(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リン酸系可塑剤が、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む請求項2にシート状の耐火性樹脂成形体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の耐火性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム、又はこれらの組み合わせ(以下、「マトリックスと称する」)と、リン化合物と、熱膨張性黒鉛とを含有する。
【0011】
熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。なかでも、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、エチレン−ポリ酢酸ビニル系樹脂、ならびにこれらの組み合わせが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0012】
上記熱可塑性樹脂はいずれも、樹脂組成物としての耐火性能を阻害しない範囲で、架橋、変性して用いてもよい。樹脂の架橋方法についても、特に限定はなく、熱可塑性樹脂の通常の架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物を使用する架橋、電子線照射による架橋などが挙げられる。
【0013】
エラストマーの例としてはオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0014】
ゴムの例としては、天然ゴム、シリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなど、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0015】
一実施形態において、マトリックスは、好ましくはポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン−ポリ酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリスチレン、EPDM、またはそれらの組み合わせである熱可塑性樹脂である。別の実施形態において、マトリックスは、好ましくはポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン−ポリ酢酸ビニル樹脂、またはそれらの組み合わせである熱可塑性樹脂である。この場合、シート成形性又は巻き付け性などの作業性に優れた耐火性樹脂組成物が得られる。
【0016】
本発明で用いられるマトリックスには、リン化合物、及び熱膨張性黒鉛が含有される。本発明の耐火性樹脂組成物の耐火性能は、これら2成分がそれぞれの性質を発揮することにより発現する。具体的には、加熱時に熱膨張性黒鉛が膨張断熱層を形成して熱の伝達を阻止する。リン化合物は、膨張断熱層及び充填材に形状保持能力を有する。
【0017】
上記リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;各種リン酸エステル(ただしリン酸系可塑剤を除く);ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;リン酸金属塩;下記一般式(1)で表される化合物;リン酸系可塑剤などが挙げられる。
【0019】
式中、R1 、R3 は、水素、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2 は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0020】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しないなどの安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたものなどが好ましい。
【0021】
リン酸系可塑剤ではないリン酸エステルとしては、特に限定されないが、樹脂組成物の溶融混練時に液体状態のリン酸エステルを含む。
【0022】
ポリリン酸アンモニウム類としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられるが、取扱性などの点から、ポリリン酸アンモニウムが好ましい。市販品としては、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」、住友化学工業社製「スミセーフP」、チッソ社製「テラージュC60」が挙げられる。
【0023】
ポリリン酸アンモニウム類の含有量は特に限定されないが、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であることが好ましく、50〜150重量部であることがより好ましい。
【0024】
ポリリン酸メラミンの含有量は特に限定されないが、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であることが好ましく、50〜150重量部であることがより好ましい。
【0025】
リン酸金属塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸などが挙げられる。上記リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
リン酸系可塑剤は熱可塑性樹脂などのマトリックスの溶融粘度を調整するために添加される。リン酸系列可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、例えばリン酸トリクレジル
(TCP)、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリキシレニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、リン酸キシレニルジフェニル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニルなどのアリールエステル;リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリス2−エチルヘキシルなどのアルキルエステル;リン酸レゾルシノールビス-ジフェニル、リン酸レゾルシノールビス-ジキシレニル、リン酸ビスフェノールAビス-ジフェニルなどのビスフェノール系芳香族縮合リン酸エステル類;ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。一実施形態において、リン酸系可塑剤は芳香族環を有するリン酸化合物である。好ましいリン酸系列可塑剤はリン酸トリクレジル(TCP)である。
【0028】
リン酸系可塑剤の含有量は特に限定されないが、リン酸系可塑剤の合計量が、マトリックス100重量部に対して0よりも大きく200重量部以下であることが好ましく、25〜150重量部であることがより好ましい。
【0029】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;およびリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む。別の実施形態では、リン化合物は、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であるポリリン酸アンモニウム類;30〜200重量部であるポリリン酸メラミン;および0よりも大きく200重量部以下であるリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む。これらの実施形態において、好ましくはリン酸系可塑剤はリン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む。芳香族縮合リン酸エステルは例えばリン酸レゾルシノールビス-ジフェニルである。この場合、耐火性、シート成形性、および
作業性に優れた耐火性樹脂組成物を得ることができる。
【0030】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類のみを含む。別の実施形態では、リン化合物は、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部、好ましくは100〜200重量部であるポリリン酸アンモニウム類を含む。
【0031】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類と、ポリリン酸メラミンおよびリン酸系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一つとを含む。別の実施形態では、リン化合物は、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であるポリリン酸アンモニウム類と、30〜200重量部であるポリリン酸メラミンおよび0よりも大きく200重量部以下であるリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つとを含む。これらの実施形態において、好ましくはリン酸系可塑剤はリン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル(例えばリン酸レゾルシノールビス-ジフェニル)、リン酸トリクレジル、リ
ン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む。この場合、耐火性、シート成形性、および作業性に優れた耐火性樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類と、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、またはそれらの組み合わせとを含む。別の実施形態では、リン化合物は、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部のポリリン酸アンモニウム類と、30〜200重量部のリン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、またはそれらの組み合わせとを含む。この場合、膨張倍率及び残渣硬さの両方の点で耐火性に優れ、かつシート成形性又は巻き付け性などの作業性にも優れた耐火性樹脂組
成物を得ることができる。
【0033】
一実施形態では、リン化合物がアリールエステルを含む。別の実施形態では、マトリックス100重量部に対して、50〜300重量部のアリールエステルを含む。アリールエステルがリン酸トリクレジルである。好ましくは、かかるアリールエステルを含む耐火性樹脂組成物はポリリン酸アンモニウム類を含んでもよく、その場合、マトリックス100重量部に対して、ポリリン酸アンモニウム類は例えば30〜200重量部である。
【0034】
なお、シート成形性には塗工工程にて得られたシートの外観が含まれる。巻き付け性は、本発明の耐火性樹脂組成物を曲面に巻き付け又は貼り付けた際の折れ、ヒビ、割れ、及び/又は欠けなどの有無を初めとする、本発明の耐火性樹脂組成物に曲げの力がかかったときの巻き易さを指す。
【0035】
本発明で用いられる熱膨張性黒鉛は、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイトなどの粉末を濃硫酸、硝酸、セレン酸などの無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素などの強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたもので、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0036】
熱膨張性黒鉛は任意選択で中和処理されてもよい。つまり、上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などで中和する。上記脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどが挙げられる。上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウムなどの水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。中和処理した熱膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、日本化成社製「CA−60S」、東ソー社製「GREP−EG」などが挙げられる。
【0037】
本発明で用いられる熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュのものが好ましい。粒度が200メッシュより細かいと、黒鉛の膨張度が小さく、望む耐火断熱層が得られず、粒度が20メッシュより大きいと、膨潤度が大きいという点では効果があるが、樹脂と混練する際、分散性が悪く物性の低下が避けられない。
【0038】
本発明においては、マトリックス100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上含有される。リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上であると、十分な耐火性能が得られる。また、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量の上限は特に限定されないが、例えば500重量部以下である。リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が500重量部以下であると、十分な機械的物性が維持される。
【0039】
本発明においては、熱膨張性黒鉛とリン化合物を組み合わせることにより、燃焼時の熱膨張性黒鉛の飛散を抑え、形状保持を図るもので、熱膨張性黒鉛が多すぎると、燃焼時に膨張した黒鉛が飛散し、加熱時に充分な膨張断熱層が得られず、逆にリン化合物が多すぎても、断熱層が充分でなく、望む効果が得られなくなるため、好ましくは、熱膨張性黒鉛とリン化合物の重量比は熱膨張性黒鉛:リン化合物=9:1〜1:100である。
【0040】
また、燃焼時の形状保持性という点からは、熱膨張性黒鉛:リン化合物=5:1〜1:80の範囲が優れている。組成物自身が難燃性であっても形状保持性が不充分であると、脆くなった残渣が崩れ落ち、火炎を貫通させてしまうため、形状保持性が充分か否かにより、耐火性組成物の用途形態が大きく異なる。より好ましくは、熱膨張性黒鉛:リン化合
物=5:1〜1:50、特に好ましくは2:1〜1:20の範囲である。
【0041】
本発明の耐火性樹脂組成物は、無機充填剤を0〜50重量部含有する。耐火性樹脂組成物において、加熱時に熱膨張性黒鉛が膨張断熱層を形成して熱の伝達を阻止するが、無機充填剤は、その際に熱容量を増大させる。
【0042】
本発明で用いる無機充填剤としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥などが候補に挙げられ、本発明では、周期律表II族又はIII族に属する金属の金属塩又は酸化物は、燃焼時に発泡して発泡焼成物を形成する性質を有するため、形状保持性を高めるうえで特に好ましい。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0043】
一般的に、上記無機充填剤は、骨材的な働きをすることから、残渣強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。上記無機充填剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
上記無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。上記無機充填剤の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲のなかでも粒径の大きいものが好ましい。粒径が100μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下する。
【0045】
上記無機充填剤の中でも、特に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0046】
上記含水無機物の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0047】
上記無機充填剤の市販品では、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「H−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H−31」(昭和電工社製);炭酸カルシウムとして、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8
μmの「BF300」(白石カルシウム社製)などが挙げられる。また、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものを組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせることによって、さらに高充填化が可能となる。
【0048】
また、無機充填剤としての含水無機物は、加熱時に脱水し、吸熱する性質を有するため、耐熱性を高めるうえで有利である。具体的には、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
また、本発明において無機充填剤が含有される場合、マトリックス100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上であり、無機充填剤が50重量部以下であると、作業性が良好に維持される。
【0050】
本発明の耐火性樹脂組成物は、フタル酸エステル系可塑剤をさらに含んでもよい。フタル酸エステル系可塑剤としては、下記に例示する1種または2種以上の可塑剤を組み合わせて使用し得る:ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、炭素原子数10〜13程度の高級アルコールまたは混合アルコールのフタル酸エステル、またはそれらの組み合わせ。フタル酸エステル系可塑剤の含有量は特に限定されないが、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であることが好ましく、50〜150重量部であることがより好ましい。フタル酸エステル系可塑剤を含有すると、耐火性樹脂組成物のシート成形性又は巻き付け性などの作業性が向上する。
【0051】
本発明の耐火性樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、更に、フェノール系、アミン系、イオウ系などの酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料などが添加されてもよい。
【0052】
本発明の耐火性樹脂組成物は、混練、塗工、必要あれば乾燥、及び硬化の工程により得ることができる。混練には単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ロールなどの混練装置を用いる。また、本発明の耐火樹脂組成物は、不織布などの基材への積層も可能である。
【0053】
本発明の耐火性樹脂組成物は、建築材料に耐火性能を与えるために使用することができる。例えば、窓(引き違い窓、開き窓、上げ下げ窓などを含む)、障子、扉(すなわちドア)、戸、ふすま、及び欄間などの開口部;防火区画の貫通部;目地;鉄骨コンクリートなどに耐火性樹脂組成物を配置して、火災や煙の侵入を低減又は防止することができる。
【0054】
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【0055】
なお、本発明は以下の構成を取ることも可能である。
(1)熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム、又はこれらの組み合わせであるマトリックスに、リン化合物、及び熱膨張性黒鉛を含有してなり、それぞれの含有量が、前記マトリックス100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上、かつ無機充填剤が0〜50重量部であることを特徴とする耐火性樹脂組成物。
(2)マトリックスは、好ましくはポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン−ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、EPDM、またはそれらの組み合わせである前記熱可塑性樹脂を含む(1)に記載の耐火性樹脂組成物。
(3)前記マトリックスが、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン−ポリ酢酸ビニル樹脂、またはそれらの組み合わせである前記熱可塑性樹脂を含む(1)に記載の耐火性樹脂組成物。
(4)リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;およびリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む(1)〜3のいずれかに記載の耐火性樹脂組成物。
(5)前記リン化合物がポリリン酸アンモニウム塩を含む(1)に記載の耐火性樹脂組成物。
(6)ポリリン酸アンモニウム類の含有量がマトリックス100重量部に対して30〜200重量部である(5)に記載の耐火性樹脂組成物。
(7)前記リン化合物がリン酸系可塑剤を含む(1)〜(6)のいずれかに記載の耐火性樹脂組成物。
(8)前記リン化合物は、マトリックス100重量部に対して0よりも大きく200重量部以下であるリン酸系可塑剤を含む(7)に記載の耐火性樹脂組成物。
(9)リン酸系可塑剤の含有量がマトリックス100重量部に対して25〜150重量部である(8)に記載の耐火性樹脂組成物。
(10)リン酸系可塑剤は、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む(7)または(8)のいずれかに記載の耐火性樹脂組成物。
(11)リン酸系可塑剤は、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、またはそれらの組み合わせを含む(7)または(8)のいずれかに記載の耐火性樹脂組成物。(12)前記リン化合物は、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であるポリリン酸アンモニウム類;30〜200重量部であるポリリン酸メラミン;および0よりも大きく200重量部以下であるリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む(1)〜(11)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(13)前記リン化合物が、ポリリン酸アンモニウム類と、ポリリン酸メラミンおよびリン酸系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一つとを含む(1)〜(11)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(14)前記リン化合物は、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部であるポリリン酸アンモニウム類と、30〜200重量部であるポリリン酸メラミンおよび0よりも大きく200重量部以下であるリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つとを含む(1)〜(11)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(15)リン酸系可塑剤が、マトリックス100重量部に対して30〜200重量部のリン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、またはそれらの組み合わせである(15)に記載の耐火性樹脂組成物。
(16)リン酸系可塑剤が芳香族環を有するリン酸化合物である請求項(7)に記載の耐火性樹脂組成物。
(17)リン酸系可塑剤がアリールエステルである(7)に記載の耐火性樹脂組成物。
(18)前記マトリックス100重量部に対して、アリールエステルが50〜300重量部である(17)に記載の耐火性樹脂組成物。
(19)アリールエステルがリン酸トリクレジルである(17)または(18)に記載の耐火性樹脂組成物。
(20)フタル酸エステル系可塑剤をさらに含む(1)〜(19)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(21)フタル酸エステル系可塑剤の含有量がマトリックス100重量部に対して30〜200重量部である(20)に記載の耐火性樹脂組成物。
(22)フタル酸エステル系可塑剤が、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOP)
、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、またはそれらの組み合わせである(20)または(21)に記載の耐火性樹脂組成物。
(23) 前記熱膨張性黒鉛:前記リン化合物の重量比が9:1〜1:100であることを特徴とする(1)〜(22)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(24) 前記熱膨張性黒鉛:前記リン化合物の重量比が2:1〜1:20であることを特徴とする(1)〜(22)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(25)リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が500重量部以下である(1)〜(24)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0057】
実施例1
超低密度ポリエチレン(表1中ではVLDPE2およびVLDPE3と表す)(VLDPE2は密度=0.907、MI=3.0の超低密度ポリエチレン、VLDPE3はVLDPE3は、密度=0.910、MI=2.0の超低密度ポリエチレンを表わす)に、中和処理された熱膨張性黒鉛(GREP−EG、東ソー社製)、ポリリン酸アンモニウム(スミセーフP、住友化学社製)、リン酸トリクレジル(サンソサイザーTCP 新日本理化株式会社製)、水酸化マグネシウム(キスマ5B、協和化学社製)を表1に示した配合割合で、各成分をロールを用いて溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を140℃でプレスし、耐火性評価及び作業性評価に用いる成形体シートを作製した。
【0058】
1.耐火性評価
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm
2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し
、破断点応力を測定した。
(耐火性の評価)
耐火性について、以下のように評価した。
A:膨張倍率が25倍以上かつ残渣硬さが0.5以上、または膨張倍率が35倍以上かつ残渣硬さが0.4以上、または膨張倍率45倍以上かつ残渣硬さが0.3以上である場合B:膨張倍率が25倍以上かつ残渣硬さが0.3ある場合
C:膨張倍率が25倍以上かつ残渣硬さが0.3を満たさない場合
【0059】
2.作業性評価
<シート成形性>
得られたシートの外観を目視にて観察し、以下のように評価した。
A:ヒビ等がなく、表面が平滑であるもの
B:ヒビ等はないが、若干、表面が荒れているもの
C:ワレやシワ、ヒビが存在するもの
<作業性>
実施例及び比較例の各々の樹脂組成物をローラーに巻付け、作業性としての巻き付け易さを作業者の感覚で評価すると共に、巻きつけたテープの割れなどを観察し、以下のように評価した。
A:ローラーの直径が100mmでヒビ等なし
B:ローラーの直径が200mmでヒビ等なし
C:ローラーの直径が200mmでヒビ等あり
【0060】
実施例2〜20、比較例1〜4
表1に示した配合成分、配合割合で各成分をロールを用いて、溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を実施例1と同様にして試験片を作製し、耐火性及び作業性の評価を行った。結果を表1に示した。
【0061】
なお、塩化ビニル樹脂(徳山積水工業株式会社製)、DOP及びDIDP(ジェイプラス社製)、炭酸カルシウム(BF300、白石カルシウム社製)、ポリリン酸メラミン(MPP−A、株式会社 三和ケミカル)、及び水酸化アルミニウム(B703S、日本軽
金属社製)を使用した。芳香族縮合リン酸エステルはリン酸レゾルシノールビス-ジフェ
ニル(CR−733S,大八化学工業株式会社)を使用した。他の化合物も市販品を用いた。
【0062】
表1中、VLDPE1は、密度=0.920、MI=3.0の超低密度ポリエチレンを表す。LDPEは、密度=0.920、MI=7.0の低密度ポリエチレンを表す。
【0063】
DOPはフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、DIDPはフタル酸ジイソデシルを表す。
【0064】
【表1】