特許第6770305号(P6770305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6770305導電性不織布及びその製造方法、不織布積層体、生体電極、並びに生体信号測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770305
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】導電性不織布及びその製造方法、不織布積層体、生体電極、並びに生体信号測定装置
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/356 20060101AFI20201005BHJP
   A61B 5/0408 20060101ALI20201005BHJP
   D06M 15/233 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   D06M15/356
   A61B5/04 300W
   D06M15/233
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-217471(P2015-217471)
(22)【出願日】2015年11月5日
(65)【公開番号】特開2017-86260(P2017-86260A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光伸
(72)【発明者】
【氏名】大西 克己
(72)【発明者】
【氏名】市川 太郎
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−243993(JP,A)
【文献】 特開2015−190081(JP,A)
【文献】 特開2010−125404(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115440(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04 − 5/0496
D04H 1/00 − 18/04
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法により測定される比表面積が0.5m/g以上である不織布と、
前記不織布に付着している導電性高分子と、
を含み、
前記不織布は、JIS L 1096(2010)のA法(フラジール形法)に準じて測定される目付15g/mでの通気度が、0.1cm/cm/s〜10cm/cm/sである導電性不織布。
【請求項2】
前記不織布の目付が、3g/m〜100g/mである請求項1に記載の導電性不織布。
【請求項3】
前記不織布が、メルトブローン不織布である請求項1又は請求項2に記載の導電性不織布。
【請求項4】
前記不織布が、プロピレン系重合体を含む請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の導電性不織布。
【請求項5】
前記不織布は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを0.05mmとしたときの規格化分子配向MORcが1.05〜10である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の導電性不織布。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の導電性不織布からなる層と、前記導電性不織布以外の不織布からなる層と、を備える不織布積層体。
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の導電性不織布を含む生体電極。
【請求項8】
請求項に記載の生体電極を備える生体信号測定装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の導電性不織布の製造方法であって、
前記不織布に前記導電性高分子を含む液体を塗布することにより、前記不織布に前記導電性高分子を付着させる付着工程を有する導電性不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性不織布及びその製造方法、不織布積層体、生体電極、並びに生体信号測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性繊維として種々の材料が知られている。
近年、生体電極、バイオインターフェース等への導電性繊維の応用が注目されている。
特許文献1には、体表面に接する生体電極として適用可能な導電性繊維として、シルク繊維などの基材繊維に導電性高分子であるPEDOT−PSSを付着させた導電性繊維が提案されている。
特許文献2には、複数の配向した重合体フィラメントから成る導電性布であり、各フィラメントは混合物又はコーティングとして組み込まれる電気的に伝導性のある重合体材料を含むことを特徴とする、窪みや皺に対する抵抗性を持ちながら金属をベースにした布と同等の静電荷散逸特性を有する導電性布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/073673号
【特許文献2】特表2007−521405号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、導電性繊維を生体電極として用いるに際して、より高感度化が望まれている。かかる状況の下、従来の導電性繊維では抵抗が依然高く、生体電位信号の伝送ロスが生じていた(即ち、感度が不十分であった)。
従って、本発明の目的は、抵抗が低減された導電性不織布及びその製造方法、並びに、上記導電性不織布を含む、不織布積層体、生体電極、及び生体信号測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、導電性高分子を、BET比表面積が0.5m/g以上の数値を示す不織布へ付着させることにより、従来よりもさらに低い抵抗を示す導電性不織布が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、上記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
<1> BET法により測定される比表面積が0.5m/g以上である不織布と、
前記不織布に付着している導電性高分子と、
を含む導電性不織布。
<2> 前記不織布の目付が、3g/m〜100g/mである<1>に記載の導電性不織布。
<3> 前記不織布は、JIS L 1096(2010)のA法(フラジール形法)に準じて測定される目付15g/mでの通気度が、0.1cm/cm/s〜10cm/cm/sである<1>又は<2>に記載の導電性不織布。
<4> 前記不織布が、メルトブローン不織布である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の導電性不織布。
<5> 前記不織布が、プロピレン系重合体を含む<1>〜<4>のいずれか1項に記載の導電性不織布。
<6> 前記不織布は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを0.05mmとしたときの規格化分子配向MORcが1.05〜10である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の導電性不織布。
<7> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の導電性不織布からなる層と、前記導電性不織布以外の不織布からなる層と、を備える不織布積層体。
<8> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の導電性不織布を含む生体電極。
<9> <8>に記載の生体電極を備える生体信号測定装置。
<10> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の導電性不織布の製造方法であって、
前記不織布に前記導電性高分子を含む液体を塗布することにより、前記不織布に前記導電性高分子を付着させる付着工程を有する導電性不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抵抗が低減された導電性不織布及びその製造方法、並びに、上記導電性不織布を含む、不織布積層体、生体電極、及び生体信号測定装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
〔導電性不織布〕
本実施形態の導電性不織布は、BET法により測定される比表面積(以下、「BET比表面積」ともいう)が0.5m/g以上である不織布と、不織布に付着している導電性高分子と、を含む。
本実施形態の導電性不織布では、0.5m/g以上である不織布を用いることにより、0.5m/g未満である不織布を用いた場合、及び、不織布以外の繊維材料(布など)を用いた場合と比較して、抵抗がさらに低減される。
従って、本発明の導電性不織布を、皮膚へ接触する生体電極として用いることにより、生体電極の高感度化が期待される。例えば、生体電位信号を送信する際の抵抗が少なくなり、伝送ロスが少なくなり、生体電位信号電圧(S)とノイズ信号電圧(N)との比であるS/N比が向上することが期待される。また、生体電極の更なる小型化又は薄型化の効果も期待される。
【0010】
本実施形態では、導電性高分子の少なくとも一部が、不織布を構成する繊維の少なくとも一部に付着していればよい。
本実施形態における「不織布に付着している導電性高分子」の概念には、導電性高分子が不織布の表面部分(即ち、不織布の外部から見える部分。以下同じ。)の繊維のみに付着している態様、導電性高分子が不織布の内部の繊維のみに付着している態様、及び、導電性高分子が不織布の表面部分の繊維及び不織布の内部の繊維の両方に付着している態様の全てが包含される。
ここで、導電性高分子が少なくとも不織布の内部の繊維に付着している態様は、換言すれば、導電性高分子が不織布に含浸されている態様である。
【0011】
本実施形態において、不織布のBET比表面積は、JISZ8830:2013に準拠して測定された値を意味する。
不織布のBET比表面積の下限は、好ましくは0.8m/gであり、より好ましくは1.5m/gであり、特に好ましくは2.1m/gである。
上記不織布のBET比表面積の上限には特に制限はないが、上限は、例えば7.0m/gである。
【0012】
本実施形態において、上記不織布の目付が3g/m〜100g/mであることが好ましい。
上記不織布の目付が3g/m以上であると、不織布繊維の表面積が大きくなり、付着する導電性高分子の総量が増え、その結果、抵抗体としての断面積が増え、抵抗体としての抵抗値がより低下する。また、上記不織布の目付が3g/m以上であると、不織布の強度や剛性を確保し易いため、製造適性がより向上する。
上記不織布の目付が100g/m以下であると、不織布繊維の厚さが薄くなり、また導電性高分子の付着量が適度となり、乾燥時間の短縮を図れるなど、製造適正が更に向上する。また、上記不織布の目付が100g/m以下であると、導電性高分子を含浸させる場合において、不織布の厚み方向への含浸の均一性がより向上する。
上記不織布の目付の下限は、より好ましくは5g/mである。
上記不織布の目付の上限は、より好ましくは50g/mであり、更に好ましくは30g/mである。
【0013】
本実施形態において、上記不織布は、JIS L 1096(2010)のA法(フラジール形法)に準じて測定される目付15g/mでの通気度が、0.1cm/cm/s〜10cm/cm/sであることが好ましい。
上記通気度が0.1cm/cm/s以上であると、導電性高分子が不織布の内部に付着しやすくなるので、導電性不織布の抵抗をより低減できる。また、導電性不織布を製造する際、不織布の内部の乾燥がより容易となるので、製造適正がより向上する。
上記通気度が10cm/cm/s以下であると、導電性高分子を不織布の内部に均一に滞留(保持)させ易いので、導電性不織布の抵抗をより低減でき、かつ、製造適性がより向上する。
【0014】
上記不織布は、メルトブローン不織布であることが好ましい。
メルトブローン不織布は、他の不織布と比較して、BET比表面積が高い傾向がある。更に、メルトブローン不織布は長繊維で構成され、繊維同士が厚み方向、面方向に均一にくまなく自己融着している。これらの理由により、上記不織布がメルトブローン不織布であると、導電性不織布の抵抗がより低減される。
また、メルトブローン不織布は繊維が略一方向へ配向している傾向があるため、上記不織布がメルトブローン不織布であると、特に繊維の配向方向の抵抗が低くなる。
【0015】
上記不織布は、導電性不織布の抵抗を更に低減する観点から、プロピレン系重合体を含むことが好ましい。
【0016】
上記不織布は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを0.05mmとしたときの規格化分子配向MORcが1.05〜10であることが好ましい。
【0017】
MORcは、一般的には分子配向の度合いを示す値であるが、不織布中の繊維の配向方向とも相関がある。具体的には、MORcが1であることは、不織布中の繊維が等方的(無配向)であることを示し、MORcが1超であることは、不織布中の繊維が特定配向していることを意味する。MORcが高い程、配向の度合いが強いことを示す。但し、MORcは、透過強度によって測定される値であるため、繊維の配向の絶対値を示すものではない。
【0018】
本実施形態において、MORcが1.05以上であると、特に繊維の配向方向の抵抗が低くなる点で有利である。
一方、MORcが10以下であると、製造適性により優れる点で有利である。
MORcの下限は、より好ましくは1.10であり、更に好ましくは1.20である。
MORcの上限は、より好ましくは5である。
【0019】
MORcは、マイクロ波透過型分子配向計で測定される分子配向度MORに基づき、基準厚さ0.05mmによって規格化することによって求められる。具体的には、MORcは、下記式によって算出される。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
〔tc:基準厚さ(0.05mm)、t:不織布厚さcalc.(mm)〕
【0020】
ここで、「不織布厚さcalc.」は、不織布の質量(g;実測値)を不織布を構成する樹脂の密度で割ることにより不織布の体積を求め、得られた体積を不織布の面積で割ることによって求める。
また、分子配向度MORは、以下のようにして測定する。
即ち、まず、測定対象となる試料(不織布)を、マイクロ波透過型分子配向計のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に上記試料の面(不織布の面)が垂直になるように配置する。次に、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、試料をマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させ、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより、分子配向度MORを測定する。
マイクロ波透過型分子配向計としては、例えば、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等を用いることができる。
分子配向度MORの測定は、4GHz近傍又は12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0021】
また、本実施形態の導電性不織布の長手方向と、不織布の分子配向の方向と、のなす角度(以下、「配向角」ともいう)は、好ましくは0°〜70°、より好ましくは0°〜60°、更に好ましくは0°〜45°、更に好ましくは0°〜15°、特に好ましくは0〜10°である。分子配向の方向は、マイクロ波透過型分子配向計によって確認することができる。
なお、本実施形態の導電性不織布の形状(平面視で確認される形状)には特に制限はない。
【0022】
次に、導電性不織布に含まれる、不織布、導電性高分子の好ましい態様について説明する。
【0023】
<不織布>
不織布の、BET比表面積、目付、通気度、及びMORcの好ましい範囲については、前述したとおりである。
【0024】
(平均繊維径)
不織布を形成する繊維の平均繊維径は、導電性不織布の抵抗をより低減する観点から、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは4μm以下であり、更に好ましくは1.5μm以下であり、特に好ましくは1.0μm以下である。
繊維の平均繊維径の下限には特に制限はないが、下限として、例えば0.5μmが挙げられる。
【0025】
上述の好ましい平均繊維径を持つ繊維としては、プロピレン系重合体を含む繊維が好ましい。
上述の好ましい平均繊維径を持つ繊維によって形成される不織布としては、メルトブローン不織布が好ましい。
上述の好ましい平均繊維径を持つメルトブローン不織布としては、例えば、特開2010−125404号公報に記載のメルトブローン不織布を用いることができる。
【0026】
(樹脂)
不織布は、樹脂を含み得る。
不織布に含まれ得る樹脂は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、オレフィン系重合体がより好ましい。
オレフィン系重合体としては、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、4−メチル−1−ペンテン系重合体、1−ブテン系重合体、等の結晶性のオレフィン系重合体が好ましく、プロピレン系重合体がより好ましい。
【0027】
〜エチレン系重合体〜
エチレン系重合体としては、エチレン単独重合体;エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテンランダム共重合体、エチレン・1−ヘキセンランダム共重合体、エチレン・1−オクテンランダム共重合体等);などのエチレンを主体とする重合体が挙げられる。
ここで、「エチレンを主体とする重合体」とは、全構造単位の中で、エチレンに由来する構造単位の含有量(質量%)が最も多い重合体を意味する。
エチレン系重合体のより具体的な例として、高圧法低密度ポリエチレン(いわゆる「LDPE」)、線状低密度ポリエチレン(いわゆる「LLDPE」)、高密度ポリエチレン(いわゆる「HDPE」)等のポリエチレンなどが挙げられる。
【0028】
〜プロピレン系重合体〜
プロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体(例えば、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、等)などのプロピレンを主体とする重合体が挙げられる。
ここで、「プロピレンを主体とする重合体」とは、含有される全構造単位の中で、プロピレンに由来する構造単位の含有量(質量%)が最も多い重合体を意味する。
プロピレン・α−オレフィン共重合体において、α−オレフィンとしては、プロピレン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンから選択される少なくとも1種が好ましい。
プロピレン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン等が挙げられる。
プロピレン系重合体の融点は、155℃以上であることが好ましく、157℃〜165℃であることがより好ましい。
【0029】
〜4−メチル−1−ペンテン系重合体〜
4−メチル−1−ペンテン系重合体としては、4−メチル−1−ペンテンの単独重合体、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体、等の4−メチル−1−ペンテンを主体とする重合体が挙げられる。
ここで、「4−メチル−1−ペンテンを主体とする重合体」とは、含有される全構造単位の中で、4−メチル−1−ペンテンに由来する構造単位の含有量(質量%)が最も多い重合体を意味する。
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体において、α−オレフィンとしては、4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンから選択される少なくとも1種が好ましい。
4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン等が挙げられる。
4−メチル−1−ペンテン系重合体の融点は、耐熱性の面から、210℃〜280℃であることが好ましく、230℃〜250℃であることがより好ましい。
4−メチル−1−ペンテン系重合体のビカット軟化点(ASTM1525)は、耐熱性の面から、140℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましい。
4−メチル−1−ペンテン系重合体の融点及びビカット軟化点は、それぞれ、4−メチル−1−ペンテンと共重合させるモノマーの種類や量によって適宜調整され得る。
【0030】
〜1−ブテン系重合体〜
1−ブテン系重合体としては、1−ブテン単独重合体、1−ブテン・α−オレフィンランダム共重合体などの1−ブテンを主体とする重合体が挙げられる。
ここで、「1−ブテンを主体とする重合体」とは、含有される全構造単位の中で、1−ブテンに由来する構造単位の含有量(質量%)が最も多い重合体を意味する。
【0031】
樹脂(例えばオレフィン系重合体)の溶融粘度(メルトフローレート;MFR)については、溶融紡糸して不織布としうる限りにおいて特に限定は無く、製造適性、含浸加工性、機械的強度等を勘案して適宜選択できる。
例えば、プロピレン系重合体の、温度230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートとしては、10g/10分〜4000g/10分が好ましく、15g/10分〜2000g/10分がより好ましい。
また、4−メチル−1−ペンテン系重合体の、温度260℃、5kg荷重で測定されるメルトフローレートとしては、100g/10分〜1000g/10分が好ましく、100g/10分〜1000g/10分がより好ましい。
【0032】
これらオレフィン系重合体の中でも、プロピレン系重合体及び4−メチル−1−ペンテン系重合体は、耐熱性に優れるので好ましい。中でも、プロピレン系重合体が特に好ましい。
【0033】
また、本実施形態における不織布を製造する際には、原料として低いメルトフローレート(好ましくは1g/10分〜10g/10分)の樹脂を用い、押出機内等での溶融時に高温でデグラデーションさせることにより、この樹脂のメルトフローレートを好ましい範囲に調整することも可能である。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、オレフィン系重合体以外にも、ポリエステル、ポリアミド等の縮合系樹脂;セルロース等の極性樹脂;等も挙げられる。
【0035】
(その他の成分)
不織布は、必要に応じ、樹脂以外のその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料、染料、天然油、合成油、ワックス等の添加剤を例示できる。
【0036】
不織布は、一般に、樹脂(又は、樹脂及びその他の成分を含む樹脂組成物)を紡糸(例えば、溶融紡糸、湿式紡糸等)することによって得ることができる。
例えばメルトブローン不織布は、公知のメルトブローン法によって得られる。
メルトブローン不織布は、例えば、原料となる熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸ノズルから吐出するとともに、高温高圧ガスにさらすことによって繊維化し、繊維化された熱可塑性樹脂をコレクター(多孔ベルト、多孔ドラムなど)に捕集し、堆積することによって製造され得る。この場合の各製造条件は、必要とするメルトブローン不織布の厚さや繊維径などによって適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、高温高圧ガスの速度(吐出風量)としては、4Nm/分/m〜30Nm/分/mが好ましい。また、紡糸ノズルの吐出口からコレクターの捕集面までの距離としては、3cm〜55cmが好ましい。また、コレクターとして多孔ベルトを用いる場合、多孔ベルトのメッシュ幅としては、5メッシュ〜200メッシュが好ましい。
【0037】
また、不織布は、コロナ処理等によって表面処理されていてもよい。
これにより、不織布と導電性高分子との密着性がより向上し得る。また、導電性高分子を含有する液体を用いて導電性不織布を製造する場合には、不織布の繊維表面に対する上記液体の濡れ性をより向上させることができる。
【0038】
<導電性高分子>
本実施形態において、導電性高分子には特に制限はないが、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、等を用いることができる。
中でも、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、「PEDOT」ともいう)が好ましく、PEDOTにPSS(ポリ4−スチレンスルファネート)をドープしたPEDOT−PSSがより好ましい。
PEDOT−PSSとしては、例えば、国際公開第2013/073673号に記載されたPEDOT−PSSを用いることができる。
【0039】
〔導電性不織布の製造方法〕
本実施形態の導電性不織布を製造する方法には特に制限はないが、以下で説明する、本実施形態の製造方法が好ましい。
本実施形態の製造方法は、上述した不織布に上述した導電性高分子を含む液体を塗布することにより、上記不織布に上記導電性高分子を付着させる付着工程を有する。
【0040】
付着工程は、上記不織布に上記導電性高分子を含む液体を塗布することにより、上記不織布に上記導電性高分子を付着させる工程である。
ここで、「塗布」の概念には、浸漬塗布(ディップコーティング)、噴霧塗布(スプレーコーティング)、回転塗布(スピンコーティング)、スリット塗布、カーテン塗布、等の公知の態様が包含される。
また、付着工程は、不織布に塗布された導電性高分子を含む液体を乾燥させる操作を含んでいてもよい。
上記乾燥は、送風による乾燥、加熱による乾燥、又はこれらの組み合わせ等の公知の手法によって実施することができる。
また、付着工程では、塗布及び乾燥の操作を複数回繰り返すことにより、上記不織布に上記導電性高分子を付着させてもよい。
【0041】
導電性高分子を含む液体としては、導電性高分子を含む溶液、導電性高分子を含む分散液、等が挙げられるが、導電性高分子を含む溶液が好ましい。
導電性高分子を含む液体における溶媒としては、水、エタノール、プロピルアルコール等が挙げられる。導電性高分子を含む液体は、溶媒を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
導電性高分子を含む液体における、導電性高分子の含有量は、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.2質量%〜5質量%がより好ましい。
【0042】
付着工程の詳細については、国際公開第2013/073673号の記載を適宜参照できる。
【0043】
本実施形態の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を少なくとも1工程有していてもよい。
その他の工程としては、
付着工程の前に設けられ、導電性高分子を含む液体が塗布される前の不織布に対し、コロナ処理等の表面処理を施す表面処理工程;
付着工程後に設けられ、導電性高分子を上記導電性不織布以外の不織布と積層させることにより、導電性不織布からなる層と上記導電性不織布以外の不織布からなる層とを備える不織布積層体を得る積層工程;
付着工程後に設けられ、上記導電性不織布(又は上記不織布積層体)の一部分を切り出す切り出し工程;
等が挙げられる。
切り出し工程では、切り出された一部分(以下、「導電性不織布部材」ともいう)の長手方向と、不織布の機械方向(MD方向)と、のなす角度が、好ましくは0°〜70°、より好ましくは0°〜60°、更に好ましくは0°〜45°、更に好ましくは0°〜15°、特に好ましくは0〜10°となるように、導電性不織布部材を切り出すことが好ましい。
切り出し工程では、導電性不織布部材を一つのみ切り出してもよいし、複数切り出してもよい。
【0044】
〔不織布積層体〕
本実施形態の導電性不織布は、上記導電性不織布以外の不織布と積層させることにより、不織布積層体として用いてもよい。
即ち、本実施形態の不織布積層体は、上述した本実施形態の導電性不織布からなる層と、上記導電性不織布以外の不織布からなる層と、を備える。
上記導電性不織布以外の不織布としては、スパンボンド不織布が好ましい。
本実施形態の不織布積層体の具体的な態様としては、
・「本実施形態の導電性不織布(好ましくはメルトブローン不織布を用いた導電性不織布)からなる層/スパンボンド不織布からなる層」の層構成を有する態様、
・「スパンボンド不織布からなる層/本実施形態の導電性不織布(好ましくはメルトブローン不織布を用いた導電性不織布)からなる層/スパンボンド不織布からなる層」の層構成を有する態様、
等が挙げられる。
【0045】
〔生体電極、生体信号測定装置〕
本実施形態の導電性不織布は、生体電極として用いることができる。
即ち、本実施形態の生体電極は、上述した本実施形態の導電性不織布を含む。
【0046】
また、本実施形態の導電性不織布は、(例えばセンサーとして)生体電極を備える生体信号測定装置の生体電極として用いることができる。
即ち、本実施形態の生体信号測定装置は、上述した本実施形態の生体電極を備える。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例1は参考例である。
【0048】
〔実施例1〕
<不織布の製造>
ポリプロピレン樹脂1(融点160℃; 230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート900g/10分; 密度0.910g/cm)を、メルトブローン法により樹脂温度270℃で溶融紡糸し、ウェブフォーマーにて捕集して、不織布としてメルトブローン不織布を得た。
ポリプロピレン樹脂1は、プロピレン系重合体の一例である。
【0049】
<不織布の測定1>
上記メルトブローン不織布について、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(BET比表面積)
JISZ8830:2013に準拠し、窒素ガスの物理吸着を用いた細孔分布計(Belsorp max、日本ベル株式会社製)により、上記メルトブローン不織布のBET比表面積(BET法による比表面積)(m/g)を測定した。
【0051】
(表面積)
上記メルトブローン不織布のBET比表面積及び質量に基づき、上記メルトブローン不織布の表面積を算出した。
【0052】
(平均繊維径)
電子顕微鏡(日立製作所製S−3500N)を用い、倍率1000倍にて、上記メルトブローン不織布の写真を撮影した。撮影した写真において、任意に繊維100本を選び、各々の繊維の幅(直径)をそれぞれ測定した。繊維100本分の測定結果の平均値を算出し、得られた平均値を平均繊維径(μm)とした。
【0053】
(目付)
上記メルトブローン不織布から、機械方向(MD方向)100mm×横方向(CD方向)100mmの目付測定用試料を10枚切り出し、各目付測定用試料の目付を測定した。目付測定用試料10枚分の測定結果の平均値を算出し、得られた平均値をメルトブローン不織布の目付(g/m)とした。
【0054】
(厚さ(荷重20gf/cm))
上記10枚の目付測定用試料の各々について、目付測定用試料の中央及び四隅の5箇所の厚さを測定した(測定点は合計で50点)。厚さの測定は、荷重20gf/cmの条件で行った。50点の測定結果の平均値を算出し、得られた平均値をメルトブローン不織布の厚さ(mm)とした。
【0055】
(通気度)
メルトブローン不織布から、200mm×200mmの試験片を5枚採取した。
各試験片を通過する空気量(cm/cm/s)を、JIS L1096(2010)のA法(フラジール形法)に準拠してそれぞれ測定し、5枚の試験片における空気量の平均値を求めた。得られた平均値を、メルトブローン不織布の通気度(cm/cm/s)とした。
ここで、各試験片の空気量(cm/cm/s)の測定は、JIS Z8703(試験場所の標準状態)に規定する、温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、フラジール形試験機を用いて行った。
【0056】
(空隙率)
下記式に基づき、上記メルトブローン不織布の空隙率を算出した。
空隙率(%)=〔1−〔目付(g/m)/厚さ(mm)/ポリプロピレン樹脂の密度(g/cm)/1000〕〕×100
【0057】
<不織布のMORc他の測定>
上記メルトブローン不織布について、以下のようにして、分子配向度MOR、基準厚さを0.05mmとしたときの規格化分子配向MORc、及び配向角を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(MOR、MORc)
上記メルトブローン不織布から、このメルトブローン不織布のMD方向を長手方向とする、50mm×40mmの矩形状のサンプルA(不織布のMORc評価サンプル)を切り出した。
次に、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012Aを用い、上記サンプルAの分子配向度MORを測定した。
得られた分子配向度MOR及び後述の「不織布厚さcalc.」に基づき、下記式により、基準厚さを0.05mmとしたときの規格化分子配向MORcを算出した。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
〔tc:基準厚さ(0.05mm)、t:下記不織布厚さcalc.(mm)〕
【0059】
ここで、「不織布厚さcalc.」は、サンプルAの質量(g;実測値)をポリプロピレン樹脂1の密度(密度0.910g/cm)で割ることによりサンプルAの体積を求め、得られたサンプルAの体積をサンプルAの面積(50mm×40mm)で割ることによって求めた。
【0060】
(配向角)
上記MOA−2012Aを用い、上記サンプルAの配向角(°)を測定した。
ここで、配向角(°)は、サンプルAの長手方向と、サンプルAの分子配向の方向と、のなす角度を指す。
【0061】
<導電性不織布の製造>
上記メルトブローン不織布から、このメルトブローン不織布のMD方向を長手方向とする、100mm×20mmの矩形状のサンプルBを切り出した。
次に、切り出したサンプルBの表面の密着性を向上するために、サンプルBのオモテ面及びウラ面について、それぞれ2回ずつコロナ処理を施した。この際、コロナ処理の電力値は、サンプルBが熱的影響で著しく変形しないように調整(最適化)した。
次に、ディップコーターを用い、コロナ処理が施されたサンプルBをPEDOT−PSS溶液(溶媒は水、エタノール、及びプロピルアルコールの混合溶媒;混合溶媒/PEDOT−PSS=100質量部/1質量部)に浸漬し、次いでPEDOT−PSS溶液からサンプルBを一定速度で引き上げた。引き上げたサンプルBを常温で1日乾燥させることにより、サンプルBの両面にPEDOT−PSSコーティング層を備える構成の導電性不織布を得た。
【0062】
<導電性不織布の抵抗値の測定>
以下のようにして、導電性不織布の抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
まず、打ち抜き刃を用い、上記導電性不織布から80mm×20mmの矩形状のサンプルC(抵抗値評価サンプル)を打ち抜いた。この際、導電性不織布(サイズ100mm×20mm)の長手方向と、サンプルC(サイズ80mm×20mm)の長手方向と、が平行となるようにした。
次に、サンプルCの長手方向両端部に、一対の直線状電極を圧接した。この際、サンプルCの長手方向と、各直線状電極の長手方向と、が垂直となるようにした。また、一対の直線状電極の間隔は70mmとした。
次に、LCRメータ(設定:周波数:1kHz、励振電圧:1Vrms)を用い、一対の直線状電極間の抵抗値、即ちサンプルC(導電性不織布)の抵抗値を測定した。
【0063】
〔実施例2〕
不織布の製造において、溶融紡糸時の樹脂温度を300℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例3〕
不織布の製造において、ポリプロピレン樹脂1(融点160℃; 230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート900g/10分; 密度0.910g/cm)を、ポリプロピレン樹脂2(融点155℃; 230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート1500g/10分; 密度0.910g/cm)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
ポリプロピレン樹脂2もプロピレン系重合体の一例である。
【0065】
〔実施例4〕
不織布の製造において、溶融紡糸時の樹脂温度を300℃に変更し、かつ、サンプルA(不織布のMORc評価サンプル)のサイズを50mm×30mmに変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例5〕
各サンプル(サンプルA、サンプルB、及びサンプルC)の長手方向と、メルトブローン不織布のMD方向と、のなす角度を15°に変更したこと以外は実施例4と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0067】
〔実施例6〜8〕
各サンプル(サンプルA、サンプルB、及びサンプルC)の長手方向と、メルトブローン不織布のMD方向と、のなす角度を、30°(実施例6)、45°(実施例7)、及び60°(実施例8)にそれぞれ変更したこと以外は実施例5と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、BET比表面積が0.5m/g以上である不織布と、この不織布に付着している導電性高分子と、を含む実施例1〜8の導電性不織布では、抵抗値が低減されていた。
従って、実施例1〜8の導電性不織布を、皮膚へ接触する生体電極として用いることにより、生体電極の高感度化が期待される。例えば、生体電位信号を送信する際の抵抗が少なくなり、伝送ロスが少なくなり、生体電位信号電圧(S)とノイズ信号電圧(N)との比であるS/N比が向上することが期待される。また、生体電極の更なる小型化又は薄型化の効果も期待される。