(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769908
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】燃料タンク製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 70/32 20060101AFI20201005BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20201005BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20201005BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20201005BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
B29C70/32
F16J12/00 B
F16J12/00 Z
B29K101:10
B29K105:08
B29L22:00
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-69889(P2017-69889)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-171716(P2018-171716A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】光洋サーモシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】八田 健
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰浩
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/057753(WO,A1)
【文献】
特開2010−264718(JP,A)
【文献】
特開2013−173345(JP,A)
【文献】
特開平6−34268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 − 70/88
F16J 12/00 − 13/24
F16C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含む繊維強化樹脂層を有するタンク容器を加熱し、前記繊維強化樹脂層を熱硬化させて燃料タンクを製造する燃料タンク製造装置であって、
前記タンク容器を収容し、該タンク容器の表面にガスを噴射して該タンク容器を加熱するノズルが少なくとも1つ設けられた熱硬化室と、
前記タンク容器を該タンク容器の中心軸回りに回転させる回転部と、
を備え、
前記熱硬化室の側壁には、外気を流入させる外気流入口が少なくとも一つ設けられており、
前記回転部は、前記ノズルからのガスの噴射方向と逆向きに前記タンク容器を回転させるようにされており、
前記タンク容器の中心軸方向から見たとき、前記ノズルは、前記タンク容器の中心軸の鉛直方向に対してずれた位置に配置されており、
前記タンク容器の中心軸の鉛直上方には、前記ノズルから噴射されるガスの流れを規制する規制板が設けられていることを特徴とする燃料タンク製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や水素自動車等に搭載される水素タンクなどの燃料タンクには、高圧に耐えるために十分な強度を有すること、及び軽量であることが要求されている。このような燃料タンクの製造方法として、円筒状のライナーを回転させながら、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸した炭素繊維を該ライナーの表面に繰り返し巻き付けてタンク容器を作製し、その後に熱硬化性樹脂を熱硬化させる方法(すなわち、フィラメントワインディング法)が知られている。
【0003】
上述の製造方法に適する製造装置として、例えば下記特許文献1に記載のように、タンク容器を該タンク容器の中心軸回りに回転させる回転部と、タンク容器の全体を加熱する熱硬化炉と、局所加熱によりタンク容器の表面に生じる気泡を除去するノズルとを備えるものが挙げられる。このように構成された燃料タンク製造装置によれば、ノズルで熱風を噴射して気泡を除去することで、気泡によるタンクの寸法及び意匠性への影響を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−264718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の燃料タンク製造装置では、噴射した熱風が装置の外部に漏れることを防ぐために、装置内を負圧にする必要がある。しかし、装置内を負圧にすると、外気が装置内に流入するため、装置内の温度にばらつきが生じ、燃料タンクの品質低下を招く可能性がある。
【0006】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、装置内を負圧にしても、装置内の温度のばらつきを抑制できる燃料タンク製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料タンク製造装置は、熱硬化性樹脂を含む繊維強化樹脂層を有するタンク容器を加熱し、前記繊維強化樹脂層を熱硬化させて燃料タンクを製造する燃料タンク製造装置であって、前記タンク容器を収容し、該タンク容器の表面にガスを噴射して該タンク容器を加熱するノズルが少なくとも1つ設けられた熱硬化室と、前記タンク容器を該タンク容器の中心軸回りに回転させる回転部と、を備え、前記熱硬化室の側壁には、外気を流入させる外気流入口が少なくとも一つ設けられており、前記回転部は、前記ノズルからのガスの噴射方向と逆向きに前記タンク容器を回転させるようにされており、前記タンク容器の中心軸方向から見たとき、前記ノズルは、前記タンク容器の中心軸の鉛直方向に対してずれた位置に配置されており、前記タンク容器の中心軸の鉛直上方には、前記ノズルから噴射されるガスの流れを規制する規制板が設けられていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る燃料タンク製造装置では、タンク容器の中心軸方向から見たとき、ノズルはタンク容器の中心軸の鉛直方向に対してずれた位置に配置されており、タンク容器の中心軸の鉛直上方にノズルから噴射されるガスの流れを規制する規制板が設けられているため、ノズルから噴射されるガスをタンク外周に沿って一方向に流すことができ、熱効率を高めることができる。また、回転部はノズルからのガスの噴射方向と逆向きにタンク容器を回転させるようにされているため、ノズルから噴射されるガスをタンク容器の周囲に拡散させながら、タンク容器とガスとの接触時間を長くすることで、熱効率を一層高めることができる。更に、熱硬化室の側壁に外気を流入させる外気流入口が少なくとも一つ設けられているため、仮に装置内を負圧にした場合、該外気流入口経由で装置内に流入した外気は、ノズルから噴射されるガスよりも温度が低く、タンク容器の下方に流れてそこでノズルから噴射されるガスと混合するので、外気の流入による温度均一性への影響を防止できる。その結果、装置内を負圧にしても、装置内の温度のばらつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置内を負圧にしても、装置内の温度のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】熱硬化炉の内部構造を示す正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る燃料タンク製造装置の実施形態について説明する。
図1は燃料タンク製造装置を示す斜視図である。本実施形態の燃料タンク製造装置1は、熱硬化性樹脂を含む繊維強化樹脂層を有するタンク容器10を加熱し、繊維強化樹脂層を熱硬化させて燃料タンクを製造するのに用いられる装置である。この燃料タンク製造装置1は、架台6に支持固定され、タンク容器10を加熱するための熱硬化炉(熱硬化室)2と、熱硬化炉2の外部に設置され、熱風を発生するための熱風発生機3と、熱風発生機3で発生した熱風を熱硬化炉2に供給するための吸気ダクト4と、熱硬化炉2からの排気を熱風発生機3に戻すための排気ダクト5とを備えている。
【0012】
図2は熱硬化炉の内部構造を示す正面模式図であり、
図3は
図2のA−A線に沿う断面図である。
図2において、内部構造をより理解し易くするために、前側(すわなち、手前)の炉壁24を省略する。
【0013】
ここで、まず、タンク容器10の構造を説明する。
図2に示すように、タンク容器10は、半径が略均一である円筒状の胴体部11と、胴体部11の両端に設けられた凸曲面形状のドーム部12とを有する中空の容器である。タンク容器10の中心軸L方向の両端部(
図2では左右両端部)には、軸支シャフト13がそれぞれ着脱可能に取り付けられている。タンク容器10は、軸支シャフト13を介して後述の回転部21の軸受部材210に回転可能に支持されながら、回転モータ211の回転駆動でその中心軸L回りに回転する。
【0014】
図示しないが、タンク容器10は、内部に燃料を貯留するための貯留空間を有するライナーと、ライナーの外壁と密着する繊維強化樹脂層とからなる。ライナーは、例えば樹脂材料やアルミニウム等の軽金属材料によって形成されている。一方、繊維強化樹脂層は、ライナーの外表面を覆う補強層であり、ライナーの外表面に巻き付けられる炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)等の強化繊維と、その強化繊維同士を結着する熱硬化性樹脂とで構成されている。
【0015】
図2に示すように、熱硬化炉2は、内部にタンク容器10を収容する空間が設けられて全体略箱状を呈しており、例えば金属製枠体の四周に耐熱性及び保温性を有する炉壁24を取り付けることにより形成されている。熱硬化炉2の左右両側の炉壁(側壁)24には、炉壁24を貫通する貫通孔23がそれぞれ設けられている。そして、タンク容器10の左右両端部に取り付けられた軸支シャフト13の先端部は、それぞれ貫通孔23に挿通されるとともに、回転部21の軸受部材210に挿入固定されている。
【0016】
熱硬化炉2の外部には、タンク容器10をその中心軸回りに回転させるための回転部21が配置されている。回転部21は、熱硬化炉2の炉壁24の外側に固定されるとともに上記軸支シャフト13を軸支する一対の軸受部材210と、一対の軸受部材210の片側に配置された回転モータ211とを有するように構成されている。このように回転部21を熱硬化炉2の外部に配置することで、熱硬化炉2の内部空間を小さくすることができるので、熱硬化炉2全体のコンパクト化を図ることが可能になる。また、回転部を熱硬化炉の内部に配置する場合と比べて、回転部によって吸収される熱がなくなるので、省エネの効果も奏する。
【0017】
炉壁24に貫通孔23を設けることにより、熱硬化炉2内を負圧にした場合、外気が該貫通孔23から熱硬化炉2の内部に流入する。すなわち、貫通孔23は、特許請求の範囲に記載の「外気流入口」に相当するものでもある。
図2の破線付き矢印F2に示すように、貫通孔23から熱硬化炉2内部に流入した外気は、熱硬化炉2内の熱風より温度が低いため、タンク容器10の下方に流れる。
【0018】
本実施形態において、貫通孔23経由で外部への放熱を阻止するために、貫通孔23が設けられた炉壁24の内側には、放熱遮断カーテン25がそれぞれ取り付けられている。放熱遮断カーテン25は、例えば熱に強い樹脂材料によって形成されている。図示しないが、放熱遮断カーテン25の設置によるタンク容器10回転への影響を抑制するために、放熱遮断カーテン25の軸支シャフト13に対応する位置には、軸支シャフト13を挿通できる孔などが設けられている。
【0019】
熱硬化炉2の天井には、熱吸排気ボックス26が取り付けられている。熱吸排気ボックス26の内部には、吸気ダクト4と後述の熱風吹付部22とを連通する吸気路261と、排気ダクト5と熱硬化炉2内部と連通する排気路262とがそれぞれ設けられている(
図3参照)。
【0020】
熱吸排気ボックス26の下方には、タンク容器10の表面に熱風を吹き付ける熱風吹付部22が吊設されている。熱風吹付部22は、タンク容器10の中心軸Lの方向に沿って延びる扁平箱状の熱風整流室220と、熱風整流室220の上方に設けられて該熱風整流室220と熱吸排気ボックス26とを接続する2本の接続管221と、熱風整流室220の下方に設けられてタンク容器10の表面に熱風を噴射する一体のノズル222とを有する。
【0021】
2本の接続管221は、熱風整流室220の長手方向(すなわち、タンク容器10の中心軸L方向)に沿って等間隔で配置されている。一方、一体のノズル222は、スリット形状を呈しており、熱風整流室220の長手方向に沿って配置されている。このように一体のノズル222を用いることによって、タンク容器10の表面をムラなく加熱することができる。なお、接続管221の数は、上述の説明及び図示に制限されず、必要に応じて適宜増減しても良い。また、ノズル222は、別体ノズルを等間隔で複数個を直線状に配置しても良い。
【0022】
本実施形態において、タンク容器10の中心軸L方向から見たとき、ノズル222は、タンク容器10の中心軸Lの鉛直方向(すなわち、上下方向)に対してずれた位置に配置されている。具体的には、
図3に示すように、ノズル222は、タンク容器10の中心軸Lの鉛直方向に対して左側にずれた位置に配置されている。換言すれば、ノズル222は、水平方向においてタンク容器10の中心より左側に偏心する。
【0023】
また、タンク容器10の中心軸Lの鉛直上方であって該タンク容器10の上方には、ノズル222から噴射される熱風の流れを規制する規制板27が設けられている。規制板27は、その長手方向がタンク容器10の中心軸L方向、幅方向が上下方向にそれぞれ沿うように、熱吸排気ボックス26の底面に固定されている。
図2に示すように、タンク容器10の中心軸L方向において、規制板27はノズル222の配置範囲よりも長い。また、
図3に示すように、上下方向において、規制板27の底面はノズル222の先端の噴射口と同じ高さに位置している。なお、規制板27の底面はノズル222の噴射口と必ずしも同じ高さに位置する必要がなく、ノズル222から噴射される熱風が右側への流れを阻止できれば、該規制板27の底面をノズル222の噴射口よりも高い位置或いは低い位置にしても良い。
【0024】
また、本実施形態において、回転部21は、ノズル222からの熱風の噴射方向と逆向きにタンク容器10を回転させるように設定されている。具体的には、
図3に示すように、ノズル222がタンク容器10の中心軸Lの鉛直方向に対して左側にずれた位置に配置されるので、ノズル222から噴射される熱風は、タンク容器10の表面に沿って反時計回り(実線付き矢印F1参照)に流れる。これに対し、タンク容器10は回転部21によって時計回り(白塗り矢印F3参照)に回転される。
【0025】
以上の構成を有する燃料タンク製造装置1では、タンク容器10の中心軸L方向から見たとき、ノズル222はタンク容器10の中心軸Lの鉛直方向に対して左側にずれた位置に配置され、タンク容器10の中心軸Lの鉛直上方にノズル222から噴射される熱風の流れを規制する規制板27が設けられているため、
図3に示すようにノズル222から噴射される熱風は、規制板27の規制で右側に流れずに、タンク容器10の左側、下側、右側の順で一方向に流れる。すなわち、ノズル222から噴射される熱風は、タンク容器10の外周に沿って反時計回りに流れる。このようにノズル222から噴射される熱風を一方向に流すことで、熱効率を高めることができる。
【0026】
また、回転部21はノズル222からの熱風の噴射方向と逆向きにタンク容器10を回転させるように設定されるので、ノズル222から噴射される熱風をタンク容器10の周囲に拡散させながら、タンク容器10と熱風との接触時間を長くすることで、熱効率を一層高めることができる。
【0027】
更に、熱硬化炉2内を負圧にした場合に、炉壁24に設けられた貫通孔23から炉内に流入した外気は、タンク容器10の下方に流れてそこでノズル222から噴射される熱風と混合し、
図3破線付き矢印F2に示すように、熱風とともにタンク容器10の形状に沿って上昇する。上昇した混合気体は、規制板27によってノズル222側への流れが制限されるので、熱吸排気ボックス26の排気路262及び排気ダクト5を経由して熱風発生機3に排気される。
【0028】
その結果、熱硬化炉2内を負圧にしても、外気の流入による温度均一性への影響を防止でき、熱硬化炉2内の温度のばらつきを抑制することができるので、タンク容器10の硬化品質を安定させることが可能になる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、上述の実施形態では、タンク容器10を回転させるための回転部21が熱硬化炉2の外部に配置される例を挙げて説明したが、必要に応じて回転部21を熱硬化炉2の内部に配置しても良い。
【0030】
また、上述の実施形態では、熱硬化炉2の炉壁24に設けられた貫通孔23が外気流入口の機能を兼ねることを説明したが、貫通孔23のほかに外気流入口を別途設けても良い。この場合、外気の流入による熱硬化炉2内温度への影響をより小さくするために、外気流入口の設置位置をタンク容器10の中心軸Lの鉛直下方にすることが好ましい。
【0031】
更に、上述の実施形態において、タンク容器10の中心軸L方向から見たとき、ノズル222がタンク容器10の中心軸Lの鉛直方向に対して左側にずれた位置に配置される例を説明したが、ノズル222がタンク容器10の中心軸Lの鉛直方向に対して右側にずれた位置に配置されても良い。この場合、ノズル222から噴射される熱風がタンク容器10の外周に沿って時計回りに流れるので、回転部21は反時計回りにタンク容器10を回転させるように設定される。
【符号の説明】
【0032】
1 燃料タンク製造装置
2 熱硬化炉
3 熱風発生機
4 吸気ダクト
5 排気ダクト
10 タンク容器
11 胴体部
12 ドーム部
13 軸支シャフト
21 回転部
22 熱風吹付部
23 貫通孔(外気流入口)
24 炉壁
25 放熱遮断カーテン
26 熱吸排気ボックス
27 規制板
210 軸受部材
211 回転モータ
220 熱風整流室
221 接続管
222 ノズル
L 中心軸