特許第6770346号(P6770346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770346
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】有機ELパネル
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20201005BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20201005BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   H05B33/04
   H05B33/14 A
   H05B33/02
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-125931(P2016-125931)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-228510(P2017-228510A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】大内 克哉
【審査官】 小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−087791(JP,A)
【文献】 特開2006−059620(JP,A)
【文献】 特開2015−208960(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/006343(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/136580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H01L 51/50 − 51/56
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の水蒸気バリア性基材で有機EL素子を挟んだ有機ELパネルであって、
少なくともその一方の水蒸気バリア性基材が、
下記(数式1)の水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)を満たす中級バリア性基材で、
平面視、吸湿性粘接着剤層を介して該有機EL素子の全面を覆い、かつ、
該吸湿性粘接着剤層の飽和吸湿時の吸湿量である単位面積当たり飽和吸湿量A(g/m2)と、次の(数式2)の関係を満たす、有機ELパネル。
【数11】
【請求項2】
前記有機EL素子の前記吸湿性粘接着剤層側に、平面視、前記有機EL素子の全面を覆う粘着層を有する、請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項3】
前記有機EL素子と前記粘着層との間に、平面視、前記有機EL素子の全面を覆うSiOxNy無機封止層を有する請求項2に記載の有機ELパネル。
【請求項4】
前記吸湿性粘接着剤層が、平面視、前記有機EL素子を連続的に取り囲む粘接着剤層額縁領域を含み、かつ、
該粘接着剤層額縁領域の幅の内の最も狭い幅である脚長Wが、2mm以上、20mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の有機ELパネル。
【請求項5】
他方の水蒸気バリア性基材が、ガラス板である、請求項1〜4のいずれかに記載の有機ELパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELパネルに関し、特に特定の水蒸気透過率Bの中級バリア性基材を含む有機ELパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は水分に対して劣化しやすく一般に実用的な寿命を得るためには極度に低い水蒸気透過率の高級バリア性基材での封止が必要と言われている。このため、従来はガラス板や金属板が封止基材として使用されてきた。
【0003】
一方、軽く薄く、より好ましくは可撓性の有機ELパネルを提供することが産業界に求められており、このような有機ELパネルの提供には、封止基材を、樹脂フィルムを用いたものとする必要がある。
【0004】
ところが、樹脂フィルムを用いた封止基材を、前記高級バリア性基材としようとすると、一般に、その面内法線方向の水蒸気透過速度が無視できる程度に小さい、ガラス、金属、無機化合物等の水分を透過しない材料を含み、かつ、これら材料が少なくとも連続する水分不透過層として内在せしめた高級バリア性フィルムとする必要があり、その製造には複雑な工程が必要で高価になる為、有機ELパネルの安価製造に不向きであり工業的実用性に欠けるという問題がある。
【0005】
一方で、高級とは言えないまでも一定以下の水蒸気透過速度の安価なバリア性フィルムと吸湿剤を組み合わせて電子素子を封止する試みも提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、高い水蒸気透過率のバリア性フィルムと吸湿剤を含有する樹脂層を用いて有機EL素子より比較的水分に対して劣化し難い無機EL素子を封止することが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、高級バリア性フィルムと、吸湿剤を含む吸湿層とで有機EL素子を封止することが開示されており、当該高級バリア性フィルムの欠陥の個数と、それに対し必要な吸湿層の吸湿剤量との関係が検討されている。
【0008】
さらに、特許文献3にも、バリア性フィルムと吸湿剤を含む吸湿層とで有機EL素子を封止することが開示されている。しかし、例示されているバリア性フィルムは比較的低いバリア性のものであり、かつ、対応する吸湿層の吸湿剤量も少なく、有機EL素子の封止用としては不十分と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−059620号公報
【特許文献2】国際公開WO2015/136580号パンフレット
【特許文献3】特開2015−208960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような現状を鑑み為された本発明は、水分に対して劣化し易い有機EL素子を含む有機パネルを、工業的に比較的容易に製造が可能かつ安価な中級バリア性フィルムを用いて封止しても、十分な封止性能及び工業実用性を有する有機ELパネルを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題に対し、本発明者は中級バリア性フィルムを用いた有機EL素子の封止方法について鋭意検討の結果、当該中級バリア性フィルムの特性と一定の関係を満たす吸湿性粘接着剤層を用い、特定の構造の有機ELパネルとすることで、前述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
2枚の水蒸気バリア性基材で有機EL素子を挟んだ有機ELパネルであって、
少なくともその一方の水蒸気バリア性基材が、
下記(数式1)の水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)を満たす中級バリア性基材で、
平面視、吸湿性粘接着剤層を介して該有機EL素子の全面を覆い、かつ、
該吸湿性粘接着剤層の飽和吸湿時の吸湿量である単位面積当たり飽和吸湿量A(g/m2)と、次の(数式2)の関係を満たす、有機ELパネルに関する。
【0013】
【数1】
【0014】
また、前記有機EL素子の前記吸湿性粘接着剤層側に、平面視、前記有機EL素子の全面を覆う粘着層を有することが好ましく、不点灯の発生やダークスポットの拡大を抑制できる。
【0015】
また、前記吸湿性粘接着剤層は、前記粘着層でもあることが好ましく、別材料により当該粘着層を形成する必要が無く、封止用の当該吸湿性粘接着剤層に、粘着層そのものの機能を担わせることが可能なので、構成単純かつ原料コストが低減されたパネルとなる。
【0016】
また、前記有機EL素子と前記粘着層との間には、平面視、前記有機EL素子の全面を覆うSiOxNy無機封止層を有することが好ましく、本発明に係る吸湿性粘接着剤層/中級バリア性基材による封止を、水分存在雰囲気で実施しても、短時間であれば、有機EL素子は当該無機封止層で一時的に封止されているので、実生産可能かつ安価に製造でき、更には、いずれも前述の不点灯の発生やダークスポットの拡大をパネル実使用時に抑制でき、即ち、安価かつ高信頼性のパネルを提供できる。
【0017】
また、前記吸湿性粘接着剤層は、平面視、前記有機EL素子を連続的に取り囲む粘接着剤層額縁領域を含み、かつ、該粘接着剤層額縁領域の幅の内の最も狭い幅である脚長Wが、2mm以上であることが好ましく、発光領域の縮小が抑制されたパネルとなる。
【0018】
また、他方の水蒸気バリア性基材は、ガラス板、又は前記中級バリア性基材であることが好ましく、ガラス板の場合には高機械的強度かつ高効率のパネルとなり、中級バリア性基材の場合には可撓性のパネルとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機ELパネルは、工業的に比較的容易に製造が可能かつ安価な中級バリア性フィルムを用いても、十分な封止性能、及び工業実用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】封止構造として全面接着構造を採用した場合の有機ELパネルの構造の一例を示す模式的断面図である。
図2】封止構造としてダムフィル構造を採用した場合の有機ELパネルの構造の一例を示す模式的断面図である。
図3】実施例1、実施例2、及び実施例3の有機ELパネルの模式的断面図である。
図4】実施例4の有機ELパネルの模式的断面図である。
図5】実施例5の有機ELパネルの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
(有機ELパネル)
本発明の有機ELパネルは、一方、及び他方の2枚の水蒸気バリア性基材で有機EL素子を挟んだ構造を含み、場合によって好ましくは、当該有機EL素子と当該一方の水蒸気バリア性基材との間に、無機封止層を含み、好ましくは、当該有機EL素子と当該一方の水蒸気バリア性基材との間に、粘着層を含み、前記他方の水蒸気バリア性基材を素子形成基板として、当該素子形成基板上に形成した有機EL素子を、封止基材である前記一方の水蒸気バリア性基材で封止したものとすることが好ましく、他方の水蒸気バリア性基材は、透光性絶縁基板であることが、より好ましい。
【0023】
このような本発明の有機ELパネルは、その前記一方の水蒸気バリア性基材について、
その水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)が、下記(数式1)を満たす、即ち、0.005より大きいこと、言い換えれば、一方の水蒸気バリア性基材が中級バリア性基材であることを一つの特徴とする。
【0024】
【数2】
【0025】
また、本発明の有機ELパネルは、平面視、前記有機EL素子の全面を覆う特定の吸湿性粘接着剤層を介して、前記一方の水蒸気バリア性基材が、前記他方の水蒸気バリア性基材上に載置されていることを一つの特徴とする。
【0026】
さらに、本発明の有機ELパネルは、その前記吸湿性粘接着剤層が、その飽和吸湿時の吸湿量として、単位面積当たり飽和吸湿量A(g/m2)を有するとして、前記一方の水蒸気バリア性基材の前記水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)と一定の関係、即ち、下記(数式2)を満たすことを一つの特徴とする。
【0027】
【数3】
【0028】
(水蒸気バリア性基材)
本発明に係る水蒸気バリア性基材は、面状の基材であって、一定の水蒸気バリア性を有するものであれば、各種材料からなるものを用いることができる。
【0029】
具体的には、ガラス板、薄膜ガラスシート、金属板、金属箔、プラスチック板、プラスチックフィルム、前述の水分不透過層を含む水分バリア層を設けたプラスチックフィルム(バリアフィルム)等が挙げられる。
【0030】
金属箔としては、具体的にはアルミ箔、銅箔等を用いることができ、これらの金属箔はプラスチックフィルム等と積層されていてもよい。
【0031】
プラスチックフィルムとしては、種々のものが使用でき、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、メチルペンテンや、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類等のシクロオレフィン類の重合体あるいは共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12の重合体や共重合等の等ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の含塩素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、ポリビニルブチラート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、セルロース樹脂、アセチルセルロール樹脂、ポリウレタン樹脂あるいはこれらの樹脂の共重合体等の樹脂からなるフィルムが例示される。
【0032】
これらのプラスチックフィルムは単独のフィルムであってもよいし、複数のフィルムが積層されていてもよい。
【0033】
また、これらのプラスチックフィルムには、水蒸気バリア性を向上させる等のために、各種の添加材が混合されていてもよい。添加材としては、各種有機無機フィラーが例示される。フィラー自身の水分透過性が低くバリア性を向上しやすいという点では無機フィラーであることが好ましく、無機フィラーとしては、ガラス、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボン、タルク、マイカ、層状ケイ酸塩等を例示できる。これらのフィラーは繊維状であっても粉末状であってもよい。これらの中で、タルク、マイカ、層状ケイ酸塩等は扁平状の形状を有するためガスバリア性を向上しやすく好ましい。
【0034】
プラスチックフィルムとしては透明であっても不透明であってもよいが、後述する吸湿性粘接着剤として光硬化型の粘接着剤を適用しやすいという点では透明であることが好ましい。
【0035】
プラスチックフィルムの厚さとしては特に限定されないが、高いガスバリア性が得られやすいという点では厚い方が好ましく、具体的には50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。また、フレキシブル性が高く得られる有機ELパネルの実用性が高くなりやすいという点においては、薄いほうが好ましく、具体的には100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
バリアフィルムとしては、前記したような各種バリアフィルムの表面あるいは内部に水分バリア層を設けたものを例示できる。
【0037】
プラスチックフィルムの表面に形成されるバリア層の例としては、CVD等の蒸着やスパッタによって形成された、窒化ケイ素、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化インジウムスズ、酸化インジウム酸化亜鉛等の金属酸化物の層、あるいはアルミニウム等の金属の層が挙げられる。
【0038】
また、プラズマ重合、パリレンポリマー蒸着等により形成した樹脂層でもよい。
【0039】
また、金属アルコキシド、金属カルボキシレート、ポリシラザン、シルセスキオキサン等の金属酸化物の前駆物質を各種塗布方法にて塗布した後、加熱、紫外線照射、酸素プラズマ処理等により形成した金属酸化物等の層でもよい。
【0040】
また、各種樹脂を各種塗布方法にて塗布して形成した樹脂層であってもよい。
【0041】
また、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、層状ケイ酸塩等の無機層状物やその分散液を塗布して形成した層であってもよい。
【0042】
さらに、これらのバリア層は前記したようにプラスチックフィルムの表面等に直接形成したものでもよいが、基材となる樹脂フィルム、シートとは別に形成した層を、基材となるプラスチックフィルムの表面等に転写、貼付したものでもよい。
【0043】
これらのバリア層は単独の層であってもよいし、これらを組み合わせる等した複数の層であってもよい。
【0044】
また、バリア層は樹脂組成物フィルム、シートの片面に形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよいし、内部に形成されていてもよい。
【0045】
バリアフィルムとしては透明であっても不透明であってもよいが、後述する吸湿性粘接着剤として光硬化型の粘接着剤を適用しやすいという点では透明であることが好ましい。
【0046】
(一方の水蒸気バリア性基材)
本発明に係る一方の水蒸気バリア性基材は、下記(数式1)の水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)を満たす中級バリア性基材であれば、種々のものを用いることができ、好ましくは、前述したように封止基材として用いられる。
【0047】
【数4】
【0048】
このような中級バリア性基材としては、その部材コストを安価なものとし、また、軽く薄く、より好ましくは可撓性の有機ELパネルを提供できるという点においては、各種プラスチックフィルム、バリアフィルムであることが好ましい。
【0049】
このような中級バリア性基材としては、水蒸気透過率Bがより大きい方が、一般に、より工業的に製造し易く、従って、安価部材となるので、そのような観点において、B≧0.005であることが好ましく、B≧0.01であることがより好ましく、B≧0.05であることがさらに好ましい。一方、水蒸気バリア性が高く得られるデバイスの信頼性が高くなり易いという点においては、水蒸気透過率Bが低いことが好ましく、B≦1であることが好ましく、B≦0.1であることがより好ましくB≦0.05であることがさらに好ましい。
【0050】
ここで言う水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)は、40℃、相対湿度90%の条件で測定した水蒸気透過率(g/m2・day)であり、従来公知の各種の方法で測定することができる。具体的には、「バリア技術」(永井一清編著、バリア研究会監修、共立出版(2014))に記載されている各種の方法が適用できる。
【0051】
このような本発明に係る一方の水蒸気バリア性基材は、本発明に係る十分な封止性能を確保する観点から、本発明の有機ELパネルにおいて、平面視、本発明に係る吸湿性粘接着剤層を介して、有機EL素子の全面を覆うこと、及び、当該吸湿性粘接着剤層の単位面積当たり飽和吸湿量Aと一定の関係を有することを要する。
【0052】
(吸湿性粘接着剤層)
本発明に係る吸湿性粘接着剤層は、後述する本発明に係る吸湿性粘接着剤が、硬化した層、又は、当該吸湿性粘接着剤の粘度が維持された層であり、その飽和吸湿時の吸湿量であり、かつ、その厚さに比例する、単位面積当たり飽和吸湿量A(g/m2)が、前記一方の水蒸気バリア性基材の水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)と、下記(数式2)の関係を満たすことを要する。
【0053】
【数5】
【0054】
ここで、得られる有機ELパネルの信頼性が高くなりやすいという点においては、さらにA/Bの値は200以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1000以上であることがさらに好ましく、1500以上であることが特に好ましい。
【0055】
前記吸湿性粘接着剤は、吸湿性を有する粘接着剤であり、具体的には例えば、吸湿剤を含有する、粘接着剤、即ち、粘着剤、及び/又は、接着剤を例示することができる。
【0056】
このような粘接着剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、液状硬化型接着剤や、ホットメルト型接着剤、各種粘着剤などが例示される。
【0057】
これらの内、基板、ガラスキャップ、金属缶、封止板などの水蒸気バリア性基材表面との密着性が高くなり易いという点で、液状硬化型接着剤が好ましい。
【0058】
液状硬化型接着剤のベース樹脂としては、液状で硬化可能な樹脂で、固定化物質を含有分散させることができ、固定化物質による水分の固定化を妨げないものであれば種々のものを用いることができる。具体的には、反応性シリコーン樹脂、反応性変性シリコーン樹脂、反応性液状アクリル樹脂、反応性液状炭化水素樹脂、反応性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0059】
液状硬化型接着剤の硬化形式としては種々の形式を用いることが可能であり、具体的には、紫外線硬化等の光硬化、熱硬化等の形式を挙げることができる。また電子素子の耐熱性が低い場合もあるので、この点においては紫外線硬化等の光硬化が好ましい。
【0060】
また、このような接着剤の種類としては、固定化物質を含むホットメルト型の接着剤も好ましい一例である。ホットメルト型接着剤は、加熱により液状となり、水蒸気バリア性基材と密着でき、冷却により硬化する為、固定化物質の流動を抑制できる。
【0061】
ホットメルト型接着剤のベース樹脂としては、常温で実質的に流動性を有さず、かつ、加熱により流動性を有する樹脂であれば、各種のものを用いることができる。
【0062】
具体的には、アクリル系、炭化水素系などの熱可塑性エラストマー類、エチレン酢酸ビニル樹脂、イオノマー類などを挙げることができる。
【0063】
このような本発明に係る吸湿性粘接着剤としては、固定化物質を含む粘着剤でもよい。粘着剤は液状ではないが柔軟であるためにバリア基材と密着しやすく、液状ではないので固定化物質の流動も抑制でき、さらに、有機EL素子内に欠陥が生じた場合に、当該欠陥部における本発明に係る粘着層側に剥離した有機EL素子を構成する層を介して、当該粘着剤が当該欠陥部に流入することで、絶縁安定化部が構成され、長時間有機ELパネルを発光させた場合に、不点灯発生防止効果を発揮可能である、と考えられ、このような絶縁安定化効果は、本発明に係る特定の無機封止層が存在する場合にも発揮されると考えられる。このような粘着剤の種類としては従来公知の各種のものが用いられ、具体的には、アクリル系、シリコーン系などの粘着剤などが挙げられる。
【0064】
上記したような粘接着剤には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。
【0065】
添加剤としては、接着性付与剤、粘着性付与剤、溶剤、粘度調整剤、反応性希釈剤、硬化触媒、チクソ性付与剤、増粘剤、フィラー、着色剤、分散剤などが挙げられる。
【0066】
吸湿性粘接着剤の作製は、上記したようなベース樹脂、吸湿剤および添加剤などを単に混合するだけでもよいが、吸湿性粘接着剤としては泡を含まない方が好ましいため、脱泡などの処理を加えてもよい。
【0067】
吸湿性粘接着剤の作製は、水分が少ない環境で実施することが好ましい。水分が多い環境では、吸湿性粘接着剤の作製過程で吸湿剤が吸湿して、吸湿剤の機能が失われることがある。
【0068】
ここで、吸湿剤とは、水分との接触により、反応、吸収、吸着などにより水分を捕捉し、水分がさらに移行することを妨げる機能を有するものを用いることができる。具体的には、ゼオライト、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどの水分を吸収、吸着する無機材料類、酸化カルシウム、塩化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチムなどの水分と反応する金属酸化物類、塩化コバルトなどの水分を結晶水として取り込む塩類、金属カルシウムなどの水分と反応する金属類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩、ポリアクリルアミド、セルロースなどの水分を吸収する樹脂類の他、紙、不織布などの水分を吸着する材料も上げることができる。
【0069】
中でも水分との反応性が高いという点ではゼオライトが好ましく、水分との反応性が過度に高くなくて取扱いが容易であるという点では酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウムが好ましく、酸化カルシウムが特に好ましい。
【0070】
このような吸湿性粘接着剤で形成される吸湿性粘接着剤層の飽和吸湿時の吸湿量である単位面積当たり飽和吸湿量A(g/m2)は、例えば次のような方
吸湿性粘接着剤剤1g当たりの飽和吸湿量、即ち、単位飽和吸湿量(−)は、以下の(数式3)に示す計算式により計算することができる。
【0071】
【数6】
【0072】
例えば、本発明に係る吸湿が生じない安定な基材であるガラス板(重量(G))の上に、吸湿性粘接着剤を塗布し、その直後に測定した重量が重量(BG)であったとして、この試験片を、水分を含む一定環境に保管し、その重量増加量を調べ、この重量増加が無くなった時点での重量を重量(AG)とした場合に、重量BGと重量Gとの差分がBCであり、重量AGと重量Gとの差分がACである。
【0073】
ここで、このような重量増加の飽和がもたらされる状況としては、吸湿剤として酸化カルシウムを含有する製造例1の吸湿性粘接着剤について、その層の厚みが100μm程度以下である場合には、23℃/50%RHの環境で保管し、300時間後を例示することができる。
【0074】
このような単位飽和吸湿量につき、後述する実施例で用いた製造例1の吸湿性粘接着剤の値を、前述で例示した状況に基づき測定し、前記(数式3)を用いて計算した結果、0.08(−)であった。
【0075】
一方、製造例1の封止粘接着剤の比重を測定すると、1.15(g/cm3)であった。
【0076】
このような吸湿性粘接着剤層の比重、単位吸湿量、及び吸湿性粘接着剤層の体積から、下記(数式4)に示す計算式により、固定化した水分の量を計算することができる。
【0077】
【数7】
【0078】
ここで、単位飽和吸湿量は、前記した方法で測定することもできるが、より簡易的には、吸湿剤の飽和吸湿量(−)と、吸湿粘接着剤中の吸湿剤の含有量(−)とから計算で求めることもできる。この場合の計算例は以下の(数式5)のとおりである。
【0079】
【数8】
【0080】
前記したような吸湿性粘接着剤層の厚さは、用いる水蒸気バリア性基材の水蒸気透過率B(g/m2・day@40℃/90%RH)と、用いる吸湿性粘接着剤層の飽和吸湿時の吸湿量である単位面積当たり飽和吸湿量A(g/m2)が、次の(数式2)の関係を満たすように設定することができる。
【0081】
【数9】
【0082】
このような本発明に係る吸湿性粘接着剤層の厚さは、吸湿性粘接着剤層の単位面積当たり飽和吸湿量Aが高くなりやすいという点においては厚い方が好ましく、具体的には、吸湿性粘接着剤層の厚さは10μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。一方、得られる有機ELパネルが薄くフレキシブル性が高くなりやすいという点においては、吸湿性粘接着剤層の厚さは薄い方が好ましく、具体的には、吸湿性粘接着剤層の厚さは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることがさらに好ましい。
【0083】
このような本発明に係る吸湿性粘接着剤層は、有機ELパネルに十分な封止性能を付与せしめる観点から、平面視、有機EL素子を連続的に取り囲む粘接着剤層額縁領域を含むことが好ましく、当該粘接着剤層額縁領域幅の内の最も狭い幅である脚長Wは、2mm以上であることが好ましく、逆に、パネル内における発光領域の面積比率を大きくする観点から、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることが、より好ましい。
【0084】
また、このような本発明に係る吸湿性粘接着剤層は、後述する粘着層を兼ねることが好ましく、パネル製造の為の、部材点数を少なくできるので、コストダウンでき、かつ、生産性が向上する。
【0085】
(粘着層)
本発明に係る粘着層は、前記有機EL素子の前記吸湿性粘接着剤層側に、好ましく配置せしめられる層であって、場合によって、より好ましくは、前記有機EL素子上の後述する無機封止層との間に配置せしめられ、好ましくは、平面視、有機EL素子、即ち、当該素子の発光領域の全面を覆い、より好ましくは、当該無機薄膜封止層に接して設けられる。
【0086】
このような本発明に係る粘着層を構成する材料としては、本発明に係る吸湿性粘接着剤層を構成する場合がある材料として前述した粘着剤を挙げることができ、ゴム系、アクリル系、シリコーン系の粘着剤が挙げられるが、前記絶縁安定化部形成効果の観点から、アクリル系の粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤は電子部品用の粘着剤として広く利用されガスの発生も少なく長期使用でも安定していることが知られている。
【0087】
ここで、接着剤、及び粘着剤の定義としては、接着剤が「使う前は液体で、貼り付けると固体になる」のに対し、粘着剤は「液体と固体の両方の性質を持ち、常に濡れた状態を安定して保っている」という違いがある。特に応力緩和効果、即ち、耐押圧特性を得るためにはこの粘着性が重要である。また、封止効果の観点、特にその長期信頼性の観点からも、前記粘着剤層の存在は重要であり、粘着剤層であるからこそ、本発明に係る、有機EL素子との界面、好ましくは無機封止層との界面の密着性が長期に亘って維持できるのであり、当該界面で一時的剥離が発生したとしても、粘着剤であれば、前記密着性を回復できる。これに対し、接着剤層では、一度剥離してしまえば、密着性が回復することは無い。
【0088】
粘着剤材料としては、粘弾性パラメーターが一定範囲内の粘着剤が好ましい。即ち、本発明のパネルが実際に使用され、また、保管される温度範囲0〜50℃において、周波数1Hzで測定した貯蔵弾性率が103Pa以上、106Pa以下であり、かつ、損失弾性率が貯蔵弾性率測定値の0.02〜0.2倍であることが好ましく、より好ましい貯蔵弾性率は104Pa以上、105Pa以下である。
【0089】
なお、粘弾性率の虚数項が損失弾性率であり、粘着剤で貼り付けた場合の粘着点のズレに関するものであるが、粘着剤ではその値が貯蔵弾性率の0.02〜0.2倍前後の値となるのに対して、接着剤ではこの数字が極めて小さい値となることが知られている。本発明に係る粘着剤層に代え、接着剤であるエポキシ樹脂を用いた場合、接着剤であるエポキシ樹脂の硬化に起因し素子が破壊され、ショートにより発光しない、不点灯が発生する場合がある。
【0090】
このような粘着点のズレに関する損失弾性率は、このような不点灯抑制効果に大きく関係する。即ち、素子に応力を加えられた時に、一定の損失弾性率を有する粘着剤からなる層では、粘着点のズレが適度に生じて、応力を分散させつつ、無機封止層との密着性は維持され、かつ、素子の破壊までには至らない。これに対して、このような粘着剤層に代えて接着剤層を用いた場合には、ズレが生じないので、応力は分散されず、密着性が失われたり、応力が直接かかることにより素子部分が破壊されたりすることとなる。
【0091】
(保護層(無機封止層))
本発明の有機ELパネルにおいては、有機EL素子上に保護層等を設けることもできる。保護層の材料としては、SiO、SiN、各種金属等の無機膜や、プラズマ重合、パリレンポリマー蒸着等により形成した樹脂層、即ち、パリレン、プラズマポリマー等の有機膜や、金属アルコキシド、金属カルボキシレート、ポリシラザン、シルセスキオキサン等の金属酸化物の前駆物質を各種塗布方法にて塗布した後、加熱、紫外線照射、酸素プラズマ処理等により形成した金属酸化物等の層、それらの複合膜等が例示される。また、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂等の炭化水素樹脂、各種エラストマー等の有機樹脂を塗布した樹脂膜を保護層としてもよい。これらの保護層は有機EL素子を水分や物理応力から保護することができ、有機ELパネルの信頼性が高められるという点では設けられていることが好ましい。
【0092】
このような保護層の好ましい実施態様である、本発明に係る無機封止層は、前記吸湿性粘接着剤層と、前記有機EL素子との間、より好ましくは当該有機EL素子上にこれと接し、さらに好ましくは、有機EL素子と前記粘着層との間に配置される層であり、好ましくは、平面視、有機EL素子、即ち、当該素子の発光領域の全面を覆う。
【0093】
このような無機封止層の材料としては、十分な水蒸気バリア性を発揮せしめ得られる有機ELパネルの信頼性が高くなりやすいというる観点から、CVD等の蒸着やスパッタによって形成された、窒化ケイ素、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化インジウムスズ、酸化インジウム酸化亜鉛等の金属酸化物の層、あるいはアルミニウム等の金属の層等の無機物を例示することができ、好ましくは、SiOxNyで表される酸化、及び/又は、窒化珪素であり、フレキシブルパネルとする観点から、無機薄膜であることがより好ましく、前記珪素系材料をCVD法で形成した薄膜を含むことがさらに好ましく、特に好ましくは、前記CVD法珪素系材料薄膜の上に、湿式法珪素系材料膜を形成した、多層膜とすることであり、当該湿式法珪素系材料膜は、ポリシラザン転化膜であることが好ましく、これらのCVD法、及び湿式法の珪素系材料膜の平均膜みとしては、0.5μm以上、5μm以下であることが好ましい。
【0094】
(有機EL素子)
本発明に係る有機EL素子は、陽極層及び陰極層の間に、有機化合物を含み、かつ、発光層を含む有機機能層が挟持されてなる発光デバイスであり、これらの層の重畳部分が当該素子であり、外部から各々の取出し電極を介し、陽極層及び陰極層に給電することで発光する。本発明の有機ELパネルにおいては、本発明に係る、一方、及び他方の、水蒸気バリア性基材により挟持されてなり、一般に公知の有機EL素子が適用される。
【0095】
具体的には、有機EL素子としては、陽極層、発光層を含み、かつ、有機化合物を主成分とする有機機能層、及び陰極層が順に積層された構造を有するものが例示される。
【0096】
有機機能層は一般的例えば、陽極層側から、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層といった多層構造を有し、これらの層以外にも、電荷発生層を含む接続層や、電荷ブロック層等が含まれていても良い。各層は単独の有機化合物で形成されていてもよいが、複数化合物の混合物として形成されていてもよい。混合物の場合の一例として、ホスト化合物にゲスト化合物をドープして形成されていてもよい。
【0097】
前記陽極層は、好ましくは、後述する素子形成基板である透光性絶縁基板、より好ましくはガラス基板側に形成され、さらに好ましくは、その材料が透明導電性金属酸化物であり、特に好ましくは、陽極層への前記給電に係る陽極取出し電極となる部分を含む当該材料の膜に含まれる陽極層である。
【0098】
このような透明導電性金属酸化物の材料としては、ITOやIZOを例示することができ、その平均厚みとしては1μm以下が好ましく、このような材料の薄膜はCVD法やPVD法等の真空蒸着法によって形成することができる。
【0099】
前記陰極層は、光反射性、及び導電性を有しているものが好ましく、より好ましくは、銀、又は、アルミニウムの薄膜を含む層であり、さらに好ましくは、陰極層への前記給電に係る陰極取出し電極となる部分を含む当該材料の薄膜に含まれる。
【0100】
有機EL素子としては、有機EL照明、各種サイネージ、パッシブディスプレイ等に用いられるようなパッシブ駆動タイプであってもよく、有機ELディスプレイに用いられるような駆動回路を有するアクティブ駆動タイプであってもよい。また、発光方向も陽極側から光を取出してもよいし、陰極側から光を取出してもよく、ボトムエミッション方式でも、トップエミッション方式でもよい。
【0101】
(他方の水蒸気バリア性基材)
本発明に係る他方の水蒸気バリア性基材は、好ましくは、その上に有機EL素子が形成される素子形成基板であり、より好ましくは、透光性絶縁基板であり、さらに好ましくは、ガラス板、又は、透明中級バリア基材である。
【0102】
このような他方の水蒸気バリア性基材としては、特に限定されず、一般公知の各種基材を用いることができるが、例えば、ガラス板、薄膜ガラスフィルムなどのガラス類、セラミック板、アルミ板、銅板、ステンレス版、スチール板などの金属板、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、スチール箔などの金属箔、各種プラスチックフィルムやラミネートシートなどが挙げられる。これらの基材は必要に応じ積層されていてもよく、例えば各種ハードコート、絶縁層、平坦化層、保護層、光取出し層、水分バリア層などが積層されていてもよい。
【0103】
このような他方の水蒸気バリア性基材としては、水蒸気バリア性を有するものであることが好ましく、水分を透過しやすいものであると、他方の水蒸気バリア性基材からの水分浸透が優先することとなる。具体的には、ガラス板、薄膜ガラスフィルム、セラミック板、金属板、金属箔、水分バリア層を設けたプラスチックフィルム(バリアフィルム)が好ましい。
【0104】
この内、バリアフィルムとしては、40℃、相対湿度90%の条件で測定した水蒸気透過率(WVTR)が10-2g/m2・day以下であることが好ましく、10-3g/m2・day以下であることがより好ましく、10-4g/m2・day以下であることがさらに好ましく、10-5g/m2・day以下であることが最も好ましい。
【0105】
また、このような他方の水蒸気バリア性基材は透明であることが好ましく、基材方向からの粘接着剤層の性状変化の観察が可能となり、また、高効率かつ安価なボトムエミッション型有機ELパネル、特に、照明用の有機EL照明パネルが好適に得られる。
【0106】
(封止構造)
本発明の有機ELパネルに適用される封止構造としては、好ましくは、前記一方の水蒸気バリア性基材が、平面視、前記吸湿性粘接着剤層を介して有機EL素子の全面を覆う構造であればよく、従来知られている種々の構造とすることができる。
【0107】
具体的には、図1に示すように、素子形成基板1上に形成した有機EL素子2上に、一方の水蒸気バリア性基材3である封止基材3を吸湿性粘接着剤層4で全面接着した全面接着構造とすることも可能である。この場合、有機ELパネルの製造が簡易であり、工業的に有利である。また、この封止構造は、フレキシブルデバイスにも適用可能である。
【0108】
また、封止構造としては、図2に示すようなダムフィル構造とすることも可能である。この封止構造もフレキシブルデバイスに適用可能である。
【0109】
ダムフィル構造の場合のダム5については、各種粘接着剤が適用できる。具体的にはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂等の炭化水素樹脂等を例示することができる。ダムには吸湿剤を含有してもよく、吸湿剤を含有することで得られる有機ELパネルの信頼性が高くなりやすい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
(吸湿性粘接着剤の製造例1)
アクリロイル基を末端に有する数平均分子量10000のポリイソブチレン100重量部、炭化水素樹脂(荒川化学工業製、アルコンP―100)66.7重量部、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1
−オン(BASF製 DAROCURE1173)0.2重量部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製 IRGACURE819)0.1重量部、および酸化カルシウム粉末(宇部マテリアルズ製、UPC−B01)50.0重量部を、120℃に加熱しながら混合し、水分を固定化可能な固定化物質として酸化カルシウムを含有する光硬化型の吸湿性粘接着剤を得た。この吸湿性粘接着剤の比重は1.15(g/cc)であった。
【0112】
このようにして製造した製造例1の光硬化型吸湿性接着剤について、その飽和吸湿量(−)を、以下のようにして求めた。
【0113】
まず、重量(G)を測定した50mm×50mm×0.7mmのガラス板上に、製造例1の光硬化型吸湿性接着剤を塗布し、直後に、この試験片の重量(BG)を測定した。
【0114】
次に、この試験片を、23℃/50%RHの雰囲気で保管し、その重量変化を調べた。重量は徐々に増加し、300時間後にほぼ一定の重量(AG)となり、飽和吸湿に至ったとみなせる状態になった。
【0115】
最後に、ここで得られた値から、下記(数式6)及び前記(数式3)を用い、製造例1の光硬化型吸湿性接着剤の飽和吸湿量(−)を求めたところ、0.08(−)であった。
【0116】
【数10】
【0117】
(吸湿性粘接着剤の製造例2)
アクリロイル基を末端に有する数平均分子量10000のポリイソブチレン100重量部、イソステアリルアクリレート50重量部、炭化水素樹脂(荒川化学工業製、アルコンP―100)100重量部、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(BASF製 DAROCURE1173)0.2重量部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製 IRGACURE819)0.1重量部、および酸化カルシウム粉末(宇部マテリアルズ製、UPC−B01)75.0重量部を、120℃に加熱しながら混合し、水分を固定化可能な固定化物質として酸化カルシウムを含有する光硬化型の吸湿性粘接着剤を得た。この吸湿性粘接着剤の比重は1.15であった。
【0118】
このようにして製造した製造例2の光硬化型吸湿性接着剤について、その飽和吸湿量(−)を、製造例1と同様にして以下のようにして求めたところ、0.09(−)であった。
【0119】
(バリアフィルムの製造例3)
市販PETフィルムの片面にスパッタ法によりSiO2膜を形成し、製造例3のバリアフィルムを作製した。この製造例3のバリアフィルムの40℃、相対湿度90%の条件での水蒸気透過率Bを差圧法(デルタパーム)によって測定したところ、0.05(g/m2・day@40℃/90%RH)であった。
【0120】
(実施例1)
製造例1の光硬化型吸湿性接着剤を用いて、図3に示すような全面接着構造の封止構造を有する有機ELパネルを作製した。
【0121】
具体的には、まず、素子形成基板1として、30mm×30mmのサイズのガラス板1を用い、その上に公知の方法により、4箇所の2mm×2mmの発光領域を有するボトムエミッション型の有機EL素子2を形成した。即ち、ガラス板1上に、各々パターン化された、陽極取出し電極となる部分(図中左側)、陽極層21となる部分(図中中央)、及び陰極取出し電極となるアイランド部分(図中右側)を含むITO薄膜M1と、有機機能層22となる部分を含む有機機能薄膜M2と、陰極層23(図中中央)、及び陰極取出し電極となる部分(図中右側)を含むAl薄膜M4と、を製膜することで、これらM1、M2、及びM4の薄膜の重畳部分として、有機EL素子2を形成し、実施例1の有機ELベアパネルを準備した。
【0122】
上述の実施例1の有機ELベアパネルの準備とは別に、封止基材3として、PETフィルムの片面にバリア層が形成された市販の中級バリアフィルム(水蒸気透過率B=0.005(g/m2・day@40℃/90%RH)を準備し、そのバリア面であるバリア層上に、製造例1の光硬化型吸湿性接着剤を、平均厚さ100μmの吸湿性粘接着剤層4となるように塗布することで、吸湿性接着剤付き封止基材原反を作製し、さらにこの原反から20mm×26mmの大きさの吸湿性接着剤付き封止基材3を切り出した。
【0123】
最後に、切り出した吸湿性接着剤付き封止基材3を、その吸湿性接着剤層4が、前記有機EL素子の全面を覆って直接接触し、かつ、平面視、発光領域の周囲に吸湿性接着剤層7が連続して存在する額縁領域が形成されるように、準備した粘着層7付き実施例1の有機ELベアパネルの上に載置し、その状態で、真空ラミネーターで貼り合わせ、さらに、バリアフィルム3側から1000mJ/cm2の条件で高圧水銀ランプから発生する紫外線を照射することで、実施例1の有機ELパネルを作製した。
【0124】
この実施例1の有機ELパネルの吸湿性粘接着剤層4の単位面積当たり飽和吸湿量Aは、前記(数式4)を用いて、9.2(g/m2)である。また、この実施例1の有機ELパネルの本発明に係る水蒸気透過率Bと単位面積当たり飽和吸湿量Aとの関係、A/Bは、前記(数式2)から、1840である。
【0125】
実施例1の有機ELパネルを、その作製直後から、60℃、相対湿度90%の条件で2000時間保管した後、これに含まれる有機EL素子2に給電し発光させ、その発光領域における非発光領域の発光領域端部からの幅を調べた。結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1のとおり、実施例1の有機ELパネルにおいて、非発光領域の発生幅は50μmにも満たない僅かなものであり、十分な封止性能を有していることがわかった。
【0128】
(実施例2)
実施例2の有機ELパネルとして、図3に示すような全面接着構造の封止構造を有する有機ELパネルを作製した。具体的には、封止基材3として、実施例1における市販の中級バリアフィルム(水蒸気透過率B=0.005(g/m2・day@40℃/90%RH)に代えて、製造例3のバリアフィルム(水蒸気透過率B=0.05(g/m2・day@40℃/90%RH)を用いたことと、吸湿性粘接着剤層4の平均厚さを、実施例1における100μmに代えて、30μmとなるように塗布したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の有機ELパネルを作製した。
【0129】
実施例1と同様に算出した、この実施例2の有機ELパネルの吸湿性粘接着剤層4の単位面積当たり飽和吸湿量Aは12.0(g/m2)、および水蒸気透過率Bと単位面積当たり飽和吸湿量Aとの関係A/Bは、240である。
【0130】
実施例1と同様にして調べた、この実施例2の有機ELパネルの非発光領域の発光領域端部からの幅の結果を表1に示す。
【0131】
表1のとおり、実施例2の有機ELパネルにおいても、実施例1同様、非発光領域の発生幅は50μmにも満たない僅かなものであり、十分な封止性能を有していることがわかった。
【0132】
(実施例3)
実施例3の有機ELパネルとして、図3に示すような全面接着構造の封止構造を有する有機ELパネルを作製した。具体的には、吸湿性粘接着剤として、実施例1の製造例1の光硬化型吸湿性接着剤に代えて、製造例2の光硬化型吸湿性接着剤を用いたことと、吸湿性粘接着剤層4の平均厚さを、実施例1における100μmに代えて、90μmとなるように塗布したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の有機ELパネルを作製した。
【0133】
実施例1と同様に算出した、この実施例3の有機ELパネルの吸湿性粘接着剤層4の単位面積当たり飽和吸湿量Aは9.3(g/m2)、および水蒸気透過率Bと単位面積当たり飽和吸湿量Aとの関係A/Bは、1860である。
【0134】
実施例1と同様にして調べた、この実施例3の有機ELパネルの非発光領域の発光領域端部からの幅の結果を表1に示す。
【0135】
表1のとおり、実施例3の有機ELパネルにおいても、実施例1同様、非発光領域の発生幅は50μmにも満たない僅かなものであり、十分な封止性能を有していることがわかった。
【0136】
(実施例4)
製造例1の光硬化型吸湿性接着剤を用いて、図4に示すような全面接着構造の封止構造を有する有機ELパネルを作製することができる。
【0137】
具体的には、まず、実施例1と同様にして、有機EL素子2を形成する。ただし、Al薄膜M4に代えてAg薄膜M3とする。
【0138】
次に、平面視、当該発光領域全面、及び、当該発光領域の全周約2mm幅の領域を含む領域に亘り連続し、無機封止層6として、まず、CVD法により酸窒化珪素膜61を平均厚さ2μmで形成し、次に、ポリシラザン原料から転化シリカ膜62を平均厚さ2μmで形成し、有機ELベアパネルを作製する。
【0139】
次に、実施例4の有機ELベアパネルの前記転化シリカ膜62の上に、その前記発光領域に対応する領域、及びその全周約0.5mm幅の領域に亘って、連続して、粘着層7となるアクリル系粘着剤を平均厚さ2μmとなるよう塗布することで、粘着層7付きの実施例4の有機ELベアパネルを準備する。
【0140】
上述の粘着層7付きの実施例4の有機ELベアパネルの準備とは別に封止基材3として、PETフィルムの片面にバリア層が形成された市販の中級バリアフィルム(水蒸気透過率B=0.005(g/m2・day@40℃/90%RH)を準備し、そのバリア面であるバリア層上に、製造例1の光硬化型吸湿性接着剤を、平均厚さ100μmの吸湿性粘接着剤層4となるように塗布することで、吸湿性接着剤付き封止基材原反を作製し、さらにこの原反から20mm×26mmの大きさの吸湿性接着剤付き封止基材3を切り出す。
【0141】
最後に、切り出した吸湿性接着剤付き封止基材3を、その吸湿性接着剤層4が、前記粘着層7の全面を覆って直接接触し、かつ、平面視、発光領域の周囲に吸湿性接着剤層7が無機封止層6と連続して存在する額縁領域が形成されるように、準備した粘着層7付き実施例1の有機ELベアパネルの上に載置し、その状態で、真空ラミネーターで貼り合わせ、さらに、バリアフィルム3側から1000mJ/cm2の条件で高圧水銀ランプから発生する紫外線を照射することで、実施例4の有機ELパネルを作製できる。
【0142】
この方法によれば、表1の実施例1の値よりさらに非発光領域の発生幅が小さく、さらに十分な封止性能を有する有機ELパネルを作製できる。また、その発光を長時間継続しても、顕著な不点灯の発生やダークスポットの拡大は無い有機ELパネルを作製できる。
【0143】
(実施例5)
有機ELパネルとして、図5に示すような全面接着構造の封止構造を有する有機ELパネルを作製することができる。具体的には、封止基材3として、実施例4における市販の中級バリアフィルム(水蒸気透過率B=0.005(g/m2・day@40℃/90%RH)に代えて、製造例3のバリアフィルム(水蒸気透過率B=0.05(g/m2・day@40℃/90%RH)を用いることと、吸湿性粘接着剤層4の平均厚さを、実施例4における100μmに代えて、30μmとなるように塗布することと、実施例4のアクリル系粘着剤からなる粘着層7を設けないこと以外は実施例4と同様にして、実施例5の有機ELパネルを作製できる。
【0144】
この方法によれば、表1の実施例2の値よりさらに非発光領域の発生幅が小さく、さらに十分な封止性能を有する有機ELパネルを作製できる。しかし、実施例5の有機ELパネルでは、その発光をさらに長時間継続した場合に不点灯となる可能性がある。
【符号の説明】
【0145】
1:他方の水蒸気バリア性基材(素子形成基板)
2:有機EL素子
21:陽極層
22:有機機能層
23:陰極層
3:一方の水蒸気バリア性基材(封止基材)
4:吸湿性粘接着剤層
5:ダム
6:無機封止層
61:酸窒化珪素膜
62:転化シリカ膜
7:粘着層
M1:ITO薄膜
M2:有機機能薄膜
M3:Ag薄膜
M4:Al薄膜
図1
図2
図3
図4
図5