特許第6770265号(P6770265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6770265-排気ガス浄化用触媒 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770265
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/185 20060101AFI20201005BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20201005BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20201005BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20201005BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B01J27/185 AZAB
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/10 A
   F01N3/24 B
   F01N3/28 Q
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-129226(P2016-129226)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-23999(P2017-23999A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2019年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-141916(P2015-141916)
(32)【優先日】2015年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 純雄
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 正剛
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 大典
(72)【発明者】
【氏名】山口 道隆
(72)【発明者】
【氏名】若林 誉
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐之輔
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−144412(JP,A)
【文献】 特開2011−016124(JP,A)
【文献】 特開平07−024323(JP,A)
【文献】 特表2005−531480(JP,A)
【文献】 BAIKIE, T. et al.,Dalton Transactions,英国,2009年 6月17日,Vol.2009,pp.6722-6726
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/73 − 53/96
F01N 3/10 − 3/38
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):A10(B’O)B”a(式(1)中、Aは希土類、Sr、Ba及びCaからなる群の中から選択される1種又は2種以上の金属元素であり、B’はSi又はP又はこれら両方であり、B”は金属元素であり、XはO又はOH又はこれら両方である。かつ、B”の価数をM、Xの価数をNとしたとき、−2≦M×a+N×b<0の関係式を満たし、0<a≦2であり、0<b≦2である。)で表されるアパタイト化合物を含有することを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
式(1)におけるB”は、Cu、Co、Mn、Fe及びNiからなる群から選ばれる一種又は二種以上の金属元素であることを特徴とする請求項1記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
上記アパタイト化合物におけるB”イオンは、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
上記アパタイト化合物におけるB”イオンは、外部の雰囲気の変化で、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネルを出入りすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
上記アパタイト化合物におけるB”イオンは、大気雰囲気下で加熱されると、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネルから析出することを特徴とする請求項4に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記排気ガス浄化用触媒を大気雰囲気下1100℃で加熱した後、100℃/minの降温速度で室温まで冷却すると、上記アパタイト化合物におけるB”イオンは、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在することを特徴とする請求項4に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項7】
式(2):Ca10(B’O)Cua(式中、B’はSi又はP又はこれら両方であり、0<a≦2であり、0<b≦2である。)で表されるアパタイト化合物を含有することを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項8】
上記アパタイト化合物におけるCuイオンは、上記式(2)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在することを特徴とする請求項7に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項9】
上記アパタイト化合物におけるCuイオンは、外部の雰囲気の変化で、上記式(2)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネルを出入りすることを特徴とする請求項7又は8に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項10】
上記アパタイト化合物におけるCuイオンは、大気雰囲気下で加熱されると、上記式(2)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネルから析出することを特徴とする請求項9に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項11】
前記排気ガス浄化用触媒を大気雰囲気下1100℃で加熱した後、100℃/minの降温速度で室温まで冷却すると、上記アパタイト化合物におけるCuイオンは、上記式(2)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在することを特徴とする請求項9に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項12】
上記アパタイト化合物にさらに触媒活性種を担持させてなる構成を備えた請求項1〜11の何れかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために用いることができる排気ガス浄化触媒、特にアパタイト化合物を含有する排気ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンを燃料とする自動車等の内燃機関の排気ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれているため、それぞれの有害成分を、酸化還元反応を用いて浄化して排気する必要がある。例えば炭化水素(HC)は酸化して水と二酸化炭素に転化させ、一酸化炭素(CO)は酸化して二酸化炭素に転化させ、窒素酸化物(NOx)は還元して窒素に転化させて浄化する必要がある。
【0003】
このような内燃機関からの排気ガスを処理するための触媒(以下「排気ガス浄化触媒」と称する)として、CO、HC及びNOxを酸化還元することができる三元触媒(Three way catalysts:TWC)が用いられている。
【0004】
この種の三元触媒としては、例えば高い表面積を有するアルミナ多孔質体などの耐火性酸化物多孔質体に貴金属を担持し、これを基材、例えば耐火性セラミック又は金属製ハニカム構造で出来ているモノリス型基材に担持したり、或いは、耐火性粒子に担持したりしたものが知られている。
【0005】
この際、触媒活性成分としての貴金属と基材との結合力はそれ程強くないため、基材に貴金属を直接担持させようとしても十分な担持量を確保することは難しい。そこで、十分な量の触媒活性成分を基材の表面に担持させるために、高い比表面積を有する触媒担体に貴金属を担持させることが行われている。
【0006】
触媒担体としては、従来から、シリカやアルミナ、チタニア化合物などの耐火性無機酸化物からなる多孔質体が知られている。また近年、耐熱性に優れており、しかも、担持している金属触媒粒子のシンタリングを防止できる触媒担体として、アパタイト型複合酸化物からなる触媒担体が注目されている。
【0007】
アパタイト型複合酸化物からなる触媒担体として、例えば特許文献1(特開平7−24323号公報)には、一般式M10・(ZO46・X2(Mの一部または全部が周期表の1B族及び/又は8族から選ばれた1種または2種以上の遷移金属、好ましくは銅,コバルト,ニッケル及び/又は鉄から選ばれた1種または2種以上の遷移金属であり、かつこれら遷移金属を0.5から10wt%含有したもの。Zは3〜7価の陽イオン、Xは1〜3価の陰イオンを表す。)で表わされるアパタイト化合物からなる触媒担体が開示されている。
【0008】
特許文献2(特開2007−144412号公報)には、比較的低温状態でも排気ガスの浄化効果が達成され、高温域でも三元触媒としての浄化性能が達成される触媒として、(Laa−x)(Si6−y)O27−zで示される複合酸化物と、該複合酸化物に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなり、低温活性が高く、且つ耐熱性に優れ、安定した排気ガス浄化性能を得ることができる排気ガス浄化用触媒が開示されている。
【0009】
特許文献3(特開2011−16124号公報)には、一般式(Aa−w−xM')(Si6−y)O27−z(式中、AはLa及びPrの少なくとも1種の元素の陽イオン、MはBa、Ca及びSrの少なくとも1種の元素の陽イオン、M'はNd、Y、Al、Pr、Ce、Sr、Li及びCaの少なくとも1種の元素の陽イオン、NはFe、Cu及びAlの少なくとも1種の元素の陽イオン、6≦a≦10、0<w<5、0≦x<5、0<w+x≦5、0≦y≦3、0≦z≦3、A≠M'、AがLaの陽イオンである場合にはx≠0である)で示される複合酸化物と、該複合酸化物に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。
【0010】
特許文献4(特開2013−6170号公報)には、一般式A10(PO)(OH)(式中、AはSr、Ba及びCaの少なくとも1種である)で表されるアパタイト化合物に貴金属成分が担持されてなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−24323号公報
【特許文献2】特開2007−144412号公報
【特許文献3】特開2011−16124号公報
【特許文献4】特開2013−6170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献4に開示されているアパタイト化合物を用いた排気ガス浄化用触媒、すなわち、一般式A10(PO)(OH)(式中、AはSr、Ba及びCaの少なくとも1種である)で表されるアパタイト化合物に貴金属成分が担持されてなる排気ガス浄化用触媒は、周期的なリッチ又はリーン条件下で燃料を供給して燃焼させる内燃機関において、排気ガス中に含まれているTHC、NOxに対して低温域から高温域まで高い浄化性能を発揮することができるという優れた特徴を有している。しかしその一方で、当該アパタイト化合物は、自動車等の使用環境下で使用されると、担持している金属触媒粒子がシンタリングして劣化し易いという課題を抱えていた。
【0013】
そこで本発明の目的は、所定のアパタイト化合物を用いた排気ガス浄化用触媒に関し、自動車等の使用環境下で使用されても劣化し難い、新たな排気ガス浄化用触媒を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、式(1):A10(B’O)B”a(式(1)中、Aは希土類、Sr、Ba及びCaからなる群の中から選択される1種又は2種以上の金属元素であり、B’はSi又はP又はこれら両方であり、B”は金属元素であり、XはO又はOH又はこれら両方である。かつ、B”の価数をM、Xの価数をNとしたとき、−2≦M×a+N×b<0の関係式を満たし、0<a≦2であり、0<b≦2である。)で表されるアパタイト化合物を含有することを特徴とする排気ガス浄化用触媒を提案する。
【発明の効果】
【0015】
本発明が提案する排気ガス浄化用触媒は、前記特許文献4等に開示されている所定のアパタイト化合物に触媒活性金属を担持してなる触媒活性種が表面に担持されるタイプの触媒に比べ、自動車等の使用環境下で繰り返し使用されても、例えばアパタイト化合物が高温加熱された後に冷却されると、金属元素B”のイオン(「B”イオン」と称する)が、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内から析出したり、固溶したりする性質を示すことにより、排気ガス浄化性能の劣化を有効に抑えることができる点で優れている。
【0016】
すなわち、本発明が提案する排気ガス浄化用触媒は、少なくとも製造直後の初期状態(常温常圧状態)では、触媒活性種として機能する金属元素B”イオンがアパタイト化合物の六方チャネル内に存在し、外部の雰囲気が変化する自動車などでの使用環境、例えば高温加熱と急冷が繰り返される使用環境においては、該金属元素B”イオンが固溶と表面析出を繰り返すという特徴を有している。このように、金属元素B”イオンが、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネルへの出入りを繰り返すため、前記の触媒活性種が表面に担持されるタイプに比べ、金属元素B”がシンタリングしやすい環境下に置かれる頻度が少なくなり、その結果、排気ガス浄化性能の劣化を抑えることができる。
【0017】
なお、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物構造内にPdなどの触媒活性種が固溶・析出することで、当該触媒活性種のシンタリングが抑制されることが知られている。しかし、このペロブスカイト型酸化物構造内への触媒活性種の固溶・析出は構造骨格を形成するBサイトで起こるため、ペロブスカイト型酸化物構造のBサイトを占有していた触媒活性種が析出すると、構造骨格の一部が崩壊するため、結晶学的に不安定であった。これに対し、本発明が提案する排気ガス浄化用触媒は、上述のように、触媒活性種として機能する金属元素B”イオンが、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在しており、高温加熱と冷却が繰り返されると、該金属元素B”イオンが当該六方チャネルから出入りするため、構造骨格が崩壊することなく、結晶学的に安定であるという点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られたサンプルの高温X線回折の測定結果であり、1100℃まで昇温後、冷却した時の各温度で測定したXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<本アパタイト化合物>
本発明の実施形態の一例に係るアパタイト化合物(「本アパタイト化合物」と称する)は、式(1):A10(B’O)B”a(式(1)中、Aは希土類、Sr、Ba及びCaからなる群の中から選択される1種又は2種以上の金属元素であり、B’はSi又はP又はこれら両方であり、B”は金属元素であり、XはO又はOH又はこれら両方である。かつ、B”の価数をM、Xの価数をNとしたとき、−2≦M×a+N×b<0の関係式を満たし、0<a≦2であり、0<b≦2である。)で表されるアパタイト化合物である。
【0021】
式(1)で表されるアパタイト化合物において、aとbは上述の関係にあるから、チャージバランスの点から、当該アパタイト化合物において金属元素B”イオンは固溶しており、少なくとも製造直後の初期状態における常温常圧状態下では、B”イオンはすべて、上記式(1)で表されるアパタイト化合物、すなわち上記式(1)で表される結晶構造からなるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在しており、担持された状態とは区別される。
なお、粉末X線回析から求めたa軸格子定数を確認することによって、金属元素B”イオンが、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在しているか、或いは、担持されているかを区別することができる。
【0022】
式(1)において「A」は、希土類に属する元素(すなわちLa、Sc、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、Sr、Ba及びCaからなる群の中から選択される1種又は2種以上の金属元素であればよい。これらの金属元素はアパタイト化合物中ではイオンの状態で存在する。
なお、後述する実施例では、AとしてCaの場合の実施例が示されているが、アパタイト化合物中でAイオンは、(B’O)ユニットの間に存在し、結晶の単位格子の大きさを決めるため、Caのようにイオン半径が大きい元素であれば単位格子が大きくなり、その分チャネルの空隙が広がると考えることができるから、Caの代わりに上記元素を使用してもCaと同様の効果を得ることができるものと考えることができる。
【0023】
式(1)において「B’」は、Si又はP又はこれら両方であればよい。これらの元素はアパタイト化合物中ではイオンの状態で存在する。
なお、後述する実施例では、B’としてPの場合の実施例が示されているが、(PO)イオンと(SiO)イオンはイオン半径が同様であることから、Pの代わりに或いはPと共にSiを使用しても、Pと同様の効果を得ることができる。
【0024】
式(1)において、「B”」は、金属元素、中でも触媒活性種として機能する金属元素であればよい。例えば、Cu、Co、Mn、Fe及びNiからなる群から選ばれる一種又は二種以上の金属元素を挙げることができる。これらの金属元素はアパタイト化合物中ではイオンの状態で存在する。
なお、後述する実施例では、触媒活性種の中でもシンタリングしやすいCuであっても、シンタリング抑制効果を確認することができたため、他の触媒活性種、例えばCo、Mn、Fe及びNiなどについても、Cuと同様、或いはそれ以上のシンタリング抑制効果を得ることができると考えられる。
【0025】
式(1)において「X」は、O又はOH又はこれら両方であればよい。これらは、アパタイト化合物中では酸化物イオンまたは水酸化物イオンの状態で存在する。
【0026】
式(1)において、B”の価数をM、Xの価数をNとしたとき、−2≦M×a+N×b<0の関係式を満たし、且つ、0<a≦2及び0<b≦2を満たすものである。特に、排気ガス浄化性能向上の観点から、aに関しては0.5≦a≦2であるのが好ましく、1≦a≦2であるのがより好ましい。
なお、−2≦M×a+N×b<0の関係式を満たすということは、アパタイト化合物であるための電荷バランスを満足することを示すものである。よって、アパタイト化合物であればかかる関係式を満足するはずであり、かかる関係式から外れると、アパタイト化合物以外の異相や異物が生じる可能性がある。
【0027】
例えば、本アパタイト化合物の好ましい一例として、Ca10(B’O)Cua(式中、B’はSi又はP又はこれら両方であり、0<a≦2であり、0<b≦2である。)で表されるアパタイト化合物を示すことができる。
【0028】
(形状・色)
本アパタイト化合物は、粒子状、針状、棒状、他の形状であってもよい。
また、例えば金属元素B”としてCuを使用した場合、アパタイト化合物に銅を担持してなる触媒活性種が表面に担持されるタイプの場合は、粉末の色が略黒色を呈するのに対し、本アパタイト化合物は「A」の種類によって赤色、紫色、青色等の色味を呈する特徴を有しており、色の点でも、触媒活性種が表面に担持されるタイプとは区別することができる。
【0029】
(機能的特徴)
本アパタイト化合物において、少なくとも製造直後の初期状態における常温常圧状態下では、金属元素B”イオンは、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在する。
【0030】
この際、金属元素B”イオンが、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在するか否かは、粉末X線回折から求めたa軸格子定数から判断することができる。例えば、B”としてCuを用いた場合において、製造直後の初期状態における常温常圧状態で求めた本アパタイト化合物のa軸格子定数を「L’」とし、Cuイオンが六方チャネル内に存在しないアパタイト化合物、言い換えればCuを含有しないアパタイト化合物の常温常圧の状態で求めたa軸格子定数を「L」とした場合、金属元素Cuイオンが六方チャネル内に存在すれば、Cuの含有量に応じて、L’≦L+0.01nmの関係式を満足することになる。よって、L’がかかる関係式を満足していれば、金属元素Cuイオンが上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在することを確認することができる。
【0031】
また、本アパタイト化合物におけるB”イオンは、外部の雰囲気の変化で、該六方チャネルを出入りする。すなわち、高温加熱と冷却が繰り返されると、金属元素B”イオンは該六方チャネルへの出入りを繰り返すことになる。
より具体的には、本アパタイト化合物は、大気雰囲気下で加熱されると、金属元素B”イオンは、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネルから外に析出するようになり、1100℃付近まで加熱された後に急冷すると、金属元素B”イオンは該六方チャネル内に存在した状態となる。その一方で、1100℃付近まで加熱された後に徐々に冷却(「徐冷」とも称する)されると、金属元素B”イオンは該六方チャネルの外に析出するという挙動を示す。
【0032】
よって、例えば、本アパタイト化合物を大気雰囲気下1100℃で加熱した後、例えば100℃/minの降温速度で室温まで冷却(急冷)すると、上記アパタイト化合物におけるB”イオンは、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在する状態を示す一方、本アパタイト化合物を大気雰囲気下1100℃で加熱した後、例えば10℃/minの降温速度で室温まで徐々に冷却すると、当該B”イオンは該六方チャネルの外に析出した状態を示すことになる。
【0033】
この際、上記のように、例えばB”としてCuを用いた場合において、製造直後の初期状態における常温常圧状態で求めた本アパタイト化合物のa軸格子定数を「L’」とし、Cuイオンが該六方チャネル内に存在しないアパタイト化合物、言い換えればCuを含有しないアパタイト化合物の常温常圧の状態で求めたa軸格子定数を「L」とした場合、本アパタイト化合物を大気雰囲気下1100℃で加熱した後、10℃/minの降温速度で室温まで徐冷すると、当該Cuイオンは該六方チャネルの外に存在する状態となるから、この場合のa軸格子定数LはLに近づき、L=L±0.0002nmとなる。
他方、本アパタイト化合物を大気雰囲気下1100℃で加熱した後、100℃/minの降温速度で室温まで急冷すると、上記アパタイト化合物におけるCuイオンは該六方チャネル内に存在するから、この場合のa軸格子定数LはL’に近づき、L=L’±0.0002nmとなる。
【0034】
なお、本発明でいう「高温加熱」及び「急冷」とは、使用する金属元素Aや金属元素B”や酸素分圧等によっても異なるため一概にはいえないが、例えば金属元素AとしてCaを用いて、金属元素B”としてCuを用いた場合には、500℃以上で加熱することを高温加熱といい、50℃/min以上で降温させることを急冷という。
【0035】
以上のように、本アパタイト化合物は、製造直後の初期状態における常温常圧状態下では、触媒活性種として機能する金属元素B”イオンが、上記式(1)で表されるアパタイト化合物中に存在する六方チャネル内に存在する一方、加熱して500〜900℃程度(定常走行時の排気ガス温度領域)になると、当該金属元素B”イオンは該六方チャネルの外側に析出するため、触媒活性が高まるようになる。そして、さらに高温領域まで加熱されて1100℃程度に達した後に急冷すると、当該金属元素B”イオンは該六方チャネルの内側に戻るため、金属元素B”イオンがシンタリングしやすい環境下に置かれる頻度が少なく、排気ガス浄化性能の劣化を抑えることもできる。
また、自動車などにおける過酷な使用環境、すなわち高温加熱と冷却が繰り返される使用環境においては、当該金属元素B”イオンは、該六方チャネルへの出入りを繰り返すため、アパタイト化合物に触媒活性金属を担持してなる触媒活性種が表面に担持されるタイプに比べ、金属元素B”がシンタリングしやすい環境下に置かれる頻度が少なく、排気ガス浄化性能の劣化を抑えることができるという特徴を有している。
【0036】
(製法)
本アパタイト化合物の製造方法の一例について説明する。但し、ここで説明する製法はあくまでも一例であって、本アパタイト化合物の製造方法が限定されるものではない。
【0037】
先ず、希土類、Sr、Ba又はCa又はこれらの2種類以上の金属イオンを含む化合物の水溶液Iを調製する。
この際、希土類、Sr、Ba又はCa又はこれらの2種類以上を含む化合物としては、例えば、それぞれの酢酸塩を用いることができる。Sr又はBaの酢酸塩を用いる場合には、硝酸等の酸を加えて溶解させることが好ましい。
他方、ケイ酸化合物またはリン酸化合物の少なくとも1種を水に溶解させて水溶液IIを調製する。
ケイ酸化合物としては、例えばシリカゾル等の珪酸塩が挙げられる。また、リン酸化合物としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等を用いることができる。
【0038】
次に、前記水溶液IIに対して、水溶液I及びアルカリ水溶液を同時に少量ずつ加えて、これらの混合水溶液をアルカリ性に保ちながら沈殿物を生成させる。
この際、混合水溶液のpHは13以上に保持することが好ましい。
滴下するアルカリ水溶液として、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の1〜2mol/L程度の水溶液を用いることができる。
【0039】
そして、このようにして得られる沈殿物を40〜90℃で12〜24時間程度熟成させた後、水洗し、ろ過し、30〜120℃で乾燥させてアパタイト化合物前駆体を得ることができる。
【0040】
次に、上記アパタイト化合物を、触媒活性種として機能する金属元素B”を含有するB”溶液に含浸させ、蒸発乾固させて乾固物を得る。
この際、金属元素B”を含有するB”溶液としては、例えば硝酸塩溶液、酢酸塩溶液などを挙げることができる。
【0041】
さらに、前記乾固物を大気雰囲気や窒素雰囲気下、900〜1200℃、中でも金属元素B”をすべてチャネル内に固溶させる観点から1000〜1200℃が好ましく、1〜5時間焼成した後、急冷処理することで、本アパタイト化合物を得ることができる。
この際、急冷処理としては、50〜300℃/minの降温速度で冷却させるのが好ましく、中でも50℃/min以上或いは100℃/min以下の降温速度で冷却させるのがより好ましい。
【0042】
<用途>
本アパタイト化合物は、そのままの状態で三元触媒として使用することができる。
【0043】
また、本アパタイト化合物では、六方チャネル内に存在させることができる金属元素B”の量には限界があるため、金属元素B”のような触媒活性種をさらに担持させて、触媒性能を高めることもできる。
この際、担持させる触媒活性種としては、金属元素B”として挙げたCu、Co、Mn、Fe、Niのほか、Ag、Pt、Pd、Rhを挙げることができる。
また、触媒活性種を本アパタイト化合物に担持させる方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、粉末又はスラリー状の本アパタイト化合物を、金属元素B”を含むB”溶液(塩基性又は酸性の溶液)に浸漬するか又は金属元素B”を含有するB”溶液と混合して金属元素B”を本アパタイト化合物に吸着させ、加熱して蒸発乾固させ、次いで焼成すればよい。但し、この方法に限定するもではない。
この際、触媒活性種の追加担持量は特に制限するものではない。例えばアパタイト化合物の質量を基準にして0.1〜20質量%程度であるのが好ましい。
【0044】
また、本アパタイト化合物は、他の触媒、すなわち担体成分に触媒活性種を担持してなる構成を備えた触媒粒子と混合して使用することもできる。
この際、上記担体成分としては、例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミノ−シリケート類、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−クロミア、アルミナ−セリアおよびチタニアから選択される化合物からなる多孔質体などを挙げることができる。
また、上記触媒活性種としては、例えばパラジウム、白金、ロジウム、金、銀、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、マンガン、鉄、セリウム、コバルト、銅、オスミウム、ストロンチウム等を挙げることができる。
【0045】
<本触媒>
本アパタイト化合物は、例えば必要に応じてOSC材と、その他の成分と混合した上で、ペレット状などの適宜形状に成形して、単独で触媒(「本触媒成分」と称する)として用いることもできるし、また、セラミックス又は金属材料からなる基材に担持された形態の排気ガス浄化用触媒(「本触媒」と称する)として用いることもできる。
【0046】
上記OSC材、すなわち酸素ストレージ能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する助触媒(OSC材)としては、例えばセリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、セリア・ジルコニア複合酸化物などを挙げることができる。
【0047】
本触媒成分は、以上の成分のほか、安定剤など、他の成分を含むことができる。
上記安定剤としては、例えばアルカリ土類金属やアルカリ金属を挙げることができる。中でも、マグネシウム、バリウム、ホウ素、トリウム、ハフニウム、ケイ素、カルシウムおよびストロンチウムから成る群から選択される金属のうちの一種又は二種以上を選択可能である。その中でも、PdOxが還元される温度が一番高い、つまり還元されにくいという観点から、バリウムが好ましい。
【0048】
また、本触媒成分は、バインダ−成分など、公知の添加成分を含んでいてもよい。
バインダ−成分としては、無機系バインダ−、例えばアルミナゾル等の水溶性溶液を使用することができる。
【0049】
(基材)
基材の材質としては、セラミックス等の耐火性材料や金属材料を挙げることができる。
セラミック製基材の材質としては、耐火性セラミック材料、例えばコージライト、コージライト−アルファアルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、アルミナ−シリカマグネシア、ケイ酸ジルコン、シリマナイト(sillimanite)、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト(petalite)、アルファアルミナおよびアルミノシリケート類などを挙げることができる。
【0050】
金属製基材の材質としては、耐火性金属、例えばステンレス鋼または鉄を基とする他の適切な耐食性合金などを挙げることができる。
基材の形状は、ハニカム状、ペレット状、球状を挙げることができる。
【0051】
(本触媒の製法)
本触媒を製造するための一例として、本アパタイト化合物を、必要に応じて、触媒活性種、OSC材、安定剤、バインダ−成分などと混合し、水を加えて混合・撹拌してスラリーとし、得られたスラリーを例えばセラミックハニカム体などの基材に塗布し、これを焼成して、基材表面に触媒層を形成する方法などを挙げることができる。
また、上記スラリーを例えばセラミックハニカム体などの基材に塗布して触媒担体層を形成した後、これを触媒活性種の溶液に浸漬して、前記触媒担体層に触媒活性種を吸着させてこれを焼成して、基材表面に触媒層を形成する方法を挙げることもできる。
なお、本触媒を製造するための方法は公知のあらゆる方法を採用することが可能であり、上記例に限定するものではない。
【0052】
いずれの製法においても、触媒層は、単層であっても、二層以上の多層であってもよい。
【0053】
(三元触媒用途)
本触媒は、例えば自動車などの内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために用いる三元触媒として利用することができる。すなわち、炭化水素(HC)は酸化して水と二酸化炭素に転化させ、一酸化炭素(CO)は酸化して二酸化炭素に転化させ、窒素酸化物(NOx)は還元して窒素に転化させて浄化することができる。
【0054】
このように、本アパタイト化合物を自動車に搭載する三元触媒として使用すると、例えば次のようになる。すなわち、アクセルを踏み込んで、エンジンを高速回転させると、定常走行で触媒温度が500℃程度となり、触媒活性種が六方チャネルから析出し始め、排気ガス浄化性能が発揮する。さらにアクセルを踏み込み、触媒温度が1100℃程度まで上昇した後ブレーキをかけることで急冷すると、触媒活性種が再びチャネル内に戻ることとなる。このような自動車の実際の使用状況に応じて、触媒活性種が常に表面に析出することなく六方チャネル内を出入りするため、触媒活性種のシンタリングを抑制することができる。
【0055】
<語句の説明>
本明細書において「x〜y」(x,yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「x以上y以下」の意と共に、「好ましくはxより大きい」或いは「好ましくはyより小さい」の意も包含する。
また、「x以上」(xは任意の数字)或いは「y以下」(yは任意の数字)と表現した場合、「xより大きいことが好ましい」或いは「y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいてさらに詳述する。
【0057】
<実施例1>
先ず、目的化合物の所定比となるように秤量した酢酸カルシウムを純水に溶解して透明水溶液Iを得た。次に、所定比になるように秤量したリン酸二水素カリウムを純水に溶解して得られた透明水溶液IIに上記の透明水溶液I及び2mol/Lの水酸化カリウム水溶液を同時に滴下した。この沈殿操作において、水溶液のpHを13以上に保持して沈澱物を得た。得られた沈殿物を60℃で24時間熟成させた後、水洗・ろ過し、60℃で12時間乾燥させて、中間物質Ca10(PO)(OH)を得た。
【0058】
次に、Ca10(PO)Cu0.61.3となるように、Ca10(PO)(OH)を硝酸銅水溶液に含浸させた後、蒸発乾固させて乾固物を得た。さらに、この乾固物を1100℃で焼成した後、急冷処理してアパタイト化合物、すなわち排気ガス浄化用触媒(サンプル)を得た。
なお、触媒粉末の色は赤褐色であった。
【0059】
<比較例1>
実施例1の中間物質として得たCa10(PO)(OH)に、Cu担持量3.7wt%(実施例1のCu固溶量相当)となるように硝酸銅水溶液に含浸させた後、蒸発乾固させ、600℃で焼成をして、排気ガス浄化用触媒(サンプル)を得た。なお、触媒粉末の色は黒色であった。
【0060】
<高温X線回折>
実施例1で得た排気ガス浄化用触媒(サンプル)について高温X線回折を測定し、Cuの固溶、析出挙動を評価した(図1)。測定条件は、大気雰囲気下、各温度間は20℃/minで昇降温し、測定温度に到達後5min間保持した後、10°/minのスキャン速度で回折線測定範囲を10〜60°とした。
【0061】
図1から、実施例1で得た排気ガス浄化用触媒(サンプル)を加熱すると、到達温度700℃又は900℃においてCuOの析出が確認された。別途実施した熱分析の結果から、500〜900℃で重量増加が見られたことから、CuOの析出はCuイオンの酸化に伴うことが推定され、この温度域でCuOが析出するものと考えることができる。
また、加熱到達温度が1100℃になると、CuOの回折線が消失し、その後に徐冷すると再びCuOの回折線が現れることから、高温加熱した後に徐冷するとCuが六方チャネル内から再び析出することが分かった。
【0062】
<触媒活性種の固溶・析出挙動の検討>
実施例1及び比較例1で得た各排気ガス浄化用触媒(サンプル)を常温常圧で粉末X線回折して回折パターンを分析し、a軸方向の格子定数を算出した(表1の「実施例1」「比較例1」)。なお、実施例1で得た中間物質に関しても、同様に常温常圧で粉末X線回折して回折パターンを分析し、a軸方向の格子定数を算出した(表1の「中間物質」)。
また、実施例1で得た各排気ガス浄化用触媒(サンプル)を、大気雰囲気下1100℃で加熱した後、10℃/minの降温速度で室温まで冷却した状態で粉末X線回折し、回折パターンを分析し、a軸方向の格子定数を算出した(表1の「実施例1+加熱徐冷」)。
また、実施例1で得た各排気ガス浄化用触媒(サンプル)を、大気雰囲気下1100℃で加熱した後、100℃/minの降温速度で室温まで冷却した状態で粉末X線回折し、回折パターンを分析し、a軸方向の格子定数を算出した(表1の「実施例1+加熱急冷」)。
なお、それぞれの回折パターンにおいて、アパタイト化合物の最強線からa軸方向の格子定数を算出した。
【0063】
【表1】
【0064】
上記実施例及びこれまで発明者が行ってきた試験結果から、本発明が提案する排気ガス浄化用触媒は、少なくとも製造直後の初期状態における常温常圧状態下では、触媒活性種として機能する金属元素B”イオンがアパタイト化合物の六方チャネル内に存在していることを確認した。
次に、初期状態から加熱していくと、別途実施した熱分析の結果も合わせて考えると、500〜900℃付近にて金属元素B”イオンが六方チャネルから析出することが分かった。
さらに1100℃付近まで加熱した後、例えば100℃/minの降温速度で室温まで急冷すると、金属元素B”イオンはアパタイト化合物の六方チャネル内に存在したままとなる一方、1100℃付近まで加熱した後、例えば10〜20℃/minの降温速度で室温まで徐冷すると、金属元素B”イオンは六方チャネルの外に析出するという挙動を示すことが分かった。
【0065】
このように、本発明が提案する排気ガス浄化用触媒は、初期状態では、B”イオンは六方チャネル内に存在する一方、外部の雰囲気の変化で六方チャネルを出入りする。例えば、自動車などでの過酷な使用環境、すなわち高温加熱と急冷が繰り返される使用環境においては、該金属元素B”イオンが固溶と表面析出を繰り返す。言い換えれば、六方チャネルへの出入りを繰り返すため、触媒活性種が表面に担持されるタイプに比べ、金属元素B”がシンタリング発生環境下に置かれる頻度が少なく、そのため、排気ガス浄化性能の劣化を抑えることができる。
【0066】
<排気ガス浄化性能試験>
実施例1及び比較例1で得た各排気ガス浄化用触媒(サンプル)をペレット成形して粉砕し、それぞれふるい分けして355〜600μmの部分を採取した。その後、各々の0.2gをそれぞれ固定床流通反応装置(検出器:島津製作所製VMS-1000F及び堀場製作所製PG-240を使用)の反応器に入れて、表2に示す組成のモデルガスを1.4L/minで流通させて、100〜700℃の温度条件下での排気ガス浄化性能を、NO及びHCそれぞれについて評価した(1回目浄化能)。
その後、大気中で700℃で10分間、加熱保持し、50℃/minで室温まで降温させた後、さらに同様に表2に示す組成のモデルガスを1.4L/minで流通させて100〜700℃の温度条件下での排気ガス浄化性能を、NO及びHCそれぞれについて評価した(2回目排浄化能)。
以上のように、浄化性能評価を2回繰り返した時の500℃での浄化能維持率(2回目浄化能/1回目浄化能)をNO及びHCそれぞれについて表3に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
(考察)
実際の自動車等の使用環境である高温加熱と急冷が繰り返される環境においても、同様に排気ガス浄化性能の劣化を効果的に抑制しうることが分かる。上記試験は、排気ガス流量が増加する500℃での浄化能維持率を確認したものであり、比較例1よりも実施例1の方が排気ガス浄化性能が維持されることが示された。
【0070】
<実施例2〜3>
実施例1において、表4に示すCa10(PO)Cu(a=0.2〜1.0、b=1.1〜1.5)となるように硝酸銅水溶液に含浸させた以外、実施例1と同様にして排気ガス浄化用触媒(サンプル)を得た。いずれの触媒粉末の色も赤褐色であり、Cuの濃度に応じて色濃度が向上していた。
【0071】
<C-O反応(Light−off試験)>
酸化活性評価試験の前処理として、実施例1〜3の各排気ガス浄化用触媒(サンプル)0.1gに対して、1.5%O2/He(600℃)のガスを、ガス流量:500cm3/minの割合で10min流して、前処理を行った。
【0072】
次に、実施例1〜3の各排気ガス浄化用触媒(サンプル)について、固定床流通型の反応装置を用いて、模擬排ガスによる浄化性能を評価した。すなわち、反応管内に、各排気ガス浄化用触媒(サンプル)0.1gを、各排気ガス浄化用触媒(サンプル)の前後にそれぞれ石英ウールを詰めてセットした。
そして、上記前処理の後、C1500ppm、O9000ppm、残部Heの組成からなる模擬排ガスを、総流量500cm3/minで前記反応管内に導入し、100℃から600℃まで10℃/minで連続昇温し、反応管出口における排出ガスを、四重極型質量分析計を用いて分析し、反応ガス中の成分組成を求めた。結果を表4に示した。なお、HCの浄化率は測定温度500℃での値を示した。
【0073】
【表4】
【0074】
(考察)
上記実施例及びこれまで発明者が行ってきた試験結果から、式(1):A10(B’O)B”で表されるアパタイト化合物に関して、0.5≦a≦2であるのが好ましく、1≦a≦2であるのがより好ましいと考えることができる。
【0075】
なお、式(1):A10(B’O)B”aで表されるアパタイト化合物において、上記実施例は、AがCaの場合であるが、アパタイト化合物中でAイオンは、(B’O)ユニットの間に存在し、結晶の単位格子の大きさを決めるため、Caのようにイオン半径が大きい元素であれば、単位格子が大きくなり、その分チャネルの空隙が広がると考えることができる。よって、Caの代わりに、希土類、Sr、Ba、Caを使用しても、実施例と同様の効果を得ることができるものと考えることができる。
また、上記実施例では、B’としてPを使用しているが、(PO)イオンと(SiO)イオンはともに大きさが同様であることから、Pの代わりに或いはPと共にSiを使用しても、実施例と同様の効果を期待することができる。
【0076】
また、上記の実施例では、B”として触媒活性種の中でもシンタリングしやすいCuを使用してシンタリング抑制効果を検討した。他の触媒活性種、例えばCo、Mn、Fe及びNiなどは、価数、イオン半径などを考慮しても、Cu同様、本アパタイト化合物の六方チャネル内へ出入りすることはでき、シンタリングしやすいCuでもシンタリング抑制効果を得ることができるのであるから、他の触媒活性種を使用した場合も、Cuと同様、或いはそれ以上のシンタリング抑制効果を得ることができるものと推察することができる。
図1