特許第6770181号(P6770181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6770181鞍乗り型車両用情報処理装置、及び、鞍乗り型車両用情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770181
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両用情報処理装置、及び、鞍乗り型車両用情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   B62J 27/00 20200101AFI20201005BHJP
   B62J 45/413 20200101ALI20201005BHJP
   G01C 19/00 20130101ALI20201005BHJP
【FI】
   B62J27/00
   B62J45/413
   G01C19/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-513501(P2019-513501)
(86)(22)【出願日】2018年3月14日
(86)【国際出願番号】IB2018051680
(87)【国際公開番号】WO2018193322
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2019年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-81751(P2017-81751)
(32)【優先日】2017年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】福沢 桂一郎
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−151280(JP,A)
【文献】 特開2014−162260(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/067900(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/017138(WO,A1)
【文献】 特開2013−186897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 27/00
B62J 45/413
G01C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の鞍乗り型車両(1)の姿勢情報を取得する姿勢情報取得部(11)と、
前記姿勢情報取得部(11)で取得された前記姿勢情報の時間経過に基づいて、走行中の前記鞍乗り型車両(1)が転倒過程に入ったことを認識する転倒過程認識部(12)と、
を備えている、鞍乗り型車両用情報処理装置(10)であって、
前記姿勢情報取得部(11)は、走行中の前記鞍乗り型車両(1)に生じている少なくともロールレート(Rr)及びヨーレート(Ry)を、前記姿勢情報として取得し、
前記転倒過程認識部(12)は、少なくとも前記姿勢情報取得部(11)で取得された前記ロールレート(Rr)及び前記ヨーレート(Ry)に基づいて導出される、走行中の前記鞍乗り型車両(1)の不安定度(α)の時間経過が増加傾向である場合に、該鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ったと認識する、
鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項2】
前記不安定度(α)は、少なくともロールレート指数(Rrs)とヨーレート指数(Rys)とに基づいて導出され、ここで、該ロールレート指数(Rrs)は、前記鞍乗り型車両(1)が基準状態にある際のロールレート(Rr)である基準ロールレート(Rr_ref)に対して、前記ロールレート(Rr)が標準化されたものであり、該ヨーレート指数(Rys)は、該鞍乗り型車両(1)が該基準状態にある際のヨーレート(Ry)である基準ヨーレート(Ry_ref)に対して、前記ヨーレート(Ry)が標準化されたものである、
請求項1に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項3】
前記不安定度(α)は、少なくとも前記ロールレート指数(Rrs)及び前記ヨーレート指数(Rys)に対する、二乗和平方根又は二乗平均平方根に基づいて導出される、
請求項2に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項4】
前記基準状態は、前記鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ってから転倒に至るまでの任意の状態である、
請求項2又は3に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項5】
前記転倒過程認識部(12)は、基準期間(Term_ref)での前記不安定度(α)の変化傾向が単調増加である場合に、前記不安定度(α)が増加傾向であると判定する、
請求項1〜4の何れか一項に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項6】
前記転倒過程認識部(12)は、前記基準期間(Term_ref)における開始時点(Tstart)での前記不安定度(αstart)及び終了時点(Tend)での前記不安定度(αend)、及び、該基準期間(Term_ref)内の各時点での前記不安定度(α)の合計に基づいて、近似二次曲線(C)を導出し、該近似二次曲線(C)の極値(αe)が得られる時点(Te)が該基準期間(Term_ref)外である場合に、前記変化傾向が単調増加であると判定する、
請求項5に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項7】
前記転倒過程認識部(12)は、走行中の前記鞍乗り型車両(1)における転倒が生じる可能性の変化に応じて、前記基準期間(Term_ref)を変化させる、
請求項5又は6に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項8】
前記転倒過程認識部(12)は、前記不安定度(α)が増加傾向であると判定され、且つ、走行中の前記鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ったことを認識するための他の指標値が基準を満たさない場合に、走行中の前記鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入っていないと認識する、
請求項1〜7の何れか一項に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項9】
前記転倒過程認識部(12)は、前記不安定度(α)が増加傾向ではないと判定され、且つ、走行中の前記鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ったことを認識するための他の指標値が基準を満たす場合に、走行中の前記鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ったと認識する、
請求項1〜7の何れか一項に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項10】
前記他の指標値は、前記不安定度(α)の変化率である、
請求項8又は9に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項11】
前記他の指標値は、前記ヨーレート(Ry)の変化率である、
請求項8又は9に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項12】
走行中の前記鞍乗り型車両(1)に生じているエンジンブレーキに対応する状態量が、基準を上回るエンジンブレーキに対応する値である場合に、該鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ったと認識することが禁止される、
請求項1〜11の何れか一項に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項13】
前記鞍乗り型車両(1)は、自動二輪車である、
請求項1〜12の何れか一項に記載の鞍乗り型車両用情報処理装置。
【請求項14】
走行中の鞍乗り型車両(1)の姿勢情報を取得する姿勢情報取得ステップ(S101)と、
前記姿勢情報取得ステップ(S101)で取得された前記姿勢情報の時間経過に基づいて、走行中の前記鞍乗り型車両(1)が転倒過程に入ったことを認識する転倒過程認識ステップ(S102、S103)と、
を備えている、鞍乗り型車両用情報処理方法であって、
前記姿勢情報取得ステップ(S101)では、走行中の前記鞍乗り型車両(1)に生じている少なくともロールレート(Rr)及びヨーレート(Ry)が、前記姿勢情報として取得され、
前記転倒過程認識ステップ(S102、S103)では、少なくとも前記姿勢情報取得ステップ(S101)で取得された前記ロールレート(Rr)及び前記ヨーレート(Ry)に基づいて導出される、走行中の前記鞍乗り型車両(1)の不安定度(α)の時間経過が増加傾向である場合に、該鞍乗り型車両(1)が前記転倒過程に入ったと認識される、
鞍乗り型車両用情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の鞍乗り型車両が転倒過程に入ったことを認識するための情報処理装置及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用情報処理装置として、走行中の車両の姿勢情報を取得する姿勢情報取得部と、姿勢情報取得部で取得された姿勢情報に基づいて走行中の車両が転倒過程に入ったことを認識する転倒過程認識部と、を備えているものがある。姿勢情報取得部は、走行中の車両に生じている3軸角速度、つまりピッチレートとロールレートとヨーレートを、姿勢情報として取得する。転倒過程認識部では、3軸角速度のうちの少なくとも1つの角速度が限界値を上回った場合に、走行中の車両が転倒過程に入ったと認識する(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−508060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両用情報処理装置における転倒過程の認識は、自動車、トラック等の比較的走行の安定性が高い車両、つまり走行中に生じる角速度の変化が比較的小さい車両を対象にしている。また、従来の車両用情報処理装置における転倒過程の認識は、自動車、トラック等の比較的乗員の安全性が高い車両を対象としている。そのため、従来の車両用情報処理装置を鞍乗り型車両用情報処理装置として流用して、走行中の鞍乗り型車両が転倒過程に入ったことを認識させようとすると、走行中に生じる角速度の変化が比較的大きいことに起因して、鞍乗り型車両が転倒過程に入ったと誤認識する頻度が増加してしまう。また、その増加を抑制するために、限界値を高く設定してしまうと、比較的乗員の安全性が低いにも関わらず、転倒過程の認識に遅れが生じてしまう。
【0005】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、走行中の鞍乗り型車両が転倒過程に入ったことを、乗員の安全性の向上に寄与しうる適切なタイミングで高精度に認識しうる鞍乗り型車両用情報処理装置及び鞍乗り型車両用情報処理方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、走行中の鞍乗り型車両の姿勢情報を取得する姿勢情報取得部と、前記姿勢情報取得部で取得された前記姿勢情報の時間経過に基づいて、走行中の前記鞍乗り型車両が転倒過程に入ったことを認識する転倒過程認識部と、を備えている、鞍乗り型車両用情報処理装置であって、前記姿勢情報取得部は、走行中の前記鞍乗り型車両に生じている少なくともロールレート及びヨーレートを、前記姿勢情報として取得し、前記転倒過程認識部は、少なくとも前記姿勢情報取得部で取得された前記ロールレート及び前記ヨーレートに基づいて導出される、走行中の前記鞍乗り型車両の不安定度の時間経過が増加傾向である場合に、該鞍乗り型車両が前記転倒過程に入ったと認識するものである。
【0007】
本発明は、走行中の鞍乗り型車両の姿勢情報を取得する姿勢情報取得ステップと、前記姿勢情報取得ステップで取得された前記姿勢情報の時間経過に基づいて、走行中の前記鞍乗り型車両が転倒過程に入ったことを認識する転倒過程認識ステップと、を備えている、鞍乗り型車両用情報処理方法であって、前記姿勢情報取得ステップでは、走行中の前記鞍乗り型車両に生じている少なくともロールレート及びヨーレートが、前記姿勢情報として取得され、前記転倒過程認識ステップでは、少なくとも前記姿勢情報取得ステップで取得された前記ロールレート及び前記ヨーレートに基づいて導出される、走行中の前記鞍乗り型車両の不安定度の時間経過が増加傾向である場合に、該鞍乗り型車両が前記転倒過程に入ったと認識されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鞍乗り型車両用情報処理装置及び鞍乗り型車両用情報処理方法では、走行中の鞍乗り型車両に生じている少なくともロールレート及びヨーレートが姿勢情報として取得され、少なくともロールレート及びヨーレートに基づいて導出される不安定度の時間経過が増加傾向である場合に、鞍乗り型車両が転倒過程に入ったと認識される。そのため、走行中に鞍乗り型車両の3軸角速度のうちの1つの角速度が突発的に大きくなるような場合であっても、鞍乗り型車両が転倒過程に入ったと誤認識してしまうことが抑制される。また、3軸角速度のうちの1つの角速度が極めて大きくなる前の段階で、鞍乗り型車両が転倒過程に入ったことを認識することが可能となるため、乗員の安全性の向上により寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の、システム構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の、動作フローの一例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置における、不安定度の変化傾向の判定の一例を説明するための図である。
図4】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置における、不安定度の変化傾向の判定の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る鞍乗り型車両用情報処理装置及び鞍乗り型車両用情報処理方法について、図面を用いて説明する。なお、以下で説明する構成、動作等は、一例であり、本発明に係る鞍乗り型車両用情報処理装置及び鞍乗り型車両用情報処理方法は、そのような構成、動作等である場合に限定されない。
【0011】
実施の形態.
以下に、実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置を説明する。
<鞍乗り型車両用情報処理装置の構成>
実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の、システム構成の一例を示す図である。
【0012】
図1に示されるように、鞍乗り型車両用情報処理装置10は、姿勢情報取得部11と、転倒過程認識部12と、出力部13と、を含む。鞍乗り型車両用情報処理装置10は、鞍乗り型車両1に搭載される。鞍乗り型車両1は、例えば、モータサイクル(自動二輪車、自動三輪車等)、バギー等の乗員が跨るように着座する形式の車両を意味する。
【0013】
鞍乗り型車両用情報処理装置10には、姿勢情報センサ20が接続されている。姿勢情報センサ20の出力が姿勢情報取得部11に入力されることで、姿勢情報取得部11は、走行中の鞍乗り型車両1に生じているロールレートRr、ヨーレートRy等を姿勢情報として取得する。
【0014】
姿勢情報センサ20は、鞍乗り型車両1に搭載されている。姿勢情報センサ20は、例えば、3軸のジャイロセンサ及び3方向の加速度センサを備える慣性計測装置(IMU)である。姿勢情報センサ20から姿勢情報取得部11に、ロールレートRr自体が入力されてもよく、また、ロールレートRrに実質的に換算可能な他の物理量が入力されてもよい。また、姿勢情報センサ20から姿勢情報取得部11に、ヨーレートRy自体が入力されてもよく、また、ヨーレートRyに実質的に換算可能な他の物理量が入力されてもよい。
【0015】
転倒過程認識部12は、姿勢情報取得部11で取得された姿勢情報(ロールレートRr、ヨーレートRy等)に基づいて、後述される転倒過程認識処理を実行して、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことを認識する。
【0016】
出力部13は、転倒過程認識部12において、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことが認識されると、報知装置30にトリガ信号を出力する。報知装置30は、トリガ信号が入力されると、乗員に鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことを報知するための動作を実行する。報知装置30は、ディスプレイ、ランプ等の視覚的な報知を行う装置であってもよく、また、スピーカ等の聴覚的な報知を行う装置であってもよい。
【0017】
なお、鞍乗り型車両用情報処理装置10は、各部が一つの筐体に纏められたものであってもよく、また、各部が別々の筐体に設けられていてもよい。また、鞍乗り型車両用情報処理装置10の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0018】
<鞍乗り型車両用情報処理装置の動作>
実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の動作について説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の、動作フローの一例を示す図である。
【0019】
鞍乗り型車両用情報処理装置10は、鞍乗り型車両1が走行状態になると、図2に示される動作フローを繰り返し実行する。
【0020】
(姿勢情報取得ステップ)
ステップS101において、姿勢情報取得部11は、走行中の鞍乗り型車両1に生じているロールレートRr及びヨーレートRyを姿勢情報として取得する。姿勢情報取得部11が、姿勢情報センサ20で検出されるRawデータ(つまり、未加工データ)をロールレートRr及びヨーレートRyとして取得してもよく、また、姿勢情報センサ20で検出されるRawデータ(つまり、未加工データ)に対してノイズ除去処理が施されたデータをロールレートRr及びヨーレートRyとして取得してもよい。
【0021】
(転倒過程認識ステップ)
次に、ステップS102において、転倒過程認識部12は、取得されたロールレートRr及びヨーレートRyに基づいて、走行中の鞍乗り型車両1の不安定度αを導出する。転倒過程認識部12は、不安定度αを計算によって導出してもよく、また、予め作成されたルックアップテーブル等を参照することによって導出してもよい。
【0022】
具体的には、不安定度αは、以下の数式1で算出される値として導出される。なお、数式1におけるロールレート指数Rrsは、ステップS101で取得されたロールレートRrを、基準ロールレートRr_refに対して標準化した値である。また、数式1におけるヨーレート指数Rysは、ステップS101で取得されたヨーレートRyを、基準ヨーレートRy_refに対して標準化した値である。基準ロールレートRr_ref及び基準ヨーレートRy_refは、鞍乗り型車両1が共通の基準状態にある際に取得されるであろう値として定義される。例えば、基準状態は、鞍乗り型車両1が転倒に至る直前の状態である。そのような場合には、例えば、実車テスト等によって、鞍乗り型車両1が転倒過程を経て転倒に至った際に生じるロールレートRr及びヨーレートRyの最大値を実験的に求めて、そのロールレートRr及びヨーレートRyを、基準ロールレートRr_ref及び基準ヨーレートRy_refとして設定することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
なお、数式1では、不安定度αが、ロールレート指数Rrs及びヨーレート指数Rysに対する二乗和平方根として導出される場合を示したが、不安定度αが、ロールレート指数Rrs及びヨーレート指数Rysに対する二乗平均平方根として導出されてもよい。また、不安定度αが、他の平均演算(相加平均)によって算出される値と定義されていてもよい。
【0025】
次に、ステップS103において、転倒過程認識部12は、導出された不安定度αの時間経過が増加傾向であるか否かを判定する。不安定度αの時間経過が増加傾向である場合には、ステップS104に進み、不安定度αの時間経過が増加傾向ではない場合には、ステップS105に進む。
【0026】
具体的には、転倒過程認識部12は、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向が単調増加である場合に、不安定度αが増加傾向であると判定する。基準期間Term_refは、最も新しいロールレートRr及びヨーレートRyが取得された時点を終了時点Tendとし、その終了時点Tendから予め定められたデータ数だけ古いロールレートRr及びヨーレートRyが取得された時点を開始時点Tstartとして定義される期間である。
【0027】
例えば、転倒過程認識部12は、開始時点Tstartでの不安定度αstart及び終了時点Tendでの不安定度αendと、基準期間Term_ref内の各時点での不安定度αの合計と、に基づいて、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向を近似的に表現する近似二次曲線Cを導出する。転倒過程認識部12が、近似二次曲線Cを予め作成されたルックアップテーブル等を参照することにより導出するとよい。そして、転倒過程認識部12は、近似二次曲線Cの極値αeが得られる時点Teが基準期間Term_ref外である場合に、変化傾向が単調増加であると判定する。このような判定により、不安定度αの増加傾向が徐々に強まる場合であるか、不安定度αの増加傾向が徐々に弱まる場合であるかに関わらず、不安定度αが単調増加であるか否かを簡易に判定することが可能となる。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置における、不安定度の変化傾向の判定の一例を説明するための図である。
すなわち、不安定度αの増加傾向が徐々に強まる場合においては、図3に示されるように、近似二次曲線Cが下に凸の曲線として導出される。そして、近似二次曲線Cの基準期間Term_ref内に位置する部分が単調増加である場合には、その近似二次曲線Cの極値αeが得られる時点Teが開始時点Tstartよりも前の時点、つまり基準期間Term_ref外の時点となる。そのため、不安定度αの増加傾向が徐々に強まる場合には、近似二次曲線Cの極値αeが得られる時点Teが基準期間Term_ref外であるか否かを判定することにより、不安定度αが単調増加であるか否かを判定することができる。
【0029】
図4は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置における、不安定度の変化傾向の判定の一例を説明するための図である。
また、不安定度αの増加傾向が徐々に弱まる場合においては、図4に示されるように、近似二次曲線Cが上に凸の曲線として導出される。そして、近似二次曲線Cの基準期間Term_ref内に位置する部分が単調増加である場合には、その近似二次曲線Cの極値αeが得られる時点Teが終了時点Tendよりも後の時点、つまり基準期間Term_ref外の時点となる。そのため、不安定度αの増加傾向が徐々に弱まる場合においても、近似二次曲線Cの極値αeが得られる時点Teが基準期間Term_ref外であるか否かを判定することにより、不安定度αが単調増加であるか否かを判定することができる。
【0030】
なお、転倒過程認識部12が、走行中の鞍乗り型車両1における転倒が生じる可能性の変化に応じて、基準期間Term_refを変化させてもよい。例えば、転倒過程認識部12は、鞍乗り型車両1の車体速度に応じて基準期間Term_refを変化させてもよく、また、乗員の運転状態に応じて基準期間Term_refを変化させてもよく、また、乗員の運転技術に応じて基準期間Term_refを変化させてもよい。転倒過程認識部12は、転倒が生じる可能性が高い状況において、基準期間Term_refを、転倒が生じる可能性が低い状況で設定される基準期間Term_refよりも短い期間に設定する。
【0031】
また、転倒過程認識部12が、近似二次曲線Cに変えて他の近似曲線を導出し、その近似曲線に基づいて不安定度αの変化傾向を判定してもよい。そのような場合には、最小二乗法、移動平均法等の既知の処理によって、近似曲線を導出することができる。
【0032】
(出力ステップ)
次に、ステップS104において、出力部13は、報知装置30に報知動作を実行又は継続させるための信号を出力する。また、ステップS105において、出力部13は、報知装置30に報知動作を実行又は継続させるための信号を出力しない。
【0033】
<鞍乗り型車両用情報処理装置の動作の応用例−1>
以上では、転倒過程認識部12における、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったか否かの判定が、走行中の鞍乗り型車両1の不安定度αの時間経過のみに基づいて実行される場合を説明したが、その判定が、走行中の鞍乗り型車両1の不安定度αの時間経過と他の指標値とに基づいて実行されてもよい。
【0034】
他の指標値として、不安定度αの変化率が挙げられる。例えば、転倒過程認識部12は、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向が増加傾向であると判定され、且つ、不安定度αの変化率が基準値よりも小さい場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入っていないと認識する。また、例えば、転倒過程認識部12は、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向が増加傾向ではないと判定され、且つ、不安定度αの変化率が基準値よりも大きい場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと認識する。
【0035】
また、他の指標値として、ヨーレートRyの変化率が挙げられる。例えば、転倒過程認識部12は、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向が増加傾向であると判定され、且つ、ヨーレートRyの変化率が基準値よりも小さい場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入っていないと認識する。また、例えば、転倒過程認識部12は、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向が増加傾向ではないと判定され、且つ、ヨーレートRyの変化率が基準値よりも大きい場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと認識する。
【0036】
<鞍乗り型車両用情報処理装置の動作の応用例−2>
以上では、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったか否かの判定が、鞍乗り型車両1の走行状態に関わらず実行される場合を説明したが、走行中の鞍乗り型車両1に生じているエンジンブレーキに対応する状態量(例えば、スロットル開度等)が、基準を上回るエンジンブレーキに対応する値である場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと認識されることが禁止されてもよい。鞍乗り型車両用情報処理装置10の動作自体が禁止されることで、転倒過程認識部12が転倒過程に入ったと認識することが禁止されてもよく、また、出力部13から信号が出力されることが禁止されてもよい。
【0037】
<鞍乗り型車両用情報処理装置の効果>
実施の形態に係る鞍乗り型車両用情報処理装置の効果について説明する。
鞍乗り型車両用情報処理装置10では、走行中の鞍乗り型車両1に生じている少なくともロールレートRr及びヨーレートRyが姿勢情報として取得され、少なくともロールレートRr及びヨーレートRyに基づいて導出される不安定度αの時間経過が増加傾向である場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと認識される。そのため、走行中に鞍乗り型車両1の3軸角速度のうちの1つの角速度が突発的に大きくなるような場合であっても、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと誤認識してしまうことが抑制される。また、3軸角速度のうちの1つの角速度が極めて大きくなる前の段階で、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことを認識することが可能となるため、乗員の安全性をより向上することが可能となる。
【0038】
好ましくは、不安定度αは、少なくともロールレート指数Rrsとヨーレート指数Rysとに基づいて導出され、ここで、ロールレート指数Rrsは、鞍乗り型車両1が基準状態にある際のロールレートRrである基準ロールレートRr_refに対して、ロールレートRrが標準化されたものであり、ヨーレート指数Rysは、鞍乗り型車両1が基準状態にある際のヨーレートRyである基準ヨーレートRy_refに対して、ヨーレートRyが標準化されたものである。転倒時に生じるロールレートRr及びヨーレートRyが互いに異なる値になるため、標準化を行わない場合には、ロールレートRr及びヨーレートRyのうちの一方の値の影響のみが強まった判定となってしまう。つまり、標準化により、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことの認識が確実化される。
【0039】
特に、不安定度αが、少なくともロールレート指数Rrs及びヨーレート指数Rysに対する、二乗和平方根又は二乗平均平方根に基づいて導出されるとよい。そのような動作により、複数の指数(ロールレート指数Rrs、ヨーレート指数Rys)を1つの指数(不安定度α)に纏めて処理を簡素化することを、処理負担の増大を抑制しつつ実現することが可能となる。
【0040】
また、基準状態が、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ってから転倒に至るまでの任意の状態であるとよい。つまり、基準ロールレートRr_ref及び基準ヨーレートRy_refが、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ってから転倒に至るまでの任意の状態で取得されるであろうロールレートRr及びヨーレートRyであるとよい。そのような動作により、適切な基準に対してロールレートRr及びヨーレートRyを標準化することが可能となる。
【0041】
好ましくは、転倒過程認識部12は、基準期間Term_refでの不安定度αの変化傾向が単調増加である場合に、不安定度αが増加傾向であると判定する。そのような動作により、高いロバスト性で鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことを認識することが可能となる。
【0042】
特に、転倒過程認識部12が、基準期間Term_refにおける開始時点Tstartでの不安定度αstart及び終了時点Tendでの不安定度αend、及び、基準期間Term_ref内の各時点での不安定度αの合計に基づいて、近似二次曲線Cを導出し、近似二次曲線Cの極値αeが得られる時点Teが基準期間Term_ref外である場合に、変化傾向が単調増加であると判定するとよい。特に、モータサイクルでは、自動車、トラック等と比較して、走行の安定性及び乗員の安全性が低いため、転倒過程認識処理を高速化して、反応速度を向上する必要がある。転倒過程認識部12がそのように動作する場合には、変化傾向の判定を極めて高速化することが可能となる。
【0043】
また、転倒過程認識部12が、走行中の鞍乗り型車両1における転倒が生じる可能性の変化に応じて、基準期間Term_refを変化させるとよい。そのような動作により、ロバスト性を確保することと、転倒過程に入ったことを早いタイミングで認識することと、を両立することが可能となる。
【0044】
好ましくは、転倒過程認識部12は、不安定度αが増加傾向であると判定され、且つ、走行中の鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことを認識するための他の指標値が基準を満たさない場合に、走行中の鞍乗り型車両1が転倒過程に入っていないと認識する。他の指標値は、例えば、不安定度αの変化率、ヨーレートRyの変化率等である。そのような動作により、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと誤認識してしまう頻度を低減することが可能となる。
【0045】
好ましくは、転倒過程認識部12は、不安定度αが増加傾向ではないと判定され、且つ、走行中の鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったことを認識するための他の指標値が基準を満たす場合に、走行中の鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと認識する。他の指標値は、例えば、不安定度αの変化率、ヨーレートRyの変化率等である。そのような動作により、不安定度αの変化傾向の判定の信頼性を確保できない状況であっても、転倒過程を認識することが可能となる。
【0046】
好ましくは、走行中の鞍乗り型車両1に生じているエンジンブレーキに対応する状態量が、基準を上回るエンジンブレーキに対応する値である場合に、鞍乗り型車両1が転倒過程に入ったと認識することが禁止される。そのような動作により、転倒が生じにくい運転状態において、乗員に転倒過程に入ったことが不必要に報知される頻度を抑制することが可能となる。
【0047】
好ましくは、鞍乗り型車両1は、自動二輪車である。自動二輪車は、特に走行の安定性及び乗員の安全性が低いため、以上の動作は、自動二輪車において特に有効である。
【0048】
以上、実施の形態について説明したが、本発明は実施の形態の説明に限定されない。例えば、実施の形態の一部のみが実施されてもよく、また、実施の形態の各部が組み合わされてもよい。
【0049】
また、以上では、不安定度αが、ロールレート指数Rrs及びヨーレート指数Rysのみに基づいて導出される場合を説明したが、本発明はそのような場合に限定されない。つまり、不安定度αは、少なくともロールレート指数Rrs及びヨーレート指数Rysに基づいて導出されればよい。
【0050】
例えば、姿勢情報取得部11が、ロールレートRr及びヨーレートRyに加えて、走行中の鞍乗り型車両1に生じているピッチレートRpを姿勢情報として取得するものであってもよい。そして、不安定度αが、以下の数式2で算出される値として導出されてもよい。なお、数式2におけるピッチレート指数Rpsは、走行中の鞍乗り型車両1に生じているピッチレートRpを、基準ピッチレートRp_refに対して標準化した値である。基準ピッチレートRp_refは、鞍乗り型車両1が基準状態(つまり、走行中の鞍乗り型車両1に生じるロールレートRr及びヨーレートRyが基準ロールレートRr_ref及び基準ヨーレートRy_refになる状態)にある際に取得される値として定義される。
【0051】
【数2】
【0052】
なお、数式1と同様、数式2では、不安定度αが、二乗和平方根として導出される場合を示したが、不安定度αが、二乗平均平方根として導出されてもよい。また、不安定度αが、他の平均演算(相加平均)によって算出される値と定義されてもよい。
【0053】
また、以上では、出力部13が報知装置30に信号を出力する場合を説明したが、本発明はそのような場合に限定されず、出力部13が他の装置に信号を出力してもよい。例えば、出力部13が車体挙動制御装置(ブレーキ制御装置、エンジン制御装置、サスペンション制御装置等)に信号を出力し、車体挙動制御装置が、鞍乗り型車両1の転倒を回避するための動作をその信号に応じて実行してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 鞍乗り型車両、10 鞍乗り型車両用情報処理装置、11 姿勢情報取得部、12 転倒過程認識部、13 出力部、20 姿勢情報センサ、30 報知装置、Term_ref 基準期間、Tstart 開始時点、Tend 終了時点、α、αstart、αend、αe 不安定度、C 近似二次曲線。
図1
図2
図3
図4