特許第6770108号(P6770108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770108
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】内部掻き取り機能を有する微細膜鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20201005BHJP
   A61B 17/28 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A61F9/007 130Z
   A61B17/28
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-3642(P2019-3642)
(22)【出願日】2019年1月11日
(62)【分割の表示】特願2015-547961(P2015-547961)の分割
【原出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2019-51424(P2019-51424A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2019年1月11日
(31)【優先権主張番号】13/713,782
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】グイド ベッズー
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−159270(JP,A)
【文献】 特表2006−527633(JP,A)
【文献】 特表2005−529678(JP,A)
【文献】 特開2009−225989(JP,A)
【文献】 特開2009−000527(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/067649(WO,A2)
【文献】 米国特許第05921998(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ILMすなわち内境界膜、またはERMすなわち網膜上膜の剥離手術を行うための膜鉗子であって、該膜鉗子は、
1つのハンドルと、
前記ハンドルから延びる1つのチューブと、
前記チューブから延びる鉗子顎と、を備えており、
前記鉗子顎は、該鉗子顎が閉じられたとき互いに当接するよう構成された二つの対向する把持面の間にあるILMまたはERMを掴むように構成され、前記把持面の外側にレーザーカットされたピークの配列を有する外側表面を備え、前記ピークの配列が、前記ILMまたはERMを掴むこと及び前記ILMまたはERMの端を得ることを補助するように構造的に構成されており、
前記ピークの配列は、ピークから谷までの高さが約3〜20マイクロメートルの範囲内である面特徴を備え、
前記ピークの配列は、ぎざぎざのパターンで前記外側表面から離れるように延びる一連の点を備えており、
前記ピークの配列は、前記鉗子顎の最遠位端における前縁に対して略平行の第1の平面に配置され、前記前縁は、前記チューブの長手方向軸線に略垂直な第2の平面内で延びている、膜鉗子。
【請求項2】
前記外側表面が、約25度から65度の間の値を有する角度で前記チューブの前記長手方向軸線に対して角度が付けられていて、目の中に前記膜鉗子があるときに掴むべき目の中の組織に概ね平行に置かれる、請求項1に記載の膜鉗子。
【請求項3】
前記ピークの配列は一連の列であり、前記一連の列は、各々が、前記外側表面から離れるように延びる複数の点、すなわち点の配列を有する、請求項1に記載の膜鉗子。
【請求項4】
前記鉗子顎が、第1顎と第2顎を備え、前記第1顎及び第2顎の各々は、脚と、前記第1顎と前記第2顎との間に延びる前記チューブの前記長手方向軸線に対して斜め方向につくられた曲りと、を備える、請求項1に記載の膜鉗子。
【請求項5】
前記鉗子顎は、該鉗子顎の脚の上への前記チューブの前進運動によって閉じられるように構成される、請求項に記載の膜鉗子。
【請求項6】
前記ぎざぎざのパターンは、ダイヤモンド型のぎざぎざのパターンである、請求項1に記載の膜鉗子。
【請求項7】
ILMすなわち内境界膜、またはERMすなわち網膜上膜の剥離手術を行うための手術器具であって、該手術器具は、
1つのハンドルと、
前記ハンドルから延びる1つのチューブと、
前記チューブから延びる鉗子顎であって、第1顎及び第2顎を備える鉗子顎と、を備えており、
前記第1顎及び前記第2顎は、非対称であり、かつ該手術器具を通る長手方向軸線に対して斜めに延びる前縁を該顎の最遠位端に有し、前記第1顎及び前記第2顎の各々が、それぞれの把持面を備えており、前記それぞれの把持面は、前記鉗子顎が閉じられたときに互いに当接するように構成されており、
前記第1顎及び前記第2顎は、前記把持面の外側にレーザーカットされたピークの配列を有する外側表面を更に有し、前記外側表面は前記前縁から近位方向へ延び、前記ピークの配列は、前記ILMまたは前記ERMの端を得るのを補助するように構造的に構成され、
前記ピークの配列は、ピークから谷までの高さが約3〜20マイクロメートルの範囲内である面特徴を備え、
前記ピークの配列は、ぎざぎざのパターンで前記外側表面から離れるように延びる点の配列を備えており、
前記ピークの配列は、前記前縁に対して略平行の第1の平面に配置され、前記前縁は、該手術器具の長手方向軸線に対して実質的に傾斜している第2の平面内で延びている、手術器具。
【請求項8】
前記外側表面が、約25度から65度の間の値を有する角度で該手術器具の長手方向軸線に対して角度が付けられていて、目の中に該器具があるときに掴むべき目の中の組織に概ね平行に置かれる、請求項に記載の手術器具。
【請求項9】
前記第1顎及び第2顎の各々は、脚部と、前記ピークの配列を有する前記外側表面と前記脚部との間の曲りと、を備える、請求項に記載の手術器具。
【請求項10】
前記第1顎及び第2顎の中の前記曲りは、前記長手方向軸線に対して傾斜している、請求項に記載の手術器具。
【請求項11】
前記鉗子顎は、該鉗子顎の前記脚部の上への前記チューブの前進運動によって閉じられるように構成されている、請求項に記載の手術器具。
【請求項12】
前記ピークの配列は一連の列であり、前記一連の列は、各々が、前記外側表面から離れるように延びる点の配列を有する、請求項に記載の手術器具。
【請求項13】
前記ぎざぎざのパターンは、ダイヤモンド型のぎざぎざのパターンである、請求項に記載の手術器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された装置、システム、及び方法は、概して手術器具及び技術に関し、より具体的には目の症状を治療するための手術器具及び技術に関連する。
【0002】
内境界膜(ILM)除去と網膜上膜(ERM)除去とは異なる黄斑表面疾患に対する有用な外科的治療である。しかしILMとERM剥離のための外科技術にはスキルと忍耐が必要である。正確で注意深く作られた手術器具が外科技術の各区分で用いられる。
【背景技術】
【0003】
外科的治療そのものは、膜の端を掴み、膜を剥がすことを含んでいる。外科的技術そのものは、2段階の治療である。第1に執刀医は膜の端を得なければならない。一部の執刀医は、端を得るためにスクレーパーを用いる。続いて執刀医は膜を掴み剥がすための特別な鉗子を導入する。しかし各段階で忍耐と正確さを要求されるので、執刀医はしばしば一度の外科手術の間に、複数回にわたる擦りと組織の掴みを試みる場合がある。異なる器具が必要になるたびに、執刀医は使用していた器具を手術部位から除去し、必要な手術器具を導入する。これは時間のかかる作業であり、しばしば執刀医に、いつ代わりの器具が必要かまたは必要でないかを判断することを要求する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在の開示は従来技術の1ないしそれ以上の欠点に対処するための装置、システム、及び方法を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例示的な態様では、この開示はILMまたはERM剥離手術を遂行するための膜鉗子を目的とするものである。膜鉗子はハンドルと、ハンドルから延びたチューブと、チューブから延びた鉗子顎とを含んでいる。鉗子顎はILMとERMを掴む様に構成される場合があり、粗面化した外側表面を含んでいる場合がある。粗面化表面はILMとERMの端を得るのを補助するように構造的に構成される場合がある。
【0006】
1つの態様では、鉗子顎は第1顎と第2顎を含む場合があり、第1顎は第1顎と第2顎の間に延びる長手方向軸線に対して斜めに延びた前縁を備えている。1つの態様では、粗面化表面は、一連の隆起を備えている。一連の隆起は前縁に概ね平行に配置される場合がある。
【0007】
別の態様では、粗面化表面は、約3〜40ミクロンの範囲内の頂きから谷までの高さを有する表面特徴を含む場合がある。さらに他の態様では、粗面化表面は外側表面から離れる方向に延びる点の列を含む。
【0008】
他の態様では、外側表面は、器具が目の中にある時に、剥がすべき目の中の組織に概ね平行に置かれる長手方向軸線に対して角度が付けられている。外側表面は約25度と65度の間の値を有する角度で長手方向軸線に対して傾斜している。1つの態様では鉗子顎は第1顎及び第2顎で構成され、第1顎及び第2顎の各々は、脚と、第1顎と第2顎の間に延びる長手方向軸線に対して斜め方向に作られた曲りとで構成されている。
【0009】
別の例示的な態様では、この開示はハンドルと、ハンドルから延びたチューブと、チューブから延びた顎とを含むILMとERM剥離手術を遂行するための手術器具を目的としている。鉗子顎は第1顎と第2顎を含む場合があり、第1顎と第2顎は非対称で、手術器具を通る長手方向軸線に対して斜めに延びる前縁を有している。第1顎と第2顎との各々は粗面化特徴を有する外側表面を含んでいる。外側表面は前縁から近位方向に延びる場合がある。粗面化特徴はILMとERMの端を得る助けになるように構造的に構成される場合がある。
【0010】
1つの態様では、第1顎と第2顎の各々は、脚部分と、脚部分と粗面化特徴を有する外側表面部分との間の曲りと、を備えている。別の態様では、第1顎と第2顎との中の曲りは長手方向軸線に対して傾斜している。ある態様では、外側表面は約25度から65度の間の値を有する角度で長手方向軸線に対して角度が付いている。ある態様では外側表面は約3〜40ミクロンの範囲以内の頂きと谷の高さを有する表面特徴を備える。
【0011】
さらに他の例示的な態様では、この開示はILMまたはERM剥離手術を遂行する目的で、患者の眼球の中への膜鉗子の導入することを含む外科的方法を目的とする。膜鉗子はILMまたはERMの端を得るのを補助するための構造的に構成された粗面化部分を有する外側表面を含む場合がある。方法は同じく粗面化表面で端を得るための表面でのILMまたはERMを擦ることと、膜鉗子を除去することなく、外科的器具を用いて2つの顎の間にILMまたはERMの一部を掴むことと、を含む場合がある。
【0012】
1つの態様では、ILMまたはERMを擦ることは、外側表面の粗面化部分を形成する隆起で係合することを含む。他の態様では、外側表面の粗面化部分を形成する隆起は概ね手術器具の前縁に平行に並べて配置されている。さらに別の1つの態様では、粗面化部分は平らな部分であり、方法は、粗面化部分でILMまたはERMを擦るために膜に概ね平行になるように平らな部分を配向することを含む。別の態様では、ILMまたはERMの部分を掴むことは、2つの顎が一緒になるようにハンドル部分を握ることで構成されている。別の態様ではILMまたはERMの部分を掴むことは2つの顎の各々の把持面の間に、膜の少なくとも一部を把持することで構成される。
【0013】
前述の一般的な記述と後述の詳細な記述の両方は、例示的で、説明的な性質であり、この開示の範囲を制限することなく、開示に対する理解を提供する意図であることを理解するべきである。この観点から、この開示に対する追加の態様、形態、及び利点は、後述の発明を実施するための形態から当業者には明白である。
【0014】
添付図面はここで開示した装置と方法の実施形態を図示し、この記述と共に、開示の原理を説明するための役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく例示的な手術器具の斜視図である。
図2】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく例示的な手術器具の遠位部の斜視図である。
図3】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく例示的な手術器具の遠位部上の表面形状を示す側面図である。
図4】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく外科的治療の間に患者の目に中に置かれた図1に示す例示的な手術器具の一部を示す図である。
図5】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく外科的手術の間に患者の目の中に配置された図1に示す例示的な手術器具の一部を示す図である。
図6】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく外科手術の間に患者の目の中に配置された図1に示す例示的な手術器具の一部を示す図である。
図7】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく例示的な手術器具の遠位部の斜視図である。
図8】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく図7の例示的な手術器具の遠位部の表面特徴を示す平面図である。
図9】本開示の原理に一致する一実施形態の外科手術の間に患者の目の中に配置された図7の例示的な手術器具の一部を示す図である。
図10】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく外科手術の間に患者の目の中に配置された図7の例示的な手術器具の一部を示す図である。
図11】本開示の原理に一致する一実施形態に基づく外科手術の間に患者の目の中に配置された図7に示す例示的な手術器具の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この開示の原理に対する理解を促進する目的のために、図面に示された実施形態を参照し、それを記述するのに特定の言葉を使用する。それにもかかわらず、このことは開示の範囲の限定を意図するものではないことは理解されるべきである。記述された装置、器具、方法に対する如何なる代替えと、更なる改良及びこの開示の原理の更なる応用は、開示に関連する当業者に普通に起こるものとして完全に意図される。特に特徴、構成要素、及び/または一実施形態に関して記述した工程は、本開示の特徴、構成要素、及び/または他の実施形態に関して記述した工程に結合される場合があることが、完全に意図される。しかし簡潔にするために、これらの組み合わせの多くを繰り返して別に記述することはしない。簡単にするために、幾つかの場合で同じまたは似た部品を参照するために、図面全体を通して同じ参照番号を使用している。
【0017】
この開示は一般に、ILMとERMとの剥離及び除去のための装置、システム、及び方法に関する。これらのタイプの手術は正確さを必要とし、実行は経験を積んでいない執刀医には実施が困難である可能性がある。手術は眼球の中で行われるので、永続的な外傷または組織損傷を避けるために、執刀医は細心の注意を払わなければならない。器具の導入と目からの取り外しは時間がかかる。さらに利便性のために、一部の執刀医は、希望する目的を達成するために、器具を除去し、恐らくより効果的な異なる器具を導入するよりも、目の中にある器具を使う傾向がある。
【0018】
本明細書に開示された器具、システム、及び方法は、外科治療の効率性、患者により良い結果をもたらす可能性を増やすための剥離機能を有して設計された鉗子を含んでいる。より具体的には、鉗子を形成する顎のエリアは、膜の端を鉗子により簡単に掴むことが出来るように、ユーザーが擦る動きを用いてILMまたはERMを安全に破壊することが出来るように、粗い面にされている。本明細書で開示されている実施形態では、鉗子の機能はスクレーパーの機能から独立したままである。つまり鉗子機能とスクレーパー機能とは互いの順調な利用に影響を与えない。幾つかの実施形態では、鉗子の擦りエリアはあらゆるスクレーパーのニーズに対して十分に生かされるように配置されている。したがって使用に際しては、執刀医は最早、付着している膜の困難な剥離を維持するためのスクレーパーの挿入の閾値を決める必要がない。すなわち擦りが適切なものであれば、機能はすでに存在する。このことは剥離治療の開始、性能、及び保守の効率を増大させる場合がある。
【0019】
図1はハンドル102、プルーブ作動ハンドル104、プルーブ作動チューブ106、及び鉗子顎108として示されるプルーブ先端を有する膜鉗子として示される手術器具100を示している。ハンドル102は任意の適切な材料で作られる場合があり、何らかの方法、例えば射出成型または機械加工などの任意の方法で成形される場合がある。これは熱可塑性プラスチックまたは金属で作られてもよく、把持性を改善するために織り目加工またはぎざぎざを付けられていてもよい。作動ハンドル104はチタン、ステンレススチール、または適切な熱可塑性プラスチックなどの記憶を有する適切な弾性材料で作られている場合がある。チューブ106はチタン、ステンレススチール、または適切なポリマーなどの任意の適切な医療グレードのチューブで、鉗子顎108がその内部で容易に往復運動ができるように寸法が決められている。鉗子顎108は通常ステンレススチールかチタンで作られているが、他の材料も同じく使用される場合がある。
【0020】
手術器具100は使用中、作動ハンドル104が弛緩された状態の時には、鉗子顎108はチューブ106から比較的大きい距離突き出るように設計されている。作動ハンドル104を握ることにより、作動ハンドル104の前部はハンドル102に相対的に前進させられる。作動ハンドル104の前部分の前方への動きはチューブ106に伝えられ、チューブ106を鉗子顎108の遠位端の上にスライドさせ、それにより両方の顎108をともに押さえる。鉗子顎108の上へのチューブ106の動きの量は、弛緩した状態での作動ハンドル104の外側直径を変えることで容易に制御できる。
【0021】
図2及び図3は鉗子顎108をより詳細に示す。鉗子顎108は作動チューブ106の遠位端から延びた顎120と顎122として参照する2つの顎を含んでいる。図2に示すように、2つの顎120、122はチューブ106で規定される場合がある長手方向軸線118に沿って延びている。
【0022】
顎120、122の各々は、突き出た脚123と遠位の把持先端124を含んでいる。脚123は作動チューブ106から延びている。脚外側表面の曲り126は脚123と把持先端124の前側との交点を形成している。
【0023】
把持先端124は各々、遠位端の前縁130と把持面132とを含んでいる。開示された実施形態の中で、各顎120、122の前縁130は長手方向軸線118に概ね垂直な平面にある。
【0024】
2つの顎120、122の把持面132は、鉗子顎108が閉じられた時には互いに当接するように構成され、その間に組織を把持するように用いられる場合がある。この実施例では、把持面132は、鉗子顎108が閉じたまたはクランプした位置に有る時は概ね平行な面にあるように形成される。
【0025】
把持先端124は同じく把持面132に対向する把持先端遠位面140を含んでいる。この実施例では、把持先端遠位面140は長手方向軸線に対して角度θの角度が付けられている。角度θは長手方向軸線118を通る面に沿って取った角度である場合があり、角度θは約25度と65度との間の値を有している。他の実施形態では、角度θは約35度と65度との間である。さらに他の実施形態では、角度θは、長手方向軸線に対して約45度と65度との間で形成されている。さらに幾つかの実施例では、把持先端遠位面140は概ね平らな表面として形成されている。1つの実施例では、前縁130と曲り126の間の距離は、約0.1mm〜0.5mmの範囲にあり、把持先端遠位面を横断する幅は約0.2mm〜0.9mmの範囲である。顎120、122は、チューブ106が20ゲージチューブ、23ゲージチューブ、25ゲージチューブ、または27ゲージチューブの場合にチューブ106の内側に合わせた寸法になっている。他の寸法も意図されている。
【0026】
把持先端遠位面140は、膜の端を掴んで剥離できるように、膜を破壊するために膜を擦ることにより、膜を得ることが出来るようにする粗面化特徴142を含んでいる。この実施例では、粗面化特徴142は、表面を粗くするために、鉗子の遠位把持先端遠位面140を横切ってやすりで引くように用いて手作業で形成されている。幾つかの実施例では、粗面化特徴は、やすりが長手方向軸線に対して横方向に引かれたときに一連の線または溝で形成され、これによって長手方向軸線に対して横方向に延びる目の方向を形成する。その結果、これらの溝または特徴は前縁130に概ね平行な方向に延びる場合がある。この実施例では概ね平行とは、平行から10度またはそれ以下の偏位を有することを意味することを意図している。他の実施例では、粗面化特徴はやすりを把持先端面140の長手方向に沿って引いて形成し、概ね長手方向へ延びた目を形成する。概ね長手方向とは、長手方向軸線の方向から約10度またはそれ以下の偏位を有することを意味することを意図している。他の実施形態では粗面化特徴の目は、他の斜めの方向に形成されている。
【0027】
幾つかの実施例では、粗面化特徴は把持先端表面140の上にレーザーカッターを用いて形成される。レーザーカッターは、特定の方向を有する粗面化特徴142を形成するのに使用される場合がある。1つの実施形態では、粗面化特徴142は一連の隆起を含んでいる。これらは、例えば、鋸刃型などの特定の形を含んでいる場合がある。他の実施形態では、ぎざぎざの粗面化特徴を含んでいる。幾つかの実施形態では、粗面化特徴はピークの列として形成されている。幾つかの実施形態では、これらのピークの各々はダイヤモンド型のぎざぎざで生じさせることが出来るような点を有している。他の粗面化特徴も意図される。実施形態により、粗面化表面140はピークから谷への高さが約3〜40ミクロンの範囲内の特徴142を含む場合がある。幾つかの実施形態ではピークから谷への高さは約3〜20ミクロンの範囲で、一方他の実施形態ではピークから谷への高さは約5〜10ミクロンの範囲である。
【0028】
幾つかの実施形態では、図2図3に実施例を示すように、隆起が列状に形成されている。何らかの粗面化特徴は、列状に形成される場合があり、実施形態によっては、顎120、122の前縁130に概ね平行な場合がある。1つの実施例では、粗面化特徴142はその上に延びて前縁の一部を形成している。粗面化特徴142は、数ある中で、やすりがけ、切削、削り取り、機械加工、ブラスト、ロール、エッチング、及びレーザー切断、などを含む任意の複数の方法を使用して形成される場合がある。外側表面140の上に粗面化特徴142で示されているが、幾つかの実施形態は把持先端124の端面と側面の上に粗面化特徴を含んでいる。
【0029】
図4図6はILMまたはERM剥離手術に用いる手術器具使用の例示的な技術を示している。この開示の目的のために、技術には硝子体と後部硝子体膜の切断と除去については記述しない。
【0030】
治療の間、手術器具100は図4に示す様に強膜の切開部を通して硝子体の中に導入される。器具100は硝子体を通して黄斑へ進められる。幾つかの技術は、閉じた、または圧縮状態の顎120、122を有する遠位端を、眼球の中へ、眼球の中の液体(これは硝子体である場合があり、または、例えば、硝子体の除去の間に導入された生理的食塩水溶液である場合がある)を通して導入することを含んでいる。他の技術は、開いた状態の顎120、122の遠位端を、硝子体を通して導入し、ILMまたはERMを勘合する前に顎を閉じる技術を含んでいる。光パイプなどの追加の器具を執刀医の可視化を提供するために同じく導入する場合もある。
【0031】
ILMまたはERMの剥離は2つのフェーズを有するプロセスである。手術の第1フェーズはILMまたはERMの端を得ることである。第2フェーズは膜を掴み剥がすことである。
【0032】
手術の第1フェーズは、図5に示す様に、手術器具の把持先端の遠位表面140をILMまたはERMに接触するように置くことを含む場合がある。上に示す様に、顎はILMまたはERMを含む以前に閉じた状態で置かれる。把持先端遠位表面140が膜表面に概ね平行に置かれるように把持先端遠位表面140の角度θが形成されている。その結果、把持先端遠位表面140は膜の上に相対的に平らに置くことが出来る。幾つかの態様では、器具そのものは、角度を付けて、単なる例としてだが、膜表面から約60度の角度で広げることが出来る。この角度で、幾つかの実施例では、角度が付いた粗面化した擦り表面140は膜に対して概ね平らに置けるように形成される場合がある。
【0033】
顎が閉じた状態で、わずかな左右または前後の動きを用いて、粗面化特徴142でILMまたはERMを擦り、膜を破壊することにより、端を得てもよく、そのことにより、掴むことが出来る膜の端を作る。幾つかの技術は、粗面化特徴142の表面の目を横断する方向に顎を前後に動かすことを含んでいる。このことは粗面化特徴を膜に対して作用させ、結果として膜破壊を容易にする。執刀医が手術器具100の粗面化された擦り表面140で膜を破壊して端を作った後、執刀医は外科手術の第2フェーズに進む場合がある。
【0034】
その構造的配置により、膜の掴みと剥離は眼球から手術器具100を取り除くことなく達成できる。それよりむしろ、執刀医は膜を擦って端を得るために用いた同じ手術器具で膜の把握と剥離を行うことが出来る。同じ手術器具100を用いて膜の端を得た後で、執刀医は図6で示す擦る手順の間に得た膜の端の掴みを始めるために、2つの顎を直ちに使用する場合がある。把持面132の間で組織を掴むために、把持面が黄斑に対して概ね垂直になるように、執刀医は鉗子を90度回転させてもよい。このことにより執刀医はより容易に顎の間で膜を掴むことできる場合がある。組織の非常に微細なまたは微小な断片が入手可能なとき、必要があれば、執刀医は膜を前側先端136の間で掴むことも試みてもよい。
【0035】
有利なことに、もし執刀医が器具100で膜を掴むことが出来ない場合、またはもし膜が裂けて、執刀医が膜の別の端を得る必要がある場合、執刀医は器具100を患者から取り出すことなく、器具100の粗面化特徴142を再び使用することが出来る。その結果、執刀医は鉗子を引き抜いて張り付いた膜の困難な剥離を維持するためにスクレーパーを挿入するかどうかの意識的な決定をする必要がない。代わりに望ましい時にはいつでも擦るまたは粗面化構造を使用してもよい。このことは剥離治療の開始、達成、及び維持を容易で単純なものにする場合がある。
【0036】
図7は、本明細書の番号200で参照している鉗子顎の別の実施形態の部分を示している。図8は鉗子顎200の平面図を示す。この実施形態は、執刀医が擦る工程を行いそれから鉗子を回さずに膜を掴んでもよいように形成された顎を含んでいる。これは更に下で説明する。
【0037】
鉗子顎200は各々突き出た脚206及び遠位把持先端208を備えた、顎202及び204を含んでいる。脚206は、図1の手術器具100などの手術器具作動チューブ106から延びている。脚の外側表面の曲り210は、脚206と把持先端208の反対側との交点を形成している。この実施形態では、把持先端208は互いに角度が付き、非対称な配置を含んでいる。その結果、顎202、204は互いに鏡像であり、顎は非対称鉗子を形成している。
【0038】
把持先端208の各々は、遠位端における前縁220と、把持面222とを含んでいる。開示された実施形態では、各顎202、204の前縁220は長手方向または軸に斜めの面に置かれている。曲り210と同様に、遠位端における前縁220は角度αで規定される傾斜角で形成されている。その結果、前端220は後縁先端234から前側先端236に対して角度が付いている。この角度の付いた端は、前縁220が組織表面の様な表面に、手術器具100が組織表面に対して斜めの角度で保持されていても、平行に置くことを可能にする。さらにその配置のために、治療の間、全体の前縁が組織に対して平行なので、執刀医は組織を掴む為に全体の前縁220の如何なる部分をも使用することが出来る。開示された実施形態では、前縁130は約35度と80度の間の値を有する角度αで、長手方向軸線118に対して角度が付いている。別の実施形態では、角度αは約30度と70度の間である。さらに別の実施形態では、角度αは約30度と50度との間で形成されている。幾つかの実施形態では、脚206と把持先端208との交点の曲り210は同じく前縁220に平行に形成され、従って傾斜角αで形成されている。
【0039】
図2及び図3を参照して記述した鉗子顎と同様に、鉗子顎200の中の把持面222は、鉗子顎が閉じられる時、互いに当接するように構成され、そしてその間に組織を掴む様に用いることが出来る。この実施例では、把持面222は鉗子顎108が閉じられているかまたはクランプしている位置では、概ね平行な面に置かれるように形成されている。
【0040】
把持先端208は、把持面222の反対側に置かれた把持先端遠位面228も含んでいる。この実施例では、把持先端遠位面228は、把持面222が押されて一緒になると、把持先端遠位面228は図8に示すような前面を形成出来るように、長手方向に垂直な角度となる少なくとも一部分を有するように形成されている。このように、幾つかの実施例では、把持遠位面228は概ね平らな面として形成されている。顎120、122はチューブ106が20ゲージチューブ、23ゲージチューブ、25ゲージチューブ、27ゲージチューブの場合に、チューブ106の内側に適合するように寸法を決められる場合がある。他の寸法も意図されている。
【0041】
把持先端遠位面228は、膜を破壊するために膜を擦ることで、膜を得ることができる粗面化特徴230を含んでおり、膜の端を掴んで剥がすことが出来る。この実施例では、粗面化特徴230は表面を粗くするために、やすりを用いて鉗子の把持先端遠位面228を横切って引く手作業で形成されている。粗面化特徴は上に述べたように形成または形作られてもよく、幾つかの実施形態では前端220に概ね平行である。
【0042】
図9図11は、ILMまたはERM剥離手術で、手術器具を用いる実施例となる技術を示している。上述の技術との唯一の違いは詳細に記述するが、上に述べた記述は、等しく鉗子200を用いる技術に適用する。
【0043】
図9を参照すると、器具は眼球の中に導入される。図10では、鉗子顎200は膜に対して設置されている。ここで前縁が角度αで形成されているため、及び把持先端遠位面228が平らな前面として形成されているため、把持先端遠位面228は膜に概ね平行な平面内に設置されている。1つの実施形態では、執刀医は膜を顎の両方の把持先端遠位面228を用いて同時に擦ることが出来る。
【0044】
図10では、鉗子を側面の角度から示している。前縁に角度が付いているので、そして把持先端遠位面228に角度が付いているので、擦られた組織を掴むために鉗子顎を既に設置している間に、擦りを生じさせることが出来る。図11は膜組織を把持している鉗子顎を示す。膜の掴みは器具を90度回転させることなく起こる。即ち、図10の擦る工程の間、各顎の前縁は既に閉じた位置で膜に当接している。執刀医は擦られた組織を掴む為に、ただ膜を開き、そして閉じることのみを必要とする。
【0045】
ILMまたはERMの剥離手術が、膜を破壊または擦り、そして膜を掴むために、別個の器具を除去し、かつ導入することなく遂行出来る場合があり、より少ない器具を外科治療で用いる場合がある。このことは、治療の効率を増加させる場合があり、結果として失敗の機会を減らす場合があり、患者への良い結果を提供する場合がある。
【0046】
当業者は、本開示で包含された実施形態が、上に述べた特定の例示的な実施形態に限定されないことを理解するであろう。その点について、説明的な実施形態が示され記述されたが、広い範囲の改善変更と代替が前述の開示の中で意図されている。このような変形がこの開示の範囲から外れることなく前述に対してなされる場合があることが理解される。したがって、添付の請求項を、幅広く、かつ本開示に一致した様式で解釈することが適切である。
【符号の説明】
【0047】
100 手術器具
102 ハンドル
106 作動チューブ
108 鉗子顎
118 長手方向軸線
120 顎
122 顎
123 脚
124 把持先端
126 曲り
130 前縁
132 把持面
140 把持先端遠位面
142 粗面化特徴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11