特許第6769946号(P6769946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769946
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】健康リスクの診断方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20201005BHJP
【FI】
   G16H50/30
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-248879(P2017-248879)
(22)【出願日】2017年12月26日
(65)【公開番号】特開2019-114169(P2019-114169A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004673
【氏名又は名称】パナソニックホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇人
【審査官】 青柳 光代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−067183(JP,A)
【文献】 特開2017−003134(JP,A)
【文献】 特開2013−015300(JP,A)
【文献】 特開2013−068350(JP,A)
【文献】 特開2011−069539(JP,A)
【文献】 特開2009−243724(JP,A)
【文献】 特開2015−191394(JP,A)
【文献】 特開2013−221772(JP,A)
【文献】 特開2009−257066(JP,A)
【文献】 特開2013−217039(JP,A)
【文献】 特開2013−206415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
G16H 10/00 − 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の居住者に生じる健康リスクを診断するための方法であって、
前記方法は、演算処理装置を有する診断装置によって実施され、
前記健康リスクは、
前記建物内の温度低下、又は、前記建物内の異なる場所での温度差の増加に起因して生じるヒートショック、及び、
前記建物内の温度低下に起因して生じる前記居住者の睡眠時の中途覚醒を含み、
前記方法は、
任意の日又は期間において、前記建物内の温度及び屋外の温度を測定して、前記診断装置に記憶させる工程と、
前記診断装置が、前記測定された前記建物内の温度及び前記屋外の温度に基づいて、前記任意の日又は期間とは異なり、かつ、前記健康リスクが高くなる予め定められた日又は期間において、前記建物内の温度又は前記温度差を予測する工程と、
前記診断装置が、予測された前記建物内の温度が予め定められた閾値よりも低い場合、又は、予測された前記温度差が予め定められた閾値よりも大きい場合に、前記健康リスクが高いと診断する工程とを含む、
健康リスクの診断方法。
【請求項2】
前記健康リスクが高くなる予め定められた日又は期間は、前記建物が存在する地域において、1年で最も寒い日を含む、請求項1記載の健康リスクの診断方法。
【請求項3】
予測される前記建物内の温度は、前記建物内の第1空間の温度を含み、
前記診断する工程は、
前記第1空間の温度が、予め定められた第1閾値よりも低い場合、又は、
前記第1空間の温度と、前記第1空間よりも温度が高い第2空間の温度との差が、予め定められた第2閾値よりも大きい場合に、
前記ヒートショックのリスクが高いと診断する、請求項1又は2記載の健康リスクの診断方法。
【請求項4】
予測される前記建物内の温度は、前記建物の寝室の温度を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の健康リスクの診断方法。
【請求項5】
前記診断する工程は、前記健康リスクが高くなる期間の各日ごとに予測された前記建物内の温度の平均値に基づいて、期間全体としての前記健康リスクを診断する工程を含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の健康リスクの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の居住者の健康リスクを診断するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への関心が高まっており、例えば、建物の中での生活サイクルにおいては、2つの部屋間の温度差に起因した血圧上昇等によるヒートショックや、就寝中において寝室の温度低下等に伴う中途覚醒などいくつかの健康リスクが報告されている。
【0003】
このような状況に鑑み、下記特許文献1は、温度センサーによって建物内の居住空間と非居住空間との温度を測定し、それらの温度差を表示することにより、ヒートショックの注意を促す生活アドバイスシステムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−249441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシステムでは、リアルタイムで居住空間と非居住空間との温度差を表示することはできるが、例えば、今とは気温が異なる特定の日や期間において、そのような健康リスクが顕在化するか否かまでは判断することができない。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、建物内の居住者の生活サイクルにおいて、将来の居住者の健康リスクを診断することができる方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、建物の居住者に生じる健康リスクを診断するための方法であって、前記方法は、演算処理装置を有する診断装置によって実施され、前記健康リスクは、前記建物内の温度低下、又は、前記建物内の異なる場所での温度差の増加に起因して生じるヒートショック、及び、前記建物内の温度低下に起因して生じる前記居住者の睡眠時の中途覚醒を含み、前記方法は、任意の日又は期間において、前記建物内の温度及び屋外の温度を測定して、前記診断装置に記憶させる工程と、前記診断装置が、前記測定された前記建物内の温度及び前記屋外の温度に基づいて、前記任意の日又は期間とは異なり、かつ、前記健康リスクが高くなる予め定められた日又は期間において、前記建物内の温度又は前記温度差を予測する工程と、前記診断装置が、予測された前記建物内の温度が予め定められた閾値よりも低い場合、又は、予測された前記温度差が予め定められた閾値よりも大きい場合に、前記健康リスクが高いと診断する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記健康リスクの診断方法において、前記健康リスクが高くなる予め定められた日又は期間は、前記建物が存在する地域において、1年で最も寒い日を含んでもよい。
【0010】
本発明に係る前記健康リスクの診断方法において、予測される前記建物内の温度は、前記建物内の第1空間の温度を含み、前記診断する工程は、前記第1空間の温度が、予め定められた第1閾値よりも低い場合、又は、前記第1空間の温度と、前記第1空間よりも温度が高い第2空間の温度との差が、予め定められた第2閾値よりも大きい場合に、前記ヒートショックのリスクが高いと診断してもよい。
【0012】
本発明に係る前記健康リスクの診断方法において、予測される前記建物内の温度は、前記建物の寝室の温度を含んでもよい。また、本発明に係る前記健康リスクの診断方法において、前記診断する工程は、前記健康リスクが高くなる期間の各日ごとに予測された前記建物内の温度の平均値に基づいて、期間全体としての前記健康リスクを診断する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の健康リスクの診断方法は、任意の日又は期間において、前記建物内の温度及び屋外の温度を測定する工程と、前記測定された前記建物内の温度及び前記屋外の温度に基づいて、前記任意の日又は期間とは異なり、かつ、前記リスクに影響する予め定められた日又は期間の前記建物内の温度を予測する工程と、予測された前記建物内の温度に基づいて、前記リスクを診断する工程とを含んでいる。したがって、本発明の健康リスクの診断方法は、例えば、今とは気温が異なる特定の日や期間において、前記健康リスクが顕在化するか否かを診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】居住者の健康へのリスクが診断される建物の一例を概念的に示す断面図である。
図2】健康リスクの診断方法を実施するための診断装置のブロック図である。
図3】健康リスクの診断方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】温度予測工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】第1空間の温度を予測するための式を説明するためのグラフである。
図6】第1空間の温度、及び、屋外の温度の関係を示すグラフである。
図7】第1温度予測工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】寝室の温度を予測するための式を説明するためのグラフである。
図9】寝室の温度、及び、屋外の温度の関係を示すグラフである。
図10】第2温度予測工程の処理手順の一例を示すフローチャートである
図11】診断工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12】第1診断工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図13】第2診断工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0016】
本実施形態の健康リスクの診断方法(以下、単に「診断方法」ということがある。)では、建物内の居住者の生活サイクルにおいて、健康へのリスクが診断される。図1は、居住者の健康へのリスクが診断される建物2の一例を概念的に示す断面図である。
【0017】
建物2は、例えば、住宅やビル等である場合が例示される。建物2の内部には、複数の空間3が設けられている。空間3は、居室空間4と、非居室空間5とに区分される。
【0018】
居室空間4は、例えば、リビングルーム4a、及び、寝室4bを含んでいる。一方、非居室空間5は、例えば、浴室5a、脱衣所(洗面所)5b、及び、トイレ(図示省略)等を含んでいる。本実施形態において、居室空間4には、空調が可能な空気調和機6が設けられているが、非居室空間5には、空気調和機6が設けられていない。なお、本例では、各居室空間4に設けられた空気調和機6によってそれぞれ空調される場合が例示されたが、例えば、全館空調システム等によって空調されてもよい。
【0019】
本実施形態の診断方法で診断される健康リスクは、ヒートショックと、居住者の睡眠時の中途覚醒(以下、単に「中途覚醒」ということがある。)とを含んでいる。なお、診断される健康リスクは、ヒートショック及び中途覚醒のいずれか一方のみでもよいし、その他の健康リスクが含まれてもよい。
【0020】
ヒートショックは、建物2内の異なる場所での温度差(例えば、脱衣所5bとリビングルーム4aとの温度差や、脱衣所5bと浴槽のお湯との温度差)に起因した血圧上昇等によって生じる。このようなヒートショックを防ぐためには、例えば、温度が相対的に低い空間(例えば、脱衣所5b)の温度を高めること、及び/又は、建物2内の異なる場所での温度差を小さくすることが有効である。
【0021】
本実施形態の診断方法では、第1空間11の温度、及び/又は、第1空間11の温度と、第1空間11よりも温度が高い第2空間12の温度との差に基づいて、ヒートショックが診断される。第1空間11及び第2空間12としては、温度差が生じる場所であれば適宜選択することができる。本実施形態では、第1空間11に脱衣所5bが選択され、第2空間12にリビングルーム4aが選択される。その他の例としては、第1空間11にトイレ(図示省略)が選択され、第2空間12にリビングルーム4aが選択されてもよい。
【0022】
中途覚醒は、寝室4bの温度低下に起因して生じる。このような中途覚醒を防ぐには、寝室4bの温度を高めることが有効である。本実施形態の診断方法では、寝室4bの温度に基づいて、中途覚醒が診断される。
【0023】
本実施形態の診断方法は、例えば、一つのコンピュータの中に組み込まれる診断装置によって実施される。なお、診断方法は、例えば、オペレータによる計算等によって実施されてもよい。図2は、健康リスクの診断方法を実施するための診断装置15のブロック図である。
【0024】
本実施形態の診断装置15は、入力デバイスとしての入力部18、出力デバイスとしての出力部19、及び、命令を解読して演算等を行う演算処理装置20を有している。
【0025】
入力部18は、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部19は、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置20は、各種の演算を行う演算部(CPU)20A、データやプログラム等が記憶される記憶部20B、及び、作業用メモリ20Cが含まれている。
【0026】
記憶部20Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部20Bには、データ部21及びプログラム部22が設けられている。
【0027】
データ部21は、建物2内の温度及び屋外8の温度を記憶するための測定温度入力部21A、居住者の生活情報を記憶するための生活情報入力部21B、建物2内の温度を予測するのに必要な計算式や定数等を記憶するための計算情報入力部21C、予測した建物2内の温度を記憶するための予測温度入力部21D、及び、健康リスクの診断結果を記憶するための診断結果入力部21Eを含んで構成されている。
【0028】
プログラム部22は、演算部20Aによって実行されるプログラムである。プログラム部22は、健康リスクに影響する日又は期間の建物内の温度を予測するための温度予測部22Aと、健康リスクを診断するための診断部22Bとを含んで構成されている。
【0029】
次に、本実施形態の診断方法について説明する。本実施形態の診断方法では、健康リスクに影響する予め定められた日又は期間(以下、単に、「健康リスクに影響する日又は期間」ということがある。)の建物2内の温度を予測して、建物2の居住者の健康リスクが診断される。
【0030】
健康リスクに影響する日又は期間については、適宜設定することができる。健康リスクに影響する日又は期間には、例えば、ヒートショック及び中途覚醒に最も影響する日が含まれるのが望ましい。これにより、ヒートショック及び中途覚醒を含む健康リスクを、確実に診断することができる。
【0031】
ヒートショック及び中途覚醒への影響は、建物2が存在する地域において、1年で最も寒い日(以下、単に「最寒日」ということがある。)に大きくなると考えられる。このような観点より、本実施形態の健康リスクに影響する日又は期間には、建物2が存在する地域の最寒日が含まれる。なお、健康リスクに影響する期間については、例えば、建物2内の温度及び屋外8の温度の変動を考慮して、例えば、最寒日を含む3日〜1ヶ月程度が望ましい。図3は、健康リスクの診断方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0032】
本実施形態の診断方法では、任意の日又は期間において、建物2内の温度及び屋外8の温度が測定される(工程S1)。任意の日又は期間については、適宜設定することができる。任意の期間については、例えば、建物2内の温度及び屋外8の温度の変動を考慮して、例えば、3〜10日程度に設定されるのが望ましい。また、本実施形態の任意の日又は期間は、健康リスクに影響する日又は期間とは異なる期間に設定されている。これにより、本実施形態の診断方法は、任意の日又は期間において、将来又は過去の健康リスクを診断することができる。なお、任意の日又は期間は、健康リスクに影響する日又は期間と同一であってもよいし、健康リスクに影響する日又は期間の一部が含まれていてもよい。
【0033】
工程S1で測定される建物2内の温度及び屋外8の温度は、後述の温度予測工程S2において、健康リスクに影響する日又は期間の建物2内の温度の予測に用いられる。なお、任意の日又は期間と、健康リスクに影響する日又は期間との間で日が空く(季節が異なる)と、健康リスクに影響する日又は期間の建物2内の温度を精度良く予測できないおそれがある。このため、任意の日又は期間は、健康リスクに影響する日又は期間の2ヶ月前から、健康リスクに影響する日又は期間の2ヶ月後の間に設定されるのが望ましい。
【0034】
工程S1では、図1に示されるように、建物2に設置された温度センサー25によって、建物2内の温度及び屋外8の温度が測定される。本実施形態の温度センサー25は、診断方法が実施される前に予め設置されている。温度センサー25の設置場所については、適宜選択することができる。本実施形態では、リビングルーム4a、寝室4b、脱衣所5b、及び、屋外8に、温度センサー25が設置されている。
【0035】
温度センサー25は、診断装置15(図2に示す)に接続されていてもよいし、診断装置15に接続されていなくてもよい。温度センサー25が診断装置15に接続されている場合には、温度センサー25による測定結果が、診断装置15に逐次送信することができる。一方、温度センサー25が診断装置に接続されていない場合には、オペレータによって、温度センサー25による測定結果が診断装置15に入力される。
【0036】
本実施形態の工程S1では、任意の日又は期間において、リビングルーム4aの温度、寝室4bの温度、脱衣所5bの温度、及び、屋外8の温度が、予め定められた時間間隔で測定される。時間間隔については、例えば、建物2内の温度の予測精度等に応じて適宜設定することができる。建物2内の温度及び屋外8の温度の測定結果は、診断装置15の測定温度入力部21A(図2に示す)に記憶される。
【0037】
次に、本実施形態の診断方法では、測定された建物2内の温度及び屋外8の温度に基づいて、健康リスクに影響する日又は期間の建物2内の温度が予測される(温度予測工程S2)。本実施形態では、健康リスクに影響する日(本実施形態では、最寒日)において、建物2内の温度が予測される。
【0038】
予測される建物2内の温度については、適宜設定することができる。本実施形態において、予測される建物2内の温度は、ヒートショックの診断に用いられる第1空間11(本実施形態では、脱衣所5b)の温度、及び、中途覚醒の診断に用いられる寝室4bの温度が含まれる。
【0039】
温度予測工程S2では、先ず、測定温度入力部21A(図2に示す)に記憶されている建物2内の温度及び屋外8の温度、並びに、プログラム部22の温度予測部22A(図2に示す)が、作業用メモリ20C(図2に示す)に入力される。そして、温度予測部22Aが、演算部20A(図2に示す)によって実行される。図4は、温度予測工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0040】
本実施形態の温度予測工程S2では、先ず、第1空間11(本実施形態では、脱衣所5b)の温度が予測される(第1温度予測工程S21)。第1空間11の温度は、例えば、第2空間12(リビングルーム4a)の空調や、屋外8の温度等に影響されると考えられる。本実施形態では、第2空間12の空調の入切に関する生活情報、及び、屋外8の温度に基づいて、第1空間11(脱衣所5b)の温度が予測される。
【0041】
本実施形態の第1空間11(本実施形態では、脱衣所5b)の温度の予測には、下記式(1)、(2)が用いられる。下記式(1)は、第2空間12(リビングルーム4a)が空調される場合に用いられる。一方、下記式(2)は、第2空間12が空調されない場合に用いられる。図5は、第1空間11の温度を予測するための式を説明するためのグラフである。図5では、下記式(1)を代表して示している。
【0042】
T'wa=Twa−W1×(Tout−T'out) …(1)
T'wa=Twa−W2×(Tout−T'out) …(2)
ここで、
T'wa:第1空間の予測温度
wa:第1空間の温度
out:屋外の温度
T'out:屋外の予測温度
W1、W2:係数(W1<W2)
【0043】
上記式(1)、(2)において、第1空間11の温度Twaには、任意の日又は期間に測定された第1空間11の温度のうち、入浴前の時間に測定された第1空間11の温度が設定される。本実施形態では、例えば、入浴開始時間(例えば、午後9時)の15〜30分前から入浴開始時間までに測定された第1空間11の温度の平均値が、第1空間の温度Twaとして設定される。これにより、第1空間の温度Twaには、入浴による浴室5aの扉の開閉等に伴う室温上昇前の第1空間11の温度を設定することができる。なお、第1空間11の温度が任意の期間中に継続して測定される場合には、任意の期間中において入浴前の時間に測定された第1空間11の温度の平均値が、第1空間11の温度Twaに設定される。これにより、第1空間11の温度変動による予測精度への影響を、最小限に抑えることができる。
【0044】
上記式(1)、(2)において、屋外8の温度Toutには、任意の日又は期間に測定された屋外8の温度のうち、入浴前の時間に測定された屋外8の温度が設定される。本実施形態では、例えば、入浴開始時間の15〜30分前から入浴開始時間までに測定された屋外8の温度の平均値が、屋外8の温度Toutとして設定される。なお、屋外8の温度が任意の期間中に継続して測定される場合には、任意の期間中において入浴前の時間に測定された屋外8の温度の平均値が、屋外8の温度Toutに設定される。これにより、屋外8の温度変動による予測精度への影響を、最小限に抑えることができる。
【0045】
上記式(1)、(2)において、屋外8の予測温度T'outは、健康リスクに影響する日について入浴前の時間での屋外8の温度である。この屋外8の予測温度T'outは、適宜設定することができる。本実施形態では、建物2が存在する地域の過去の気象データから、入浴前の時間の屋外8の予測温度T'outが取得される。本実施形態では、例えば、入浴開始時間の15〜30分前から入浴開始時間までに予測された屋外8の温度の平均値が、屋外8の予測温度T'outとして設定される。
【0046】
上記式(1)、(2)では、測定された屋外8の温度Toutと、屋外8の予測温度T'outとの差(Tout−T'out)が求められる。この屋外8の温度差(Tout−T'out)は、任意の日又は期間から健康リスクに影響する日までの屋外8の温度の変化分である。
【0047】
上記式(1)、(2)の係数W1、W2は、図5のグラフの傾きを示している。これらの係数W1、W2は、屋外8の温度Toutの低下に対する第1空間11の温度Twaの低下の割合を示している。これらの係数W1又はW2が、屋外8の温度の変化分(Tout−T'out)にそれぞれ乗じられることで、任意の日又は期間から健康リスクに影響する日までの第1空間11の温度の変化分(即ち、Twa−T'wa)が求められる。そして、第1空間の温度Twaから、第1空間11の温度低下分(即ち、Twa−T'wa)を減じることで、健康リスクに影響する日の第1空間の予測温度T'waを求めることができる。
【0048】
係数W1は、係数W2よりも小さく設定されている。これは、第2空間12(本実施形態では、リビングルーム4a)が空調される場合に用いられる上記式(1)が、第2空間12が空調されない場合に用いられる上記式(2)に比べて、第1空間11の温度Twaの低下の割合が小さいためである。
【0049】
係数W1、W2については、適宜設定することができる。本実施形態では、例えば、第2空間12の空調(有、無)、第1空間11と第2空間12との間の扉(開、閉)、入浴時間、及び、建物2の断熱性能(新省エネルギー基準、旧省エネルギー基準等)を含む項目をそれぞれ異ならせた複数の条件で取得された第1空間11の温度、及び、屋外8の温度に基づいて、係数W1、W2が設定される。なお、「第1空間11と第2空間12との間の扉」は、第1空間11と第2空間12の間にバッファ空間(例えば廊下等)がある場合に、第1空間11とバッファ空間との間の扉として定義される。
【0050】
第1空間11の温度、及び、屋外8の温度は、各条件において、予め定められた期間の各日に取得される。予め定められた期間は、例えば、任意の日又は期間、及び、健康リスクに影響する日(又は期間)の双方を含む連続した日が設定される。図6は、第1空間11の温度と、屋外8の温度との関係を示すグラフである。
【0051】
図6では、複数の条件のうち、一つの条件(第2空間12の空調:有、第1空間と第2空間との間の扉:開、建物2の断熱性能:新省エネルギー基準、入浴時間:午後9時)で取得された屋外8の温度、及び、第1空間11の温度が示されている。図6では、予め定められた期間の各日について、屋外8の温度、及び、第1空間11の温度がプロットされている。
【0052】
各条件の屋外8の温度、及び、第1空間11の温度は、例えば、コンピュータシミュレーションや、建物2での測定結果に基づいて取得することができる。そして、各条件において、屋外8の温度、及び、第1空間11の温度について、最小二乗法に基づく近似直線30の傾きがそれぞれ求められる。
【0053】
本実施形態の係数W1には、各条件でそれぞれ求められた近似直線30の傾きのうち、第2空間12(本実施形態では、リビングルーム4a)が空調される条件で求められた各近似直線30の傾きの最大値と最小値の中心値、又は、平均値が設定される。これは、第2空間12の空調が、他の条件(扉の開閉の有無、入浴時間、及び、建物2の断熱性能)に比べて、第1空間11の温度Twaへの影響が最も大きいためである。
【0054】
一方、本実施形態の係数W2には、各条件でそれぞれ求められた近似直線30の傾きのうち、第2空間12が空調されない条件で求められた各近似直線30の傾きの最大値と最小値の中心値、又は、平均値が設定される。
【0055】
これらの係数W1、W2が設定される上記式(1)、(2)は、第1空間11の温度Twaへの影響が最も大きい第2空間12の空調の入切のみで区分されるため、第1空間の予測温度T'waを容易かつ精度良く求めることができる。しかも、係数W1、W2は、他の条件(扉の開閉の有無、入浴時間、及び、建物2の断熱性能)が異なる近似直線の傾きの平均値で設定されるため、他の条件による影響も考慮した第1空間の予測温度T'waを求めることができる。
【0056】
本実施形態において、係数W1には0.65が設定され、係数W2には0.81が設定される。なお、係数W1、W2は、このような態様に限定されない。このような上記式(1)、(2)は、診断方法が実施される前に、計算情報入力部21Cに入力されている。図7は、第1温度予測工程S21の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0057】
本実施形態の第1温度予測工程S21では、先ず、居住者の生活情報が入力される(工程S61)。工程S61では、図1に示した第2空間(リビングルーム4a)の空調の入切が、診断装置15の入力部18(図2に示す)によって入力される。第2空間12の空調の入切は、生活情報入力部21B(図2に示す)に記憶される。
【0058】
次に、本実施形態の第1温度予測工程S21では、第2空間(リビングルーム4a)が空調されるか否かが判断される(工程S62)。工程S62では、生活情報入力部21Bに入力された第2空間12の空調の入切に関する情報が、作業用メモリ20C(図2に示す)に読み込まれる。そして、工程S62では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0059】
工程S62において、図1に示した第2空間(リビングルーム4a)が空調されると判断された場合(工程S62において、「Y」)、第2空間12の空調の影響を考慮して、健康リスクに影響する日の第1空間11(脱衣所5b)の温度を予測する工程S63及び工程S64が実施される。
【0060】
他方、工程S62において、第2空間(リビングルーム4a)が空調されていないと判断された場合(工程S62において、「N」)、第2空間12の空調の影響を無視して、健康リスクに影響する日の第1空間11(脱衣所5b)の温度を予測する工程S65が実施される。
【0061】
次に、工程S63では、第2空間12(リビングルーム4a)の空調の影響を考慮して、健康リスクに影響する日の第1空間11の温度が予測される。工程S63では、図2に示した測定温度入力部21Aに記憶されている任意の日又は期間の第1空間11(脱衣所5b)の温度、及び、屋外8の温度、並びに、計算情報入力部21Cに記憶されている予測式(1)が、作業用メモリ20Cに読み込まれる。そして、工程S63では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0062】
本実施形態の工程S63では、先ず、上述の手順(気象データの使用等)に基づいて、屋外8の予測温度T'outが取得される。そして、工程S63では、上記式(1)、任意の日又は期間の第1空間11(脱衣所5b)の温度Twa、屋外8の温度Tout、及び、屋外の予測温度T'outに基づいて、健康リスクに影響する日の第1空間11の予測温度T'waが求められる。予測温度T'waは、予測温度入力部21D(図2に示す)に記憶される。
【0063】
ところで、健康リスクに影響する日の第1空間11の予測温度T'waが高くても、第1空間11の温度と第2空間12の温度との差が大きい場合、ヒートショックが発生しやすいと考えられている。このような温度差は、第2空間12(リビングルーム4a)が空調されている場合に発生しやすい。このため、次の工程S64では、健康リスクに影響する日について、第1空間11の温度(予測温度T'wa)と、第2空間12の温度との差(以下、単に、「温度差」ということがある。)T'gapが求められる。
【0064】
工程S64では、予測温度入力部21Dに記憶されている第1空間の予測温度T'waが、作業用メモリ20Cに読み込まれる。そして、工程S64では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0065】
第2空間12の温度としては、第2空間12を実際に測定した温度、又は、空調の温度が設定されてもよい。工程S64では、工程S62の分岐により、第2空間12が空調されていると判断されている。このため、第2空間12は、室内温度に対する外気温の影響が小さい。したがって、健康リスクに影響する日において、第2空間12の温度は、任意の日又は期間に測定された第2空間12の温度、又は、空調の温度と等しいと考えることができる。
【0066】
本実施形態の工程S64では、第2空間12の温度が、健康リスクに影響する日の第1空間11の予測温度T'waで減じられる。これにより、工程S64では、健康リスクに影響する第1空間11の温度(予測温度T'wa)と、第2空間12の温度との温度差T'gapが求められる。この温度差T'gapは、予測温度入力部21D(図2に示す)に記憶される。
【0067】
次に、工程S65では、第2空間12(リビングルーム4a)の空調の影響を無視して、健康リスクに影響する日の第1空間11の温度が予測される。工程S65では、工程S62の分岐により、第2空間12が空調されていない。このため、第1空間11(脱衣所5b)と第2空間12との温度差によるヒートショックが発生する可能性が小さい。このため、工程S62の分岐において、第2空間12が空調されていないと判断された場合、健康リスクに影響する日の第1空間11の温度のみが予測される。工程S65では、測定温度入力部21Aに記憶されている任意の日又は期間の第1空間11(脱衣所5b)の温度、及び、屋外8の温度、並びに、計算情報入力部21Cに記憶されている上記式(2)が、作業用メモリ20Cに読み込まれる。そして、工程S65では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0068】
本実施形態の工程S65では、先ず、上述の手順(気象データの使用等)に基づいて、屋外の予測温度T'outが取得される。そして、工程S65では、上記式(2)、任意の日又は期間の第1空間11(脱衣所5b)の温度Twa、屋外8の温度Tout、及び、屋外の予測温度T'outに基づいて、健康リスクに影響する日の第1空間11の予測温度T'waが求められる。予測温度T'waは、予測温度入力部21D(図2に示す)に記憶される。
【0069】
次に、図4に示されるように、本実施形態の温度予測工程S2では、寝室4b(図1に示す)の温度が予測される(第2温度予測工程S22)。寝室4bの温度は、例えば、寝室4bの空調(本実施形態では、寝始めのみ)や、屋外8の温度等に影響されると考えられる。このため、本実施形態では、寝室4bの空調の入切に関する生活情報、及び、屋外8の温度に基づいて、寝室4bの温度が予測される。
【0070】
本実施形態の寝室4bの温度の予測には、下記式(3)、(4)が用いられる。下記式(3)は、寝室4bが空調される場合に用いられる。一方、下記式(4)は、寝室4bが空調されない場合に用いられる。図8は、寝室の温度を予測するための式を説明するためのグラフである。図8では、下記式(3)を代表して示している。
【0071】
T'bed=Tbed−W3×(Tout−T'out) …(3)
T'bed=Tbed−W4×(Tout−T'out) …(4)
ここで、
T'bed:寝室の予測温度
bed:寝室の温度
out:屋外の温度
T'out:屋外の予測温度
W3、W4:係数(W3<W4)
【0072】
上記式(3)、(4)において、寝室4bの温度Tbedには、任意の日又は期間に測定された寝室4bの温度のうち、最も低くなる時間(例えば、午前5〜7時の任意の時間)に測定された寝室4bの温度が設定される。なお、寝室4bの温度が任意の期間中に継続して測定される場合には、任意の期間中に測定された上記時間の寝室4bの温度の平均値が、寝室4bの温度Tbedに設定される。これにより、寝室4bの温度変動による予測精度への影響を、最小限に抑えることができる。
【0073】
上記式(3)、(4)において、屋外8の温度Toutには、任意の日又は期間に測定された屋外8の温度のうち、最も低くなる上記時間に測定された屋外8の温度が設定される。なお、屋外8の温度が任意の期間中に継続して測定される場合には、任意の期間中に測定された上記時間の屋外8の温度の平均値が、屋外8の温度Toutに設定される。これにより、屋外8の温度変動による予測精度への影響を、最小限に抑えることができる。
【0074】
上記式(3)、(4)において、屋外8の予測温度T'outは、健康リスクに影響する日の上記時間での屋外8の温度である。この屋外8の予測温度T'outは、第1温度予測工程S21と同様に、建物2が存在する地域の過去の気象データによって求められる。
【0075】
上記式(3)、(4)では、測定された屋外8の温度Toutと、屋外8の予測温度T'outとの差(Tout−T'out)が求められる。この屋外8の温度差(Tout−T'out)は、任意の日又は期間から健康リスクに影響する日までの屋外8の温度の変化分である。
【0076】
上記式(3)、(4)の係数W3、W4は、図8のグラフの傾きを示している。これらの係数W3、W4は、屋外8の温度Toutの低下に対する寝室4bの温度Tbedの低下の割合を示している。これらの係数W3又はW4が、屋外8の温度の変化分(Tout−T'out)にそれぞれ乗じられることで、任意の日又は期間から健康リスクに影響する日までの寝室4bの温度の変化分(即ち、Tbed−T'bed)が求められる。そして、寝室4bの温度Tbedから、寝室4bの温度Tbedの温度低下分を減じることで、健康リスクに影響する日の寝室4bの予測温度T'bedを求めることができる。
【0077】
係数W3は、係数W4よりも小さく設定される。これは、寝室4bが空調される場合に用いられる上記式(3)が、寝室4bが空調されない場合に用いられる上記式(4)に比べて、寝室4bの温度の低下の割合が小さいためである。
【0078】
係数W3、W4については、適宜設定することができる。本実施形態では、例えば、寝室4bの空調(無、寝始め)、寝室の隣の部屋4cの空調(無、寝始め、連続)、寝室の位置(角部屋、中部屋)、及び、建物2の断熱性能(新省エネルギー基準、旧省エネルギー基準等)を含む項目をそれぞれ異ならせた複数の条件で取得された屋外8の温度、及び、寝室4bの温度に基づいて、係数W3、W4が設定される。なお、寝室4b及び隣の部屋(以下、単に「隣室」ということがある。)4cの空調の寝始めとは、例えば、午後10時〜午前1時の空調を示している。
【0079】
上記条件の項目において、寝室の位置(角部屋、中部屋)が含まれているのは、角部屋の寝室が、中部屋の寝室に比べて温度が低下しやすいためである。さらに、上記条件の項目において、寝室の隣の部屋(以下、単に「隣室」ということがある。)4cの空調が含まれているのは、寝室4bの温度が、隣室4cの空調に影響を受けるためである。
【0080】
屋外8の温度、及び、寝室4bの温度は、各条件において、予め定められた期間の各日に取得される。予め定められた期間は、例えば、任意の日又は期間、及び、健康リスクに影響する日(又は期間)の双方を含む連続した日が設定されている。図9は、寝室4bの温度と、屋外8の温度との関係を示すグラフである。
【0081】
図9では、複数の条件のうち、一つの条件(寝室4bの空調:寝始め、隣室の空調:無、寝室の位置:角部屋、建物2の断熱性能:新省エネルギー基準)で取得された寝室4bの温度、及び、屋外8の温度が示されている。図9では、予め定められた期間の各日について、寝室4bの温度、及び、屋外8の温度がプロットされている。
【0082】
各条件の寝室4bの温度、及び、屋外8の温度は、例えば、コンピュータシミュレーションや、実際に建物2での測定結果に基づいて取得することができる。そして、各条件において、寝室4bの温度、及び、屋外8の温度についての近似直線30の傾きがそれぞれ求められる。
【0083】
本実施形態の係数W3には、各条件でそれぞれ求められた近似直線30の傾きのうち、寝室4bが空調される条件で求められた各近似直線30の傾きの最大値と最小値の中心値、又は、平均値が設定される。これは、寝室4bの空調が、他の条件(隣室の空調、寝室の位置、及び、建物2の断熱性能)に比べて、寝室4bの温度Tbedへの影響が最も大きいためである。
【0084】
一方、本実施形態の係数W4には、各条件でそれぞれ求められた近似直線30の傾きのうち、寝室4bが空調されない条件で求められた各近似直線30の傾きの最大値と最小値の中心値、又は、平均値が設定される。
【0085】
これらの係数W3、W4が設定される上記式(3)、(4)は、寝室4bの温度Tbedへの影響が最も大きい寝室4bの空調の入切のみで区分されるため、寝室の予測温度T'bedを容易かつ精度良く求めることができる。しかも、係数W3、W4は、他の条件(隣室の空調、寝室の位置、及び、建物2の断熱性能)が異なる近似直線の傾きの平均値で設定されるため、他の条件による影響を考慮した寝室の予測温度T'bedを求めることができる。
【0086】
本実施形態において、係数W3には0.51が設定され、係数W4には0.57が設定される。なお、係数W3、W4は、このような態様に限定されない。このような上記式(3)、(4)は、診断方法が実施される前に、計算情報入力部21Cに入力されている。図10は、第2温度予測工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0087】
本実施形態の第2温度予測工程S22では、先ず、居住者の生活情報が入力される(工程S71)。工程S71では、図1に示した寝室4bの空調(本実施形態では、寝始めのみの空調)の有無が、診断装置15の入力部18(図2に示す)によって入力される。寝室4bの空調の入切は、生活情報入力部21B(図2に示す)に記憶される。
【0088】
次に、本実施形態の第2温度予測工程S22では、寝室4bが空調されるか否かが判断される(工程S72)。工程S72では、生活情報入力部21B(図2に示す)に入力された寝室4bの空調の入切に関する情報が、作業用メモリ20C(図2に示す)に読み込まれる。そして、工程S72では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0089】
工程S72において、寝室4b(図1に示す)が空調されると判断された場合(工程S72において、「Y」)、寝室4bの空調の影響を考慮して、健康リスクに影響する日の寝室4bの温度を予測する工程S73が実施される。
【0090】
他方、工程S72において、寝室4bが空調されていないと判断された場合(工程S72において、「N」)、寝室4bの空調の影響を無視して、健康リスクに影響する日の寝室4bの温度を予測する工程S74が実施される。
【0091】
次に、工程S73では、寝室4bの空調の影響を考慮して、健康リスクに影響する日の寝室4bの温度が予測される。工程S73では、測定温度入力部21A(図2に示す)に記憶されている任意の日又は期間の寝室4bの温度、及び、屋外8の温度、並びに、計算情報入力部21C(図2に示す)に記憶されている予測式(3)が、作業用メモリ20Cに読み込まれる。そして、工程S73では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0092】
本実施形態の工程S73では、先ず、上述の手順(気象データの使用等)に基づいて、屋外の予測温度T'outが取得される。そして、工程S73では、上記式(3)、任意の日又は期間の寝室4bの温度Tbed、屋外8の温度Tout、及び、屋外の予測温度T'outに基づいて、健康リスクに影響する日の寝室4bの予測温度T'bedが求められる。予測温度T'bedは、予測温度入力部21D(図2に示す)に記憶される。
【0093】
次に、工程S74では、寝室4bの空調の影響を無視して、健康リスクに影響する日の寝室4bの温度が予測される。工程S74では、測定温度入力部21A(図2に示す)に記憶されている任意の日又は期間の寝室4bの温度、及び、屋外8の温度、並びに、計算情報入力部21C(図2に示す)に記憶されている上記式(4)が、作業用メモリ20C(図2に示す)に読み込まれる。そして、工程S74では、図2に示した演算部20Aによる温度予測部22Aの実行によって処理される。
【0094】
本実施形態の工程S74では、先ず、上記手順(気象データの使用等)に基づいて、屋外の予測温度T'outが取得される。そして、工程S74では、上記式(4)、任意の日又は期間の寝室4bの温度Tbed、屋外8の温度Tout、及び、屋外の予測温度T'outに基づいて、健康リスクに影響する日の寝室4bの予測温度T'bedが求められる。予測温度T'bedは、予測温度入力部21D(図2に示す)に記憶される。
【0095】
次に、本実施形態の診断方法では、予測された建物2内の温度に基づいて、健康リスクが診断される(診断工程S3)。診断工程S3では、予測温度入力部21Dに記憶されている健康リスクに影響する日の第1空間11の予測温度T'wa、第1空間11の温度と第2空間12の温度との温度差T'gap、及び、寝室4bの予測温度T'bedが、作業用メモリ20Cに入力される。さらに、プログラム部22の診断部22Bが、作業用メモリ20Cに入力される。そして、診断部22Bが、演算部20A(図1に示す)によって実行される。図11は、診断工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0096】
本実施形態の診断工程S3では、ヒートショックのリスクが診断される(第1診断工程S31)。本実施形態の第1診断工程S31では、図1に示した第1空間11(脱衣所5b)でのヒートショックのリスクが診断される。図12は、第1診断工程S31の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0097】
本実施形態の第1診断工程S31では、第1空間11の温度(予測温度T'wa)が、予め定められた第1閾値よりも低いか否かが判断される(工程S81)。第1閾値は、第1空間11において、ヒートショックのリスクを診断するための閾値である。第1閾値については、適宜設定することができる。一例として、ヒートショックは、空間3(本実施形態では、第1空間11)の温度が18℃未満の場合に発生しやすいと考えられている。このため、本実施形態の第1閾値には、18℃が設定されている。
【0098】
工程S81において、第1空間11の温度が第1閾値よりも低いと判断された場合(工程S81において、「Y」)、ヒートショックのリスクが高いと診断される(工程S82)。他方、工程S81において、第1空間11の温度が第1閾値以上である判断された場合(工程S81において、「N」)、次の工程S83が実施される。
【0099】
上述のように、第1空間11の温度(予測温度T'wa)が第1閾値以上であっても、第1空間11の温度と第2空間12の温度との温度差T'gapが大きい場合に、ヒートショックが発生しやすいと考えられている。このような温度差T'gapは、第2空間12(リビングルーム4a)が空調されている場合に発生しやすい。このため、次の工程S83では、第2空間12が空調されるか否かが判断される。
【0100】
工程S83では、生活情報入力部21B(図2に示す)に入力された第2空間12の空調の入切に関する情報が、作業用メモリ20C(図2に示す)に読み込まれ、第2空間12が空調されるか否かが判断される。工程S83において、第2空間12が空調されると判断された場合(工程S83において、「Y」)、次の工程S84が実施される。他方、工程S83において、第2空間12が空調されないと判断された場合(工程S83で、「N」)、ヒートショックのリスクが低いと診断される(工程S85)。
【0101】
次に、工程S84では、第1空間11の温度と第2空間12の温度との温度差T'gapが、予め定められた第2閾値よりも大きいか否かが判断される。一般に、ヒートショックは、温度差T'gapが5℃よりも大きい場合に発生しやすいと考えられている。このため、本実施形態の第2閾値には、5℃が設定される。
【0102】
工程S84において、第1空間11の温度と第2空間12の温度との温度差T'gapが、第2閾値よりも大きい場合(工程S84において、「Y」)、ヒートショックのリスクが高いと判断される(工程S86)。他方、温度差T'gapが、第2閾値以下である場合、ヒートショックのリスクが低いと判断される(工程S87)。
【0103】
このように、第1診断工程S31では、温度予測工程S2で予測された健康リスクに影響する日の第1空間11の温度(予測温度T'wa)、及び/又は、第1空間11の温度と第2空間12の温度との差(温度差T'gap)に基づいて、ヒートショックのリスクを診断することができる。診断結果は、診断結果入力部21E(図2に示す)に記憶される。
【0104】
次に、本実施形態の診断工程S3では、中途覚醒のリスクが診断される(第2診断工程S32)。本実施形態の第2診断工程S32では、寝室4bでの居住者の中途覚醒のリスクが診断される。図13は、第2診断工程S32の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0105】
本実施形態の第2診断工程S32では、寝室4bの温度(予測温度T'bed)が、予め定められた第3閾値よりも低いか否かが判断される(工程S91)。第3閾値は、寝室4bにおいて、中途覚醒のリスクを診断するための閾値である。第3閾値については、適宜設定することができる。一般に、中途覚醒は、寝室4bの温度が13℃未満の場合に発生しやすいと考えられている。このため、本実施形態の第3閾値には、13℃が設定される。
【0106】
工程S91において、寝室4bの温度が第3閾値よりも低いと判断された場合(工程S91において、「Y」)、中途覚醒のリスクが高いと診断される(工程S92)。他方、工程S91において、寝室4bの温度が第3閾値以上であると判断された場合(工程S91において、「N」)、中途覚醒のリスクが低いと診断される(工程S93)。
【0107】
このように、第2診断工程S32では、温度予測工程S2で予測されたリスクに影響する日の寝室4bの温度(予測温度T'bed)に基づいて、中途覚醒のリスクを診断することができる。診断結果は、診断結果入力部21E(図2に示す)に記憶される。
【0108】
このように、本実施形態の診断方法では、リスクに影響する日(又は期間)の建物2内の温度を予測し、予測した温度に基づいて、健康リスク(ヒートショックや中途覚醒)を診断することができる。このため、本実施形態の診断方法では、任意の日又は期間に、リスクを診断することができる。
【0109】
さらに、任意の日又は期間が、健康リスクに影響する日(又は期間)よりも前である場合、今よりもさらに気温低下が進む将来の健康リスクに影響する日(又は期間)において、健康リスクが顕在化するか否かを確実に診断することができる。一方、任意の日又は期間がリスクに影響する日(又は期間)よりも後である場合、過去の健康リスクに影響する日(又は期間)や将来の健康リスクに影響する日(又は期間)において、健康リスクが顕在化していたか否かを診断することができる。
【0110】
次に、本実施形態の診断方法では、健康リスクの診断結果が出力される(工程S4)。本実施形態の工程S4では、例えば、予測温度入力部21D(図2に示す)に記憶されている第1空間11の予測温度T'wa、及び、寝室4bの予測温度T'bed、並びに、診断結果入力部21E(図2に示す)に記憶されているヒートショックのリスク、及び、中途覚醒のリスクの診断結果が、出力部19のディスプレイやプリンタにそれぞれ出力される。なお、出力される内容については、適宜設定することができる。そして、出力された診断結果に基づいて、健康リスクを低下させるリフォーム等の提案、及びリフォーム等の施工が実施される。したがって、本実施形態の診断方法は、健康リスクの低下に役立つ。
【0111】
これまでの実施形態の診断工程S3では、健康リスクに影響する日の建物2内の温度に基づいて、健康リスクが診断される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。診断工程S3では、例えば、リスクに影響する期間の建物2内の温度に基づいて、健康リスクが診断されてもよい。この場合、健康リスクに影響する期間の各日ごとに予測された建物2内の温度に基づいて、健康リスクが各日ごとに診断されてもよいし、リスクに影響する期間の各日ごとに予測された建物2内の温度の平均値に基づいて、健康リスクが期間全体として診断されてもよい。なお、リスクに影響する期間に属する各日の建物2内の温度は、上記式(1)〜(4)において、屋外8の予測温度T'outに、各日の屋外8の温度がそれぞれ設定されることで、容易に求めることができる。
【0112】
このように、この実施形態の診断方法では、リスクに影響する期間の建物2内の温度に基づいて、健康リスクを診断することができる。これにより、この実施形態の診断方法では、建物2内の温度及び屋外8の温度の変動に左右されることなく、健康リスクを確実に診断することができる。
【0113】
本実施形態の診断装置15は、一つのコンピュータの中に組み込まれる態様が例示されたが、このような態様に限定されない。25は、例えば、図2に示した入力部18及び出力部19を有するクライアント(端末)と、演算処理装置20を有するサーバとを接続したクライアント・サーバシステムや、クライアントとサーバとをインターネットを介して接続したクラウドコンピューティング等によって構成されてもよい。
【0114】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【符号の説明】
【0115】
S1 任意の日又は期間の建物内の温度及び屋外の温度を測定する工程
S2 リスクに影響する日又は期間の建物内の温度を予測する工程
S3 リスクを診断する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13