特許第6770386号(P6770386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770386
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20201005BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20201005BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20201005BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20201005BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20201005BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20201005BHJP
   B60L 50/10 20190101ALI20201005BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20201005BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B60W10/02 900
   B60K6/543
   B60K6/52
   B60K6/48
   B60W20/00
   B60K17/04 G
   B60L50/10
   B60W10/00 102
   B60W10/02
   B60W10/08
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-187307(P2016-187307)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-52168(P2018-52168A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 尊史
(72)【発明者】
【氏名】高柳 良太
(72)【発明者】
【氏名】青木 寛子
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−009691(JP,A)
【文献】 特開2014−034284(JP,A)
【文献】 特開2006−077858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/48
B60K 6/52
B60K 6/543
B60K 17/04
B60L 50/10
B60W 10/04
B60W 10/08
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータをエンジンに連結するとともに、該モータジェネレータを変速機を介して駆動車軸に連結する締結状態と、該モータジェネレータを該エンジンから切断するとともに、該変速機を介した該モータジェネレータおよび該駆動車軸の連結を切断する開放状態とを切り替える第1クラッチと、
前記第1クラッチと並設され、前記モータジェネレータを前記変速機を介さずに前記駆動車軸に連結する締結状態と、該変速機を介さない該モータジェネレータおよび該駆動車軸の連結を切断する開放状態とを切り替える第2クラッチと、
前記第1クラッチおよび前記第2クラッチに対して共通する油圧系統を介して同時に油圧を供給することで、該第1クラッチおよび該第2クラッチの締結状態および開放状態を排他的に切り替える油圧機構と、
前記油圧機構による前記第1クラッチおよび前記第2クラッチに対する油圧の供給を制御する制御部と、
を備え
前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの一方は、トルク伝達容量可変型の油圧多板クラッチで構成され、
前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの他方は、前記モータジェネレータの軸方向に摺動可能な飛込ドグと、該飛込ドグが嵌合可能な待機ドグと、を備えるドグクラッチで構成されるハイブリッド車両。
【請求項2】
前記第1クラッチは、前記油圧多板クラッチで構成され、
前記第2クラッチは、前記ドグクラッチで構成される請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記飛込ドグを前記待機ドグ側へ付勢して、該飛込ドグと該待機ドグとを嵌合させる付勢部材をさらに備え、
前記油圧機構は、前記ドグクラッチに対して油圧を供給する際、前記付勢部材による付勢力とは逆方向に作用する該付勢力以上の油圧を前記飛込ドグに供給する請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記変速機は、
一対のプーリと、該一対のプーリに掛け渡された無端可撓部材とを備える無段変速機である請求項1から3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよびモータジェネレータを用いて駆動輪を駆動するハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源としてエンジンおよびモータジェネレータを搭載し、これらエンジンおよびモータジェネレータを用いて駆動輪を駆動するハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両としては、例えば特許文献1に記載のように、モータジェネレータと駆動輪とが主に無段変速機で構成される動力伝達経路を介して接続され、この動力伝達経路とエンジンとがクラッチを介して接続される。そして、クラッチを開放することでモータジェネレータのみで走行するEV走行モードが実施される一方、クラッチを締結することで、モータジェネレータおよびエンジンで走行するHEVモードが実施される。
【0003】
また、このようなハイブリッド車両では、シフトポジションをDレンジに維持して停車した際に、クラッチを締結してモータジェネレータとエンジンとを接続し、エンジンから出力されるトルクをモータジェネレータへ入力することで、モータジェネレータの駆動源であるバッテリの回生充電を行うことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−075591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のハイブリッド車両では、モータジェネレータの接続先をエンジン側とすることで、上記したようなバッテリの回生充電が行われる。しかし、モータジェネレータを駆動輪に接続してEV走行モードを実施する際、動力伝達経路を構成する無段変速機が連れ回ってしまい、スピンロスが増大してしまうといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、バッテリの回生充電とスピンロスの低減とを両立させることのできるハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッド車両は、モータジェネレータをエンジンに連結するとともに、モータジェネレータを変速機を介して駆動車軸に連結する締結状態と、モータジェネレータをエンジンから切断するとともに、変速機を介したモータジェネレータおよび駆動車軸の連結を切断する開放状態とを切り替える第1クラッチと、第1クラッチと並設され、モータジェネレータを変速機を介さずに駆動車軸に連結する締結状態と、変速機を介さないモータジェネレータおよび駆動車軸の連結を切断する開放状態とを切り替える第2クラッチと、第1クラッチおよび第2クラッチに対して共通する油圧系統を介して同時に油圧を供給することで、第1クラッチおよび第2クラッチの締結状態および開放状態を排他的に切り替える油圧機構と、油圧機構による第1クラッチおよび第2クラッチに対する油圧の供給を制御する制御部と、を備える。
【0008】
また、第1クラッチは、油圧多板クラッチで構成され、第2クラッチは、ドグクラッチで構成されるとよい。
【0009】
また、飛込ドグを待機ドグ側へ付勢して、飛込ドグと待機ドグとを嵌合させる付勢部材をさらに備え、油圧機構は、ドグクラッチに対して油圧を供給する際、付勢部材による付勢力とは逆方向に作用する該付勢力以上の油圧を飛込ドグに供給するとよい。
【0010】
また、変速機は、一対のプーリと、一対のプーリに掛け渡された無端可撓部材とを備える無段変速機であるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バッテリの回生充電とスピンロスの低減とを両立させることができるハイブリッド車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態におけるハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
図2】車両の制御系の構成を説明する図である。
図3】Dレンジ充電モード、EV走行モード、およびエンジン走行モードにおける第1クラッチおよび第2クラッチの断接状態を説明する図である。
図4】HEVCUによる車両のモード切替処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態におけるハイブリッド車両1(以下、単に車両1と称する)の概略構成を示す図である。図1に示すように、車両1は、エンジン10およびモータジェネレータ11が設けられる。なお、車両1では、エンジン10が主要動力源として用いられ、モータジェネレータ11がエンジン10の補助動力源として用いられる。
【0015】
エンジン10は、内部を貫通するようにクランクシャフト10aが配置され、燃焼室における爆発圧力でピストンを往復動させてクランクシャフト10aを回転させる。エンジン10のクランクシャフト10aには、トルクコンバータ12、前後進切換機構14を介して無段変速機16が接続される。
【0016】
モータジェネレータ11は、主に発電機として機能し、発電することにより得られた電力をバッテリ112(図2参照)に供給することで、バッテリ112を充電する。また、モータジェネレータ11は、上記のようにエンジン10の補助動力源としても機能する場合があり、この場合にはバッテリ112から供給される電力によって駆動する。
【0017】
トルクコンバータ12は、クランクシャフト10aに接続されたフロントカバー12aと、フロントカバー12aに固定されたポンプインペラ12bとを備える。また、トルクコンバータ12は、フロントカバー12a内において、ポンプインペラ12bにタービンランナ12cが対向配置されており、タービンランナ12cにタービンシャフト12dが接続される。さらに、トルクコンバータ12は、ポンプインペラ12bおよびタービンランナ12cの間の内周側にステータ12eが配置され、内部に作動流体が封入されている。
【0018】
トルクコンバータ12は、ポンプインペラ12bが回転することで作動流体が外周側に送出され、作動流体をタービンランナ12cに送ることでタービンランナ12cを回転させる。これにより、クランクシャフト10aからタービンランナ12cに動力が伝達される。
【0019】
ステータ12eは、タービンランナ12cから送り出された作動流体の流動方向を変化させてポンプインペラ12bに還流させ、ポンプインペラ12bの回転を促進させる。そのため、トルクコンバータ12は伝達トルクを増幅することができる。
【0020】
また、トルクコンバータ12は、タービンシャフト12dに固定されたクラッチプレート12fがフロントカバー12aの内面に対向配置される。クラッチプレート12fは、油圧によりフロントカバー12aに押し付けられることにより、クランクシャフト10aからタービンシャフト12dに動力が伝達される。また、油圧を制御することでクラッチプレート12fがフロントカバー12aに滑りながら当接することにより、クランクシャフト10aからタービンシャフト12dへ伝達される動力を調整することができる。
【0021】
前後進切換機構14は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構14a、前進クラッチ14b、後退ブレーキ14cを備える。第1シャフト15は、前後進切換機構14を介してタービンシャフト12dと連動しており、前後進切換機構14によって、タービンシャフト12dから第1シャフト15へ伝達される動力の回転方向を切り換える。
【0022】
例えば、前進クラッチ14bを締結して後退ブレーキ14cを解放すると、タービンシャフト12dの回転が遊星歯車機構14aを介してそのまま第1シャフト15に伝達される。一方、前進クラッチ14bを解放して後退ブレーキ14cを締結すると、タービンシャフト12dの回転が遊星歯車機構14aを介して逆回転に切り換えられて第1シャフト15に伝達される。
【0023】
無段変速機16は、プライマリプーリ(プーリ)30、セカンダリプーリ(プーリ)32およびベルト(無端可撓部材)34を含んで構成される。プライマリプーリ30は、第1シャフト15に設けられ、セカンダリプーリ32は、第1シャフト15に対して平行に配置された回転軸18に設けられる。ベルト34は、例えばリンクプレートをピンで連結したチェーンベルトで構成され、一対のプライマリプーリ30とセカンダリプーリ32との間に掛け渡され、プライマリプーリ30とセカンダリプーリ32との間で動力を伝達する。
【0024】
プライマリプーリ30は、固定シーブ40および可動シーブ42を含んで構成される。固定シーブ40および可動シーブ42は、互いに第1シャフト15の軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ40および可動シーブ42双方の対向面が、略円錐形状のコーン面44となっており、このコーン面44によってベルト34が掛け渡される溝が形成される。
【0025】
同様に、セカンダリプーリ32は、固定シーブ50および可動シーブ52を含んで構成される。固定シーブ50および可動シーブ52は、互いに回転軸18の軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ50および可動シーブ52双方の対向面が、略円錐形状のコーン面54となっており、このコーン面54によってベルト34が掛け渡される溝が形成される。
【0026】
そして、プライマリプーリ30の可動シーブ42は、不図示の油圧ポンプから油圧制御弁を介し供給されるオイルの油圧により、第1シャフト15の軸方向の位置が可変に構成されている。また、セカンダリプーリ32の可動シーブ52は、油圧ポンプから供給されるオイルの油圧により、回転軸18の軸方向の位置が可変に構成されている。
【0027】
このように、プライマリプーリ30は、固定シーブ40および可動シーブ42の対向間隔が可変であり、セカンダリプーリ32は、固定シーブ50および可動シーブ52の対向間隔が可変である。そして、ベルト34が掛け渡される溝は、固定シーブ40および可動シーブ42、固定シーブ50および可動シーブ52の径方向内方が狭く、径方向外方が広くなっている。そのため、コーン面44、54の対向間隔が変わり、ベルト34が掛け渡される溝幅が変更されると、ベルト34の掛け渡される位置が変わる。
【0028】
ベルト34の掛け渡される位置が変わると、ベルト34の巻き付け径が可変となる。こうして、無段変速機16は、第1シャフト15と回転軸18との間の伝達トルクを無段変速する。
【0029】
回転軸18は、ギヤ機構20、前輪側クラッチ22を介して、ドライブピニオンシャフト24に接続されている。ドライブピニオンシャフト24は、フロントディファレンシャル25を介してフロントドライブシャフト26が接続され、フロントドライブシャフト26には前輪28が接続されている。これにより、無段変速機16によって無段変速されたトルクは、ギヤ機構20、前輪側クラッチ22、ドライブピニオンシャフト24、フロントディファレンシャル25およびフロントドライブシャフト26を介して前輪28に伝達される。
【0030】
また、ドライブピニオンシャフト24には、ギヤ機構58、第2シャフト60、後輪側クラッチ62、プロペラシャフト64、不図示のリヤディファレンシャルおよびリヤドライブシャフト66を介して、後輪68が接続されている。これにより、無段変速機16によって無段変速されたトルクは、ギヤ機構58、第2シャフト60、後輪側クラッチ62、プロペラシャフト64、リヤディファレンシャルおよびリヤドライブシャフト66を介して後輪68に伝達される。
【0031】
第1シャフト15は、第1クラッチ70に接続されている。第1クラッチ70は、第1摩擦板72aおよび第2摩擦板74aが対向して配置されたトルク伝達容量可変型の油圧多板クラッチで構成される。
【0032】
第1摩擦板72aは、第1シャフト15に連結されたクラッチハブ72に接続されており、第1シャフト15と一体的に回転する。第2摩擦板74aは、モータジェネレータ11のロータ軸11aに連結されたクラッチドラム74に接続されており、ロータ軸11aおよびクラッチドラム74と一体的に回転する。
【0033】
第1クラッチ70は、油圧機構92から供給される油圧を受けて第1摩擦板72aと第2摩擦板74aとが接触することで締結状態となる。また、第1クラッチ70は、油圧機構92からの油圧の供給が停止されると、第1摩擦板72aと第2摩擦板74aとが離間して開放状態となる。
【0034】
第1クラッチ70の後方には、第2クラッチ80が並設されている。第2クラッチ80は、第1クラッチ70のクラッチドラム74に接続されたモータ出力軸82と、モータ出力軸82の後方に接続された第2シャフト60との断接状態を切り替える。第2クラッチ80は、モータ出力軸82の回転に伴って回転するとともにモータ出力軸82の軸方向に摺動可能な飛込ドグ84と、第2シャフト60に設けられ、飛込ドグ84が嵌合可能な待機ドグ86と、を備えるドグクラッチで構成される。
【0035】
また、第2クラッチ80は、飛込ドグ84を待機ドグ86側へ付勢する付勢部材88を備えている。付勢部材88は、例えばウェーブスプリングで構成される。これにより、第2クラッチ80は、飛込ドグ84が待機ドグ86に嵌合して締結状態に維持される。一方、第2クラッチ80は、油圧機構92からの油圧の供給を受けると、飛込ドグ84が待機ドグ86から離脱して開放状態となる。この油圧の供給の有無による締結状態および開放状態の切り替えについては後述する。
【0036】
図2は、車両1の制御系の構成を説明する図である。図2に示すように、車両1は、制御部100として、HEVCU(Hybrid and Electric Vehicles Control Units)102、ECU(Engine Control Unit)104、MCU(Motor Control Unit)106、および、TCU(Transmission Control Unit)108が設けられる。また、車両1は、インバータ110およびバッテリ112が設けられ、インバータ110がモータジェネレータ11およびバッテリ112と接続される。
【0037】
HEVCU102は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)を含むマイクロコンピュータでなり、車両1の各部を統括制御する。
【0038】
HEVCU102は、アクセルペダルの踏み込み量、ブレーキペダルの踏み込み量、シフトレバーのシフトポジション、車速センサから入力される車速、スロットル開度センサから入力されるスロットル開度等に基づいて、後述する車両1の制御モードを切り替え、エンジン10、モータジェネレータ11の駆動をECU104およびMCU106を介して適宜制御する。
【0039】
ECU104は、CPU、RAM、ROMを含むマイクロコンピュータでなり、HEVCU102の制御に基づいて、エンジン10を駆動制御する。MCU106は、CPU、RAM、ROMを含むマイクロコンピュータでなり、HEVCU102の制御に基づいて、インバータ110を介して、モータジェネレータ11を駆動制御および回生制御する。
【0040】
TCU108は、CPU、RAM、ROMを含むマイクロコンピュータでなり、前後進切換機構14、前輪側クラッチ22、後輪側クラッチ62、第1クラッチ70、第2クラッチ80の締結状態および開放状態を切り替える。また、TCU108は、無段変速機16の駆動を制御する。
【0041】
ところで、車両1は、上記したように、エンジン10を主要動力源としているが、走行開始時などの低車速領域では、モータジェネレータ11からの出力トルクで走行する(EV走行モード)。そして、車両1は、所定の速度閾値(例えば、30km/h)を超えた場合などの高車速領域では、モータジェネレータ11からのトルク出力を停止し、エンジン10からの出力トルクで走行する(エンジン走行モード)。また、車両1は、シフトポジションをDレンジに維持した状態で停車した際に、エンジン10からの出力トルクをモータジェネレータ11へ入力することで、バッテリ112の回生充電を行う(Dレンジ充電モード)。
【0042】
図3は、Dレンジ充電モード、EV走行モード、およびエンジン走行モードにおける第1クラッチ70および第2クラッチ80の断接状態を説明する図である。以下、上記各モードと、それぞれのモードにおける第1クラッチ70および第2クラッチ80の制御について詳しく説明する。
【0043】
(Dレンジ充電モード)
HEVCU102は、シフトポジションセンサで検出されるシフトポジションが「D」レンジであり、かつ、車速センサで検出される車両1の速度が0km/hである場合、車両1がシフトポジションを「D」レンジに維持した状態で停車していると判断し、車両1の制御モードを「Dレンジ充電モード」に遷移させる。
【0044】
このとき、TCU108は、油圧機構92を制御し、図3(a)に示すように、第1クラッチ70および第2クラッチ80に対し、共通する油圧路(油圧系統)Aを介して同時に油圧を供給させる。そうすると、第1クラッチ70では、クラッチハブ72が第1シャフト15の軸方向へ移動し、第1摩擦板72aと第2摩擦板74aとが接触する。これにより、第1クラッチ70は締結状態となる。
【0045】
一方、油圧機構92は、第2クラッチ80に油圧を供給する際、付勢部材88による付勢力とは逆方向に作用する、付勢力以上の油圧を飛込ドグ84に対して供給する。そうすると、飛込ドグ84は、モータ出力軸82上をモータジェネレータ11側へ摺動し、待機ドグ86から離脱する。これにより、第2クラッチ80は開放状態となる。
【0046】
このように、第1クラッチ70が締結状態となり、第2クラッチ80が開放状態になると、車両1では、図中の一点鎖線の矢印で示すように、エンジン10から出力されるトルクがタービンシャフト12d(図1参照)、第1シャフト15、クラッチハブ72、第1摩擦板72a、第2摩擦板74a、クラッチドラム74を介して、モータジェネレータ11のロータ軸11aに入力されるようになる。これにより、バッテリ112の回生充電が行われる。
【0047】
このとき、無段変速機16は、第1シャフト15の回転によって連れ回ることになるが、TCU108は、前輪側クラッチ22を開放することにより、ドライブピニオンシャフト24までもが連れ回ってしまうことを防止する。こうして、車両1では、エンジン10から出力されるトルクの伝達ロスを低く抑えてロータ軸11aに入力し、バッテリ112の回生充電を行うことができる。
【0048】
(EV走行モード)
HEVCU102は、以下のすべてのEV走行条件が成立している場合に、車両1の制御モードを「EV走行モード」に遷移させる。ここでは、EV走行条件として、シフトポジションセンサで検出されるシフトポジションが「D」レンジであること、車速センサで検出される車両1の速度が0km/hよりも大きく30km/h以下であること、スロットル開度センサで検出されるスロットル開度が0%以上20%以下であること、バッテリセンサで検出されるバッテリ112の残量が全バッテリ容量の30%以上であることが設定されている。
【0049】
車両1が「EV走行モード」に遷移すると、HEVCU102は、ECU104を介してエンジン10を停止させるとともに、MCU106を介してモータジェネレータ11を電動機として駆動させる。
【0050】
また、TCU108は、油圧機構92を制御し、第1クラッチ70および第2クラッチ80に対する油圧の供給を停止する。そうすると、第1クラッチ70は、図3(b)に示すように、第1摩擦板72aと第2摩擦板74aとが離間し、開放状態となる。一方、第2クラッチ80は、飛込ドグ84が付勢部材88による付勢力を受けて待機ドグ86側へ付勢され、待機ドグ86と嵌合することにより、締結状態となる。
【0051】
このように、第1クラッチ70が開放状態となり、第2クラッチ80が締結状態になると、車両1では、図中の一点鎖線の矢印で示すように、モータジェネレータ11から出力されるトルクがロータ軸11a、クラッチドラム74、モータ出力軸82、第2クラッチ80を介して、第2シャフト60へ伝達される。
【0052】
このとき、TCU108は、前輪側クラッチ22を締結状態とすることで、第2シャフト60へ伝達されたトルクが、ギヤ機構58、前輪側クラッチ22を介してドライブピニオンシャフト24に伝達される。そして、ドライブピニオンシャフト24に伝達されたトルクは、フロントディファレンシャル25、フロントドライブシャフト26を介して前輪28に伝達され、前輪28を駆動する。
【0053】
一方、第1クラッチ70は開放状態となっているため、モータジェネレータ11のロータ軸11aから出力されるトルクは、第1クラッチ70を介して第1シャフト15に伝達されることがない。つまり、第1クラッチ70は、締結状態が解除された開放状態において、モータジェネレータ11をエンジン10から切断するとともに、無段変速機16を介したモータジェネレータ11およびフロントドライブシャフト26の連結を切断することになる。また、第2クラッチ80は、締結状態において、モータジェネレータ11を無段変速機16を介さずにフロントドライブシャフト26に連結することになる。そのため、車両1では、EV走行モードにおいては、無段変速機16の連れ回りが生じない。これにより、車両1では、EV走行モードにおける無段変速機16の連れ回りによるスピンロスを低減するとともに、走行抵抗の増大を抑制し、モータジェネレータ11からの出力トルクを効率よく前輪28に伝達することができる。
【0054】
(エンジン走行モード)
HEVCU102は、シフトポジションセンサで検出されるシフトポジションが「D」レンジであり、かつ、以下に挙げるエンジン走行条件のうちいずれか1つでも成立する場合に、車両1の制御モードを「エンジン走行モード」に遷移させる。ここでは、エンジン走行条件として、車速センサで検出される車両1の速度が30km/hよりも大きいこと、スロットル開度センサで検出されるスロットル開度が20%よりも大きいこと、バッテリセンサで検出されるバッテリ112の残量が全バッテリ容量の30%未満であることが設定されている。
【0055】
HEVCU102は、車両1を「エンジン走行モード」に遷移させると、MCU106を介してモータジェネレータ11からのトルク出力を停止させるとともに、ECU104を介してエンジン10を始動する。
【0056】
また、TCU108は、油圧機構92を介して、第1クラッチ70および第2クラッチ80に対して同時に油圧を供給する。そうすると、上記「Dレンジ充電モード」で説明したように、第1クラッチ70は締結状態となり、第2クラッチ80は開放状態となる(図3(a)参照)。
【0057】
そうすると、車両1では、エンジン10から出力されるトルクがタービンシャフト12d、第1シャフト15を介して無段変速機16に伝達される。無段変速機16は、第1シャフト15から伝達されたトルクを無段階で変速し、変速後のトルクを回転軸18を介してギヤ機構20に伝達する。このとき、TCU108は、前輪側クラッチ22を締結状態とすることで、変速後のトルクがギヤ機構20から前輪側クラッチ22を介してドライブピニオンシャフト24へ伝達され、さらにフロントディファレンシャル25、フロントドライブシャフト26を介して前輪28へ伝達される。
【0058】
このとき、TCU108は、後輪側クラッチ62を併せて締結状態とすることで、ドライブピニオンシャフト24に伝達されたトルクを、ギヤ機構58、第2シャフト60、後輪側クラッチ62、プロペラシャフト64、リヤドライブシャフト66を介して後輪68にも伝達させることができる。
【0059】
このように、車両1は、エンジン走行モードにおいてはエンジン10から出力されるトルクを前輪28または後輪68、もしくはその双方に伝達することで走行する。
【0060】
なお、エンジン走行モードにおいては、上記のように第1クラッチ70が締結状態となるため、エンジン10から出力されるトルクがタービンシャフト12d(図1参照)、第1シャフト15、クラッチハブ72、第1摩擦板72a、第2摩擦板74a、クラッチドラム74を介して、モータジェネレータ11のロータ軸11aにも入力される。つまり、第1クラッチ70は、連結状態において、モータジェネレータ11をエンジン10に連結するとともに、モータジェネレータ11を無段変速機16を介してフロントドライブシャフト26に連結することになる。また、第2クラッチ80は、締結状態が解除された開放状態において、無段変速機16を介さないモータジェネレータ11およびフロントドライブシャフト26の連結を切断することになる。これにより、バッテリ112の回生充電を行うことができるが、このときモータジェネレータ11を空転状態に制御することにより、かかる回生充電を行わないようにしてもよい。
【0061】
また、車両1では、エンジン走行モードにおいて、油圧機構92に何らかの異常が生じ、第1クラッチ70および第2クラッチ80に対して油圧を供給できなくなった場合でも、車両1が即時停止してしまうことがない。
【0062】
例えば、車両1がエンジン走行モードで走行中に、油圧機構92に故障やオイル漏れなどが生じたり、エンジン10が故障により停止して油圧機構92が作動しなくなった場合、車両1では、第1クラッチ70および第2クラッチ80に対する油圧の供給が停止される。このとき、車両1では上記「EV走行モード」で説明したように、第1クラッチ70が開放状態となる一方、第2クラッチ80は締結状態となる。
【0063】
そして、車両1では、モータジェネレータ11からトルクを出力することで、このトルクをロータ軸11a、クラッチドラム74、モータ出力軸82、第2クラッチ80、第2シャフト60、ギヤ機構58、ドライブピニオンシャフト24、フロントディファレンシャル25、フロントドライブシャフト26を介して前輪28へ伝達させる。こうして、車両1では、油圧の供給が不可能となっても、モータジェネレータ11からの出力トルクで走行することができ、直ちに走行不能となる事態を回避することができる。
【0064】
以上、説明したように、車両1では、第1クラッチ70および第2クラッチ80の締結状態および開放状態を切り替えるのみの簡単な構成で、Dレンジ充電モードにおけるバッテリ112の回生充電と、EV走行モードにおけるスピンロスの低減とを両立することができる。
【0065】
また、車両1では、第1クラッチ70と第2クラッチ80とを並設し、これら両クラッチに対して同時に油圧を供給可能な油圧路(油圧系統)Aを設けることで、両クラッチに対する油圧の供給系を1つにまとめることができ、省スペース化を図ることができる。
【0066】
また、車両1では、第1クラッチ70および第2クラッチ80の一方が締結状態にあるとき、他方は開放状態となるように、両クラッチが排他的に制御されるため、両クラッチが同時に締結状態となる不具合(二重締結)の発生を防止することができる。
【0067】
また、車両1では、第1クラッチ70が多板クラッチで構成され、第2クラッチ80がドグクラッチで構成されているため、ドグクラッチ側で生じる衝撃(例えば、飛込ドグ84が待機ドグ86に嵌合する際や、飛込ドグ84が待機ドグ86から離脱する際に生じる衝撃)を、多板クラッチ側で吸収することができる。これにより、ドグクラッチ側で生じる衝撃によるドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0068】
図4は、HEVCU102による車両1のモード切替処理の流れを示すフローチャートである。
【0069】
モード切替処理では、図4に示すように、HEVCU102は、まず、シフトポジションセンサからの出力信号に基づき、現在のシフトポジションがDレンジであるか否かを判定する(S100)。その結果、現在のシフトポジションがDレンジであれば(S100におけるYES)、S102に処理を移す。一方、現在のシフトポジションがDレンジでなければ(S100におけるNO)、当該モード切替処理を終了する。
【0070】
次に、HEVCU102は、車速センサからの出力信号に基づき、車速が0km/h(すなわち、停車中)であるか否かを判定する(S102)。その結果、車速が0km/h(停車中)であれば(S102におけるYES)、車両1をDレンジ充電モードに遷移させる(S104)。一方、車速が0km/hでなければ(S102におけるNO)、S106に処理を移す。
【0071】
次に、HEVCU102は、車速センサからの出力信号に基づき、車速が0km/hよりも大きく30km/h以下であるか否かを判定する(S106)。その結果、車速が0km/hよりも大きく30km/h以下であれば(S106におけるYES)、S108に処理を移す。一方、車速が0km/hよりも大きいが30km/h以下でなければ(S106におけるNO)、車両1をエンジン走行モードに遷移させる(S114)。
【0072】
次に、HEVCU102は、スロットル開度センサからの出力信号に基づき、現在のスロットル開度が0%以上20%以下であるか否かを判定する(S108)。その結果、スロットル開度が0%以上20%以下であれば(S108におけるYES)、S110に処理を移す。一方、スロットル開度が0%以上20%以下でなければ(S108におけるNO)、車両1をエンジン走行モードに遷移させる(S114)。
【0073】
次に、HEVCU102は、バッテリセンサからの出力信号に基づき、バッテリ残量が30%以上であるか否かを判定する(S110)。その結果、バッテリ残量が30%以上であれば(S110におけるYES)、車両1をEV走行モードに遷移させる(S112)。一方、バッテリ残量が30%以上でなければ(S110におけるNO)、車両1をエンジン走行モードに遷移させる(S114)。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、上記実施形態では、第1クラッチ70が多板クラッチ、第2クラッチ80がドグクラッチで構成された例を説明したが、第1クラッチ70および第2クラッチ80の具体的構成やその組み合わせはこれに限られない。例えば、第1クラッチ70および第2クラッチ80をいずれも多板クラッチで構成するようにしてもよいし、その他のクラッチで構成するようにしてもよい。いずれにしても、第1クラッチ70と第2クラッチ80の締結状態および開放状態が排他的に切り替えられればよい。
【0076】
また、上記実施形態で説明したモード切替処理における車速やアクセル開度、バッテリ残量の閾値はあくまで例示であり、設計に応じて上記で例示した以外の値を設定することができるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、エンジンおよびモータジェネレータを用いて駆動輪を駆動するハイブリッド車両に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
10 エンジン
11 モータジェネレータ
11a ロータ軸
16 無段変速機(変速機)
26 フロントドライブシャフト(駆動車軸)
70 第1クラッチ
80 第2クラッチ
84 飛込ドグ
86 待機ドグ
88 付勢部材
92 油圧機構
108 TCU(制御部)
図1
図2
図3
図4