(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記隔壁は、前記ラックハウジングに設けられる、前記転舵シャフトの所定ストロークを超える移動を規制するストッパ部である、請求項1乃至3の何れか一項に記載のステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の転舵輪を転舵するステアリング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このステアリング装置は、転舵シャフトと、ラックハウジングと、ボールネジナットと、軸受と、を備えている。転舵シャフトは、転舵輪を転舵するためのシャフトであって、車幅方向に延在して軸方向に移動し得る軸部材である。ラックハウジングは、円筒状に形成されており、転舵シャフトを軸方向に移動可能に保持している。
【0003】
ボールネジナットは、転舵シャフトと同軸に配置された円筒状の部材であって、転舵シャフトの外径に比して大きな外径を有している。ボールネジナットは、転舵シャフトの外周面に形成されたネジ溝に複数のボールを介して螺合されている。ボールネジナットは、ラックハウジングにより回転可能に保持されている。ボールネジナットは、電動モータなどの駆動源に駆動力伝達機構を介して連結されている。ボールネジナットは、駆動源の回転駆動によりラックハウジングに対して回転し、その回転により転舵シャフトを軸方向に移動させる。軸受は、ラックハウジングの内周面とボールネジナットの外周面との間に配置されたボールベアリングである。軸受は、ハウジングとボールネジナットとの間に介在しており、ボールネジナットをハウジングに対して回転可能に支持する。
【0004】
上記のステアリング装置においては、駆動源の出力軸が回転すると、その回転トルクが駆動力伝達機構を介してボールネジナットに伝達され、そのボールネジナットが回転する。ボールネジナットが回転すると、転舵シャフトに軸方向に移動させるための力が付与され、転舵シャフトが軸方向に移動する。従って、駆動源から駆動力伝達機構を介して転舵シャフトに付与される軸方向の力をアシスト力として、車両運転者によるステアリング操作を補助することができる。
【0005】
ところで、転舵シャフトの軸方向端部は、筒状かつ蛇腹状に形成されたラックブーツにより覆われている。ラックブーツは、転舵シャフトの軸方向端部に連結するボールジョイントやタイロッドなどのステアリング構成部品を異物浸入などから保護する役割を有している。このラックブーツは一般的に弾性を有する樹脂製の部品であるので、路面からの飛び石などにより損傷して破れることがある。
【0006】
ラックハウジングは、軸方向端部において円筒内周面から径方向内方へ突出するストッパ部を有している。ストッパ部は、ボールネジナットを内包するボールネジ室とラックブーツの内室とを隔てている。ストッパ部には、転舵シャフトが貫通する貫通孔が設けられている。このため、上記の如くラックブーツの破れが生じた場合、その損傷箇所からラックブーツの内室に水が浸入し、その後、その水が上記ストッパ部の貫通孔を介してラックハウジング内(具体的には、ボールネジ室)に浸入することがある。上記ストッパ部の貫通孔はそのストッパ部の略軸中心に開いているので、ボールネジ室に浸入した水はその水位が貫通孔に至るまで滞留することができる。水は、低温環境下に置かれた場合に凍結する。ボールネジ室内の水位が高いほど、その凍結量が多くなり得、ボールネジナットの回転を妨げる抵抗力が大きくなり、駆動源から転舵シャフトに付与されるアシスト力が不十分となるおそれがある。
【0007】
そこで、上記した特許文献1記載のステアリング装置は、ラックハウジングの下面に設けられたボールネジ室と外部とを連通する開口孔と、その開口孔を塞ぐように設けられた排水弁と、を備えている。排水弁は、ラックハウジングのボールネジ室に滞留する水の量が所定量に達した場合に水の圧力によって開弁する。従って、このステアリング装置によれば、ボールネジ室に浸入した水を、開口孔から排水弁を介してラックハウジング外部へ排出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.第1実施形態>
第1実施形態に係るステアリング装置10の構成について、
図1〜
図4を参照して説明する。ステアリング装置10は、転舵シャフトをその転舵シャフトの軸方向Aに沿って移動させることにより、その転舵シャフトの両端それぞれに連結されている転舵輪を転舵させる装置である。
【0015】
(1−1.ステアリング装置10の構成)
ステアリング装置10は、
図1に示す如く、操舵機構12を備えている。操舵機構12は、ステアリングホイール14と、ステアリングシャフト16と、を有している。ステアリングホイール14は、車両運転者による操作可能に車室内に配設されており、回転可能に支持されている。ステアリングホイール14は、車両運転者の回転操作により回転する。ステアリングホイール14には、ステアリングシャフト16の一端部が連結されている。ステアリングシャフト16は、車体に固定されたラックハウジング20に回転可能に保持されている。ステアリングシャフト16は、ステアリングホイール14の回転に伴って回転する。ステアリングシャフト16の他端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン18が形成されている。
【0016】
ステアリング装置10は、
図1及び
図2に示す如く、転舵シャフト22を備えている。転舵シャフト22は、車幅方向に延在する軸部材である。転舵シャフト22には、ラック24が形成されている。ラック24は、転舵シャフト22の何れか一端に偏った位置に設けられている。ラック24は、上記ピニオン18と共にラックアンドピニオン機構を構成する。ステアリングシャフト16のピニオン18と転舵シャフト22のラック24とは、互いに噛合している。
【0017】
ステアリングシャフト16は、車両運転者の回転操作によってステアリングホイール14に加わったトルクを転舵シャフト22に伝達する。転舵シャフト22は、ステアリングシャフト16の回転に伴って車幅方向すなわち軸方向Aに移動する。ステアリングシャフト16の回転は、ラックアンドピニオン機構により転舵シャフト22の軸方向Aへの直線移動に変換される。
【0018】
転舵シャフト22の軸方向両端部には、ボールジョイント26を介してタイロッド28が揺動可能に連結されている。タイロッド28には、ナックルアーム30を介して転舵輪32が連結されている。転舵輪32は、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動により転舵される。この転舵輪32の転舵により車両は左右に操舵される。
【0019】
ステアリング装置10は、ボールネジ機構34と、電動モータ36と、駆動力伝達機構38と、を備えている。ステアリング装置10は、電動モータ36を駆動源として車両運転者がステアリングホイール14を回転操作するときの操舵トルクを補助することができる。すなわち、ステアリング装置10は、電動モータ36の発生した回転トルクを、駆動力伝達機構38を介してボールネジ機構34に伝達すると共に、そのボールネジ機構34によって転舵シャフト22を軸方向Aに直線移動させる力に変換することで、転舵シャフト22に転舵輪32の転舵を補助する補助力を付与する。ステアリング装置10は、いわゆるラックパラレル型のステアリング装置である。
【0020】
ボールネジ機構34は、ボールネジ部40と、ボールネジナット42と、を有している。ボールネジ部40は、転舵シャフト22の外周面に螺旋状に複数回巻かれて形成されたネジ溝としての外周溝である。ボールネジ部40は、転舵シャフト22の他端に偏った位置(具体的には、ラック24とは異なる位置であって、ラック24が設けられた一端部とは反対側の他端部)に設けられている。ボールネジナット42は、
図2に示す如く、円筒状に形成された軸方向Aに延在する円筒部材であって、転舵シャフト22と同軸に配置されている。ボールネジナット42は、転舵シャフト22の外径に比して大きな外径を有している。ボールネジナット42は、その内周面に螺旋状に複数回巻かれて形成されたネジ溝としての内周溝を有している。
【0021】
ボールネジ部40の外周溝とボールネジナット42の内周溝とは、径方向に対向配置されており、両溝間で複数の転動ボール44が転動する転動路46を形成する。この転動路46内には、複数の転動ボール44が転動可能に配列されている。ボールネジ部40の外周溝とボールネジナット42の内周溝とは、複数の転動ボール44を介して螺合している。転動ボール44は、ボールネジナット42に設けられるデフレクタ(図示せず)により無限循環される。
【0022】
転舵シャフト22は、軸方向Aへ移動可能にラックハウジング20に挿通されてそのラックハウジング20に保持されている。ラックハウジング20は、転舵シャフト22を軸方向Aに移動可能に覆いつつ保持している。ラックハウジング20は、略筒状に形成された軸方向Aに延在する部材である。ラックハウジング20は、小径部50と、大径部52と、を有している。
【0023】
小径部50は、転舵シャフト22の外径に比して僅かに大きな内径を有している。小径部50には、ステアリングシャフト16が挿通されるステアリングシャフト挿通部54が連結されている。大径部52は、小径部50の内径に比して大きな内径を有している。大径部52内には、ボールネジ機構34が収容されると共に、駆動力伝達機構38が収容される。大径部52には、主にボールネジナット42及び転動ボール44を内包するボールネジ室56が形成されている。大径部52は、ボールネジナット42を回転可能に覆っている。
【0024】
ラックハウジング20は、転舵シャフト22の軸方向へ接離可能な、第1ラックハウジング20−1と、第2ラックハウジング20−2と、を有している。このラックハウジング20の接離部分は、大径部52である。すなわち、ラックハウジング20は、大径部52において軸方向へ接離可能である。これは、大径部52にボールネジ機構34のボールネジナット42と駆動力伝達機構38とを収容するためである。第1ラックハウジング20−1は、ステアリングシャフト挿通部54を含むと共に、大径部52の一部を含む。また、第2ラックハウジング20−2は、大径部52の残り部分を含む。
【0025】
ラックハウジング20の第1ラックハウジング20−1と第2ラックハウジング20−2とは、互いに嵌合される。具体的には、この嵌合は、第1ラックハウジング20−1の大径部と第2ラックハウジング20−2の大径部とがインローで連結されることにより実現される。また、この嵌合は、大径部52にボールネジ機構34のボールネジナット42と駆動力伝達機構38とが収容された後に行われる。
【0026】
ステアリング装置10は、また、電動モータ36の出力を制御するECU58を有している。電動モータ36及びECU58は、ラックハウジング20の大径部52近傍に固定されるケース内に互いに隣接して収容されている。電動モータ36は、その出力軸が転舵シャフト22の軸方向Aに対して平行となるように配置されている。ECU58は、トルクセンサなどを用いてステアリングホイール14に加わるトルクを検出する。また、ECU58は、検出トルクに基づいて電動モータ36によるアシストトルクを設定して電動モータ36の出力を制御する。電動モータ36は、ECU58からの指令に従ってアシストトルクを発生して、駆動力伝達機構38に伝達する。
【0027】
駆動力伝達機構38は、入力側が電動モータ36の出力軸に接続されていると共に、出力側がボールネジナット42の外周側に接続された構造を有している。具体的には、駆動力伝達機構38は、駆動プーリ60と、ベルト62と、従動プーリ64と、を有している。駆動プーリ60及び従動プーリ64はそれぞれ、外歯を有する歯付きプーリである。ベルト62は、内歯を有する歯付きベルトであって、環状のゴム部材である。
【0028】
駆動プーリ60は、電動モータ36の出力軸が挿通される貫通孔を有しており、その電動モータ36の出力軸に取り付け固定されている。従動プーリ64は、ボールネジ機構34のボールネジナット42が挿通される貫通孔を有しており、ボールネジナット42の軸方向Aの一端側に取り付け固定されている。ベルト62は、駆動プーリ60と従動プーリ64とに巻き掛けられており、駆動プーリ60の外歯に噛合していると共に、従動プーリ64の外歯に噛合している。
【0029】
駆動力伝達機構38は、電動モータ36の出力軸の回転を駆動プーリ60、ベルト62、及び従動プーリ64を介してボールネジナット42に減速して伝達し、すなわち、駆動プーリ60と従動プーリ64との間でベルト62を介して電動モータ36の発生する回転トルクを伝達する駆動力伝達機構である。ベルト62は、駆動プーリ60の回転を従動プーリ64へ滑りなく伝達する。電動モータ36から駆動力伝達機構38にアシストトルクが伝達されると、従動プーリ64と一体化されたボールネジナット42が回転駆動されて、複数の転動ボール44を介して転舵シャフト22が軸方向Aに移動される。
【0030】
ステアリング装置10は、軸受66を備えている。軸受66は、ラックハウジング20の大径部52とボールネジ機構34のボールネジナット42との間に介在しており、大径部52の内周面とボールネジナット42の外周面との間に配置されている。軸受66は、円環状に形成されている。軸受66は、ボールネジナット42の軸方向Aの他端側に設けられている。軸受66は、ボールネジナット42をラックハウジング20の大径部52に対して回転可能に支持する。軸受66は、ボールベアリングなどにより構成された、例えば複列アンギュラ玉軸受である。
【0031】
軸受66は、外輪部68と、内輪部70と、玉72と、を有している。外輪部68及び内輪部70はそれぞれ、円環状に形成されている。外輪部68の外周面は、ラックハウジング20の大径部52の内周面に径方向に対向している。内輪部70の内周面は、ボールネジナット42の外周面に径方向に対向しており、そのボールネジナット42に取り付け固定されている。内輪部70は、ボールネジナット42の回転に伴って一体で回転する。外輪部68の内周面及び内輪部70の外周面にはそれぞれ、溝が円環状に形成されている。外輪部68の溝と内輪部70の溝とは、径方向に対向配置されており、円環状の転動路74を形成する。玉72は、転動路74に周方向に沿って転動可能に複数収容されており、外輪部68に支持されながら内輪部70ひいてはボールネジナット42の回転に伴って転動する。
【0032】
上記したステアリング装置10の構造によれば、ステアリングホイール14が操作されると、その操舵トルクがステアリングシャフト16に伝達され、ピニオン18とラック24とからなるラックアンドピニオン機構を介して転舵シャフト22が軸方向Aに移動される。また、ステアリングシャフト16に伝達された操舵トルクは、トルクセンサなどを用いてECU58に検出される。ECU58は、操舵トルク及び電動モータ36の回転位置などに基づいて電動モータ36の出力制御を行う。電動モータ36は、ECU58からの指令に従ってアシストトルクを発生する。このアシストトルクは、駆動力伝達機構38及びボールネジ機構34を介して転舵シャフト22を軸方向に移動させる駆動力に変換される。
【0033】
転舵シャフト22が軸方向に移動されると、ボールジョイント26、タイロッド28、及びナックルアーム30を介して転舵輪32の向きが変更される。従って、ステアリング装置10によれば、ステアリングシャフト16への操舵トルクに応じた電動モータ36によるアシストトルクを転舵シャフト22の軸方向移動に付与することができるので、運転者がステアリングホイール14を操作する際の操舵力を軽減することができる。
【0034】
ステアリング装置10において、ラックハウジング20の第1ラックハウジング20−1と軸受66の外輪部68との間、及び、ラックハウジング20の第2ラックハウジング20−2と軸受66の外輪部68との間にはそれぞれ、弾性部材76と、弾性部材76を保持するプレート部材78と、が配置されている。弾性部材76は、弾性を有する円環状の弾性部材であって、例えば金属により成形された皿バネなどである。プレート部材78は、鉄などの金属により成形されており、断面L字状でかつ円環状に形成されている。
【0035】
プレート部材78は、ボールネジナット42の外周側において、弾性部材76を保持した状態で、軸受66の外輪部68とラックハウジング20との間に軸方向で挟持されるように配置されている。弾性部材76は、外輪部68とプレート部材78との間に軸方向で挟持されるように配置されている。弾性部材76は、その内径側端部にてプレート部材78のフランジ部を軸方向Aへ押圧すると共に、その外径側端部にて外輪部68を軸方向Aへ押圧する。外輪部68を軸方向で挟む2つの弾性部材76はそれぞれ、弾性力によりその外輪部68を挟持する。軸受66の外輪部68は、2つの弾性部材76によりラックハウジング20に対して軸方向Aに弾性的に変位可能に保持されている。
【0036】
ステアリングホイール14の中立状態からの操作開始直後は、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動がボールネジナット42の回転を伴うものでないので、ボールネジナット42が軸受66と一体で軸方向Aに僅かに移動してその軸受66が2つの弾性部材76のうちの一方を圧縮しつつ変位規制される。そしてその後は、電動モータ36の駆動によりボールネジナット42が回転することで、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動が補助される。従って、軸受66を2つの弾性部材76の弾性力により軸方向Aに変位可能に保持することができるので、ボールネジナット42の回転ひいては転舵シャフト22の軸方向Aへの移動をスムースに行うことができる。
【0037】
ステアリング装置10において、転舵シャフト22には、大径部材80が装着されている。大径部材80は、転舵シャフト22の軸方向両端部それぞれに設けられており、転舵シャフト22と同軸に連結されている。大径部材80は、転舵シャフト22の外径に比して大きな外径を有している。大径部材80には、軸方向外側に向けて開口する略球状の開口孔82が形成されている。開口孔82には、ボールジョイント26を構成するボールスタッドのボール先端が緩衝材を介して回動自在に収容されている。
【0038】
ラックハウジング20の軸方向両端部(具体的には、軸方向両端それぞれの小径部50の軸方向外側端部)にはそれぞれ、大径部材80を収容する大径収容室84が形成されている。大径収容室84は、大径部材80の外径に比して大きな径を有するように形成されている。ラックハウジング20は、ストッパ部86を有している。ストッパ部86は、大径部材80に対して転舵シャフト22の軸方向中央側に設けられている。ストッパ部86は、ラックハウジング20(具体的には、小径部50)本体の円筒内面から径方向内方に延びており、円環状に形成されている。ストッパ部86は、ボールネジ室56及び大径収容室84を形成するための壁部材であって、ボールネジ室56と大径収容室84とを隔てる仕切り板である。
【0039】
ストッパ部86の軸中心には、転舵シャフト22が貫通する貫通孔88が形成されている。貫通孔88は、転舵シャフト22の外形に対応して円形に形成されており、転舵シャフト22の外径に比して大きな径を有している。ストッパ部86は、大径部材80が連結される転舵シャフト22が軸方向Aに所定ストロークを超えて移動するのを規制する機能を有している。ストッパ部86は、大径部材80からの押圧力に耐えて転舵シャフト22の所定ストロークを超える移動を規制するのに必要な軸方向厚さを有している。
【0040】
ステアリング装置10は、エンドダンパ90を備えている。エンドダンパ90は、転舵シャフト22の軸方向移動に伴って大径部材80の軸方向端面がラックハウジング20のストッパ部86に当接する際の衝撃を吸収するための装置であって、その衝撃吸収により駆動力伝達機構38のベルト62の歯とびなどを防止する装置である。エンドダンパ90は、ストッパ部86に対して軸方向外側に隣接して設けられており、大径部材80とストッパ部86との間に配置されている。エンドダンパ90は、樹脂やバネなどの弾性体92と、その弾性体92を保持すると共に、大径部材80の軸方向端面が接する保持プレート94と、を有している。エンドダンパ90は、弾性体92を用いて転舵シャフト22が当接する際の衝撃力を減衰させる。
【0041】
保持プレート94は、略円筒形状に形成されかつ断面L字状に形成された部材であって、鉄などの金属により成形されている。保持プレート94は、軸方向Aに延びる円筒部94aと、円筒部94aの軸方向一方端から径方向外方に延在するフランジ部94bと、を有している。円筒部94aは、その内周面が転舵シャフト22の外周面に対向していると共に、軸中心においてその転舵シャフト22が挿通される貫通孔が形成されている部位である。フランジ部94bは、円筒部94aにおけるストッパ部86から遠い側の軸方向端部に設けられており、大径部材80の軸方向端面が接触し得る部位である。フランジ部94bと大径部材80とは、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動量が所定ストロークに達する前は互いに離間しており、その所定ストロークに達した場合に互いに接触する。尚、
図2には、大径部材80の軸方向端面がエンドダンパ90の保持プレート94のフランジ部94bに接した状態が示されている。
【0042】
弾性体92は、保持プレート94の円筒部94a及びフランジ部94bに接着されており、保持プレート94に一体化されている。弾性体92は、保持プレート94に一体化された状態で、その突部92aがラックハウジング20の大径収容室84に形成された溝部84aに嵌合するように構成されている。エンドダンパ90は、ラックハウジング20の上記溝部への弾性体92の嵌合によりラックハウジング20に対して位置決めされる。弾性体92は、大径部材80がストッパ部86に当接する際の衝撃を吸収するのに必要な大きさ及び形状に形成されており、また、大径収容室84の溝部に嵌合するのに必要な大きさ及び形状に形成されている。
【0043】
保持プレート94は、フランジ部94bに大径部材80の軸方向端面が接触して軸方向Aに押圧されることにより衝撃力を受けて、その衝撃を弾性体92に伝達する。弾性体92は、保持プレート94から加えられる衝撃により保持プレート94と一体でラックハウジング20のストッパ部86に近づく軸方向Aに変位する。弾性体92は、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動量が所定ストロークに達した場合に、保持プレート94とストッパ部86とに挟持されることにより圧縮変形する。これにより、大径部材80からエンドダンパ90の保持プレート94に付与された衝撃力は、弾性体92の弾性変形の作用により吸収される。
【0044】
ステアリング装置10において、ラックハウジング20の軸方向両端部はそれぞれ、ラックブーツ96により覆われている。ラックブーツ96は、転舵シャフト22の軸方向に筒状に延在しており、蛇腹状に形成されている。ラックブーツ96は、弾性を有する樹脂材料により成形されている。ラックブーツ96は、軸方向一端がラックハウジング20の小径部50の軸方向端部の外周面に取り付け固定されていると共に、軸方向他端がタイロッド28に取り付け固定されている。ラックブーツ96は、転舵シャフト22の軸方向端部に連結されたボールジョイント26及びタイロッド28を囲うことで、それらのボールジョイント26及びタイロッド28を収容する内室98内へ外部からの飛び石などの異物が浸入するのを防止する機能を有している。
【0045】
ラックハウジング20は、上記の如く、円筒内面から径方向内方に延びるストッパ部86を有している。ストッパ部86は、ボールネジ室56と大径収容室84ひいてはラックブーツ96の内室98とを隔てる隔壁である。ストッパ部86は、
図2、
図3、及び
図4に示す如く、上記の如く軸中心に形成された転舵シャフト22が貫通する貫通孔88を有していると共に、更に、その貫通孔88とは異なる排水路100を有している。
【0046】
排水路100は、ストッパ部86に貫通孔88とは別に設けられた孔であって、ボールネジ室56に滞留する水を外部へ排出するために設けられている。ステアリング装置10を車両に取り付けた状態において、排水路100は、ストッパ部86において貫通孔88よりも鉛直方向下方に配置されており、ストッパ部86を軸方向に貫通している。排水路100は、ボールネジ室56と大径収容室84ひいてはラックブーツ96の内室98とを連絡する連絡通路である。排水路100の断面形状は、
図4に示す如く円形である。排水路100は、その径がストッパ部86の径方向幅よりも小さくなるように形成されている。
【0047】
尚、排水路100の断面形状は、方形や楕円形,六角形などであってよい。また、排水路100は、貫通孔88の下端位置に対して下方に位置する通路部を少なくとも含んでいればよく、その貫通孔88の下端位置に対して上方に位置する通路部を含んでいてもよい。また、排水路100は、ストッパ部86に唯一つ設けられていればよいが、互いに異なる二以上設けられていてもよい。また、後述の如くボールネジ室56からラックブーツ96の内室98への排水性を向上させるためには、ステアリング装置10を車両に取り付けた状態において、排水路100は、貫通孔88の直下、すなわち、貫通孔88の軸中心に対して鉛直方向下方に配置されていることが好ましく、また、その排水路100の下端が連通する位置は、ボールネジ室56の下端(具体的には、ストッパ部86がラックハウジング20の円筒内周面と連結する根元部)に近いことが好ましい。
【0048】
また、エンドダンパ90は、上記の如く、ストッパ部86に対して軸方向外側に隣接して設けられており、大径部材80とストッパ部86との間に配置されている。エンドダンパ90は、ラックハウジング20に対する非シール部材である。すなわち、エンドダンパ90の弾性体92は、ラックハウジング20との間に隙間空間が形成されるように寸法設定されている。例えば、弾性体92は、その突部92aの外径がラックハウジング20の大径収容室84の溝部84aの内径に比して小さくなるように形成されている。また、その突部92aが溝部84aに嵌まっても、弾性体92とストッパ部86との間及び弾性体92とラックハウジング20の内周面との間に隙間が形成されるように形成されている。
【0049】
エンドダンパ90の弾性体92とラックハウジング20との間に形成される隙間空間は、上記の排水路100をエンドダンパ90を介して大径収容室84ひいてはラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102を構成する。すなわち、この連通路102は、弾性体92とラックハウジング20との間に形成される隙間空間である。
【0050】
上記したステアリング装置10の構造によれば、ラックブーツ96が破れてその内室98に水が浸入し、その後、その水が大径収容室84や更にはストッパ部86の貫通孔88などを介してボールネジ室56に浸入した場合、そのボールネジ室56に浸入した水を、ストッパ部86の貫通孔88よりも鉛直方向下方に配置された排水路100から外部へ排出することができる。
【0051】
この構造によれば、ボールネジ室56内の水位が貫通孔88に至る前に、その浸入した水を排水路100を介してボールネジ室56外へ排出することができるので、その排水路100が設けられていない構造に比べて、ボールネジ室56内に滞留する水の最大量を減らすことができ、その水位を低くすることができる。従って、ステアリング装置10によれば、ラックハウジング20のボールネジ室56からの水の排出性を良好に確保することができる。
【0052】
このため、本実施形態によれば、ボールネジ室56内の水が凍結するときにも、その最大凍結量を少量に抑えることができるので、水の凍結によるボールネジナット42の回転を妨げる抵抗力を小さくすることができる。これにより、ボールネジ室56内の水の凍結に起因した影響が、電動モータ36から駆動力伝達機構38及びボールネジ機構34を介して転舵シャフト22に付与されるアシスト力に及ぶのを回避することができ、ボールネジ室56内の水が凍結しても、運転者のステアリングホイール14へのハンドル操作を大きなトルク増加を伴うことなく実現することができる。
【0053】
また、上記したステアリング装置10の構造によれば、上記の排水路100をエンドダンパ90を介して大径収容室84ひいてはラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102がエンドダンパ90とラックハウジング20との間に設けられているので、ボールネジ室56内から排水路100を介してボールネジ室56外へ排出される水を、その連通路102を通じて大径収容室84及びラックブーツ96の内室98へ戻すことができる。このため、ボールネジ室56内から排水路100を介したボールネジ室56外への水の排出がエンドダンパ90により妨げられるのを防止することができ、ボールネジ室56外へ排出された水の一部又は全部を、ラックブーツ96の破れ部分から路面へ排出することができる。
【0054】
以上、説明したことから明らかなように、第1実施形態のステアリング装置10は、外周面にボールネジ部40が形成された転舵シャフト22と、転舵シャフト22を軸方向Aに移動可能に保持する円筒状のラックハウジング20と、ボールネジ部40に複数の転動ボール44を介して螺合されると共に、電動モータ36による回転駆動により転舵シャフト22を軸方向Aに移動させるボールネジナット42と、ラックハウジング20の内周面とボールネジナット42の外周面との間に配置され、ボールネジナット42をラックハウジング20に対して回転可能に支持する軸受66と、ラックハウジング20の軸方向端部を覆う筒状のラックブーツ96と、を備える。ラックハウジング20は、円筒内周面から径方向内方へ突出し、ボールネジナット42を内包するボールネジ室56とラックブーツ96の内室98とを隔てるストッパ部86を有する。ストッパ部86は、転舵シャフト22が貫通する貫通孔88と、貫通孔88よりも鉛直方向下方に設けられた、ボールネジ室56とラックブーツ96の内室98とを連絡する排水路100と、を有する。排水路100は、ストッパ部86に貫通孔88とは別に設けられた孔である。また、ストッパ部86は、ラックハウジング20に設けられる、転舵シャフト22の所定ストロークを超える移動を規制するストッパ部である。
【0055】
この構成によれば、ラックハウジング20のストッパ部86に貫通孔88よりも鉛直方向下方に排水路100が設けられているので、ボールネジ室56内の水位が貫通孔88に至る前に、ボールネジ室56に浸入した水をその排水路100を介してボールネジ室56外へ排出することができる。このため、ボールネジ室56内に滞留する水の最大量を減らすことができ、その水位を低くすることができるので、ラックハウジング20のボールネジ室56からの水の排出性を良好に確保することができる。
【0056】
また、ステアリング装置10は、ストッパ部86に対して軸方向に隣接して設けられ、転舵シャフト22の移動を減衰させるエンドダンパ90と、排水路100をエンドダンパ90を介してラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102と、を備える。エンドダンパ90は、ラックハウジング20に対する非シール部材であり、連通路102は、エンドダンパ90とラックハウジング20との間に形成される隙間空間である。
【0057】
この構成によれば、排水路100をエンドダンパ90を介してラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102が設けられているので、ボールネジ室56内から排水路100を介してボールネジ室56外へ排出される水を、その連通路102を通じてラックブーツ96の内室98へ戻すことができる。このため、ボールネジ室56内から排水路100を介したボールネジ室56外への水の排出がエンドダンパ90により妨げられるのを防止することができる。
【0058】
<2.第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るステアリング装置10の構成について、
図5及び
図6を参照して説明する。尚、
図5及び
図6において、上記
図3及び
図4に示した構成部分と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0059】
ステアリング装置10において、ラックハウジング20のストッパ部86は、
図5及び
図6に示す如く、転舵シャフト22が貫通する貫通孔88を有していると共に、更に、その貫通孔88とは異なる排水路200を有している。排水路200は、ストッパ部86に設けられた、円形の貫通孔88に連通する溝であって、ボールネジ室56に滞留する水を外部へ排出するために設けられている。排水路200は、貫通孔88から径方向外方へ凹んでいる。ステアリング装置10を車両に取り付けた状態において、排水路200は、ストッパ部86において貫通孔88よりも鉛直方向下方に配置されており、ストッパ部86を軸方向に貫通している。排水路200は、ボールネジ室56と大径収容室84ひいてはラックブーツ96の内室98とを連絡する連絡通路である。排水路200は、その径方向幅がストッパ部86の径方向幅と比べて同じか小さくなるように形成されている。
【0060】
尚、排水路200の断面形状は、貫通孔88に連通していれば何れの形状であってよく、例えば角形や円弧形,楕円弧形などであってよい。また、排水路200は、円形の貫通孔88の下端位置(実際には、その貫通孔88の円形下端として想定される位置)に対して下方に位置する通路部を少なくとも含んでいればよく、その貫通孔88の下端位置に対して上方に位置する通路部を含んでいてもよい。また、排水路200は、ストッパ部86に唯一つ設けられていればよいが、互いに異なる二以上設けられていてもよい。また、ボールネジ室56からラックブーツ96の内室98への排水性を向上させるためには、ステアリング装置10を車両に取り付けた状態において、排水路200は、貫通孔88の直下、すなわち、貫通孔88の軸中心に対して鉛直方向下方に配置されていることが好ましく、また、その排水路200の下端が連通する位置は、ボールネジ室56の下端(具体的には、ストッパ部86がラックハウジング20の円筒内周面と連結する根元部)に近いことが好ましい。
【0061】
エンドダンパ90の弾性体92とラックハウジング20との間に形成される隙間空間は、上記の排水路200をエンドダンパ90を介して大径収容室84ひいてはラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102を構成する。すなわち、この連通路102は、弾性体92とラックハウジング20との間に形成される隙間空間である。
【0062】
以上、説明したことから明らかなように、第2実施形態のステアリング装置10は、外周面にボールネジ部40が形成された転舵シャフト22と、転舵シャフト22を軸方向Aに移動可能に保持する円筒状のラックハウジング20と、ボールネジ部40に複数の転動ボール44を介して螺合されると共に、電動モータ36による回転駆動により転舵シャフト22を軸方向Aに移動させるボールネジナット42と、ラックハウジング20の内周面とボールネジナット42の外周面との間に配置され、ボールネジナット42をラックハウジング20に対して回転可能に支持する軸受66と、ラックハウジング20の軸方向端部を覆う筒状のラックブーツ96と、を備える。ラックハウジング20は、円筒内周面から径方向内方へ突出し、ボールネジナット42を内包するボールネジ室56とラックブーツ96の内室98とを隔てるストッパ部86を有する。ストッパ部86は、転舵シャフト22が貫通する貫通孔88と、貫通孔88よりも鉛直方向下方に設けられた、ボールネジ室56とラックブーツ96の内室98とを連絡する排水路200と、を有する。排水路200は、ストッパ部86に設けられた、貫通孔88に連通する溝である。
【0063】
この構成によれば、ラックハウジング20のストッパ部86に貫通孔88よりも鉛直方向下方に排水路200が設けられているので、ボールネジ室56内の水位が貫通孔88に至る前に、ボールネジ室56に浸入した水をその排水路200を介してボールネジ室56外へ排出することができる。このため、ボールネジ室56内に滞留する水の最大量を減らすことができ、その水位を低くすることができるので、ラックハウジング20のボールネジ室56からの水の排出性を良好に確保することができる。
【0064】
また、ステアリング装置10は、ストッパ部86に対して軸方向に隣接して設けられ、転舵シャフト22の移動を減衰させるエンドダンパ90と、排水路200をエンドダンパ90を介してラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102と、を備える。エンドダンパ90は、ラックハウジング20に対する非シール部材であり、連通路102は、エンドダンパ90とラックハウジング20との間に形成される隙間空間である。
【0065】
この構成によれば、排水路200をエンドダンパ90を介してラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102が設けられているので、ボールネジ室56内から排水路200を介してボールネジ室56外へ排出される水を、その連通路102を通じてラックブーツ96の内室98へ戻すことができる。このため、ボールネジ室56内から排水路200を介したボールネジ室56外への水の排出がエンドダンパ90により妨げられるのを防止することができる。
【0066】
ところで、上記の第1及び第2実施形態においては、排水路100,200を、転舵シャフト22の所定ストロークを超える移動を規制するストッパ部86に設けることとした。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、排水路100,200を、ラックハウジング20の円筒内周面から径方向内方へ突出しつつボールネジ室56とラックブーツ96の内室98とを隔てる隔壁に設けることとすればよい。かかる変形形態においても、上記の第1及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、上記の第1及び第2実施形態においては、エンドダンパ90をラックハウジング20に対する非シール部材としつつ、排水路100,200をエンドダンパ90を介してラックブーツ96の内室98に連通させる連通路102を、エンドダンパ90とラックハウジング20との間に形成される隙間空間とした。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、エンドダンパ90をラックハウジング20に対するシール部材としつつ、その連通路102をエンドダンパ90における鉛直方向下部に軸方向に貫通するように設けることとしてもよい。かかる変形形態においても、上記の第1及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。