(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770093
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】レーザ照射による材料加工のための撮像光学系及びそのような撮像光学系を有するレーザ加工ヘッド
(51)【国際特許分類】
B23K 26/046 20140101AFI20201005BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20201005BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20201005BHJP
【FI】
B23K26/046
B23K26/03
B23K26/064 K
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-557076(P2018-557076)
(86)(22)【出願日】2017年5月3日
(65)【公表番号】特表2019-514695(P2019-514695A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(86)【国際出願番号】EP2017060539
(87)【国際公開番号】WO2017191191
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2018年10月31日
(31)【優先権主張番号】102016005376.3
(32)【優先日】2016年5月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516234100
【氏名又は名称】プレシテック ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラッツクエツ−サンケッツ ダーヴィト
【審査官】
柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−150567(JP,A)
【文献】
特開2013−202675(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0227614(US,A1)
【文献】
特開2017−185502(JP,A)
【文献】
特開平08−267264(JP,A)
【文献】
中国実用新案第2293794(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/046
B23K 26/03
B23K 26/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作レーザビーム(12)がそこを通ってガイドされることができるハウジング(10)と、
レーザ照射による材料加工のためのフォーカシング光学系(20)であって、前記フォーカシング光学系(20)が、動作レーザビーム(121)をコリメートするためのコリメーティング光学系(21)と、前記動作レーザビーム(12)を加工されるべき加工対象品(14)の上にフォーカスさせるためのフォーカシング光学系(22)と、を備える、フォーカシング光学系(20)と、
を有し、
前記コリメーティング光学系(21)が、動作レーザビーム源(18)を仮想中間焦点にフォーカスさせるための正の焦点長を有する第1の可動レンズ又はレンズ群(211)と、前記仮想中間焦点を無限遠にフォーカスさせるための負の焦点長を有する第2の可動レンズ又はレンズ群(212)と、
制御ユニット(30)と、を備え、
前記動作レーザビーム(12)が約100μmのファイバ直径を有する光ファイバ(11)を介して供給され、
前記制御ユニット(30)は、前記コリメーティング光学系(21)から平行光が出力されるように、前記第1の可動レンズ又はレンズ群(211)と、前記第2の可動レンズ又はレンズ群(212)と、を光軸(17)に沿って軸方向に変位させる、
レーザ加工ヘッド(1)。
【請求項2】
前記第1の可動レンズ又はレンズ群(211)及び前記第2の可動レンズ又はレンズ群(212)が、焦点直径及び焦点位置の少なくとも一方を調整するためにそれぞれの駆動ドライブ(A,B)によって変位可能である、請求項1に記載のレーザ加工ヘッド(1)。
【請求項3】
前記駆動ドライブ(A,B)がお互いに独立して動作する、請求項2に記載のレーザ加工ヘッド(1)。
【請求項4】
前記第1及び第2の可動レンズ又はレンズ群(211,212)のお互いに対する且つ前記フォーカシング光学系(22)に対する位置が、前記制御ユニット(30)によって、加工のタイプ及びレーザ波長に依存して調整される、請求項2又は3に記載のレーザ加工ヘッド(1)。
【請求項5】
前記制御ユニット(30)がプログラム可能である、請求項4に記載のレーザ加工ヘッド(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射による材料加工のための撮像光学系、及びそのようなビームシェーピング光学系を備えたレーザ加工ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ照射による加工対象品の加工において、焦点位置、すなわちレーザ加工ヘッド及び/又は加工対象品に対するレーザビームの焦点の位置、ならびに焦点直径を調整することが、しばしば必要になる。これは例えば、レーザ切断システムにおいて加工が薄いシート金属から厚いシート金属に変わるときに必要になる。この場合、焦点直径が十分に広い範囲に渡って変更されることができないと、加工光学系が交換されなければならず、レーザ加工システムの生産性が低減される。
【0003】
それを使うことで物体及び像の位置を一定に保ったままで像のサイズ、すなわちレーザ照射による材料加工における焦点直径を変更することができる光学系は、技術的光学系においてはズームシステムとして知られている。例えば、ズームシステムは、コリメーティング及びフォーカシング光学系の間に無限焦点テレスコープを利用することによって、倍率、すなわちレーザ光源(例えば光ファイバのレーザ出力面)の直径に対する焦点直径の割合を調整することを可能にする。そのような無限焦点テレスコープは、典型的には3つ又は4つのレンズ群から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4353617号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0723834号明細書
【特許文献3】独国特許第19825092号明細書
【特許文献4】独国実用新案公開第202010006047号明細書
【特許文献5】独国特許公開第102011117607号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無限焦点テレスコープは、例えば特許文献1及び特許文献2に記述されている。焦点位置を変えずに焦点直径の調整を実現するために、通常は2つの動きが必要とされる。この場合、ズームシステムのレンズ又はレンズ群の第1の動きは焦点直径を変える役割を果たし、ズームシステムの他のレンズ又はレンズ群の第2の動きは、焦点位置の変更の補償、すなわち焦点位置をそのオリジナルの位置にシフトして戻す役割を果たす。しかし、数キロワットレンジのレーザ照射による産業界の材料加工では、望まれない影響が典型的には光学素子の数とともに増加し且つお互いに増幅するので、光学素子の数は最小限にされるべきである。一つのそのような例は熱的な焦点シフト、すなわち、レンズ材料の温度依存性屈折率及び/又は熱膨張によるレンズ又は光学系の屈折パワー又は焦点長の変動である。
【0006】
特許文献3は、可変焦点直径を有するフォーカスされたレーザビームを生成するレーザシステムを開示しており、そこでは、光軸の方向に動かされることができる負の(凹面の)光学素子(発散レンズ)が、静止したコリメーティングレンズとやはり光軸の方向に動かされることができるフォーカシングレンズとの間に設けられている。レーザビーム焦点の直径は、発散レンズとフォーカシングレンズとの間の距離を変えることによって、変えられることができる。焦点面が加工対象品の平面に留まっていることを保証するために、発散レンズ及びフォーカシングレンズからなるシステムは、それに応じてシステムの光軸の方向に並進されなければならない。
【0007】
この場合、加工点に非常に近いためにロバスト性及びアクセス可能性に関する特別な要件が適用されること、及び溶融金属のスパッタ、煙などの結果として汚染が生じるリスクがあることのために、高い機械的な努力が必要とされるという不利益がある。
【0008】
特許文献4はレーザビームをフォーカスするためのビームシェーピングユニットを開示しており、これは、レーザ加工ヘッドにおいて光軸に沿って動かされることができる2つの収束光学素子からなるコリメーティング光学系、ならびにフォーカシング光学系を備えている。コリメーティング光学系は、ケプラー型テレスコープの形態で実現される。この場合、第1の可動光学素子は焦点直径を調整する役割を果たし、第2の可動光学素子は焦点位置を補償又は調整する役割を果たす。
【0009】
この場合には実際の中間焦点がコリメーティングセクションにあるために、既知の光学システムは顕著な全長を有する。
【0010】
特許文献5は、可変倍率を有するレーザ照射のための他の光学システムを開示しており、ここでは、コリメーティングレンズシステム及びフォーカシング光学系が設けられる。コリメーティングレンズシステムは、第1の可動収束レンズ群、第2の可動発散レンズ群、及び第3の静止又は軸方向に可動な収束レンズ群から構成される。焦点直径は再び、最初の2つのレンズ群をお互いに対して変位することによって調整されることができる。第3のレンズ群がまた軸方向に調整可能であれば、軸方向の焦点位置を調整することがさらに可能になる。
【0011】
この場合にもまた可動光学素子はコリメーティングセクションにあるが、例えば熱的な焦点シフトのようなレーザ材料加工の通常の熱的な問題は、多数の光学素子が使用されているために特に顕著になる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、レーザ照射による材料加工のために撮像光学系を利用可能にするという目的に基づいており、前記撮像光学系は、技術的に単純で且つコンパクトな設計で、焦点位置及び焦点直径のフレキシブルな調整を可能にする。本発明はさらに、そのような撮像光学系を有するレーザ加工ヘッドを利用可能にすることを目的とする。
【0013】
これらの目的は、本明細書に開示される撮像光学系及びレーザ加工ヘッドによって達成される。本発明の有益な実施形態もまた、本明細書に開示される。
【0014】
本発明によるレーザ加工ヘッドは、動作レーザビームがそこを通ってガイドされることができるハウジングと、レーザ照射による材料加工のための撮像光学系であって、前記撮像光学系が、動作レーザビームをコリメートするためのコリメーティング光学系と、前記動作レーザビームを加工されるべき加工対象品の上にフォーカスさせるためのフォーカシング光学系と、を備える、撮像光学系と、を有し、前記コリメーティング光学系が、動作レーザビーム源を仮想中間焦点にフォーカスさせるための正の焦点長を有する第1の可動レンズ又はレンズ群と、前記仮想中間焦点を無限遠にフォーカスさせるための負の焦点長を有する第2の可動レンズ又はレンズ群と、を備える。
【0015】
本発明は、調整可能な焦点位置ならびに調整可能な焦点直径を有するレーザ照射のための撮像光学系に関する。この場合、ズームシステムは、正の焦点長を有する第1の可動レンズ又はレンズ群と負の焦点長を有する第2の可動レンズ又はレンズ群とからなるコリメーティング光学系、ならびにフォーカシング素子を備える。正の焦点長を有する第1の可動レンズ又はレンズ群は動作レーザビーム源を仮想中間焦点にフォーカスさせる役割を果たし、負の焦点長を有する第2の可動レンズ又はレンズ群は仮想中間焦点を無限遠にフォーカスさせる役割を果たし、そうしてフォーカシング光学系が動作レーザビーム源をその焦点位置にフォーカスする。
【0016】
さらに、動作レーザビームがそこを通ってガイドされることができるハウジングを有するレーザ加工ヘッドに、動作焦点を生成するために、本発明の撮像光学系が備えられる。
【0017】
本発明によれば、それによって焦点位置の最大限の調整範囲が削減された数の光学素子又はレンズ群及び最小構造長にて達成されることができる。
【0018】
本発明のレーザ加工ヘッドの有益な拡張によれば、第1の可動レンズ又はレンズ群及び第2の可動レンズ又はレンズ群が、焦点直径及び/又は焦点位置を調整するために駆動ドライブによってそれぞれ変位されることができることが提案される。
【0019】
レンズ又はレンズ群の変位がお互いに同期して且つ/又は比例して行われるように、ギア機構によって両方の駆動ドライブをお互いに結合することが、基本的に想定される。しかし、本発明の有益な実施形態は、駆動ドライブがお互いに独立して動作することに特徴を有する。これは、単純な機械的設計を可能にするという利点を有するだけではなく、動作レーザ照射が変更されるときに、焦点直径及び/又は焦点位置の調整における光学素子の焦点長の波長依存性を考慮に入れることを容易にすることを可能にする。
【0020】
可動レンズ又はレンズ群のお互いに対する及びフォーカシング光学系に対する位置は、好適にプログラム可能である制御ユニットによって、加工のタイプ及びレーザ波長に依存して調整される。
【0021】
本発明の例は、図面を参照して以下にさらに詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のレーザ加工ヘッドの単純化された模式図である。
【
図2】(a)〜(c)は、レンズ群がお互いに異なる位置にある本発明の撮像光学系の単純化された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面において、同一の構成要素は同じ参照符号によって識別される。
【0024】
図1はレーザ加工ヘッド10を示し、光ファイバ11を介して供給される動作レーザビーム12はそれを通ってガイドされて、加工対象品14に向けられる。光ファイバ11によって出力されている発散する動作レーザビーム121は、
フォーカシング光学系20によって、加工対象品14の表面16の上またはその下方の動作焦点15にフォーカスされる。
【0025】
フォーカシング光学系20はコリメーティング光学系21及びフォーカシング光学系22を備える。コリメーティング光学系21は、正の焦点長を有する第1の可動レンズ又はレンズ群211と負の焦点長を有する第2の可動レンズ又はレンズ群212とからなる。第1及び第2の可動レンズ又はレンズ群211,212はそれぞれ、それによって焦点直径及び/又は焦点位置を調整するために、対応する矢印によって示されているように、それぞれの駆動ドライブA,Bにより光軸17に沿って軸方向に変位されることができる。
【0026】
お互いに独立して動作する駆動ドライブA,Bは、可動レンズ又はレンズ群211,212の位置が、お互いに対して且つフォーカシング光学系22に対して、レーザ波長及び加工のタイプに依存して調整されることができるように、破線31、32で示されているように、制御ユニット30によって制御される。
【0027】
制御ユニット30は、適切な無線又は有線のインターフェース33によって有益にプログラミングされることができ、レーザ加工システムの機械制御と一体化され得て、そこでは本発明のレーザ加工ヘッド1が使用されるが、この一体化は、図面にはより詳細には示されていない。このように、レーザ波長、レーザ切断又はレーザ溶接のような加工のタイプ、金属又はプラスチックのような材料のタイプ、シート金属の厚さなど、レンズ又はレンズ群211,212の調節のために必要とされる全ての情報は、制御ユニット30に対して容易に利用可能にされることができる。
【0028】
図2(a)〜(c)はそれぞれ、可動レンズ群211,212のお互いに対する、フォーカシング光学系22に対する、及び光ファイバ11の出力面によって形成され得る動作レーザビーム源18に対する位置、すなわち、厚さ約5mm又はそれ以下の薄いシート金属、厚さ約5mm〜約10mmの中程度のシート金属、及び厚さ約10mm以上の厚いシート金属の切断に適した位置を、それぞれ示す。
【0029】
図2(a)は、薄いシート金属の切断のためのコリメーティング光学系21の第1及び第2の可動レンズ又はレンズ群211,212の位置の例を示しており、動作レーザビーム12は、焦点15の領域で比較的小さな直径及び比較的短いレイリー長を有し得る。薄いシート金属に対しては、従来は約100μm〜150μmの小さい焦点直径が使用される。
【0030】
mが倍率を表し、NAが物体側におけるシステムの開口数を表し、NA´が像の側におけるシステムの開口数を表すときに、レンズシステムのフォーカシング特性がm=NA/NA´という等式に従って考慮されるならば、m=〜1の倍率は
図2aに従った例示的な実施形態をもたらす結果となり、像の側の開口数NA´が物体側の開口数NAとほぼ同じである。薄いシート金属を切断するために最適な焦点直径は、それゆえに約100μmのファイバ直径で達成される。
【0031】
ビーム直径が低減されるべきであるならば、正の焦点長を有する第1の可動レンズ群211は、第1の可動レンズ群によって生成される動作レーザビーム源18の像が第1の可動レンズ群211から離れるように動くように、動作レーザビーム源18により近づくように動かされる。焦点位置を補償するために、負の焦点長を有する第2の可動レンズ群212は、それゆえに負の焦点長を有する第2の可動レンズ群212の焦点に位置されるまで動かされなければならず、そのようにして動作レーザビーム源18の像がこの第2の可動レンズ群212によって無限遠にフォーカスされる。結果として、レーザ焦点15は再びフォーカシング光学系22の焦点に位置する。
【0032】
厚いシート金属を切断するために望まれるように大きい焦点直径において特に長いレイリー長を得るために、
図2(c)に描かれた第1の可動レンズアセンブリ211は動作レーザビーム源により近くなるように動かされ、その一方で第2の可動レンズアセンブリ212は、フォーカシング光学系22により近くなるように動かされなければならない。
図2(c)は特に、像の側の開口数NA´が物体側の開口数NAよりも小さいことを示しており、結果として得られる倍率がm>1である。
【0033】
本発明の
フォーカシング光学系20の顕著な効果は、焦点位置及び焦点直径の単純で且つフレキシブルな調整に加えて、焦点位置に対するより広範囲の再調整範囲も可能にする点に見られることができる。フォーカシング光学系22の調整無しでの焦点位置の調整範囲は、焦点直径及び焦点位置が、フォーカシングセクションの光学素子によってではなくコリメーティングセクションにおける可動レンズ群211,212によって調整されるために、特に最大化されることができる。この点で、本発明は特に、焦点位置の変化がフォーカシング光学系22の位置変化に比例するが、焦点位置の変化はコリメーティングセクションにおける光学要素の変化に対しては二乗されるという事実を利用している。したがって、コリメーティングセクションにおける可動レンズ群211,212の小さな変位がすでに、焦点位置の顕著な変位をもたらす結果となる。
【0034】
本発明の
フォーカシング光学系の他の効果は、本発明によればガリレオ型テレスコープの形状で設計されるコリメーティング光学系21の使用が、実際の中間焦点無しに
フォーカシング光学系20の短い構造長を可能にする点に見られることができる。
【0035】
これは全て合計でわずか3つのレンズ群で達成され、2つのレンズ群はコリメーティングセクションに配置され、1つのレンズ群はフォーカシングセクションに配置され、最初の2つのレンズ群のみが可動である。このようにして、本発明の撮像光学系の光学ズームシステムは、非常に単純な技術的設計を有し、且つ同時に、熱的な焦点シフトに敏感ではない。