特許第6769785号(P6769785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769785
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】クレーンの吊上げ荷重の測定方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/16 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
   B66C13/16 F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-169676(P2016-169676)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-34958(P2018-34958A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
(72)【発明者】
【氏名】本間 清忠
(72)【発明者】
【氏名】西脇 伸彦
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−018641(JP,A)
【文献】 特開2014−050910(JP,A)
【文献】 特開2002−046985(JP,A)
【文献】 特開昭52−052666(JP,A)
【文献】 特開昭58−109393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00−15/06
B66D 1/00− 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの巻上げ装置を停止させている時は、モータに停止指令運転をさせ、この時ブレーキを開放して、その時のモータトルク値を吊上げ荷重値に換算するようにし、
予め無負荷風袋荷重での巻上げ加速時、巻上げ減速時、巻下げ加速時及び巻下げ減速時のモータトルク値を測定、記憶しておき、巻上げ加速時は、荷重を吊った時の巻上げ加速運転中のモータトルク値から、前記無負荷風袋荷重での巻上げ加速時のモータトルク値を減算し、同様に、巻上げ減速時は、前記無負荷風袋荷重での巻上げ減速時のモータトルク値を加算、巻下げ加速時は、前記無負荷風袋荷重での巻下げ加速時のモータトルク値を加算、巻下げ減速時は、前記無負荷風袋荷重での巻下げ減速時のモータトルク値を減算することにより、加減速時の吊上げ荷重値を算出するようにする
ことを特徴とするクレーンの吊上げ荷重の測定方法。
【請求項2】
巻上げブレーキを閉じる前のモータトルク値を記憶しておき、該モータトルク値を吊上げ荷重値のデータに利用することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの吊上げ荷重の測定方法。
【請求項3】
定速運転時のモータトルク値と、モータ電力とを比較し、モータトルク値と、モータ電力値の相互の健全性を確認することを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーンの吊上げ荷重の測定方法。
【請求項4】
巻下げ中のモータトルク値を監視し、モータトルク値が小さくなった時点を、吊荷が床に付いた位置と判断することを特徴とする請求項1、2又は3に記載のクレーンの吊上げ荷重の測定方法。
【請求項5】
巻上げ起動後加速前に低速度で安定させ、モータトルク値を測定し、吊上げ荷重値の換算を行った後に加速をさせることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のクレーンの吊上げ荷重の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの吊上げ荷重の測定方法に関し、特に、巻上げ制御にインバータ等の速度制御装置で駆動する方式のクレーンにおいて、速度制御装置が検出した巻上げモータのモータトルク値を利用したクレーンの吊上げ荷重の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、重量物を取り扱うクレーンにおいて、吊上げ荷重値を管理することは安全上、重要であるが、ロードセル方式など機械に組み込むタイプの荷重計(例えば、特許文献1参照。)は、コストが掛かるため、一般のクレーンには装備されていない実態がある。
【0003】
クレーンの吊上げ荷重の測定には、このほか、巻上げモータに供給した電力値が吊上げ荷重値に比例することを応用し、巻上げモータの電力量を検出することで吊上げ荷重値を計測するようにした電力式荷重計が提案され、実用化されている(例えば、特許文献2参照。)。
この電力式荷重計は、通常、クレーンの巻上げモータの加速が終了し、定格速度に達して電力値が安定したところで計測を行うようにしているため、加速動作を行った後に、初めて吊上げ荷重が解ることになる。すなわち、モータ停止時や加速状態の時に電力測定ができないため、荷重測定を行うことができない。
このため、特に、巻上げ起動した初期の安全性や操作性で不都合が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−123248号公報
【特許文献2】特開2002−284481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来のロードセル式荷重計及び電力式荷重計の有する問題点に鑑み、インバータのトルクデータを荷重計のデータとして利用することにより、安価に、かつ、計測時間の短縮化を行うことにより、安全性や操作性を向上するようにしたクレーンの吊上げ荷重の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法は、クレーンの巻上げ装置を停止させている時、モータに停止指令運転(通称、「サーボロック」という。)をさせ、この時ブレーキを開放して、その時のモータトルク値を荷重値に換算するようにすることを特徴とする。
【0007】
この場合において、巻上げブレーキを閉じる前のモータトルク値を記憶しておき、該モータトルク値を吊上げ荷重値のデータに利用することができる。
【0008】
また、同じ目的を達成するため、本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法は、め無負荷風袋荷重での巻上げ加速時、巻上げ減速時、巻下げ加速時及び巻下げ減速時のモータトルク値を測定、記憶しておき、巻上げ加速時は、荷重を吊った時の巻上げ加速運転中のモータトルク値から、前記無負荷風袋荷重での巻上げ加速時のモータトルク値を減算し、同様に、巻上げ減速時は、巻上げ減速時のモータトルク値を加算、巻下げ加速時は、巻下げ加速時のモータトルク値を加算、巻下げ減速時は、巻下げ減速時のモータトルク値を減算することにより、加減速時の吊上げ荷重値を算出するようにすることを特徴とする。
【0009】
この場合において、定速運転時のモータトルク値と、モータ電力とを比較し、モータトルク値と、モータ電力値の相互の健全性を確認することができる。
【0010】
また、巻下げ中のモータトルク値を監視し、モータトルク値が小さくなった時点を、吊荷が床に付いた位置と判断するようにすることができる。
【0011】
また、巻上げ起動後加速前に低速度で安定させ、モータトルク値を測定し、吊上げ荷重値の換算を行った後に加速をさせるようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法は、巻上げモータをインバータ等の速度制御装置で駆動する方式のクレーンにおいて、速度制御装置が検出した巻上げモータのモータトルク値を利用し、具体的には、巻上げモータの発生トルクを荷重換算することで、荷重計として利用するものである。
クレーンにおいては、フック等の吊り具に吊られた荷重は、ワイヤロープやシーブを介して巻ドラムにトルクとして伝えられる。そして巻上げドラムに掛かるトルクは、減速機で減速比分縮小され、巻上げモータに伝えられる。
モータが発生するトルクは、モータ電流や、モータ回転数等の検出値を基に速度制御装置内でモータトルク値に換算され、出力される。
具体的には、巻上げブレーキを開放すると、負荷トルクはすべて巻上げモータに掛かるが、モータに掛かった負荷トルクは、インバータ等の速度制御装置内で、モータの回転数や、モータ温度、モータ電流値等を基にモータトルク値が算出され、外部出力される。
速度制御装置から外部出力されたモータトルク値を、モータの停止状態、巻上げ加速・減速運転状態、巻上げ定速運転状態、巻下げ加速・減速運転状態、巻上げ定速運転状態、ブレーキ閉じ状態等のその時の状態に応じて荷重換算方法やデータ保持方法を変えて荷重表示を行う。
このモータトルク値を荷重値に換算することで、荷重計として利用する。
このようにして、巻上げモータの制御用に電気的に検出されたトルク値を荷重計として利用するため、高価なロードセルを必要とせず、安価に、かつ、簡易に、荷重表示を行うことができ、さらに、計測時間の短縮化を行うことが可能となり、安全性や操作性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法を実施するクレーンの一実施例を示すシステム構成図である。構成図である。
図2】本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法の一実施例のタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1図2に、本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法の一実施例を示す。
【0016】
図1に示す、クレーンの吊上げ荷重の測定方法を実施するクレーンのように、巻上げ制御にインバータ等の速度制御装置で駆動する方式のクレーンで吊上げられた荷重Wは、シーブSを介してワイヤロープRの掛け数で除算された荷重値で巻ドラムDに負荷トルクとして伝達される。
そして、減速機Gのギア比で除算され巻上げモータMに負荷トルクとして伝達される。
【0017】
このように、巻上げモータMに加えられた負荷トルクは、吊上げ荷重Wに比例した値になるため、巻上げモータMのトルク値を測定することにより、吊上げ荷重Wの重量を判断することができる。
【0018】
巻上げモータの速度制御装置Iにベクトル制御インバータを用いた場合、モータに取り付けた速度センサEにより検出した速度センサ検出値02を基にモータの滑りを算出し、モータ滑り量がモータトルクに比例することを利用してモータトルク値03として算出する。
この時、モータの温度データを滑り算出値に加味することで、モータトルク値03の値の精度は向上する。
【0019】
速度制御装置Iにセンサレスベクトル制御インバータを用いた場合は、速度センサ検出値02はないので、モータ電流01をベクトル演算し、磁束電流とトルク電流に分解し、トルク電流の値を基にモータトルク値03が出力される。
【0020】
クレーンがT0ブレーキ閉じ停止状態である時、速度制御装置Iへの指令にゼロ速度運転信号を出し、巻上げモータMをサーボロック状態にする。そして、巻上げブレーキBを開放し、T1の状態にする。
この時、吊上げ荷重Wからの負荷トルクが巻上げモータMに掛かるめ、この時のモータトルク値03を、荷重換算データKで演算することで、停止時の荷重値04を把握することができる。
【0021】
次に、運転信号05で、低速巻上げ運転指令を与えた時、巻上げモータMは低速で巻上げ方向に回転を始め、低速の巻上げ低速運転T2の状態になる。この時のモータトルク値03は、減速機ロス等の変化の影響を受けて、前項停止状態とは数値が異なってくる。
このため、荷重換算データKは、停止状態の時と異なるデータとする必要があるため、状態信号06により、荷重換算データKを低速巻上げ運転用のデータに切り替えて荷重値04を算出する。
【0022】
続いて、運転信号05より、高速巻上げ運転信号を与えると、巻上げモータMは巻上げ方向に加速を始め、巻上げ加速運転T3の状態になる。この時のモータトルク値03は、当該装置が持つ慣性モーメントによる加速トルクが、負荷トルクに加算された値になる。
同じ機械装置を同じ加速度で加速させた場合、この加速トルクは、不変の値となるため、予め無負荷状態で測定した加速時のモータトルク値03を記憶しておき、実際の荷重を吊って加速をしている時のモータトルク値から前記の無負荷状態の加速時のモータトルク値を減算させることで、吊上げ荷重からのトルクを算出することができ、加速時の荷重値を算出することができる。
【0023】
同様に巻上げ減速運転T5、巻下げ加速運転T6、巻下げ減速運転T8の状態の場合も、無負荷時の加速或いは減速時のトルクを予め測定しておき、T5、T6の時は、各々の無負荷時の減速又は加速トルクを加算し、T8の時は減速トルクを減算することで、加速又は減速トルクを除去し、荷重換算をする。
【0024】
巻上げ加速が終了し高速の巻上げ定速運転T4の状態になった時は、荷重換算データKを高速の定速巻上げ運転用データに切り替えて荷重換算し、荷重表示をする。
巻下げ定速運転T7の状態では、荷重換算データKを巻下げ時用データに切り替えて荷重換算をする。
【0025】
クレーンの、巻上げ、巻下げの運転が終了しブレーキを閉じるT0の状態になった時、ブレーキを閉じるT0の直前の状態のデータを記憶しておき、この荷重値を保持、記憶し、表示を行う。
そして、この保持データは次にブレーキを開放し、モータに負荷トルクが掛かった時に、その状態での荷重換算を行い、荷重データの更新を行う。
【0026】
巻下げ中のT6、T7、T8の状態の時、モータトルク値が小さい値に変化し、荷重ゼロに付近のトルク値になる地点を監視しておく。
そして、荷重ゼロ付近のトルク値を検出した時に、吊荷が床に着地した着床状態であることを信号出力する。
【0027】
本発明の荷重計の荷重検出精度が要求精度を満足しない場合、電力式荷重計と併用することができる。
この場合は、電力式荷重計の荷重値を正規の荷重値として取り扱い、停止時や、加速時等の電力式荷重計では測定できないところは、本発明の荷重計を使用する。
この場合、本発明の荷重計で測定した値と、電力式荷重計の荷重値と相互監視し、互いの健全確認を行うことができる。
【0028】
また、巻上げ起動後加速前に低速度で安定させ、モータトルク値を測定し、吊上げ荷重値の換算を行った後に加速をさせることができる。
これにより、安定して吊上げ荷重値の換算を行うことができる。
【0029】
以上、本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のクレーンの吊上げ荷重の測定方法は、インバータのトルクデータを荷重計のデータとして利用することにより、安価に、かつ、計測時間の短縮化を行うことにより、安全性や操作性を向上することができるという特性を有していることから、巻上げ制御にインバータ等の速度制御装置で駆動する方式の各種クレーンに、新設、既設の区別なく適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
W 吊上げ荷重
S シーブ
R ワイヤロープ
D 巻ドラム
G 減速機
B 巻上げブレーキ
M 巻上げモータ
E 速度センサ
I 速度制御装置(インバータ)
K 荷重換算データ
C 演算器(シーケンサ)
T0 ブレーキ閉
T1 ブレーキ開、サーボロック停止
T2 巻上げ定速運転(低速)
T3 巻上げ加速運転
T4 巻上げ定速運転(高速)
T5 巻上げ減速運転
T6 巻下げ加速運転
T7 巻下げ定速運転
T8 巻下げ減速運転
Tx 巻上げ/巻下げ速度
Ty 時間
Ta 巻上げ
Tb 巻下げ
Tc ブレーキ閉
Td ブレーキ開
01 モータ電流
02 速度センサ検出値
03 モータトルク値
04 荷重値
05 運転信号
06 状態信号
07 ブレーキ開放電源
08 供給電力
図1
図2