特許第6770064号(P6770064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6770064-多軸船の推進装置 図000002
  • 特許6770064-多軸船の推進装置 図000003
  • 特許6770064-多軸船の推進装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770064
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】多軸船の推進装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 5/07 20060101AFI20201005BHJP
   B63H 5/08 20060101ALI20201005BHJP
   B63H 1/28 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B63H5/07 B
   B63H5/08
   B63H1/28 Z
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-514051(P2018-514051)
(86)(22)【出願日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2016063353
(87)【国際公開番号】WO2017187597
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 聖始
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 竹春
(72)【発明者】
【氏名】山内 豊
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/144239(WO,A1)
【文献】 特開2003−011894(JP,A)
【文献】 特開平06−127478(JP,A)
【文献】 特開2013−132937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 1/28
B63H 5/07
B63H 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三軸船のウィングプロペラに適用され、後方に舵の配置されないプロペラの後方に、船体の底部から下方に延びる支持体を介してハブ渦を低減する付加物を配し
前記付加物は、船体方向に延びる中心軸と直交する方向に円形の断面を有し、その後部には後端側に向かって径が小さくなる紡錘形の形状を有してなる多軸船の推進装置。
【請求項2】
前記付加物は、最大径が前記プロペラの径に対して10%以上40%以下であり、船体方向の長さが前記プロペラの径に対して40%以上70%以下である、請求項1に記載の多軸船の推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多軸船の推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロペラを用いた船舶の推進装置として、プロペラの回転に伴い発生するハブ渦を低減し、推進効率の向上を図る目的で、プロペラ後方の舵に付加物を備えたものが従来知られている。例えば、下記の特許文献1には、プロペラの後方に配した舵の前縁のプロペラ軸線上の位置にバルブと左右一対のフィンを備えた船舶の推進性能向上装置が記載されている。また、下記の特許文献2には、左右舷の各プロペラ後方の舵にそれぞれバルブとフィンを備えた2軸2舵のツインスケグ船が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−139395号公報
【特許文献2】特開2015−166218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうしたバルブやフィンといった付加物は、プロペラの直後に舵が備えられていればその舵に取り付けることでプロペラの後方に配置することができるが、船舶の型式によっては、プロペラの後方に舵を備えていない場合がある。すなわち、一軸船であれば、一基のみ備えたプロペラの後方に舵が備えられるが、例えば三軸船の場合には、センタープロペラ後方に配置された舵のみで十分な操縦性が得られれば、舵はセンタープロペラに設置された一基のみで良く、ウィングプロペラの後方には装備されないことが多い。また、二軸船でも、例えば船尾の左右に二基のプロペラを備えつつ、舵は中央後方に一本のみ配置されることがあり(二軸一舵船)、この場合にもやはりプロペラの真後ろには舵が配置されない。四軸以上の船においても事情は同様である。つまり、二軸以上の多軸船においては、後方に舵を備えていないプロペラが存在することがあり、そうしたプロペラにおいては、後方に適当な構造物がないために上述の如きバルブやフィンを設置することができない。このように、多軸船の型式によっては、付加物によりハブ渦を低減することができないプロペラが存在し、これが推進効率の向上を妨げる要因となっていた。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、多軸船におけるプロペラの推進効率を向上し得る多軸船の推進装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、三軸船のウィングプロペラに適用され、後方に舵の配置されないプロペラの後方に、船体の底部から下方に延びる支持体を介してハブ渦を低減する付加物を配し、前記付加物は、船体方向に延びる中心軸と直交する方向に円形の断面を有し、その後部には後端側に向かって径が小さくなる紡錘形の形状を有してなる多軸船の推進装置にかかるものである。
【0008】
本発明の多軸船の推進装置において、前記付加物は、最大径が前記プロペラの径に対して10%以上40%以下であり、船体方向の長さが前記プロペラの径に対して40%以上70%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多軸船の推進装置によれば、多軸船におけるプロペラの推進効率を向上し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した多軸船の全体構造の一例を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施による多軸船の推進装置の形態の一例を示す図であり、図1の要部を拡大して示す図である。
図3】本発明の実施による多軸船の推進装置の形態の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1図3は本発明の実施による多軸船の推進装置の形態の一例を示すものである。本実施例では、本発明を三軸船に適用した場合を例示しており、図1に示す如く、多軸船(三軸船)1は、船体2の船尾中央に備された一基のプロペラ(センタープロペラ)3と、左右に各一基配されたプロペラ(ウィングプロペラ)4の計三基のプロペラを備えている。
【0014】
図2に示す如く、センタープロペラ3の後方には舵5が配されており、該舵5にはセンタープロペラ3の軸線高さにバルブ状の付加物6が設置されている。この付加物6は、例えば船体方向に延びる中心軸と直交する方向に円形の断面を有し、その後部には後端側へ向かうほど径が小さくなる紡錘形の形状を有する物体であり、舵5の前縁からセンタープロペラ3に向かって張り出すように備えられている。この付加物6により、センタープロペラ3においては、該センタープロペラ3の回転に伴い発生するハブ渦を抑制するようにしている。
【0015】
そして、本実施例の三軸船1では、ウィングプロペラ4の後方には舵を配置しておらず、その代わりに支持体7が備えられ、これによってウィングプロペラ4の後方に付加物8を配置している。
【0016】
支持体7は、船体2の底部からウィングプロペラ4の後方へ延びる板状の部材である。支持体7は、船体抵抗を極力増すことのないよう、船体方向に沿った鉛直面を成して形成され、また、水平面に沿った断面は流線型の形状を有している。そして、この支持体7の下端には、ウィングプロペラ4の軸線高さに付加物8が支持されている。
【0017】
付加物8は、上述の付加物6同様、船体方向に延びる中心軸と直交する方向に円形の断面を有する物体であり、その後部は、後端側へ向かうほど径が小さくなる紡錘形に構成されている。中心軸の位置は、ウィングプロペラ4の軸線と一致するように設定されている。本実施例では、この付加物8により、ウィングプロペラ4の後方に発生するハブ渦を抑制するようにしている。
【0018】
ウィングプロペラ4のハブ渦を効果的に低減するためには、付加物8の径は、前端付近の最大箇所でウィングプロペラ4の径に対し10%以上40%以下とすることが好ましく、より好ましくは20%以上30%以下である。また、付加物8の船体方向の長さは、ウィングプロペラ4の径に対し40%以上70%以下とすることが好ましく、より好ましくは50%以上60%以下である。
【0019】
図1図2に示す如く、センタープロペラ3後方の舵5にバルブ状の付加物6を配し、さらに、径をウィングプロペラ4の径の約25%、長さをウィングプロペラ4の径の約56%に設定した付加物8を左右のウィングプロペラ4後方に設置すると、付加物6、8を備えない場合と比較して、センタープロペラ3と二基のウィングプロペラ4,4の馬力を合計した三軸船1全体の馬力が6%程度低減されることが、本願出願人による水槽試験により明らかになっている。尚、センタープロペラ3後方の舵5には付加物を装備せず、ウィングプロペラ4の後方にのみ付加物8を配置することもでき、このようにした場合には、三軸船1全体での馬力の低減率は4%程度であった。
【0020】
尚、支持体7には、上述の如き形状の付加物8の他、例えば図3に示す如く、左右に張り出したフィン状の付加物9を備えても良いし、また、図2に示す如き付加物8に加えて図3に示す如き付加物9を備えることもできる。その他、ウィングプロペラ4の後方でハブ渦を低減し得る限り、支持体7にはどのような形状の付加物を配しても良い。
【0021】
而して、本実施例では、ウィングプロペラ4の後方に支持体7を設置したことにより、後方に舵を有しないウィングプロペラ4においても後方に付加物8を配置することができ、ウィングプロペラ4の回転に伴うハブ渦を効果的に低減することができる。
【0022】
以上のように、上記本実施例においては、後方に舵の配置されないプロペラ(ウィングプロペラ)4の後方に、船体2から延びる支持体7を介してハブ渦を低減する付加物8や付加物9を配しているので、後方に舵のないプロペラ(ウィングプロペラ)4においてもハブ渦を低減し得る。
【0023】
また、本実施例において、付加物8は、船体方向に延びる中心軸と直交する方向に円形の断面を有し、その後部には後端側に向かって径が小さくなる紡錘形の形状を有して構成することができ、このようにすれば、プロペラ(ウィングプロペラ)4に発生するハブ渦をより効果的に低減し得る。
【0024】
また、本実施例において、付加物8は、最大径がプロペラ(ウィングプロペラ)4の径に対して10%以上40%以下であり、船体方向の長さがプロペラ(ウィングプロペラ)4の径に対して40%以上70%以下とすることができ、このようにすれば、プロペラ(ウィングプロペラ)4に発生するハブ渦を特に効果的に低減し得る。
【0025】
したがって、上記本実施例によれば、多軸船におけるプロペラの推進効率を向上し得る。
【0026】
尚、本発明の多軸船の推進装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
1 多軸船(三軸船)
2 船体
4 プロペラ(ウィングプロペラ)
7 支持体
8 付加物
9 付加物
図1
図2
図3