)で撹拌後、反応溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。粗生成物をODSカラム(ナカライテイスク(株)製COSMOSIL 75C)で精製し、アセトン−酢酸エチル留分より、化合物(F)45mg(収率49%)を得た。
【0090】
化合物(F)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:7.2〜6.9ppm(ベンゼン環上水素、16H)
31P−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:−3.2ppm
【0091】
【化4】
【0092】
テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン 2.5g(6.3mmol)にN,N−ジメチルホルムアミド30mlを加え、ドライエアー中で撹拌した。そこにN,N−ジイソプロピルエチルアミン4.1g(5当量、31.5mmol)加え、撹拌した。次いで、氷冷し、メタクリル酸クロライド0.79(1.2当量、7.56mmol)加え、撹拌した後、室温で数時間撹拌した。反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出し、溶媒を留去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラム(酢酸エチル−n−ヘキサン)で分離し、化合物(I)を905mg(収率31%)得た。
【0093】
化合物(I)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:d
6−Acetone)化学シフトσ:7.1〜7.0ppm(ベンゼン環上水素、2H)、7.0〜6.9ppm(ベンゼン環上水素、2H)、6.8〜6.7ppm(ベンゼン環上水素、6H)、6.7〜6.6ppm(ベンゼン環上水素、6H)、6.2ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、5.7ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、1.9ppm(メタクリル基メチル水素、3H)
【0094】
化合物(I)100mg(0.215mmol)に塩化メチレン30mlを加え、ドライエアー中で撹拌した。そこにN,N−ジイソプロピルエチルアミン277mg(10当量、21.5mmol)およびd
4−Methanol 1mgを加え、氷冷下で撹拌した。ここにクロロりん酸ジエチル297mg(8当量、1.72mmol)を滴下し、30分間そのまま撹拌した後、室温(約25℃)まで昇温した。引き続き、反応容器を連続7日間、室温(約25℃)で撹拌した。反応溶液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、溶媒を留去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラム(酢酸エチル−n−ヘキサン)で分離し、化合物(II)を161mg(収率86%)得た。
【0095】
化合物(II)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl
3)化学シフトσ:7.0〜6.9ppm(ベンゼン環上水素、16H)、6.3ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、5.7ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、4.3〜4.1pm(−CH
2−CH
3、12H)、2.0ppm(メタクリル基メチル水素、3H)、1.3〜1.1ppm(−CH
2−CH
3、18H)
31P−NMR(溶媒:CDCl
3)化学シフトσ:−5.9ppm
【0096】
化合物(II)156mg(0.179mmol)を塩化メチレン6mlに溶解させ、そこに2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを0.5mg添加した。次いで、氷冷下、ドライエアー雰囲気で20%TMSI塩化メチレン溶液1.34g(2.5当量、0.448mmol)を滴下し、24時間室温で反応させた。反応溶液を減圧留去することで粗生成物を得た。粗生成物をODSカラム(COSMOSIL 75C)で精製し、メタノール留分より、化合物(III)31mg(収率25%)を得た。
【0097】
化合物(III)のNMR測定の結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:d
4−Methanol)化学シフトσ:7.0〜6.8ppm(ベンゼン環上水素、16H)、6.2ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、5.7ppm(メタクリル基オレフィン水素、1H)、2.0ppm(メタクリル基メチル水素、3H)
31P−NMR(溶媒:d
4−Methanol)化学シフトσ:−4.8ppm
【0098】
【化5】
【0099】
[実施例1]
(ビオチン−光開始剤複合体の作製)
アミン末端を有するビオチンであるEZ−Link Amine−PEG
2−biotin(ThermoFisher SCIENTIFIC社製) 37.5mg、光開始剤Irgacure2959(BASF社製) 89.6mgおよびWSC[1−Ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride]((株)同仁化学研究所製) 191.7mgを、0.1M MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)10mlに溶解させ、室温で12時間反応させた。その後、カラムにより、未反応のビオチンを除去し、ビオチン−光開始剤複合体を作製した。
【0100】
(ビオチン化合物の検出)
ストレプトアビジン結合ELISAプレート(ThermoFisher SCIENTIFIC社製)のウェルに、作製したビオチン−光開始剤複合体を、2nmol、4nmol、8nmol、16nmol、32nmolまたは64nmolとなるようにPBS(リン酸緩衝生理食塩水)50μlに溶解させた溶液を添加した。次いで、室温で2時間放置した後、PBS 300μlで3回洗浄し、プレートへ複合体を結合させた。そこに、合成例で作製した化合物(III)0.02mgと、架橋剤であるN−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミド(和光純薬工業(株)製)0.4mgとをPBS 50μlに溶解させた溶液を添加した。そして、プレートをマルチラベルリーダーARVO X5(Perkin Elmer社製)に設置し、励起波長を355nmに設定することでUVを照射し、重合を開始した。そして、UVを照射し始めた時を0秒として、UVを照射しながら、75秒後、100秒後、150秒後、200秒後または300秒後の各ウェルの蛍光強度(励起波長355nm、蛍光波長465nm)を測定した。その結果、表1に示す通り、露光時間が長くなるにつれ、蛍光強度が増加した。前記複合体が存在する場所で重合が起こり、該重合により、蛍光が発せられるため、蛍光を確認することで、複合体、さらにはビオチンの存在を確認することができる。また、露光量を調整することで、低濃度の前記複合体を用いても蛍光を測定でき、低濃度の複合体、低濃度のビオチンまで検出することができる。
【0101】
なお、300秒露光した時のビオチン濃度に対する蛍光強度の関係を
図1に示す。この
図1から、ビオチン濃度と蛍光強度とが比例関係にあることが分かる。この
図1のような検量線を予め作成しておくことで、複合体を形成する際のビオチンの濃度が不明であっても、前記方法によれば、低濃度から高濃度までのビオチンを定量することができる。
【0102】
【表1】
【0103】
[実施例2]
(ビオチン−色素複合体)
光開始剤Irgacure2959をエオシンイソチオシアネート(SIGMA ALDRICH社製)282mgに変更した以外は、実施例1と同様にして、ビオチン−色素複合体を作製した。
【0104】
(ビオチン化合物の検出)
実施例1と同様にして、ストレプトアビジン結合ELISAプレートに、ビオチン−色素複合体を、10pmol、20pmol、40pmol、80pmol、160pmolまたは320pmolとなるようPBS 50μlに溶解させた溶液を添加した。そこへ、化合物(III)0.02mg、N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミド0.4mgおよびジメチルアミノエタノール0.002mgをPBS 50μlに溶解させた溶液を添加した。続いて、実施例1と同様にマルチラベルリーダーARVO X5を用いて、505nmの波長の光を照射し、重合を開始した。そして、光照射し始めた時を0秒として、光を照射しつつ、75秒後、100秒後、150秒後、200秒後または300秒後の各ウェルの蛍光強度(励起波長355nm、蛍光波長465nm)を測定した。その結果、表2に示す通り、実施例1と同様に、露光時間が長くなるにつれ、蛍光強度が増加した。露光量を調整することで、低濃度のビオチンまで検出することができることが分かる。
なお、300秒露光した時のビオチン濃度に対する蛍光強度の関係を
図2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
[実施例3]
(色素標識抗体(複合体)の作製)
抗PSA抗体 33mg、エオシンイソチオシアネート 14.1mgおよびWSC 19.2mgを0.1M MES 10mlに溶解させた以外は、実施例1と同様にして、色素標識抗体を作製した。作製した色素標識抗体の520nmにおける吸光度から、抗体1分子あたりの色素標識数を算出すると、平均10分子であった。
【0107】
(検体中の抗原検出)
ELISAプレート MAXISORP(ThermoFisher SCIENTIFIC社製)に、20μg/mLの濃度になるようにPBSで希釈した未標識の抗PSA抗体を、50μLずつウェルに入れ、4℃で一晩放置し、プレートへ吸着させた。次にブロッキングバッファー(1質量%BSA(牛血清アルブミン)、0.05質量%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)および50mMのPBSの混合液、pH:7.4)を200μlずつウェルに入れ、37℃で5時間放置し、ブロッキングした。
【0108】
得られたELISAプレートを、Triton X−100(Dow Chemical Company製)を0.01%含むトリスバッファーで3回洗浄後、検体希釈緩衝液(1質量%BSA、0.05質量%Tween20および50mMのPBSの混合液、pH:7.4)で希釈したスタンダード溶液(PSA抗原含有液 0、10、50、100、1000または10000ng/ml)を100μlずつ各ウェルに入れ、37℃で1時間反応させた。反応後、Triton X−100を0.01%含むトリスバッファーで3回洗浄後、作製した色素標識抗体を1μg/mLの濃度で含む溶液を、標識抗体希釈緩衝液(1質量%BSA、0.05質量%Tween20、および50mMのPBSの混合液、pH:7.4)を用いて調製し、100μlずつウェルに入れ、37℃で1時間反応させた。反応後、再び、Triton X−100を0.01%含むトリスバッファーで3回洗浄した。
【0109】
次いで、実施例2と同様に、化合物(III)0.02mg、N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミド0.4mgおよびジメチルアミノエタノール0.002mgを50μlのPBSに溶解した溶液を各ウェルに添加し、505nmの波長の光を照射することで、重合を開始させた。そして、光照射し始めた時を0秒として、光を照射しつつ、75秒後、100秒後、150秒後、200秒後または300秒後の蛍光強度(励起波長355nm、蛍光波長465nm)を測定した。その結果、表3に示す通り、実施例2と同様に、露光時間が長くなるにつれ、蛍光強度が増加した。露光量を調整することで、低濃度の抗原まで検出することができることが分かる。
【0110】
【表3】
【0111】
[実施例4]
N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミドを用いない以外は、実施例3と同様にして、抗原の検出を試みた。その結果、蛍光を検出できるまでの光照射時間が伸びてしまったが、実施例3と同様に、露光時間が長くなるにつれ、蛍光強度が増加した。露光量を調整することで、低濃度の抗原まで検出することができることが分かる。
【0112】
【表4】
【0113】
[実施例5]
(免疫クロマト用メンブレン作製)
ニトロセルロースからなるメンブレン(メルクミリポア社製、商品名:HF120、250mm×25mm)上に、抗PSAモノクローナル抗体および抗Mouse IgGモノクローナル抗体を1mmの幅で別々の場所に塗布し、50℃で30分間乾燥した後、室温で一晩乾燥させ、メンブレン上に抗PSA抗体塗布部(検出ライン)、抗Mouse IgG抗体塗布部(コントロールライン)をそれぞれ設けた。
【0114】
(抗原検出)
得られたメンブレンに、濃度既知のPSA抗原(0μg/mlまたは10μg/ml)を含むPSAスタンダード溶液100μlを展開した後、実施例3と同様に作製した色素標識抗体を1μg/mLの濃度で含む溶液を展開し、続いて化合物(III)0.02mg、N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミド0.4mgおよびジメチルアミノエタノール0.002mgを50μlのPBSに溶解した溶液を展開した。
【0115】
次いで、得られたメンブレンに、波長交換式ツインアームLED照射装置(オプトコード(株)製)を用いて、505nmの光を5分間照射し、365nmの光の照射下で、ラインの検出を試みた。その結果、PSA抗原を含まないPSAスタンダード溶液を展開したメンブレンでは、コントロールラインしか検出されなかったのに対し、PSA抗原の濃度が10μg/mlであるPSAスタンダード溶液を展開したメンブレンでは、検出ラインおよびコントロールライン共に、蛍光ラインを検出することができた。
【0116】
[比較例1]
化合物(III)の代わりに化合物(F)を用いた以外は、実施例3と同様にして、抗原の検出を試みた。その結果、蛍光を検出することはできず、抗原を検出できなかった。結果を表5に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
[比較例2]
化合物(III)の代わりにフルオレセインメタクリレートを用い、蛍光検出の際の励起波長を488nm、蛍光波長を535nmとした以外は、実施例3と同様にして、抗原の検出を試みた。
しかし、フルオレセインメタクリレートは蛍光色素であるため、重合の有無によらず、蛍光強度が検出された。その結果、全てのサンプル、全ての反応時間にて、同程度の蛍光強度を検出した。すなわち、抗原を検出できなかった。結果を表6に示す。
【0119】
【表6】