(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0012】
<電動車両の全体構成>
図1は、本実施の形態による電動車両1の全体構成の一例を模式的に示す図である。電動車両1は、エンジン10と、第1モータジェネレータ20と、第2モータジェネレータ30と、動力分割装置40と、減速機50と、PCU(Power Control Unit)60と、バッテリ70と、前輪(駆動輪)80と、後輪(従動輪)81と、ECU(Electronic Control Unit)200とを備える。
【0013】
なお、
図1に示す電動車両1はエンジン10と2つのモータジェネレータ20,30とを備えるハイブリッド車両であるが、本開示が適用可能な車両は、駆動輪に機械的に接続されたモータジェネレータと、モータジェネレータに電気的に接続されたバッテリとを備える電動車両であればよく、
図1に示す電動車両1に限定されない。たとえば、エンジンと1つのモータジェネレータとを備えるハイブリッド車両にも本開示は適用可能である。また、モータジェネレータのみを備える電気自動車にも本開示は適用可能である。
【0014】
エンジン10、第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30は、動力分割装置40を介して連結される。そして、この電動車両1は、エンジン10および第2モータジェネレータ30の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行する。エンジン10が発生する動力は、動力分割装置40によって、前輪(駆動輪)80へ伝達される経路と、第1モータジェネレータ20へ伝達される経路とに分割される。
【0015】
なお、
図1においては前輪80が駆動輪である例が示されているが、後輪81が駆動輪であってもよい。
【0016】
エンジン10は、ECU200からの制御信号によって制御される。第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30は、たとえば三相交流同期電動機である。
【0017】
第1モータジェネレータ20は、動力分割装置40によって分割されたエンジン10の動力を用いて発電する。
【0018】
第2モータジェネレータ30は、バッテリ70に蓄えられた電力および第1モータジェネレータ20により発電された電力の少なくとも一方を用いて駆動力を発生する。第2モータジェネレータ30は、減速機50を介して駆動輪80に機械的に接続される。したがって、第2モータジェネレータ30の駆動力は、減速機50を介して駆動輪80に伝達される。電動車両1の制動時等には、駆動輪80によって第2モータジェネレータ30が駆動され、第2モータジェネレータ30が発電機として動作する。第2モータジェネレータ30により発電された回生電力は、バッテリ70に蓄えられる。
【0019】
動力分割装置40は、サンギヤと、ピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含む遊星歯車から成る。ピニオンギヤは、サンギヤおよびリングギヤと係合する。キャリアは、ピニオンギヤを自転可能に支持するとともに、エンジン10のクランクシャフトに連結される。サンギヤは、第1モータジェネレータ20の回転軸に連結される。リングギヤは第2モータジェネレータ30の回転軸および減速機50に連結される。
【0020】
PCU60は、ECU200からの制御信号によって制御される。PCU60は、バッテリ70に蓄えられた直流電力を第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30を駆動可能な交流電力に変換して第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30に出力する。これにより、バッテリ70に蓄えられた電力で第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30が駆動される。また、PCU60は、第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30によって発電される交流電力をバッテリ70に充電可能な直流電力に変換してバッテリ70へ出力する。これにより、第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30が発電した電力でバッテリ70が充電される。
【0021】
バッテリ70は、第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30に電気的に接続される。バッテリ70は、第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30を駆動するための電力を蓄える。本実施の形態において、バッテリ70は、リチウムイオンバッテリである。
【0022】
電動車両1は、さらに、ミリ波レーダ11およびカメラ12を備える。ミリ波レーダ11およびカメラ12は、車両前方に設けられ、車両前方の物体および路面状況を検出可能に構成される。
【0023】
ミリ波レーダ11は、検出用のミリ波(たとえば30〜300GHz帯の電波)を車両前方の所定範囲へ向けて出射するとともに、出射したミリ波が車両前方の物体あるいは路面に反射した反射波を受信する。ミリ波レーダ11は、受信した反射波の情報D1をECU200に出力する。ECU200は、ミリ波レーダ11からの反射波情報から、車両前方の路面状況を検出することができる。
【0024】
カメラ12は、車両前方の所定範囲の画像を撮影し、撮影された画像の情報D2をECU200に出力する。ECU200は、カメラ12からの画像情報から、車両前方の路面状況を検出することができる。
【0025】
図2は、ミリ波レーダ11による検出可能範囲およびカメラ12による検出可能範囲の一例を模式的に示す図である。
図2に示すように、ミリ波レーダ11による検出可能距離の方がカメラ12による検出可能距離よりも長いが、カメラ12による検出可能幅の方がミリ波レーダ11による検出可能幅よりも大きい。
【0026】
なお、本実施の形態においては車両前方の路面状況をミリ波レーダ11およびカメラ12を用いて検出する場合について説明するが、ミリ波レーダ11およびカメラ12に代えてあるいは加えて、レーザー、赤外投光器、ソナー、サーモビュアーなどを用いて車両前方の路面状況を検出するようにしてもよい。
【0027】
電動車両1は、さらに、外気温センサ13および車速センサ14を備える。外気温センサ13は、電動車両1の周辺の外気温度THoutを検出する。車速センサ14は、ドライブシャフトの回転速度から車速Vを検出する。これらの各センサは、検出結果を表わす信号をECU200に送信する。
【0028】
ECU200は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサからの情報に基づいて、所定の演算処理を実行するように構成される。
【0029】
<スリップグリップに起因するバッテリ劣化の抑制>
上述のような構成を有する電動車両1において、駆動輪80が路面に対してスリップした後にグリップが回復する「スリップグリップ」が生じると、グリップ回復時に第2モータジェネレータ30による回生発電によって過大な電流パルスがバッテリ70に入力され得る。
【0030】
特に、外気温度が0℃以下の低温環境下においては、スリップグリップによってバッテリが劣化し易くなり得る。具体的には、グリップ回復時の回生発電に起因する過大な電流パルスが低温環境下においてバッテリ70に入力されると、バッテリ70の電極の表面に粒状のLi(リチウム)デンドライトが析出してバッテリ70内部で過剰な熱が発生し得るため、バッテリが劣化してしまうことが懸念される。なお、上記のようなLi析出は、特に、バッテリ70のSOC(State Of Charge)が高い状態において生じ易い。
【0031】
図3は、バッテリ70を充電する際の、バッテリ70の温度と、Li析出による発熱量との対応関係の一例を示す図である。
図3に示されるように、バッテリ70の温度が0℃以下である場合には、充電によるLi析出が非常に大きく、バッテリ70を劣化させてしまうことが懸念される。
【0032】
上記の点に鑑み、本実施の形態によるECU200は、外気温度THoutが0℃以下である場合、ミリ波レーダ11およびカメラ12からの情報を用いて、駆動輪80が路面に対してスリップすると予測される場所(以下、単に「スリップ場所」ともいう)が進行方向前方に存在するか否かを判定する。そして、スリップ場所が進行方向前方に存在すると判定された場合には、ECU200は、スリップ場所に電動車両1が到達する前に、予め第2モータジェネレータ30による回生発電を禁止する。ECU200は、第2モータジェネレータ30による回生発電の禁止を、電動車両1がスリップ場所を通過するまで継続する。これにより、電動車両1がスリップ場所を通過する際にスリップグリップが生じたとしても、回生発電に起因する過大な電流パルスが発生することが抑制される。その結果、電動車両1においてスリップグリップに起因するバッテリ70の劣化を適切に抑制することができる。
【0033】
図4は、スリップグリップに起因するバッテリ70の劣化をECU200が抑制する際に実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、電動車両1の前進走行中に繰り返し実行される。
【0034】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、ECU200は、外気温センサ13によって検出された外気温度THoutが0℃以下であるか否かを判定する。外気温度THoutが0℃以下でない場合(S10にてNO)、ECU200は、以降の処理をスキップして、処理をリターンへと移行する。
【0035】
次いで、ECU200は、ミリ波レーダ11およびカメラ12からの情報を用いて、電動車両1の進行方向前方に上述のスリップ場所(駆動輪80が路面に対してスリップすると予測される場所)が存在するか否かを判定する(S12)。
【0036】
スリップ場所としては、未舗装道路、ベルジャン路(石畳路)、凍結路、圧雪路、水溜り、道路上に設置される金属物(マンホール等)などが想定される。
【0037】
たとえば、カメラ12からの画像情報を用いてスリップ場所を特定する場合には、画像照合を利用することができる。具体的には、ECU200の内部メモリに、複数のスリップ場所の画像を予め記憶しておく。予め記憶しておくスリップ場所としては、電動車両1の諸元から摩擦円の限界を超えると予測される場所(上述の未舗装道路、ベルジャン路等)、あるいは過去に実際にスリップした場所などが想定される。
【0038】
そして、ECU200は、カメラ12からの画像と内部メモリに記憶されているスリップ場所の画像とを照合し、カメラ12からの画像に内部メモリに記憶されているスリップ場所の画像と一致する場所が存在する場合に、当該場所をスリップ場所と特定することができる。
【0039】
また、ミリ波レーダ11からの反射波情報を用いてスリップ場所を特定する場合には、ミリ波レーダ11が受信する反射波の強度を利用することができる。
【0040】
図5は、ドライ路(スリップし難い場所)における反射強度と、圧雪路(スリップし易い場所)における反射強度との対応関係の一例を示す図である。
図5に示すように、ドライ路における反射強度はほぼ0であるのに対し、圧雪路における反射強度は大きい。この点を利用することによって、ミリ波レーダ11からの反射波情報から、圧雪路(スリップ場所)の有無を判定することができる。具体的には、ECU200の内部メモリに、圧雪路(スリップ場所)の反射強度を判定値として予め記憶しておく。そして、ECU200は、ミリ波レーダ11からの反射波の強度が内部メモリに記憶されている判定値に近いレベルである場合、当該場所を圧雪路(スリップ場所)と特定することができる。なお、レーザーを用いてスリップ場所を特定する場合においても、同様の手法でスリップ場所の有無を判定することができる。
【0041】
図4に戻って、スリップ場所が存在すると判定されない場合(S12にてNO)、ECU200は、以降の処理をスキップして、リターンへと処理を移行する。
【0042】
スリップ場所が存在すると判定された場合(S12にてYES)、ECU200は、そのスリップ場所に電動車両1が到達する前に、第2モータジェネレータ30による回生発電を禁止する(S14)。具体的には、ECU200は、第2モータジェネレータ30による回生発電が発生しないようにPCU60を制御する。なお、回生発電の禁止中にブレーキ力が要求された場合には、回生ブレーキを発生させることができないため、他の摩擦ブレーキ(図示せず)等を用いてブレーキ力を発生させるようにすればよい。
【0043】
回生発電の禁止中において、ECU200は、電動車両1がスリップ場所を通過したか否かを判定する(S16)。たとえば、ECU200は、少なくとも後輪81がスリップ場所を通過したと予測される場合に、電動車両1がスリップ場所を通過したと判定することができる。
【0044】
図6は、電動車両1の後輪81がスリップ場所を通過したか否かを判定する手法の一例を説明するための図である。
【0045】
図6に示すように、センサ(ミリ波レーダ11あるいはカメラ12)の搭載位置からセンサの検出可能範囲の最短位置までの距離を「α」とし、センサの搭載位置から後輪81までの距離を「β」とすると、センサによってスリップ場所が検出されなくなってから、αとβとの合計距離を車速Vで除算して得られる時間(=(α+β)/V)が経過した場合に、後輪81がスリップ場所を通過したと判定することができる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、グリップ回復時に第2モータジェネレータ30による回生発電が生じるのは前輪(駆動輪)80である点に鑑み、後輪81ではなく前輪80がスリップ場所を通過したと予測される場合に、電動車両1がスリップ場所を通過したと判定するようにしてもよい。前輪80がスリップ場所を通過したか否かを判定する手法については、上述の
図6で説明した手法と同様の考え方を採用することができる。
【0047】
図4に戻って、電動車両1がスリップ場所を通過したと判定されない場合(S16にてNO)、ECU200は、処理をS14に戻し、第2モータジェネレータ30による回生発電の禁止を継続する。
【0048】
電動車両1がスリップ場所を通過したと判定された場合(S16にてYES)、ECU200は、第2モータジェネレータ30による回生発電の禁止を解除する(S18)。
【0049】
以上のように、本実施の形態によるECU200は、外気温度THoutが0℃以下である場合、ミリ波レーダ11およびカメラ12からの情報を用いてスリップ場所が進行方向前方に存在するか否かを判定する。そして、スリップ場所が進行方向前方に存在すると判定された場合には、ECU200は、電動車両1がスリップ場所に到達する前からスリップ場所を通過するまでの期間、第2モータジェネレータ30による回生発電の禁止する。これにより、電動車両1がスリップ場所を通過する際にスリップグリップが生じたとしても、回生発電に起因する過大な電流パルスが発生することが抑制される。その結果、電動車両1においてスリップグリップに起因するバッテリ70の劣化を適切に抑制することができる。
【0050】
<変形例>
上述の実施の形態においては、進行方向前方にスリップ場所が存在すると判定されたタイミングで、回生発電禁止処理(
図4のS14の処理)を開始する例について説明した。
【0051】
これに対し、以下のように、回生発電禁止処理の開始タイミングを、スリップ場所が存在すると判定されたタイミングよりも遅らせるようにしてもよい。
【0052】
図7は、本変形例による回生発電禁止処理の開始タイミングの一例を説明するための図である。
図7に示すように、電動車両1が車速Vでの前進中に、ミリ波レーダ11によって距離Dだけ先にスリップ場所が検出された場合を想定する。この場合、電動車両1がスリップ場所に到達するまでの時間Tは、スリップ場所までの距離Dを車速Vで除算した値(=D/V)となる。
【0053】
そして、回生発電禁止処理を開始するのに要する時間は、ミリ波処理時間、通信時間、判定時間、回生禁止制御時間などを合計した時間である。
【0054】
したがって、電動車両1がスリップ場所に到達するまでの時間T(=D/V)が回生禁止処理を開始するのに要する時間に達するタイミングまでは、回生発電禁止処理の開始タイミングを遅らせることができる。このようにすることで、必要な回生エネルギーを無駄にすることなく、スリップグリップ時の回生発電に起因する過大な電流パルスの発生を抑制することができる。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。