特許第6770270号(P6770270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770270
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】血流障害検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20201005BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A61B5/02 B
   A61B5/02 310A
   A61B5/026 120
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-534410(P2017-534410)
(86)(22)【出願日】2016年8月5日
(86)【国際出願番号】JP2016073099
(87)【国際公開番号】WO2017026393
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2019年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-157488(P2015-157488)
(32)【優先日】2015年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・研究集会名 国立大学法人東京大学工学部卒業論文本審査 開催場所 国立大学法人東京大学工学部2号館3階電気系会議室1A(〒113−0033 東京都文京区本郷七丁目3番1号) 開催日 平成27年2月16日 ・研究集会名 第58回日本形成外科学会総会・学術集会 開催場所 ウェスティン都ホテル京都第6会場(東館 4F稔の間) (〒605−0052 京都市東山区栗田口華頂町1(三条けあげ)) 開催日 平成27年4月10日 ・研究集会名 一般財団法人総合研究奨励会 開催場所 国立大学法人東京大学工学部2号館3階電気系会議室2(〒113−0033 東京都文京区本郷七丁目3番1号) 開催日 平成27年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】515217661
【氏名又は名称】関野 正樹
(73)【特許権者】
【識別番号】515217937
【氏名又は名称】富岡 容子
(73)【特許権者】
【識別番号】514034191
【氏名又は名称】染谷 隆夫
(73)【特許権者】
【識別番号】390039985
【氏名又は名称】パラマウントベッド株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】関野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】富岡 容子
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 真理
(72)【発明者】
【氏名】榎本 慎太郎
【審査官】 福田 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−508631(JP,A)
【文献】 特開2015−112488(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0111545(US,A1)
【文献】 米国特許第7113817(US,B1)
【文献】 特開2011−92305(JP,A)
【文献】 特開平11−104113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の血流状態を調べる装置であって、
前記生体組織の異なる血流情報を計測する複数の種類の感知手段を、柔軟な基材上にそれぞれ複数配置してなるセンサーシートと、
前記複数の種類の感知手段の出力を解析する解析手段と、を有し、
前記センサーシートは、少なくとも一部が透明であり、前記センサーシートを前記生体組織に貼り付けた状態で、前記生体組織の色を観察でき、
前記センサーシートを前記生体組織に貼り付けて得られる、前記解析手段からの前記生体組織の異なる血流情報により、前記生体組織の血流障害を検出することを特徴とする、血流障害検出装置。
【請求項2】
前記複数の種類の感知手段の一つは、前記血流情報として脈波または心拍を計測することを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項3】
前記複数の種類の感知手段の一つは、前記血流情報として色を計測することを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項4】
前記複数の種類の感知手段の一つは、前記血流情報として温度を計測することを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項5】
血液に特異的に吸収される色を検知する発光素子と受光素子とからなる脈波または心拍を計測する第1の感知手段と、異なる二つ以上の色を検知する発光素子と受光素子とからなる色を計測する第2の感知手段とを有することを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項6】
前記第1の感知手段は緑色の光を用い、前記第2の感知手段は赤色の光と緑色の光を用いることを特徴とする、請求項5に記載の血流障害検出装置。
【請求項7】
前記センサーシートは透明な粘着層が積層されてなり、この粘着層で生体に貼り付けられることを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項8】
前記複数の感知手段の少なくとも一つは、生体組織の参照点の血流情報を計測し、前記解析手段は前記参照点の血流情報を参照して前記生体組織の血流障害を検出することを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項9】
前記生体組織の血流障害の検出が、血流障害が鬱血であるか虚血であるかを検出することを特徴とする、請求項1に記載の血流障害検出装置。
【請求項10】
生体組織の血流状態を調べる装置であって、
前記生体組織の異なる血流情報を計測する複数の種類の感知手段を、柔軟な基材上にそれぞれ複数配置してなるセンサーシートと、
前記複数の種類の感知手段の出力を解析する解析手段と、を有し、
前記センサーシートは、少なくとも一部が透明であり、前記センサーシートを前記生体組織に貼り付けた状態で、前記生体組織の色を観察でき、
前記感知手段は、遮光された光センサーを含み、
前記センサーシートの光センサー部とは反対の表面は、前記光センサーの遮光された部分が皮膚と同系色にマスキングされ、
前記センサーシートを前記生体組織に貼り付けて得られる、前記解析手段からの前記生体組織の異なる血流情報により、前記生体組織の鬱血であるか虚血であるかの血流障害を検出することを特徴とする、血流障害検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の血流障害を検出するための装置に関する。更に詳しくは、鬱血や虚血の血流障害を検出する装置に関する。この出願は、2015年8月7日に出願された日本出願特願2015−157488を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【背景技術】
【0002】
癌化した乳房の摘出による乳癌治療において、手術後の乳房欠損部の再建は、患者の精神的苦痛を和らげ、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を向上させることができる。最新の乳房再建では、欠損部から離れた部位、例えば腹部や背部から血流のある皮膚・皮下組織や深部組織(皮弁と呼ばれる)を切り離して欠損部に移植する形成術(遊離皮弁形成術と呼ばれる)がある。皮弁は血管(動脈と静脈)を含んだ状態で切り出され、欠損部への移植時に、欠損部近傍の健常組織の血管と皮弁の血管を縫合することによって、移植組織の血流を再開して生着させる。
【0003】
この時、移植組織の血液が凝固して血栓として血管を塞いだり、血管同士の縫合の不備で縫合部から血液が漏れ出したりして、移植組織内において鬱血や虚血など血流障害を発生する危険性が有る。その障害の発見が遅れると、最悪の場合、移植組織が壊死してしまう。血流障害の発見と再手術が早いほど、移植組織の回復率が向上するため、手術後は頻繁な手術部の確認が必要であり、医療機関においては極めて大きな労働負担となっている。また、初期の血流障害の発見は極めて困難で、再手術が遅れる危険性が常に存在する。
【0004】
また、四肢や指の切断事故への再接合手術においても、胴体に近い側の健常部の血管と切断部の血管とを縫合して、切断部の血流を再生することが、手術の成否を支配する。この場合においても、手術後に経過観察を頻繁に行うことで、早期に血流障害を発見することが極めて重要である。
【0005】
現在医療現場で行われている移植組織の血流障害を特定する方法には、医療スタッフが移植部を圧迫し変色させ、色が元に戻る時間で判断するレフィル法、鬱血色や虚血色を目視によって判断する方法、針を刺した時の出血状態から判断する方法などがある。これらの検査は、手術後約1週間の間、昼夜を問わず数時間ごとに行う必要があり、医療現場での大きな負担となる。また、これらの方法で血流状態を判断するには、技術と経験が必要であり、判断を誤る危険性がある。そこで、技術と経験に寄らず、移植部の血流状態を常時監視するシステムが強く求められている。
【0006】
血流障害を検出する従来技術として、圧迫により血液流を遮断して白化させたのち、圧迫解放後の皮膚の色変化から障害を検知する装置が知られている(特許文献1)。また、皮膚表面の血行障害を血中酸素濃度で判断する技術が知られている(特許文献2)。また、鬱血判定装置として、鬱血を脈波で判定する技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−540869号公報
【特許文献2】特開平10−295676号公報
【特許文献3】特開2013−94222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された皮膚評価装置は、皮膚の圧迫解消後の皮膚の色変化で血行状態を評価しているが、圧迫には大掛かりな装置が必要で、患者の装着時の負担が大きい。特に移植組織のように、健常な組織と生着していない不安定な表面に過度のストレスを与えることは避けなければならない。
【0009】
特許文献2に記載された血行障害測定装置は、660nm〜950nmの範囲の複数の波長の光を用いて血中の酸素濃度変化を求めている。しかしながら、血行障害の予測には、予め酸素濃度変化と血行障害の状態との関係を参照するための情報が必要であり、移植組織のように参照情報が無く、また、鬱血や虚血という酸素濃度では判定できない血行障害には適用できない。
【0010】
特許文献3に記載された鬱血判定装置は、光学的手法で脈波を検出し鬱血を判断しているが、移植組織は手術後の時間経過で血流状態は大きく変化し、脈波の強弱だけでは移植組織の状態を正確に把握することは困難である。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、生体に力学的負担を与えることがない、柔軟性が高く、3次元曲面よりなる生体表面に追従して装着でき、高い信頼度で鬱血や虚血の血流障害を検出できる血流障害検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、生体組織の血流状態を調べる装置であって、前記生体組織の異なる血流情報を計測する複数の種類の感知手段を、柔軟な基材上にそれぞれ複数配置してなるセンサーシートと、前記複数の種類の感知手段の出力を解析する解析手段と、を有し、前記センサーシートを前記生体組織に貼り付けて得られる前記解析手段からの前記生体組織の異なる(複数の)血流情報により、前記生体組織の血流障害を検出する血流障害検出装置の構成を有する。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、前記複数の種類の感知手段の一つは、前記血流情報として脈波または心拍を計測する。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、前記複数の種類の感知手段の一つは、前記血流情報として色を計測する。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、前記複数の種類の感知手段の一つは、前記血流情報として温度を計測する。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、血液に特異的に吸収される色を検知する発光素子と受光素子とからなる脈波または心拍を計測する第1の感知手段と、異なる二つ以上の色を検知する発光素子と受光素子とからなる色を計測する第2の感知手段とから構成される。さらに、前記第1の感知手段は緑色の光を用い、前記第2の感知手段は赤色の光と緑色の光を用いても良い。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、前記センサーシートは透明な粘着層が積層されてなり、この粘着層で生体に貼り付けられる。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、前記センサーシートは、少なくとも一部が透明であり、前記センサーシートを前記生体組織に貼り付けた状態で、前記生体組織の色を観察できる。
また、上記血流障害検出装置の構成において、例えば、前記複数の感知手段の少なくとも一つは、生体組織の参照点の血流情報を計測し、前記解析手段は前記参照点の血流情報を参照して前記生体組織の血流障害を検出する。
なお、上記本発明の特定の構成は任意に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生体組織に力学的負担を与えることがない、柔軟性が高く、3次元曲面よりなる生体表面に追従して装着でき、高い信頼度で鬱血や虚血の血流障害を検出できる血流障害検出装置を実現することができる。また、装置を装着したまま生体組織を目視で観察できることで、予期せぬリスクを回避し、多面的な検査ができる血流障害検出装置を提供できる。更に、装置を装着したまま活動を行うことができることで、適用者の負担を低減した血流障害検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る血流障害検出装置を模式的に示した装置構成図である。
図2A】本発明の一実施形態に係るセンサーシートの平面構成を模式的に示した平面模式図である。
図2B】本発明の一実施形態に係るセンサーシートの断面構成を模式的に示した断面模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る光センサーの断面を模式的に図示したものである。
図4】本発明の他の実施形態に係る光センサーの断面を模式的に図示したものである。
図5】本発明の他の実施形態に係る光センサーの断面を模式的に図示したものである。
図6】本発明の一実施形態を適用する移植された生体組織を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係わる血流障害装置を移植した生体組織に適用した図である。
図8】本発明の一実施形態に係わる血流障害装置を移植した生体組織に適用した断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係わる血流障害装置を移植した生体組織に適用した図である。
図10】本発明の他の実施形態に係るセンサーシートの平面構成を模式的に示した平面模式図である。
図11】本発明の実施例に係るセンサーシートによる動物実験を示す図である。
図12】本発明の実施例に係る血流障害モデルを示す図である。
図13】本発明の実施例に係る虚血時の血流センサー出力を示す図である。
図14】本発明の実施例に係る鬱血時の血流センサー出力を示す図である。
図15】本発明の実施例に係る鬱血時の色センサー出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した血流障害検出装置について、図面を用いてその構成を説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る血流障害検出装置を模式的に示した図であり、図2は血流障害検出装置のセンサーシートの構成を示す平面模式図(図2A)と断面模式図(図2B)である。
本発明の一実施形態に係る血流障害検出装置100は、センサーシート10と、センサーシートを制御する制御装置20と、センサーの計測出力を解析するコンピュータ30とから構成される。センサーシート10は、柔軟性を有する薄い基材11上に、感知手段となる複数の反射型光センサー12が実装されている。また、基材11上には、光センサー12へ電力を供給する電力線とセンサー出力を読み出す信号線となる配線13が形成されている。
複数の光センサー12に接続された配線13は、基材11の一端に向かって引き回され、帯状のセンサーシート10の一端で制御装置20と接続する端子部14に集結されている。また、センサーシート10は、測定対象である生体組織に貼り付けて使用されるため、基材11の光センサー12が実装されている面には、センサーシート10を生体組織に固定するための固定手段である粘着層15が積層されている。粘着層15は光センサー12の配置に応じた窓が開いており、測定対象面と光センサー12との距離を適切に維持するスペーサーとしての役割も有している。また、粘着層15の光センサー12の配置部に窪みを設け、センサーシート10の貼り付け面を粘着層15で密閉する構成は、センサーシート10の洗浄・滅菌処理、センサーシート10への雑菌付着防止、硬い光センサー12による生体への損傷防止のために有効である。
【0017】
制御装置20は、センサーシート10とケーブルで接続され、センサーシート10上の光センサー12の制御として、センサーへの電源供給、センサーの駆動、センサー出力の信号処理、そしてコンピュータとデータの授受をするための無線通信の機能を有する。コンピュータ30は、制御装置20と無線通信により接続され、制御装置20との間で、光センサー12の制御情報の交換と光センサー12の出力データの授受を行う。コンピュータ30は、制御情報及び出力データを蓄積するとともに、得られたセンサー出力データを基に、解析手段であるコンピュータ30は、測定対象である生体組織の血流情報をデータ処理により抽出し、生体組織の血流障害に関して障害の有無と程度を判定する。これらの情報は、図示されていない通信手段により中央監視システムに送信され、必要に応じて異常を通知するアラームの生成を行う。
【0018】
次に、本発明の血流障害検出装置における感知手段を詳細に説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る感知手段である光センサーの断面構成を模式的に示した図である。光センサー40には、二組の反射型光センサー素子41、44がパッケージ47に組み込まれ構成されている。パッケージ47は直方体形状をしており、その下面に光センサー素子41、44の発光面と受光面が設けられている。また、パッケージ47には、光センサー素子41
、44の駆動電源供給と出力読出しのための図示していない配線端子が設けられており、配線13に接続される。反射型光センサー素子41、44は、それぞれ発光素子42、45と受光素子43、46の組合せからなり、発光素子42、45からの光が測定対象物に向けて出射され、その光の測定対象物からの反射光をそれぞれ受光素子43、46が検出し、反射光の強度およびその時間変化から測定対象物の特性を計測する。
【0019】
本実施形態において、発光素子42、45は発光ダイオードであり、受光素子43、46はフォトトランジスタからなる。発光素子42が出射する光のスペクトルは、血液に特異的に吸収される色として緑色の光源であり、発光素子45が出射する光のスペクトルは、赤色の光源である。測定対象物である生体組織に向け照射された光は、生体組織に入射すると動脈血、静脈血、生体組織内でそれぞれ通過、吸収、反射されたのち、後方散乱光として受光素子に受光される。静脈血、生体組織に吸収される光量はほぼ一定であるが、生体内の動脈血量は心拍に伴う脈動により増減するため、吸収される光量も動脈血量に伴い変化する。それ故に、動脈血に吸収される光は、脈動に同期して後方散乱光が変動するため、その光を受光素子で検出し、コンピュータ30で脈動成分を検出することで電気的な形で脈波または心拍を計測することができる。
【0020】
血液による光の吸収は、主にヘモグロビンによる。ヘモグロビンはおよそ520nmから580nmの緑色に特異的な吸収を持っているため、血流の脈波または心拍を計測する感知手段として、光センサー素子41は緑色の発光素子42を光源として用いている。
【0021】
一方で、測定対象物の色の変化を感知する場合、色の変化は反射光のスペクトル変化であるから、最小の構成においては、異なる二つの色を検知することが必要である。測定対象物として生体組織の血流に伴う組織異常を検出する場合、血液に関係する色の変化と、皮弁上層組織のメラミンなどの色素に関係する色の変化とを捉えることが重要である。先に述べたように、ヘモグロビンに起因する血液に関係する色の変化は、血液に特異的に吸収される色として520nmから570nmの緑色を中心とした光が好適である。一方、色素に関係する色の変化を捉えるには、ヘモグロビンの吸収の少ない色が好適で、具体的には600nmから800nmの赤色を中心とした光が好適である。上記理由により、本実施形態においては、ヘモグロビンの吸収が相対的に低く、皮弁上層組織の色素の吸収変化を捉えるために、色を計測する感知手段に用いる光の一つとして、赤色の発光素子45を光源として用いている。
【0022】
また、測定対象物として生体組織の血流に伴う組織異常を検出する場合、血液に関係する色の変化は、血液に特異的に吸収される色を用いることが好適であり、これは先に述べたとおり、血流を計測する感知手段と同様に、緑色の光源を用いることが好適である。すなわち、血流の脈波または心拍を計測する光センサーと、生体組織の血流異常を色で検出する光センサーの他の一つは、緑色の光で計測する光センサーを共有することができる。従って、本実施形態においては、緑色の光を用いた光センサー素子41を生体組織の血流の脈波または心拍を計測する感知手段に用い、緑色の光を用いた光センサー素子41と赤色の光を用いた光センサー素子44とを生体組織の色を計測する感知手段に用いている。このようにすることで、血流の脈波または心拍と色とを組織の同じ箇所で計測できるため、生体組織の血流障害を多面的に解析することにより、正確かつ的確に血流障害を検知することが可能となる。
【0023】
図4は、本発明の他の実施形態に係る感知手段である光センサーの断面構成を模式的に示した図である。光センサー50には、二組の反射型光センサー素子51、54が、受光素子53を共有してパッケージ57に組み込まれ構成されている。パッケージ57は直方体形状をしており、その下面に光センサー素子51、54の発光面と受光面が設けられている。また、パッケージ57には、光センサー素子51、54の駆動電源供給と出力読出しのための図示していない配線端子が設けられており、配線13に接続される。反射型光センサー素子51を構成する発光素子52は、血液に特異的に吸収される色として緑色の光を出射する発光ダイオードである。また、反射型光センサー素子54を構成する発光素子55は、血液での吸収の少ない赤の光を出射する発光ダイオードである。受光素子53はフォトダイオードであり、緑色から赤色の光を検出できる。
【0024】
図3に示した実施形態と同様に、本実施形態において、緑色の光を用いた光センサー素子51を生体組織の血流の脈波計測または心拍計測の感知手段に用い、緑色の光を用いた光センサー素子51と赤色の光を用いた光センサー素子54とを生体組織の色を計測する感知手段に用いている。本実施形態によれば、緑色の光センサー素子51を脈波計測または心拍計測と色計測に共有することに加え、受光素子53を共有しているため、センサーシート10における配線13の本数を減らすことができる。配線の本数の低減は、多数の光センサー素子をセンサーシートに搭載することを可能とする。一方で、受光素子53を共有しているため、光センサー素子51と光センサー素子54とで同時に計測することはできない。従って、制御装置20は、発光素子52と発光素子55とを時分割で駆動し、その駆動に同期して受光素子53の出力を緑色の情報と赤色の情報とに区別するように制御する。
【0025】
図5は、本発明の他の実施形態に係る感知手段である光センサーの断面構成を模式的に示した図である。光センサー60には、二組の反射型光センサー素子61、65が、発光素子62を共有してパッケージ68に組み込まれ構成されている。パッケージ68は直方体形状をしており、その下面に光センサー素子61、65の発光面と受光面が設けられている。また、パッケージ68には、光センサー素子61、65の駆動電源供給と出力読出しのための図示していない配線端子が設けられており、配線13に接続される。反射型光センサー素子61を構成する受光素子63は、血液に特異的に吸収される色として緑色の光を選択的に透過するカラーフィルター64が組み込まれたフォトトランジスタである。また、反射型光センサー素子65を構成する受光素子66は、血液での吸収の少ない赤の光を選択的に透過するカラーフィルター67が組み込まれたフォトトランジスタである。二つの光センサーに共通の発光素子62は、緑色から赤色の波長成分をもつ発光ダイオードであり、例として白色発光ダイオードを利用することができる。
【0026】
図3に示した実施形態と同様に、本実施形態において、緑色の光を用いた光センサー素子61を生体組織の脈波または心拍計測の感知手段に用い、緑色の光を用いた光センサー素子61と赤色の光を用いた光センサー素子65とを生体組織の色を計測する感知手段に用いている。図4に示した実施形態と同様に、本実施形態によれば、緑色の光センサー素子61を脈波または心拍計測と色計測に共有することに加え、発光素子62を共有しているため、センサーシート10における配線13の本数を減らすことができる。配線の本数の低減は、多数の光センサー素子をセンサーシートに搭載することを可能とする。一方で、図4の実施形態と異なり、光センサー素子61と光センサー素子65は同時に計測することができる。
【0027】
次に、本発明の一実施形態に係る血流障害検出装置を、移植組織の血流障害の検出に適用する例を説明する。図6は、癌化した乳房の摘出後の乳房欠損部の再建を示しており、患者から切り離した皮膚・皮下組織や深部組織からなる皮弁70が欠損部に移植され、欠損部近傍の健常組織と血管および皮膚・皮下組織が縫合されている。移植組織の縫合部は、感染症を予防し、また縫合箇所の乾燥や力学的損傷を防ぐため、保護テープ71が貼られている。本発明において、この縫合部を主要な観察箇所として、血流障害検出を行うために、保護テープ71は計測に用いる光のスペクトル領域に関して透明であることが望ましい。このような保護テープは、透明なポリエチレンフィルムにシリコーン粘着剤やアクリル粘着剤などの透明粘着剤を積層したものを用いることができる。
【0028】
図7に示すように、これらの保護テープ70の上に、図2で示したセンサーシート72を粘着層15で固定する。この時、センサーシートの光センサー素子のいくつかは、縫合部を跨いで健常組織部の皮膚に配置されるようにする。この健常組織部に配置された光センサー素子からの情報は、解析手段であるコンピュータ30において、移植部の血流状態を判定するためのリファレンスとして用いられる。図8は、皮弁に貼られたセンサーシートの断面を示している。本実施形態において、保護テープ71とセンサーシート72の積層構造にすることは、患者が入浴をする場合に、センサーシートを取り外すことを容易にする。また、センサーシート72の貼り付け面に積層されているシリコーン素材PDMS (Polydimethylsilocane)からなる透明な粘着層で、センサーシート72は、光センサー素子と皮膚との間の距離を一定に保って保護テープ71上へ固定される。
【0029】
図9は、本発明におけるセンサーシート72の別の貼り付け方法を示している。センサーシート72は幅が狭いテープ状であるため、3次元的な生体表面に倣って密着して貼り付けることができる。また、図7および図9の実施形態において、図示されていない制御装置20は、上腕や移植部外の健常部表面にベルトやテープで固定され、制御装置20とセンサーシート72の端子部14とは、ケーブルで接続される。
【0030】
本発明の血流障害検出装置は、組織移植手術後に移植組織の血流障害を検出するのに極めて有用であるが、一方で医師や医療従事者の目視による観察も、予想しない異変を回避するために重要である。これまでのデバイスは目視による観察のし易さを十分に考慮されていなかった。そのため、本発明の実施形態においては、図10に示すように、センサーシート80の光センサー部82は外部光によるノイズを防ぐために、黒色の塗料やアルミ膜によって遮光し、その他の部分81は透明であるように、センサーシートの基材と粘着層は透明な材料で構成する。更に、センサーシート80の光センサー部とは反対の基材表面には、光センサー部82や配線部83の不透明デバイス部84(破線の内側)を皮膚と同系色にマスキングする。このマスキングにより、デバイスと皮膚との間の色や輝度のコントラストを下げ、デバイスを通して皮膚色を見る際に、偽色を生じさせないようにすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例にあっては、ラットによる動物実験によって、血流障害の実際の状況と同じ鬱血および虚血を実現している。しかし、人に対しても同様に適用できることは、動物実験の方法論において示されており、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(脈波・心拍計測用光センサー)
脈波・心拍測定用光センサーとして、新日本無線株式会社製のNJL5303R_Jを使用した。この光センサーは波長570nmにピークを持つ緑色発光ダイオードと緑色に受光感度のピークを持つフォトトランジスタから構成されたフォトリフレクタであり、反射光による計測に適用できる。
【0033】
(色計測用光センサー)
色計測用光センサーにはデジタルカラーセンサー(浜松ホトニクス社:S9706)を使用した。このセンサーは、露光時間を変化させることでセンサー感度を調整することが可能である。色成分に関して、赤(中心波長615nm)、緑 (中心波長540nm)、青(中心波長465nm)にそれぞれ感度を持つセンサーからなり、256段階のデジタル値を赤、緑、青の順で出力する。また、色計測のための光源としては、白色発光ダイオードを用いた。
【0034】
(センサーシート)
脈波・心拍計測用光センサーと色計測用光センサーは、柔軟で生体適合性の高いシリコーン素材(Polydimethylsilocane:PDMS)からなる厚さ1mmのPDMSに一定間隔にくぼみを作り、センサーを嵌めこむことで固定した。これにより、センサーシートの貼り付け面はPDMSからなる粘着層で密閉される。血流計測用光センサーシートには6個のセンサーを2列×3行の多点で配置し、図11に示すように、図示されていない制御装置20と有線で結線した。
【0035】
(センサーの制御)
今回動物実験に使用するウィスター種ラットの心拍数は毎分250回から450回である。すなわち、心拍の周波数は4.1Hzから7.5HzHzとなる。この着目周波数でセンサー出力を正確処理するために、制御装置20へノイズ除去のハイパスフィルタ回路とローパスフィルタ回路とを組み込んだ。これらの処理は、解析手段であるコンピュータ上でソフト的に行うことも可能である。脈波・心拍計測用光センサーと色計測用光センサーの制御は、入出力機能と無線通信機能が組み込まれた電池駆動のマイクロプロセッサーボードを用いて構成した。脈波・心拍計測用光センサーの受光量による出力電圧変化は微小であるため、出力電圧が0Vから5Vに収まる程度に、制御装置20内で増幅したのちに、アナログデジタル変換し、デジタルデータとして無線通信によって5ミリ秒ごとにコンピュータに送信する。コンピュータ上では、受け取った値を数値データとして保存し、値を波形として表示できるようにした。また、色計測用光センサーも同様に、コンピュータに送信される。露光時間は、赤色成分の値が256レベルの中央付近になるように調整した。本実施例では、脈波・心拍計測用光センサーと色計測用光センサーは、別々に構成されているため、それぞれのセンサーが使う発光素子によるクロストークを防ぐために、光センサーは時分割で交互に動作させた。
【0036】
(血流障害モデル)
動物実験にはウィスター種のラットを使用した。図11に示すように、鼠径部分の皮弁を3cm×4cmの大きさに左右それぞれ1つ切り離し、体と脚の付け根付近にある大動脈と大静脈でのみ繋がっている状態で移植した。切り離した状態の皮弁は縮んでいるため、皮弁の周辺を縫合し、切り離す前の状態に可能な限り近づけた。
血流障害のモデルとして、移植した皮弁に対して、図12に示すように、動脈または静脈をクランプして、鬱血モデルとなる静脈を遮断した静脈塞栓と、虚血モデルとなる動脈を遮断した動脈塞栓を評価した。血流異常時と通常時それぞれの血流状態の比較を行うため、作製した左右の皮弁のうち、片方にのみクランプ操作を行い、他方をリファレンスとした。
【0037】
(光センサーの装着)
左右の皮弁のそれぞれに、健常部に亘って保護テープを貼り、その上に脈波・心拍計測用光センサー(中央側に貼られている)と色計測用光センサー(外側にそれぞれ1箇所に貼られている)とを合わせて貼り付けた。脈波・心拍計測用光センサーシートの端の1つの光センサーは、健常部に位置しており、それぞれのセンサーシートでのリファレンスとして計測ができるようにした。
【0038】
(評価結果)
図13は、動脈を遮断した虚血モデルにおける、遮断前後の血流計測用光センサーの出力である。図13(a)に示すように、動脈の遮断前において、脈波・心拍計測用光センサーは心拍に呼応した脈を検出しており、皮弁の血流計測を実現している。一方、動脈を遮断した虚血状態では、遮断直後から心拍に呼応した脈は検出されていない。このことにより、本実施例において、完全なる虚血に対しては、脈波・心拍計測用光センサーが機能していることが示された。
図14は、静脈を遮断した鬱血モデルにおける、遮断後の脈波・心拍計測用光センサーの出力を示している。図14(a)に示されるように、遮断直後では、波形は図13(a)の正常状態との違いは全く見られない。更に遮断から20分後の波形も、図14(b)に示すように、心拍に呼応した脈が観測されており、脈の有無や脈の強弱だけでは、鬱血は直ちに検出することはできないことを示している。図14(c)は、静脈遮断後40分を経過した時の波形であるが、40分を経過して波形より血流異常が検出できる状態に至った。
【0039】
一方、図15は色計測用光センサーの出力である。静脈を遮断して鬱血が生じてから、リファレンスである通常皮弁に対して、赤の成分と緑の成分が低下を始めている。一方、青の成分の変化は見られなかった。静脈遮断から53分後に遮断を停止し静脈を開放すると、鬱血皮弁の赤の成分は直ちに上昇した。一方、通常皮弁の赤の成分も静脈遮断から30分が経過してから、出力が低下し、また、静脈解放後10分程度経過してから、鬱血皮弁同様に出力が上昇した。これは、静脈遮断によって、マウスの全体の血流状態が変化し、健常部においてもその影響で組織の色の変化が誘発されることを示している。
鬱血の場合、まず静脈遮断により静脈血が皮弁から出て行くことができず、動脈からの血流が皮弁内部に溜まる。それに従い、皮弁内の血管内部圧力が上昇し、この血圧をあるレベルを超えると血流が停止する。つまり鬱血では、脈波形が計測されなくなるまで、皮弁内部に血液が充満し、脈波・心拍計測用光センサーでは、鬱血状態の検出に時間を要することになる。
以上の評価結果は、血流の計測のみでは、鬱血を早期に検出することが困難であり、血流と色の両方の計測結果を総合的に評価して判断をすることの有効性を示している。また、虚血においても、完全なる遮断でなく、血流の低下を検知するには、色の情報も重要であることを示している。
【0040】
以上の評価結果によれば、血流障害を検出する色計測においては、赤色と緑色の組合せが極めて有効であった。一方で、青色の有用性は低いことが分かった。また、脈波・心拍計測と色計測を組み合わせて血流障害を検出することの必要性と有用性が示された。更に、生体組織の色に関しては、移植手術後の経過に伴い、皮弁の状態は良い方向でも色が変化する。環境温度や、食事、薬の投与などによっても生体組織の色は、健常部も皮弁部も変化する。そのため、皮弁部に隣接する健常部の色も同時に評価して、その相対的な色変化として皮弁部の血流障害を判断することも極めて有効である。
【0041】
また、血流状態に関して、脈波・心拍と生体組織の色の他に、生体組織の温度も重要な指標となる。生体組織の温度は血流による熱の輸送、血流による酸素や養分の供給の影響を大きく受けるため、血流情報として有用である。故に、生体組織の温度を計測し、脈波・心拍または生体組織の色と合わせて解析することで、血流状態を多面的に解析することを可能にし、診断の精度や信頼性が格段に向上する。センサーシートに、サーミスターなどの温度センサーを光センサーと並べて配置させることで、複数の血流情報を2次元分布として計測して、血流状態を2次元的に把握することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
平坦でない3次元曲面からなる移植生体組織に力学的負担を与えることがなく、長時間装着した状態で、衣類の下や体内の目視できない環境下において、高い信頼度で鬱血や虚血の血流障害を検出できる。
【符号の説明】
【0043】
10…センサーシート;11…基材;12…光センサー;20…制御装置;30…コンピュータ;40、50、60…光センサー;71…保護テープ;72…センサーシート;100…血流障害検出装置
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15