特許第6770041号(P6770041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770041
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機および放電加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20201005BHJP
   B23H 7/04 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B23H7/02 S
   B23H7/04 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-199279(P2018-199279)
(22)【出願日】2018年10月23日
(65)【公開番号】特開2020-66079(P2020-66079A)
(43)【公開日】2020年4月30日
【審査請求日】2020年3月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖雄
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/199301(WO,A1)
【文献】 特開2015−208846(JP,A)
【文献】 特開2017−42858(JP,A)
【文献】 特開2013−154461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02 − 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極と加工対象物との間で形成される極間に、電圧を印加して放電を発生させることで、前記加工対象物に対して放電加工を行うワイヤ放電加工機であって、
コンデンサを有し、前記極間に第1電圧を印加して放電を誘起させる第1電源回路と、
前記極間に第2電圧を印加して前記極間に加工電流を供給する第2電源回路と、
前記極間の電圧を検出する極間電圧検出部と、
前記第1電源回路を制御して、前記極間に前記第1電圧を間歇的に印加させる第1電圧制御部と、
検出された前記極間の電圧に基づいて、前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になったか否かを判定する放電判定部と、
前記極間が放電状態になったと判定された場合には、前記第2電源回路を制御して、前記極間に前記加工電流を供給させる第2電圧制御部と、
を備え、
前記第2電圧制御部は、前記極間への前記加工電流の供給後には、次の前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になった場合であっても、前記第2電源回路による前記極間への前記第2電圧の印加を禁止して前記極間に前記加工電流を供給させない、
ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記放電判定部は、前記第1電圧の印加中に前記極間の電圧が所定電圧より小さくなった場合には、前記極間が放電状態になったと判定する、ワイヤ放電加工機。
【請求項3】
ワイヤ放電加工機が、ワイヤ電極と加工対象物との間で形成される極間に、電圧を印加して放電を発生させることで、前記加工対象物に対して放電加工を行う放電加工方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、
コンデンサを有し、前記極間に第1電圧を印加して放電を誘起させる第1電源回路と、
前記極間に第2電圧を印加して前記極間に加工電流を供給する第2電源回路と、
前記極間の電圧を検出する極間電圧検出部と、
を備え、
前記第1電源回路を制御して、前記極間に前記第1電圧を間歇的に印加させる第1電圧制御ステップと、
検出された前記極間の電圧に基づいて、前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になったか否かを判定する放電判定ステップと、
前記極間が放電状態になったと判定された場合には、前記第2電源回路を制御して、前記極間に前記加工電流を供給させる第2電圧制御ステップと、
を含み、
前記第2電圧制御ステップは、前記極間への前記加工電流の供給後には、次の前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になった場合であっても、前記第2電源回路による前記極間への前記第2電圧の印加を禁止して前記極間に前記加工電流を供給させない、
放電加工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の放電加工方法であって、
前記放電判定ステップは、前記第1電圧の印加中に前記極間の電圧が所定電圧より小さくなった場合には、前記極間が放電状態になったと判定する、放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極と加工対象物との間で形成される極間に、電圧を印加して放電を発生させることで、前記加工対象物に対して放電加工を行うワイヤ放電加工機および放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献に開示されるように、ワイヤ放電加工技術においては、ワイヤ電極と加工対象物との間に形成される極間に対して放電を誘起するための電圧(誘起電圧)を印加し、放電が誘起された場合において極間に加工電流(放電電流)を投入することにより、加工対象物の加工が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−196078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、極間に誘起電圧を印加する電源回路においてコンデンサが含まれる場合に、極間への加工電流の供給により当該コンデンサに電荷が蓄積される場合がある。そして、この電荷の影響により、極間の電圧が変動してしまい、これにより適切な加工ができなくなる。
【0005】
本発明は、コンデンサによる極間の電圧の変動によって、適切な加工を行えなくなることを防止するワイヤ放電加工機および放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、ワイヤ電極と加工対象物との間で形成される極間に、電圧を印加して放電を発生させることで、前記加工対象物に対して放電加工を行うワイヤ放電加工機であって、コンデンサを有し、前記極間に第1電圧を印加して放電を誘起させる第1電源回路と、前記極間に第2電圧を印加して前記極間に加工電流を供給する第2電源回路と、
前記極間の電圧を検出する極間電圧検出部と、前記第1電源回路を制御して、前記極間に前記第1電圧を間歇的に印加させる第1電圧制御部と、検出された前記極間の電圧に基づいて、前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になったか否かを判定する放電判定部と、前記極間が放電状態になったと判定された場合には、前記第2電源回路を制御して、前記極間に前記加工電流を供給させる第2電圧制御部と、を備え、前記第2電圧制御部は、前記極間への前記加工電流の供給後には、次の前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になった場合であっても、前記第2電源回路による前記極間への前記第2電圧の印加を禁止して前記極間に前記加工電流を供給させない。
【0007】
本発明の第2の態様は、ワイヤ放電加工機が、ワイヤ電極と加工対象物との間で形成される極間に、電圧を印加して放電を発生させることで、前記加工対象物に対して放電加工を行う放電加工方法であって、前記ワイヤ放電加工機は、コンデンサを有し、前記極間に第1電圧を印加して放電を誘起させる第1電源回路と、前記極間に第2電圧を印加して前記極間に加工電流を供給する第2電源回路と、前記極間の電圧を検出する極間電圧検出部と、を備え、前記第1電源回路を制御して、前記極間に前記第1電圧を間歇的に印加させる第1電圧制御ステップと、検出された前記極間の電圧に基づいて、前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になったか否かを判定する放電判定ステップと、前記極間が放電状態になったと判定された場合には、前記第2電源回路を制御して、前記極間に前記加工電流を供給させる第2電圧制御ステップと、を含み、前記第2電圧制御ステップは、前記極間への前記加工電流の供給後には、次の前記第1電圧の印加中に前記極間が放電状態になった場合であっても、前記第2電源回路による前記極間への前記第2電圧の印加を禁止して前記極間に前記加工電流を供給させない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンデンサによる極間の電圧の変動によって、適切な加工を行えなくなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るワイヤ放電加工機の概略的な回路構成を例示する図である。
図2】本実施形態に係る制御装置の機能ブロックの一例を示す図である。
図3】本実施形態に係るワイヤ放電加工機による極間への電圧の印加の動作を例示するフローチャートである。
図4図4Aは、本実施形態に係るワイヤ放電加工機による極間への第1電圧と第2電圧との各印加のタイミング、および、極間における電圧の一例を示すタイムチャートであり、図4Bは、本実施形態に係るワイヤ放電加工機による極間への第1電圧と第2電圧との各印加のタイミング、および、極間における電圧の他の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るワイヤ放電加工機および放電加工方法について、好適な実施形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0011】
[実施形態]
図1は、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10の概略的な回路構成を例示する図である。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12と加工対象物14との間に形成される極間EGに電圧を印加して放電を発生させることで加工対象物14に対して加工を行う装置である。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12を送り出し、当該ワイヤ電極12の加工対象物14に対する相対位置を変化させ、加工対象物14を所望の形状に加工する。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12、第1電源回路16、第2電源回路18、極間電圧検出部20、および制御装置22等を備える。
【0012】
第1電源回路16は、極間EGに第1電圧V1を印加することにより放電を誘起させる。第1電源回路16は、極間EGに対し、ワイヤ電極12を負極、加工対象物14を正極とする正極性の第1電圧V1を印加する正極性回路16Aと、ワイヤ電極12を正極、加工対象物14を負極とする負極性の第1電圧V1を印加する負極性回路16Bと、電流制限回路34等とを有する。正極性回路16Aは、第1電源30A、および、トランジスタから構成されるスイッチング素子32A等を含む。負極性回路16Bは、第1電源30B、および、トランジスタから構成されるスイッチング素子32B等を含む。
【0013】
電流制限回路34は、コンデンサやダイオード等を含み、電流の逆流等を防止するための回路である。
【0014】
正極性回路16Aにおいて、第1電源30Aの正極側はスイッチング素子32Aを介して加工対象物14と電気的に接続されている。また、第1電源30Aの負極側は電流制限回路34を介してワイヤ電極12に接続されている。スイッチング素子32Aが制御装置22からの制御信号a1に従いスイッチング動作を行うことにより、第1電源30Aから極間EGへ正極性の第1電圧V1が印加される。
【0015】
負極性回路16Bにおける第1電源30Bの正極側は、スイッチング素子32Bおよび電流制限回路34を介してワイヤ電極12に接続されている。第1電源30Bの負極側は、加工対象物14と電気的に接続されている。スイッチング素子32Bが制御装置22からの制御信号a2に従いスイッチング動作を行うことにより、第1電源30Bから極間EGへ負極性の第1電圧V1が印加される。
【0016】
第2電源回路18は、極間EGに第2電圧V2を印加することで加工電流(放電電流)を供給する。第2電源回路18は、第2電源40、トランジスタから構成されるスイッチング素子42、44、およびダイオード46、48等を備える。
【0017】
第2電源回路18において、第2電源40の正極側は、スイッチング素子42を介して加工対象物14と電気的に接続されている。また、第2電源回路18において、第2電源40の負極側は、スイッチング素子44を介してワイヤ電極12と接続されている。
【0018】
スイッチング素子42、44は、制御装置22からの制御信号bに従ってスイッチング動作を行う。これにより、第2電源40より極間EGに第2電圧V2が印加され、極間EGに加工電流が供給される。なお、ダイオード46、48は、電流の逆流の防止と、回生用のためのダイオードである。
【0019】
極間電圧検出部20は、電圧計を含み、極間EGの電圧Vを検出する。
【0020】
制御装置22は、第1電源回路16(具体的には、32A、32B)を制御して、極間EGに対し第1電圧V1を間歇的に印加させる。制御装置22は、極間電圧検出部20から取得した極間EGの電圧Vから、第1電圧V1の印加中に極間EGにおいて放電が発生したか否かを判定し、放電が発生している場合には、第2電源回路18(具体的には、42、44)を制御し、極間EGに対し加工電流を供給させる。
【0021】
加工電流による放電により、上述した電流制限回路34に含まれるコンデンサに電荷が蓄積される。そして、この放電後において次の第1電源回路16による第1電圧V1の印加が行われると、第1電源回路16のみではなく、コンデンサに蓄積された電荷によっても極間EGに電圧が印加されることになり、極間EGの電圧Vが第1電圧V1より大きくなる。
【0022】
ここで、ワイヤ電極12と加工対象物14との間の距離(極間EGの距離とも記載する)が長いほど、単位時間あたりにおける極間EGに印加される電圧が高くなる。したがって、制御装置22は、極間EGに印加される単位時間あたりの電圧に基づいて極間EGの距離を調整する。
【0023】
コンデンサによって極間EGに余分な電圧が印加されれば、極間EGにおける単位時間当たりの電圧Vが所望の電圧より大きくなってしまい、制御装置22は、ワイヤ電極12と加工対象物14との間の距離を本来の距離よりも長いものと判断し、ワイヤ電極12と加工対象物14との間の距離を必要以上に縮めてしまう虞がある。これにより、適切な加工が行われなくなる可能性がある。
【0024】
制御装置22は、コンデンサに蓄積された電荷によって引き起こされる上述した現象を回避するため、第2電源回路18による極間EGへの加工電流の供給後における次の第1電源回路16による極間EGへの第1電圧V1の印加において、放電が誘起された場合であっても、第2電源回路18による加工電流の供給を禁止する。
【0025】
上記動作の実行のために、図2に示されるように制御装置22は、第1電圧制御部50、放電判定部52、および第2電圧制御部54等を備える。第1電圧制御部50は、第1電源回路16を制御して、極間EGに第1電圧V1を間歇的に印加させる。放電判定部52は、極間電圧検出部20から取得した極間EGの電圧Vを示す情報に基づいて、第1電圧V1の印加中に極間EGが放電状態になったか否かを判定する。この際に、放電判定部52は、第1電源回路16からの第1電圧V1の印加中に極間EGの電圧Vが所定電圧(放電判定電圧)V3より小さくなった場合には、極間EGに放電が発生したと判定する。極間EGに放電が発生した場合には、第2電圧制御部54は、第2電源回路18を制御して、極間EGに加工電流を供給させる。しかし、第2電圧制御部54は、極間EGへの加工電流の供給の直後における第1電源回路16による第1電圧V1の印加中に極間EGにおいて放電が誘起されたと判定されても、第2電源回路18による極間EGへの第2電圧V2の印加を禁止して極間EGに加工電流を供給させない。
【0026】
制御装置22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ、入力インターフェース回路、出力インターフェース回路等により構成することができる。プロセッサが、メモリに記憶されたプログラムや各種情報を用いて処理を実行し、出力インターフェース回路を介して信号を出力することにより第1電圧制御部50および第2電圧制御部54の機能を実現することができる。プロセッサが、入力インターフェース回路を介して取得した情報、および、メモリに記憶されたプログラムや各種情報を用いて処理を実行することにより、放電判定部52の機能を実現することができる。
【0027】
図3は、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10による極間EGへの電圧の印加の動作を例示するフローチャートである。なお、理解容易のために、極間EGに印加される電圧の極性については特に限定しない。
【0028】
ステップS1において、第1電圧制御部50による指示に応じて第1電源回路16は、極間EGに第1電圧V1のパルスを印加する。ステップS2において放電判定部52は、極間電圧検出部20が検出した極間EGの電圧Vに基づいて、ステップS1における第1電圧V1の印加中に極間EGにおいて放電が発生したか否かを判定する。
【0029】
ステップS2において放電が発生していないと判定された場合には、ワイヤ放電加工機10による処理はステップS1に戻る。ステップS2において放電が発生していると判定された場合には、ステップS3において第2電圧制御部54は、1つ前の第1電圧V1のパルスの印加後に第2電源回路18が極間EGに加工電流を供給したか否かを判定する。
【0030】
ステップS3において加工電流の供給がなかったと判定された場合には、ステップS4において第2電圧制御部54は、第2電源回路18を制御して極間EGに第2電圧V2を印加させて加工電流を供給させる。続いて、ワイヤ放電加工機10による処理はステップS1に戻る。
【0031】
ステップS3において加工電流の供給があったと判定された場合には、ステップS5において第2電圧制御部54は、第2電源回路18を制御して極間EGへの第2電圧V2の印加を禁止する。続いて、ワイヤ放電加工機10による処理はステップS1に戻る。これにより、極間EGには加工電流が供給されない。
【0032】
図4Aは、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10による極間EGへの第1電圧V1と第2電圧V2との各印加のタイミング、および、極間EGにおける電圧Vの一例を示すタイムチャートである。なお、以下では、理解容易のために、極間EGに正極性電圧が印加される場合を例に挙げて説明する。
【0033】
時刻t0において、第1電圧制御部50から第1電源回路16へ出力される制御信号a1が立ち上がる。制御信号a1が立ち上がっている間、第1電源回路16は、極間EGに第1電圧V1を印加し続ける。当該印加により、極間EGの電圧Vは、短絡が発生していない場合には、徐々に立ち上がり所定電圧(開放判定電圧)V4を超えて、第1電圧V1に達する。
【0034】
極間EGに第1電圧V1を印加中、当該一例においては時刻t1で極間EGに放電が発生する。放電の発生により、極間EGの電圧Vは、第1電圧V1から所定電圧(放電判定電圧)V3より低い電圧Vへと降下する。極間電圧検出部20は、所定電圧V3より低い電圧Vへと降下した極間EGの電圧Vを検出し、放電判定部52は、この検出結果に基づき極間EGに放電が発生したと判定する。第1電圧制御部50は、放電判定部52による判定結果に基づいて、第1電源回路16へ出力する制御信号a1を断ち下げる。
【0035】
第2電圧制御部54は、放電判定部52による判定結果に基づいて、時刻t1において第2電源回路18に出力する制御信号bを立ち上げ、時刻t2までの間、制御信号bを立ち上げた状態で第2電源回路18に出力し続ける。制御信号bの立ち上がりに応じて、第2電源回路18は、時刻t1から時刻t2までの間、極間EGに第2電圧V2を印加する。この第2電圧V2の極間EGへの印加により、時刻t1から時刻t2までの間、極間EGには加工電流が供給され続ける。この加工電流により、加工対象物14の加工が行われる。
【0036】
時刻t2において第2電圧制御部54から第2電源回路18に出力される制御信号bが立ち下がることにより、第2電源回路18は、第2電圧V2の極間EGへの印加を中断する。これにより、極間EGにおける放電状態は収束していき、極間EGにおける電流値は0になる。なお、極間EGにおける放電の発生により、電流制限回路34におけるコンデンサには電荷が蓄積される。
【0037】
時刻t2から時刻t3までの、極間EGに対し電圧Vが印加されない休止時間の後、時刻t3において、第1電圧制御部50は、第1電源回路16へ出力する制御信号a1を立ち上げる。この制御信号a1の立ち上がりに応じて、第1電源回路16は、極間EGに第1電圧V1を印加する。この第1電圧V1の印加の際に、電流制限回路34におけるコンデンサに蓄えられた電荷が放電されることによって、極間EGの電圧Vは、第1電圧V1より大きくなってしまう。
【0038】
極間EGに第1電圧V1を印加中、当該一例においては時刻t4で極間EGに放電が発生する。これにより、極間EGの電圧Vは、所定電圧V3より低い電圧Vへと降下する。このとき放電判定部52は、極間電圧検出部20が検出した電圧Vから極間EGに放電が発生したと判定する。第1電圧制御部50は、放電判定部52による判定結果に基づいて、第1電源回路16へ出力する制御信号a1を断ち下げる。
【0039】
ここで、本来であれば時刻t4において極間EGに加工電流が供給されるところを、本実施形態における第2電圧制御部54は、時刻t4において制御信号bを立ち上げず、第2電源回路18による極間EGへの第2電圧V2の印加を禁止する。これにより、時刻t4から時刻t5までの間、極間EGには、加工電流が供給されなくなる。時刻t1から時刻t2までの間における放電によりコンデンサに蓄積された電荷は、時刻t3から時刻t4の間において放電されてしまい、また、時刻t4から時刻t5において極間EGに加工電流が供給されないことにより、電流制限回路34のコンデンサには電荷が蓄積されることはない。したがって、時刻t6における次の第1電圧V1の印加の際に、極間EGの電圧Vは、第1電圧V1により等しい電圧となる。したがって、不適切な加工が行われることを抑制することができる。
【0040】
図4Bは、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10による極間EGへの第1電圧V1と第2電圧V2との各印加のタイミング、および、極間EGにおける電圧Vの他の一例を示すタイムチャートである。なお、以下では、理解容易のために、極間EGに正極性電圧が印加される場合を例に挙げて説明する。
【0041】
図4Bの場合も、第1電源回路16および第2電源回路18からの極間EGへの電圧Vの印加のタイミングは図4Aに示す場合と同様であり、時刻t3までのワイヤ放電加工機10による動作や極間EGの電圧V等も図4Aに示す場合と同様であるため、以下では相違点について説明する。
【0042】
ここでは、時刻t3において、ワイヤ電極12と加工対象物14とが接触、あるいは極間EGに加工屑の存在等により極間EGに短絡が生じている場合を考える。このとき本来であれば、時刻t3において第1電源回路16から極間EGに対し第1電圧V1を印加しても、極間EGの電圧Vは、所定電圧(開放判定電圧)V4や第1電圧V1まで上がらず短絡が生じていると判断される。しかし、時刻t1から時刻t2の間の極間EGでの放電により電荷が蓄えられた、電流制限回路34におけるコンデンサからの印加により、短絡が生じているにも関わらず、極間EGの電圧Vは所定電圧(開放判定電圧)V4や第1電圧V1に達してしまう場合がある。これにより、制御装置22は、極間EGにおいて短絡が生じていないものと判断してしまう虞がある。
【0043】
このため、時刻t4において放電が発生した場合、本来であれば、第2電源回路18から極間EGに第2電圧V2が印加されてしまう。しかし、本実施形態における第2電圧制御部54は、1つ前の第1電圧V1のパルスの印加後に加工電流が極間EGに供給されていることに基づき、時刻t4において制御信号bを立ち上げず、第2電源回路18による極間EGへの第2電圧V2の印加を禁止する。これにより、図4Aに示した場合と同様に、時刻t4から時刻t5までの間、極間EGには、加工電流が供給されなくなる。したがって、短絡時における不適切な処理の実行を抑制することができる。
【0044】
本実施形態に係るワイヤ放電加工機10によれば、極間EGへの加工電流の供給後の第1電圧V1のパルスの印加中に放電が発生しても、極間EGには加工電流が供給されない。これにより、コンデンサによる極間EGの電圧の変動によって、適切な加工を行えなくなることを防止することができる。
【0045】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0046】
<第1の発明>
ワイヤ電極(12)と加工対象物(14)との間で形成される極間(EG)に、電圧(V1、V2)を印加して放電を発生させることで、加工対象物(14)に対して放電加工を行うワイヤ放電加工機(10)は、コンデンサを有し、極間(EG)に第1電圧(V1)を印加して放電を誘起させる第1電源回路(16)と、極間(EG)に第2電圧(V2)を印加して極間(EG)に加工電流を供給する第2電源回路(18)と、極間(EG)の電圧(V)を検出する極間電圧検出部(20)と、第1電源回路(16)を制御して、極間(EG)に第1電圧(V1)を間歇的に印加させる第1電圧制御部(50)と、検出された極間(EG)の電圧(V)に基づいて、第1電圧(V1)の印加中に極間(EG)が放電状態になったか否かを判定する放電判定部(52)と、極間(EG)が放電状態になったと判定された場合には、第2電源回路(18)を制御して、極間(EG)に加工電流を供給させる第2電圧制御部(54)と、を備え、第2電圧制御部(54)は、極間(EG)への加工電流の供給後には、次の第1電圧(V1)の印加中に極間(EG)が放電状態になった場合であっても、第2電源回路(18)による極間(EG)への第2電圧(V2)の印加を禁止して極間(EG)に加工電流を供給させない。
【0047】
これにより、コンデンサによる極間(EG)の電圧(V)の変動によって、適切な加工を行えなくなることを防止することができる。
【0048】
ワイヤ放電加工機(10)における放電判定部(52)は、第1電圧(V1)の印加中に極間(EG)の電圧(V)が所定電圧(V3)より小さくなった場合には、極間(EG)が放電状態になったと判定してもよい。これにより、放電が発生したことをより正確に判断できる。
【0049】
<第2の発明>
ワイヤ放電加工機(10)が、ワイヤ電極(12)と加工対象物(14)との間で形成される極間(EG)に、電圧(V1、V2)を印加して放電を発生させることで、加工対象物(14)に対して放電加工を行う放電加工方法であって、ワイヤ放電加工機(10)は、コンデンサを有し、極間(EG)に第1電圧(V1)を印加して放電を誘起させる第1電源回路(16)と、極間(EG)に第2電圧(V2)を印加して極間(EG)に加工電流を供給する第2電源回路(18)と、極間(EG)の電圧(V)を検出する極間電圧検出部(20)と、を備え、放電加工方法は、第1電源回路(16)を制御して、極間(EG)に第1電圧(V1)を間歇的に印加させる第1電圧制御ステップと、検出された極間(EG)の電圧(V)に基づいて、第1電圧(V1)の印加中に極間(EG)が放電状態になったか否かを判定する放電判定ステップと、極間(EG)が放電状態になったと判定された場合には、第2電源回路(18)を制御して、極間(EG)に加工電流を供給させる第2電圧制御ステップと、を含み、第2電圧制御ステップは、極間(EG)への加工電流の供給後には、次の第1電圧(V1)の印加中に極間(EG)が放電状態になった場合であっても、第2電源回路(18)による極間(EG)への第2電圧(V2)の印加を禁止して極間(EG)に加工電流を供給させない。
【0050】
これにより、コンデンサによる極間(EG)の電圧(V)の変動によって、適切な加工を行えなくなることを防止することができる。
【0051】
放電加工方法における放電判定ステップは、第1電圧(V1)の印加中に極間(EG)の電圧(V)が所定電圧(V3)より小さくなった場合には、極間(EG)が放電状態になったと判定してもよい。これにより、放電が発生したことをより正確に判断できる。
【符号の説明】
【0052】
10…ワイヤ放電加工機 12…ワイヤ電極
14…加工対象物 16…第1電源回路
16A…正極性回路 16B…負極性回路
18…第2電源回路 20…極間電圧検出部
22…制御装置 30A、30B…第1電源
32A、32B、42、44…スイッチング素子
34…電流制限回路 40…第2電源
46、48…ダイオード 50…第1電圧制御部
52…放電判定部 54…第2電圧制御部
a1、a2、b…制御信号 EG…極間
V…極間の電圧 V1…第1電圧
V2…第2電圧 V3…所定電圧(放電判定電圧)
V4…所定電圧(開放判定電圧)
図1
図2
図3
図4