【実施例】
【0129】
実施例1:抗マウスEphA4モノクローナル抗体の作製
マウス抗マウスEphA4モノクローナル抗体の作製
マウスEphA4(Genbank Accession No. NP_031962.2、配列番号1)に結合するモノクローナル抗体を作製するため、マウスEphA4の細胞外領域(20〜547位)(配列番号2)に分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)およびヒスチジンタグを融合したタンパク質(以下、「マウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質」という、配列番号43)を以下の工程により調製した。
【0130】
まず、マウスEphA4のシグナル配列(配列番号42)と細胞外領域(配列番号2)をコードするDNA配列をマウスの脳由来のTotal RNAを用いて、RT−PCRによって増幅し、SEAP、およびヒスチジンタグをコードするDNA配列を有するpENTR1Aベクター(Invitrogen/LifeTechnologies)のSalI/NotIサイトにクローニングした。次に、マウスEphA4のシグナル配列と細胞外領域、SEAP、およびヒスチジンタグをコードするDNA配列をGateway System(Invitrogen/LifeTechnologies)のLR反応により、pcDNA3.1_rfcBベクターに移し、pcDNA3.1−マウスEphA4細胞外領域−SEAP−His発現ベクターを構築した。構築したpcDNA3.1−マウスEphA4細胞外領域−SEAP−His発現ベクターを、TransIT−LT1 (TAKARA)を用いてHEK293EBNA細胞(Invitrogen/LifeTechnologies)へ形質移入した。6日間のインキュベーション(5%CO
2、37℃)の後、培養上清を回収した。回収した培養上清より、マウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質(配列番号43)を、Protinoカラム(MACHEREY−NAGEL)を用いて精製した。
【0131】
20μgのマウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を、同量のTiterMax Goldアジュバント(TiterMax USA)、あるいはGERBUアジュバント(GERBU Biotechnik GmbH)と混合し、Balb/cマウスの足蹠へ皮下注射した。その後、3、7、および10日目に同様にマウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を投与した。このとき、TiterMax Goldアジュバント(TiterMax USA)は10日目のみ、GERBUアジュバント(GERBU Biotechnik GmbH)は3、7、および10日目に使用した。13日目にマウスを屠殺し(sacrificed)、末梢リンパ節を回収してリンパ節細胞を調製した。GenomeONE−CF(Ishihara Sangyo Kaisha,Ltd.)の存在下で、調製したリンパ節細胞とP3U1ミエローマ細胞(京都大学より分与)とを5:1の割合で融合した。前記融合細胞は、96ウェルプラスチックプレートで培養した。7日間のインキュベーション(5%CO
2、37℃)の後、培養上清を回収した。
【0132】
得られた培養上清を用いて、マウス、ラットおよびヒトEphA4に対する反応性、ならびに、マウスEphA4とマウスEphrinA1との結合阻害活性を有するウェルをピックアップした。
【0133】
マウス、ラットおよびヒトのEphA4に対する反応性は、マウスEphA4の細胞外領域、ラットEphA4(Genbank Accession No. NP_001155883.1)の細胞外領域(20〜547位)またはヒトEphA4(Genbank Accession No. NP_004429.1、配列番号3)の細胞外領域(20〜547位)(配列番号4)に対して、ヒトIgG
1のFc領域とヒスチジンタグを融合したタンパク質(以下、それぞれ「マウスEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質」、「ラットEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質」または「ヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質」という)を用い、ELISAにて評価した。
【0134】
マウス、ラットまたはヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質は、以下の工程により調製した。最初に、pcDNA3.1−マウス、ラットまたはヒトEphA4細胞外領域−Fc−His発現ベクターを構築した。まず、マウス、ラットまたはヒトEphA4のシグナル配列と細胞外領域をコードするDNA配列をマウス、ラットまたはヒトの脳由来のTotal RNAを用いて、RT−PCRによって増幅し、FcおよびヒスチジンタグをコードするDNA配列を有するpENTR1Aベクター(Invitrogen/LifeTechnologies)のSalI/NotIサイトにクローニングした。次に、マウス、ラットまたはヒトのEphA4のシグナル配列と細胞外領域、FcおよびヒスチジンタグをコードするDNA配列をGateway System(Invitrogen/LifeTechnologies)のLR反応により、pcDNA3.1_rfcBベクターに移し、pcDNA3.1−マウス、ラットまたはヒトEphA4細胞外領域−Fc−His発現ベクターを構築した。構築したこれらの発現ベクターを、TransIT−LT1(TAKARA)を用いてHEK293EBNA細胞(Invitrogen/LifeTechnologies)へ形質移入した。6日間のインキュベーション(5%CO
2、37°C)の後、培養上清を回収した。
【0135】
マウス、ラットまたはヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質を用いたELISAは、以下の工程に従って行った。抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1xブロックエース(大日本製薬)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.02% Tween20/PBS(ナカライテスク)で3回洗浄した後、各ウェルにマウス、ラットまたはヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質を含む培養上清を加え(最終濃度1nM)、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、各ウェルに前記融合細胞の培養上清を添加した。室温にて1時間インキュベートして3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、各ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、5〜20分、室温にてインキュベートした。各ウェルに等量の反応停止溶液(2N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
【0136】
マウスEphA4とマウスEphrinA1との結合阻害活性の評価は、以下の工程に従って行った。抗アルカリフォスファターゼ抗体(Seradyn)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1xブロックエース(大日本製薬)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.02% Tween20/PBS(ナカライテスク)で3回洗浄した後、ウェルにマウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を加え(最終濃度10nM)、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにEphrinA1−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度20nM)と前記融合細胞の培養上清を添加した。室温にて1時間インキュベートして3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、5〜20分、室温にてインキュベートした。ウェルに等量の反応停止溶液(2N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
【0137】
上記工程を経てピックアップしたウェルより限界希釈法にてハイブリドーマをクローニングし、最終的にマウス、ラットおよびヒトのEphA4に対する反応活性を有し、かつ、マウスEphA4とマウスEphrinA1との結合阻害活性を有するマウス抗EphA4抗体を発現するハイブリドーマクローンを得た。
【0138】
得られたハイブリドーマクローンを培養し、培養上清からPtotein A(GE Healthcare)を用いて抗EphA4抗体(抗体A)を精製した。抗体Aのアイソタイプは、モノクローナル抗体アイソタイピングキット(Serotec)にて決定し、重鎖に対してはIgG
1、軽鎖に対してはκであった。
【0139】
抗体Aの配列解析
抗体Aの重鎖および軽鎖のシグナル配列、および可変領域をコードするDNA配列を、5’−RACE(5’−rapid amplification of cDNA ends)法によって増幅した。前記ハイブリドーマから、TRIZOL(Invitrogen/LifeTechnologies)を用いて全RNAを調製し、DNase(QIAGEN, RNase free DNase set)で処理した。cDNA合成キット(TAKARA)を用いて、前記全RNAから二本鎖cDNAを調製した。オリゴDNA ad29S(ACATCACTCCGT)(配列番号5)およびオリゴDNA ad29AS(ACGGAGTGATGTCCGTCGACGTATCTCTGCGTTGATACTTCAGCGTAGCT)(配列番号6)のアニーリングによって得られた5’アダプターを前記cDNAに付加した。得られたcDNAを、5’フォワードプライマー(5’−PCR4 primer,AGCTACGCTGAAGTATCAACGCAGAG) (配列番号7)および3’リバースプライマー(マウスIgG重鎖の増幅にはGCCAGTGGATAGACTGATGG(配列番号8)を用い、マウスIgκ軽鎖の増幅にはGATGGATACAGTTGGTGCAGC(配列番号9)を用いた)によって増幅した。増幅されたcDNAを、pCR2.1ベクター(Invitrogen/LifeTechnologies)に挿入した。抗体Aの遺伝子配列を、ABI3130XLを用いて解析した。本解析によって同定された抗体Aの遺伝子配列にコードされたアミノ酸配列として、重鎖シグナル配列は配列番号10であり、重鎖可変領域は配列番号11であり、軽鎖シグナル配列は配列番号12であり、軽鎖可変領域は配列番号13である。抗体Aの遺伝子配列をコードするヌクレオチド配列として、重鎖シグナル配列は配列番号14であり、重鎖可変領域は配列番号15であり、軽鎖シグナル配列は配列番号16であり、軽鎖可変領域は配列番号17である。
【0140】
抗体Aの重鎖および軽鎖の全長配列は、以下の工程により取得した。前記ハイブリドーマから、TRIZOL(Invitrogen/LifeTechnologies)を用いて全RNAを調製し、DNase(QIAGEN, RNase free DNase set)で処理した。cDNA合成キット(TAKARA)を用いて、前記全RNAからcDNAを調製した。得られたcDNAを鋳型に用い、抗体Aの重鎖および軽鎖をコードする遺伝子配列を5’フォワードプライマー(重鎖の増幅にはGCGAAGCTTGCCGCCACCATGGCTTGGGTGTGGACCTTGC(配列番号18)を使用し、軽鎖の増幅にはGCGAAGCTTGCCGCCACCATGAGTGTGCCCACTCAGGTCC(配列番号19)を使用した)と3’リバースプライマー(重鎖の増幅にはGCGGAATTCATCATTTACCAGGAGAGTGGGAGAGGC(配列番号20)を使用し、軽鎖の増幅にはCGCGAATTCACTAACACTCATTCCTGTTGAAGCTCTTGAC(配列番号21)を使用した)を用いて、PCRにて増幅し、pEE6.4、およびpEE12.4ベクター(Lonza)にそれぞれクローニングした。遺伝子配列を、ABI3130XLを用いて解析した。本解析によって同定された抗体Aの遺伝子配列にコードされたアミノ酸配列として、重鎖定常領域は配列番号22であり、軽鎖定常領域は配列番号23である。抗体Aの遺伝子配列をコードするヌクレオチド配列として、重鎖定常領域は配列番号24であり、軽鎖定常領域は配列番号25である。
【0141】
抗体AのCDRは、抗体Aのアミノ酸配列をKabatの番号付システム(Kabat numbering system)に従い、Abysisソフトフェア(UCL)を用いて番号付けし、この番号を基に、CDRの同定のためのKabatの定義(Kabat definition)、または、AbMの定義法(AbM definition method)に従って決定した。抗体AのCDRのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を表1および表2にそれぞれ示した。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
実施例2:抗EphA4モノクローナル抗体のマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性
実施例1で得た抗体AのマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性をBiacore A100(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴(SPR法)により決定した。まず、マウスIgG
1抗体をラットに免疫して常法により作製したラット抗マウスIgG
1抗体をセンサーチップCM5へ固定化した。ラット抗マウスIgG
1抗体のセンサーチップCM5への固定化は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、および、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはエタノールアミンを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGE Healthcare社製)。固定化用緩衝液(10mM酢酸ナトリウム,pH4.5)を用いて1−2μg/mLに希釈し、Biacore A100付属のプロトコルに従い、センサーチップ上に固定した。抗体Aをランニング緩衝液HBS−EP(GE Healthcare,BR−1001−88)を用いて希釈し、フローセル上に120秒間送液しキャプチャーさせた(70−100RU程度のキャプチャー量)。続いてHBS−EPを用いて50,25,12.5,6.3,3.1,1.6,0.8,0nMの範囲で系列希釈したマウスもしくはヒトEphA4細胞外領域−SEAP−Hisを120秒間センサーチップに添加し、添加時(結合相,120秒間)、および、添加終了後(解離相,900秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、3M MgCl
2(30秒間、和光純薬)を添加してセンサーチップを再生した。得られた結合反応曲線に対して、システム付属ソフトBIA evaluationソフトを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、マウスおよびヒトのEphA4に対する結合親和性(KD=kd/ka)を算出した。
【0145】
抗体AのマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性(KD値)は、それぞれ7.29×10
−10M,6.61×10
−10Mであった(
図1)。マウスおよびヒトEphA4に対するその他の結合パラメータもほぼ同程度であった。よって、抗体Aは、マウスおよびヒトのEphA4に対して同程度の結合親和性を持つと考えられる。
【0146】
実施例3:抗EphA4モノクローナル抗体のマウスEphA4−マウスリガンド結合阻害活性
実施例1で得た抗体Aについて、マウスEphA4とマウスリガンドとの結合阻害活性の評価は、以下の工程に従って行った。抗アルカリフォスファターゼ抗体(Thermo SCIENTIFIC)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20/PBS(Thermo SCIENTIFIC)で3回洗浄した後、ウェルに実施例1の方法で得たマウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を加え(最終濃度10nM)、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにリガンドと系列希釈した抗体A(0,0.001,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000nM)、EphA4阻害薬として知られるKYLペプチド(KYLPYWPVLSSL、0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100μM、北海道システム・サイエンスに委託合成)および化合物1(0,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000μM、式1、Matrix Scientific)を添加した。なお、リガンドにはマウスEphrinA1−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度20nM)およびマウスEphrinB2−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度0.6nM)を用いた。室温にて1時間インキュベートして3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、2分、室温にてインキュベートした。ウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)により450nmの吸光度を読み取った。
【0147】
式1
【化1】
抗体Aは、マウスEphA4とマウスリガンドとの結合を濃度依存的に抑制し、マウスEphrinA1、EphrinB2結合に対するIC
50値はそれぞれ約1.2、1.2nMであった。既存のEphA4阻害薬であるKYLペプチドの、マウスEphrinA1、EphrinB2結合に対するIC
50値は、それぞれ約1.3、1.3μMであった(
図2)。化合物1は、さらに活性は弱く、濃度依存性も認められなかった。よって、抗体AはマウスEphA4とマウスリガンドとの結合を阻害し、その活性は既存のEphA4阻害薬であるKYLペプチドと比較して1,000倍以上活性が強いことが示された。
【0148】
実施例4:抗EphA4モノクローナル抗体のヒトEphA4−ヒトリガンド結合阻害活性
実施例1で得た抗体Aについて、ヒトEphA4とヒトリガンドとの結合阻害活性の評価は、以下の工程に従って行った。抗アルカリフォスファターゼ抗体(Thermo SCIENTIFIC)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20/PBS(Thermo SCIENTIFIC)で3回洗浄した後、ウェルに実施例1の方法で得たヒトEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を加え(最終濃度10nM)、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにリガンドと系列希釈した抗体A(0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000nM)、EphA4阻害薬であるKYLペプチド(KYLPYWPVLSSL、0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100300,1000,3000μM、東レリサーチセンターに委託合成)を添加した。なお、リガンドにはビオチン化ヒトEphrinA5−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度0.7nM)およびビオチン化ヒトEphrinB3−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度2.3nM)を用いた。室温にて1時間インキュベートして3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(GE Healthcare)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、2分、室温にてインキュベートした。ウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(Molecular DevicesまたはPerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
【0149】
抗体Aは、ヒトEphA4とヒトリガンドとの結合を濃度依存的に抑制し、ヒトEphrinA5、EphrinB3結合に対するIC
50値はそれぞれ約2.7、1.9nMであった。EphA4阻害薬であるKYLペプチドの、ヒトEphrinA5、EphrinB3結合に対するIC
50値は、それぞれ約6.1、1.6μMであった(
図3)。よって、抗体AはヒトEphA4とヒトリガンドとの結合も強く阻害することが示された。
【0150】
実施例5:EphA4結合断片のマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性
まず、EphA4結合断片として、抗体AのFab断片とF(ab’)
2断片(以下、それぞれ抗体A−Fab、抗体A−F(ab’)
2と記載)を調製した。
【0151】
抗体A−Fabの調製は、以下の工程に従って行った。1.5mLチューブ(エッペンドルフ)に抗体A(4.36mg/mL,1mL)、10mM Lシステイン(和光純薬)、1mM EDTA(Gibco)および2.18μg/mLパパイン(Sigma)を混合し、37℃で12時間インキュベートした。インキュベート後のチューブに対し、終濃度が50mMとなるようにiodoacetamide(和光純薬)を加えた。反応停止後、PBS(Sigma)に対して透析を行い、抗体溶液に0.1M Tris(Sigma)−HCl/5M NaCl(pH8.0、和光純薬)を等量加えてからrProtein A FF resinを用いた精製を行った。rProtein A FF 800uLを2mLチューブに充填し、超純水、Bindingバッファー(0.1M Tris(Sigma)−HCl/3M NaCl(pH8.0、和光純薬))の順に3.5C.V.ずつ添加してrProtein A FFを平衡化させた。抗体溶液に0.1M Tris(Sigma)−HCl/5M NaCl(pH8.0、和光純薬)を等量加えたものをカラムに通し、カラムから溶出された溶液(スルー)を回収し再度カラムに添加、この操作を3度繰り返した後、最後にスルーを回収した。さらに、Bindingバッファー2.5mLを加えて洗浄を2回繰り返した。スルーおよび洗浄画分をPBSに対して透析することで、抗体A−Fabを得た。
【0152】
抗体A−F(ab’)
2の調製は、以下の工程に従って行った。抗体Aを0.2M酢酸バッファー(pH4.0、和光純薬)に対して一晩、4℃で透析した。透析した溶液を回収し、0.22μmフィルトレーション(Millpore)を行い、その後に定量し、抗体濃度が4.0mg/mLとなるように調製した。ペプシン(Sigma)を室温に戻し、0.2M酢酸バッファー(pH4.0、和光純薬)を用いて2.0mg/mLに調製した。1.5mLチューブ(エッペンドルフ)に抗体A(4.0mg/mL,800μL)、ペプシン溶液(2.0mg/mL,16μL)および0.2M酢酸バッファー(pH4.0、和光純薬)を64μL/チューブで混合し、37℃で15時間インキュベートした。インキュベート後のチューブに対し、2M Tris−base(Sigma)を112μL/チューブで加え反応停止後、SDS−PAGEで分子種を確認した。反応停止後、100mM Tris−HCl(pH8.0)に対して透析した。つづいてrProtein A FF(GE Healthcare,17−1279−02)を用いて抗体A−F(ab’)
2の精製を行った。rProtein A resin 1mLを5mLチューブに充填し、超純水、Bindingバッファーの順に3.5C.V.ずつ添加してrProtein A FFを平衡化させた。透析後に透析した溶液に0.1M Tris(Sigma)−HCl/5M NaCl(pH8.0、和光純薬)を等量加えて平衡化した抗体溶液をカラムに通し、スルーを回収し再度カラムに添加する操作を3度繰り返し、最後にスルーを回収した。さらに、Bindingバッファー 5mLを加え、洗浄を2回繰り返した。未反応のIgG等を除去するため0.1M Citrate(pH3.0、和光純薬)で溶出した後、SDS−PAGEで分子種を確認した。スルーおよび洗浄画分をPBSに対して透析することで、抗体A−F(ab’)
2を得た。
【0153】
次に、抗体A−Fabおよび抗体A−F(ab’)
2のマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性を、Biacore T200(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴(SPR法)により決定した。実施例1で得た抗体Aを各々の比較対照とした。まず、抗Hisタグ抗体(GE Healthcare)をセンサーチップCM5へ固定化した。抗Hisタグ抗体のセンサーチップCM5への固定化は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、および、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはエタノールアミンを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGE Healthcare社製)。固定化用緩衝液(10mM酢酸ナトリウム,pH4.5)を用いて3μg/mLに希釈し、Biacore T200付属のプロトコルに従い、センサーチップ上に固定した。
【0154】
マウスもしくはヒトEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質をランニング緩衝液HBS−EP(GE Healthcare,BR−1001−88)を用いて希釈し、フローセル上に120秒間送液しキャプチャーさせた(このとき10−20RU程度のキャプチャー量)。続いてHBS−EPを用いて系列希釈した抗体A(50,16.7,5.6,1.9,0.6,0nM)、抗体A−Fab(500,166.7,55.6,18.5,6.2,0nM)および抗体A−F(ab’)
2(50,16.7,5.6,1.9,0.6,0nM)を120秒間センサーチップに添加し、添加時(結合相,120秒間)、および、添加終了後(解離相,900秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、3M MgCl
2(30秒間、和光純薬)を添加してセンサーチップを再生した。得られた結合反応曲線に対して、システム付属ソフトBIA evaluationソフトを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、マウスおよびヒトのEphA4に対する結合親和性(KD=kd/ka)を算出した。
【0155】
抗体A−FabのマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性(KD値)は、それぞれ4.51×10
−8M、4.04×10
−8Mであった(
図4A,
図4C)。一方で、抗体A−F(ab’)
2のマウスおよびヒトEphA4に対する結合親和性(KD値)は、それぞれ2.29×10
−11M、5.30×10
−11Mであった(
図4B,
図4D)。
【0156】
実施例6:EphA4結合断片のEphA4−リガンド結合阻害活性
実施例5で得た抗体A−Fabおよび抗体A−F(ab’)
2について、EphA4とリガンドとの結合阻害活性の評価は、以下の工程に従って行った。抗アルカリフォスファターゼ抗体(Thermo SCIENTIFIC)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20/PBS(Thermo SCIENTIFIC)で3回洗浄した後、ウェルに実施例1の方法で得たマウスEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を加え(最終濃度10nM)、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにリガンドと系列希釈した抗体A(0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000nM)、抗体A−Fab(0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000nM)、抗体A−F(ab’)
2(0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000nM)、およびEphA4阻害薬であるKYLペプチド(KYLPYWPVLSSL、0,0.0003,0.001,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000μM,東レリサーチセンターに委託合成)を添加した。なお、リガンドにはビオチン化マウスEphrinB2−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度2.5nM)を用いた。室温にて1時間インキュベートして3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(GE Healthcare)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、2分、室温にてインキュベートした。ウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(Molecular DevicesまたはPerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
【0157】
抗体A(抗体A−IgG)、抗体A−Fab、抗体A−F(ab’)
2およびKYLペプチドのIC
50値はそれぞれ2.6(あるいは3.6)、438.5、2.9nM、5.293μMであった(
図5)。KYLペプチドと比較すると、抗体Aおよび抗体A−F(ab’)
2は、1000倍以上の活性を持ち、抗体A−FabにおいてもKYLペプチドと比較すると10倍以上の活性を有していた。
【0158】
実施例7:抗EphA4モノクローナル抗体のヒトEphレセプターに対する選択性
実施例1に記載の方法に従って、ヒトの各Ephレセプター(EphA1、EphA2、EphA3、EphA4、EphA5、EphA6、EphA7、EphA8、EphA10、EphB1、EphB2、EphB3、EphB4、EphB6)のシグナル配列と細胞外領域をコードするDNA配列を組織由来のTotal RNAを用いて、RT−PCRによって増幅し、ヒトIgG
1のFc領域およびヒスチジンタグをコードするDNA配列を有するpENTR1Aベクター(Invitrogen/LifeTechnologies)にクローニングした。次に、ヒトの各Ephレセプターのシグナル配列と細胞外領域、FcおよびヒスチジンタグをコードするDNA配列をGateway System(Invitrogen/LifeTechnologies)のLR反応により、pcDNA3.1_rfcBベクターに移し、ヒトの各Ephレセプターの細胞外領域に対してヒトIgG
1のFc領域とHisタグを融合したタンパク質(「Ephレセプター細胞外領域−Fc−Hisタンパク質」という)を発現するベクター(「Ephレセプター細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクター」という)を構築した。
【0159】
次に、10cmディッシュ(ファルコン)にHEK293EBNA細胞(Life technologeis)を播種して37℃で1日培養した。上記で得られたヒトの各Ephレセプター細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターを、TransIT−LT1(TAKARA)を用いてHEK293EBNA細胞へ形質移入した。4日間のインキュベーション(5%CO
2、37℃)の後、培養上清を回収し、室温で1500rpm、5分間遠心した。遠心上清を0.22μmフィルター(Millpore)でろ過し、Hepes(DOJINDO)とアジ化ナトリウム(和光純薬)がそれぞれ最終濃度20mM、0.02%となるように加えた。
【0160】
抗体Aについて、ヒトEphレセプターの結合活性の評価は、以下の工程に従って行った。
ロバ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20/PBS(ナカライ)で3回洗浄した後、各ウェルにヒトの各Ephレセプター細胞外領域‐Fc−Hisタンパク質(最終濃度1nM)を播種し、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにヒトIgG溶液(100μg/mL、三菱ウェルファーマ)および抗体A(10μg/mL)を添加し、室温にて1時間インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ロバ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、適度な発色を確認したらウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
抗体Aは、ヒトEphレセプターファミリー間ではヒトEphA4にのみ特異的に反応活性を有していた(
図6A)。
【0161】
実施例8:抗EphA4モノクローナル抗体のマウスEphレセプターに対する選択性
実施例1に記載の方法に従って、マウスの各Ephレセプター(EphA1、EphA3、EphA4、EphA5、EphA6、EphA7、EphA8、EphA10、EphB1、EphB2、EphB3、EphB4、EphB6)のシグナル配列と細胞外領域をコードするDNA配列を組織由来のTotal RNAを用いて、RT−PCRによって増幅し、ヒトIgG
1のFc領域およびヒスチジンタグをコードするDNA配列を有するpENTR1Aベクター(Invitrogen/LifeTechnologies)にクローニングした。次に、マウスの各Ephレセプター(EphA1、EphA3、EphA4、EphA5、EphA6、EphA7、EphA8、EphA10、EphB1、EphB2、EphB3、EphB4、EphB6)のシグナル配列と細胞外領域、FcおよびヒスチジンタグをコードするDNA配列をGateway System(Invitrogen/LifeTechnologies)のLR反応により、pcDNA3.1_rfcBベクターに移し、マウスの各Ephレセプターの細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターを構築した。マウスEphA2の細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターの構築では、マウスEphA2のシグナル配列と細胞外領域をコードするDNA配列を組織由来のTotal RNAを用いて、RT−PCRによって増幅し、FcおよびヒスチジンタグをコードするDNA配列を有するpcDNA3.1ベクターにクローニングして、マウスEphA2細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターを構築した。
【0162】
次に、10cmディッシュ(ファルコンまたはBDバイオサイエンス)にHEK293EBNA細胞(Life technologeis)を播種して37℃で1日培養した。上記のようにして得られたマウスEphA1、EphA2、EphA3、EphA4、EphA5、EphA6、EphA7、EphA8、EphA10、 EphB1、EphB2、EphB3、EphB4、EphB6細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターを、TransIT−LT1(TAKARA)を用いてHEK293EBNA細胞へ形質移入した。4日間のインキュベーション(5%CO
2、37℃)の後、培養上清を回収し、室温で1500rpm、5分間遠心した。遠心上清を0.22μmフィルター(Millpore)でろ過し、Hepes(DOJINDO)とアジ化ナトリウム(和光純薬)がそれぞれ最終濃度20mM、0.02%となるように加えた。
【0163】
抗体Aについて、マウスEphレセプターの結合活性の評価は、以下の工程に従って行った。
ロバ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20/PBS(Thermo SCIENTIFIC)で3回洗浄した後、各ウェルにマウスの各Ephレセプター細胞外領域‐Fc−Hisタンパク質(最終濃度1nM)を播種し、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにヒトIgG溶液(100μg/mL、Sigma)および抗体A(10μg/mL)を添加し、室温にて1時間インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ロバ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、適度な発色を確認したらウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
抗体Aは、マウスEphレセプターファミリー間ではマウスEphA4にのみ特異的に反応活性を有していた(
図6B)。
【0164】
実施例9:抗EphA4モノクローナル抗体のマウス、ラット、サルおよびヒトEphA4に対する反応性
マウス、ラット、サルおよびヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質の作製は、以下の工程に従って行った。まず、実施例1に記載の方法に従って、サルEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターを構築した。ベクター構築において利用するサルEphA4のアミノ酸配列を配列番号44、その細胞外領域は配列番号45として示す。次に10cmディッシュ(ファルコン)にHEK293EBNA細胞(Life technologeis)を播種して37℃で1日培養した。サルEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクター、および実施例1に記載のマウスEphA4、ラットEphA4およびヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質発現ベクターを、TransIT−LT1 (TAKARA)を用いてHEK293EBNA細胞へ形質移入した。4日間のインキュベーション(5%CO
2、37℃)の後、培養上清を回収し、室温で1500rpm、5分間遠心した。遠心上清を0.22μmフィルター(Millpore) でろ過し、Hepes(DOJINDO)とアジ化ナトリウム(和光純薬)がそれぞれ最終濃度20mM、0.02%となるように加えた。
【0165】
抗体Aについて、各種Ephレセプターの結合活性の評価は、以下の工程に従って行った。
ロバ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(大日本製薬)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20/PBS(ナカライテスク)で3回洗浄した後、ウェルにマウス、ラット、サルおよびヒトEphA4細胞外領域−Fc−Hisタンパク質(最終濃度1nM)を播種し、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにヒトIgG溶液(100μg/mL、三菱ウェルファーマ)および抗体A(0,0.00128,0.0064,0.032,0.16,0.8,4,20μg/mL)を添加し、室温にて1時間インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ロバ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、適度な発色を確認したらウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
【0166】
抗体Aは、マウス、ラット、サルおよびヒトEphA4いずれにおいても同等の反応活性を有していた(
図7)。
【0167】
実施例10:抗EphA4モノクローナル抗体の海馬ニューロンにおけるリガンド誘発EphA4自己リン酸化阻害効果
ラット海馬ニューロンの調製は、以下の工程に従って行った。妊娠18日目のラット(日本チャールズ・リバー)から胎仔を取り出し、頭部を切開して脳を取り出した。実体顕微鏡下で海馬領域を切り出したのち、digestion溶液(137mM NaCl(和光純薬),5mM KCl(和光純薬),7mM Na
2HPO
4(和光純薬),25mM Hepes(DOJINDO),0.5mg/ml DNase(Sigma),0.25%トリプシン(Life technologeis))に入れて37℃で10分間振とうした。溶液を除き、20%Fetal bovine serum/Hanks緩衝液(Sigma)を加えた。液を除いて、Hanks緩衝液で2回洗浄したのち、Hanks緩衝液中で海馬組織をピペッティングして細胞懸濁液を作製した。培養液(Neurobasal medium(Life technologeis),1×B−27supplment(Life technologeis),0.5mM L−グルタミン(Life technologeis))を入れたポリLリジンをコートした6ウェルディッシュ(ファルコン)に細胞を播種した。
【0168】
海馬ニューロンを用いたEphA4自己リン酸化阻害活性評価は、以下の工程に従って行った。6ウェルディッシュ(ファルコン)に播種したラット海馬ニューロンに、マウスEphrinA1−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度10nM),抗体A(0,1,10,100,1000nM)もしくはEphA4阻害薬であるKYLペプチド(KYLPYWPVLSSL、0,0.01,0.1,1,10,100μM、北海道システム・サイエンスに委託合成)を処置して45分後にcold−PBS(和光純薬)で洗浄して,lysis buffer(20mM Tris,150mM NaCl,1mM EDTA,1%TritonX−100(以上、和光純薬),1×protease inhibitor(ナカライテスク),1×phosphatase inhibitor(ナカライテスク))を加えて細胞を回収した。4℃で15分間の混合後、15000rpm,4℃,15分間の冷却遠心を行って上清を回収した。上清にウサギ抗EphA4ポリクローナル抗体(株式会社医学生物学研究所)を加えて90分間反応させたのち、protein Gビーズ(GE Healthcare)を加えてさらに30分間反応させた。3000rpm,4℃,1分間の冷却遠心を行って上清を除き、1mLのlysis bufferを加えた。この操作を3回行なったのち、2XSDS sample bufferを加えて、10分間煮沸した。このサンプルを用いてSDS−PAGEを行い、抗リン酸化チロシン抗体(Santa Cruz biotechnology)を用いたウェスタンブロッティングを行った。さらに、抗EphA4モノクローナル抗体(Abnova)を用いたウェスタンブロッティングも行い、バンド強度を定量化し、リン酸化EphA4/総EphA4の値を算出した。なお、抗EphA4モノクローナル抗体(Abnova)は、ヒトEphA4のC末端側領域に対する合成ペプチドを免疫原としており、N末端側に細胞外領域をもつヒトEphA4では中和活性をもたない抗体と認識される。
【0169】
抗体AおよびEphA4阻害薬であるKYLペプチドは、海馬ニューロンにおいて、マウスEphrinA1により誘発されるEphA4自己リン酸化を濃度依存的に抑制し、そのIC
50値はそれぞれ24.2nM、9.91μMであった(
図8)。本結果は、抗体Aが細胞系においてもKYLペプチドと同様にEphA4/ephrinシグナリングに拮抗することを示すものである。
【0170】
実施例11:抗EphA4モノクローナル抗体の海馬ニューロンにおけるリガンド誘発成長円錐崩壊(growth cone collapse)に対する抑制効果
ラット海馬ニューロンの調製は、上記実施例10に記載されるように行い、細胞は培養液を入れたポリLリジンをコートした96ウェルプレート(greiner)に播種した。
【0171】
海馬ニューロンを用いたgrowth cone collapseアッセイは、以下の工程に従って行った。96ウェルディッシュ(greiner)に播種した培養2日目のラット海馬ニューロンに、PBS(和光純薬)、抗体A(0.1,0.3,1μM)もしくはEphA4阻害薬であるKYLペプチド(KYLPYWPVLSSL,10,30,100μM、東レリサーチセンターで委託合成)を15分間処置した後、ヤギ抗ヒトFcγフラグメントIgG
1抗体(Jackson Immuno Research)と1:5の割合でプレクラスター化したマウスEphrinA1−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度1μg/mL)を30分間処置した。その後、培養液を除き、2%PFA(和光純薬)/4%Sucrose(和光純薬)/PBSを加えて20分間静置し、細胞を固定した。液を除き、細胞をPBSで3回洗浄したのち、0.25%TritonX−100(和光純薬)/PBSを加えて、15分間、細胞透過処理を行った。液を除き、2%BSA(Sigma)/0.25%TritonX−100/Opti−MEM(Life technologies)を加えて、1時間ブロッキングを施したあと、抗Tau−1抗体(Millipore)、抗MAP−2抗体(Millipore)を2時間反応させた。1次抗体液を除き、PBSで3回洗浄したのち、2次抗体、Alexa Fluor 546 Phalloidin(Molecular probes)を1時間反応させた。2次抗体液を除き、PBSで3回洗浄したのち、SlowFadeGold Antifade Reagents(Molecular probes)を加えて封入し、BIOREVO(KEYENCE)で観察を行った。それぞれのサンプルについて、30視野からgrowth coneを形成するニューロンを計数し、growth cone collapseを起こしているニューロン数の割合を算出した。
【0172】
抗体AおよびEphA4阻害薬であるKYLペプチドは、海馬ニューロンにおいて、マウスEphrinA1により誘発されるgrowth cone collapseを濃度依存的に抑制した(
図9)。よって、抗体Aは、細胞系において、KYLペプチドと同様にEphA4を機能的に阻害することが示された。
【0173】
実施例12:抗EphA4モノクローナル抗体のin vivoにおけるリガンド拮抗作用
マウス新生仔を用いたin vivo拮抗アッセイは、以下の工程に従って行った。保育8日齢のマウス(日本チャールズ・リバー)にPBS(和光純薬)、抗体Aもしくは、ジニトロフェノールをマウスに免疫して常法により作製したコントロール抗体(マウス抗ジニトロフェノール抗体)をそれぞれ300mg/kgの用量で皮下投与した(30mL/kg)。24時間後に4%イソフルラン(インターベット)麻酔下に頭皮を切開し、マウスEphrinA1−Fcキメラ(300pmol/head、R&D Systems)もしくはPBS(和光純薬)を側脳室内に投与し、その1時間後に断頭によってマウスを安楽死させた後、大脳半球を摘出した。採材した大脳半球を、バイオマッシャー(登録商標)I(ニッピ)の回収用チューブにセットしたフィルターチューブに入れ、破砕棒を挿入したのち、15000rpm,4℃,2分間の冷却遠心を行って破砕した。破砕物を、TNE buffer(20mM Tris,150mM NaCl,1mM EDTA,1×protease inhibitor(ナカライテスク),1×phosphatase inhibitor(ナカライテスク))に縣濁した。ホモジネートの一部に、3×SDS sample bufferを加えて、10分間煮沸し、タンパク質の定量を行った。このサンプルを用いてSDS−PAGEを行い、ロバ抗ヒトIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoResearch)、抗EphA4モノクローナル抗体(Abnova)、抗アクチン抗体(SIGMA)を用いたウェスタンブロッティングを行った。残りのホモジネートは、タンパク質の定量を行ったのち、タンパク質量3mg相当を分注し、1% TritonX−100(和光純薬)、0.1% SDS(ナカライテスク)を加えて、4℃で15分間の混合後、15000rpm,4℃,15分間の冷却遠心を行って上清を回収した。上清の一部に、3×SDS sample bufferを加えて、10分間煮沸し、Inputサンプルとした。このサンプルを用いて、SDS−PAGEを行い、抗EphA4モノクローナル抗体(Abnova)、抗アクチン抗体(SIGMA)を用いたウェスタンブロッティングを行った。残りの上清にウサギ抗EphA4ポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)を加えて60分間反応させたのち、Protein Gビーズ(GE Healthcare)を加えてさらに30分間反応させた。3000rpm,4℃,2分間の冷却遠心を行って上清を除き、0.5mLのlysis buffer(20mM Tris,150mM NaCl,1mM EDTA,1%TritonX−100(和光純薬),0.1% SDS(ナカライテスク),1×protease inhibitor(ナカライテスク),1×phosphatase inhibitor(ナカライテスク))を加えた。この操作を3回行なったのち、ビーズに1×SDS sample bufferを加えて、10分間煮沸し、Beadsサンプルとした。このサンプルを用いてSDS−PAGEを行い、抗リン酸化チロシン抗体(Santa Cruz biotechnology)を用いたウェスタンブロッティングを行った。さらに、抗EphA4モノクローナル抗体(Abnova)を用いたウェスタンブロッティングも行い、バンド強度を定量化し、リン酸化EphA4/総EphA4の値を算出した。なお、抗EphA4モノクローナル抗体(Abnova)は、ヒトEphA4のC末端側領域に対する合成ペプチドを免疫原としており、N末端側に細胞外領域をもつヒトEphA4では中和活性をもたない抗体と認識される。
【0174】
マウス新生仔側脳室内へのマウスEphrinA1投与は、大脳半球において、EphA4の自己リン酸化を惹起した。抗体Aは、マウスEphrinA1により誘発されるEphA4自己リン酸化を66%抑制した(
図10)。よって、抗体Aは、in vivoにおいても、EphA4とそのリガンドとの結合を阻害することが示された。
【0175】
実施例13:抗EphA4モノクローナル抗体のin vitro ALSモデルにおけるマウスES細胞由来運動ニューロン保護効果
マウスES細胞の維持培養は、以下の工程に従って行った。−80℃で凍結保存されたマウスES細胞(129×1/SvJ)を恒温槽内で融解した後、37℃に加温したマウスES細胞培地(10%ウシ胎児血清(FBS,Gibco),0.1mMβ−メルカプトエタノール(Gibco),1mMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen),2mM L‐グルタミン(Invitrogen),1%非必須アミノ酸(Invitrogen),100units/mLペニシリン−100μg/mLストレプトマイシン(Invitrogen)および1000units/mL ESGRO(登録商標) leukemia inhibitory factor (Millipore)含有KnockOut
TM DMEM (Gibco))に希釈した。各細胞懸濁液を遠心後(1500rpm、3分、室温)、上清を除き、新たな培地に懸濁後、予めフィーダー細胞を播種した培養ディッシュに移し、CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で維持培養を行った。
【0176】
マウス新生仔からのアストロサイトの樹立および維持培養は、以下の工程に従って行った。生後2日齢の野生型マウス新生仔(C57BL/6JJmsSlc(日本エスエルシー))、および野生型マウスと変異ヒトSOD1(G93A)Tg−(B6.Cg−Tg(SOD1_G93A)1Gur/J(Jackson Laboratories))マウスとの交雑マウスの新生仔をイソフルラン(インターベット)吸入麻酔または断頭により安楽死させた後、大脳皮質を単離し、0.25%トリプシン‐EDTA(Invitrogen)で37℃、15分処理により分散した。酵素処理後、10%FBS(Gibco)および1%ペニシリン ストレプトマイシン(Invitrogen)含有Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco)(10%FBS−DMEM)4mLによって希釈し、酵素消化を停止させた。その後、セルストレーナー(BDバイオサイエンス)により、単一細胞以外の不純物をフィルトレーションし、1500rpmで5分遠心した。上清をアスピレートし、新しい10%FBS−DMEM 4mLに希釈して、個体毎に60mmカルチャーディッシュに播種、37℃にて培養した。播種2日後に培地をアスピレートし、新たな10%FBS−DMEM 4mLを加え培地交換を行った。コンフリューエントに達した後、非接着性細胞を含む培養上清を回収し変異ヒトSOD1(G93A)のジェノタイピングに供した。新たにPBS(和光純薬)2mLを加え、再度アスピレートした。0.25%トリプシン‐EDTA 1mLを加え37℃、3分インキュベートした。10%FBS−DMEM 3mLで酵素処理を停止させ、1500rpm、3分遠心した。遠心後、培地をアスピレートし、新たな10%FBS−DMEM6mLを加え、100mmカルチャーディッシュに播種することで継代培養を行った(継代数2)。コンフリューエントに達した後、培地をアスピレート後、PBS(和光純薬)3mLを加え、再度アスピレートした。0.25%トリプシン‐EDTA 2mLを加え37℃、3分インキュベートした。10%FBS−DMEM4mLで酵素処理を停止させ、1500pm、3分遠心した。遠心後、培地をアスピレートし、新たな10%FBS−DMEM12mLを加え、6mLずつ100mmカルチャーディッシュに播種して継代培養を行った(継代数3)。3継代目のアストロサイトの培地をアスピレートし、PBS(和光純薬)2mLを加え、再度アスピレートした。0.25%トリプシン‐EDTAを2mL加え、37℃、3分インキュベーションし、4mLの10%FBS−DMEMを加え、酵素処理を停止した。懸濁液を回収し、1500rpm、3分遠心を行い、Cell banker(日本全薬工業)に希釈して試験供試まで−80℃で凍結保存した。試験供試に際しては、凍結保存した細胞懸濁液をそれぞれ恒温槽内で融解した後、37℃に加温した10%FBS−DMEMで希釈した。各細胞懸濁液を遠心後(1500rpm、3分、室温)、上清を除き、新たな培地に懸濁後、8ウェルチャンバー(ibidi)に播種し、CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で維持培養を行った。
【0177】
変異ヒトSOD1(G93A)のジェノタイピングは、REDExtract−N−Amp
TM Tissue PCR kit(Sigma)を用いて行った。マウスES細胞の維持培養の工程において、継代培養時に回収した、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトの非接着性細胞を含む培養上清を1.5mLチューブに回収し、1500rpm、3分遠心を行った。遠心後、上清をアスピレートし、PBS 1mLを加えて洗浄、再度遠心した後にアスピレートした。抽出溶液50μL,および組織調製溶液12.5μLを混合し、サンプルに加えた。混和後、polymerase chain reaction(PCR)チューブに移して、GeneAmp(登録商標)
PCR system9700(Applied biosystems(登録商標))にて55℃、10分→95℃、3分→4℃、∞のサイクルでゲノム抽出を行った。その後、中和溶液B 50μLを加え中和化した。
【0178】
抽出したゲノムを用いて表3に示す組成でゲノミックPCRを行った。PCRで使用するプライマー配列は表4に示す。PCR後1%アガロースゲル/100V/20分にて電気泳動を行った。内部標準324bp、および変異ヒトSOD1(G93A)236bpの2つのバンドが検出されたものを変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトと同定した。
【0179】
【表3】
Red mix=REDExtract−N−Amp PCR反応ミックス.
【0180】
【表4】
【0181】
In vitro ALSモデルにおける運動ニューロン保護効果の評価は、以下の工程に従って行った。培養維持されたマウスES細胞を0.25%trypsin/0.05%EDTA溶液(Gibco)で処理し、細胞を培養ディッシュから剥離した。遠心して細胞を回収後、懸濁液を作製し低吸着性12ウェルプレート(Nunc)に1.2×10
5 cells/mLで播種した(第0日目)。DFK培地(5%KnockOut serum replacement(Invitrogen),2mM L−グルタミン,100units/mLペニシリン−100μg/mLストレプトマイシン,および0.1mM β−メルカプトエタノール含有アドバンスドDMEM/F−12(Invitrogen):neurobasal(Invitrogen)[1:1]培地)内で2日間浮遊凝集塊培養を行った。第2日目に,DFK培地を1μMレチノイン酸(Sigma)および2μM purmorphamine(Stemgent)含有DFK培地に交換した。その後、2日に1度の頻度で培地交換を行い、5日間(第3日目〜第7日目)培養し、運動ニューロンへと分化誘導した。
【0182】
第7日目、分化した運動ニューロンの細胞魂を細胞分散液Accumax(MS technologies)で分散し,細胞密度5.5×10
5 cells/mLの懸濁液に調整した。その懸濁液を予めマウス由来野生型アストロサイトまたは変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトを培養維持した8ウェルチャンバーに200μL/wellで播種し、アストロサイトと運動ニューロンの共培養細胞として評価に使用した。
【0183】
野生型アストロサイトと運動ニューロンとの共培養で観察される運動ニューロン数をコントロールとした。薬物処置群では、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトと運動ニューロンとの共培養を行い、条件をvehicle添加(IgG、および0.1%超純水)、抗体A(10,30,100 nM)、EphA4−Fc(R&D Systems、3,10,30 nM)、KYLペプチド(東レリサーチセンター、1,3, 10 μM)とした。各条件で37℃,5%CO
2において2日間培養後、抗ウサギISL1抗体(Abcam)およびHoechst33342(Molecular probe)を用いて運動ニューロンを免疫細胞化学的に染色した。単位面積あたりのISL1/Hoechst33342共陽性細胞を生存運動ニューロンとして計数し、運動ニューロン生存率はコントロールに対する百分率(%)として算出した。なお、
図11に評価系の工程を示す簡単な模式図を示した。
【0184】
変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイト/マウスES細胞由来運動ニューロン共培養では、運動ニューロン生存率は著しく低下した(40〜50%)。抗体Aは、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトにより誘発されるマウスES細胞由来運動ニューロン死を濃度依存的に抑制した(
図12)。また、抗体Aと同様にKYLペプチドおよびEphA4−Fc処置によっても本実験系において運動ニューロン保護効果が認められたことから、抗体Aは、本in vitro ALSモデルにおいてEphA4/ephrinシグナリングを阻害することでマウスES細胞由来運動ニューロンの生存を促進することが示された。
【0185】
実施例14:抗EphA4モノクローナル抗体のIn vitro ALSモデルにおけるヒトiPS細胞由来運動ニューロン保護効果
ヒトiPS細胞の維持培養は、以下の工程に従って行った。液体窒素でStem cell banker(Takara)にて凍結保存されたヒトiPS細胞(201B7)を液体窒素気層から取り出し,素早く予め37 ℃に加温しておいたヒトiPS細胞培養培地(Essential 8, Thermofisher scientific) 5 mLに懸濁・融解した。15 mLコニカルチューブ (ファルコン)に細胞懸濁液を回収し、遠心後(1000rpm、5分、室温),上清を除き,新たな培地に懸濁後,あらかじめ0.5μg/cm
2 Human recombinant vitronectin (Invitrogen)でコーティングを行ったφ60 mm細胞培養ディッシュ (Falcon BD)に播種し、10μM Y-27632 (和光純薬)を添加し、CO
2 インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で維持培養を行った。毎日、培地交換を行い、コンフルーエントに達した時点で、実験に供した。
【0186】
in vitro ALSモデルにおける運動ニューロン保護効果の評価は、以下の工程に従って行った。維持培養したヒトiPS細胞の培養培地をアスピレートし、2 mL PBS (和光純薬)で洗浄した。PBSをアスピレート後、0.5mM EDTAを500 μL添加し、CO
2 インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で2−3分インキュベートした (30秒毎に顕微鏡で確認を行い、細胞同士の結合が弱くなった時点で、インキュベートを中止する。)。5 mLのヒトiPS細胞培養培地で懸濁する事によって、EDTA反応を停止させ、15 mLコニカルチューブに回収した。1000rpm、5分、室温で遠心を行い、上清をアスピレートした。ヒトiPS細胞塊を、低接着性6 well細胞培養プレート(Nunclone sphere, Nunc)1 wellに対して、約1/10量の細胞懸濁液を播種し、DFK培地(2% B27 supplement, 5%KnockOut serum replacement(Invitrogen),2 mmol/L L−グルタミン,100units/mL ペニシリン−100 ug/mLストレプトマイシン,および0.1 mmol/L β−メルカプトエタノール含有アドバンスドDMEM/F−12 (Invitrogen): neurobasal medium(Invitrogen)[1:1]培地)に 2 μM SB431542 (Sigma), 300 nM LDN193189 (Sigma), 3 μM CHIR99021(Sigma)を加えてCO
2 インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で培養した。以下の方法で2日毎に培地交換を行った。まず、ヒトiPS細胞分化細胞塊 (SFEBs) を培地ごと15 mL コニカルチューブに回収し、5分間常温で静置することで、細胞塊を沈殿させた。この上清をアスピレートし、新たなDFK培地、および2 μM SB431542 (Sigma), 300 nM LDN193189 (Sigma), 3 μM CHIR99021(Sigma)を添加し、元のwellに戻すことで培地交換を行った。培養8日目に、SFEBsを培地ごと15 mL コニカルチューブに回収し、5分間常温で静置することで、SFEBsを沈殿させた。この上清をアスピレートし、新たなDFK培地を加え、0.1 μM Retinoic acid (Sigma), 0.5 μM Purmorphamine (Milteny biotechnology)を添加して、元のwellに戻し、CO
2 インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で培養した。2日毎に培地交換を行った。培養12日目に、SFEBsを培地ごと15 mL コニカルチューブに回収し、5分間常温で静置することで、SFEBsを沈殿させた。上清をアスピレートし、500 μLのAccumax (MS technosystems)を加えて数回ピペッティングした後、CO
2 インキュベーター内(37℃、5%CO
2)で5分インキュベートした。インキュベーターから細胞を取り出し、5 mLのDFK培地で懸濁し、数回ピペッティングすることで、細胞塊を分散させた。細胞懸濁液をセルストレーナー(ファルコン)で、フィルトレーションして単一細胞に解離した後に、血球計算版で細胞数をカウントした。細胞懸濁液を、新たな15 mLコニカルチューブに回収し、1000rpm、5分、室温で遠心した。運動神経培養培地(2% B27 Supplement,1% horse serum,2 mmol/L L−グルタミン,100units/mL ペニシリン−100 ug/mLストレプトマイシン,および0.1 mmol/L β−メルカプトエタノール含有アドバンスドDMEM/F−12 (Invitrogen): neurobasal medium(Invitrogen)[1:1]培地))で細胞密度を5.5×10
5 cells/mLの懸濁液に調製し、予めマウス由来野生型アストロサイトまたは変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトを8×10
4 cells/wellで播種した8ウェルチャンバーに200 μL/wellで播種し、アストロサイトと運動ニューロンの共培養細胞として評価に使用した (なお野生型、およびヒト変異SOD1 (G93A)発現アストロサイトの樹立・凍結・融解・播種・維持培養は、実施例13と同様の方法で行った)。野生型アストロサイトと運動ニューロンとの共培養で観察される運動ニューロン数をコントロールとした。薬物処置群では、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトと運動ニューロンとの共培養を行い、条件をvehicle添加(IgG、および0.1% 超純水),抗体A(10,30,100nM),EphA4阻害薬であるKYLペプチド(KYLPYWPVLSSL、1,3,10μM、東レリサーチセンターで委託合成)、EphA4−Fc(3,10,30nM、R&D systems)とした。各条件で5%CO
2、37℃において2日間培養後,抗ISL1抗体(Developmental Studies Hybridoma Bankより入手)およびHoechst33342(Molecular probe)を用いて運動ニューロンを免疫細胞化学的に染色した。1 wellあたりのISL1/Hoechst33342共陽性細胞を生存運動ニューロンとして計数し、運動ニューロン生存率はコントロールに対する%として算出した。
図13に評価系の工程を示す簡単な模式図を示した。
【0187】
変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイト/ヒトiPS細胞由来運動ニューロン共培養では、マウスES細胞を用いたアッセイ系と同様に運動ニューロン生存率は著しく低下した(約50%)。抗体Aは、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトにより誘発されるヒトiPS細胞由来運動ニューロン死を濃度依存的に抑制した(
図14)。また、抗体Aと同様にKYLペプチドおよびEphA4−Fc処置によっても本実験系においてヒトiPS細胞由来運動ニューロン保護効果が認められた。よって、抗体Aは、ヒト細胞においてもEphA4とそのリガンドとの結合を阻害することで運動ニューロンの生存を促進することが示された。
【0188】
実施例15:X線結晶構造解析によるEphA4−Ligand Binding Domain(EphA4−LBD)のエピトープマッピング
実施例5で調製した抗体A−Fabと抗原であるEphA4−LBDの複合体を作製するため、EphA4−LBDを調製した(Qin H. et al., J. Biol. Chem., 283: 29473−29484 (2008))。EphA4−LBDが抗体A−Fabに対して約1.5倍のモル比になるように、1.33・mol(950・M, 1.4ml)のEphA4−LBDと0.9・mol(150・M, 6ml)の抗体A−Fabを混合し、氷上で30分間インキュベートを行った。次に混合液をHILOAD 26/60 Superdex 75 prep grade(GE Healthcare)にアプライし、クロマト用緩衝液(25mM Tris/HCl(pH7.5)、100mM NaCl)で溶出を行った。複合体を含む画分をSDS PAGEで分析し、高純度の画分を集めて34mg/mlまで濃縮し、これを結晶化に用いた。
【0189】
複合体の結晶化は、自動結晶化装置Hydra II Plus Oneシステム(Matrix Technologies Corp., Ltd.)を用いたシッティングドロップ蒸気拡散法によって行った。プレートはMRC−2(Molecular Dimensions)を使用した。リザーバー溶液の組成は100mM Tris/HCl(pH7.5−8.5), 30% Polyethylene Glycol 400で、このリザーバー溶液と上記の複合体溶液の体積比が1:1になるよう混合して結晶化ドロップレットを作製した。作製した結晶化プレートは20℃で静置した。
【0190】
上記の条件で結晶化を行ったところ、空間群P212121, 格子定数a=70.0Å, b=82.3Å, c=216.0Åの結晶が得られた。得られた結晶に放射光X線(1.0Å)を入射して2.1Åの回折データを取得した。回折データをHKL2000 (HKL Research Inc.)によって処理し、分子置換法によって位相決定を行った。分子置換法にはCCP4 Software Suite(Collaborative computational project number 4,[CCP4] version 6.5.0, Acta Cryst. D 67:235−242(2011))に含まれるプログラムPHASER(version 2.5.0, McCoy Å. J. et al., J. Appl. Cryst. 40:658−674(2007))を用いた。分子置換法のサーチモデルとしてはEphA4−LBDの結晶構造(PDBID:3CKH)と本発明者らが過去に決定した別の抗体のFabの結晶構造を用いた。決定した位相から得られた電子密度に合うように分子モデルをプログラムCOOT(Emsley P. et al., Acta Cryst. D 60: 2126−2132n(2004))を用いて構築し、構造精密化をプログラムREFMAC (Murshudov G.N., Acta Cryst. D 53:240−255(1997))を用いて行った。
以上の構造計算によって2.1Å分解能の複合体結晶構造を得た(R=0.234, Rfree=0.288)。
【0191】
得られたFab/EphA4−LBD複合体の結晶構造を計算化学システムMOE 2011.10(Chemical Computing Group Inc.)に搭載されている相互作用検出ツールを用いて解析し、Fabと直接相互作用するEphA4−LBD上のアミノ酸残基を同定した(
図15)。検出条件はMOEの標準設定を用いた。同定されたアミノ酸残基は、Ser58, Met60, Gln71, Val72, Cys73, Thr104, Arg106, Gln156, Asp161, Arg162, Ile163, Cys191, Ile192である。
図16に、Maestro(version 10.6, Schrodinger, LLC)で作成したEpha4−LBDの表面構造を示す。この結果、本発明者らはこれらのアミノ酸残基が存在する領域がEphA4−LBDにおけるFab結合領域であると結論づけた。
【0192】
実施例16:抗体Aのヒト化抗体の作製
ヒト化抗ヒトEphA4抗体の調製
ヒト化抗体の可変領域を設計した。抗体Aのフレームワーク領域(Framework region:FR)に対する高い相同性を基に、ヒト抗体のFR;軽鎖についてIGKV1−NL1*01(配列番号50)またはIGKV3D−15*01(配列番号51)、およびJK1(配列番号52)、重鎖についてIGHV7−4−1*02(配列番号53)、およびJH6(配列番号54)を、ヒト化抗体のFRとして選択した。その後、マウス抗体Aの3D構造予測モデルを用いて、CDRのアミノ酸と相互作用するFRにおけるアミノ酸を予測し、CDR(配列番号26−30、および31−33)とともに移植した。EphA4のリン酸化亢進およびADCC活性の観点から、重鎖定常領域として、C131S、C219S、V234AおよびG237A変異を有し、C末端リシン残基を有さないヒトIgG
2の定常領域(配列番号62)、あるいは、CH1およびヒンジ部がヒトIgG
1、CH2およびCH3がV234AおよびG237A変異を有するヒトIgG
2で、C末端リシン残基を有さない定常領域(配列番号60)を用いた。軽鎖定常領域としては、ヒトIgκ(配列番号64)を用いた。HK1(配列番号72)、HK2(配列番号74)、およびHK4(配列番号76)は、Kabatの定義方法によって決定されたCDR(配列番号26、28、30)を移植したヒト化抗体の重鎖可変領域として設計され、HA1(配列番号66)、HA2(配列番号68)、およびHA4(配列番号70)は、AbMの定義方法によって決定されたCDR(配列番号27、29、30)を移植されたヒト化抗体の重鎖可変領域として設計され、L1−4(配列番号78)、L1−5(配列番号80)、およびL1−6(配列番号82)は、IGKV1−NL1*01およびJK1を用いるヒト化抗体の軽鎖可変領域として設計され、L2−4(配列番号84)は、IGKV3D−15*01およびJK1を用いるヒト化抗体の軽鎖可変領域として設計された。なお、重鎖定常領域の設計において、EphA4のリン酸化は、実施例10に記載の方法と同様の方法を用いて確認された。
【0193】
HK1、HK2、HK4のアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は、IGHV7−4−1*02(配列番号53)およびJH6(配列番号54)に抗体Aの重鎖CDR(配列番号26、28、30)を移植し、シグナル配列(配列番号55)をN末端に付加したアミノ酸配列を、GenScript USA Inc.によって遺伝子配列に変換して合成し、PCRにて変異を導入して作製した(HK1:配列番号73、HK2:配列番号75、HK4:配列番号77、シグナル配列:配列番号57)。HA1、HA2、HA4のアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は、IGHV7−4−1*02(配列番号53)およびJH6(配列番号54)に抗体Aの重鎖CDR(配列番号27、29、30)を移植し、シグナル配列(配列番号55)をN末端に付加したアミノ酸配列を、GenScript USA Inc.によって遺伝子配列に変換して合成し、PCRにて変異を導入して作製した(HA1:配列番号67、HA2:配列番号69、HA4:配列番号71、シグナル配列:配列番号56)。これらのヒト化重鎖可変領域とシグナル配列をコードする遺伝子は、C131S、C219S、V234AおよびG237A変異を有し、C末端リシン残基を有さないヒトIgG
2の定常領域(配列番号62)をコードする遺伝子配列(配列番号63)を含む発現ベクター(pcDNA3.4)、および、CH1およびヒンジ部がヒトIgG
1、CH2およびCH3がV234AおよびG237Aを有するヒトIgG
2で、C末端リシン残基を有さない定常領域(配列番号60)をコードする遺伝子配列(配列番号61)を含む発現ベクター(pcDNA3.4)に挿入した。L1−4、L1−5、L1−6のアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は、IGKV1−NL1*01(配列番号50)およびJK1(配列番号52)に抗体Aの軽鎖CDR(配列番号31−33)を移植し、シグナル配列(配列番号58)をN末端に付加したアミノ酸配列を、GenScript USA Inc.によって遺伝子配列に変換して合成し、PCRにて変異を導入して作製した(L1−4:配列番号79、L1−5:配列番号81、L1−6:配列番号83、シグナル配列:配列番号59)。L2−4のアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は、IGKV3D−15*01(配列番号51)およびJK1(配列番号52)に抗体Aの軽鎖CDR(配列番号31−33)を移植し、シグナル配列(配列番号58)をN末端に付加したアミノ酸配列を、GenScript USA Inc.によって遺伝子配列に変換して合成し、PCRにて変異を導入して作製した(L2−4:配列番号85、シグナル配列:配列番号59)。これらのヒト化軽鎖可変領域とシグナル配列をコードする遺伝子はヒトIgκの定常領域(配列番号64)をコードする遺伝子配列(配列番号65)を含む発現ベクター(pcDNA3.4)に挿入した。ここでいう、「C131S」とは、Eu numberingにおいて131位のシステインがセリンに置換された変異を、「C219S」とは、219位のシステインがセリンに置換された変異を、「V234A」とは、234位のバリンがアラニンに置換された変異を、「G237A」とは、237位のグリシンがアラニンに置換された変異を表す。また、ここでいう、CH1とはヒトIgG定常領域においてEu numberingで118位から215位のことで、ヒンジ部とはヒトIgG定常領域において216位から230位のことで、CH2とはヒトIgG定常領域において231位から340位のことで、CH3とは341位から446位を表す。これらのヒト化抗体を産生するため、Expi293発現システム(Gibco/ThermoFisher)を用いて、前記発現ベクターを表5の組み合わせでExpi293F細胞(Gibco/ThermoFisher)へ形質移入した。上清を回収し、Protein A(GE Healthcare)を用いて精製した。
【0194】
【表5】
【0195】
実施例17:抗EphA4モノクローナルヒト化抗体のヒトEphA4に対する親和性
実施例16で得た抗EphA4モノクローナルヒト化抗体のヒトEphA4に対する結合親和性をBiacore T200(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴(SPR法)により決定した。まず、抗体Aの測定用に、マウスIgG
1抗体をラットに免疫して常法により作製したラット抗マウスIgG
1抗体をセンサーチップCM5へ固定化した。ラット抗マウスIgG
1抗体のセンサーチップCM5への固定化は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、および、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはエタノールアミンを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGEヘルスケア社製)。固定化用緩衝液(10mM酢酸ナトリウム,pH4.5)を用いて希釈し、Biacore T200付属のプロトコルに従い、センサーチップ上に固定した。ヒト化モノクローナル抗体の測定にはProteinAチップ(GE Healthcare,29−1383−03)を用いた。抗体Aおよびヒト化モノクローナル抗体をランニング緩衝液HBS−EP(GE Healthcare)を用いて希釈し、フローセル2のみに120秒間送液しキャプチャーさせた(30−60RU程度のキャプチャー量)。続いてHBS−EPを用いて50,16.7,5.6,1.9,0.6nMの範囲で系列希釈したヒトEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を再生操作なしに低濃度側から連続添加し、添加時(結合相,120秒間)、および、添加終了後(解離相,900秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、3M MgCl
2(60秒間)または10mM Glycine−HCl pH1.5(30秒間)を添加してセンサーチップを再生した。得られた結合反応曲線に対して、システム付属ソフトBIA evaluationソフトを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、ヒトのEphA4に対する親和性(KD=kd/ka)を算出した(表6)。
【0196】
表5の全てのヒト化抗体は、元の抗体Aとほぼ同等の親和性を示すことが分かった(表6)。
【0197】
【表6】
【0198】
実施例18:抗EphA4モノクローナルヒト化抗体のヒトEphA4−ヒトリガンド結合阻害活性
実施例16で得た抗EphA4モノクローナルヒト化抗体について、ヒトEphA4とヒトリガンドとの結合阻害活性の評価は、以下の工程に従って行った。抗アルカリフォスファターゼ抗体(Thermo SCIENTIFIC)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。4℃にて一晩インキュベートした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社)により、ウェルを室温にて1時間ブロッキングした。0.05%Tween20/PBS(Thermo SCIENTIFIC)で3回洗浄した後、ウェルに実施例2の方法で得たヒトEphA4細胞外領域−SEAP−Hisタンパク質を加え(最終濃度10nM)を播種し、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにリガンドと系列希釈した抗体Aヒト化抗体 (0,0.003,0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000nM)を添加した。なお、リガンドにはビオチン化ヒトEphrinA5−Fcキメラ(R&D Systems、最終濃度0.7nM)を用いた。室温にて1時間インキュベートして3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(GE Healthcare)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、Sigma)溶液を加え、2分、室温にてインキュベートした。ウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer)により450nmの吸光度を読み取った。
【0199】
表5の全てのヒト化抗体は、元の抗体Aとほぼ同等の阻害活性を示すことが分かった(表7)。
【0200】
【表7】
【0201】
実施例19:抗EphA4モノクローナルヒト化抗体のヒトEphレセプターに対する選択性
実施例7に記載の方法と同様に、ヒトの各Ephレセプター(EphA1,EphA2,EphA3,EphA4,EphA5,EphA6,EphA7,EphA8,EphA10,EphB1,EphB2,EphB3,EphB4,EphB6)のシグナル配列と細胞外領域をコードするDNA配列を組織由来のTotal RNAを用いて、RT−PCRによって増幅し、SEAPタンパク質およびヒスチジンタグをコードするDNA配列を有するpENTR1Aベクター(Invitrogen/LifeTechnologies)にクローニングした。次に、ヒトの各Ephレセプターのシグナル配列と細胞外領域、SEAPタンパク質およびヒスチジンタグをコードするDNA配列をGateway System(Invitrogen/LifeTechnologies)のLR反応により、pcDNA3.1_rfcBベクターに移し、ヒトの各Ephレセプターの細胞外領域に対してSEAPタンパク質とHisタグを融合したタンパク質(「Ephレセプター細胞外領域―SEAP―Hisタンパク質」という)を発現するベクター(「Ephレセプター細胞外領域―SEAP―Hisタンパク質発現ベクター」という)を構築した。
【0202】
次に、Expi293発現システム(Gibco/ThermoFisher)を用いて、ヒトの各Ephレセプター細胞外領域―SEAP―Hisタンパク質発現ベクター を、Expi293F細胞(Gibco/ThermoFisher)に導入した。5日間のインキュベーション(5%CO
2、37℃)の後、培養上清を回収し、室温で1500rpm、5 分間遠心した。遠心上清を0.45μmフィルター (Millpore)でろ過した。
実施例16で得た抗EphA4モノクローナルヒト化抗体について、ヒトEphレセプターの結合活性の評価は、以下の工程に従って行った。
ウサギ抗6―His抗体(Bethyl Loboratories)を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル上にコートした。ウェルを室温にて1時間ブロッキングした後、1%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)により、4℃にて一晩インキュベートした。0.05% Tween20/PBS(ナカライテスク)で3回洗浄した後、ウェルにヒトEphA1,EphA2,EphA3,EphA4,EphA5,EphA6,EphA7,EphA8,EphA10,EphB1,EphB2,EphB3,EphB4,EphB6のSEAP−Hisタンパク質(最終濃度1nM)、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、ウェルにヒト化抗体を添加し、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ロバ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Loboratories)を加え、室温にて1時間インキュベートした。3回洗浄した後、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(KPL)をウェルに加えて、適度な発色を確認したらウェルに等量の反応停止溶液(1N H
2SO
4、和光純薬)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Scientific)により450nmの吸光度を読み取った。
【0203】
ヒトEphA4(hEphA4−SEAP−His)の450nmの吸光度を100%としたときの割合を表8にまとめたところ、表5の全てのヒト化抗体は、元の抗体A同様、ヒトEphA4に対して特異的に結合することが分かった(表8)。
【0204】
【表8】
【0205】
実施例20:抗EphA4モノクローナルヒト化抗体のin vitro ALSモデルにおけるヒトiPS細胞由来運動ニューロン保護効果
ヒトiPS細胞の維持培養は、以下の工程に従って行う。液体窒素でStem cell banker(Takara)にて凍結保存されたヒトiPS細胞(201B7)を液体窒素気層から取り出し,素早く予め37℃に加温しておいたヒトiPS細胞培養培地(Essential8, Thermofisher scientific)5mLに懸濁・融解する。15mLコニカルチューブ(ファルコン)に細胞懸濁液を回収し、遠心後(1000rpm、5分、室温),上清を除き,新たな培地に懸濁後,あらかじめ0.5μg/cm2 Human recombinant vitronectin(Invitrogen)でコーティングを行ったφ60 mm細胞培養ディッシュ(Falcon BD)に播種し、10μM Y-27632(和光純薬)を添加し、CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で維持培養を行う。毎日、培地交換を行い、コンフルーエントに達した時点で、実験に供する。
【0206】
実施例16で得た抗EphA4モノクローナルヒト化抗体のin vitro ALSモデルにおける運動ニューロン保護効果の評価は、以下の工程に従って行う。維持培養したヒトiPS細胞の培養培地をアスピレートし、2mL PBS(和光純薬)で洗浄する。PBSをアスピレート後、0.5mM EDTAを500μL添加し、CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で2−3分インキュベートする(30秒毎に顕微鏡で確認を行い、細胞同士の結合が弱くなった時点で、インキュベートを中止する。)。5mLのヒトiPS細胞培養培地で懸濁する事によって、EDTA反応を停止させ、15mLコニカルチューブに回収する。1000rpm、5分、室温で遠心を行い、上清をアスピレートする。ヒトiPS細胞塊を、低接着性6well細胞培養プレート(Nunclone sphere, Nunc)1wellに対して、約1/10量の細胞懸濁液を播種し、DFK培地(2%B27 supplement, 5%KnockOut serum replacement(Invitrogen),2mmol/L L−グルタミン,100units/mLペニシリン−100ug/mLストレプトマイシン,および0.1mmol/L β−メルカプトエタノール含有アドバンスドDMEM/F−12(Invitrogen): neurobasal medium(Invitrogen)[1:1]培地)に2μM SB431542(Sigma), 300nM LDN193189(Sigma), 3μM CHIR99021(Sigma)を加えてCO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で培養する。以下の方法で2日毎に培地交換を行う。まず、ヒトiPS細胞分化細胞塊(SFEBs)を培地ごと15mL コニカルチューブに回収し、5分間常温で静置することで、細胞塊を沈殿させる。この上清をアスピレートし、新たなDFK培地、および2 μM SB431542 (Sigma), 300 nM LDN193189 (Sigma), 3 μM CHIR99021(Sigma)を添加し、元のwellに戻すことで培地交換を行う。培養8日目に、SFEBsを培地ごと15mL コニカルチューブに回収し、5分間常温で静置することで、SFEBsを沈殿させる。この上清をアスピレートし、新たなDFK培地を加え、0.1μM Retinoic acid(Sigma), 0.5μM Purmorphamine(Milteny biotechnology)を添加して、元のwellに戻し、CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で培養する。2日毎に培地交換を行う。培養12日目に、SFEBsを培地ごと15mL コニカルチューブに回収し、5分間常温で静置することで、SFEBsを沈殿させる。上清をアスピレートし、500μLのAccumax(MS technosystems)を加えて数回ピペッティングした後、CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で5分インキュベートする。インキュベーターから細胞を取り出し、5mLのDFK培地で懸濁し、数回ピペッティングすることで、細胞塊を分散させる。細胞懸濁液をセルストレーナー(ファルコン)で、フィルトレーションして単一細胞に解離した後に、血球計算版で細胞数をカウントする。細胞懸濁液を、新たな15mLコニカルチューブに回収し、1000rpm、5分、室温で遠心する。運動神経培養培地(2%B27 Supplement,1%horse serum,2mmol/L L−グルタミン,100units/mLペニシリン−100ug/mLストレプトマイシン,および0.1mmol/L β−メルカプトエタノール含有アドバンスドDMEM/F−12(Invitrogen): neurobasal medium(Invitrogen)[1:1]培地))で細胞密度を5.5×105cells/mLの懸濁液に調製し、予めマウス由来野生型アストロサイトまたは変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトを8×104cells/wellで播種した8ウェルチャンバーに200μL/wellで播種し、アストロサイトと運動ニューロンの共培養細胞として評価に使用する(なお野生型、およびヒト変異SOD1(G93A)発現アストロサイトの樹立・凍結・融解・播種・維持培養は、実施例13と同様の方法で行う。)。野生型アストロサイトと運動ニューロンとの共培養で観察される運動ニューロン数をコントロールとする。薬物処置群では、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトと運動ニューロンとの共培養を行い、条件をvehicle添加(IgG、および0.1% 超純水),ヒト化抗体の添加とする。各条件で5%CO
2、37℃において2日間培養後,抗ISL1抗体(Developmental Studies Hybridoma Bankより入手)およびHoechst33342(Molecular probe)を用いて運動ニューロンを免疫細胞化学的に染色する。1wellあたりのISL1/Hoechst33342共陽性細胞を生存運動ニューロンとして計数し、運動ニューロン生存率はコントロールに対する%として算出する。
【0207】
変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイト/ヒトiPS細胞由来運動ニューロン共培養では、運動ニューロン生存率は著しく低下する。表5に記載のヒト化抗体は、変異ヒトSOD1(G93A)発現アストロサイトにより誘発されるヒトiPS細胞由来運動ニューロン死を濃度依存的に抑制する。これによって、抗EphA4モノクローナルヒト化抗体は、ヒト細胞において運動ニューロンの生存を促進することが示される。