(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単離抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号1のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖と、配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖とを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
前記抗原結合フラグメントが、Fab、Fab'、(Fab')2、Fv、sFV、及びscFvからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
前記単離抗体又は抗原結合フラグメントが、約1nM未満、約900pM未満、約800pM未満、約700pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約90pM未満、約80pM未満、約70pM未満、約60pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、及び約10pM未満からなる群から選択されるKd値で、前記ムラミルペプチドに結合する、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
関節リウマチを予防的又は治療的に処置するための医薬の製造における、請求項1から10のいずれか一項に規定の単離抗体又はその抗原結合フラグメント及びエタネルセプトの使用。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本明細書に記載される1つの例示的な抗体であるモノクローナル抗体2E7のKd値の測定を示す。N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミンに対する2E7のKdを判定するために、96ウェルプレートのウェルの底を、MDP-OVAでコーティングした。2E7の2倍連続希釈物をウェルに添加し、インキュベートした。洗浄して未結合抗体を除去した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HSP)と結合させた抗マウスIgG抗体を添加した。インキュベートした後、未結合二次抗体を洗浄により除去し、HSPの発色基質を添加した。反応後、各ウェルの色の強さを、492nmでマイクロタイタープレートリーダーを用いて測定した。CurveExpert Basicプログラム(http://www.curveexpert.net)を使用し、2E7の濃度及びOD492値をCurveExpert Basicを用いてWeibull Model式y=a-b*exp(-C*×^d)に当てはめることによって、結合曲線を生成した。r:補正係数、s:標準誤差。係数データ:a=2.8768241、b=2.8055033、c=212.44541、及びd=0.8659833。Y
50=1.45、X=0.00131μg/ml。Kd=0.0131/[150×10
9]=8.7pM(IgG分子量=150)。
【
図2】本開示の例示的な抗体である2E7が、天然のペプチドグリカンを認識することを示す。
図2Aは、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンの濃度及びOD
492値を、CurveExpert Basicを用いてShifted Power Fit式y=a*(x-b)^cに当てはめることによって生成した標準曲線を示す。この標準曲線を使用して試料中のペプチドグリカンの濃度を判定した。
図2Bは、アモキシシリンの存在下又は非存在下における液体LB培地中での黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び大腸菌(Escherichia coli)の成長を示すグラフを示す。両方の細菌を、OD
600=1.5まで成長させた。各培養物を2つに分け、一方を40μg/mlのアモキシシリン(Amx)で処置し、他方は処置しなかった。示される時間でアリコートを採取し、上清中のMPの量を競合的ELISAによって判定した。
図2Cは、2E7と共にインキュベートした後の黄色ブドウ球菌及び大腸菌の蛍光顕微鏡画像を示す。黄色ブドウ球菌及び大腸菌の両方の生細胞を、まず、リン酸緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄し、次いで2E7と共にインキュベートした。未結合抗体をPBSでの洗浄により除去した後、細胞を、蛍光顕微鏡試験の前に、FITC標識した抗マウスIgG抗体と共にインキュベートした。
【
図3】アモキシシリンが、マウス及びヒトにおける血中MPレベルの有意な増加をもたらすことを示す。
図3Aは、マウスへのアモキシシリンへの投与に関する研究に対するELISAの結果の棒グラフを示す。アモキシシリンは、12時間間隔で50匹のマウスに経口投与し、4時間毎に3匹のマウスを殺処理して、ELISAによるペプチドグリカン定量化のための血液を採取した。
図3Bは、オーグメンチンの複数回静脈内注射を受けたヒト患者からの血液試料に対するELISAの結果の棒グラフを示す。連続血液試料を採取した。採血及び静脈内注射の時間を示す。
【
図4】健常ドナーにおけるペプチドグリカンサブユニットの検出及び定量化を示す。血液を、7人の健常ドナーから採取し、血清中のペプチドグリカンのレベルを、E2Fを用いて競合的ELISAによって判定した。ドナーの性別及び年齢を示す。
【
図5】マウスにおける血清ムラミルジペプチド(MDP)レベルの継続的な上昇を達成するための埋め込み式浸透圧ポンプの使用を示す。
図5Aは、5mg/mlのMDPが200μl充填され0.25μl/時間の速度で放出される、マウスの背部への浸透圧ポンプの皮下埋め込みを示す。
図5Bは、競合的ELISAによって測定した、埋め込み後0日目、3日目、10日目、17日目、及び24日目にマウスから採取した血清中のMDPレベルを示す。
【
図6】MDPレベルの上昇によりマウスにおける関節リウマチの発症が促進されたことを示す。
図6Aは、コラーゲン誘発性関節炎(CIA)マウスモデルを示す。DBA/1Jマウスに、フロイント完全アジュバント及びII型コラーゲンのエマルジョンでの免疫付与によって関節炎を誘発させ、また、各マウスには、PBS又はMDPのいずれかを0.25μl/時間で放出する
図5に記載の埋め込み式ポンプも持たせた。上のパネルは、マウスの後ろ足の写真を示す。下のパネルは、関節組織を可視化するようにヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した後ろ足の断面を示す(b:骨、c:軟骨)。
図6Bは、MDP濃度の増加により、示されている溶液を時間依存性様式で放出する埋め込み式ポンプを有するCIAマウスの関節リウマチ進行の臨床足部スコアの増加がもたらされたことを示すグラフである(n=4)。
【
図7】関節リウマチの発症の防止における2E7の効果を示す。
図7Aは、コラーゲン誘発性関節炎(CAIA)マウスモデルを示す。Balb/cマウスを、抗コラーゲンモノクローナル抗体のカクテルでの注射によって関節炎を発症するように刺激した。上のパネルは、実験終了時におけるCAIAマウスの足部の代表的な写真を示す。関節リウマチの発症時に、CAIAマウスのそれぞれに、2E7又はアイソタイプ対照抗体の単回用量を腹腔内(IP)注射した。下のパネルは、関節組織を示すようにH&Eで染色したCAIAマウスの足部の断面図を示す。
図7Bは、2E7での処置により、アイソタイプ対照と比較して、関節リウマチの発症が有意に防止されたことを示すグラフである。
【
図8】マウスCAIAモデルにおいて160mg/kg、40mg/kg、及び10mg/kgの用量で臨床足部スコアに対する2E7の効果を示すことにより、関節リウマチに対する2E7の用量依存性の治療効果を示す。CAIAマウスを、2E7又は対照抗体(対照)の指示された用量の単回腹腔内注射により処置した(n=5)。
【
図9】2E7が、血液循環中PGNを中和することにより関節リウマチを処置することを示す。
図9Aは、関節リウマチの発症時における2E7の投与により、対照抗体と比較して、CAIAマウスにおける臨床足部スコアが減少したことを示す。
図9Bは、MDPと共に2E7を投与した際、2E7単独の投与と比較して、臨床足部スコアが増加したことを示す。n=8、p< 0.01。結果は、より多くのMDPを血液循環中に導入することにより、2E7の効果を低減又は更には遮断されることを示しており、これによって、2E7が血液循環中のMDPを中和することにより関節リウマチの進行を防止するという根拠を提供している。
【
図10】関節リウマチの再発の防止における2E7の効果を示す。16日目、第1の炎症出現が終わりに近づいたときに、足部スコアに基づいて、マウスを2E7処置群又は対照群に割り当てた。25μlのLPSの腹腔内注射により関節炎の再発を刺激し、単回用量20mgの2E7又はアイソタイプ対照抗体を、同日に各マウスに腹腔内注射した。結果は、2E7での処置が、対照群と比較して、臨床足部スコアの増加を効果的に防止したことを示す。n=4。
【
図11】2E7及びTNF-α遮断剤(エタネルセプト(Etanercept))の組み合わせ療法が、2E7又はTNF-α遮断剤の単独療法よりも有効であることを示す。CAIAマウスに、図に示される通りの2E7及びエタネルセプトの用量で、2E7、エタネルセプト、対照抗体、2E7+エタネルセプト、又は対照抗体+エタネルセプトの単回用量の腹腔内注射により処置した。
【
図12】2E7がNOD2ノックアウトCAIAマウスモデルにおいて関節炎を抑制しなかったことを示す。2E7の注射は、NOD2ノックアウトCAIAマウスモデルにおいては関節炎の進行を有意に抑制しなかったため、これにより、2E7は、完全にではないとしても、主に、NOD2シグナル伝達経路を遮断することによって関節リウマチを抑制することが示される。
【
図13】マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおける多発性硬化症(MS)の処置における2E7の効果を示し、このモデルは、ヒトMSの研究に最も一般的に使用されているマウスモデルである。
図13Aは、四肢及び尾部の麻痺が、3回の2E7投与を受けた後に抑制されたことを示す。換言すると、2E7処置は、麻痺等、疾患の臨床兆候を抑制する。
図13Bは、体重減少が、3回の2E7投与を受けた後に有意に軽減されたことを示す。換言すると、2E7処置は、罹患マウスにおける重度の体重減少を防止する。この実施例では、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスは陰性対照として使用し、一方で広く使用されている小分子薬であるFTY720を受容したマウスは陽性対照として使用した。*p<0.05、n.s.:有意差なし、n=12。
【
図14】2E7が、対照と比較して、SIL-1RI、sIL-6R、G-CSF、及びsVEGFR3を含む炎症促進性サイトカインのレベルを有意に低減したことを示す。対照又は2E7抗体で処置したCAIAマウスからの血清に、ルミネックスアッセイを行った。2E7処置マウス(灰色)では、対照マウス(黒色)と比較して、血清中のG-CSF、sIL-1RI、sIL-6R、及びsVEGFR3のレベルの有意な低減が観察された。n=8、*p<0.05、**p<0.01。
【
図15】2E7が、CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞におけるT細胞増殖を有意に低減したことを示す。結果は、2E7及び対照抗体で処置したCAIAマウスの脾細胞のフローサイトメトリー分析からのものである。n=4。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ムラミルペプチドは、細菌の細胞壁由来のペプチドグリカンのフラグメントである。それらの固有の化学性質のため、免疫系が細菌の生成物としてムラミルペプチドを認識し、活性化されて感染に抵抗するようになることによって、ムラミルペプチドに応答する。感染に対する抵抗の主要な機構は、マクロファージの活性化である。マクロファージ活性化により、結果としてスーパーオキシド及びペルオキシドのような細菌酸素ラジカルの産生の増加がもたらされ、インターロイキン-1-β及び腫瘍壊死因子-α等の炎症性サイトカインの分泌増加がもたらされる。これらのサイトカインが、好中球、Bリンパ球、及びTリンパ球を活性化して、免疫応答を誘起する。これらの免疫応答の一部が、免疫媒介性状態又は疾患をもたらす。
【0019】
このように、本開示の発明者らは、ムラミルペプチドの様々な形態を対象とする抗体が有利となり得ることを想定している。したがって、本発明は、ムラミルペプチドに結合することができる抗体を提供する。本開示の抗体がムラミルペプチドに結合することによりムラミルペプチドの生物活性(例えば、炎症促進応答の活性化)が遮断されるため、本開示の抗体は、免疫媒介性状態又は疾患の防止及び処置に使用することができる。したがって、第1の態様において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントを投与する工程を含む、自己免疫疾患又は炎症性疾患を予防的又は治療的に処置する方法であって、単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、ムラミルペプチド、又はその誘導体若しくは類似体若しくは塩に結合することができる、方法が提供される。
【0020】
本明細書に使用されるとき、「処置」又はその文法上の変化形は、疾患状態又は症状を治癒する、疾患の発症を防止する、又はそれ以外では疾患の進行若しくは他の望ましくない症状を程度にかかわらず防止、妨害、遅延、若しくは回復させる、ありとあらゆる効用を指す。処置は、予防的(疾患の発症前)又は治療的(疾患の診断後)に実行され得る。
【0021】
本明細書に使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子のフラグメント、又はこれらのいずれかの誘導体を指し、これらは、典型的な生理学的条件下において、少なくとも約30分間、少なくとも約45分間、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約24時間以上、約48時間以上、約3、4、5、6、7日間以上等、又は任意の他の関連する機能的に規定される期間(例えば、抗体の抗原への結合に関連して生理学的応答を誘導、促進、強化、及び/若しくは調整するのに十分な時間、並びに/又は抗体がエフェクター活性を開始するか試料、例えば溶液、細胞若しくは組織中の抗原に結合するのに十分な時間)といった、有意な期間の半減期で、抗原に特異的に結合する能力を有する。
【0022】
「単離抗体」は、本明細書に使用されるとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えば、ムラミルペプチドに特異的に結合する単離抗体は、ムラミルペプチド以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、ムラミルペプチドのエピトープ、アイソフォーム、又はバリアントに特異的に結合する単離抗体は、例えば、他の細菌種(ムラミルペプチド種相同体等)に由来する他の関連抗原に対する交差反応性を有してもよい。更に、単離抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0023】
一実施形態において、抗原は、ムラミルペプチドである。ムラミルペプチドは、規則的に離間した短いペプチド架橋によって架橋した平行な長い糖鎖配列によって形成される細菌ペプチドグリカンの特徴である。したがって、本明細書に使用されるとき、「ムラミルペプチド」という用語は、あるペプチドに結合した少なくとも1つのムラミル残基を含有する、ペプチドグリカンのフラグメント又はサブユニットを指す。一実施形態において、ムラミルペプチド又はその誘導体若しくは類似体若しくは塩は、ペプチドグリカンの一部又はそのフラグメントである。したがって、一実施形態において、ムラミルペプチドは、ムラミン酸及びアミノ酸を含み得る。
【0024】
ペプチドグリカンのグリカン鎖は、β-1,4-グリコシド結合によって交互に結合されたN-アセチルグルコサミン及びN-アセチルムラミン酸の残基から構成されている。ムラミン酸は、3位の炭素にラクチル側鎖を有し、これを通じてグリカン鎖がペプチドに共有結合する。異なる細菌種では、ムラミン酸残基は、異なる炭素原子に異なる側鎖を有し得る。例えば、多くの種は、2位の炭素にN-アセチル基を有するが、一部の種は有さず、一部の種は1-6-無水結合を有する。したがって、一実施形態において、本開示のムラミン酸は、N-アセチル基を含んでもよい。別の実施形態では、ムラミン酸は、N-アセチル基を含まない。
【0025】
本開示のムラミルペプチド中のアミノ酸としては、細菌のペプチドグリカンに見られる任意のアミノ酸を挙げることができるがこれらに限定されない。一実施形態において、本開示のムラミルペプチド中のアミノ酸には、タンパク質を構成するアミノ酸及び/又はタンパク質を構成しないアミノ酸が含まれ得る。一実施形態において、タンパク質を構成するアミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンを挙げることができるがこれらに限定されず、タンパク質を構成しないアミノ酸としては、ホモセリン、ランチオニン、オルニチン、イソグルタミン、ジアミノ酪酸、α-アミノ-n-酪酸、ノルバリン、バリン、ノルロイシン、アロイソロイシン、t-ロイシン、α-アミノ-n-ヘプタン酸、ピペコリン酸、α,β-ジアミノプロピオン酸、α,γ-ジアミノ酪酸、アロスレオニン、ホモシステイン、β-アラニン、β-アミノ-n-酪酸、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、イソバリン、サルコシン、N-エチルグリシン、N-イソプロピルグリシン、N-メチルアラニン、N-エチルアラニン、N-メチルβ-アラニン、N-エチルβ-アラニン、イソセリン、α-ヒドロキシ-γ-アミノ酪酸、及びメソジアミノピメリン酸を挙げることができるがこれらに限定されない。一実施形態において、本開示のムラミルペプチド中のアミノ酸としては、アラニン、イソグルタミン、グルタミン酸、ジアミノ酪酸、メソジアミノピメリン酸、グリシン、ホモセリン、ランチオニン、リジン、オルニチン、セリン、及びこれらの塩を挙げることができるがこれらに限定されない。一実施形態において、本開示のムラミルペプチド中のアミノ酸としては、アラニン、イソグルタミン、グルタミン酸、及びこれらの塩を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0026】
一実施形態において、アミノ酸はいずれも、L-アミノ酸又はD-アミノ酸のいずれかとして提供され得る。本明細書に使用されるとき、「L-アミノ酸」及び「D-アミノ酸」は、すべてのアミノ酸に生じ得る2つの異性体を指す。「L-アミノ酸」は、細胞内で作られ、タンパク質に組み込まれるアミノ酸異性体を指す。「D-アミノ酸」は、本明細書に記載されるアミノ酸に対する異性体修飾を指す。一実施形態において、本開示のムラミルペプチド中のアミノ酸は、L-D、L-D-L-D、L-D-L-D-L-D、L-D-L-D-L-D-L-D、L-D-L-D-L-D-L-D-L-D、又はL-D-L-D-L-D-L-D-L-D-L-Dアミノ酸構成で提供され得る。
【0027】
一実施形態において、ムラミルペプチドは、2つのアミノ酸を含み得るか又はそれらからなり得、「ムラミルジペプチド」と称され得る。したがって、ムラミルジペプチドは、ムラミン酸及びジペプチドを含む。本明細書に使用される「ジペプチド」という用語は、互いに共有結合した2つのアミノ酸からなる、一連のアミノ酸を指す。本明細書に使用されるとき、ムラミル酸に共有結合した一連のアミノ酸は、ペプチド架橋と称することができる。ムラミルペプチドがムラミルジペプチドであるとき、アミノ酸は、L-アラニン又はその塩及びD-イソグルタミン又はその塩を含み得るか又はそれらからなり得る。別の実施形態では、アミノ酸は、L-アラニン又はその塩及びD-グルタミン酸又はその塩を含み得るか又はそれらからなり得る。
【0028】
別の実施形態では、ムラミルペプチドは、3つのアミノ酸を含み得るか又はそれらからなり得、「ムラミルトリペプチド」と称され得る。ムラミルトリペプチドの一実施形態において、アミノ酸は、L-アラニン又はその塩、D-イソグルタミン若しくはD-グルタメート又はそれらの塩、及びL-リジン若しくはメソジアミノピメリン酸又はそれらの塩を含み得るか又はそれらからなり得る。
【0029】
別の実施形態では、ムラミルペプチドは、4つのアミノ酸を含み得るか又はそれらからなり得、「ムラミルテトラペプチド」と称され得る。一実施形態において、ムラミルペプチドのペプチド鎖の第1のアミノ酸は、L-アラニンであり得る。その配列における第2のアミノ酸は、D-アミノ酸、例えば、D-イソグルタミン又はD-グルタメートであり得る。第3のアミノ酸は、タンパク質において見られる従来的なα-カルボキシル基ではなく、第2のアミノ酸のγ-カルボキシル基に結合され得る。したがって、第3のアミノ酸は、L-リジン又はメソジアミノピメリン酸(mDAP)等のL-ジアミノ酸であり得る。第4のアミノ酸は、D-アラニンであり得る。したがって、本開示のムラミルペプチドのペプチド鎖は、タンパク質のすべてのL-アミノ酸配列とは異なり、L-D-L-D配列であり得る。
【0030】
更に別の実施形態では、ムラミルペプチドは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個、又はそれ以上のアミノ酸を含み得るか又はそれらからなり得る。当該技術分野では既知のように、ムラミルペプチドは、直鎖又は分岐鎖のペプチドを含み得るか又はそれらからなり得る。例えば、平行なペプチドグリカン鎖由来のテトラペプチドは、一方のペプチドの端部のD-アラニンと他方のペプチドからのmDAPとの間で共有結合し得、これによりペプチドの長さが7に伸び、1つのアミノ酸(D-ala)分岐ができる。一部の実施形態において、D-アラニンとmDAPとを結合し、それによってペプチドの長さを11に伸ばし、D-アラニン分岐が1つ生じる、5-グリシンリンカーが提供されてもよい。
【0031】
有利なことに、本開示の抗体は、全体としてムラミルペプチドに結合することができ、例えば、本抗体は、グループとしてムラミン酸、アミノ酸、又はジペプチドに結合することができる。加えて、ムラミン酸のN-アセチル基が重要な抗原決定基であるという一般的な認識とは対照的に、本開示の抗体は、N-アセチル基の有無にかかわらずムラミルペプチドに結合することができる。一実施形態において、本開示の抗体は、ムラミルペプチドに結合することができるが、アラニン、グルタミン酸、イソグルタミン酸、ムラミン酸、又はN-アセチルムラミン酸といったその下位構成要素のいずれにも結合しなくてもよい。理論に束縛することを望むものではないが、ムラミルペプチドにのみ結合し、その下位構成要素には結合しないという本開示の抗体の能力により、本抗体にはムラミルペプチド及びペプチドグリカンに対する高い特異性がもたらされていると考えられる。したがって、一実施形態において、本開示の抗体は、ムラミルペプチド、又はその誘導体若しくは類似体若しくは塩に結合することができ、これらのペプチドとしては、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン、ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタメート、ムラミル-L-アラニル-D-グルタメート等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
本開示の抗体の例としては、2E7が挙げられ、これは、ATGCTGGTGGAGTCTGGGGGAGGCTTGGTGCAACCTGGAGGATCCATGAAACTCTCCTGTATAGTCTCGGGATTTACTTTCAGTTATTATTGGATGTCTTGGGTCCGCCAGTCTCCAGAGAAGGGGTTTGAGTGGGTTGCTGAAATCAGATTGAAATCTGAGAATTATGCAACAAATTATACGGAGTCTGTGAAAGGGAAGTTCACCATCTCAAGAGATGATTCCAAAAGTCGTCTCTACCTGCAAATGAACAGCTTAGGAGCTGAGGACACTGGAATTTATTACTGTCTAACTGGTTATGCCTGGTTTGCTTATTGGGGCCAAGGGACTCTAGTCACTGTCTCTGCAGCCAAAACGACACCCCCATCTGTCTATCCACTGGCCCCTGGATCTGCTGCCCAAACTAACTCCATGGTGACCCTGGGATGCCTGGTCAAGGGCTATTTCCCTGAGCCAGTGACAGTGACCTGGAACTCTGGATCCCTGTCCAGCGGTGTGCACACCTTCCCAGCTGTCCTGCAGTCTGACCTCTACACTCTGAGCAGCTCAGTGACTGTCCCCTCCAGCACCTGGCCCAGCGAGACCGTCACCTGCAACGTTGCCCACCCGGCCAGCAGCACCAAG(配列番号1)のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖を含む。
【0033】
一実施形態において、単離抗体又は抗原結合フラグメントは、GACGTCCAGATGATCCAGTCTCCAAAGCGCCTAATCTATCTGGTGTCTAAACTGGACTCTGGAGTCCCTGACAGGTTCACTGGCAGTGGATCAGGAACAGATTTTACACTGAAAATCAGCAGAGTGGAGGCTGAGGATTTGGGAGTTTATTACTGCGTGCAACATACACATTTTCCCACGTTCGGAGGGGGGACCAAGCTGGAAATAAAACGGGCTGATGCTGCACCAACTGTATCCATCTTCCCACCATCCAGTGAGCAGTTAACATCTGGAGGTGCCTCAGTCGTGTGCTTCTTGAACAACTTCTACCCCAAAGACATCAATGTCAAGTGGAAGATTGATGGCAGTGAACGACAAAATGGCGTCCTGAACAGTTGGACTGATCAGGACAGCAAAGACAGCACCTACAGCATGAGCAGCACCCTCACGTTGACCAAGGACGAGTATGAACGACATAACAGCTATACCTGTGAGGCCACTCACAAGACATCAACTTCACCCATTGTCAAGAGCTTCAACAGGAATGAGTGT(配列番号2)のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖を含むか又はそれからなってもよい。
【0034】
一実施形態において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号1のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖と、配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖とを含み得るか又はそれらからなり得る。
【0035】
一実施形態において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、MLVESGGGLVQPGGSMKLSCIVSGFTFSYYWMSWVRQSPEKGFEWVAEIRLKSENYATNYTESVKGKFTISRDDSKSRLYLQMNSLGAEDTGIYYCLTGYAWFAYWGQGTLVTVSAAKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTK(配列番号3)に記載されるアミノ酸配列又はそのバリアントを含む重鎖可変ドメインを含み得るか又はそれらからなり得る。バリアントは、配列番号3に記載されるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含みながら、親抗体の親和性/結合性及び/又は特異性/選択性の少なくとも実質的な部分(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はそれ以上)を依然として保持し得、一部の場合では、かかる抗体は、親抗体よりも高い親和性、選択性、及び/又は特異性を伴い得る。
【0036】
一実施形態において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、DVQMIQSPKRLIYLVSKLDSGVPDRFTGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYYCVQHTHFPTFGGGTKLEIKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC(配列番号4)に記載されるアミノ酸配列又はそのバリアントを含む軽鎖可変ドメインを含み得るか又はそれらからなり得る。バリアントは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含みながら、親抗体の親和性/結合性及び/又は特異性/選択性の少なくとも実質的な部分(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はそれ以上)を依然として保持し得、一部の場合では、かかる抗体は、親抗体よりも高い親和性、選択性、及び/又は特異性を伴い得る。
【0037】
一実施形態において、本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号3に記載されるアミノ酸配列又はそのバリアントを含む重鎖可変ドメイン、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列又はそのバリアントを含む軽鎖可変ドメインを含み得るか又はそれらからなり得る。バリアントは、配列番号3又は配列番号4に記載されるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含みながら、親抗体の親和性/結合性及び/又は特異性/選択性の少なくとも実質的な部分(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はそれ以上)を依然として保持し得、一部の場合では、かかる抗体は、親抗体よりも高い親和性、選択性、及び/又は特異性を伴い得る。
【0038】
本明細書に使用される「配列同一性」は、2つ以上のポリペプチド配列間又は2つ以上のポリヌクレオチド配列間、即ち、参照配列と、参照配列と比較される所与の配列との間の関係を指す。配列同一性は、所与の配列と参照配列とを、一連のかかる配列の間の一致によって決定したときに最も高い程度の配列類似性が得られるように最適にアライメントした後に、これら2つを比較することによって決定される。そのようなアライメントの際に、配列同一性は、各位置を基準として確認され、例えば、配列は、特定の位置にあるヌクレオチド又はアミノ酸残基が同一である場合に、その位置で「同一」である。そのような位置の同一性の総数を、次いで、参照配列におけるヌクレオチド又は残基の総数で除して、配列同一性%が得られる。配列同一性は、既知の方法によって容易に計算することができる。配列同一性を決定する方法は、所与の配列間の配列同一性を決定する公的に入手可能なコンピュータプログラムに体系化されている。そのようなプログラムの例としては、BLASTP、BLASTN、及びFASTAが挙げられるがこれらに限定されない。BLASTXプログラムは、NCBI及び他の供給源から公的に入手可能である。これらのプログラムは、所与の配列と参照配列との間で最も高いレベルの配列同一性をもたらすために、デフォルトのギャップ荷重を使用して配列を最適にアライメントする。
【0039】
抗体という用語には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、抗体様ポリペプチド、例えばキメラ抗体及びヒト化抗体、並びに抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体フラグメント(抗原結合フラグメント)も含まれる。したがって、一実施形態において、本開示の単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト化抗体及びキメラ抗体からなる群から選択されてもよい。
【0040】
本明細書に使用される「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性及び親和性を示す。モノクローナル抗体は、本開示の抗体をコードする重鎖導入遺伝子及び軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する、トランスジェニックマウス等の非ヒトトランスジェニック動物から得られたB細胞を不死化細胞に融合させたものを含む、ハイブリドーマによって生成することができる。したがって、一実施形態において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体であり得る。
【0041】
本開示の抗体は、任意のアイソタイプを有し得る。したがって、一実施形態において、単離抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、又はIgMのものであってもよい。更に別の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体であってもよく、サブタイプIgG1のものであってもよい。
【0042】
本開示の抗体はまた、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体のフラグメントも含み得る。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントによって行われ得ることが示されている。「抗体」という用語に包含される結合フラグメントの例としては、(i)V
L、V
H、C
L、及びC
H1ドメインからなる一価フラグメントであるFab'若しくはFabフラグメント、又は一価抗体、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab')
2フラグメント、(iii)V
H及びC
H1ドメインから本質的になるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのV
L及びV
Hドメインから本質的になるFvフラグメント、(v)V
Hドメインから本質的になり、ドメイン抗体とも称されるdAbフラグメント、(vi)ラクダ科(camelid)又はナノボディ、並びに(vii)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。したがって、一実施形態において、抗原結合フラグメントは、Fab、Fab'、(Fab')
2、Fv、sFV、及びscFvからなる群から選択されてもよい。
【0043】
有利なことに、抗体又は抗原結合フラグメントは、ムラミルペプチド、又はその誘導体若しくは類似体若しくは塩に、当該技術分野で既知の値よりも大幅に低いKd値で結合することができる。本明細書に使用されるとき、「Kd」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指す。一実施形態において、Kdは、約1nM未満、約900pM未満、約800pM未満、約700pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約90pM未満、約80pM未満、約70pM未満、約60pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、及び約10pM未満からなる群から選択され得る。例えば、本開示の抗体の一例である2E7 mAbは、ピコモルの親和性を有することが示されている。これは、当該技術分野で既知の他のモノクローナル抗体(即ち、mAb2-4)とは対照的であり、mAb2-4を用いた阻害アッセイでは、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンによりmAb2-4のペプチドグリカンへの結合の50%阻害が1mg/mlよりも高い濃度でのみ生じたことが示されている。したがって、本開示の抗体は、有利なことに、他の既知のモノクローナル抗体と比較してより高い結合親和性を有する。
【0044】
第2の態様において、自己免疫疾患又は炎症性疾患の予防的又は治療的処置における使用のための、本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントが提供される。
【0045】
第3の態様において、自己免疫疾患又は炎症性疾患を予防的又は治療的に処置するための医薬の製造における、本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントの使用が提供される。
【0046】
本開示の抗体を使用して処置され得る自己免疫疾患又は炎症性疾患は、敗血症、敗血症性ショック、クローン病、関節リウマチ、喘息、アレルギー、アトピー性障害、多発性硬化症、百日咳、淋病、炎症性腸疾患、及び抗生物質関連障害からなる群から選択され得る。処置は、本明細書に記載される抗体を対象に投与することを含み得る。
【0047】
一実施形態において、自己免疫疾患又は炎症性疾患は、関節リウマチである。
【0048】
一実施形態において、自己免疫疾患又は炎症性疾患は、多発性硬化症である。
【0049】
一部の場合において、より良好な処置結果を達成するため、及び/又は可能性のある副作用を低減させるために、本開示の抗体を1つ以上の他の治療剤と共に投与することが有利な場合がある。可能性のある副作用の例としては、がん、並びに細菌感染及び真菌感染といった感染症が挙げられるがこれらに限定されない。一部の例において、細菌感染は、レジオネラ又はリステリアによって引き起こされる。例えば、TNF-α遮断剤の既知の副作用は、患者のリステリア菌感染への感受性の増加である。
【0050】
したがって、第4の態様において、本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントと、1つ以上の治療剤とを含む組成物が提供される。場合によっては、本開示の組成物は、本明細書に記載される1つ以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含んでもよい。
【0051】
本開示の組成物中の1つ以上の他の治療剤は、免疫媒介性疾患の処置に有用な治療剤であり得る。したがって、1つ以上の治療剤は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、非生物学的及び生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、免疫抑制剤、及びコルチコステロイドからなる群から選択され得る。例示的なDMARDとしては、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、レフルノミド、腫瘍壊死因子(TNF)阻害剤、T細胞共刺激遮断剤、B細胞枯渇剤、インターロイキン-6(IL-6)阻害剤、及びインターロイキン-1(IL-1)受容体アンタゴニストが挙げられるがこれらに限定されない。例示的なTNF阻害剤としては、エタネルセプト、アダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブペゴル、及びゴリムマブが挙げられるがこれらに限定されない。
【0052】
一例において、本明細書に記載される組成物の投与は、2つ以上の治療剤(本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントを含む)を組み合わせて投与することを指す。「組み合わせて」とは、複数の治療剤が、一方の治療剤の投与又は存在が他方の生物学的作用を変化させるのに十分に近接した時間で投与されることを意味する。治療剤は、同時に(一斉に)投与されても順次に投与されてもよい。
【0053】
同時投与は、例えば、2つ以上の薬剤を投与の前に混合することによって、又はそれらの薬剤/治療薬を同じ時点ではあるが異なる解剖学的部位に、若しくは別の投与経路を使用して投与することによって実行され得るか、或いは観察される結果が、それらの薬剤/治療薬を同じ時点で投与した場合に達成されるものと区別できないほどに十分に近接した時間で投与され得る。
【0054】
順次投与は、薬剤/治療薬を組み合わせて投与することで処置の治療的効果が向上するように、薬剤/治療薬を異なる時点で投与することによって、例えば、ある薬剤/治療薬を、1つ以上の他の薬剤/治療薬の投与の前又は後のある時点で投与することによって、実行することができる。一部の実施形態において、本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、本明細書に記載される別の治療剤の投与の前のある時点で投与される。或いは、本明細書に記載される単離抗体又はその抗原結合フラグメントは、別の治療剤の投与後のある時点で投与される。
【0055】
本明細書に記載される組成物は、局所処置が所望されるか全身処置が所望されるかに応じていくつかの手段で投与され得る。投与は、局所、肺内(例えば、ネブライザーによるものを含め粉末若しくはエアロゾルの吸入若しくは送気によるもの、気管内、鼻腔内、表皮、及び経皮)、又は全身、例えば経口、及び/若しくは非経口であり得る。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、又は筋肉内注射若しくは注入、又は頭蓋内、例えば髄腔内若しくは心室内の投与が挙げられる。一例において、投与経路は、全身投与、経口投与、静脈内投与、及び非経口投与からなる群から選択され得る。
【0056】
経口投与のための組成物及び製剤としては、粉末若しくは顆粒、水若しくは非水性媒体中の懸濁液若しくは溶液、カプセル剤、サシェ剤、又は錠剤が挙げられる。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散補助剤、又は結合剤が望ましい場合がある。
【0057】
非経口、髄腔内、又は心室内投与のための組成物及び製剤としては、緩衝液、希釈剤、並びに透過促進剤、担体化合物、及び他の薬学的に許容される担体若しくは賦形剤等であるがこれらに限定されない他の好適な添加剤もまた含有し得る滅菌水溶液を挙げることができる。
【0058】
本明細書に記載される組成物としては、溶液、エマルジョン、及びリポソーム含有製剤が挙げられるがこれらに限定されない。これらの組成物は、予備形成された液体、自己乳化型固体、及び自己乳化型半固体を含むがこれらに限定されない様々な構成成分から生成され得る。
【0059】
便宜上単位剤形で提示され得る本明細書に記載される製剤は、製薬業界で周知の従来的技法に従って調製することができる。そのような技法は、活性成分を薬学的担体又は賦形剤と結合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性成分を、液体担体若しくは微粉化した固体担体、又はその両方と均一かつ密に結合させ、次いで、必要に応じて生成物を成形することによって調製される。
【0060】
本明細書に記載される組成物は、錠剤、カプセル剤、液体シロップ、軟質ゲル、坐剤、及び浣腸剤を含むがこれらに限定されない多数の可能性のある剤形のいずれかに製剤化され得る。本明細書に記載される組成物はまた、水性、非水性、又は混合媒体中の懸濁液として製剤化されてもよい。水性懸濁液は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストランを含む、懸濁液の粘度を増加させる物質を更に含有してもよい。懸濁液はまた、安定剤を含有してもよい。
【0061】
一実施形態において、薬学的組成物は、泡沫体(foam)として製剤化され、使用されてもよい。薬学的泡沫体としては、エマルジョン、マイクロエマルジョン、クリーム、ゼリー、及びリポソーム等であるがこれらに限定されない製剤が挙げられる。これらの製剤は、基本的に性質は類似しているが、構成成分及び最終生成物の稠度は異なる。
【0062】
本明細書に記載される組成物は、薬学的組成物中に従来的に見られる他の補助成分を更に含有してもよい。したがって、例えば、組成物は、例として鎮痒剤、収斂剤、局所麻酔剤、又は抗炎症剤といった追加の適合性のある薬学的に活性な材料を含有してもよく、或いは色素、香味剤、保存剤、酸化防止剤、乳濁剤、増粘剤、及び安定剤といった、本発明の組成物の様々な剤形を物理的に製剤化するのに有用な追加の材料を含有してもよい。しかしながら、そのような材料は、添加される場合、本開示の組成物の構成成分の生物活性を過度に妨げるものであってはならない。製剤は、滅菌してもよく、所望される場合、製剤中の抗体と有害に相互作用しない補助剤、例えば、滑沢剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を調整するための塩、緩衝液、着色剤、香味剤、及び/又は芳香物質等と混合してもよい。
【0063】
本開示の組成物は、免疫媒介性疾患の処置に有用であり得る。したがって、第5の態様において、本開示の組成物を投与する工程を含む、本明細書に記載される自己免疫疾患又は炎症性疾患を予防的又は治療的に処置する方法が提供される。
【0064】
第6の態様において、本明細書に記載される自己免疫疾患又は炎症性疾患の予防的又は治療的処置における使用のための本開示の組成物が提供される。
【0065】
第7の態様において、本明細書に記載される自己免疫疾患又は炎症性疾患を予防的又は治療的に処置するための医薬の製造における、本開示の組成物の使用が提供される。
【0066】
本明細書に使用される組成物は、治療有効量で提供され得る。本明細書に使用される「治療有効量」という用語は、その意味の範囲内に、所望される治療効果を提供するのに十分であるが毒性ではない、本明細書に記載される化合物の量を含む。必要とされる厳密な量は、処置される種、対象の年齢及び全身状態、処置される状態の重症度、投与される特定の薬剤、投与の形態等といった要因に応じて、対象毎に異なるであろう。したがって、厳密な「有効量」を指定することはできない。しかしながら、いずれの所与の事例についても、適切な「有効量」は、日常的な実験のみを用いて当業者によって決定することができる。
【0067】
投薬は、処置すべき疾患状態の重症度及び応答性に依存し、処置期間は、数日から数ヶ月継続されるか、又は治癒が達成されるまで若しくは疾患状態の軽減が達成されるまで継続される。最適な投薬スケジュールは、患者の体内における薬物蓄積の測定値から計算することができる。投与する医師は、最適な投薬量、投与法、及び繰り返し頻度を容易に決定することができる。最適な投薬量は、組成物の相対効力に応じて多様であり得、一般には、インビトロ及びインビボ動物モデルにおいて有効であると見られるEC
50に基づいて、又は本明細書に記載される実施例に基づいて、推測することができる。一般に、投薬量は、0.01μg〜100g/体重kgであり、1日、1週間、1ヶ月、又は1年に1回又は複数回提供され得る。処置する医師は、体液又は組織中の薬物の測定された滞留時間及び濃度に基づいて、投与の繰り返し頻度を推測することができる。処置が成功した後には、疾患状態の再発を防止するために、対象は維持療法を受けることが望ましい場合があり、ここで、本組成物は、0.01μg〜100g/体重kgの範囲の維持用量を1日に1回又は複数回から2年毎に1回で投与される。
【0068】
一例において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントの投薬量は、1mg/体重kg〜1g/体重kg、10mg/体重kg〜1g/体重kg、100mg/体重kg〜1g/体重kg、200mg/体重kg〜1g/体重kg、300mg/体重kg〜1g/体重kg、400mg/体重kg〜1g/体重kg、500mg/体重kg〜1g/体重kg、600mg/体重kg〜1g/体重kg、700mg/体重kg〜1g/体重kg、800mg/体重kg〜1g/体重kg、900mg/体重kg〜1g/体重kg、950mg/体重kg〜1g/体重kg、1mg/体重kg〜950mg/体重kg、1mg/体重kg〜900mg/体重kg、1mg/体重kg〜800mg/体重kg、1mg/体重kg〜700mg/体重kg、1mg/体重kg〜600mg/体重kg、1mg/体重kg〜500mg/体重kg、1mg/体重kg〜400mg/体重kg、1mg/体重kg〜300mg/体重kg、1mg/体重kg〜200mg/体重kg、又は1mg/体重kg〜100mg/体重kgである。上述の投薬量に基づいて、当業者であれば、ヒトを含むがこれに限定されない異なる動物種で使用される投薬量を導出することができるであろう。
【0069】
一例において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントの投薬量は、約10mg/体重kgである。
【0070】
一例において、単離抗体又はその抗原結合フラグメントの投薬量は、約160mg/体重kgである。
【0071】
一例において、本化合物は、対象の体重1kg当たり約0.01μg、0.05μg、0.1μg、0.5μg、1μg、5μg、10μg、20μg、30μg、40μg、50μg、60μg、70μg、80μg、90μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、200μg、210μg、220μg、230μg、240μg、250μg、260μg、270μg、280μg、290μg、500μg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、225mg、250mgのいずれか1つから、約0.01μg、0.05μg、0.1μg、0.5μg、1μg、5μg、10μg、20μg、30μg、40μg、50μg、60μg、70μg、80μg、90μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、200μg、210μg、220μg、230μg、240μg、250μg、260μg、270μg、280μg、290μg、500μg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、225mg、250mg、300mgのいずれか1つまでの量で投与され得る。上述の量に基づいて、当業者であれば、ヒトを含むがこれに限定されない異なる動物種で使用される量を導出することができるであろう。
【0072】
一例において、投与される化合物の濃度は、約0.1mg/ml、0.5mg/ml、1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/ml、10mg/ml、11mg/ml、12mg/ml、13mg/ml、14mg/ml、15mg/ml、16mg/ml、17mg/ml、18mg/ml、19mg/ml、20mg/ml、22.5mg/ml、25mg/ml、27.5mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、300mg/ml、350mg/ml、400mg/ml、450mg/ml、若しくは約500mg/ml、又は約0.1mg/ml〜約500mg/ml、約0.5mg/ml〜約450mg/ml、約1mg/ml〜約400mg/ml、約2mg/ml〜約350mg/ml、約3mg/ml〜約300mg/ml、約4mg/ml〜約250mg/ml、約5mg/ml〜約200mg/ml、約6mg/ml〜約150mg/ml、約7mg/ml〜約100mg/ml、約8mg/ml〜約90mg/ml、約9mg/ml〜約80mg/ml、約10mg/ml〜約70mg/ml、約11mg/ml〜約60mg/ml、約12mg/ml〜約50mg/ml、約12mg/ml〜約45mg/ml、約13mg/ml〜約40mg/ml、約14mg/ml〜約35mg/ml、約15mg/ml〜約30mg/ml、約16mg/ml〜約27.5mg/ml、約17mg/ml〜約25mg/ml、約18mg/ml〜約22.5mg/ml、若しくは約19mg/ml〜約20mg/mlである。一例において、投与される化合物の濃度は、約40mg/mlである。上述の濃度に基づいて、当業者であれば、ヒトを含むがこれに限定されない異なる動物種で使用される濃度を導出することができるであろう。
【0073】
一例において、本開示の単離抗体又はその抗原結合フラグメントと共に投与される他の治療剤の投薬量は、1mg/体重kg〜1g/体重kg、10mg/体重kg〜1g/体重kg、100mg/体重kg〜1g/体重kg、200mg/体重kg〜1g/体重kg、300mg/体重kg〜1g/体重kg、400mg/体重kg〜1g/体重kg、500mg/体重kg〜1g/体重kg、600mg/体重kg〜1g/体重kg、700mg/体重kg〜1g/体重kg、800mg/体重kg〜1g/体重kg、900mg/体重kg〜1g/体重kg、950mg/体重kg〜1g/体重kg、1mg/体重kg〜950mg/体重kg、1mg/体重kg〜900mg/体重kg、1mg/体重kg〜800mg/体重kg、1mg/体重kg〜700mg/体重kg、1mg/体重kg〜600mg/体重kg、1mg/体重kg〜500mg/体重kg、1mg/体重kg〜400mg/体重kg、1mg/体重kg〜300mg/体重kg、1mg/体重kg〜200mg/体重kg、又は1mg/体重kg〜100mg/体重kgである。上述の投薬量に基づいて、当業者であれば、ヒトを含むがこれに限定されない異なる動物種で使用される投薬量を導出することができるであろう。
【0074】
一例において、他の治療剤の投薬量は、約5mg/体重kgである。
【0075】
一例において、本開示の単離抗体又はその抗原結合フラグメントと共に投与される他の治療剤は、エタネルセプトであり、エタネルセプトの投薬量は、5mg/体重kgである。
【0076】
本明細書に使用されるとき、「約」という用語は、製剤の構成成分の量又は濃度の文脈において、典型的には示される値の±5%、より典型的には示される値の±4%、より典型的には示される値の±3%、より典型的には示される値の±2%、更により典型的には示される値の±1%、及び更により典型的には示される値の±0.5%を意味する。
【0077】
一実施形態において、本開示の抗体又は組成物で処置される対象は、動物、哺乳動物、ヒトであり得、これには、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、オオカミ、ネコ、マウス、ヒツジ、鳥、魚、ヤギ、カラス、ダニ(acrine)、又はイルカ(delphine)に分類される動物が含まれるが、これに限定されない。一実施形態において、対象は、ヒトであり得る。
【0078】
本明細書に例示的に記載されている本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1つ以上の要素、1つ以上の制限の非存在下において、適切に実施され得る。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」等の用語は、包括的かつ制限なしに解釈されるべきである。更に、本明細書に用いられる用語及び表現は、制限ではなく説明の意味で用いられており、かかる用語及び表現の使用において、示され、記載されている特徴又はその部分のいずれの均等物も除外する意図はなく、様々な改変が、特許請求される本発明の範囲内で可能であると認識される。したがって、本発明は好ましい実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されてはいるものの、本明細書に開示される本明細書に具現化される本発明の改変及び変化形が当業者によって用いられ得ること、並びにかかる改変及び変化形が本発明の範囲内に含まれると見なされることを理解されたい。
【0079】
本開示全体を通じて、ある特定の実施形態が、範囲形式で開示されてもよい。範囲形式での記載は、単に便利さ及び簡潔さのためのものにすぎず、開示される範囲に関する範囲に対する柔軟性のない制限と見なされるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲についての記載は、その範囲内のすべての可能性のある部分範囲並びに個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1〜6等の範囲の記載は1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6等といった部分範囲、並びにその範囲内の個々の数字、例えば1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅にかかわらず適用される。
【0080】
本発明は、広義かつ包括的に本明細書に記載されている。包括的な開示に含まれるより狭義の種及び部分的な分類もまた、本発明の各部分を形成している。これには本発明の包括的な記載が含まれ、ある条件又は消極的な限定によりその属から任意の項目が除外されるが、これは、除外された材料が本明細書に具体的に列挙されているかどうかにかかわらない。
【0081】
他の実施形態は、以下の特許請求及び非限定的な実施例の範囲内である。加えて、本発明の特徴又は態様がマーカッシュ群に関して記載されている場合、当業者であれば、それによって本発明がまたマーカッシュ群の任意の個々のメンバー又はメンバーの下位集団に関しても記載されることを理解するであろう。
【実施例】
【0082】
本発明の非限定的な実施例が、特定の実施例を参照して更により詳細に記載されるが、これらの実施例は、決して本発明の範囲を制限するものと見なされるべきではない。
【0083】
材料及び方法
ムラミルペプチド(MP)は、共通の構造的部分を共有する関連分子である。本開示では、1つが共通の構造を認識し、もう1つがサブタイプに特異的である、2種類のマウスモノクローナル抗体を開発した。これを達成するために、以下のムラミルジペプチド(MDP)を抗原として使用した:N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン、ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタメート、及びムラミル-L-アラニル-D-グルタメート。これらのMDPを、以前に報告されている通り、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンの部分的HCl加水分解生成物から化学的に合成又は精製した(Xuら2008年、Bacterial peptidoglycan triggers Candida albicans hyphal growth by directly activating the adenylyl cyclase Cyr1p. Cell Host & Microbe 4、1〜12頁、この内容は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0084】
MDPの抗原性を高めるために、これらの分子を、リンカー分子を使用してヒト血清アルブミン(HSA)にコンジュゲートした。MDPのカルボン酸部分を、まずN-Boc-エチレンジアミンに結合させ、次いで、Boc保護基を除去し、得られたアミンをグルタルアルデヒドを用いてHSAと連結させた。MDPをHSAにコンジュゲートするのに成功したことを、質量分析法によって判定した。次いで、このMDP-HSAコンジュゲートを用いてBALB/cマウスに免疫付与を行った。免疫付与を行ったマウスの血清抗原特異的力価を、上述のものと同じ連結戦略を用いて卵白アルブミン(OVA)にコンジュゲートしたMDPに対する酵素結合免疫吸着法(ELISA)によって試験した。ハイブリドーマ細胞株の生成、抗体を産生するクローンのスクリーニング、mAbの調製及び精製、並びにmAbのアイソタイプ決定を、標準プロトコルに従って実行した。mAbの抗原特異性は、免疫付与のための抗原として元々用いられていたMDPへのmAbの結合を阻害する異なるMDP及び構成部分の能力を試験する競合的ELISAを用いて判定した。
【0085】
(実施例1)
MDPに対するmAbの特徴付け
N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンでマウスに免疫付与を行うことによって、mAb(2E7)を得た。抗体のアイソタイプ決定試験により、2E7がIgG
1であることを特定し、2E7のN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンに対するKdは、計算によると8.7pMであった(
図1)。競合的ELISAによって、OVAにコンジュゲートしたN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンへの2E7の結合が、ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタメート、及びムラミル-L-アラニル-D-グルタメートによって、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンとほぼ同程度に効果的に濃度依存的な形で阻害されることがわかり、2E7がこれら4つのMDPと共通のエピトープを認識していることが示された。しかしながら、2E7は、ムラミン酸、N-アセチルムラミン酸、N-アセチルグルコサミン、アラニン、D-イソグルタミン、グルタメート、グルコース、又はタンパク質における20個の一般的なアミノ酸のいずれか若しくはそれらの混合物に対しては、血中の通常濃度よりも100倍高い濃度でも、検出可能な親和性を示さなかった。このデータは、2E7が、4つのMDPに共通して構造という点で固有に形成されるエピトープを特異的に認識することを示している。MDPをHSAに結合するのに用いられたグルタルアルデヒドリンカーを特異的に認識するIgG
1 mAbもまた、ハイブリドーマクローンのスクリーニングで得られた。この抗体は、グルタルアルデヒドを除いて上述の分子のいずれにも検出可能な親和性を示さなかったため、2E7を用いた実験の優れた陰性対照となった。
【0086】
(実施例2)
2E7の重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列の決定
2E7を産生するハイブリドーマクローンからメッセンジャーRNAを調製し、相補的DNAを産生するための鋳型として使用した。それぞれ重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAフラグメントを、可変領域をコードする領域の両端に隣接する保存配列モチーフを特異的に標的とするオリゴヌクレオチドプライマーの対(Table 1(表1))を使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅させた(その方法は、Kettleboroughら1993年、Optimisation of primers for cloning libraries of mouse immunoglobulin genes using the polymerase chain reaction. Eur J Immunol 23、206〜211頁、並びにPopeら1996年、Construction of use of antibody gene repertoires. In Antibody Engineering- A Practical Approach. McCafferty J.、Hoogenboom H、及びChiswell D編集に記載され、いずれの内容も参照により本明細書に組み込まれる)。PCR産物を精製し、スプライシングしてpJET1.2/平滑末端ベクターにし(Fermentas International Inc社、Canada)、大腸菌に形質転換して、独立したクローンを得た。複数のクローンからプラスミドを単離して、期待のサイズのインサートを有するものをDNA配列分析に供した。重鎖及び軽鎖それぞれ5つずつのクローンを分析し、それによって同一の配列を得た。次いで、ヌクレオチド配列をアミノ酸配列に翻訳した(Table 2(表2))。これらの配列のマウス抗体の重鎖又は軽鎖の可変領域としての同一性は、配列を用いてNCBIの冗長性のないタンパク質配列データベースを検索することによって確認した。2E7重鎖配列は、数十のマウス抗体の同じ領域に対して最も高い75〜90%の同一性を呈し、2E7軽鎖配列は、最大98%の同一性を呈した。2E7の重鎖にも軽鎖にもデータベース中に同一な配列は見つからなかった。
【0087】
【表1】
【表2】
【0088】
(実施例3)
培養培地中及び細胞表面上の細菌ペプチドグリカンの2E7検出
2E7の有用性を示すために、抗体を、まず、細菌培養液中に通常存在しているMPを検出する能力に関して試験した。β-ラクタム系抗生物質が、細胞にMPの蓄積及び分泌を行わせることによってペプチドグリカンの重合を阻害することは、十分に確立されている。β-ラクタム系抗生物質であるアモキシシリンは、病院で広く使用されている薬物であり、これを培養液に添加したが、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンへの2E7の結合を阻害することができる物質の有意な増加が、増えることが予測された。この試験に関して、厚いペプチドグリカン層を有するグラム陽性菌の黄色ブドウ球菌及び薄いペプチドグリカン層を有するグラム陰性菌の大腸菌を選択し、アモキシシリンの存在下又は非存在下で成長させた。培養液を、OD
600=1.5の密度に成長させた後、2つの等しいアリコートに分けた。一方のアリコートには、アモキシシリンを1ml当たり40μgの最終濃度まで添加し、他方のアリコートには、薬物を添加しなかった。両方の培養液の成長を継続させた。間隔を計って培養液のアリコートをとり、細胞を遠心分離によって取り出した。2E7を使用した競合的ELISAによって、上清中のMPの量を判定した。アモキシシリンの添加により、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンへの2E7の結合を効果的に阻害することができる分子の培養培地で著しい増加が生じたことを確認した(
図2A〜
図2B)。比較すると、未処置の培養液では、そのような分子の緩徐な増加が観察されただけであった。更に、黄色ブドウ球菌培養液の上清は、大腸菌培養液のものよりも約15倍強力な阻害を呈した。その他が同一な条件下において、陰性対照としては、グルタルアルデヒドに対する対照抗体の結合を目に見えて阻害した上清はなかった。
【0089】
細胞壁のペプチドグリカンに結合する2E7の能力もまた調査した。黄色ブドウ球菌及び大腸菌の両方の細胞を、まず、2E7と共にインキュベートし、次いで、FITCとコンジュゲートした抗マウスIgG抗体と共にインキュベートした。蛍光顕微鏡法による試験により、黄色ブドウ球菌の強い染色及び大腸菌細胞の弱い染色が判明し(
図2C)、これは、それぞれの菌の細胞壁内のペプチドグリカンのレベルと一致している。二次FITC抗体単独と共にインキュベートすると、かすかな非特異的な染色のみが得られた。更に、対照抗体ではなく2E7を生黄色ブドウ球菌又は大腸菌と共にインキュベートすることにより、有意な細胞凝集が生じ(データは示されない)、2E7による細菌細胞の架橋が示された。これらを合わせると、本開示の抗体2E7が細菌細胞壁内のペプチドグリカンを特異的に認識し、MPが細菌培養液中に放出されたことが、データにより示される。
【0090】
(実施例4)
マウス及びヒトにおける血中MPレベルに対するアモキシシリンの影響
マウスのβ-ラクタム系抗生物質での処置が、マウス微生物叢の細菌におけるペプチドグリカン合成の阻害の結果として起こり得る血中MPレベルの急激な上昇をもたらすかどうかを判定するために、マウスに12時間間隔でアモキシシリン(100mg/kg)を与え、3日間の期間にわたり、4時間毎に3匹のマウスを殺処理して血液を採取した。血清中のMPレベルは、本開示の例示的な抗体、即ち2E7を用いた競合的ELISAによって判定した。
図3Aに示されるように、未処置マウスの血清(0時間)は、約1μg/mlのN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンに等しいレベルのMPを含有する。顕著なことに、各抗生物質投与の4時間後に血中MPレベルの20〜60%の上昇が観察されたが、レベルは、次の投与までの数時間の間に基礎レベルに戻った。
【0091】
同時に、オーグメンチン(アモキシシリン+細菌のβ-ラクタマーゼによるアモキシシリンの分解を低減させるβ-ラクタマーゼ阻害剤であるクラブラン酸)の複数回の静脈内投与を受けたICU患者からの血液試料を、0時間、7.5時間、14時間、21時間、及び26時間の時点で連続的に採取した。抗生物質での処置の前に採取した血液試料は、約1.2μg/mlのN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンに等しい量のMPを含有していた(
図3B)。
図3Bに示されるように、MPレベルは、6.5時間及び13.5時間で採取した試料において1.66及び2.1μg/mlに上昇していた。対照的に、MPレベルは、17時間及び26時間では1.68及び1.2μg/mlに低下していた。これらの結果は、β-ラクタム系抗生物質の使用が、実際に血中MPの有意な上昇をもたらすことを示している。これらの結果は、下痢等の一部の抗生物質関連疾患の原因を、MPによって誘発される腸での過剰な炎症の結果として説明し得る。データはまた、体内でのMPの変動に応答して血中MPを恒常状態レベルまで効果的に回復させる、マウス及びヒトにおける制御機構の存在を示唆している。
【0092】
(実施例5)
健常な人物における血中MPの検出及び定量化
遺伝学的要因及び/又は環境要因に起因して、個体におけるMPレベルは多様であり得るという仮説を立てた。MPは、広範な生物活性を有し、多数の疾患と関連付けられているため、血中MPレベルは、ある特定の疾患発症に関する個体の危険性を評価するためのバイオマーカーとして使用することができる。第1の工程として、概して健常な人物におけるMPレベルを測定した。19歳〜52歳の女性4人及び男性3人の7人の志願ドナーから血液試料及び調製血清を、同日の午前10:00に採取した(
図4)。顕著なことに、血清MPレベルは、広い範囲にわたって多様であることがわかった。1つの血清(HD4)は、検出可能な量のMPはほとんど含有していなかったが、検出された最も高いMP濃度は、6.82μg/mlであった(HD5)。残りの血清試料のMPレベルは、1.4〜4.94μg/mlの範囲に及んだ。2週間後にHD4及びHD5から再び血液試料を採取したときに、同様の結果が得られた。別の独立した4人のドナー群から、第2の血清試料は、検出可能なレベルのMPは含有していなかったことがわかった。データは、血中MPレベルが、実際に、有意な個体間変動を呈することを示している。偶然にも、最も高い血中ペプチドグリカンレベルを有した2人のドナー、HD5及びHD6、特にHD5は、慢性炎症関連の皮膚の不調を有しており、しばしば抗炎症目的で長期間抗生物質を服用する必要がある。高い血中MPレベルと皮膚の不調との間で観察された相関性は、高いMPレベルが、慢性で低悪性度の炎症の原因であるか、又はそれに寄与している可能性があることを示唆している。
【0093】
(実施例6)
2E7 mAbを用いた関節リウマチの発症の防止、進行の処置、及び再発の防止
MDPは、免疫応答を誘発することができ、一部の免疫応答は免疫媒介性状態又は疾患を引き起こすため、MDP抗体2E7は、関節リウマチ等の免疫媒介性疾患を処置するのに使用することができるという仮説を立てる。この仮説を試験するために、2E7の効果を、コラーゲン抗体誘発関節炎(Collagen Antibody Induced Arthritis、CAIA)マウスモデルを用いて研究した。
【0094】
CAIAマウスモデル
0日目に3mgのArthogen-CIA-5カクテルを尾静脈から静脈内注射し、3日目に25μlのLPSを腹腔内注射することによって、9〜10週齢のBalb/cマウスにCAIAを誘発した。
【0095】
群及び処置
予防的研究
関節リウマチの防止に対する2E7の研究のために、マウスを、体重に応じて2E7処置群又は対照群に無作為に割り当てた。CAIAを誘発する6時間前に、単回用量20mgの2E7又はアイソタイプ対照抗体を、各マウスに腹腔内注射した。
【0096】
治療的研究
関節リウマチに対する2E7の治療効果を研究するために、0日目に単一の群としてマウスにCAIAを誘発させた。2日目に、足部スコアによってマウスを評価し(Table 3(表3))、異なる群が同様の平均足部スコアを有するような様式でマウスを群に割り当てた。誘発に極めて感受性であったマウス(単一の足部からのスコア=4)は、本研究から除外した。2日目に、各マウスに、単回用量の2E7又は対照抗体を腹腔内注射により投与した。3日目に、各マウスに、25μlのLPSの腹腔内注射を行った。
【0097】
再発研究
関節リウマチの再発の防止における2E7の効果を研究するために、16日目、第1の炎症出現が終わりに近づいたときに、足部スコアに基づいてマウスを2E7処置群又は対照群に割り当てた。25μlのLPSの腹腔内注射により関節炎の再発を刺激し、単回用量20mgの2E7又はアイソタイプ対照抗体を、同日に各マウスに腹腔内注射した。
【0098】
臨床足部スコアの測定
Table 3(表3)は、マウスの臨床足部スコアを評価するのに使用した基準を示す。
【0099】
【表3】
【0100】
(実施例7)
マウスコラーゲン抗体誘発性関節炎(CAIA)モデルにおける異なる用量での2E7 mAbの治療効果
異なる用量での2E7の治療効果を研究するために、同じCAIAマウスモデルを使用した。0日目に単一の群としてマウスにCAIAを誘発させた。2日目に、足部スコアによってマウスを評価し(Table 3(表3))、異なる群が同様の平均足部スコアを有する様式でマウスを群に割り当てた。誘発に極めて感受性であったマウス(単一の足部からのスコア=4)は、本研究から除外した。2日目に、各マウスに、対照抗体又は単回用量の2E7を10mg/体重kg、40mg/体重kg、及び160mg/体重kgで腹腔内注射により投与した。3日目に、各マウスに、25μlのLPSの腹腔内注射を行った。マウスの臨床足部スコアを、Table 3(表3)の足部スコア基準に従って評価した。
図8に示されるように、3つすべての用量の2E7が、明確かつ用量依存性の治療効果を示した。2E7は10mg/kgで効力があるという事実は、2E7が、関節リウマチの強力な治療薬に発展する可能性を有することを示す。
【0101】
(実施例8)
関節リウマチの処置のための2E7 mAb及びTNF-α遮断剤を組み合わせた治療法
2E7は関節リウマチに対する治療効果を有することが示されたため、関節リウマチの処置のための組み合わせ療法の効果を試験するための更なる研究を実行した。同じCAIAマウスモデルを使用した。0日目に単一の群としてマウスにCAIAを誘発させた。2日目に、足部スコアによってマウスを評価し(Table 3(表3))、異なる群が同様の平均足部スコアを有する様式でマウスを群に割り当てた。誘発に極めて感受性であったマウス(単一の足部からのスコア=4)は、本研究から除外した。2日目に、各マウスに、(i)15mg/体重kgの対照抗体、(ii)単回用量の15mg/体重kgの2E7、(iii)単回用量の5mg/体重kgのTNF-α遮断剤であるエタネルセプトに加えて、10mg/体重kgの対照抗体、(iv)単回用量の5mg/体重kgのエタネルセプトに加えて、10mg/体重kgの2E7を、腹腔内注射により投与した。3日目に、各マウスに、25μlのLPSの腹腔内注射を行った。マウスの臨床足部スコアを、Table 3(表3)の足部スコア基準に従って評価した。
図11に示されるように、2E7及びエタネルセプトの組み合わせ療法は、マウスCAIAモデルにおいてエタネルセプト又は2E7単独療法よりも有効であった。この結果は、2E7が、より良好な結果を達成するために現在の関節リウマチ治療薬に対する補助治療薬として開発できることを示している。有利なことに、他の現在入手可能な関節リウマチ治療剤を組み合わせて使用した場合に2E7により得られる相乗効果により、2E7及び他の治療剤の両方の濃度を大幅に低減して、いずれか1つを単独でより高い濃度で用いた場合と同じか又はそれよりも良好な効果を達成することが可能である。
【0102】
(実施例9)
関節リウマチの2E7 mAb処置におけるヌクレオチド結合オリゴマー形成ドメイン含有タンパク質(nucleotide-binding oligomerization domain-containing protein)2(NOD2)の役割
2E7はMDP抗体であるため、2E7は、血液循環中のMDP含有分子を中和することによって関節リウマチに対するその効果を発揮するという仮説を立てる。NOD2は、細胞内パターン認識受容体であり、これは、植物の分解抵抗性タンパク質(resistant protein)に構造が類似しており、MDPの特定の構造を含有する分子を認識する。2E7が血液循環中のMDP含有分子を中和することによって関節リウマチに対してその効果を発揮するとすれば、その効果は、NOD2を有さないマウス(NOD2-/-)では無効となるであろう。この仮説を試験するために、5mgのArthogen-CIA-5カクテルを尾静脈から静脈内注射することにより、0日目に単一の群としてC57B/L6バックグラウンドのNod2ノックアウトマウスにCAIAを誘発させた。2日目に、足部スコアによってマウスを評価し(Table 3(表3))、異なる群が同様の平均足部スコアを有する様式でマウスを群に割り当てた。誘発に極めて感受性であったマウス(単一の足部からのスコア=4)は、本研究から除外した。2日目に、各マウスに、単回用量の2E7又は対照抗体を腹腔内注射により投与した。3日目に、各マウスに、50μlのLPSを腹腔内注射した。C57B/L6バックグラウンドのマウスは、Balb/cバックグラウンドのマウスよりもCAIA誘発に対して耐性であるため、より多量のArthogen-CIA-5カクテル及びLPSを使用した。
図12に示されるように、2E7の注射は、疾患進行を抑制することができなかった。このデータは、2E7が、完全にではないとしても、主に、NOD2シグナル伝達経路を遮断することによって関節リウマチを処置することを示している。
【0103】
(実施例10)
マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおける多発性硬化症(MS)に対する2E7 mAbの治療効果
多発性硬化症は、自己免疫によって引き起こされる、中枢神経系の原型的な脱髄性炎症疾患である。世界中で最大200万人が罹患していると推定される。2E7は、関節における自己免疫疾患である関節リウマチのマウスモデルにおける有効性が示されているため、多発性硬化症も同様に抑制することができるであろうという仮説を立てた。この仮説を試験するために実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスモデルを使用した。
【0104】
EAEの誘発
EAEの誘発を、42匹の雌性C57BL/6マウス(Taconic Farms社、9週齢)に行った。誘発は、以下のスケジュールに従って行った。
0日目、0時間-MOG
35〜55/CFAでの免疫付与
0日目、2時間-百日咳毒素の注射
1日目、0時間-百日咳毒素の2回目の注射(初回免疫付与の24時間後)
【0105】
マウスの背部の2つの部位に、Hooke Kit(商標)MOG
35〜55/CFA Emulsion PTX、カタログ番号EK-2110(Hooke Laboratories社、Lawrence MA)のエマルジョン成分(MOG
35〜55を含有する)の皮下注射を行った。一方の注射部位は、上背部の首周りのおよそ1cm尾側の領域であった。第2の部位は、下背部の尾の付け根のおよそ2cm頭蓋側の領域であった。注射量は、各部位0.1mLであった。エマルジョン注射の2時間以内に、そしてエマルジョン注射の24時間後に再び、キットの百日咳毒素成分を腹腔内投与した。各注射の量は、0.1mLであった。疾患重症度をこの特定の研究に最適なものとするために、Hooke Kit(商標)MOG
35〜55/CFA Emulsion PTX、カタログ番号EK-2110からの百日咳毒素を、PBSで希釈して、第1の注射の133ng/用量及び第2の注射の144ng/用量を得た。
【0106】
群及び処置
処置前は、すべてのマウスをまず単一の群と見なした。毎日のスコア付けの後、EAEの新たな臨床徴候が発症したそれぞれのマウスを、類似のEAE発症時期及び類似の発症スコアを有する群が達成されるように、バランスのとれた様式で実験群1〜3のうちの1つに割り当てた。EAEの発症が非常に遅かったか、頭部の傾斜等、EAEの異常な兆候を発症したマウスは、どの処置群にも割り当てなかった。Table 4(表4)に記載される異なる処置レジメンを、群1〜3のマウスに施した。
【0107】
【表4】
【0108】
新たに割り当てたマウスの処置は、臨床疾患の初日である割り当ての日に開始した。群2のマウスには、毎日投薬した。群1及び群3のマウスには、疾患の初日に処置を行い、疾患の4日目及び7日目に再び処置を行った。処置は、各日の同じ時間(±1時間)に行った。
【0109】
スコア付け及び読み取り
EAEスコアを、免疫付与の7日後から、研究の終了まで毎日、Table 5(表5)に記載される基準に従って測定した。マウスの体重を、-1日目に開始して研究の終了まで、週3回(月曜日、水曜日、及び金曜日)測定した。スコア付けの最終日は、各マウスの割り当ての15日後であった。スコア付けは、各マウスに施した処置及び以前のスコアを認識していない人物によって、盲検で行った。
【0110】
【表5】
【0111】
多発性硬化症は、自己免疫によって引き起こされる、中枢神経系(CNS)の原型的な脱髄性炎症疾患である。世界中で最大200万人が罹患していると推定される。2E7は、関節における自己免疫疾患である関節リウマチのマウスモデルにおける有効性が示されているため、2E7を、最も一般的に用いられているヒト多発性硬化症のマウスモデルであるマウスEAEモデルでも試験した。
図13に示されるように、臨床症状である四肢及び尾部の麻痺並びにマウスの体重減少が、2E7の投与を3回受容した後に、アイソタイプ対照抗体を受容したマウスと比較して有意に改善された。広く使用されている小分子薬であるFTY720を、本研究の陽性対照として使用した。
【0112】
N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンに対して作られたモノクローナル抗体は、当該技術分野で既知である。1つのそのような抗体であり、詳細に特徴づけられたmAb2-4、アイソタイプIgG2aが、当該技術分野で既知である。現在のところ、文献では、mAb2-4は、主に炎症組織及びマクロファージにおけるペプチドグリカンの存在を検出するための組織の免疫染色でのみ使用されていた。しかしながら、この抗体をELISAによる溶液中のペプチドグリカン又はMPの検出に適用することは報告されたことがない。mAb2-4は、MPに対して非常に低い親和性を有することがわかった。mAb2-4を用いた阻害アッセイでは、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンによるペプチドグリカンへのmAb2-4の結合の50%阻害が1mg/mlよりも高い濃度でのみ生じたことが示され、これは、本開示の抗体である2E7 mAbのピコモルの親和性よりも有意に低い。
【0113】
更に、抗原決定基の構造分析により、mAb2-4抗体は、ジペプチドに結合したN-アセチルムラミン酸を認識するが、N-アセチルムラミン酸又はジペプチド単独は認識しないこと、並びにムラミン酸上のN-アセチル基が重要な抗原決定基であることが示された。したがって、mAb2-4に対するN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン上の抗原決定基は、N-アセチル基の有無にかかわらずMDPを認識する本開示の抗体(例えば、2E7)に対するものとは異なる。多くの細菌種は、ムラミン酸残基にN-アセチル基を有さないため、結果として、mAb2-4は、細菌種の認識に関して2E7よりも狭い特異性を有する。
【0114】
ペプチドグリカンに対するあまり一般的には使用されていない別のマウスモノクローナル抗体は、mAb2E9である。この抗体は、健常なヒトの糞便から単離された部分的に精製したペプチドグリカン-多糖類複合体でマウスに免疫付与を行うことによって開発された。N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンに対するこの抗体の親和性は、mAb2-4よりも更に低いことがわかっており、抗原決定基は定義されていない。mAb2E9は、組織の免疫染色に使用されているが、ELISAで使用されたことはない。
【0115】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)から単離されたペプチドグリカンでマウスに免疫付与を行うことによって開発された他のモノクローナル抗体についても記載されている。これらの抗体は、グラム陽性及びグラム陰性のものを含む複数の細菌種から調製されたペプチドグリカンを認識することができたが、結合は、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミンによって阻害することができず、また、抗原決定基も不明である。
【0116】
要約すると、現在入手可能であるN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン又はペプチドグリカンのいずれかに対して開発されたマウスモノクローナル抗体は、低い親和性、抗原決定基の定義が不完全であること、及び狭い特異性のため、用途が限定されている。これらの抗体のいずれも、ほとんどの研究及び臨床用途で必要な感受性レベルで溶液中のペプチドグリカン又はMPを検出するために使用することができない。
【0117】
本開示に示されるように、2E7 mAbは、ピコモルの親和性でMPを検出することができる。更に、2E7は、すべての細菌種に普遍的に存在するエピトープを認識する。抗原決定基は、複数の分子部分からの構造的な寄与、及び細菌にのみ見られる構造上の特徴を有して形成されており、細菌ペプチドグリカンに対する2E7の高い特異性を確保している。
【0118】
本開示に示されるように、2E7 mAbは、血液循環中のMDP含有分子を中和し、それによって、細胞内パターン認識受容体NOD2の活性化を低減させ、NOD2シグナル伝達経路を遮断する。2E7 mAbは、最も従来的なDMARDと比較して異なる経路を通じてその効果を発揮することにより、関節リウマチ等の免疫媒介性疾患の発症及び進行を抑制する。2E7 mAbは、したがって、免疫媒介性疾患の処置のため、特に、現在市場で入手可能な治療用生物剤への応答が良好でない患者のための、有望な代替的治療用生物剤を提供する。
【0119】
加えて、本開示は、2E7 mAb及び1つ以上の他の治療剤を含む組み合わせ療法が、単独療法と比較して、免疫媒介性疾患の処置に対して相乗効果を有することを示す。したがって、2E7 mAbは、より効果的な治療結果の達成及び/又は現在利用可能な治療法の副作用の低減のための関節リウマチ等の免疫媒介性疾患の処置のための組み合わせ療法の開発に使用することができる。