(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
産業機械、産業車両、工場、電気自動車、発電システムなどに、インバータやコンバータをはじめとする電力変換装置が使用される。
図1は、電力変換装置の一例を示す回路図である。
【0003】
電力変換装置100Rは、整流器102、DCリンク104、平滑コンデンサ106、インバータ108を備える。整流器102は、三相交流電圧ACを受け、それを整流した電圧を、P極およびN極の二本のDCリンク104p,nの間に発生させる。平滑コンデンサ106は、二本のDCリンク104p,nの間に接続されており、DCリンク104p,nの間の電圧(DCリンク電圧V
DCと称する)を平滑化する。インバータ108は、DCリンク電圧V
DCを受け、それを交流電圧に変換して、モータなどの負荷200に供給する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平滑コンデンサ106としては、大容量の電解コンデンサが用いられる。平滑コンデンサ106は、交流電圧波形やインバータ108の負荷変動に起因するDCリンク電圧V
DCの電圧変動(リップル)を抑制するが、抑制できない電圧変動によって自己発熱が引き起こされ、部品の寿命が短くなる。電力変換装置100Rの用途によっては、平滑コンデンサ106の保守、交換が容易でない場合もあるため、平滑コンデンサ106の長寿命化が望まれる。
【0006】
平滑コンデンサ106の容量を大きくすれば、電圧リップルが小さくなり自己発熱が抑制されるため、寿命を延ばすことが可能であるが、電解コンデンサは部品サイズが大きくなる。すなわち従来では、部品サイズと寿命がトレードオフの関係にあり、部品サイズの制約下で、長寿命を実現することが難しかった。
【0007】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、平滑コンデンサの寿命を延ばすことが可能な電力変換装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は電力変換装置に関する。電力変換装置は、一対のDCリンクと、三相交流電圧を整流した電圧を一対のDCリンクの間に発生させる整流器と、一対のDCリンクの間に直列に接続される整流ダイオードおよび平滑コンデンサと、整流ダイオードと並列に設けられたスイッチと、を備える。
【0009】
スイッチがオフの状態では、平滑コンデンサの電圧は実質的に一定となるため、自己発熱が抑制されるが、DCリンク電圧には相対的に大きなリップルが生ずるため、負荷に供給可能な電圧は、DCリンク電圧のリップル下限に制限される。スイッチがオンの状態では、平滑コンデンサの電圧とDCリンク電圧は等しく、交流電圧を全波整流し、平滑化した波形となる。したがって平滑コンデンサにはリップルによる自己発熱が発生するが、DCリンク電圧のリップルはスイッチがオフのときに比べて相対的に小さくなり、すなわちDCリンク電圧のリップル下限が大きくなるため、負荷に供給可能な電圧が増加する。この電力変換装置によれば、スイッチのオン、オフ状態を切りかえることにより、DCリンク電圧の寿命を延ばすことができる。
【0010】
電力変換装置は、当該電力変換装置の状態に応じて、スイッチを制御するスイッチコントローラをさらに備えてもよい。
【0011】
電力変換装置は、負荷を駆動するインバータをさらに備えてもよい。スイッチコントローラは、インバータの出力電圧の検出値およびその指令値の少なくとも一方に応じてスイッチを制御してもよい。
インバータの出力電圧に大振幅が要求される状況において、スイッチをオンすることにより、出力電圧の波形歪みを抑制できる。
【0012】
スイッチコントローラは、インバータの出力電圧の検出値または指令値が所定のしきい値より大きいときに、スイッチをオンしてもよい。これによりインバータの出力電圧の波形が歪むのを防止できる。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電力変換装置の平滑コンデンサの寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0018】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0019】
図2は、実施の形態に係る電力変換装置100の回路図である。電力変換装置100は、整流器102、一対のDCリンク104p,n、インバータ108、平滑回路120を備える。
【0020】
整流器102は、三相交流電圧ACを整流した電圧を一対のDCリンク104p,104nの間に発生させる。インバータ108は、DCリンク104p,nの間に発生するDCリンク電圧V
DCを交流に変換し、モータなどの負荷200を駆動する。
【0021】
平滑回路120は、平滑コンデンサ122、整流ダイオード124、スイッチ126、放電抵抗128を備える。整流ダイオード124および平滑コンデンサ122は、一対のDCリンク104p,104nの間に直列に接続される。整流ダイオード124は、カソードがN極DCリンク104n、アノードがP極DCリンク104p側となるように配置される。
【0022】
スイッチ126は、整流ダイオード124と並列に設けられる。スイッチ126は、FET(Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタなどの電気的に制御可能なトランジスタであってもよい。放電抵抗128は、平滑コンデンサ122と並列に設けられており、電力変換装置100の非動作状態において平滑コンデンサ122の電荷を放電する。放電抵抗128は、電力変換装置100の動作状態において影響が現れない程度の高抵抗値を有する。これにより、電力変換装置100の動作停止後に、平滑コンデンサ122に高電圧が残留するのを防止できる。
【0023】
電力変換装置100はさらに、スイッチ126のオン、オフを制御するスイッチコントローラ130を備えてもよい。スイッチコントローラ130については後述する。
【0024】
以上が電力変換装置100の構成である。続いてその動作を説明する。
図3(a)、(b)は、
図2の電力変換装置100の動作波形図である。a−b,b−c,c−aはそれぞれ、交流入力ACの2相間の電圧を表す。またu−v,v−w,w−uは、インバータ108の交流出力の2相間の電圧を表す。pは、P極DCリンク104pの電圧を、nは、N極DCリンク104nの電圧を表す。
【0025】
図3(a)には、スイッチ126がオフの状態(第1モードともいう)の動作が示される。スイッチ126がオフの状態では、DCリンク104p,104nには、交流入力ACを全波整流した電圧波形が現れる。また平滑回路120は、ピークホールド回路として動作し、したがって平滑コンデンサ122の電圧V
Cは直流電圧となる。
【0026】
図3(b)には、スイッチ126がオンの状態(第2モードともいう)の動作が示される。スイッチ126がオンの状態は、
図1の電力変換装置100Rと等価であり、DCリンク104p,104nには、全波交流波形が平滑コンデンサ122によって平滑化した電圧波形が現れる。
【0027】
図4(a)、(b)は、第1モード、第2モードそれぞれにおける、DCリンク電圧V
DCおよび平滑コンデンサ122のコンデンサ電圧V
Cの波形図である。ここでは理解の容易化のために、N極(DCリンク104n)側を基準(0V)として各電圧を示している。
【0028】
上述したように、
図4(a)の第1モードでは、コンデンサ電圧V
Cは直流となる。したがって、平滑コンデンサ122の自己発熱を抑制できるため、寿命を長くすることができる。
【0029】
図4(a)の第1モードでは、DCリンク電圧V
DCは、交流入力ACを全波整流した波形となる。一方、
図4(b)の第2モードでは、DCリンク電圧V
DC(およびコンデンサ電圧V
C)は、
図4(a)の全波整流波形を平滑化した波形となる。ここでインバータ108の出力電圧範囲は、DCリンク電圧V
DCの下限(ボトムレベル)によって規定されるため、
図4(b)の第2モードでは、
図4(a)の第1モードに比べて出力電圧範囲を広げることができる。
【0030】
以上が電力変換装置100の動作である。
この電力変換装置100によれば、負荷200を適切に駆動するために、
図4(a)の出力電圧範囲で足りる場合には第1モードを選択することで、平滑コンデンサ122の発熱を抑制し、寿命を延ばすことができる。
【0031】
また
図4(a)の出力電圧範囲で不足する場合には第2モードを選択することで、出力電圧範囲を拡大でき、出力電圧u,v,wの波形歪みを抑制し、負荷200を適切に駆動することができる。第2モードでは平滑コンデンサ122のコンデンサ電圧V
Cが交流リップルを含むため、自己発熱が発生するが、第1モードで負荷が適切に駆動できない状況に限り、第2モードを選択することで、電解コンデンサの寿命が短くなるのを防止できる。
【0032】
一例として、負荷200がモータの場合には、高い駆動電圧を供給すべき高負荷運転中や急加速時に限って第2モードを選択し、それ以外の定常運転時には第1モードを選択することにより、長寿命特性と高出力特性とを両立できる。
【0033】
続いて、スイッチコントローラ130によるモード制御について説明する。上述のように、第1モードと第2モードは、負荷200に供給すべき電圧(u,v,w)の振幅と、DCリンク電圧V
DCの大小関係にもとづいて決定すればよい。すなわち、スイッチコントローラ130は、電力変換装置100の状態(負荷200の状態も含む)に応じて、スイッチ126を制御する。
以下、具体的な制御についていくつかの例を説明する。
【0034】
(第1制御例)
スイッチコントローラ130は、DCリンク電圧V
DCの測定値と、インバータ108の出力電圧u,v,wの少なくともひとつの測定値と、の大小関係にもとづいて、モードを決定してもよい。具体的には、第1モードにおいて、出力電圧u,v,wの振幅が、DCリンク電圧V
DCによって制限(クランプ)された場合には、第2モードに切りかえてもよい。反対に第2モードで運転中に、出力電圧u,v,wの振幅が低下した場合には、第1モードに切りかえることができる。
【0035】
(第2制御例)
スイッチコントローラ130は、DCリンク電圧V
DCの測定値と、インバータ108の出力電圧u,v,wの指令値refと、の関係にもとづいて、モードを決定してもよい。出力電圧u,v,wの指令値refにもとづいて、出力波形の振幅を計算、推定できる。したがって、第1モードにおいて、出力波形の振幅がDCリンク電圧V
DCを超える可能性が高い場合には第2モードに切りかえ、第2モードにおいて、出力波形の振幅がDCリンク電圧V
DCを下回る可能性が高い場合には第1モードに切りかえればよい。
【0036】
(第3制御例)
スイッチコントローラ130は、インバータ108の出力電圧u,v,wの指令値refと、その測定値の関係にもとづいて、モードを決定してもよい。第1モードにおいて、指令値refと実際の測定値に不一致が生じた場合、DCリンク電圧V
DCが不足している可能性が高いため、第2モードに切りかえるとよい。また、第2モードにおいて、出力電圧u,v,wの指令値refが低下した場合には、第1モードに切りかえればよい。
【0037】
(第4制御例)
スイッチコントローラ130は、インバータ108の出力電圧u,v,wの指令値refと、所定のしきい値との比較結果にもとづいて、モードを決定してもよい。具体的には指令値refがしきい値より低いとき第1モードを選択し、指令値refがしきい値より高いとき第2モードを選択してもよい。
【0038】
(第5制御例)
インバータ108は、自身の出力電圧u,v,wが、指令値refに近づくようにフィードバックによってスイッチングのデューティ比を補正するものがある。たとえばDCリンク電圧V
DCが、第1電圧レベルであるときに、所定電圧の出力u(瞬時値)を得るために必要なデューティ比がA%であるとする。DCリンク電圧V
DCが第1電圧レベルより低い第2電圧レベルに低下すると、インバータ108は、デューティ比をA%より高いB%に調節して、指令値refに応じた出力を維持する。このようなインバータでは、指令値refが要求する電圧範囲に対して、DCリンク電圧V
DCが不足すると、デューティ比が100%付近に張り付くようになる。そこでインバータ108は、自身のスイッチングのデューティ比にもとづいて、DCリンク電圧V
DCの不足(あるいは余剰)を検出し、モードを切りかえてもよい。
【0039】
(第6制御例)
あるいは、スイッチコントローラ130は、負荷200の動作モードと連動して、モード、すなわちスイッチ126のオン、オフを制御してもよい。
【0040】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0041】
(第1変形例)
図2の整流ダイオード124と平滑コンデンサ122を入れかえて、整流ダイオード124をN極側に、平滑コンデンサ122をP極側に配置してもよい。
【0042】
(第2変形例)
実施の形態では、スイッチコントローラ130がスイッチ126を適応的に制御する場合を説明したがその限りでなく、ユーザがマニュアルでスイッチ126のオン、オフを切りかえてもよい。またスイッチ126はトランジスタなどの電気的スイッチに限られず、機械的スイッチ(接点)であってもよい。
【0043】
(第3変形例)
インバータ108に代えて、あるいはそれに加えて別の回路、たとえば単方向あるいは双方向のDC/DCコンバータ、バッテリの充電回路あるいは充放電回路などが設けられてもよい。
【0044】
(用途)
電力変換装置100は、長寿命と小型化が要求される用途に好適に利用可能である。このような用途としては、可搬性を有する小型のベルトコンベアが例示される。このようなベルトコンベアは、倉庫や工場などの物流搬送システム、あるいは空港などにおいて、必要な場所に移動して設置することが可能である。可搬性を高めるためには、電力変換装置100の小型化が必要であり、したがって平滑コンデンサ122の小型化が要請される。また、固定設備と異なり、設置場所が一定でないため、メンテナンスの頻度は極力少ないことが望ましい。このような観点から、実施の形態に係る電力変換装置100は、ベルトコンベアに好適である。
【0045】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。