特許第6770157号(P6770157)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6770157特定の投薬量の活性物質を皮膚又は粘膜に投与するための電気流体力学的に得られた繊維を含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770157
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】特定の投薬量の活性物質を皮膚又は粘膜に投与するための電気流体力学的に得られた繊維を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20201005BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20201005BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20201005BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20201005BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20201005BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A61K9/70
   A61K47/32
   A61K47/10
   A61K47/38
   A61K47/36
   A61K47/34
   A61K47/42
   A61K31/573
   A61P1/02
   A61P1/00
【請求項の数】30
【外国語出願】
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2019-169471(P2019-169471)
(22)【出願日】2019年9月18日
(62)【分割の表示】特願2017-517193(P2017-517193)の分割
【原出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2019-218400(P2019-218400A)
(43)【公開日】2019年12月26日
【審査請求日】2019年10月18日
(31)【優先権主張番号】PA201470342
(32)【優先日】2014年6月10日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】PA201470815
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】516372103
【氏名又は名称】エーエフワイエックス・セラピューティクス・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ハンセン
(72)【発明者】
【氏名】ラース・ヘレロング・クリスチャンセン
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/133910(WO,A1)
【文献】 特開2010−159268(JP,A)
【文献】 特開2005−290610(JP,A)
【文献】 特表2004−531301(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2813212(EP,A1)
【文献】 Oral Diseases, 2016.09, Vol.22, Supp. Supplement 2, pp.10-13, Abstract Number: A08
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61K 31/33−33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜パッチであって、
− 電界紡糸繊維を含む薬物送達層であって、前記電界紡糸繊維が、
ポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB);並びに
ポリエチレンオキシド
を含む、薬物送達層と、
− ポリ(カプロラクトン)を含む裏当て層と
を含む、粘膜パッチ。
【請求項2】
電界紡糸繊維が、プロピオン酸クロベタゾールをさらに含む、請求項1に記載の粘膜パッチ。
【請求項3】
薬物送達層中のポリエチレンオキシドの量が、8質量%から50質量%である、請求項1又は2に記載の粘膜パッチ。
【請求項4】
薬物送達層中のポリエチレンオキシドの量が、50質量%である、請求項1又は2に記載の粘膜パッチ。
【請求項5】
ポリエチレンオキシドの、ポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)に対する質量比が、0.1から2である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項6】
薬物送達層中のポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)の量が、50質量%から85質量%である、請求項1又は2に記載の粘膜パッチ。
【請求項7】
薬物送達層中のポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)の量が、50質量%である、請求項1又は2に記載の粘膜パッチ。
【請求項8】
ポリエチレンオキシドの平均分子量が、100,000Daから4,000,000Daである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項9】
ポリビニルピロリドンの平均分子量が、900,000Daから3,000,000Daである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項10】
ポリビニルピロリドンの平均分子量が、1,500,000Daである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項11】
前記ポリ(カプロラクトン)が、融解した電界紡糸ポリ(カプロラクトン)繊維を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項12】
裏当て層が、顔料をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項13】
口腔扁平苔癬の治療に使用するための粘膜パッチであって、
− 電界紡糸繊維を含む薬物送達層であって、前記電界紡糸繊維が、
プロピオン酸クロベタゾール;
繊維形成性親水性ポリマー;及び
生体接着性物質
を含む、薬物送達層と、
− 疎水性の裏当て層と
を含む、粘膜パッチ。
【請求項14】
繊維形成性親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリレート及びアクリル系コポリマー(Eudragit(登録商標))、並びにそれらの混合物から選択される、請求項13に記載の粘膜パッチ。
【請求項15】
繊維形成性親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)を含む、請求項14に記載の粘膜パッチ。
【請求項16】
生体接着性物質が、デキストラン、ポリエチレンオキシド(PEO)、アルギネート、トラガカント、カラギーナン、ペクチン、グアー、キサンタン、ジェラン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル酸のポリマー(PAA誘導体)、キトサン、レクチン、チオール化ポリマー、PAA-co-PEG(PEGは、ポリエチレングリコールである)、及びそれらの混合物から選択される、請求項13〜15のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項17】
生体接着性物質が、ポリエチレンオキシドを含む、請求項13〜16のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項18】
繊維形成性親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)を含み、生体接着性物質が、ポリエチレンオキシドを含む、請求項13〜17のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項19】
疎水性の裏当て層が、ポリ(カプロラクトン)、ポリエチレン-co-酢酸ビニル、又はそれらの混合物を含む、請求項13〜18のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項20】
疎水性の裏当て層が、ポリ(カプロラクトン)を含む、請求項13〜19のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項21】
薬物送達層中のポリエチレンオキシドの量が、8質量%から50質量%である、請求項16〜20のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項22】
薬物送達層中のポリエチレンオキシドの量が、50質量%である、請求項16〜20のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項23】
ポリエチレンオキシドの、ポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)に対する質量比が、0.1から2である、請求項14〜22のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項24】
薬物送達層中のポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)の量が、50質量%から85質量%である、請求項14〜22のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項25】
薬物送達層中のポリビニルピロリドン及びアンモニオメタクリレートコポリマー(タイプB)の量が、50質量%である、請求項14〜22のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項26】
ポリエチレンオキシドの平均分子量が、100,000Daから4,000,000Daである、請求項16〜25のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項27】
ポリビニルピロリドンの平均分子量が、900,000Daから3,000,000Daである、請求項14〜26のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項28】
ポリビニルピロリドンの平均分子量が、1,500,000Daである、請求項14〜26のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【請求項29】
前記ポリ(カプロラクトン)が、融解した電界紡糸ポリ(カプロラクトン)繊維を含む、請求項20に記載の粘膜パッチ。
【請求項30】
粘膜パッチが、患者の頬粘膜(頬の内側)に適用するための粘膜パッチである、請求項14〜29のいずれか一項に記載の粘膜パッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を含有する電気流体力学的に得られた繊維、及び皮膚、唇又は粘膜に適用して、皮膚又は粘膜に特定の量の1種又は複数の原薬を送達するための前記繊維を含む組成物に関する。製剤化の原理により、繊維中における生体接着性物質が、溶解していない材料の形態で確実に存在し、これにより例えば口腔中で唾液と接触したときにインサイチュでの生体接着性が可能になる。繊維は層の形態であり、1つ又は複数の更なる層、例えば水又は唾液中で不溶性である裏当て層、及び/又は最終的な組成物からの原薬の放出に影響を与え得る層と共に提供することができる。
【0002】
更に、本組成物は、例えば炎症性腸疾患を処置するための声帯又は腸等の内部の湿潤表面への局所適用に好適である。注目すべきことに、本発明は、口腔に適用して口腔粘膜に原薬を送達するための、電気流体力学的に得られた繊維を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
罹患した皮膚又は粘膜の処置に関する1つの又は主要な問題は、罹患した皮膚又は粘膜に適正な量の原薬を送達することである。皮膚又は粘膜における疾患の処置において使用するための組成物は、様々なサイズの罹患した領域に可変量の組成物を塗り広げることによって患者によって適用されるクリーム剤、軟膏剤又はゲル剤の形態であることが非常に多く、その組成物は、様々な厚さの層で領域に塗り広げられる。
【0004】
したがって、通常、例えば用量と作用との関係、個人間変動と個人内変動との関係等に関する信頼できる結果を得ることは非常に難しい。
【0005】
硬膏のような経皮システムは通常、皮膚を透過しなければならない原薬に使用されており、すなわちこれらは、原薬が皮膚又は粘膜上又はそれ以内で局所的に作用すべきである皮膚又は粘膜の疾患の処置における使用を意図していない。US4,765,983は、口内炎で使用するための接着性医療用テープに関する。テープは、腸溶性ポリマーからなる支持層と、ステロイドを含有する水溶性ポリマーから本質的になる少なくとも2種の医薬品を含有する層とを含む。
【0006】
投薬のばらつきが、皮膚又は粘膜疾患の処置を制御すること、更に、例えば処置に関するベネフィット/リスクプロファイルの判断が難しい場合があるために処置の継続又は中断に関して適正な決定をなすことを非常に難しくしている。例えば全身性副作用が観察されている場合、その副作用が、過剰投与(例えば組成物を塗り広げる面積が広すぎるために、患者が適用する用量が多くなりすぎること、又は患者が塗り広げる組成物の層が厚くなりすぎること)に起因するのかどうか、又はその副作用が、単に処置の打ち切りによって回避できるのかどうかを識別することは難しい。また過小投与も、特にクリーム剤、軟膏剤、ローション剤又は他の液体若しくは半流動体組成物が使用される場合、外用療法における問題になり得る。一般的に、外用処置を受けた患者の30%が過小投与になりやすい。
【0007】
規制保健機関により承認された医薬組成物を得るために、治療作用、適応症、副作用、毒作用、投薬量等に関する実体的な裏付けが必要である。この目的を達成するために、投薬量におけるばらつきに関する作用を回避又は実質的に低減できること、すなわち適用された用量が確実に制御されて、組成物を適用する患者の判断(例えば面積、厚さ、頻度等)に委ねられないことを可能にすることが有利であると予想される。この方式では、より信頼できるベネフィット/リスクプロファイルを得ることができる。
【0008】
更に、口腔粘膜における疾患の処置において使用するための組成物は、有効であるためには、特定の期間にわたり罹患した部位に留まらなければならない。例えばフィルムのような組成物は、罹患した口腔の処置に使用されることが意図されていないことが多いが、比較的迅速な体循環への吸収を達成するために使用される。フィルムは通常、比較的迅速に崩壊することから、それらを使用に不向きにしているか、又は1日多くの回数適用される場合がある。
【0009】
別の問題は、口腔、又は膣、眼粘膜等の湿潤した環境中に位置する他の粘膜への投与に関する。多くの疾患が口腔に存在しており、局所処置を必要とする(例えば口腔扁平苔癬)。このような処置は、液剤、クリーム剤、ペースト剤、又は軟膏剤の使用によることが多く、その場合、それらは、罹患した領域上に組成物を指で塗り広げることにより投与される。上述の不利益に加えて、舌の動きと共に唾液腺によって産生された唾液は、投与部位から組成物を除去する傾向があり、処置の作用を低減することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US4,765,983
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kockishら、Journal of Controlled Release、77 (2001) 1〜6
【非特許文献2】T.J. Franz、「The finite dose technique as a valid in vitro model for the study of percutaneous absorption in man」、Current Problems in Dermatology、1978、J.W.H. Mall(編)、Karger、Basel、58〜68頁
【非特許文献3】OECD Guidelines for the testing of chemicals-In Vitro Skin Irritation: Reconstructed Human Epidermis Test Method. 439
【非特許文献4】欧州薬局方5.0(5.11章、565頁)
【非特許文献5】欧州薬局方(1.4章、7頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、皮膚若しくは粘膜に位置する疾患又は発明の分野で説明されるような疾患を処置するための組成物であって、罹患した領域に特定の容量を容易に適用できるような方式で設計されている組成物を開発する必要がある。注目すべきことに、本組成物は、長期にわたり適用部位に留まることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
i)第1の溶媒中で可溶性である繊維形成性親水性ポリマー、
ii)前記第1の溶媒中でわずかに可溶性である生体接着性物質、
iii)原薬
を含む電気流体力学的に得られた繊維を提供する。
【0014】
別々の態様において、本発明は、
i)第1の溶媒中で可溶性である繊維形成性親水性ポリマー、
ii)前記第1の溶媒中でわずかに可溶性である生体接着性物質
を含む電気流体力学的に得られた繊維に関し、すなわち繊維は、上述の繊維に類似しているが、原薬をまったく含有しない。繊維形成性親水性ポリマー、生体接着性物質、それらの濃度、生体接着性物質と繊維形成性親水性ポリマーとの比率及びこのような繊維を含む組成物に関する本明細書で述べられた全ての詳細は、必要な変更を加えて、原薬をまったく含有しない繊維又は組成物にも適用される。本発明者らは、このような繊維又はこのような繊維を含む組成物は、例えば口腔中における合併症のない創傷の処置等の特定の事例で使用するのに適している可能性があることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本状況において、電気流体力学的に得られた繊維という用語は、繊維が静電気を伴う方法により得られることを示すことが意図される。このような方法に関する全ての用語は、電気流体力学的な(EHD)方法であり、電界紡糸すること、電気噴霧すること、同軸電界紡糸、同軸電気噴霧、エマルジョン電界紡糸等を包含する。このような方法は、本発明に係る繊維の調製に関して本発明の一部であることが意図される。実用上の理由で用語「電界紡糸繊維」が使用されるが、これは、電界紡糸により得られた繊維に限定されるのではなく、上述したような電気流体力学的な方法により得られた繊維に限定されることが意図される。
【0016】
電界紡糸繊維は、皮膚、粘膜又は湿潤した内部表面に接着する薄層で提供される。原薬が電界紡糸繊維中に均一に分配されているために、層の表面積当たりの原薬の濃度は一定であり、原薬の用量は、測定された層面積を使用することにより容易に決定することができる。
【0017】
本発明の重要な特徴は、繊維形成性親水性ポリマーと生体接着性物質との組合せを使用することであり、2つの物質は、特定の溶媒中で異なる溶解性を有する。したがって、繊維形成性の親水性物質は、溶媒中で可溶性でなければならなく、それに対して生体接着性物質は、溶解しないか又は少なくとも少量の生体接着性物質しか溶解しないと予想される。
【0018】
溶媒は、C1〜C3アルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール若しくはイソプロパノール、又はそれらの混合物であり得る。溶媒又は溶媒混合物はまた、最大20%v/vの水性媒体、例えば水を含有していてもよい。
【0019】
いくつかの事例において、溶媒は、エタノール又はエタノール-水混合物である。エタノールは、20%v/vまで、通常約3〜10%v/vの水を含有していてもよい。
【0020】
溶媒又は溶媒混合物(以降一般的に「溶媒」と表される)が、繊維の調製に使用される。したがって、繊維を調製するために、成分は溶媒中に含有され、親水性ポリマーは、溶媒中に溶解され、生体接着性物質は、溶解していない形態であるか、又は生体接着性物質の少なくとも90%w/wが溶解していない形態である。成分は、同じタイプの溶媒中に溶解/分散されるが、電界紡糸プロセス中に1、2又は3種の異なる混合物として適用されてもよい。
【0021】
使用される溶媒中の親水性ポリマー及び生体接着性物質の溶解性は、本発明の繊維の所望の特性を得るために重要である。したがって、親水性ポリマーは、第1の溶媒中において、25℃で3g/100ml以上、又は25℃で10g/100ml以上の溶解性を有していなければならず、生体接着性物質は、前記第1の溶媒中において、25℃で0.5g/100ml以下、又は25℃で0.1g/100ml以下の溶解性を有していなければならない。
【0022】
溶解性の差のために、生体接着性物質は、小さい粒子として繊維に付着される。少量の生体接着性物質が溶媒中に溶解される可能性があり、それゆえに繊維の一体化された部分であり得るが、最大の生体接着性作用を達成するために、生体接着性物質が繊維に付着されていること、更に、繊維状構造が、本質的に繊維形成性親水性ポリマーの電界紡糸に起因することが予期される。
【0023】
原薬の特性に応じて、原薬は、繊維の一体化された部分であってもよいし、又は繊維に付着されているか又は繊維と混合されていてもよい。したがって、原薬が、使用される溶媒中で可溶性であり、繊維を形成することが可能である場合、原薬は、繊維の一体化された部分であり得る。これらの条件が存在しない場合、原薬は、繊維と混合された状態で本発明の繊維に付着されていると予想される。
【0024】
本状況において、用語「繊維の一体化された部分」は、物質が、繊維形成性親水性ポリマーと一緒になって繊維の繊維状構造を形成することを意味する。
【0025】
親水性ポリマーは、電界紡糸繊維における基礎的な成分であり、繊維材料を形成する能力を有する成分である。電界紡糸繊維又はそれらの組成物中のいずれかに存在する他の成分とのいかなる混同も回避するために、以降、用語「繊維形成性親水性ポリマー」が使用される。繊維形成性親水性ポリマーは、好適には、C1〜C3アルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノール、とりわけエタノール、プロパノール又はイソプロパノール中で可溶性であるか、又はその中でゲルを形成するポリマーである。紡糸プロセスは、紡糸プロセス中に溶解したポリマーの安定したストリームをニードルから接地収集プレートにジェット様の様式で流動させることができるように、繊維の主要な構成要素であるポリマーは溶解した形態であることを必要とする。
【0026】
好適な繊維形成性親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、アクリレート及びアクリル系コポリマー(例えばEudragit(登録商標))、及びそれらの混合物である。例えばエチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はそれらの混合物のような他のポリマーも使用され得る。エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はそれらの混合物は、特に、ポリビニルピロリドン(PVP)及び/又はアクリル系コポリマー(例えばEudragit(登録商標))等のアクリレートと組み合わせて使用され得る。例では、特にPVP及びアクリル系コポリマーが使用されている。
【0027】
ポリビニルピロリドンは、2,500Daから3,000,000Daのおよその分子量を有するグレードで使用することができる(例えば12から120のK値を有するポビドン)。PVPは、Kollidon(登録商標)として購入することができる。
【0028】
【表1】
【0029】
低MW範囲において、好適なグレードは、約25,000から約120,000Da、とりわけ約70,000から約100,000DaのMWを有することが予期される。本明細書における例において、Kollidon(登録商標)90Fが主として使用されており、したがって好ましいPVPは、約900,000〜約3,000,000、とりわけ約1,000から約1,500,000のMWを有する。
【0030】
エチルセルロースは、ETHOCEL(商標)(Dow Chemical社)という商標で販売されており、多くの様々なグレードで入手可能である。Dow Chemical社は、2つのエトキシルタイプ(スタンダード及びミディアムと表される)でエチルセルロースを生産する。そのエトキシル含量に応じて、エチルセルロースは、異なる軟化点及び融点温度を有し得る。エチルセルロースはまた、多数の異なる粘度でも生産される。以下の表に、入手可能なエチルセルロースの一覧を示す。
【0031】
【表2】
【0032】
可塑化した形態において、エチルセルロースは優れた熱可塑性を有し、成形、押出し又はラミネーションによって作製される組成物に有用である。エチルセルロースはまた、優れた塗膜形成剤でもあり、例えば錠剤のコーティングで使用される。上述のエチルセルロースの品質は、少なくとも45.0%のエトキシル含量を有することから、これらはエタノール中で可溶性であり、実際的には水に不溶性である。
【0033】
アクリレート及びアクリル酸誘導体としては、ポリメタクリレート、メタクリレートコポリマー、アクリル系コポリマー及びメタクリレートポリマーが挙げられる。好ましいアクリレートは、EUDRAGIT(登録商標)という商標で販売されているものであり、これは、エタノール、又はアクリレート/オクタアクリルアミドコポリマー(DERMACRYL79という名称で販売されている)中で可溶性である。これらとしては、EUDRAGIT(登録商標)E12,5(アミノメタクリレートコポリマー)、EUDRAGIT(登録商標)E100(アミノメタクリレートコポリマー;塩基性ブチル化メタクリレートコポリマー)、EUDRAGIT(登録商標)E PO(アミノメタクリレートコポリマー)、EUDRAGIT(登録商標)L100-55、EUDRAGIT(登録商標)L100(メタクリル酸-メチルメタクリレートコポリマー1:1)、EUDRAGIT(登録商標)S100(メタクリル酸-メチルメタクリレートコポリマー1:2)、EUDRAGIT(登録商標)RL100、EUDRAGIT(登録商標)RL100(アンモニオメタクリレートコポリマータイプA)、EUDRAGIT(登録商標)RL PO、EUDRAGIT(登録商標)RS100(アンモニオメタクリレートコポリマータイプB)、EUDRAGIT(登録商標)RS POが挙げられる。EUDRAGIT(登録商標)Eは、ジメチルアミノエチルメタクリレート及び他の中性メタクリル酸エステルをベースとするカチオン性ポリマーであり、EUDRAGIT(登録商標)L及びSは、メタクリル酸コポリマーであり、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとのカチオン性共重合生成物である。EUDRAGIT(登録商標)RL又はRSは、アクリル酸とメタクリル酸とから合成されたアンモニオメタクリレートコポリマーである。
【0034】
EUDRAGIT(登録商標)E100は、pH5.5まで可溶性であり、E12.5は、pH5超で可溶性である。
【0035】
EUDRAGIT(登録商標)L30D-55、L-100-55(メタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー1:1)、L100、L12,5は通常、腸溶製剤に使用されるが、本発明の繊維からの原薬の放出を遅延させるために使用される場合もある。EUDRAGIT(登録商標)L30D-55、及びL-100-55は、約pH5.5で溶解し、グレードL100及びL12,5は、pH6以上で溶解する。
【0036】
唾液中のpHは通常約5〜6であるため、これらのポリマーは、経口で使用するための繊維に重要である。持続放出又は持効性放出が望ましい場合、より低い又はより高いpHで可溶性であるポリマーが、使用に好適であり得る。
【0037】
EUDRAGIT(登録商標)製品はまた、持続放出性製剤にも利用可能であり、このようなグレードは、単独で又は別の親水性ポリマーと一緒になって本発明の繊維中に取り込むのに重要であり得る。関連グレードは、RL、RS、NE及びNMシリーズに属しており、例えばRL100、RLPO、RL30D、及びRL12,5、RS100、RS PO、RS30D、及びRS12,5、NE30D及びNE40D、及びNM30Dである。
【0038】
ヒドロキシプロピルセルロースは、非イオン性水溶性セルロースエーテルである。ヒドロキシプロピルセルロースは、有機溶媒の溶解性、熱可塑性及び表面活性と、その増粘及び安定化特性とを併せ持つ。この繊維は、フレキシブルであり、高い湿度で非粘着性である。ヒドロキシプロピルセルロースは、KLUCEL(商標)という名称で販売されている。
【0039】
本状況において、好ましい繊維形成性親水性ポリマーは、PVP、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、アクリレート及びアクリル酸誘導体、並びにそれらの混合物から選択される。
【0040】
本発明に係る繊維中の繊維形成性親水性ポリマーの濃度は、通常、約40%から約92%w/w、とりわけ約50から約85%w/w又は約60%から75%w/wである。
【0041】
また本発明の繊維は、生体接着性物質も含有する。繊維の簡単な製造を確実にするために、更に粘膜に適用後にインサイチュにおける所望の生体接着特性を達成するために、生体接着性それ自身が、繊維形成性親水性ポリマーを含有する溶液の粘度に大きく寄与しないことが重要である。
【0042】
本状況において、用語「生体接着性」又は「生体接着性」は、皮膚の表面、唇又は粘膜表面等の特定の生物学的な場所への付着を示す。生体接着性物質は、本発明の薬物を含有する繊維への生体接着を付与し、又はある特定の事例において、生体接着性物質は、例えば適用後に皮膚又は粘膜に面する内部層となる別個の層、すなわち皮膚又は粘膜と接触する層として、本発明の組成物中に包含されていてもよい。
【0043】
本状況で使用するための生体接着性物質は、デキストラン、ポリエチレンオキシド、アルギネート、トラガカント、カラギーナン、ペクチン、ゼラチン、グアー、キサンタン、ジェラン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチル-セルロース及びそれらのアルカリ塩、アクリル酸のポリマー(PAA誘導体)、キトサン、レクチン、チオール化ポリマー、polyox WSRA、PAA-co-PEG(PEGは、ポリエチレングリコールである)、及びそれらの混合物から選択できる。
【0044】
一般的に、ポリマーの接着作用は、分子量の増加に伴い増加することが予想される。したがって、一般的に、比較的高い分子量を有する接着性ポリマーが好ましい。
【0045】
ポリエチレンオキシドは、100,000から4,000,000のおよその分子量を有するグレードで使用することができる。好ましいグレードは、約700,000から約4,000,000の平均分子量を有する。ポリエチレンオキシドは、POLYOX(商標)(Dow Chemical社)という名称で販売されており、100,000から7,000,000Daの範囲の分子量を有する。本明細書における例からわかるように、好適なポリエチレンオキシドは、2,000,000Da以上の分子量、例えば2,000,000〜7,000,000Daの分子量を有する。
【0046】
デキストランは、400,000Daから約2,000,000Daのおよその分子量を有するグレードで使用することができる。好ましいデキストランは、約500,000から約2,000,000Da、とりわけ約700,000から約800,000Da又は約1,000,000から約2,000,000Daの分子量を有する。
【0047】
セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースを包含する。
【0048】
メチルセルロースは、METHOCEL(商標)(Dow Chemical社)という名称で販売されており、多様な粘度グレードで(3未満から100,000mPA秒超に至る)入手可能である。
【0049】
HPMCは、粘度に応じて様々な品質で販売されている。HPMCは、Metocel(登録商標)及びKlucel(登録商標)という名称で販売されている。好適なHPMCは、約80,000から約140,000の平均分子量を有する。
【0050】
カルボキシメチルセルロースは、幅広いグレードの選択で入手可能である。粘度は、10から100,000mPa秒の範囲である。カルボキシメチルセルロースはまた、広範囲の置換レベルを有するそのナトリウム塩としても入手可能でもある。Dow Chemical社は、カルボキシメチルセルロースナトリウムをWALOCEL(商標)という名称で販売している。
【0051】
ポリビニルアルコールは、20,000Daから200,000Daのおよそ分子量を有するグレードで使用することができる。
【0052】
好ましい生体接着性物質は、ポリエチレンオキシド、デキストラン又はそれらの組合せである。
【0053】
本発明に係る繊維に生体接着性物質を包含させることにより、生体接着性であり、剥がれ落ちることなく皮膚又は粘膜表面上に長期にわたり留まることができる最終的な製剤を得ることが可能になる。
【0054】
好適な生体接着性を確実にするためには、表面積当たりの繊維中の生体接着性物質の量が重要である。
【0055】
繊維中の生体接着性物質の濃度は、総乾燥質量の合計に基づき、約5%から約60%w/w、とりわけ約8%から約50%又は約10%から約40%w/wである。
【0056】
本発明者らは、繊維中の生体接着性物質と親水性ポリマーとの質量比は、0.1から10、例えば0.2から10の範囲であるべきであることを見出した。質量比は、使用される特定の親水性ポリマー及び特定の生体接着性物質に依存する可能性があるが、通常、上述の範囲が適用可能である。生体接着性物質が有する生体接着性能が高ければ高いほど、より低い質量比が必要となり、逆もまた同様であることから、質量比は、ある程度、選択された生体接着性物質によって決まると予想される。しかしながら、示された数値が、一般的な指針とみなされる。本明細書に記載の例では、更なる例が示される。特定には、生体接着性物質と親水性ポリマーとの質量比が0.1から4又は0.1から2である場合に好適な結果が得られた。
【0057】
また本発明に係る繊維は、原薬も含有する。原薬は、皮膚、唇、又は粘膜の疾患の処置に適応される原薬から選択されるか、又は本明細書で説明されるような内部表面に適用するための組成物中に繊維が包含される事例では、原薬は、特定の処置に適応されるあらゆる原薬であり得る。本状況において、原薬は、口腔中の疾患を処置するのに適応される原薬、例えば、口腔中の疾患を局所処置するのに適応される原薬から選択され得る。特に重要な原薬が本明細書で述べられる。原薬は、使用される親水性ポリマー及び生体接着性物質中での薬物の溶解性に応じて、溶解した、溶解していない、又は部分的に溶解した形態で存在し得る。
【0058】
本発明に係る繊維はまた、本明細書で述べられた賦形剤を含む1種又は複数の医薬的に許容される賦形剤を含有していてもよい。以下で述べられる賦形剤の他にも、繊維は、可塑剤を含有していてもよい。可塑剤は、一定の可塑性を繊維に付与し、製造プロセスを容易にして、及び/又は親水性ポリマーのフレキシビリティー及び加工性を向上させる可能性がある。好適な可塑剤の例は、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸トリブチル若しくはクエン酸トリエチルのようなクエン酸エステル、ヒマシ油、ジアセチル化モノグリセリド、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、ソルビトール、トリアセチン若しくはトリブチリンのようなグリセロール若しくはグリセロール誘導体、硝酸セルロースのようなセルロース誘導体、ポリエチレングリコール、とりわけ約100から約1500の分子量を有するポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールのようなグリコール、又はそれらの混合物である。
【0059】
可塑剤は、原薬の放出速度に影響を与える可能性がある。したがって可塑剤はまた、放出速度調節剤とみなされる場合もある。通常、可塑剤の濃度における変化は、放出速度に影響を与えると予想される。通常、及び存在する場合、繊維中の可塑剤の濃度は、0から約10%w/w、例えば約0.5から約5%w/wの範囲である。
【0060】
電界紡糸繊維はまた、電界紡糸繊維からの原薬の放出速度を調整又は操作するために、溶解性改善剤を含有していてもよい。原薬は、存在する場合、電界紡糸繊維を作製する装置に供給される前に、溶解性改善剤、及び任意選択で1種又は複数の揮発性溶媒、とりわけC1〜C3アルカノール中に溶解される。この方式で、原薬を含有する溶解性改善剤が、確実に電界紡糸繊維内に配置される。好適な溶解性改善剤としては、ポリオキシエチレン脂肪アルキルエステル、直鎖又は分岐状C8〜C14脂肪酸のイソプロピルエステル、C8〜C14アルカノール又はアルケノールのプロピレングリコールモノ又はジエステル、直鎖又は分岐状C8〜C24アルカノール又はアルケノール、C6〜C22アシルグリセリド、N-アルキルピロリドン又はN-アルキルピペリドン、及びパラフィン等の鉱油が挙げられる。
【0061】
ポリオキシエチレン脂肪アルキルエステルは、好適には、ポリオキシエチレン-15-ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン-11-ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン-14-ブチルエーテル、ポリオキシエチレン-10-セチルエーテル、及びポリオキシエチレン-3-ミリスチルエーテルからなる群より選択される。
【0062】
直鎖又は分岐状C8〜C14脂肪酸のイソプロピルエステルは、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソプロピル、リノール酸イソプロピル(isopropyl linolate)又はイソプロピルモノオレエートである。
【0063】
C8〜C14アルカノール又はアルケノールのプロピレングリコールモノ又はジエステルは、モノラウリン酸プロピレングリコール、モノカプリル酸プロピレングリコール又はプロピレングリコールジペラルゴネートである。
【0064】
直鎖又は分岐状C8〜C24アルカノール又はアルケノールは、カプリル、ラウリル、セチル、ステアリル、オレイル、リノイル(linoyl)又はミリスチルアルコール又は2-オクチルドデカノールであり得る。
【0065】
C6〜C22アシルグリセリドは、植物油、例えばゴマ油、ヒマワリ油、パーム核油、トウモロコシ油、ベニバナ油、オリーブ油、アボカド油、ホホバ油、ブドウ核油、キャノーラ油、小麦胚芽油、アーモンド油、綿実油、落花生油、クルミ油若しくはダイズ油、高度に精製した植物油、例えば中鎖トリグリセリド(カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド)、長鎖トリグリセリド、ヒマシ油、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸/カプリン酸モノ及びジグリセリド又はカプリル酸/カプリン酸モノ-、ジ若しくはトリグリセリドである。
【0066】
N-アルキルピロリドンは、典型的にはN-メチルピロリドンであり、N-アルキルピペリドンは、典型的にはN-メチルピペリドンである。
【0067】
溶解性改善剤はまた、オレイン酸及びリノール酸を包含する、中鎖、長鎖又は超長鎖脂肪酸を含む脂肪酸であってもよい。
【0068】
電界紡糸繊維中の溶解性改善剤の濃度は、存在する場合、0から約10%w/w、例えば約0.5から約5%w/wの範囲である。
【0069】
繊維(層として調製される)の厚さは、意図した使用に応じて変更され得る。繊維の好適な強度を確実にするために、厚さは通常、マイクロメートルから約5mmの範囲である。厚さは、紙の厚さと同様である。
【0070】
電界紡糸繊維(シートのように見える)の厚さは、シートの長さ及び幅全体にわたり同じである。本状況において、用語「同じ」は、長さ1m及び幅1mにわたる厚さの差が最大10%であることを意味する。
【0071】
生体接着性物質及び原薬は、繊維材料中に均一に分配されており、これは、繊維によって担持される物質(生体接着性物質、原薬及び任意選択で本明細書で述べられた物質/添加剤)の濃度は、表面積当たり同じであることを意味し、ここで表面積は、繊維シートの所与の部分の長さ×幅として測定される。
【0072】
各繊維は、所定量の生体接着性物質及び原薬を含有し、他の添加剤又は成分が採用されている場合は、このような物質も繊維の一部となる。
【0073】
繊維からの原薬の放出は、具体的な原薬及び意図した使用に応じて即時放出又は放出調節であり得る。例えばより遅い放出を達成するために、放出速度は、
i)平均分子量を増加させた繊維形成性親水性ポリマーの使用、
ii)通常、持続放出組成物又は腸溶性組成物での使用が意図される、繊維形成性親水性ポリマーの使用、
iii)繊維形成性親水性ポリマーの混合物の使用、ここでポリマーの少なくとも1種は水又は唾液中で不溶性である、使用、
iv)生体接着性物質の濃度を増加させて、例えば生体接着性物質が膨潤を引き起こす可能性がある口腔への適用時に、よりコンパクトな繊維を得ること、
v)繊維中のネットワーク構造のコンパクトさを増加させること(代替として電界紡糸繊維の架橋)、
iii)厚さを増加させること、
iv)繊維の直径を増加させること、
v)製造方法を変化させること(例えば単純なニードルノズルから同軸注入に)、
vi)繊維層への、例えば疎水性材料の更なる層の適用であって、ここで疎水性層は、口腔粘膜に最も近くに適用されることが意図されており、したがって繊維からの原薬の放出を遅くする、適用
によって調整され得る。
【0074】
裏当て層として使用できる好適な疎水性材料は、ポリ(カプロラクトン)である。
【0075】
同様に、例えばより速い放出を達成するために、放出速度は、
i)平均分子量を減少させた繊維形成性親水性ポリマーの使用、
ii)生体接着性物質の量を減少させて、繊維のコンパクトさを減少させること、
iii)溶解性改善物質の濃度を増加させること、
iv)繊維の多孔率を増加させること、
v)繊維の層の厚さを減少させること、
vi)繊維中のネットワーク構造のコンパクトさを減少させること、
vii)溶解性改善物質の濃度を増加させること、
viii)繊維の直径を減少させること、
ix)製造方法を変化させること(例えば同軸注入から単純なニードルノズルに)
によって調整され得る。
【0076】
本発明に係る繊維は、医療において、とりわけ皮膚又は粘膜に位置する疾患の処置のために使用することができる。
【0077】
具体的な態様において、本発明に係る繊維は、口腔の疾患の処置で、とりわけ口腔粘膜の局所処置に使用するためである。
【0078】
このような繊維は、皮膚又は粘膜のような領域にある疾患の処置のために、皮膚又は粘膜に適用するための医薬組成物で使用するのに好適である。本状況において、用語「粘膜」は、口腔中の、膣中の、直腸中の、目中の、耳中の粘膜、加えて唇を包含する。繊維はまた、例えば臓器(例えば肝臓、脾臓、心臓等)、声帯等の組織、胃腸粘膜等の粘膜等の内部表面に適用するための組成物中においても有用である。電界紡糸繊維の性質のために、本発明の組成物は、組成物又は電界紡糸繊維で採用される成分を変更することにより、原薬の即時放出又は原薬の制御放出のために提供することができる。典型的には、電界紡糸繊維は適用後に目に見えなくなるため、例えば顔中の皮膚又は粘膜のあらゆる部分に組成物を適用することが可能になる。適用された組成物上に例えば化粧品を適用することも可能である。これは、処置が目に見える痕跡をまったく残さないために優れた患者のコンプライアンスを可能にする。
【0079】
本発明はまた、電界紡糸繊維を含む医薬組成物、電界紡糸繊維を得るための方法、並びに医療における電界紡糸繊維及び医薬組成物の使用にも関する。
【0080】
医療における電界紡糸繊維の使用は、以下の利点の1つ又は複数をもたらす:
i)例えば組成物を放出制御組成物として設計することにより、治療作用を改善する可能性がある。この方式において、原薬は、長期にわたり組成物から放出され、適用された部位で原薬がピーク濃度になることが回避される。このようなピーク濃度は、刺激等の望ましくない作用に関与することが非常に多い。
【0081】
ii)電界紡糸繊維は乾燥状態であり、すなわち組成物中に存在する水の量が皆無か極めてわずかである。更に、通常皮膚又は粘膜における疾患を処置するのに使用される、劣化に晒される可能性がある半固体組成物は、植物油、ワックス、界面活性剤のような賦形剤を含有していてもよい。通常、組成物が液体溶媒を含有する場合に劣化がより速いことから、安定性上の見通しから、溶媒が存在しないか又は少量のみの溶媒が存在する組成物を開発することが利点がある。したがって、本発明の電界紡糸繊維及び組成物の長い保存期間が想定される。
【0082】
iii)繊維を電界紡糸する方法は、1種より多くの原薬を含有させて繊維を得ることを可能にする。様々な原薬は、1つのバルブを介して、又は異なる原薬に異なるバルブを使用することによって(又はこれらの2つの例示的な例を組み合わせて)、所望の濃度で溶媒中に溶解又は分散された全ての原薬を含有する1種の組成物を注入することによって紡糸プロセスに添加され得る。別の可能性は、1種の原薬を含有する1つの繊維層を提供し、次いでこの層の上に、第2の原薬を含有する別の繊維層を提供することである。したがって、2種以上の原薬を有する組合せ製品を容易に得ることができる。
【0083】
iv)原薬は、電界紡糸繊維中に均一に分配されると予想されるため、適正な投与量が保証され、例えば表面積当たりの原薬の量として表すことができる。
【0084】
v)電界紡糸繊維及び組成物は、皮膚又は粘膜に非常にやさしい。繊維は適用時に透明になり、繊維/組成物の上に化粧品を適用することができる。
【0085】
vi)電界紡糸繊維/組成物は、適用が簡単である。通常、組成物は、3つの層、すなわち剥離性ライナー層(release-liner layer)、電界紡糸繊維を含有する層、及び任意選択で裏当て層を含有する。剥離性ライナー層は、薬物を含有する層のための保護層として役立ち、適用前に除去されることになる。裏当て層は、適用部位から除去されること(例えば口腔中、舌の動き又は唾液の存在によって)から組成物を保護するコーティングとみなすことができ、又は皮膚又は粘膜への活性物質の放出を促進する封止層(occlusive layer)とみなすことができる。
【0086】
vii)通常皮膚又は粘膜の疾患を処置するのに使用される組成物とは対照的に、本発明の電界紡糸繊維及び組成物は悪臭がない。
【0087】
viii)本発明の電界紡糸繊維及び組成物は、アルコール又は界面活性剤を含有しないか、又はいかなる実質的な量のアルコール又は界面活性剤も含有しない。外用又は粘膜用組成物におけるこのような物質の存在は、皮膚又は粘膜の刺激を引き起こすことが多い。
【0088】
ix)本発明の電界紡糸繊維及び組成物は、いかなる保存剤も含有しない。
【0089】
しかしながら、等しい結果を得るために、他の方法、例えば静電力を含む他の方法が使用される可能性があることが予期される。このような方法に関する総体的な用語は、電気流体力学的な(EHD)方法であり、電界紡糸、電気噴霧、同軸電界紡糸、同軸電気噴霧、エマルジョン電界紡糸等を包含する。このような方法は、本発明に係る繊維の調製に関して本発明の一部であることが意図される。
【0090】
医薬組成物
本明細書で述べたように、本発明はまた、本明細書で説明される電界紡糸繊維を含む医薬組成物も提供する。
【0091】
医薬組成物は、皮膚又は粘膜表面、とりわけ口腔の粘膜表面上への使用が意図される。本発明の組成物は、典型的には、1つ又は複数の層を含有するシートの形態であり、ここで少なくとも1つの層は電界紡糸繊維を含有し、電界紡糸繊維は原薬を含有する。組成物は、シートの形態で提供することができる。組成物は、丸い、長い、又は多角形の形状を有していてもよい。本発明の組成物は、シート、層化された組成物、膜、又はパッチと称することができる剤形である。
【0092】
単純な形態において、組成物は、1つの層のみ、すなわち薬物を含有する電界紡糸繊維の層のみを含有する。このような組成物は、皮膚への使用に好適である。適用後、組成物は、その生体接着性特徴のために適用部位上に留まり、透明になる。
【0093】
組成物はまた、1つより多くの層、例えば2又は3つ以上の層を含有していてもよい。組成物が例えば2つの層を含有する場合、各層が、薬物を含有する電界紡糸繊維の層であってもよく、その場合、2つの層中の原薬は、同一でもよいし又は異なっていてもよい。2つの異なる層からの原薬の異なる放出パターンを容易にするために、2つの層は、繊維形成性親水性ポリマー及び/又は生体接着性物質の性質及び含量に関して異なる組成物を有していてもよい。別の例は、組成物が、薬物を含有する電界紡糸繊維の1つ又は複数の層、及び別の治療上不活性な層を含有していることであり、この治療上不活性な層は、水分又は唾液から薬物を含有する層を保護するための裏当て層として機能するか、又は皮膚又は粘膜への原薬の透過を促進することができる封止層として機能する。このような組成物が口腔粘膜に適用される事例において、薬物層が適用部位から洗い流されると、組成物の嚥下を引き起こすと予想され、それによって所望の局所治療作用が低減又は消滅することから、裏当て層は、そのような洗い流しから薬物層を保護する。
【0094】
代替として、組成物は、特定の領域が1つのタイプの電界紡糸繊維で構成され、別の特定の領域が別のタイプの電界紡糸繊維で構成されている層を含有していてもよい。
【0095】
いくつかの事例において、薬物を含有する電界紡糸繊維の層及び/又は裏当て層との間に、原薬をまったく含有しない電界紡糸繊維の1つ又は複数の層を有することが望ましい場合がある。このような電界紡糸繊維の層は、原薬をまったく含有しないが薬物を含有する電界紡糸繊維の層と同じ組成物を有していてもよく、又は組成物は、異なっていてもよく、例えば繊維形成性疎水性ポリマー又は疎水性及び繊維形成性親水性ポリマーの混合物を含有していてもよい。このような層は、組成物からの原薬の放出を調整するのに使用され得ることが想定される。したがって、このような組成物は、放出制御組成物が望ましい事例において特に重要である。この方式において、副作用と臨床作用との改善された比率を得ることが予期され、すなわち不要な作用を低減し、同時に治療上有効な応答を達成することが可能になる。
【0096】
裏当て層は、典型的には、薬物を含有する層と共に紡糸するか、又は薬物を含有する層の上のコーティング層として提供されるかのいずれかである。典型的には、裏当て層は、例えば唾液に対する封止作用及び/又は保護作用を可能にする不透水性である。裏当て層に好適な材料としては、ポリエチレン-co-酢酸ビニル、エチル-セルロース、ポリ(カプロラクトン)、carbothane又はpolysoftaneが挙げられる。更に、アクリレート/オクチルアクリルアミドコポリマー(DERMACRL(登録商標)79という名称で販売されている)、アミノメタクリレートコポリマー(EUDRAGIT(登録商標))、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリレート、メタクリル酸メチル(例えばEUDRAGIT(登録商標)E100)及び他のアクリレート等の材料が、使用又は添加されてもよい。また上記で述べられるもののような可塑剤(例えばクエン酸トリブチル)が添加されてもよい。
【0097】
裏当て層は、存在する場合、通常、組成物と同程度の厚さを有する。裏当て層は、存在する場合、通常、組成物の約30〜60%w/wを構成する。
【0098】
組成物は、裏当て層に含有される物質を溶融させるために熱処理に供されてもよい。それらの作用は、組成物への水(又は唾液若しくは別の関連する体液)の透過を回避することによって、原薬の迅速すぎる放出のリスクを回避するか、又は薬物を含有する層からの裏当て層の不要な分離のリスクを回避するために、裏当て層のより緊密な構造を得ることである。採用される温度は、裏当て層中の物質の融解を達成することと、原薬の不要な劣化を回避することとのバランスであると予想される。ポリ(カプロラクトン)は、約65℃で融解する。
【0099】
本発明の組成物は、剥離性ライナー層と共に提供することができる。この層は、組成物の一部ではなく、皮膚又は粘膜に適用する前に除去されなければならない不活性層である。環境から組成物を保護しないで電界紡糸繊維のシートを取り扱いパックすることが難しいために、剥離性ライナー層は単に実用的な目的を果たす。したがって、組成物が1つのみの層、すなわち薬物を含有する電界紡糸繊維の層のみを含有する場合、組成物は、2つの最も外側の層表面の両方にある剥離性ライナー層と共に提供することができる。
【0100】
電界紡糸繊維及び/又は該繊維を含有する組成物はまた、1種又は複数の医薬的に許容される賦形剤を含有していてもよく、そのうちのいくつかはすでに本明細書で開示されており、賦形剤はまた、賦形剤が組成物の一部であるが電界紡糸繊維の内部には含有されないように本発明の組成物に添加されてもよい。
【0101】
このような賦形剤(これは、電界紡糸繊維の調製に使用される可能性もある)としては、香料又は甘味剤等の味マスキング剤;クエン酸塩、酢酸塩、又はリン酸塩のような緩衝物質等のpH調節剤;放出調節剤;孔形成剤、安定化剤;抗酸化剤;顔料; 尿素、グリセロール等を含む整肌剤(skin conditioning agent)、グリセロール、メントール、ユーカリプトール又はニコチンアミド等の抗刺激剤(anti-irritative agent);グリセロール等の抗核剤;アゾン、N-メチルピロリドン、プロピレングリコール等の浸透促進剤が挙げられる。
【0102】
組成物からの原薬の放出は、採用される特定の原薬及び意図される使用に応じて、即時でもよいし、又は改変されていてもよい。放出速度は、上記で「電界紡糸繊維」という項目下で説明したようにして調整されてもよいし、及び/又は特定の医薬的に許容される賦形剤の使用によって調整されてもよい。
【0103】
より速い放出は、浸透促進剤の使用によって、及び/又は可塑剤の包含によって達成される場合もある。
【0104】
皮膚又は粘膜での使用に好適な本発明の組成物は、典型的には、
i)約75〜100%w/wの、薬物を含有する電界紡糸繊維、
ii)約0〜25%w/wの、1種又は複数の医薬的に許容される賦形剤(本明細書で説明した通り)
で構成される。
【0105】
皮膚又は粘膜での使用に好適な本発明の組成物は、典型的には、
i)約50〜70%w/wの、薬物を含有する電界紡糸繊維、
ii)約0〜10%w/wの、1種又は複数の医薬的に許容される賦形剤(本明細書で説明した通り)、及び
iii)約30から50%w/wの、裏当て層
で構成される。
【0106】
本発明に係る繊維を調製するための方法
本発明はまた、電界紡糸繊維を調製するための方法も提供する。
【0107】
第1の方法は、電界紡糸繊維を得るために、
i)第1の溶媒中に親水性ポリマーを溶解させる工程、
ii)工程i)から得られた溶液中に生体接着性物質を懸濁する工程、
iii)任意選択で、工程ii)から得られた分散体に原薬を添加する工程、
iv)工程ii)又はiii)から得られた混合物を電界紡糸する工程、
を含み、前記親水性ポリマーは、前記第1の溶媒中で可溶性であり、前記生体接着性物質は、前記第1の溶媒中でわずかに可溶性であるか又はほとんど可溶性ではなく、
生体接着性物質の少なくとも90%w/wが、溶解していない形態で存在する。
【0108】
本発明に係る電界紡糸繊維を調製するための代替方法は、電界紡糸繊維を得るために、
i)第1の溶媒中に親水性ポリマーを溶解させて、第1の溶液を得る工程、
ii)任意選択で、前記第1の溶液中に原薬を溶解させるか又は懸濁して、第1の混合物を得る工程、
iii)第1の溶媒中に生体接着性物質を懸濁して、第2の分散体を得る工程、
iiv)第1の溶液(又は原薬が包含される場合は第1の混合物)及び第2の分散体を二重に電界紡糸する工程
を含み、前記親水性ポリマーは、前記第1の溶媒中で可溶性であり、前記生体接着性物質は、前記第1の溶媒中でわずかに可溶性であり、
生体接着性物質の少なくとも90%w/wが、溶解していない形態で存在する。
【0109】
上記で述べたように、好適な溶媒は、1種又は複数の揮発性溶媒、とりわけC1〜C3アルカノール、例えばエタノール又はエタノール-水混合物である。水は、約20%v/vまで、とりわけ約3から約10%v/vで存在していてもよい。繊維形成性親水性ポリマー及び生体接着性物質が、二重の電界紡糸によって、すなわち2つの別個のシリンジから紡糸される事例において、水は、約60%v/vまで、とりわけ約50%v/vまで、又は約40%v/vまでの濃度で使用されてもよい。繊維形成性親水性ポリマー及び生体接着性物質のための溶媒が、生体接着性物質に使用される溶媒と同じではない事例において、溶媒は、生体接着性物質がほんのわずかに可溶性であるか又はほとんど可溶性ではない溶媒でなければならない。生体接着性物質が可溶性ではない好適な溶媒は、とりわけエタノール、又は含水量が約20%v/vまで、とりわけ約3から約10%v/vのエタノール-水混合物である。
【0110】
第1の溶媒中の繊維形成性親水性ポリマーの濃度は、典型的には約2から約40%w/w、とりわけ約3から約30%w/wの範囲である。
【0111】
第1の溶媒又は第2の分散体中の生体接着性物質の濃度は、典型的には約1から約20%w/w、とりわけ約1から約15%w/wである。
【0112】
上述の方法は、繊維の外面を疎水性ポリマーでコーティングする最終工程を包含していてもよい。
【0113】
コーティングは、噴霧、フィルムキャスティング、電界紡糸等の形態であってもよい。
【0114】
コーティング後、疎水性ポリマーのより緊密な構造を得るために、コーティングされた繊維を加熱に供して、疎水性ポリマーを溶融又は軟化してもよい。
【0115】
また本発明は、特許請求の範囲に記載されるキットにも関する。医療での使用 薬物を含有する電界紡糸繊維及び薬物を含有する電界紡糸繊維を含有する組成物は、医療で使用するのに好適である。
【0116】
上述したように、薬物を含有する電界紡糸繊維及び組成物は、主として、皮膚又は粘膜上の罹患した部位への局所投与が意図されている。しかしながら、当業者であれば、本発明の開示に基づき、皮膚又は粘膜への投与後に体循環への送達を可能にする組成物、又は口腔等の体腔への原薬の送達を可能にする組成物を得るのに、本発明の概念を利用できると予想されることが想定される。しかしながら、本発明の目的は、罹患した組織に留まり局所作用を達成する電界紡糸繊維及び組成物を提供することである。
【0117】
本発明に関連して使用するのに好適な原薬は、小分子である原薬であってもよいし、又はペプチド、タンパク質、モノ若しくはポリクローナル抗体を含む生物学的物質であってもよい。
【0118】
皮膚疾患
皮膚疾患の例は、紫外線角化症、皮膚がん(基底細胞癌、ボーエン病、扁平上皮癌、及び悪性黒色腫)、性器疣贅、座瘡、皮膚炎、乾癬、酒さ、魚鱗癬、湿疹、アトピー性皮膚炎、掻痒、手掌足底膿疱症(pustolis palmophantatis)、疼痛、感染、ヘルペス等のウイルス性疾患である。
【0119】
現在これらの皮膚疾患のいくつか(紫外線角化症、皮膚がん(基底細胞癌、ボーエン病、扁平上皮癌、及び悪性黒色腫)、性器疣贅)は、免疫応答調節剤として作用する処方箋医薬品であるイミキモドで処置される場合もある。またイミキモドは、外陰上皮内新生物、膣上皮内新生物、及び尋常性疣贅の処置に使用されることも示唆されている。しかしながら、水泡、血の出るような乾燥した痂皮、疼痛及び全身不快感等の数々の処置の有害作用がある。更に、患者の多くは、処置に耐えることができない。
【0120】
紫外線角化症の別の処置は、インゲノールである。
【0121】
インゲノールメブテートを含有するゲルが、それぞれ顔及び頭皮(0.015%)又は胴体及び四肢(0.05%)のいずれかへの使用に応じて2種の異なる強度で現在市販されている。臨床研究によれば、紫外線角化症の野外での処置には、2から3日間外用適用されたインゲノールメブテートゲルが効果的であることが示されている。
【0122】
インゲノールメブテートは、Picato(登録商標)という名称で販売されている。この物質は、ジテルペンインゲノールとアンゲリカ酸のエステルである。インゲノールメブテートは、実際的には皮膚を介して吸収されない。
【0123】
しかしながら、ゲルの適用は、適用部位に刺激を引き起こすことが非常に多い。これは、発赤、苔鱗化(scaling)、痂皮化(crusting)、疼痛、及び時には感染を包含する。他の副作用は、眼窩周囲浮腫等の目の刺激、頭痛及び鼻咽頭炎(nasophyryngitis)を包含する。
【0124】
適用部位の刺激の一般的な副作用のために、公知の組成物よりも皮膚への適用時の刺激が少ないインゲノールメブテート又は別のインゲノール誘導体を含有する組成物を開発することへの必要性がある。更に、例えばインゲノールメブテート又はイミキモドを含有し、明確な領域を有する(すなわちこの領域に原薬の所望の用量が含有されている)シートの形態である本発明の組成物は、適用毎に適正な投与量であるために、改善された長い期間を有し、再発を起こしにくい。
【0125】
使用に好適な組成物は、典型的には、PVPをベースとする電界紡糸繊維を含み、加えて繊維形成剤、可塑剤、抗刺激剤及び原薬を含有する。イミキモドが原薬である場合、イミキモドは、分散体又は溶液として繊維中に存在していてもよく、その場合、例えばオレイン酸が溶媒として使用される。親水性繊維形成剤の典型的な例は、アクリレート(例えば本明細書で説明した通り)又はPVPである。可塑剤は、クエン酸トリブチルであってもよく、抗刺激剤は、グリセロールであってもよい。
【0126】
皮膚疾患の処置に使用され、本発明に係る使用に好適な他の原薬は、ビタミンD誘導体又は類似体、コルチコステロイド、ホスホジエステラーゼ4阻害剤、インゲノール誘導体、アダパレン(adaplene)等のレチノール、JAK阻害剤、NK-1受容体アンタゴニスト、タクロリムス又はピメクロリムス(picrolimus)等のカルシニューリン阻害剤、サリチル酸又は乳酸等の角質溶解剤、フシジン酸、バクトロバン(bactoban)、又はクリンダマイシン等の抗生物質、ジクロフェナク、ナプロキセン、イブプロフェン、ケトプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬、5-フルオロウラシル(fluoracil)等の抗新生物剤、リドカイン、プリロカイン等の局所麻酔剤等である。
【0127】
粘膜、とりわけ唇及び口腔の疾患
本発明の電界紡糸繊維又は組成物で処置できる口腔の疾患としては、以下が挙げられる:
口腔扁平苔癬及び口腔内潰瘍等の炎症状態。このような状態は、通常、コルチコステロイドで処置される。コルチコステロイドは、アムシノニド、ベタメタゾン、ブデソニド(budenoside)、クロベタゾール、クロベタゾン、コルチゾン、デソニド、デスオキシコルチゾン、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフルコルトロン、ジフロラゾン、フルドロコルチゾン(flucortisone)、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノニド、フルオシノロン、フルオロメトロン、フルプレドニソロン、フルランドレノリド、フルチカゾン、ハルシノニド、ハロベタゾール、ヒドロコルチゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾン、モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾン、ブレドニゾロン及びトリアムシノロン又はそれらの医薬的に許容されるエステル若しくはアセトニドからなる群より選択され得る。コルチコステロイドは、好ましくは、ベタメタゾン、ブデソニド、クロベタゾール、クロベタゾン、デスオキシメタゾン、ジフルコルトロン、ジフロラゾン、フルオシノニド、フルオシノロン、ハルシノニド、ハロベタゾール、ヒドロコルチゾン、モメタゾン及びトリアムシノロン又はそれらの医薬的に許容されるエステルから選択され得る。コルチコステロイドエステルは、例えば、酢酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール(elobetasol propionate)、酢酸デキサメタゾン、ピバル酸フルメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン又はフランカルボン酸モメタゾンであり得る。アセトニドは、フルオシノロンアセトニド又はトリアムシノロンアセトニドから選択され得る。コルチコステロイドは、好ましくは、ジプロピオン酸ベタメタゾン又は吉草酸ベタメタゾンである。
【0128】
疼痛状態(NSAID-イブプロフェン、ケトプロフェン、ジクロフェナク等の鎮痛薬での処置)。
【0129】
真菌性疾患(メトロニダゾール、ケトコナゾール等での処置)。
【0130】
単純ヘルペス等のウイルス性疾患(アシクロビルでの処置)。
【0131】
様々な異形成の状態(5-フルオロウラシル、ジクロフェナク、レチノイド、インゲノールメブテートでの処置)。
【0132】
以下に、口腔疾患を処置するための臨床的な応用のより具体的な説明を示す。
【0133】
簡単な創傷包帯(薬物の取り込み有り又は無し)としての使用
(a)口腔内潰瘍形成
口腔粘膜は、咀嚼中に、並びに熱的、化学的及び物理的な傷害の結果として頻繁に傷付けられる。これは通常、口腔粘膜の潰瘍形成を引き起こす。潰瘍が生じた領域は痛く、接触、熱い食物及び飲み物、アルコール並びに強い又はスパイシーな矯味矯臭薬剤に非常に敏感になる。これは、非常に不快であり、食べたり、飲んだり、言葉を話すことを困難にする可能性がある。加えて、集団のおよそ25%が、その人生のうちいずれかの時期に口腔内潰瘍形成(アフタ性潰瘍形成として公知)の再発エピソードを経験する。彼らは、1つ又は数々の口腔内潰瘍を同時に経験するが、このような潰瘍は、自然発生し、数日から数週間続き、次いで自然治癒する。これらの潰瘍発生は頻繁に繰り返される。
【0134】
皮膚への創傷の場合と同様に、このような口中の創傷を被覆しようとする生来の本能がある。残念なことに、口のためのバンドエイドに相当する物は未だ存在しない。口腔粘膜に接着し、口を通過するスパイシーな食物、強い矯味矯臭薬剤等からのある程度の保護を創傷に提供し、加えて細菌汚染及び物理的な外傷からのある程度の保護を提供する薄くフレキシブルな電界紡糸組成物は、創傷治癒を促進し、口腔潰瘍に関連する不快感の緩和をもたらすと予想される。理想的には、これらの組成物は、除去する必要がなくなるように数日かけてゆっくり再吸収されると予想される。口中の保護された創傷の治癒は、一般的に、非常に迅速である。
【0135】
いくつかの事例において、原薬をまったく含有しない電界紡糸繊維を使用することに関連し、したがって、また本発明は、このような電界紡糸繊維(本明細書で詳細に説明されるように、ただし原薬をまったく含有しない)、電界紡糸繊維を含む組成物、並びに医薬における繊維及び組成物の使用にも関し、すなわち上述の応用に限られない。
【0136】
(b)外科手術後の創傷包帯
口中の外科手術、特に抜歯は、他のいずれの外科手術の形態より一般的である。現在、単純な抜歯後、開口した歯槽は保護されないままであり、血餅を形成し、自然治癒する。幸いにも口中の治癒は非常に有効であるが、それでもなお抜歯後の出血は、しばしば血餅の脱落や歯槽の感染のために一般的であり、創傷治癒の遅延又は「ドライソケット」という非常に痛みを伴う状態を引き起こすことも一般的である。また患者も口中で開口した歯槽の感覚とそれに伴う血液の味を嫌う。例えば包帯の形態の接着性電界紡糸組成物で抜歯槽を被覆することは、その場での血餅形成の維持を助けることにより、抜歯後の出血を低減し、創傷治癒を改善すると予想される。これはまた、感染及び歯槽への食物のかすの侵入を低減することも予想され、再度創傷治癒を容易にし、創傷感染を低減する。開口した歯槽を物理的に被覆することに加えて、快適性及び新たな保証を患者に提供する。このような組成物は、優れた接着を必要とし、優れた強度、低い透過性を有し、理想的には血餅が安定化する最初の24時間その場に留まる必要があると予想される。
【0137】
抜歯と同様に、生検、歯肉手術、外科的抜歯、インプラントのための手術、歯科矯正のための手術等を含む他の多くの外科手術が口中で行われる。いずれも開放創又は縫合領域をそのままにしており、そこで好適な創傷包帯が、創傷感染及び二次的な出血の低減を助け、加えて物理的な保護及び患者にとっての快適性を提供すると予想される。
【0138】
(c)活性な創傷包帯
物理的な保護単独でも相当な利益を有すると予想されるが、いくつかの創傷包帯における薬物及び他の活性薬剤の取り込みが、特定の状況において特に価値があると予想される:
(i)消毒薬。二次感染は口腔創傷に伴う一般的な問題であるため、十分に許容される消毒剤、例えばグルコン酸クロルヘキシジン又は塩化セチルピリジニウム(消毒性口内洗浄剤で使用される)の取り込み及び遅延放出は、二次感染が特に問題である状況において価値がある可能性がある。
【0139】
(ii)鎮痛薬。ほとんどの口腔潰瘍は、疼痛及び炎症を伴うため、塩酸ベンジダミン等の十分に確立された外用鎮痛薬/抗炎症剤の取り込み及び遅延放出が、疼痛緩和及び鎮痛作用に加えて物理的な被覆も提供する可能性がある。
【0140】
(iii)止血剤。抜歯後の出血は、歯科医及び患者が懸念する一般的な問題である。その場合、直接の圧力等の簡単な手段では出血の制御は困難である。このような状況において、歯科医及び口腔外科医は、線維素溶解を阻害するトラネキサム酸を使用することが多い。しかしながら、トラネキサム酸は錠剤の形態をとっているため、歯槽に局所的に適用することは困難であり、したがってその主要な作用は全身性である。例えばシート又はパッチの形態の歯槽を被覆する組成物からのトラネキサム酸の放出は、出血を物理的に予防/低減し、加えてあらゆる全身性作用の見込みを最小化しながら歯槽で局所的に線維素溶解を予防すると予想される。組成物は、歯槽からのトラネキサム酸の損失を予防することによって、トラネキサム酸の局所作用を増幅すると予想される。
【0141】
紫外線角化症及び口腔白斑症
紫外線角化症(日光性角化症)は、口唇がんに発展する重大なリスクを有する唇のUV光誘導性の前がん病変である。このような病変は、外科的に切除するか又は寒冷療法で処置されることが多いが、近年、イミキモド(Aldara)、ジクロフェナク(Solaraze)及びフルオロウラシル(Efudix)クリーム剤の適用が、紫外線角化症のいくつかの事例の処置において有利であることが示された。しかしながら、クリーム剤を用いて達成するのではなく、活性薬剤を保持する、局在化する、及びゆっくり放出させるより優れた方法が求められている。したがって、処置の改善のために、紫外線角化症の領域を被覆して、活性薬剤を徐放することができる電界紡糸組成物にこれらの薬物を取り込むことが重要である。
【0142】
口腔白斑症は、口腔がんに変わる重大なリスクを有する口腔粘膜の悪性の可能性がある病変である。口腔白斑症は紫外線角化症より一般的であり、喫煙者においてより高頻繁で起こる。それらの悪性の変化の可能性は、通常、病変の生検を採取することによって評価される。次いで組織病理学者は、病変における異形成の程度を等級分けする。中程度又は重度の異形成を表す病変は、がんに進行するリスクが高いとみなされる。現行の口腔異形成病変処置は、リスク低減、例えば喫煙を止めることを含み、病変が高リスクであるとみなされる場合、外科的切除を含む。口腔白斑症は広範にわたる可能性があり、口の領域に接近することが難しいため、外科的処置は、難しい可能性があり、患者に損害を与え、不快であり、しばしば病的状態を残す場合がある。更に、外科的除去は、口腔がん発症のリスクを低減させない可能性がある。口腔白斑症を処置するのにイミキモド(Aldara)、ジクロフェナク(Solaraze)及びフルオロウラシル(Efudix)クリーム剤を使用する試みがなされてきた。しかしながら、唾液の存在が、クリーム剤の適用及び保持を困難にしており、更に、多くの口腔白斑症のサイズが大きいこと、及び医薬化合物の嚥下のリスクといった難点も同様に薬物からの全身性副作用のリスクを有意に増加させる。特に組成物が、薬物が嚥下される可能性がある口腔へではなく病変への一方向の薬物送達を確実にする不浸透性の裏当てを有する場合、本発明の生体接着性電界紡糸組成物を介する直接病変への局在化した遅延放出送達がこれらの問題の多くを解決すると予想される。
【0143】
「口辺ヘルペス」
集団の40%から70%(地理学的な地域及び社会経済的な群に応じて)が、単純ヘルペス1型ウイルスに潜在感染している。これらのなかでも20〜40%が、最も一般的には口辺ヘルペスとして存在するウイルスの再活性化の期間を経験する。多くの個体において、口辺ヘルペスは、一般的で繰り返し起こる問題である。ほとんどの場合それらは、唇の端及び周辺の皮膚に小胞群(小水泡)として存在する。次いでこれらは破裂して、流体を滲出させる小さい潰瘍を形成し、次いで痂皮で覆われ、その後、7から10日かけて自然治癒する。それらは相当な疼痛、不快感及び機能障害を引き起こす。病変発症の最も早い段階でアシクロビル(Zovirax)又はペンシクロビル(Vectavir)クリーム剤等の外用抗ウイルス剤で処置した場合、エピソードの持続時間及び重症度は低減される可能性がある。しかしながら、クリーム剤は、有効であるためには非常に頻繁に(それぞれ毎日2時間おきに5回)適用することを必要とし、二次感染を予防したり又は病変の外観を隠したりということまでには役立たない。アシクロビル又は類似の抗ウイルス剤を遅延放出で送達する小さい電界紡糸皮膚接着性組成物は、より効果的であると予想され、病変を隠したり二次感染を予防したりすることまでも提供すると予想される。
【0144】
あまり一般的ではないが、口辺ヘルペスは、口の内側の粘膜、ほとんどの場合口蓋に、小さい局在化した水泡及び潰瘍の群を形成する。その場合でもこれらは非常に痛みを伴うが、抗ウイルス性クリーム剤の適用がより一層難しい。本発明に係る適切な製剤を用いれば、本発明の組成物は、唇の口辺ヘルペスを処置するのに使用することができ、口以内の病変を処置するのにも使用することができる。
【0145】
免疫が介在する口腔粘膜疾患の処置
大規模な面積の口腔粘膜のびらん(菲薄化)及び潰瘍形成を引き起こす数々の一般的な免疫が介在する口腔粘膜疾患がある。口腔粘膜の菲薄化又は潰瘍形成がある場所はどこでも痛く、接触、熱い食物及び飲み物、アルコール並びに強い又はスパイシーな矯味矯臭薬剤に非常に敏感になる。これは、極めて不快であり、食べたり、飲んだり、言葉を話すことを困難にする可能性がある。これまでに論じたように、このような領域の簡単な被覆が、相当な緩和を提供する可能性がある。しかしながら、これらの状態は、再発性のアフタ性口内炎のように再発性であるか、又は慢性であるかのいずれかである。それゆえに、患者のために病変の改善を長期の改善と共に起こそうとするならば、基礎疾患プロセスの抑制が必須である。
【0146】
これらの状態の多くは、ステロイド、サイクロスポリン及びミコフェノール酸モフェチル等の免疫調節薬の影響を受けやすい。一般的にステロイドは最初に選択される療法であるが、実質的には、口中における病変への外用による薬物送達用に、特にクリーム剤及び軟膏剤として製剤化されたものはなく、口腔粘膜に接着せず、それゆえに容易に嚥下され、必要とされる場所で実質的に作用が持続しない。その結果、ステロイド錠剤(ブレドニゾロン及び吉草酸ベタメタゾン)を水中に溶解して口内洗浄剤を作製するか、又は口腔粘膜の罹患した領域にステロイド吸入器を向ける。しかしながら、この方法で口腔病変に送達された薬物の接触時間は極めて短いため、これを補うために高用量、高効力のステロイドと頻繁な適用が必要となる。順にこれは、口腔及び全身性副作用両方のリスクを増加させる。実際に、より重度で処置が難しい病変の場合、局在化した疾患を処置するために全身性ステロイドの使用を頼ることがしばしば必要となる。そのような場合でも、多くの患者は処置に耐性となり、より有効な又はステロイドを節約した代替の免疫調節薬、例えばアザチオプリン、サイクロスポリン及びミコフェノール酸モフェチルに切り替えることがしばしば必要となる。この場合でも、これらの薬物の外用口腔用製剤はないので、それらは全身的に使用されなければならないことが多い。
【0147】
口腔病変は表面上にあることから、非経口的に(注射によって)与えなければならないことが多い抗体及びキナーゼ阻害剤等の容易に接近可能な現在の生物学的物質は、病変に直接適用されて、それらが好適な送達システムで利用可能な場合に作用を有する可能性がある。
【0148】
したがって病変への一方向性の薬物送達を提供する本発明に係る電界紡糸生体接着性組成物は、多様な口腔粘膜疾患の切望されてきた有効な処置を提供すると予想される。シートに取り入れるのに最も広く適用できる薬物に関して、ステロイド製剤が、最良の出発点であると予想される。ヒドロコルチゾンは、消化管から有意な吸収がないという利益を有する。一般的に、ヒドロコルチゾンは、口腔粘膜疾患で有効であるためには効力が低すぎるが、より長い保持時間及び遅延放出を示すことから、一方向性パッチから送達される場合に有効であることが十分判明する可能性がある。しかしながら、トリアムシノロンアセトニドを含むより強いステロイド製剤が広く使用されており、トリアムシノロンアセトニドは、外用で送達された中程度の効力のステロイド(口腔病変への外用送達のためのOROBASE(登録商標)中のトリアムシノロンとして入手可能なものとして使用されたが、現在すでに入手不可能である)として証明された実績を有する。別の方法ではベタメタゾン又はフルオシノロンが、増大しつつある効力を有しており、現在、口腔粘膜疾患の処置に広く使用されている。ステロイド及び他の免疫調節薬は基礎疾患のプロセスを抑制する一方で、それらは即時の症候性疼痛の緩和を提供することにおいて有効ではない。それゆえに、ステロイド及び外用の鎮痛薬/抗炎症薬(塩酸ベンジダミン)送達膜の組合せは、特に価値がある可能性がある。
【0149】
本発明に係る組成物で処置するのに好適な特定の口腔粘膜疾患としては、以下が挙げられる:
(i)上述したような再発性のアフタ性口内炎。
【0150】
(ii)口腔扁平苔癬(OLP)-この状態は、集団の1.5〜2%が罹患している。扁平苔癬の皮膚の形態とは異なり、口腔扁平苔癬は、一旦定着したら、その後何年も続き、よりはるかに痛みを伴う病変を引き起こし、より一層処置に耐性になる。患者は、主として、しばしば痛みを伴い食物等に極めて敏感な頬粘膜(頬の内側)、舌の側部及び歯肉に影響を及ぼす広がったびらん及び潰瘍形成を引き起こす。
【0151】
(iii)類天疱瘡-これは、皮膚及び粘膜に影響を及ぼす可能性がある水泡形成状態のグループである。これは、下層組織から上皮が分離するように上皮と下層に存在する結合組織との接着部分に損傷を与える自己抗体によって引き起こされる。口腔粘膜は、常に罹患した状態であり、大きい水泡を生じ、これが崩壊して、口腔内潰瘍の広範な領域を形成する。歯肉は広く罹患するが、口蓋、舌及び頬の内側でも潰瘍が発症する可能性がある。これは、OLPほど一般的ではない。
【0152】
(iv)天疱瘡-これは、皮膚及び粘膜に影響を及ぼす別の水泡形成状態である。これは、自己抗体が上皮細胞と互いに結合する接着部分に損傷を与える天疱瘡とはわずかに異なる。この場合でも口腔粘膜は、常に罹患した状態である。これは天疱瘡よりわずかに一般的ではないが、一般的により重度で処置が難しく、全身性ステロイド及び免疫調節薬の使用を必要とすることが多い。しかしながら、遅延放出の様式で有力なステロイドを一方向に送達する電界紡糸粘膜付着膜の使用は、これらの薬物を全身に送達する必要性を排除する見込みがあると予想される。
【0153】
局所麻酔剤の送達
局所麻酔剤が、例えば歯科学で広く使用される。抜歯のための十分な局部麻酔を送達するために、通常、神経ブロック注射又は局所浸潤注射によってそれを与えることが必要である。注射それ自身は痛みを伴うため、まず口腔粘膜の意図した注射部位に外用局所麻酔剤ゲルを適用することは珍しくない。これは、子供及び不安を持つ患者に頻繁に行われている。残念なことに、ゲルは粘膜との接触が不十分になることが多く、そのため局所麻酔剤の透過が不十分になり、更にゲルのほとんどが口中で消散するようになる。これが口周辺における不快なしびれを引き起こし、更に非常に苦く不快な味覚も与える。結果として、この手順は、限定的な作用しか有さないことが多い。一方向性の生体接着性電界紡糸組成物(例えば薬物送達パッチ)を介した局所麻酔剤の外用送達は、局所麻酔剤のより優れた局在化及び透過、したがってより優れた効能をもたらし、加えて広がったしびれ及び悪い味覚という有害作用も制限すると予想される。組成物は短い付着時間しか必要としないと予想され、又は滅菌の場合、その場に放置して、組成物を介して注射を打つこともできる。
【0154】
例えば薬物送達パッチの形態の有効な生体接着性局所麻酔剤組成物は、浸潤局部麻酔が通常与えられるか又は手順が比較的小規模である上の歯への慣例的な歯科学的処置の多くのタイプにとって十分な無痛をもたらす可能性がある。
【0155】
局所麻酔剤はまた、歯肉手術、生検等を含む軟部組織の外科手術のためにも口中で広範囲に使用される。これらの状況でも通常、浸潤麻酔が与えられるが、局所麻酔剤の骨透過は必要ではないため、単に一方向性の生体接着性電界紡糸局所麻酔薬組成物を使用することによってこれらの状況で効率的な局部麻酔を達成できる見込みがある。
【0156】
この状況で使用することが最も明白な局所麻酔剤はリグノカイン(リドカイン)塩酸塩と予想されるが、アルチカインが可能性のある代替物であると予想される。多くの局所麻酔剤注射液で行われるようなアドレナリンの取り込みは、局所的な血管収縮を引き起こすことによって局所麻酔剤の作用を強化及び延長するのに有益であり得る。
【0157】
口腔粘膜炎の処置
がんのための放射線治療及び化学療法は、深刻な副作用を伴う。最も悪いものの1つは、口腔粘膜炎の発生である。これは、口腔粘膜の大規模な痂皮形成及び潰瘍形成を引き起こす。生じた疼痛及び不快感はしばしば食べること及び飲むことを不可能にし、麻薬性鎮痛薬の使用を必要とする。しばしばがん処置は、口腔粘膜炎によって引き起こされる過酷さと苦痛のために中止又は低減しなければならない。現在のところ有効な予防的又は治癒的な手段はない。しかしながら、上記で論じられたような本発明に係る生体接着性創傷包帯の使用はそれだけでも有用であると予想されるが、局所鎮痛薬、例えば塩酸ベンジダミンの包含は、疼痛の軽減においてより一層有効である可能性がある。塩酸ベンジダミン口内洗浄剤はまさに症状緩和をもたらすが、それらの作用は非常に短期間である。これは、例えば薬物送達パッチの形態で組成物から罹患した粘膜への一方向性の送達を提供する本発明の組成物によって延長及び強化することができる。
【0158】
また近年の調査によれば、放射線又は化学療法処置セッション前のアドレナリン口内洗浄剤の使用は、口腔粘膜炎の予防を助ける可能性があることも示されてきた。これは、上皮下の血管中でアドレナリンによって誘導された血管収縮が、口腔粘膜での処置における毒性のバイスタンダー作用を低減するためであると考えられる。残念なことに、口内洗浄剤送達によって起こる粘膜との短い接触時間及び全ての粘膜部位への無差別な適用は、薬物送達は非効率的であり、アドレナリンの全身性副作用が生じる可能性がより高いことを意味する。本発明に係る組成物、例えば一方向性の生体接着性電界紡糸薬物送達パッチ又は膜送達システムを使用した、敏感な口腔粘膜部位へのアドレナリンのより直接的な長期及び持続放出は、よりはるかに効率的であり有効であると予想される。
【0159】
口腔への薬物送達
電界紡糸組成物(例えば膜又はパッチの形態)を、創傷包帯としてそれが付着されている口腔粘膜に薬物を一方向で送達するために使用する代わりに、口腔粘膜に接着するが口腔に薬物を送達する組成物を設計することも可能である。これらは、口中のより広範な問題、例えば口腔カンジダ症を処置するか、又は喉、食道及び上部消化管に薬物をゆっくり送達するために使用することができる。
【0160】
このようなシステムの主要な利点は、薬物貯蔵容器として作用し、ゆっくり、ただし連続的に薬物を口に放出する組成物(例えば膜又はパッチの形態)の能力である。
【0161】
(i)口腔カンジダ症。これは、一般的な口の真菌感染である。これは、義歯を装着している人、喫煙する又は高い糖摂取をする人、糖尿病を有する又は免疫無防備状態の人、及び抗生物質又はステロイドを含む免疫抑制剤処置を受けている人において特に一般的である。口腔真菌感染の処置に有効であり安全であると予想される数々の抗真菌薬がある(ただしいくつかはすでに経口製剤として入手可能ではない)。しかしながら、これらは嚥下により口腔から急速に失われるため、これらは全て頻繁な適用を必要とする。本発明に係る組成物(例えば膜又はパッチ送達システムの形態)の主要な利点は、口腔への遅く継続的な薬物放出を提供する可能性と予想される。最も有効で安全である可能性が高い薬物は、ナイスタチン及びアンホテリシンと予想される。アゾール系抗真菌剤は非常に有効であるにもかかわらず、全身吸収のリスク及び他の薬物と相互作用する可能性は、それらが、不良な安全性プロファイルを有する可能性が高いことを意味する。
【0162】
(ii)咽頭痛、風邪等を処置するために、例えば消毒薬、鎮痛薬及び局所麻酔剤等の薬物が喉に送達されてもよいし、又は例えば制酸薬、プロトンポンプ阻害薬等の薬物が食道及び胃に送達されてもよいし、又は消化管を介して全身に送達されてもよい。主要な利点は、遅く連続的な薬物送達が可能になることである。
【0163】
口腔粘膜を通過した薬物の全身送達
本発明に係る電界紡糸繊維及び組成物は主として皮膚又は粘膜の局所処置が意図されているが、本発明に従って作製された、ただし体循環への送達が意図された原薬を含む電界紡糸繊維又は組成物が、口腔粘膜への適用、ただし口腔粘膜を介した全身投与に適している可能性があることが予期される。
【0164】
口腔粘膜は、容易に接近可能であり、皮膚より高い透過性を有し、より多くの血管が配備されている。また、口腔粘膜を通過して循環に送達された薬物は、肝臓における初回通過代謝の問題を回避するという利点も有する。これは、いくつかの緊急用薬物を含む急速な投与を必要とする薬物、及びそれ以外の状況で注射による送達を必要とすると予想されるか又は肝臓で不活性化されると予想されるいくつかの薬物は、口腔粘膜を通過してより効果的に投与される可能性があることを意味する。口腔粘膜を通過してこのような薬物を一方向で送達する電界紡糸接着性薬物送達組成物は、非常に有効であり得る。これらは、意識不明の患者に緊急用薬物を送達するために、又は注射が不可能な場合、例えば適切な訓練を受けたスタッフが不在の場合に使用することができる。
【0165】
(i)緊急用薬物の投与:一般的に口腔粘膜を通過して送達される薬物としては、以下が挙げられる:
a.三硝酸グリセリン-これは、通常、アンギナ(胸痛)のエピソードを処置するために舌下(舌の下)スプレー又は迅速に溶解する錠剤の形態で与えられる。しかしながら、送達速度は、脳血管に加えて心臓血管の過剰に迅速な拡張に起因する非常に重度の頭痛をしばしば引き起こし、数回繰り返す必要がある場合があるような送達速度になる。例えば膜又はパッチの形態の生体接着性組成物からのより制御された様式での三硝酸グリセリンの経粘膜送達は、よりスムーズでより長い持続時間の投薬をもたらし、このような問題を回避することができる。
【0166】
b.アスピリン-これは、心臓発症及び卒中患者において、血栓症及び状態の悪化を低減するために、特に意識不明の場合に口腔粘膜を通過して送達されることが多い。これは通常、頬側溝(歯肉と頬の内側との間)中に可溶性アスピリン錠剤を置き、そのまま溶解させることによって達成されてきた。しかしながら、薬物の多くは、口腔粘膜を通過して的確に送達されるというより口腔へと消失する。この場合でも、より制御された、より指向性の、より長い持続時間の経粘膜送達が、本発明に係る製剤化の原理を使用して、例えば生体接着性電界紡糸薬物送達パッチの形態で達成することができる。
【0167】
c.ミダゾラム-これは、てんかん発作を、特にそれらが持続性又は再発性である場合に止めることにおいて非常に有効である。これは、通常静脈注射によって与えられるが、発作を起こしている患者では非常に難しい場合がある。したがって、ごく最近では、ミダゾラム溶液は急速に口腔粘膜を通過して循環に入り発作を止めることから、ミダゾラム溶液を頬と歯肉との間又は舌下に単に設置することが推奨されている。この経路による送達は、薬物の多くが消失するか又は嚥下されるため不確実である。この場合でも、より制御された、より指向性の、より長い持続時間の経粘膜送達が、本発明に係る組成物を例えば生体接着性電界紡糸薬物送達パッチとして使用して達成することができる。
【0168】
(ii)麻薬性鎮痛薬の送達。麻酔性(オピオイド)鎮痛薬は、重度の及び難治性の疼痛、特にがん関連の疼痛の処置、並びに術後及び外傷関連の疼痛(戦場での傷害を含む)の管理に広く使用されている。主要な問題は、ほとんどのオピオイド鎮痛薬は、肝臓で急速に代謝されるため、注射による頻繁な繰り返し投与で注射で与える必要がある点である。いくつかのオピオイド鎮痛薬は現在、経皮送達のためのパッチ形態又は経鼻送達のためのスプレーで入手可能であるが、電界紡糸生体接着性経口用組成物、例えばパッチを介した経粘膜送達が、より遅い、より制御された、より持続的な薬物送達、皮膚用パッチ剤を用いた場合より有効な循環への薬物透過、加えて肝臓での初回通過代謝の回避を含む相当な利点を提供する。このアプローチにとって優れた候補を提供する可能性が高い薬物としては、モルヒネ、ペチジン、ブプレノルフィン及びフェンタニールが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
図1】本発明に係る電界紡糸繊維の電子顕微鏡写真を示す図である。
図2】生体接着の試験に好適な試験装置を示す図である。
図3】頬側の透過を試験するための装置を示す図である。
図4】本発明の繊維又は組成物の様々な実施形態を示す図である。
図5】電界紡糸ポリビニルピロリドン(PVP)サンプルの電子顕微鏡法による顕微鏡写真を示す図である。10wt%PVP(Kollidon 90F)溶液を、エタノール中に適切な量のPVPを溶解させて、3時間の最小限の時間で攪拌することによって調製した。次いで、所定体積の溶液(2mL)をシリンジにローディングし、シリンジポンプに設置し、金属製ニードル(20ゲージ)に14kVの電流を適用しながらそのニードルを介して溶液を押し出した。それにより、ニードル先端から17cmの距離で配置された収集プレートに走る繊維のジェットが形成された。シリンジポンプを10mL/時間の流速に設定した。 画像は、材料がランダムな様式で堆積させた繊維のメッシュで構成されていたことを示す。繊維は、全体的に滑らかな表面を示し、目に見える欠陥はなく、円柱形であり、2μm未満の直径を有していた。
図6】デキストラン粒子が繊維の表面上に配置された電界紡糸PVPサンプルの走査電子顕微鏡による顕微鏡写真を示す図である。 まず適切な量のPVP及びデキストラン粉末を混合し、次いでエタノールを添加して所望の質量を達成することによって、電界紡糸溶液を調製した。3時間の最小限の時間で攪拌した後に溶解したPVP中のデキストラン粒子の懸濁液を形成し、次いでこれを図5で説明される条件下での電界紡糸に使用した。溶液中、デキストランの2種の分子量(すなわち500,000及び2,000,000)及び様々な量(すなわち15wt%まで)を使用した。 材料は、滑らかな表面を示し目に見える欠陥がないランダム繊維で構成されていた。デキストラン粒子は一般的に繊維より有意に大きく、それらの表面に付着しているように見えたが、より小さい粒子はPVP繊維内にも埋め込まれている可能性がある。 加えて、デキストランを含有する電界紡糸PVPサンプルの光学顕微鏡画像は、デキストラン粒子が材料表面上に存在していたことを示す。
図7】アルシアンブルー色素を含有する電界紡糸PVPサンプルの光学顕微鏡画像を示す図である。 PVPの10wt%溶液を、エタノール中のアルシアンブルー8GXの1%w/v溶液中に適切な量のPVPを溶解させることによって調製した。混合物を3時間の最小限の時間で攪拌し、次いでこれを図5で説明される条件下で電界紡糸した。 材料の表面が均一な青色の着色を示したことが観察され、繊維内に電界紡糸PVPがエタノール可溶性物質(すなわち色素、薬物)を封入して、PVP溶解後にそれらを送達する可能性が実証された。
図8】(左の画像)人工唾液中での電界紡糸PVPサンプルの迅速な溶解を例示する図である。測定された溶解時間は、寸法2cm×0.5cmのサンプルの場合、1秒未満であり、他の水ベースの媒体に溶解させたサンプルの事例でも類似していることが観察された。この迅速な溶解は、電界紡糸繊維内に封入されたあらゆる薬物の急速な放出を可能にする。 溶解後、電界紡糸PVPは、図8(右の画像)で観察されるような生体接着性特性を有するゲルを形成した。この事例において、電界紡糸PVP及び電界紡糸ポリ(カプロラクトン)(PCL)で作製された二重の層のシステムの数々のサンプルを、人工唾液を噴霧したブタの頬粘膜上に設置した。PVP層は、粘膜と接触した後迅速にゲルを形成したが、一方でPCL層は、材料が水溶性ではないため、損傷を受けないままであった。加えて、PCL層は、PVPゲルの生体接着のために所定時間その場に留まることができた。
図9】電界紡糸PVP及び電界紡糸PCLで作製された二重の層のシステムの走査電子顕微鏡による顕微鏡写真を示す図である。2つの層間の付着を作り出すことを意図した熱処理を使用して、これらのサンプルを加工した。 エタノール中のPVPの10wt%溶液を調製し、上述した通り電界紡糸した。またジクロロメタン及びジメチルホルムアミドのブレンド(すなわちDCM/DMF、vol%で90%/10%)中のPCLの10wt%溶液(80,000の平均Mw)も調製し、PVP層の上に電界紡糸した。その後、マットからサンプルを切り出し、スライドガラス間に設置し、電気炉中で65℃の温度に15分間晒した。最終的に、全てのサンプルをそのまま室温に冷却させた。 画像は、熱処理により、電界紡糸PCL層の融解及びそれに続くPVP層に付着した非多孔質で濃密なフィルムの形成が生じたことを示す。PVPの融解温度はPCLの融解温度よりかなり高いことから(PCL、60℃;PVP、>180℃)、PVP層は熱処理による影響を受けなかった。
図10】懸濁されたイミキモドと共にPVPゲルを電界紡糸した後の電界紡糸繊維サンプルの写真を示す画像である。
図11】引張試験の実験からのデータを示す図である。 Boseのelectrophorus 3100のツメにパッチを固定し、アームを0.02mm/秒で分離する。パッチが膨張するときの応力及びひずみを電子的に測定する(グラフを参照)。引張強度のグラフから、パッチの5の伸長及びヤング率(応力及びひずみの尺度)が測定される。
図12】ブタの頬から単離した頬粘膜を、シアノアクリレート系接着剤を使用してペトリ皿にしっかりと接着する。次いで等しい寸法の粘膜パッチ(%を増加させたデキストランを含むPVP)をほぼ等しい力で5秒適用し、次いでPBSに浸し、次いで機械攪拌器を使用して異なる速度で回転させる。パッチを粘膜から取り外すのにかかる時間を分単位で測定する。
図13】PCL/PVP(+デキストラン)を一定の力で30分間ブタ粘膜の表面に適用することを示す図である。次いでパッチを有する粘膜を液体窒素中で急速冷凍し、次いで最適な切断温度のマウンタント中で-80℃で貯蔵する。次いで8μMの切片をクライオスタットを使用して切り出し、スライド上に搭載する前にヘマトキシリン及びエオシンで切片を染色した。図から明らかに、パッチが粘膜上皮にしっかりと接着しているが粘膜上皮を透過しないことが示される。
図14】A及びBは電界紡糸繊維を示す図であり、ここでEudragit L100-55は、繊維形成性親水性ポリマーであり、アルギン酸ナトリウムは、溶解していない形態で存在しており繊維に付着されている生体接着性物質である。C及びDにおいて、カルボキシメチルセルロースナトリウムは生体接着性材料として使用されている。
図15】Eudragit 100-55で形成された繊維を示す図である。A及びBにおいて、キトサンは、生体接着性物質であり、C及びDにおいて、ポリビニルアルコールが使用されている。生体接着性材料は、繊維に付着された溶解していない形態で存在する。
図16】実施例23で説明される生体接着性試験の結果を示す図である。
【0170】
材料
以下の実施例で報告される実験において、以下の材料が使用される。
【0171】
ポリビドン90,000(Kollidon 90K)は、BASF社、ドイツから得られ、
Klucel LFは、Hercules Incorporated社、USから得られ、
Eudragit Eは、Evonik Industires社から得られ、
Eudragit RSは、Evonik Industires社から得られ、
Dermacryl 79、は、AkzoNobel社から得られ、
クエン酸トリブチル、エタノール、酢酸ナトリウム、塩酸、並びにジプロピオン酸ベタメタゾン及びプロピオン酸クロベタゾールは、Sigma-Aldrich社から得られ、
デキストラン、分子量500,000、750,000、1,000,000は、Pharmacosmos社、デンマークから得られ、
ポリエチレンオキシド400,000、2,000,000、4,000,000は、Dow Chemical社から得られ、
中鎖グリセリドは、Henry Lamotte Oils GmbH社から得られ、
イミキモド及びプロピオン酸クロベタゾールは、APIChem Technology Co., Ltd.社から得られ、
Carbothaneは、Lubrizol社、USから得られる。
【0172】
方法
HPLCによるジプロピオン酸ベタメタゾン又はプロピオン酸クロベタゾールの分析:
カラム:Sunfire C18;3.5μm又は5μm;直径150×4.6mm又はそれに相当するもの
移動相:アセトニトリル/0.01M(NH4)2HP04 pH6.4、70:30(v/v)。
流速:0.8ml/分
検出波長:240nm。
【0173】
HPLCによるイミキモドの分析:
カラム:Phenomenex C18カラム又はそれに相当するもの
移動相:40:60のアセトニトリル対1%トリフルオロ酢酸を含有する水
流速:1ml/分
検出波長:242nm。
【実施例】
【0174】
(実施例1)
すぐに電界紡糸できる状態であり生体接着性物質がデキストランであるアルコール性ゲルの調製
【0175】
【表3】
【0176】
1)異なるデキストランの含量は、PVP又はDermacrylを使用した事例において、ゲルの質量に基づき2.5、5.0及び7.5%の間で、又は繊維形成性親水性ポリマーの質量に基づき25から75%の間で変更された。実験から、少なくとも20%w/wまでのデキストランを使用することが可能なことが示された。生体接着性物質と親水性ポリマーとの質量比は、0.1から1.5、すなわち0.1、0.16、0.25、0.33、0.5、0.75、1、1.5である。
【0177】
ゲルを調製するために、デキストランを攪拌及び超音波によってエタノールに懸濁し、続いてゆっくり攪拌しながら繊維形成性親水性ポリマーをゆっくり添加した。得られた懸濁液を一晩攪拌して、繊維形成性親水性ポリマーの溶解を完了させた。
【0178】
(実施例2)
すぐに電界紡糸できる状態であり生体接着性物質がポリエチレンオキシドであるアルコール性ゲルの調製
【0179】
【表4】
【0180】
異なるデキストランの含量は、PVP又はDermacrylを使用した事例において、ゲルの質量に基づき2.5、5.0及び7.5%の間で、又は繊維形成性親水性ポリマーの質量に基づき25から75%の間で変更された。実験から、少なくとも20%w/wまでのデキストランを使用することが可能なことが示された。生体接着性物質と親水性ポリマーとの質量比は、0.1から1.5、すなわち0.1、0.16、0.25、0.33、0.5、0.75、1、1.5である。
【0181】
ゲルを調製するために、ポリエチレンオキシドを攪拌及び超音波によってエタノールに懸濁し、続いてゆっくり攪拌しながら繊維形成性親水性ポリマーをゆっくり添加した。得られた懸濁液を一晩攪拌して、繊維形成性親水性ポリマーの溶解を完了させた。
【0182】
(実施例3)
原薬イミキモドを含有する、すぐに電界紡糸できる状態のアルコール性ゲルの調製
2種の異なる方法を使用した:
1.5gのイミキモドを攪拌することによって20gのエタノール中に懸濁し、ここに80gのエタノール中の10%PVP 90Kを添加し、2時間ゆっくり攪拌した。
【0183】
2.5gのイミキモドを20gの0.1M酢酸緩衝液pH4.0中に2時間かけて攪拌により懸濁したところ、イミキモドが部分的に溶解した。次いで80gのエタノール中の10%PVP 90,000を添加し、2時間ゆっくり攪拌した。
【0184】
繊維形成性親水性ポリマーの溶解後、イミキモド及び生体接着性物質を添加して、懸濁液を得た。次いで懸濁液を本明細書で説明した通りに電界紡糸した。
【0185】
両方の方法において以下の生体接着性物質が使用された:
デキストラン 500,000Da
デキストラン 750,000Da
デキストラン 2,000,000Da
ポリエチレンオキシド 400,000Da
ポリエチレンオキシド 2,000,000Da
ポリエチレンオキシド 4,000,000Da。
【0186】
生体接着性物質と繊維形成性親水性ポリマーとの質量比が0.1〜5の範囲内になるような繊維形成性親水性ポリマーに対する割合で生体接着性物質を添加した。得られた特定の質量比は、0.2、0.25、0.3、0.4、0.6、0.7、0.75、0.8、1、1.2、1.25、1.3、1.5、1.6、1.7、2、2.4、2.7、3、及び4であった。
【0187】
(実施例4)
原薬イミキモドを含有する繊維の調製
2種の異なる方法を使用した:
1.5gのイミキモドを攪拌することによって20gのエタノール中に懸濁し、ここに80gのエタノール中の繊維形成性親水性ポリマーを添加し、2時間ゆっくり攪拌した。
【0188】
2.5gのイミキモドを20gの0.1M酢酸緩衝液pH4.0中に2時間かけて攪拌により懸濁したところ、イミキモドが部分的に溶解した。次いで80gのエタノール中の繊維形成性親水性ポリマーを添加し、2時間ゆっくり攪拌した。
【0189】
両方の方法において以下の繊維形成性親水性ポリマーが使用された:
エタノール中の15%溶液としてのEudragit(登録商標)E
エタノール中の15%溶液としてのEudragit(登録商標)RS
エタノール中の10%溶液としてのDermacryl 79。
【0190】
両方の方法において以下の生体接着性物質が使用された:
デキストラン 500,000Da
デキストラン 750,000Da
デキストラン 2,000,000Da
ポリエチレンオキシド 400,000Da
ポリエチレンオキシド 2,000,000Da
ポリエチレンオキシド 4,000,000Da。
【0191】
生体接着性物質と繊維形成性親水性ポリマーとの質量比が0.1〜2の範囲内になるような繊維形成性親水性ポリマーに対する割合で生体接着性物質を添加した。得られた特定の質量比は、0.2、0.25、0.3、0.4、0.6、0.7、0.75、0.8、1、1.2、1.25、1.3、1.5、1.6、1.7、及び2であった。
【0192】
繊維形成性親水性ポリマーの溶解後、イミキモド及び生体接着性物質を添加して、懸濁液を得た。次いで懸濁液を本明細書で説明した通りに電界紡糸した。
【0193】
(実施例5)
疎水性裏当て層上に層化されたイミキモドを含有する繊維を含む2層の組成物の調製
実施例3及び4で説明した繊維を調製し、ただしポリ(カプロラクトン)を含有する疎水性層上に紡糸して2層の組成物を得た。
【0194】
(実施例6)
原薬ジプロピオン酸ベタメタゾン又はプロピオン酸クロベタゾール及び生体接着性物質としてデキストランを含有する、すぐに電界紡糸できる状態のアルコール性ゲルの調製
【0195】
【表5】
【0196】
BDP若しくはプロピオン酸クロベタゾール、クエン酸トリブチル及び/又は中鎖トリグリセリドをエタノール中に溶解した。次いでおよそ750,000の分子量を有するデキストランを攪拌及び超音波によって添加し、最後にゆっくり攪拌している間にポリビドン90,000を添加した。
【0197】
得られた懸濁液を一晩攪拌して、繊維形成性親水性ポリマーの溶解を完了させた。次いで懸濁液を本明細書で説明した通りに電界紡糸した。
【0198】
(実施例7)
原薬ジプロピオン酸ベタメタゾン又はプロピオン酸クロベタゾール及び生体接着性物質としてポリエチレンオキシドを含有する、すぐに電界紡糸できる状態のアルコール性ゲルの調製
【0199】
【表6】
【0200】
すぐに紡糸できる状態のアルコール性ゲルを調製するために、BDP若しくはプロピオン酸クロベタゾール、クエン酸トリブチル及び/又は中鎖グリセリドをエタノール中に溶解した。次いでおよそ750,000の分子量を有するポリエチレンオキシドを攪拌及び超音波によって添加し、最後にゆっくり攪拌している間にEudragit RSを添加した。
【0201】
得られた懸濁液のゲルを一晩攪拌して、繊維形成性親水性ポリマーの溶解を完了させた。懸濁液を本明細書で説明した通りに電界紡糸した。
【0202】
(実施例8)
原薬イミキモド及び生体接着性物質としてデキストランを含有する、すぐに電界紡糸できる状態のアルコール性ゲルの調製
【0203】
【表7】
【0204】
イミキモドを酢酸緩衝液中に懸濁して懸濁液を得るが、ここでイミキモドは、部分的に溶解している。クエン酸トリブチル及び/又は中鎖トリグリセリドをエタノール中に溶解した。得られたイミキモド懸濁液を添加する。次いでおよそ750,000の分子量を有するデキストランを攪拌及び超音波によって添加し、最後にゆっくり攪拌している間にEudragit RSを添加した。
【0205】
得られた懸濁液を一晩攪拌して、繊維形成性親水性ポリマーの溶解を完了させた。次いで懸濁液を電界紡糸した。
【0206】
上記の実施例で得られたゲルから、以下の設定で電界紡糸製造プロセスを使用してシートを製作した:
先端からコレクターへの距離:25cm
先端における電場:-20kV
コレクターにおける電場:-+6kV
先端の形状:18ゲージ
流速:10ml/時間
温度:室温
湿度:60%。
【0207】
(実施例9)
薬物を含有する層及び裏当て層を含有する2層の組成物の調製
【0208】
【表8】
【0209】
4つの組成物を作製し、そのうち2つはコーティングを全く含まず、II-コーティングは電界紡糸繊維上に噴霧され、それに対してIIIコーティングは電界紡糸繊維上に紡糸された。
【0210】
(実施例10)
インビボにおける組成物の接着試験
舌の中央に1cm×1cmのシートを置くことによって、本明細書に記載の実施例で例示された電界紡糸繊維を生体接着性について試験した。繊維を試験した対象に生体接着を0から5のスケールで評価することを求めた。ここで5は強い生体接着であり、0は生体接着なしである。
【0211】
(実施例11)
電子顕微鏡分析
図1に、実施例3で示された2種の異なる組成物からの電子顕微鏡写真を示す。図から、薬物粒子のサイズは繊維中ではかなり小さいことがわかり、その場合、原薬は、酢酸緩衝液中に懸濁され、すなわち原薬の一部が紡糸前に酢酸緩衝液中に溶解されていることを確認する。
【0212】
(実施例12)
インビトロにおける電界紡糸繊維の接着試験
電界紡糸繊維の生体接着力を、図2に示した生体接着性測定デバイスを用いて決定した。頬粘膜をストリップ/断片に切り出し、チロイド溶液で洗浄した。試験時に、頬粘膜の切片(c)を上のガラスバイアル(B)上で粘膜側を外にしながら、ゴムバンド及びアルミニウムのふたを使用して固定した。露出した粘膜それぞれの直径は1cmであった。ヒツジの頬粘膜(C)を含むバイアルを37℃で10分間貯蔵した。次いで頬粘膜(C)の切片を含む1つのバイアル及び別のバイアルを、高さ調整可能なパン(E)に固定した。下のバイアルに、二重層粘着テープの下に面する接着面の助けを借りて電界紡糸繊維(D)を設置した。上のバイアル上のヒツジの頬粘膜に電界紡糸繊維が接着できるように、下のバイアルの高さを調整した。上のバイアルに一定の力を2分間適用し、その後、それを除去し、次いで上のバイアルを重りに連結した。次いで2つのバイアルがちょうど互いに分離するまで0.5gの増加量で右側のパンにゆっくり加重した。生体接着性強度の尺度として、2つのバイアルを取り外すのに必要な総質量(g)をとった。この生体接着性強度から、接着力を計算した。
【0213】
参照によりその全体が開示に組み入れられるKockishらによりJournal of Controlled Release、77 (2001) 1〜6で説明されたインビトロ及びインビボの方法等の他の好適な方法も使用され得る。
【0214】
(実施例13)
インビトロにおける組成物の放出試験
研究の目的は、インビトロにおける本明細書で説明される組成物からのジプロピオン酸ベタメタゾン、BDP、又はプロピオン酸クロベタゾールの放出に対するポリマー及び生体接着性ポリマー、可塑剤並びに油性放出強化剤の作用を調査することである。
膜:
Dow Corning(登録商標)7-4107シリコーンエラストマー膜、75μm。
【0215】
拡散セルシステム:
改変された透析セル
レセプター区画:3.75ml。各セルの実際の体積は、レセプター区画充填の前及び後に組み立てられたセルの重さを量ることによって記録される。直径:1.55cm、これは、1.89cm2の利用可能な拡散領域に相当する。
【0216】
シリコーン膜のシートを所定サイズに切り出す(円形、0=22mm)。膜を、光沢側がドナー区画に面した透析セルの2つの区画間に設置する。
【0217】
電界紡糸パッチ製剤を、アクチュエーターを押し込むことによって膜の上に直接適用する。
【0218】
レセプター区画を予熱及び脱気されたレセプター媒体で充填し(各セルの実際の体積は、重さを量ることによって記録される)、発生し得る気泡を除去する。サンプリングアームをプラスチック栓及びパラフィルムでシールして、レセプター媒体の蒸発を予防する。レセプター区画中に設置された磁気バーを用いて、レセプター相の一様の混合物を得る。37℃に設定された加熱キャビネット中に拡散セルを設置して、膜表面において32℃の温度を維持する。攪拌ベッドをセットする。
【0219】
レセプター媒体:
0.05M酢酸緩衝液pH4.0中の10%w/wメチル-13-シクロデキストリン。実験開始前及びサンプリングの24時間及び48時間前に、レセプター媒体を、超音波水浴中で最小限の20分間で脱気する。シンクコンディションが確実に研究期間中常に存在するようにし、すなわちレシピエント相中の医薬化合物の濃度を媒体中の原薬の溶解性の10%未満にした。
【0220】
暴露及びサンプリング時間:
1500μl(実際の体積は、重さを量って記録される)のサンプルを、各セルから規則的な時間間隔で引き出す。各サンプリングの後、レセプター区画を予熱された新しいレセプター媒体で最充填する(引き出された体積と正確な同じ体積)。引き出されたサンプルを茶色のシールしたHPLCバイアル中に2〜8℃で貯蔵し、実験の最後におけるHPLC分析による定量化まで遮光する。サンプリングのタイムポイント:0、1、6、24、30、48、54、72時間。
【0221】
研究の設計:
各製剤を3つの複製(n=3)で試験する。
【0222】
(実施例14)
インビトロにおける皮膚透過研究
実施例3及び6による組成物からの皮膚透過性及びイミキモドの透過を調査するために、皮膚拡散実験を行った。ブタの耳からの全層皮膚を研究に使用した。使用前に、皮膚を清潔にし、-18℃で凍結状態を維持した。実験の前の日に、ゆっくり解凍するために皮膚を冷蔵庫(5±3℃)に入れた。
【0223】
T.J. Franz、「The finite dose technique as a valid in vitro model for the study of percutaneous absorption in man」、Current Problems in Dermatology、1978、J.W.H. Mall(編)、Karger、Basel、58〜68頁で実質的に説明される方式において、3.14cm2の利用可能な拡散領域及び8.6から11.1mlの範囲のレセプター体積を有する静電的なFranz-タイプの拡散セルを使用した。各セルにつき特定の体積を測定し、記録した。各セルのレセプター区画中に磁気バーを入れた。皮膚を搭載した後、皮膚に水分補給するために各レセプターチャンバーに生理的塩類溶液(35℃)を充填した。セルを、300rpmに設定された磁気攪拌器上に置かれた熱的に制御された水浴中に置いた。水浴中の循環水を35±1℃に維持することによって、皮膚表面上の温度を約32℃にした。30分後、塩類溶液を、1部の酢酸緩衝液(100mM、pH4.0)及び1部の塩類溶液からなるレセプター媒体で交換した。
【0224】
インビトロにおけるイミキモドを含有する各試験組成物の皮膚透過を3つの複製(すなわちn=6)で試験した。各試験組成物を、ピペットを使用して0時間に皮膚の膜上に適用した。皮膚透過実験を24時間進行させた。次いでサンプルを、72時間までレセプター区画から収集した。
【0225】
サンプル中のイミキモドの濃度をHPLCによって決定した。
【0226】
(実施例15)
インビトロでの頬組織培養における透過
図3に使用された装置を示す。
【0227】
ジプロピオン酸ベタメタゾン又はプロピオン酸クロベタゾールを含有する紡糸シート製剤を、アクチュエーターを押し込むことによって膜の上に直接適用する。セルを加熱キャビネット中で37℃に維持した。レセプター区画を予熱したレセプター媒体で充填する。各セルの実際の体積を、重さを量ることによって記録する。レセプター媒体は、0.05M酢酸緩衝液pH4.0中の10w/wメチル-13シクロデキストリンからなる。48時間まで異なる時間間隔で、受信流体のサンプルを取り出し、新しい予熱されたレセプター媒体で交換する。引き出されたサンプルを茶色のシールしたHPLCバイアル中に2〜8℃のドナー媒体で貯蔵し、実験の最後におけるHPLC分析による定量化まで遮光する。各実験を3連で行った。
【0228】
(実施例16)
インビトロでのヒト細胞培養物における皮膚刺激研究
2013年7月26日に承認されたOECDの試験ガイドライン「OECD Guidelines for the testing of chemicals-In Vitro Skin Irritation: Reconstructed Human Epidermis Test Method. 439」に従って、インビトロでのヒト細胞培養における皮膚刺激研究を試験した。
【0229】
(実施例17)
生体接着性物質の溶解性の決定
生体接着性物質の溶解性を、欧州薬局方5.0(5.11章、565頁)によって推奨された方法を使用して決定した。
【0230】
欧州薬局方は、特定の溶媒中での物質の溶解性を定義するのに以下の用語を使用する(1.4章、7頁):
【0231】
【表9】
【0232】
以下に、デキストラン及びポリエチレンオキシドの溶解性を決定するのに使用された実験的方法を説明する:
溶解手順:チューブを振盪し(1分間)、25±0.5℃の温度で恒温デバイス中に15分置く。物質が完全に溶解しない場合、チューブを振盪し(1分間)恒温デバイス中に15分置くことを繰り返す。
【0233】
方法
1)ストッパー付きチューブ(内径16mm及び長さ160mm)中に100mgの微粉末化した物質を量り入れ、0.1mlの溶媒を添加し、溶解手順で説明したように進行させる。物質が完全に溶解する場合、それは、非常に可溶性である。
【0234】
2)物質が完全に溶解しない場合、0.9mlの溶媒を添加して、溶解手順で説明したように進行させる。物質が完全に溶解する場合、それは、容易に可溶性である。
【0235】
3)物質が完全に溶解しない場合、2.0mlの溶媒を添加して、溶解手順で説明したように進行させる。物質が完全に溶解する場合、それは、可溶性である。
【0236】
4)物質が完全に溶解しない場合、7.0mlの溶媒を添加して、溶解手順で説明したように進行させる。物質が完全に溶解する場合、それは、難溶性である。
【0237】
5)物質が完全に溶解しない場合、10mgの微粉末化した物質をストッパー付きチューブに量り入れ、10.0mlの溶媒を添加し、溶解手順で説明したように進行させる。物質が完全に溶解する場合、それは、わずかに可溶性である。
【0238】
6)物質が完全に溶解しない場合、1mgの微粉末化した物質をストッパー付きチューブに量り入れ、10.0mlの溶媒を添加し、溶解手順で説明したように進行させる。物質が完全に溶解する場合、それは、非常にわずかに可溶性である。
【0239】
材料
物質;
1)DEX20:Mw2,000,000を有するデキストラン(Pharmacosmos社)
2)PEO20:Mw2,000,000を有するポリエチレンオキシド(Sigma Aldrich社)
溶媒;
1)エタノール中3vol%蒸留水。
【0240】
結果
【0241】
【表10】
【0242】
考察及び結論
・両方の生体接着性物質(すなわちデキストラン及びポリエチレンオキシド)は、10mlの溶媒に1mgの物質を添加する欧州薬局方によって推奨された方法の最後の工程後に、完全に溶解しなかった。
【0243】
・これは、1gの両方の物質を溶解させるのに10,000mlより多くの溶媒が必要であることを意味する。
【0244】
・それゆえに、欧州薬局方で定義された用語を使用した場合、本発明の組成物の製作に使用された生体接着性物質(すなわちデキストラン及びポリエチレンオキシド)は、エタノール中3vol%蒸留水中で実際的には不溶性と記述することができる。
【0245】
(実施例18)
繊維形成の成功をもたらすエタノールに添加される水の最大量の決定
溶媒系に添加することができる水の最大量を、蒸留水及びエタノールのブレンド中のポリビニルピロリドン(PVP)及び/又はEudragit RS100の一連の溶液を調製し、次いで電界紡糸して繊維の形成を確認することによって決定した。
【0246】
溶液の組成
・PVP=10wt%
・Eudragit RS100=0wt%及び5wt%
・溶媒=様々な比率の蒸留水及びエタノールのブレンド
電界紡糸条件
・15ゲージのニードル
・電圧=16kV
・距離=19cm
・流速=5ml/時間。
【0247】
結果
【0248】
【表11】
【0249】
・50vol%までの水を用いて調製された溶液を簡単に加工したところ、優れた品質の繊維及び材料が生成した。
【0250】
・60vol%水を用いて調製された溶液は、電界紡糸条件の改変後に繊維を生成することができた。得られた材料の品質は不十分であった。
【0251】
・75vol%のPVP及び100vol%蒸留水のみで作製された溶液は、電界紡糸条件の改変後に繊維を生成することができた。得られた材料の品質は不十分であった。
【0252】
・75vol%のPVP及びEudragit RS100及び100vol%蒸留水で作製された溶液は、Eudragit RS100が溶解しなかったために加工することができなかった。
【0253】
結果
・電界紡糸PVP及びEudragit RS100はまた、溶媒系中の含水量が増加するにつれて、水に晒されたときに増加した溶解性及び低下した材料完全性も示すようである。
【0254】
結論
・50vol%までの蒸留水をエタノールに添加して、PVP及び/又はEudragit RS100で作製された優れた電界紡糸繊維を生産することができる。
【0255】
・実際には、使用される溶媒系中の水の濃度は、i)繊維形成性親水性ポリマーの優れた溶解性を確実にすることと、生体接着性物質の不十分な溶解性と、ii)水と接触したときの生体接着性物質の特性とのバランスであり、高粘度の溶媒系は繊維への電界紡糸を難しくすることから、生体接着性物質は、溶媒系の粘度にわずかな程度の影響しか与えないようなものであるべきである。
【0256】
・溶媒系中の含水量の増加(>20vol%)は、水に晒されたときのPVP+Eudragit RS100電界紡糸繊維の挙動に影響を与える。
【0257】
(実施例19)
電界紡糸繊維はまた追加のポリマーと共に生産され得ることの実証
様々な親水性ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリレート及びアクリル系コポリマーが、繊維の形成に好適な可能性がある。
【0258】
電界紡糸繊維生産を容易にすることができる可能性がある溶液及び加工条件を学習するために、当分野の文献を簡単に見直した。
【0259】
次いで、PVP及びEudragit以外のポリマーを電界紡糸する可能性を、以下のポリマーの溶液を様々な溶媒系で使用して調査した:
1)ポリ(ビニルアルコール)、99+%加水分解、Mw146,000〜186,000
2)カルボキシメチルセルロースナトリウム、Mw約250,000
3)ヒドロキシプロピルセルロース、Mw約100,000
4)エチルセルロース、エトキシル含量48%、10cps。
【0260】
最初、選択された溶媒はエタノール及び蒸留水であった。FAO(国連食糧農業機関)によれば、エタノール及び水中のこれらのポリマーの溶解性は、以下の通りである:
【0261】
【表12】
【0262】
したがって、この情報に基づけば、PVA及びCMCは、エタノール中に容易に可溶性ではない。
【0263】
ポリ(ビニルアルコール)(PVA)
・PVAは、透明な溶液が形成されるまで連続的に攪拌しながら、(70〜90)℃で蒸留水に溶解した。
・濃度=6wt%
・20kV及び1.25ml/時間を使用して、電界紡糸繊維を形成した。
・繊維の不規則な形成-繊維形成性親水性ポリマーとして本発明に係る組成物の製作に使用するにはその時点では不十分であった。
【0264】
エチルセルロース(EC)
・ECは、エタノール及びテトラヒドロフランに十分溶解した。
・濃度=10〜15wt%
・多様な加工条件で電界紡糸することはできなかったが、プロセスパラメーターを適切に調整することにより繊維の加工を可能にする場合がある。
・しかしながら、PVPとブレンドすることによって(すなわち10wt%PVP及び5wt%EC)、電界紡糸繊維及びマット全体を生産することができた。
・得られた材料は、電界紡糸PVP及びRS100と類似した低下した水への溶解性を示した。
【0265】
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)
・HPCは、エタノール及びテトラヒドロフランに十分溶解した。
・濃度=10〜15wt%
・多様な加工条件で電界紡糸することはできなかったが、プロセスパラメーターを適切に調整することにより繊維の加工を可能にする場合がある。
・しかしながら、PVPをブレンドすることによって(すなわち10wt%PVP及び5wt%HPC)、電界紡糸繊維及びマット全体を生産することができた。
・HPCをPVPに添加しても、電界紡糸繊維の溶解性を低下させなかった。
【0266】
カルボキシメチルセルロース(CMC)
・CMCは、蒸留水に十分溶解した。
・濃度=1〜3wt%
・多様な加工条件で電界紡糸することはできなかった。
・ポリエチレンオキシドをブレンドし(CMC:PEO 1:2)、25vol%エタノールを蒸留水に添加した後、結果が一部改善されたが、繊維の形成は観察されなかった。
【0267】
結論
・本発明に係る組成物の製作に関して現在の結果は不十分であるが、PVAは、電界紡糸することができる。
・EC及びHPCは、PVPとブレンドした場合に電界紡糸することができる。
・CMCは、現在のところ電界紡糸できない。
・EC、HPC及びCMCの結果は、文献で報告されているものとは異なる。
・プロセスパラメーターの更なる調整により可能になると予想される。
【0268】
(実施例20)
様々なEudragit組成物の紡糸性の実証
様々なEudragit組成物が特許で言及されており、どの組成物がうまく電界紡糸繊維を生産するのに使用することができるかを発見することが重要と考えた。
【0269】
以下の組成物が調査上重要であると同定された:
【0270】
【表13】
【0271】
Eudragit RS100
・アンモニオメタクリレートコポリマー、タイプB。
・エタノール中3vol%蒸留水に溶解した。
・電界紡糸される可能性がある。
・PVPとブレンドした場合に優れた繊維が形成される。
【0272】
Eudragit L100-55
・メタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー(1:1)タイプA。
・エタノール中で溶解した。
・電界紡糸されて優れた品質の材料を形成する可能性がある。
・繊維の形成に2種以上の繊維形成性親水性ポリマーのブレンドが使用される場合、使用されるポリマーは、使用される溶媒系中でブレンド可能であるべきであり、更にそれらは溶解されるべきである。
【0273】
(実施例21)
使用される生体接着性物質の分子量
この実施例の目的は、本発明の組成物での使用に関して示唆された生体接着性物質が述べられた分子量の範囲内で採用できることを実証することである。
【0274】
1つの必要条件は、生体接着性物質は、使用される溶媒系中で容易に可溶性であってはならず、溶解性は、難溶性又はそれ未満であるべきであることである。これは、例えば低い分子量を有するデキストラン及びPEOは溶解性の基準を満たさないように、分子量に関して制限を課す。
【0275】
本発明者らの実験的作業から、以下が実証された:
・ポリマーの生体接着性強度は、分子量が増加するにつれて増加する傾向がある。
・これは、相互浸透層及び軟部組織表面との絡み合いを生じさせるのに必要とされる重要な分子の長さに関する。
・高度に直鎖状の構造を有するポリエチレンオキシドの事例において、接着強度は、4,000,000の分子量まで増加する。
・よりコイル状の構造を提供するデキストランの事例において、機能的なデキストラン基の「シールディング」のために低い及び高い分子量の両方で類似の生体接着強度を示すことが報告されている。
【0276】
ポリエチレンオキシドの場合、400,000及び2,000,000の分子量を有するPEOを使用して、電界紡糸組成物の生体接着特性の実験的研究を行った。
・両方の組成物間で有意差はなかったが、2,000,000のポリエチレンオキシドを含むパッチは、ばらつきがより小さく、平均接着時間がより長いという結果をもたらした。
【0277】
デキストランの場合、500,000及び2,000,000の分子量を有するデキストランを含有する電界紡糸材料で、実験的研究を行った。
・同様に、両方の組成物間で有意差はなかったが、2,000,000のデキストランを含むパッチは、平均接着時間がより長い結果をもたらした。
【0278】
結論として、高い分子量の物質は、より低い分子量のものより明確な結果を示したことから、それらが生体接着性研究に選択された。
【0279】
(実施例22)
電界紡糸溶液に添加できる生体接着性物質の最大量の決定
増加する量の生体接着性物質を含むエタノール中のポリビニルピロリドン(PVP)の一連の溶液を調製し、次いで電界紡糸して繊維の形成を確認することによって、電界紡糸材料に添加できる生体接着性物質の最大量を決定した。
【0280】
溶液の組成
・PVP=10wt%
・生体接着性物質=ポリエチレンオキシド、Mw2,000,000(PEO20)及びデキストラン、Mw2,000,000(DEX20)
・溶媒=エタノール
電界紡糸条件
・15ゲージのニードル
・電圧=16kV
・距離=19cm
・流速=5ml/時間。
【0281】
結果
【0282】
【表14】
【0283】
・30wt%までのDEX20及び20wt%PEO20を含む溶液を簡単に加工したところ、優れた品質の繊維及び材料が生成した。
【0284】
・40wt%DEX20及び30wt%PEO20を含む溶液は、電界紡糸することができたが、溶液の高粘性のために得られた材料の品質は不十分であった。
【0285】
・50wt%DEX20及び40wt%PEO20を含む調製物は、加工することができなかった。それらの粘度は電界紡糸するには高すぎ、それらの外観は溶液状というよりペースト状であった。
【0286】
(実施例23)
電界紡糸繊維は追加の生体接着性物質を使用しても生産が可能であることの実証
デキストラン及びポリエチレンオキシド以外の様々な生体接着性物質を用いた実験を行った。
【0287】
電界紡糸繊維に添加することができる可能性がある生体接着性物質を同定するために、当分野の文献を簡単に見直した。その結果、以下の親水性物質が提唱されていた:
【0288】
【表15】
【0289】
使用された物質は以下の通りであった:
1)褐藻からのアルギン酸ナトリウム塩、中程度の粘度
2)カルボキシメチルセルロースナトリウム、Mw約250,000
3)キトサン、中分子量
4)ポリ(ビニルアルコール)、99+%加水分解、Mw146,000〜186,000。
【0290】
供給されたときの物質の粒度は、電界紡糸繊維に添加するには大きすぎた。それゆえに、全ての物質をミリングし、篩にかけて、粒度150μm未満の粉末を生産した。
【0291】
次いで電界紡糸溶液を調製し、以下の条件で加工した:
・エタノール中の20wt%Eudragit L100-55+10wt%生体接着性物質
・15ゲージのニードル
・電圧=16kV
・距離=19cm
・流速=2.5ml/時間
・結果から、他の生体接着性物質は、本状況で使用するのに好適であることが示された。
・ポリ(ビニルアルコール)及びキトサン粒子は、サンプルを乾燥させた後に目視できるが、他の物質ははっきりと見えなかった。これは、ポリ(ビニルアルコール)及びキトサンは、室温における水中での遅い溶解のために、最も小さい生体接着性能を有する物質であり得ることを示唆する。
【0292】
(実施例24)
溶媒としてエタノールを使用したPVP繊維の形成
エタノール中のPVPの繊維形成がPVPの濃度に依存するのかどうかを調査するために、実験を行った。以下の結果を得た:
1)2.5wt%PVP-繊維は形成されなかった。流速を2.5mL/時間及び1mL/時間に低下させた後でさえも電気噴霧(すなわち繊維というより粒子の形成)がその代わりに観察された。
【0293】
2)5wt%PVP-繊維の形成が観察された。個々の繊維で作製された膜が良好に形成された。
【0294】
3)7.5wt%PVP-繊維の形成が観察された。個々の繊維で作製された膜が良好に形成された。
【0295】
4)10wt%PVP-繊維の形成が観察された。個々の繊維で作製された膜が良好に形成された。
【0296】
5)12.5wt%PVP-繊維の形成が観察された。個々の繊維で作製された膜が良好に形成された。
【0297】
6)15wt%PVP-繊維の形成が観察された。個々の繊維で作製された膜が良好に形成された。
【0298】
7)20wt%PVP-繊維の形成が観察された。2.5mL/時間に流速を低下させ、コレクターへの距離を23cmに増加させた後、個々の繊維で作製された膜を製作することができた。
【0299】
8)25wt%PVP-繊維の形成が観察された。流速を1mL/時間に低下させ、コレクターへの距離を23cmに増加させた後、膜を製作することができた。しかしながら、得られた膜は、1)〜7)で得られた繊維ほど優れた品質ではなかった。
【0300】
全ての溶液をエタノール中で調製した。
【0301】
電界紡糸条件は、異なって示されている場合を除き、以下の通りである:
- 電圧=15kV
- 流速=5mL/時間
- コレクターへの距離=19cm。
【0302】
PVPの濃度が増加するにつれて、繊維の直径が増加することを観察した。20wt%及び25wt%PVPの事例において、これは、より遅い溶媒蒸発及び堆積後の繊維の融合を引き起こし、フィルムが形成された。これらの事例において、個々の繊維で作製された膜を得るために、コレクターまでの距離を23cmに増加させた。加えて、コレクター上の繊維が堆積した領域も、濃度が増加するにつれて減少した。
【0303】
20wt%及び25wt%PVPの粘度は、他の溶液の場合より有意に大きかったことから、上述の繊維形成の問題を引き起こす可能性がある。25wt%の特定の事例では、その粘性の性質のために電界紡糸前に溶液から気泡を消滅させることは難しかった。繊維は、20wt%及び25wt%から生成することができた。
【0304】
これらの結果から、本発明に係る繊維の製作に関するPVP濃度の最適な範囲は、5wt%から20wt%の間であってもよく、約10wt%の濃度が非常に優れた結果をもたらすことが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16