(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベルト本体の周方向を幅方向とすると、前記凹部の半径は、前記低硬度ゴム層における前記高硬度ゴム層側の幅の5%以上15%以下にされていることを特徴とする請求項1に記載の山付きVベルト。
JIS−A試験方法で定義される硬度において、前記低硬度ゴム層の硬度が55〜76度であり、前記高硬度ゴム層の硬度が80〜88度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の山付きVベルト。
【背景技術】
【0002】
自脱型コンバインは、稲や麦を刈り取りながら脱穀する機能を備えた農業機械であり、刈り取られた作物を整然と搬送して、穂先のみを脱穀機に投入する。山付きVベルトは、コンバインの先端近くに位置する刈取部に組み込まれるもので、刈取条数と同数の山付きVベルトが取り付けられる(例えば5条刈りなら5本)。
【0003】
山付きVベルトの主な機能は、収穫シーズンに穂の重みや雨水の重みで倒れた作物を引き起こすことと、引き起こした作物を山付きVベルトの後方にあるロータリーカッターへ搬送することである。搬送された作物はロータリーカッターで切断された後、チェーンに取り付けられたピックアップタインで脱穀部へ搬送される。
【0004】
山付きVベルトは、無端状のベルト本体(いわゆる、ラップドVベルト)の外周面において、ベルト本体の周方向に全周又は所定間隔でゴム部を露出させ、露出したゴム部に山状の突出部(隆起片)を接合した搬送用Vベルトである。ベルト本体は、断面形状が、外周面の幅が内周面の幅よりも大きい台形に形成され、内部に心線が螺旋状に埋設されている。
【0005】
山付きVベルトは、2軸のVプーリからなるVベルト駆動装置に巻き掛けられて回動するものであり、通常、2台のVベルト駆動装置、即ち2本の山付きVベルトを、作物を挟み込むように相対峙させる。これにより、作物を安定状態で掬い込み、搬送することができる。
【0006】
山付きVベルトには、Vプーリに巻き掛けた時に受ける屈曲ストレスに耐えうる屈曲性が要求される。即ち、山付きVベルトが屈曲しても山状突出部(隆起片)が剥離や脱落しないことが要求される。
【0007】
そこで、特許文献1では、ベルト本体部(ラップドVベルト)の表面に未加硫のゴムシートを被覆し、背面側に所定ピッチで未加硫ゴムからなる山状の隆起片群を取りつけた後に加硫することで、山状の隆起片とベルト本体部との接着強度を高めている。
【0008】
また、特許文献2では、山付Vベルトの隣り合う隆起片の裾部と裾部とのあいだに0.1〜10.0mmの間隔を設けることで、隆起片を脱落しにくくし、一つの隆起片が脱落してしまっても、他の隆起片の脱落につながらないようにしている。
【0009】
また、特許文献3では、山付きVベルトのVベルト本体に設けた山状の隆起片の裾部分に隆起片にかかる応力を緩和する空隙部を設けることで、隆起片にかかる応力を緩和させ、隆起片の疲労や剥離を抑制し、ベルトの耐屈曲性を向上させている。
【0010】
また、特許文献4では、山付きVベルトの突出片(隆起片)を、ベルト接合部分の低硬度ゴム層と、残部の高硬度ゴム層との2層で構成することで、ベルト本体と突出片との接合強度を向上させている。
【0011】
一方、山付きVベルトは、隆起片とベルト本体部とがなす角度が鈍角になっている側が、走行方向前側となって回転走行し、走行方向前側の隆起片端面に作物が当たりながら、稲を掬い上げる機能を繰り返す。そのため、隆起片においては片側(走行方向前側)のみ摩耗が進行する。すなわち、山付きVベルトを使用した場合、作物との打撃、摺動による摩擦力によって、ベルト走行方向前側の隆起片端面が、摩耗によって徐々にその厚みを減少させる。その結果、隆起片の寸法(長さ)が短縮して、作物を掬い上げる機能が失われ、これを原因とする寿命が支配的となる。
【0012】
そこで、特許文献5では、走行方向前側の隆起片端面に、ブロック状の高硬度ゴム層を埋設し、それ以外の部位には低硬度ゴム層を配することで、耐屈曲性を低下させることなく、且つ、摩耗に起因する剛性低下を抑制している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(山付きVベルトの構成)
山付きVベルトは、コンバインに代表される農業機械に使用され、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ等の穀物の刈取り作業において、作物を掬い込み、搬送するものである。山付きVベルト1は、斜視図である
図1に示すように、ラップドVベルト(ベルト本体)2と、隆起片3と、を有している。
【0021】
ラップドVベルト2は、コンプレッサーなどの一般産業用機械、或いは、田植え機などの農業機械、等において、動力伝達用の無端状の伝動ベルトとして用いられる。そして、ラップドVベルト2は、V字状の断面を有する環状の伝動ベルトとして構成されている。ラップドVベルト2は、周方向に回転される。
【0022】
ラップドVベルト2は、斜視図である
図2に示すように、断面形状が、外周面(背面)の幅が内周面の幅よりも大きい台形に形成されている。即ち、ラップドVベルト2の断面形状は、ベルト外周側からベルト内周側に向かってベルト幅が小さくなるV字状である。ラップドVベルト2は、圧縮ゴム層4、伸張ゴム層5、心線6、外被布7を有している。なお、
図2においては、環状に延びるラップドVベルト2の周方向に対して垂直な断面を図示している。
図2において、両端矢印AはラップドVベルト2の周方向であり、両端矢印Bは周方向に対して直交するベルト幅方向である。
【0023】
ラップドVベルト2は、積層構造を有しており、ベルト内周側からベルト外周側に向かって、圧縮ゴム層4、心線6、伸張ゴム層5が、順次積層されている。よって、ラップドVベルト2においては、圧縮ゴム層4と伸張ゴム層5との間に心線6が埋設されている。心線6は、ラップドVベルト2の周方向Aに沿って延びるように配置されている。そして、心線6は、ラップドVベルト2の周方向Aに直交する断面において、ベルト幅方向Bに沿って所定の間隔で配列されている。
【0024】
心線6としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線6の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線6は、ラップドVベルト2の長手方向に埋設されていてもよく、さらにラップドVベルト2の長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されていてもよい。心線6を構成する繊維としては特に限定されず、例えばポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などを含んでいてもよい。
【0025】
また、ラップドVベルト2は、その周囲全体が周方向Aの全長に亘って外被布7で被覆されている。
【0026】
外被布7としては、例えば、織布、編布(緯編布、経編布)、不織布などの布帛が挙げられる。これらのうち、平織や綾織、朱子織などの形態で製織した織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度で製織した織布、編布などが好ましく、一般産業用、農業機械用の伝動ベルトのカバー布として汎用されている織布(経糸と緯糸との交差角が直角である平織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度である平織布(広角度帆布))が特に好ましい。
【0027】
外被布7を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ビニロン繊維など)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;セルロース系繊維、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの繊維は、単独で使用した単独糸であってもよく、二種以上を組み合わせた混紡糸であってもよい。
【0028】
圧縮ゴム層4、伸張ゴム層5、外被布7同士の接着力を高めるために、外被布7には、例えば未加硫ゴム組成物を布帛に付着させる「フリクション処理」を施してもよい。「フリクション処理」は、カレンダーロールを用い、互いに異なる表面速度で回転するロール間に未加硫のゴム組成物と布帛とを同時に通過させることで、布帛の繊維間にまで未加硫のゴム組成物を擦り込む処理である。
【0029】
図1に示すように、隆起片3は、ラップドVベルト2の周方向に所定間隔を置いて、ラップドVベルト2の外周面にそれぞれ接合されている。隆起片3は、ラップドVベルト2の外周面から突出する方向に延びている。隆起片3は、ラップドVベルト2の外周面から斜めに突出している。隆起片3とラップドVベルト2とがなす角度が鈍角になっている側が、走行方向前側であり、隆起片3とラップドVベルト2とがなす角度が鋭角になっている側が、走行方向後ろ側である。
【0030】
隆起片3は、低硬度ゴム層と、低硬度ゴム層よりも硬度が高い高硬度ゴム層とで形成されている。高硬度ゴム層には、カーボンブラック量を増量したり、短繊維を添加したりするなどの手段で硬度(弾性率)を高めたゴム組成物が用いられている。そのため、高硬度ゴム層は、耐摩耗性に優れている。JIS−A試験方法で定義される硬度において、低硬度ゴム層の硬度は55〜76度であり、高硬度ゴム層の硬度は80〜88度である。
【0031】
隆起片3の側面図である
図3に示すように、低硬度ゴム層11は、ラップドVベルト2との接合箇所である付け根部分に配置されている。高硬度ゴム層12は、付け根部分を除く残部に配置されている。
【0032】
ラップドVベルト2の周方向および幅方向に直交する方向を高さ方向とすると、低硬度ゴム層11の高さT
2は、隆起片3の高さT
1の5%以上15%以下にされている。
【0033】
図3の要部Cの拡大図である
図4に示すように、隆起片3におけるラップドVベルト2の回転方向の後ろ側の面における、低硬度ゴム層11と高硬度ゴム層12との境界には、低硬度ゴム層11から高硬度ゴム層12にかけて断面半円状の凹部13が形成されている。
図3に示すように、ラップドVベルト2の周方向を幅方向とすると、凹部13の半径r(
図4参照)は、低硬度ゴム層11における高硬度ゴム層12側の幅Wの5%以上15%以下にされている。
【0034】
隆起片3の付け根部分に配置した低硬度ゴム層11により、ラップドVベルト2との接着性を確保することができる。また、隆起片3の残部に配置した高硬度ゴム層12により、隆起片3の耐摩耗性を向上させることができる。また、隆起片3の付け根部分を除く残部が高硬度ゴム層12にされているので、先端部の前側のみに高硬度ゴム層を配置した構成に比べて、隆起片3の先端部が摩耗によりすり減って搬送能力が低下するまでに要する時間を長くすることができる。また、低硬度ゴム層11の高さT
2を、隆起片3の高さT
1の5%以上15%以下にすることで、隆起片3とラップドVベルト2との接合界面への屈曲疲労を緩和することができる。
【0035】
また、隆起片3におけるラップドVベルト2の回転方向の後ろ側の面における、低硬度ゴム層11と高硬度ゴム層12との境界に、低硬度ゴム層11から高硬度ゴム層12にかけて断面半円状の凹部13を形成する。この凹部13により、隆起片3が連続して受ける反発力を緩和することができる。
【0036】
以上により、耐摩耗性と耐屈曲性とをそれぞれ向上させることができる。その結果、摩耗による破損現象を遅らせ、長寿命化(耐久性向上)を図ることができる。そのため、1シーズンの稼働時間が比較的短い日本では、複数シーズンにわたって使用することが可能になる。また、比較的稼働時間が長い(日本の3〜4倍)中国、東南アジアでは、1シーズンにわたってメンテナンスフリーで使用することが可能になる。また、山付きVベルト1を取り付ける場所が、コンバインの奥まった交換しにくい場所なので、交換時期を遅らせる(メンテナンスフリーの期間を伸ばす)ことで、利用者の交換の手間を省くことができる。
【0037】
(ラップドVベルトの製造方法)
次に、ラップドVベルト2の製造方法について説明する。ラップドVベルト2の製造工程を示すチャート図である
図5に示すように、ラップドVベルト2の製造工程は、未加硫スリーブ形成工程S101、未加硫ゴムベルト形成工程S102、スカイブ工程S103、カバー巻き工程S104、加硫工程S105を備えている。
【0038】
未加硫スリーブ形成工程S101は、未加硫スリーブ101を形成する工程である。未加硫スリーブ101の斜視図である
図6に示すように、未加硫スリーブ101は筒状であり、未加硫ゴム層と心線とを有している。
【0039】
未加硫スリーブ形成工程S101においては、まず、未加硫ゴム(即ち、加硫が行われていない状態のゴム)のシートが、圧延によって形成される。そして、圧延によって形成された未加硫ゴムのシートが、所定の長さに切断され、円筒状或いは円柱状の回転体に対して、巻き付けられる。回転体の外周に巻き付けられた未加硫ゴムのシートは、その端部同士が接合され、筒状に成形される。筒状に成形された未加硫ゴムのシートが、ラップドVベルト2における圧縮ゴム層4の素材となる。
【0040】
回転体の外周に筒状の未加硫ゴムの成形体が形成されると、次いで、心線が周方向に沿って巻き付けられる。心線は、筒状の未加硫ゴムの成形体に対して、幅方向に沿って所定のピッチでずらされながら、周方向に沿って螺旋状に巻き付けられる。尚、筒状の未加硫ゴムの成形体の幅方向は、上記の回転体の軸方向と平行な方向として構成される。心線は、筒状の未加硫ゴムの成形体に対して、幅方向のほぼ全長に亘って、巻き付けられる。
【0041】
筒状の未加硫ゴムの成形体の外周への心線の巻き付けが終了すると、次いで、心線の上から、圧延によって形成された未加硫ゴムのシートが巻き付けられる。心線の上から巻き付けられた未加硫ゴムのシートは、その端部同士が接合され、筒状に成形される。心線の外周側に巻き付けられた筒状の未加硫ゴムのシートが、ラップドVベルト2における伸張ゴム層5の素材となる。上述した未加硫スリーブ形成工程S101によって、未加硫スリーブ101が形成される。なお、
図6においては、回転体から取り外された状態の未加硫スリーブ101が図示されている。
【0042】
未加硫ゴムベルト形成工程S102は、未加硫スリーブ101を周方向に切断して環状の未加硫ゴムベルト102を形成する工程である。未加硫ゴムベルト102の全体図を
図7に示す。また、未加硫ゴムベルト102の斜視図を
図8に示す。なお、
図8においては、環状に延びる未加硫ゴムベルト102の周方向に対して垂直な断面を図示している。
図8において、両端矢印Aは未加硫ゴムベルト102の周方向であり、両端矢印Bは周方向に対して直交するベルト幅方向である。
【0043】
図8に示すように、未加硫ゴムベルト102は、内周側未加硫ゴム層104、心線106、外周側未加硫ゴム層105を備えている。そして、未加硫ゴムベルト102においては、内周側未加硫ゴム層104と外周側未加硫ゴム層105との間に心線106が配置されている。
【0044】
心線106としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線106を構成する繊維としては、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが使用できる。心線106の表面には、慣用の接着処理(又は表面処理)が施されていてもよい。
【0045】
スカイブ工程S103は、未加硫ゴムベルト102の両側面における内周側の両角部分を周方向に亘って削るように切削することでスカイブ(skive)し、未加硫ゴムベルト102の断面形状を変更する工程である。スカイブ工程S103においては、未加硫ゴムベルト102の内周側未加硫ゴム層104の内周側の両角部分が周方向に亘って削れるように切削される。これにより、スカイブ工程S103の処理が施される前の状態で矩形状だった未加硫ゴムベルト102の断面形状は、スカイブ工程S103の処理が施された後の状態においては、矩形状の部分と台形状の部分とが組み合わされた形状となる。
【0046】
カバー巻き工程S104は、スカイブ工程S103の処理が終了した未加硫ゴムベルト102を外被布7で被覆する工程である。カバー巻き工程S104においては、環状の未加硫ゴムベルト102の周囲全体が周方向の全長に亘って外被布7で被覆される。これにより、未加硫ゴムベルト102が外被布7で被覆されて構成された未加硫ベルト成形体が形成される。
【0047】
加硫工程S105は、未加硫ベルト成形体における可塑性の未加硫ゴムを加熱して弾性ゴムに変化させる工程である。加硫工程S105においては、例えば、逆台形状の断面の溝が外周に設けられた円筒状のリングモールドが用いられる。リングモールドに設けられた複数の溝に対して未加硫ベルト成形体がそれぞれ嵌め込まれる。そして、複数の未加硫ベルト成形体が嵌め込まれたリングモールドの周囲に、円筒状のゴムスリーブが更に嵌め込まれる。加硫工程S105においては、上記のようにリングモールド及び未加硫ベルト成形体の外周面に円筒状のゴムスリーブが嵌め込まれた状態で、それらが加硫缶に収納され、所定の温度等の条件で加硫が行われる。加硫が終了してリングモールド等が解体され、加硫された成形体がラップドVベルト2として取り出される。このように、加硫工程S105まで終了することで、ラップドVベルト2が製造されることになる。
【0048】
(山付きVベルトの製造方法)
次に、山付きVベルト1の製造方法について説明する。上記の製造方法で製造されたラップドVベルト2の外周面に、隆起片用の未加硫ゴムブロックを加硫接着する。
【0049】
接着方法は次の通りである。加硫を終えたラップドVベルト2の外周面の外被布7を一部又は全周剥ぎ取り、露出した伸張ゴム層5にゴム糊を塗布する。ラップドVベルト2の外周面の外被布7を全周剥ぎ取る工程の説明図を
図9に示す。
【0050】
並行して、低硬度用の未加硫ゴムシートと高硬度用の未加硫ゴムシートとをカットして組み合わせ、加硫後の隆起片3の形状に近似した未加硫ゴムブロック103を形成する。本実施形態では、未加硫ゴムブロック103の側面図である
図10に示すように、低硬度用の未加硫ゴム111と高硬度用の未加硫ゴム112とは、低硬度ゴム層、および、高硬度ゴム層をそれぞれ形成するように組み合わされる。
【0051】
加硫接着に使う金型201の一例を
図11に示す。この金型201は、下盤202、中盤203、上盤204で構成されている。下盤202の側面図である
図12に示すように、下盤202は、ラップドVベルト2の内周長に合致した突起状のツメ202aを有している。中盤203の正面図である
図13に示すように、中盤203には、未加硫ゴムブロック103を嵌める穴203aが規定数くり貫かれている。この穴203aの形状は、加硫後の隆起片3の寸法に合致している。
【0052】
金型201の予熱温度が加硫温度に到達すれば、加硫作業に入る。まず、
図12に示すように、下盤202のツメ202aに、ラップドVベルト2をセットする。次に、中盤203を下盤202の上に重ね合わせる。中盤203にくり貫かれた穴203aに、隆起片3の形状に近似した未加硫ゴムブロック103を、くり貫かれた部位からはみ出さないように沿わせながら嵌める。最後に、上盤204を中盤203の上に重ね合わせる。下盤202、中盤203、上盤204を重ねた金型201を上下に熱源が入ったプレス盤で挟み、規定の圧力と時間で加硫接着を行う。加硫接着後に中盤203から山付きVベルト1を取り外す。
【0053】
(評価)
次に、本実施形態の山付きVベルト1について、台上評価を実施した。この台上評価は、台上評価の説明図である
図14に示すように、2つのプーリ302により山付きVベルト1を回転させ、隆起片3に障害物301を接触させ続けるものである。従来仕様の山付きVベルト(比較例)と、本実施形態の山付きVベルト1(実施例)について、台上評価をそれぞれ行い、実施例における隆起片3の耐摩耗性の向上により、稲を引き上げる機能の寿命が比較例に比べて伸びているかを確認した。
【0054】
まず、加硫を終えたラップドVベルト2の外周面の外被布7を全周剥ぎ取り、露出した伸張ゴム層5にゴム糊を塗布して、隆起片3用の未加硫ゴムブロック103を加硫接着した。未加硫ゴムブロック103は、低硬度用の未加硫ゴムシートと高硬度用の未加硫ゴムシートとをカットして、
図10のように組み合わせて形成した。
【0055】
ここで、圧縮ゴム層4、伸張ゴム層5、及び、隆起片3の低硬度ゴム層11の素材として、未加硫ゴム組成物Aを用いた。未加硫ゴム組成物Aの配合物を表1に示す。また、隆起片3の高硬度ゴム層12の素材として、未加硫ゴム組成物Bを用いた。未加硫ゴム組成物Bの配合物を表2に示す。
【0058】
心線6は、ポリエステル繊維で形成された撚りコードであり、平均線径は0.89mmである。外被布7を構成する布帛として、経糸と緯糸の基本糸に20番手の綿の紡績糸を3本撚りしたものを使用し、交差角度が90°、密度が75本/5cmの平織りで織製し、目付け量は280g/m
2である。その布帛を未加硫ゴム組成物Cでフリクション処理して外被布7とし、摩擦伝動面を含むラップドVベルト2の全周の表面を被覆した。未加硫ゴム組成物Cの配合物を表3に示す。
【0060】
ここで、クロロプレンゴムとして、DENKA(株)製「PM−40」を用いた。また、酸化マグネシウムとして、協和化学工業(株)製「キョーワマグ30」を用いた。また、ステアリン酸として、日油(株)製「ステアリン酸つばき」を用いた。また、老化防止剤として、精工化学(株)製「ノンフレックスOD−3」を用いた。また、カーボンブラックとして、東海カーボン(株)製「シースト3」を用いた。また、可塑剤として、ADEKA(株)製「RS−700」を用いた。また、加硫促進剤として、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」を用いた。また、酸化亜鉛として、正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」を用いた。また、心線として、ポリエステル繊維の撚りコード(平均線径0.89mm)、布帛として綿の織布(平織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸とで構成、経糸及び緯糸の糸密度75本/50mm、目付け280g/m
2)を用いた。
【0061】
ラップドVベルト2の寸法を表4に示す。ここで、ラップドVベルト2の断面図である
図15に示すように、断面寸法の幅は、内周面よりも幅が大きい外周面の幅である。また、断面寸法の厚みは、外周面および内周面に直交する方向の長さである。
【0063】
未加硫ゴムブロック103を加硫接着した後の山付きVベルト1の寸法と硬度を表5に示す。ここで、山数とは、隆起片3の数である。また、
図1に示すように、山ピッチとは、隆起片3同士の間隔aであり、山部の高さとは、隆起片3の高さbである。山部の幅(1)とは、隆起片3の付け根部分における周方向の長さcであり、山部の幅(2)とは、隆起片3の先端における周方向の長さdである。山部の角度とは、隆起片3とラップドVベルト2とがなす鋭角の角度θである。
【0065】
台上評価の評価条件を表6に示す。ここで、評価項目は、隆起片3の側面摩耗体積であって、隆起片3の長さ変化量ではない。
【0067】
台上評価の結果を表7に示す。実施例において、隆起片3に耐摩耗性の高硬度ゴム層12を設けたことにより、実施例の体積変化量は比較例の1/4であった。また、実施例において、低硬度ゴム層11と高硬度ゴム層12との境界に設けた断面半円状の凹部13に亀裂はなく、凹部13が反発力を緩和する効果を確認できた。今回の台上評価では、実機で寿命と判定された隆起片3の長さ変化量の再現には至らなかったが、隆起片3の側面摩耗変化量の結果から、長さ変化量にも十分に優位性があると判断できる。
【0069】
また、低硬度ゴム層11の高さT
2を、隆起片3の高さT
1の5%以上15%以下の範囲内(実施例)と、その範囲外(比較例1,2)とに異ならせて、台上評価を行った。その結果を表8に示す。ここで、表8の比較例は、表7の比較例と同じものである。実施例の体積変化量は比較例1,2の約1/2であった。
【0071】
また、実施例において、凹部13の半径rを、低硬度ゴム層11における高硬度ゴム層12側の幅Wの5%以上15%以下の範囲内と、その範囲外とに異ならせて、台上評価を行った。その結果を表9に示す。ここで、表9の比較例は、表7の比較例と同じものである。半径rの値が範囲内のものの体積変化量は、半径rの値が範囲外のものの約1/2であった。
【0073】
表8、表9の結果から、高さT
2、半径rの値が範囲内にあるものの方が、範囲外にあるものに比べて摩耗量(体積変化量)が少ないことがわかった。よって、低硬度ゴム層11の高さT
2、および、凹部13の半径rが上記の範囲内にあると、隆起片3が連続して受ける反発力を緩和するクッション効果が高まり、耐摩耗性と耐屈曲性とがそれぞれ向上することがわかった。
【0074】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る山付きVベルト1によると、隆起片3を、ラップドVベルト2との接合箇所である付け根部分に配置された低硬度ゴム層11と、低硬度ゴム層11よりも硬度が高く、残部に配置された高硬度ゴム層12とで形成する。付け根部分に配置した低硬度ゴム層11により、ラップドVベルト2との接着性を確保することができる。また、残部に配置した高硬度ゴム層12により、隆起片3の耐摩耗性を向上させることができる。また、隆起片3の付け根部分を除く残部が高硬度ゴム層12にされているので、先端部の前側のみに高硬度ゴム層を配置した構成に比べて、隆起片3の先端部が摩耗によりすり減って搬送能力が低下するまでに要する時間を長くすることができる。また、低硬度ゴム層11の高さT
2を、隆起片3の高さT
1の5%以上15%以下にすることで、隆起片3とラップドVベルト2との接合界面への屈曲疲労を緩和することができる。また、隆起片3におけるラップドVベルト2の回転方向の後ろ側の面における、低硬度ゴム層11と高硬度ゴム層12との境界に、低硬度ゴム層11から高硬度ゴム層12にかけて断面半円状の凹部13を形成する。この凹部13により、隆起片3が連続して受ける反発力を緩和することができる。これにより、耐摩耗性と耐屈曲性とをそれぞれ向上させることができる。
【0075】
また、凹部13の半径rを、低硬度ゴム層11における高硬度ゴム層12側の幅Wの5%以上15%以下にすることで、隆起片3が連続して受ける反発力を好適に緩和することができる。
【0076】
また、JIS−A試験方法で定義される硬度において、低硬度ゴム層11の硬度を55〜76度、高硬度ゴム層12の硬度を80〜88度にすることで、隆起片3の耐摩耗性を好適に向上させながら、隆起片3とラップドVベルト2との接合界面への屈曲疲労を好適に緩和することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。