(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769985
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】軟組織張力印加及び添着デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/56 20060101AFI20201005BHJP
A61F 2/08 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
A61B17/56
A61F2/08
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-549061(P2017-549061)
(86)(22)【出願日】2016年4月7日
(65)【公表番号】特表2018-510707(P2018-510707A)
(43)【公表日】2018年4月19日
(86)【国際出願番号】US2016026448
(87)【国際公開番号】WO2016164588
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】62/145,552
(32)【優先日】2015年4月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517321506
【氏名又は名称】ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF SUPERVISORS OF LOUISIANA STATE UNIVERSITY AND AGRICULTURAL AND MECHANICAL COLLEGE
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】マンディ ジェイ ロペス
【審査官】
菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−533174(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0027441(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0200199(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0063542(US,A1)
【文献】
米国特許第06235058(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
A61F 2/08
A61B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース、回転体及び添着部材を備え、軟組織を骨表面又は他の組織表面に添着し得るデバイスにおいて、
(a) 前記ベースは、
(i) 頂面及び底面と、
(ii) 前記底面から前記頂面にかけて貫通する通路であって、軟組織を挿通し得る滑らかな側面を有する、該通路と、
(iii) 前記頂面において前記通路から延在する少なくとも1つの開口であって、前記開口のそれぞれは、軟組織を挿通し得る1つ又はそれ以上の滑らかな端縁を有する、該少なくとも1つの開口と、
(iv) 前記ベースを骨表面又は他の組織表面に固定し得る、前記底面における少なくとも1つの素子と、
(v) 前記頂面における凹みと、
を備え、
(b) 前記回転体は、前記凹み内に確実に嵌合するよう構成され、軟組織を挿通することができる中心開口を有し、また軟組織に確実に取り付ける、又は軟組織に取り付けられた縫合糸に確実に取り付けるよう構成された少なくとも1つの形体を有するものであり、
(c) 前記凹み内に含まれる、又は前記回転体に含まれる、又はその双方に含まれる複数個の固定素子であって;前記固定素子は、前記回転体が軟組織又は軟組織に取り付けられた縫合糸に確実に取り付けられた状態に留まる間に、外科医によって選択される複数の位置のうち任意な1つの位置に前記回転体を確実に保持し、またこれにより前記回転体は安定した張力を前記軟組織に印加するよう構成され;また前記固定素子は、外科医が前記回転体の選択した位置を容易に変更できるよう構成され、これにより、外科手術中に前記軟組織に印加される張力を安定的に外科医が容易に変更できるよう、また外科医によって選択される張力量を安定して印加する位置を外科医が選別できるようになる、該複数個の固定素子を備え、並びに
(d) 前記添着部材は、前記選別した位置を維持する間に前記回転体を前記ベースに恒久的に添着し、またこれにより前記軟組織を前記ベースに添着するよう構成され、また軟組織が前記添着部材と前記ベースとの間に圧迫されるとき前記軟組織に対する選択した張力量を維持して外科手術を続けられるよう構成されている、デバイス。
【請求項2】
請求項1記載のデバイスにおいて、さらに、前記ベースの前記底面から突出する管状のスリーブを備え、前記管状のスリーブの外部は骨トンネル内に挿入するよう構成され、また前記通路は前記管状のスリーブに連続する、デバイス。
【請求項3】
請求項2記載のデバイスにおいて、前記管状のスリーブの外部は、前記管状のスリーブを骨トンネルに固定し得るねじ山を有する、デバイス。
【請求項4】
請求項3記載のデバイスにおいて、前記ねじ山は、一方向回転のみを可能にし、これにより一旦前記管状のスリーブと骨との間の界面が締め込まれた後には、前記締め込みは前記ねじ山の脱離を生ずることなく容易に逆戻りできないようになる、デバイス。
【請求項5】
請求項1記載のデバイスにおいて、該デバイスは生体吸収性材料である、デバイス。
【請求項6】
請求項1記載のデバイスにおいて、前記ベースを前記骨又は他の組織表面に固定し、また回転移動、軸線方向移動及び並進移動のうち1つ又はそれ以上の移動に抵抗する安定性を前記ベースに付与するよう構成された少なくとも1つの前記素子としてのアンカーを備える、デバイス。
【請求項7】
請求項6記載のデバイスにおいて、前記少なくとも1つのアンカーは、骨内に打ち込まれうる少なくとも1つのスパイクを有する、デバイス。
【請求項8】
請求項1記載のデバイスにおいて、該デバイスは、デバイスが外科手術で患者の皮膚下に埋め込まれるとき、周囲の軟組織上方に突出しない輪郭を有するよう構成されている、デバイス。
【請求項9】
請求項1記載のデバイスにおいて、前記固定素子は、前記凹みの内周縁における複数個の歯又はペグ、及び前記回転体の外周縁における1個又はそれ以上の歯又はペグを有する、デバイス。
【請求項10】
請求項1記載のデバイスにおいて、前記固定素子は、前記回転体の内周縁における複数個の歯又はペグ、及び前記通路の外周縁における1個又はそれ以上の歯又はペグを有する、デバイス。
【請求項11】
請求項1記載のデバイスにおいて、前記添着部材及び前記ベースは、外科医によって選択される多様形態のうち任意な1つの形態で相互に添着し合うよう構成され、前記多様形態は、前記軟組織に異なるレベルの圧迫を印加するものである、デバイス。
【請求項12】
ベース及び添着部材を備え、軟組織を骨表面又は他の組織表面に添着し得るデバイスにおいて、
(a) 前記ベースは、
(i) 頂面及び底面と、
(ii) 前記底面から前記頂面にかけて貫通する通路であって、軟組織を挿通し得る滑らかな側面を有する、該通路と、
(iii) 前記頂面において前記通路から延在する少なくとも1つの開口であって、前記開口のそれぞれは、軟組織を挿通し得る1つ又はそれ以上の滑らかな端縁を有する、該少なくとも1つの開口と、
を備え、
(iv) 前記ベースの周縁はほぼ円形形状を有するものであり、
(b) 前記添着部材は、前記ベースのほぼ円形である周縁周りに又はその内側に確実に嵌合し得るものであり、軟組織に確実に取り付ける、又は軟組織に取り付けられた縫合糸に確実に取り付けるよう構成された少なくとも1つの形体を有するものであり、さらに、前記軟組織が前記ベースを経る通路に出入り通過し得る開口を有するよう構成されており、(c) 前記ベースの周縁に含まれる、又は前記添着部材に含まれる又はその双方に含まれる複数個の固定素子であって、前記固定素子は、前記添着部材が軟組織又は軟組織に取り付けられた縫合糸に確実に取り付けられた状態に留まる間に、外科医によって選択される複数の位置のうち任意な1つの位置に前記添着部材を確実に保持し、またこれにより前記添着部材は安定した張力を前記軟組織に印加するよう構成され;また前記固定素子は、外科医が前記添着部材の選択した位置を容易に変更できるよう構成され、これにより、外科手術中に前記軟組織に印加される張力を安定的に外科医が容易に変更できるよう、また外科医によって選択される張力量を安定して印加する位置を外科医が選別できるようになり、またひいては軟組織が部分的に前記添着部材と前記ベースとの間に圧迫されるとき前記軟組織に対する選択した張力量を維持して外科手術を続けられるよう構成されている、該複数個の固定素子を備える、デバイス。
【請求項13】
請求項12記載のデバイスにおいて、さらに、前記ベースの前記底面から突出する管状のスリーブを備え、前記管状のスリーブの外部は骨トンネル内に挿入するよう構成され、また前記通路は前記管状のスリーブに連続する、デバイス。
【請求項14】
請求項13記載のデバイスにおいて、前記管状のスリーブの外部は、前記管状のスリーブを骨トンネルに固定し得るねじ山を有する、デバイス。
【請求項15】
請求項14記載のデバイスにおいて、前記ねじ山は、一方向回転のみを可能にし、これにより一旦前記管状のスリーブと骨との間の界面が締め込まれた後には、前記締め込みは前記ねじ山の脱離を生ずることなく容易に逆戻りできないようになる、デバイス。
【請求項16】
請求項12記載のデバイスにおいて、該デバイスは生体吸収性材料である、デバイス。
【請求項17】
請求項12記載のデバイスにおいて、該デバイスは、デバイスが外科手術で患者の皮膚下に埋め込まれるとき、周囲の軟組織上方に突出しない輪郭を有するよう構成されている、デバイス。
【請求項18】
請求項12記載のデバイスにおいて、前記固定素子は、前記ベースにおける複数個の歯又はペグ、及び前記添着部材における複数個の歯又はペグを有し、前記ベースにおける複数個の歯又はペグ、及び前記添着部材における複数個の歯又はペグは、互いに係合し、また前記添着部材の前記通路周りでの一方向のみの回転を可能にし、これにより軟組織の張力を漸進的にかつ安定的に調整できるようにする、デバイス。
【請求項19】
請求項12記載のデバイスにおいて、前記添着部材及び前記ベースは、外科医によって選択される多様形態のうち任意な1つの形態で相互に添着し合うよう構成され、前記多様形態は、前記軟組織に異なるレベルの圧迫を印加するものである、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟組織を骨又は他の組織に添着させる装置及び方法に関し、これは例えば、前十字靱帯(ACL)又は環椎十字靱帯(CCL)の再建移植片(グラフト)に有用である。
【背景技術】
【0002】
人間及び動物双方にとっての外科的処置は軟組織の固着を必要とすることがよくある。一般的な例の1つは、前十字靱帯(ACL)の再建である。ACL再建は外科的固着によく見られる問題を実証する。多くの割合(40%もの割合の多さ)の患者は、移植中又は術後に繰り返される負荷での張力喪失によって引き起こされる不満足な結果を体験する。外科医にとって、組織の張力及び安定性を正確に見積もりまた維持することができることは重要である。しかし、組織の張力を見積もりまた維持する外科医の能力は、据え付けが多段ステップを要するインプラントによって減殺され得る。固着処置中、多くの従来型デバイスは組織張力印加が一貫性のないもので、しばしば張力喪失を引き起こす結果となる。固着部位における術後滑脱も問題に関与する。多くの従来型デバイスの保持強度は、初期術後期間中の組織滑脱を防止するのには不十分である。術後リハビリテーションのための現行基準は強力な初期固着を要求している。しかし、多くの従来型デバイスが十分な強力固着を達成するのが不可能である場合、それは困難である。
【0003】
軟組織(例えば、腱)を相当な又は大きな強度及び剛性のある解剖学的構造(例えば、骨)に固着する従来の技術は、主に、ねじ、ワッシャ、ステープル、ピン等のような多様な伝統的金物デバイスに頼ってきた。このような従来型デバイスは、組織固着中に組織張力を維持する上で効果的ではない。そればかりか、処置中に組織張力印加に対する漸進的かつ安定的な調整をすることができない。従来型デバイスは、しばしば患者に対して採用する特定デバイスに固有であることがよくある複数の処置を要求し、これら複数の処置は、通常初回の外科的処置とは異質であり、またそうでない場合には不要である。骨トンネルを使用する場合、従来型デバイスは、トンネルから幾らかかの距離に配置することがよくある。ほとんどすべての従来デバイスの大きな欠点は、軟組織が固定されている間に適正な張力を維持する責務が劣悪である点である。本発明の発明者に既知の従来デバイスのいずれもが、添着プロセス中に組織張力印加を漸進的、可逆的、確実維持できるものではない。
【0004】
多くの従来型デバイスの限界は、据え付けに要する時間、デバイス据付けに必要な他の異質処置、信頼性のない組織保持強度、添着処置中の組織張力喪失、及びしばしば他に用途がない特殊用途機器を必要としまた保守するための費用がかかることにある。
【0005】
エイミス氏らによる特許文献1(米国特許出願公開第2011/0112640号)は、靱帯移植片(グラフト)を骨に固着するグラフト固着デバイスを記載している。このデバイスは、骨内にデバイスを位置付けする位置付け手段と、グラフトを支持するよう構成されたグラフト支持手段であって、グラフトの骨に対する位置を調整することができる、該グラフト支持手段とを備える。グラフト支持手段は、調整を行うよう回転することができる。代案として、グラフト支持手段は、調整を行うため軸線方向に摺動又は容易に移動するよう構成することができる。
【0006】
メイ氏らによる特許文献2(米国特許第5,108,433号)は、靱帯又は腱に置換する補綴デバイスについて記載している。調整可能なコネクタが靱帯における張力の増減を可能にする。調整可能なコネクタの3つの実施形態、すなわち、1つはねじ山付きシャフトを有するピン及びねじ孔を有するシリンダを採用する実施形態、1つはラチェットプレート及びスプールを採用する実施形態、及びクリート(滑り止め)を採用する実施形態が記載されている。
【0007】
ジョンソン氏による特許文献3(米国特許第5,562,668号)は、靱帯グラフトの一方の端部を保持するねじ式張力印加デバイスについて記載している。
【0008】
エルアトラッシェ(ElAttrache)氏らによる特許文献4(米国特許第6,544,281号)は、止まり穴又はソケットを骨におけるグラフトを固定すべき場所に形成する。好適には、次に縫合糸をグラフトの所望ポイントに挿通する。カニューレ挿入したドライバには、ドライバの末端部分に摺動可能に配置されるカニューレ挿入したプラグ又はねじを予め装填する。ドライバは、穴外部に配置したねじ又はプラグを穴内に挿入する。この後、縫合糸に張力を加える。適切な張力が縫合糸に達成された後、ドライバを穴内に圧入し、これによりねじ又はプラグの第1ねじ山又は凸部を骨に係合させる。次に、ドライバを使用して、ねじ又はプラグを穴内に完全に前進させる。
【0009】
ロペス氏及びモンロー氏による特許文献5(米国特許第8,603,115号)は、ACL又はCCL再建に使用する軟組織固着デバイスを記載している。ベース部材は頂面から底面まで垂直に貫通する通路を有する。この通路は、軟組織が通り抜けることができるサイズとする。添着部材はベース部材に取付け可能とする。ベース部材は頂面に切欠き区域を有し、この切欠き区域は、通路からベース部材の第1周縁区域まで延在し、グラフトの少なくとも一部分を収容するサイズとする。ベース部材を骨に固定する。ベース部材には、さらにスリーブを設け、このスリーブの内壁面は、通路の一部を形成し、また骨開口内に挿入し得るサイズにする。添着部材には、下面から下方に垂下する一連の歯部材を設ける。これら歯部材は、添着部材をベース部材に取り付けるとき、歯部材がベース部材の頂面における切欠き区域にわたり、また切欠き区域内に突入するよう位置決めされる。添着部材の両側端部は、クリップ部材をベース部材に取り付けるため、ベース部材の底面の周縁区域に沿って位置決めされる整列した切欠き内に嵌合する形状とする。
【0010】
さらに、以下に列挙する非特許文献1〜5も参照されたい。
【0011】
フーフ氏による特許文献6(米国特許第8,540,734号)は、執刀医が外科手術中にばね機構を用いて縫合糸に調整可能な張力を加えることができるようにする、調整可能なスタンドアロン型張力印加システムについて記載している。このデバイスは、手術中にツールとして使用するが、患者内に埋め込まれ、手術後にも患者内には留置しないよう設計されていることは明白である。このデバイスは、直接グラフト組織にではなく、縫合糸に張力を加えるよう設計されていること明らかである。
【0012】
Lボド氏らによる以下の非特許文献6は、前十字靱帯再建のための「ループ・イン・ループ」技術について記載している。インプラントは、2つの部分、すなわち、滑らかな内面及び鋸歯状外面を有するプラスチックストラップ、及び鋸歯状ラッチを有するプラスチックリングを含む。これら2つの部分における2つの鋸歯状表面は、プラスチックストラップのリング内での一方向移動を可能にして、グラフトの締め込みを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0112640号明細書
【特許文献2】米国特許第5,108,433号明細書
【特許文献3】米国特許第5,562,668号明細書
【特許文献4】米国特許第6,544,281号明細書
【特許文献5】米国特許第8,603,115号明細書
【特許文献6】米国特許第8,540,734号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Lopez MJ, Monroe WT. Initial Femoral Fixation Properties of One Novel and Two Established Devices in Canine Cranial Cruciate Ligament Reconstruction, Proceedings American College of Veterinary Surgeons Annual Symposium E15, 2006. (Abstract)
【非特許文献2】Lopez MJ, Borne A, Monroe WT, Bommala P, Kelly L, Zhang N. Novel anterior cruciate ligament graft fixation device reduces slippage. Med Devices (Auckland) 6:59-68, 2013
【非特許文献3】Lopez MJ, Casey JP, Spencer ND, Monroe WT. Initial femoral fixation properties of one novel and two established devices in canine cranial cruciate ligament reconstruction. 41st American College of Veterinary Surgeons Annual Symposium, Washington DC, Oct. 4-7, 2006 (Poster)
【非特許文献4】Lopez MJ, Casey JP, Spencer ND, Monroe WT. Biomechanical characteristics of an implant used to secure semitendinosus-gracilis grafts in a canine model of extra-articular anterior cruciate ligament reconstruction. Vet Surg 36:599-604, 2007
【非特許文献5】Lopez MJ et al., “In vivo application of novel and commercially available bioabsorbable implants for tibial fixation of cranial cruciate ligament reconstruction grafts”. 45th American College of Veterinary Surgeons Meeting, Chicago, IL, Nov. 5, 2011. (Presentation)
【非特許文献6】"Development of a tension-adjustable implant for anterior cruciate ligament reconstruction," Joint Dis. Rel. Surg., vol. 19, pp. 27-32 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明者は、大きな又は相当な強度及び剛性のある解剖学的構造(例えば、骨)の表面に対して、軟組織(例えば、腱又は靱帯)を安定的かつ信頼性高く添着する上で費用効果的及び時間効率の良い改良型デバイスを発見した。この新規な「GrabTen
TM」は、特殊な処置又はツールを必要としない。単独デバイスが、添着しようとしている軟組織に対して張力及び圧縮力の双方を漸進的に印加する。GrabTen
TMデバイスは、ユーザー、代表的には、医師又は獣医が組織張力を信頼性高く取扱い操作、制御及び維持できるようにする。デバイスは、多目的に使うことができ、また異なる軟組織タイプ及び異なる硬質組織タイプに適合することができる。これらの特徴は人間及び動物の健康に関する、整形外科、関節安定化、軟組織修復、脊髄手術、及び美容整形又は再建外科を含む様々な専門領域における開業医に対して、融通性を提供する。
【0016】
新規なデバイスは、調整可能に張力印加する添着デバイスである。このデバイスは、関節安定化処置(例えば、股関節、肩関節、肘関節、膝関節)に使用することができる。さらに、形成外科及び軟組織再建で様々な用途を有する。新規なデバイスは、軟組織修復処置、例えば、腱及び靱帯の断裂又は剥離を修復するのにも有用である。デバイスは、多目的に使うことができ、また多数のタイプの表面に添着される多数のタイプの組織に適合することができる。新規なデバイスは、何らばね機構を必要としない。デバイスは、好適にも、グラフトに直接張力を印加する。さらに、縫合糸を腱又は他の軟組織に取り付ける場合、張力を縫合糸に印加することもできる。
【0017】
新規なデバイスは、片手で漸進的張力印加を可能にし、これに続いて固着を行うことができる。GrabTen
TMデバイスを据え付けるのに、何ら特殊な処置又は機器を必要としない。このデバイスによれば、ユーザーが組織張力を信頼性高く取扱い操作及び維持できるようにする。デバイスは、外科医に対して「張力をダイヤル調整」することを可能にする。すなわち、外科医は、グラフトを張力の所望のマクロ又はグロスのレベルまで引っ張る。この後、外科医は、グラフトをデバイスの頂面部分に可逆的に固定し、またデバイスキャップを回転することによってこの張力を微調整することができ、さらにグラフトを骨トンネル内に前進させる。各「クリック」又は漸進的ステップで、張力は最終的に所望微調整チューニングに達するまでデバイス自体によって維持され、このポイントで、例えば、キャップをベースにスナップ嵌合することによってデバイスは所定位置に固定される。
【0018】
このデバイスは、軟組織固着部位又はその近傍で骨トンネル又は他の組織表面上に着座させるよう設計する。
【0019】
このデバイスは、迅速かつ効率的に据え付けることができる。この初期的据付けに続く何らの順次処置(多くの従来型デバイスで行われる)は本質的に不要である。本発明デバイスは、添着処置中及び術後の双方において組織に対する張力を信頼性高く維持する。本質的に、標準的外科手術ツールの他には何らの特殊機器を使用する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】本発明による3コンポーネントの実施形態を示す。
【
図1B】本発明による3コンポーネントの実施形態を示す。
【
図1C】本発明による3コンポーネントの実施形態を示す。
【
図2A】本発明による2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図2B】本発明による2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図2C】本発明による2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図2D】本発明による2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図2E】本発明による2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図2F】本発明による2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図3A】本発明による異なる2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図3B】本発明による異なる2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図3C】本発明による異なる2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図3D】本発明による異なる2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図3E】本発明による異なる2コンポーネントの実施形態を示す。
【
図3F】本発明による異なる2コンポーネントの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1A、1B、及び1Cに示す本発明による新規なデバイスの1つの実施形態は、3つの主要コンポーネント、すなわち、ベース3、組織張力印加のためベース3の周壁17内で回転可能な可動ディスク14、及び添着コンポーネント1を備える。グラフト組織は、ベース3における中空スリーブ12内に挿通し、また次に切欠き9に通す。この実施形態において、ベースは、「上方」から見たときに、同心円状の2つの形体を備える。本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたり、他に明示しない限り、「上方(above)」、「垂直方向(vertical)」、「z軸線(z-axis)」、「頂部(top)」、「底部(bottom)」等、のような方向用語は、当然のことながら、全体的又は部分的に任意なものと解すべきである。このような方向用語は便宜的に使用する。それら用語は、他の方向用語に対する相対的な意味を有する、例えば、「頂部」方向は「底部」方向とは反対方向であると理解されたい。これら用語は、文脈が他に明示しない限り、全体方向(例えば、重力に対する上又は下の方向)を意味すると解すべきではない。
【0022】
中空スリーブ12の長手方向軸線はz軸線を中心とする。中空スリーブの垂直方向中間点又はその近傍で、中空スリーブ12の外面は、連結スポーク7、例えばスポークの長手方向軸線はxy平面に平行である4個のスポーク7によって周壁17に取り付ける。スポーク7はスリーブ12の長さの中間点又はその近傍で中空スリーブ12に取り付ける。スリーブ12の中心軸線は、周壁17の中心軸線、すなわちz軸線に一致する。使用にあたり、スリーブ12は、z軸線に沿う負方向に延在する(例えば、ベース3の下方に突出し、また骨トンネル内に突出する)。中空スリーブ12の外面は、好適には、骨トンネルの内面に対して相互嵌合する、又は摩擦力を付与して抜け出しに抵抗しかつ回転に抵抗する一連のねじ山、出っ張り、又は突起を有する。スリーブ12は、さらに、z軸線に沿う正方向にスポーク7の頂面上方に延在する。スポーク7の底面は骨表面上に載置するよう設計する。スポーク7の底面は、好適には、骨表面に固定するのを支援するスパイク又は楔(図示せず)を有する。z軸線に沿う正方向に中空スリーブ12は互いに対向する2個の開口9を有する。(他の実施形態はスリーブ12に単独開口9を有する。)周壁17内でスポーク7のレベルの直ぐ上方において、周壁に互いに同一で等間隔離間する一連の歯16を有し、これら歯は、周壁17とスリーブ12との間の空間内に短い距離突出する。周壁17は、スリーブ12がz軸線正方向に延在する距離(すなわち、デバイスが所定位置にあるとき骨表面より上方の距離)のほぼ半分程度にz軸線正方向に延在する。ディスク14はスリーブ12を収容するサイズの中心孔18を有する。ディスク14はスリーブ12と周壁17との間の空間内に嵌合するサイズである。ディスク14の外端縁には、z軸線正方向にディスク14の表面から中心スリーブ12の高さのほぼ半分くらいまで突出する一連のペグ15を設ける。ペグ15は、周壁17における歯16と可逆的に相互嵌合し、これによりディスク14は、ディスク14が中心スリーブ12の周りに時計方向又は反時計方向に回転するとき、歯16及びペグ15の相互嵌合によって所定位置に保持することができる。グラフト又はグラフトに取り付けた縫合糸は、ペグに添着して、漸進的グラフト張力印加を可能にすることができる。(多くの場合、縫合糸は不要である。何らの縫合糸もない実施形態によれば、グラフトは添着部材とともに鉗子によって把持することができる、又はグラフトは添着部材又は可動ディスクにおけるペグ等に対してループ状にすることができる。)添着部材1は、好適には、幅狭い中心部分19及び幅広の端縁を有するアーチ状の形状とする。中心部分19における面取りを施した端縁、段差又は棚状部(図示せず)は、中心スリーブ12の骨から離れる方向(z軸線正方向)に延在する部分に設けた開口9における面取りを施した端縁、段差又は棚状部間で相互嵌合する。開口9はグラフト組織の挿通を可能にする。添着コンポーネント1の幅広端部は、好適には、やはり面取りを施した端縁、段差又は棚状部(図示せず)を有する周壁17の外面と相互嵌合する。したがって、添着部材1とベース3との間の距離は、中心及び周縁双方の局面で調整可能である。
【0023】
グラフトはディスク14を回転することにより漸進的に締め込まれる。所望の張力が得られたとき、添着部材1をベース3の切欠き9内に嵌挿する。添着部材1の両側端縁における突起と相互嵌合する切欠き9の周縁及び内端縁に突起を設け((図示せず)、グラフトを漸進的に圧迫できるようにする。
【0024】
本発明の様々な実施形態は、概して相互に何らかの相違はあるものの同様に機能する。全体的には、多くの実施形態は以下のように機能する。すなわち、デバイスの中空スリーブを骨トンネル内に嵌合し、取り付けたベースを骨トンネルの周縁周りで骨表面に休止させる。軟組織(例えば、腱グラフト)は、スリーブに挿通し、スリーブの切欠きから骨表面(又は他の組織表面)上に退出させる。軟組織(又は軟組織に取り付けた縫合糸)は、ディスク(又は添着部材)の表面における1つ又はそれ以上のペグの周りに巻き付ける若しくは他のやり方で取り付ける。グラフトは、ディスク(又は添着部材)を回転することによって張力印加される。張力調整の各レベルにおいて、隣接表面の領域を含めていかなる関心対象領域における安定性も、確立した張力を損なうことなく試験することができる。安定的に維持される張力における漸進的変化を試験することによって、最適条件をより高い確かさで選択することができる。この後、組織は添着デバイスをベースに付加することによって、添着及び圧迫される。様々なサイズ、密度及び品質の組織が適合し得る。
【0025】
概して、外科医は、組織グラフトを骨トンネル及びスリーブに引っ張り通すとき、張力の大部分を直接印加する。この後、スリーブ周りに組織グラフトを巻き付けることを用いて、張力に対する漸進的微調整を行う。通常、約360゜よりも多くない、又はそれより僅かに少ない角度にわたりグラフトを回転させるのが都合がよい。360゜よりも多い角度の回転は、グラフトのスリーブから突出する部分に対して過剰な摩擦及び応力を生ずる結果となり、また多くの場合推奨されない。約360゜の1回転又はそれより少ない回転は、多くの場合張力微調整するのに十分過ぎる。単一360゜回転によってもたらされるよりも大きい張力を必要とする場合、概して360゜を超えてデバイスの回転部分の調整を続行するよりもやり直すのが好ましい。
【0026】
スリーブは、周りにグラフトを巻き付けたとき、回転させることなく所定位置に留まる。キャップとベースとの間における相互嵌合する歯(又は同様の形体)は、張力が所望ポイントまで増加する際に一方向のみの回転を可能にする。グラフトの固着は、キャップとベースとの間にグラフトを圧迫することによって達成される。キャップ及びベースにおける構造部、例えば、棚状部、歯、ねじ山等は逆方向回転及び張力喪失を防止する。
【0027】
特別な組織固着が骨トンネルに関与しない場合、骨トンネル内に突入するスリーブの部分は省くことができる。
【0028】
添着デバイスは、随意的にヒンジによってベースに取り付けることができる。(しかし、好適な実施形態はヒンジを設けない。)
【0029】
回転ディスク(又は添着部材)及びベースにおける歯及びペグは種々の形態で構成することができ、例えば、歯を中心スリーブに配置し、かつペグをディスクの内面に配置する、又はその逆の構成にすることができる。様々な歯及びペグの相互嵌合形状を用いることができ、図示の特定形状には限定しない。
【0030】
デバイスは、随意的に骨又は他の組織に隣接配置するベースの表面にフランジを設け、縫合糸、ワイヤ、ねじ、ステープル、又は他の添着機構の使用による安定化を支援できるようにする。
【0031】
骨スリーブの外面には、他の標準的タッピング手法を用いて骨と一体化する一連のねじ山を設ける。代案として、ねじ山は自己タッピング又は自己ロッキング式とすることができる。好適には、デバイス及びねじ山のピッチは、皮質骨の全厚にスリーブ柱状体(カラム)におけるねじ山を相互嵌合させるのを容易にするため、ベースの底面が骨と同一平面状になる前に約2回の完全回転できる構成とする。好適には、骨スリーブにおけるねじ山は、「後ずさり」又は「巻き戻り」を防止するため小さい「歯」を設ける。
【0032】
スリーブの骨上方に突出する中心部分を用いて、デバイス(2部材又は3部材の構成に係わらず)の張力印加を高めることができる。すなわち、中心「スリーブ」は、その周りにトルク又は張力を印加する軸として作用する。
【0033】
ベース部材と添着部材との間における「ギア」又は「歯」の界面により漸進的張力印加を可能にする。その界面の位置は、ベースの外側、ベースの内側、スリーブ下面、又はスリーブ上面とすることができる。
【0034】
グラフトを巻き付ける中心カラムは、グラフトの長さに沿って力を分配する摩擦を生じ、グラフトが添着部材とベースとの間に圧迫されるポイントにおける張力を軽減し、またグラフトが中心カラムにおける開口から退出するポイントにおける応力を軽減できるようにするのが好ましい。グラフトとデバイス表面との間の比較的大きな界面とともに、中心カラムをこのように使用することは、固着の安全性を向上させ、またデバイス自体により生ずるおそれのあるグラフトの離断又は他の損傷の可能性を大幅に低下させる。
【0035】
グラフトが中心カラムから退出するため、例えば
図1Bに示すような2つの開口ではなく、例えば
図2A及び2Bに示すような単に1個の開口を設けるのが好ましい。中心カラムからの開口は、骨トンネルからのグラフト運動を容易にし、かつ開口から退出するポイントにおけるグラフトの潜在的損傷を最小限にするよう滑らかに湾曲したものとする。
【0036】
例えば、グラフトを骨表面に固定するのにデバイスを使用するとき、グラフト通過用の骨トンネルは、先ずタッピングしてねじ山の跡付けをする。ベースから突出するスリーブを骨トンネル内に緊密になるまで前進させる。組織グラフトを骨トンネル及びベースの中空カラム内に挿通する。グラフトは開口(又はカラムにおける1つの開口)を通過させる。グラフトは開口に整列させ、これによりキャップ(又は添着部材)をベースに取り付けるときに圧潰又は損傷を受けないようにする。キャップは、キャップ中心における歯、及びベース頂部における歯が相互嵌合するよう位置決めする。幾つかの実施形態において、グラフトはキャップの外側リムにおける小さいフック又はノブに取り付ける。他の実施形態において、グラフトは、単に、鉗子又は他の外科手術ツールを用いて添着部材とともに掴持する。キャップを回転して、ベースにおける中心カラムの周りのグラフトに張力を印加する。所望の張力に達した後、ベース及びキャップの対応部分を所定位置にスナップ嵌合するまでキャップを押し込む。
【0037】
随意的に、添着部材、キャップ、及び回転ディスクのような素子は、デバイスを取扱い操作するための鉗子を挿入できるようにする孔又は切欠きを有することができる。これら形体は、標準的鉗子のような標準外科手術器具を用い、何ら特殊な又は専用の器具を使用せず、取扱い操作できるよう構成するのが好ましい。代案として、鉗子専用の孔又は切欠きを設けず、鉗子は単に、添着部材(又はキャップ)を回転し、軟組織を中心カラムの周りに巻き付けかつ張力を増加させるときに軟組織及び添着部材(又はキャップ)双方を保持するだけとする。
【0038】
種々の随意的又は代替的な形体をデバイスに組み込むことができ、例えば、添着部材又はキャップの側面に設けたペグを使用して、張力印加のためにグラフト又は縫合糸を取り付けるようにする。ベースにおける水平突起及び垂直突起を使用して、添着部材又はキャップの内面における対応の棚部又は歯と相互嵌合できるようにする。これらコンポーネントは、漸進的なグラフト張力印加を支援し、これに続く漸進的圧迫(棚状部による)を行って軟組織を圧迫し、かつ所定位置に固着する。添着部材、キャップ、又はベースにはグラフト組織を通過させ得る開口を設けることができる。ロック用ねじ山を骨スリーブに配置し、デバイスを骨トンネル内にロックするのを補助できるようにする。デバイスは、全体として2個又は3個のピースを有することができる。
図1A〜1Cに示す実施形態は3ピース構成であり、一方
図2A〜E及び3A〜Eに示す実施形態は2ピース構成である。
【0039】
代替的実施形態を
図2A〜E及び3A〜Eに示す。異なる図面に示される同一参照符号は、異なる実施形態における対応する又は類似するコンポーネントに言及するが、その形状及びサイズはときに実施形態毎に変化し得るものと理解されたい。
【0040】
図2A〜Eに示す代替的実施形態(ときに、「GrabTen
TMV1」と称される実施形態)において、スリーブ12の下方ねじ山付き部分を骨トンネル、例えば、脛骨の骨トンネル内に固定する。腱グラフトをスリーブ12の中心部分25に挿通する。外科医は、単に鉗子でグラフトをスリーブ12内に引っ張り込むことによって、初期的にグラフトに対して張力印加する。キャップ1は、初期的に開放状態にあるベース3の上方に位置決めし、またグラフトをスリーブ12における開口25並びにベース3及びキャップ1における開口9に挿通する。キャップ1における開口9は、ベース3のスリーブ12における開口9上に配置すべきである。開放状態では、キャップ1の棚状部20の下方がベース3の棚状部22の上方に相互嵌合する。ベース3及びキャップ1における棚状部は、好適には、ねじ山(ピッチがある)ではなく棚状部(ピッチがない)とし、これによりキャップ1はベース3の周りに自由に回転できるものとする。グラフト及びキャップ1を鉗子で掴持し、またキャップ1と回転させ、グラフトがスリーブ12の周りに巻き付くにつれてグラフトに張力を漸進的に印加する。キャップ1の開口18における周縁の歯24、及びスリーブ12の歯26により、デバイスをラチェット及びつめとして作用させ、一方向のみの回転を可能にする。キャップ1は、張力を調整するため、330゜(約6ラジアン)よりも大きくない角度にわたり回転できるようにすべきである。張力を追加するのが望ましい場合、回転を継続するよりも、キャップ1を取り外し、グラフトをスリーブ12から巻き戻し(張力を釈放することなく)、プロセスを再開するのが好ましい。特定デバイスにおける寸法に基づいて、このプロセスは、代表的には約2cmの微調整張力印加を可能にし、たいていの場合、これで十分である。張力印加プロセスが完了した後、外科医は以下のいずれかを行うことができる。すなわち、(1) グラフトを鉗子から釈放し、キャップ1の回転を継続し、このとき、グラフト「尾部(テール)」は、追加張力を印加することなくスリーブ12の周りに巻き付いており、デバイス内に拘束されている;又は(2) キャップ外部に残留するグラフトのいかなる部分をも切除する。最終的に、キャップ1をグラフト上で密にスナップ嵌合し、
図2E及び2Fに示すようにグラフトを圧迫し、所定位置に固着する。キャップ1の棚状部20及びベース3の棚状部22は相互嵌合し、キャップ1及びグラフトを保持し、これによりグラフトを圧迫及び添着する。
【0041】
図3A〜Eに示す代替的実施形態(ときに、「GrabTen
TMV2」と称される実施形態)において、ベース3の下方ねじ山付き部分を骨トンネル、例えば、脛骨の骨トンネル内に固定する。腱グラフトをベース3の中心開口25に挿通する。グラフトは引っ張ることによって張力印加する。キャップ1は、先にV1実施形態で説明したのと同様に、初期的に開放状態に位置決めし、またグラフトをベース3及びキャップ1における開口9に挿通し、キャップ1における開口9を、ベース3における開口9上に配置する。グラフトは、鉗子又は他の外科手術ツールを用いて添着部材とともに掴持する。キャップ1を回転して、ベース3周りのグラフトに漸進的に張力を印加する。ベース3及びキャップ1のそれぞれに歯24及び26を有するねじ山を設ける。キャップ1が回転するとき、キャップはベース3に沿ってゆっくりと下って前進し、これはすなわち、双方のコンポーネントにねじ山が存在するからである。ベース3及びキャップ1の歯24及び26は、キャップ1が逆方向に回転して張力を弛めるのを防止する。張力印加プロセスが完了した後、外科医は以下のいずれかを行うことができる。すなわち、(1) グラフトを鉗子から釈放し、キャップ1の回転を継続し、このとき、グラフト「尾部(テール)」は、追加張力を印加することなくベース3の周りに巻き付いており、デバイス内に拘束されている;又は(2) キャップ外部に残留するグラフトのいかなる部分をも切除する。最終的には、キャップ1をさらに回転してグラフトを圧迫し、所定位置に固着する。この「閉鎖」状態において、キャップ1の下面は、代表的には骨表面の上方約1〜2mm上方にある。張力印加はキャップ1をベース3の周りに第1回目の回転により達成され、また圧迫は第2回目の回転により達成される。「V2」の実施形態は、上述したように、キャップ1が2回の全回転を受けるよう設計するのが好ましい。第1回目の回転では張力達成が不十分な場合、グラフトを巻き戻し、またそのプロセスを新たに開始することができる。デバイスは主に張力の微調整を意図し、張力のほとんどは、外科医がグラフトを骨トンネル及びカラムで引っ張ることによって直接的に印加される。
【0042】
新規な本発明によるGrabTen
TMデバイスは様々な用途があり、例えば、前/後十字靭帯再建、半月板修復、回旋腱板修復、肩関節唇修復、及び二頭筋腱固定術がある。デバイスの寸法は、意図する用途、患者のサイズ、及び患者の人種に合わせてカスタマイズすることができる。デバイスは、人間、犬、猫、馬、及び他の脊椎動物に使用することができる。随意的に、本発明デバイスは生体吸収性材料から作製することができる。
【0043】
代替的実施形態において、添着部材の周縁及びベースにおける凹み形状は、円形形状ではなく、正多角形形状(例えば、正方形、正六角形、正八角形等々)にすることができ、これにより添着部材の多角形外形がベースの多角形凹み内にぴったり嵌合できるようにする。これらの多角形形状の角部及び全体的相対嵌合は、グラフトの漸進的張力印加のための捕捉部、突起部、歯部、ギア部等に取って代わる。張力は、添着部材を1つの相補的位置から次の相補的位置に回転することによって保持され、例えば、正方形の場合90゜回転する、六角形の場合60゜回転する、八角形の場合45゜回転する等によって保持される。この代替的実施形態におけるそれ以外の全体的機能はほぼ類似する。漸進的張力増進は、やはりベースと添着部材との間における相互嵌合によって固定されるが、この実施形態における相互嵌合は、段差、楔状部、ギア又はペグのような特定表面変更ではなく、コンポーネント自体の形状の結果である。
【0044】
より全般的には、この代替的実施形態において、正多角形のような形状であることすら必要でなく、より広くは回転対称の任意な形状、2つを互いに圧嵌するとき添着部材とベースとの間でぴったりとした嵌合を生じ、これにより添着部材が所定位置から容易に滑動しないようにする任意な形状とすることができる。例えば、形状は、楕円形、長方形、星形(例えば、5,6,7,8個又はそれ以上のポイントがある)、三つ葉状、五つ葉状、六つ葉状、八つ葉状、等とすることができる。
【0045】
試作品
ACLに使用し得る寸法の新規デバイスの試作品は、医療グレードのポリ-L-乳酸から作製する。機械的試験は、先ず人間用インプラントのために確立された動物モデル(仔牛の死体からの四肢)で行い、次に生きた動物での試験、次に生きた人間での試験を行い、これら試験はすべて適用可能な法律及び規則に則って行う。
【0046】
この研究とは無関係な理由から安楽死させられた仔牛達から採取した16個の膝関節(大腿骨から足根骨にかけての中間にある)を生理食塩水に浸漬したタオルで包み、プラスチック密封袋内に二重にラップし、グラフト採取及び固化が達成されるまで−20℃で凍結する。グラフト採取前に、四肢は2つの処理グループ、すなわち、(1) 新規なGrabTen
TMデバイスの実施形態又は(2) 従来型ねじ及びワッシャのグループにランダムに割り当てる。ハムストリング筋腱グラフトを採取及び調製する。端的に言うと、半腱様筋及び薄筋の付着点をそれらの筋性起始部から解離する。腱付着点を阻害することなく、鈍的剥離及び鋭利的剥離を組み合わせて頭蓋脛骨筋の付着した密な結合組織又は筋膜を脛骨の遠位1/3まで持ち上げ、この部分で組織はくっきりと離断する。持ち上げられた組織を切除し、また捻じって約10mmの最終直径にする。グラフトはポリグラクチン910で形成した「チャイニーズ・フィンガー・トラップ」内に包み込む。
【0047】
脛骨をインストロン機械式試験システムに取り付けた試験治具に固定する。各グラフトの一方の端部は、脛骨に固着するのに十分な長さを有するロードセルに取り付けたクライオグリップ(cryogrip)内に保持する。これに続く他の標準手順で、グラフトを骨トンネル内に配置し、またGrabTen
TMデバイス又は従来式のねじ及びワッシャのいずれかで固定する。このプロセス中、及びグラフト固着後に5分間にわたる継続中に張力を測定する。グラフトは、グラフトの生理学的軸線に沿って印加される軸線方向負荷の下において単一サイクルの破損を試験する。剛性、降伏、破損負荷及びエネルギーを決定する。
【0048】
生化学的試験としては、とくに、破損までの単一サイクル試験、疲労試験、漸進的張力印加定量化、及びクリープ試験がある。デバイスの実施形態を他の実施形態に対して、並びに市販のデバイスに対して比較する。安全性及び有効性を確立するため、適切サイズのデバイスを有する認可モデルで標準的前臨床試験を行う。適用可能な法律及び規則に則って臨床試験を行う。
【0049】
統計的分析
研究の入れ子式要因計画に起因して、パラメータ応答変数を連続的に処理し、またp≦0.05で排除する帰無仮説とともにシャピロ・ウィルク統計の使用により正規性を試験する。非正規データを変換する。分散の多変量解析を行い、共線的応答変数におけるグラフト固着の固定効果を評価する。群内に入れ子にされた構成要因のランダム分散は、グラフト固着効果に対するエラー項として使用する。統計的有意性はp≦0.05で評価される。
【0050】
期待された結果
() GrabTen
TMインプラントで固着したハムストリングACL再建グラフトは、同一目的用に設計された他のデバイス、例えば、ねじ及びワッシャで固着したものよりも高い一貫性及び安定張力印加挙動を有する。(2) GrabTen
TMインプラントで固着したハムストリングACL再建グラフトは、同一目的用に設計された他のデバイス、例えば、ねじ及びワッシャを採用するものよりも優れた機械的特性を有する。
【0051】
用語体系及び若干の代替的実施形態に関する注記
本明細書及び特許請求の範囲では、ときに、用語「グラフト」、「グラフト組織」及び「軟組織」を互換的に使用する。幾つかの文脈において、語句「グラフト」は幾つかの場所から採取した組織について言及するとともに、「軟組織」はこのような含意は何ら持たず、しばしば腱又は靭帯を同一場所に再取付けすべき場合に使用する。しかし、本発明及びその使用方法について説明する目的のために、概して組織が真に「グラフト」であるか、又は同一場所に再取付けする組織であるかを問題にしない。したがって、他の文脈で重要となり得るこれらの区別は、文脈が他に明示しない限りにおいて、本明細書及び特許請求の範囲を読むとき適切でないと捉えるべきではない。本発明は、異なる場所から採取した「グラフト組織」及び同一場所に再取付けされる軟組織の双方で機能する。さらに、軟組織に取り付けられる縫合糸又は合成材料を併用することができる。本発明の最も一般的な用途は、腱及び靭帯の取付け又は再取付けが期待されるが、他のタイプの組織にも、例えば、皮膚グラフト、又は膀胱スリングの支持体に使用することができる。取付けは、概して骨に対して行うが、幾つかのケースにおいて、他の軟組織の表面に対して行うことができる。上述のすべては、特定場所に使用される特定用語体系に無関係に本発明の範囲内にあると見なされる。
【0052】
本明細書で引用した参考文献の記載全体は、優先権主張米国特許出願第62/145,552号の記載全体を含めて、参照により本明細書に組み入れられるものとする。しかし、他に相いれない矛盾がある場合、本明細書が統制する。
【符号の説明】
【0053】
1 添着コンポーネント(部材)
3 ベース
7 (連結)スポーク
9 切欠き(開口)
12 (中空)スリーブ
14 (可動)ディスク
15 ペグ
16 歯
17 周壁
18 中心孔(開口)
19 中心部分
20 棚状部
22 棚状部
24 歯
25 中心部分(開口)
26 歯