(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770550
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】内燃機関用のシリンダヘッド、内燃機関、および内燃機関を動作させる方法
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20201005BHJP
F02B 23/08 20060101ALI20201005BHJP
F02B 23/10 20060101ALI20201005BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20201005BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20201005BHJP
F02B 31/08 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
F02F1/42 F
F02B23/08 S
F02B23/10 310B
F02B23/10 310C
F02D13/02 D
F02D43/00 301U
F02B31/08 500A
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-104351(P2018-104351)
(22)【出願日】2018年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-204607(P2018-204607A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2018年5月31日
(31)【優先権主張番号】10 2017 112 350.4
(32)【優先日】2017年6月6日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ カサル クルツァー
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム ムニエル
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−242550(JP,A)
【文献】
特開平10−008967(JP,A)
【文献】
特開平06−147022(JP,A)
【文献】
特開平10−054248(JP,A)
【文献】
特開平08−028280(JP,A)
【文献】
特開2007−120428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10
F02D 13/02
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース(2)を有し、前記クランクケース(2)には、往復運動する態様で内部を移動するピストンを有するシリンダ(3)が配置された、内燃機関用のシリンダヘッドであって、少なくとも1つの排出ダクト(6、7)、および2つの吸気ダクト(8、9)を有し、前記排出ダクト(6、7)は、排出弁を用いて開閉可能であり、前記吸気ダクト(8、9)は、いずれも1つの吸気弁によって開閉可能であり、前記シリンダヘッド(4)は、前記シリンダ(3)および前記ピストンを用いて構成される燃焼室(5)を形成するのに寄与し、前記弁はそれぞれ、弁揚程(HA、HE1、HE2、HE2’、HE2”)を有する、シリンダヘッドにおいて、
前記第1の吸気ダクト(8)は、前記第1の吸気ダクトを通って前記シリンダ(3)に流れ込む適量空気の第1のタンブル運動を引き起こすように構成され、前記第2の吸気ダクト(9)は、前記第2の吸気ダクトを通って前記シリンダ(3)に流れ込む前記適量空気の第2のタンブル運動を引き起こすように構成され、前記第1の吸気ダクト(8)および前記第2の吸気ダクト(9)は、前記第1のタンブル運動と前記第2のタンブル運動が前記燃焼室(5)で互いに合流する結果としてスワール運動が生じるように構成されることを特徴とするシリンダヘッド。
【請求項2】
前記第1の吸気ダクト(8)は、接線方向ダクトの形態で構成され、かつ/または前記第2の吸気ダクト(9)は、前記第1の吸気ダクト(8)と比較して、前記適量空気の方向変化を引き起こすように構成されることを特徴とする、請求項1に記載のシリンダヘッド。
【請求項3】
前記第2の吸気ダクト(9)は、前記適量空気の方向変化を引き起こすための平面部(18)を有することを特徴とする、請求項2に記載のシリンダヘッド。
【請求項4】
前記第1の吸気ダクト(8)の前記吸気弁の第1の前記弁揚程(HE1)は、前記第2の吸気ダクト(9)の前記吸気弁の第2の前記弁揚程(HE2’、HE2”)とは異なるように設定されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンダヘッド。
【請求項5】
前記第1の弁揚程(HE1)は、前記第2の弁揚程(HE2’、HE2”)よりも高いことを特徴とする、請求項4に記載のシリンダヘッド。
【請求項6】
前記第1の吸気ダクト(8)の前記吸気弁の第1の前記弁揚程(HE1)は、前記第2の吸気ダクト(9)の前記吸気弁の第2の前記弁揚程(HE2)に等しいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンダヘッド。
【請求項7】
前記第2の弁揚程は、二つの異なる前記弁揚程(HE2’、HE2”)を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリンダヘッド。
【請求項8】
前記吸気ダクト(8、9)の吸気開口(12、14)が構成されたカバー面(16)は、突起または窪みであるマスク(15)を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシリンダヘッド。
【請求項9】
前記マスク(15)は、前記燃焼室(5)内に突出した出っ張りの形態で構成され、前記排出ダクト(7)と前記第2の吸気ダクト(9)との間に延びるように構成されることを特徴とする、請求項8に記載のシリンダヘッド。
【請求項10】
前記内燃機関(1)は、1.0以下の値の行程/内径比を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のシリンダヘッド。
【請求項11】
クランクケース(2)およびシリンダヘッド(4)を有する内燃機関であって、前記シリンダヘッド(4)が、請求項1〜8のいずれか一項に記載の通りに構成される、内燃機関。
【請求項12】
内燃機関を動作させる方法であって、前記内燃機関(1)は、往復運動する態様で内部を移動するピストンを含むシリンダ(3)と、少なくとも1つの排出ダクト(6、7)、および2つの吸気ダクト(8、9)を有するシリンダヘッド(4)とを有するクランクケース(2)を有し、前記排出ダクト(6、7)は、排出弁を用いて開閉可能であり、前記吸気ダクト(8、9)は、いずれも1つの吸気弁によって開閉可能であり、前記シリンダヘッド(4)は、前記シリンダ(3)および前記ピストンを用いて構成される燃焼室(5)を形成するのに寄与し、各弁は、弁揚程(HA、HE1、HE2)を有し、前記シリンダ(3)内で設定される適量燃料を燃焼させるための全適量空気は、前記シリンダによって前記吸気ダクト(8、9)から吸い込まれ、前記全適量空気は、前記第1の吸気ダクト(8)を通って吸い込まれる適量空気と、前記第2の吸気ダクト(9)から吸い込まれる適量空気とからなり、吸い込まれる2つの適量空気は、前記シリンダ(3)内で特定の運動を行う、方法において、
前記第1の吸気ダクト(8)を通って吸い込まれた前記適量空気のタンブル運動が、前記第1の吸気ダクト(8)を用いて引き起こされ、吸い込まれた前記適量空気の逆タンブル運動が、前記第2の吸気ダクト(9)を用いて引き起こされ、前記タンブル運動と前記逆タンブル運動が前記燃焼室(5)で互いに合流する結果としてスワール運動が生じることを特徴とする方法。
【請求項13】
前記吸気ダクト(8、9)の前記弁の前記弁揚程(HE1、HE2)は異なるように設定されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記内燃機関(1)の低位および中位の部分負荷領域および回転数領域において、前記第1の吸気ダクト(8)の前記弁の前記弁揚程(HE1)は、前記第2の吸気ダクト(9)の前記弁の前記弁揚程(HE2)よりも高く設定されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記内燃機関(1)の全負荷の0%〜30%の負荷領域において、前記第2の吸気ダクト(9)は、ガス交換段階時に閉じたままであることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記内燃機関(1)の全負荷の20〜60%の負荷領域において、前記吸気ダクト(8、9)の前記弁の前記弁揚程(HE1、HE2)は、異なるように設定されることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1のプリアンブルによる内燃機関用のシリンダヘッドに関する。さらに、本発明は、特許請求項12で主張した内燃機関と、特許請求項13のプリアンブルによる内燃機関を動作させる方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用のシリンダヘッドは公知である。シリンダヘッドは、吸気弁または排出弁として公知の、ダクトを開閉するための少なくとも1つの弁をそれぞれ取り付けられた吸気ダクトおよび排出ダクトを有する。ダクトは、内燃機関のガス交換に寄与する。燃焼空気または燃焼空気混合物は、吸気ダクトを通って、ダクトをあてがわれた内燃機関のシリンダに流れ込むことができる。内燃機関の圧縮行程の後、燃焼空気または燃焼空気混合物は燃焼して、排ガスとして公知のものを形成する。前記排ガスは、排ガスのシリンダからの流出と、燃焼空気または燃焼空気混合物のシリンダへの流入とを特徴とするガス交換段階時に、排出ダクトを通って流れ出ることができる。
【0003】
シリンダ内に存在し、燃焼空気および燃料からなる燃焼空気混合物は、基本的に、完全には燃焼しない。燃焼を完全燃焼に近づけるために、ほぼ完全な均質化をもたらす様々な形状の吸気ダクトがあり、この均質化は、その形状と、引き起こされる燃焼空気混合物の流動運動とに対応する。
【0004】
したがって、例えば、直噴ガソリンエンジンの形態の現在の内燃機関は、スワールダクト、タンブルダクト、および逆タンブルダクトとして公知のものを単独で、または以下に説明する組み合わせで有する。スワールダクトは、シリンダ軸のまわりに回転する流れによる給気運動を引き起こす吸気ダクトを意味すると解釈される。タンブルダクトは、いわばスワール流に対して垂直に設定され、時計方向の運動を引き起こす循環流として公知のものを生じさせる。相応して、逆タンブルダクトによって生じる給気運動は、時計方向と反対の方向で行われる。
【0005】
(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、および(特許文献5)は、2つの吸気ダクトを有するシリンダを有する内燃機関を開示している。吸気ダクトの一方は、スワール流を引き起こすように構成され、他方は、タンブル流を引き起こすように構成される。
【0006】
シリンダを有する内燃機関は(特許文献6)から分かり、このシリンダは、タンブル流を引き起こすように構成された吸気ダクトと、スワール流を引き起こすように構成された吸気ダクトとを有するが、2つの吸気ダクトは、同時に使用されるのではなくて、むしろ主に交互の態様で使用される。
【0007】
シリンダヘッドを有する内燃機関は、(特許文献7)から分かり、吸気弁とは独立して構成されたタンブル弁が吸気部に設けられる。タンブル弁は、同一の吸気ダクトを通ってシリンダに流れ込む適量空気が、前記同一の吸気ダクトにより、時間に依存した態様で、第1のタンブル運動、または第2のタンブル運動を行うように、調整および制御ユニットを用いて、内燃機関の回転数に応じた態様で調整される。
【0008】
(特許文献8)および(特許文献9)は、スワールフラップを有するシリンダヘッドを有する内燃機関を開示している。加えて、(特許文献8)によると、さらにマスクが設けられ、非対称弁揚程がスワールフラップに連動して変わる(見える)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2014 101 379A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2006 009 102A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10 2013 100 902A1号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2014/352656A1号明細書
【特許文献5】欧州特許第0 537 745B1号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2010/224166A1号明細書
【特許文献7】国際公開第2015/033198A1号パンフレット
【特許文献8】独国特許出願公開第10 2009 015 639A1号明細書
【特許文献9】独国特許出願公告第10 2007 053 891B4号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、内燃機関用の改良したシリンダヘッドを提供することである。さらなる目的は、内燃機関と、内燃機関を動作させる方法とを規定することであり、この内燃機関および方法によって、排ガスの排出を削減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、この目的は、特許請求項1で主張した内燃機関用のシリンダヘッドによって達成される。さらなる目的は、特許請求項12の特徴を有する内燃機関と、特許請求項13の特徴を有する内燃機関を動作させる方法とによって達成される。本発明の適切かつ非自明の進歩性(進展)を有する有益な改良形態は、それぞれの従属請求項で規定される。
【0012】
クランクケースを有し、クランクケース内において、ピストンが、シリンダ内で往復運動する態様で移動できるように配置された、内燃機関用の本発明によるシリンダヘッドは、少なくとも1つの排出ダクトおよび2つの吸気ダクトを有する。排出ダクトは、排出弁を用いて開閉することができ、吸気ダクトは、いずれも1つの吸気弁によって開閉することができる。シリンダヘッドは、シリンダおよびピストンを用いて構成される燃焼室を形成するのに寄与する。排出弁および吸気弁は、いずれも弁揚程(バルブリフト)を有する。本発明によれば、第1の吸気ダクトは、第1の吸気ダクトを通ってシリンダに流れ込む(適量)空気のタンブル運動を引き起こすように構成され、第2の吸気ダクトは、第2の吸気ダクトを通ってシリンダに流れ込む(適量)空気の逆タンブル運動を引き起こすように構成される。先行技術と比較して、本発明によるシリンダヘッドによって、2つの吸気ダクトを通って流入する(適量)空気の、両方向に設定されたタンブル運動によるほぼ完全なスワール運動に加えて、燃焼室内で設定される、(適量)空気の、言い換えるとシリンダの給気(charge)の全体的に改良されたほぼ完全な均質性および流動運動を実現するさらなる運動を引き起こすことが可能である。これは、シリンダ給気(charge)のかなり改良された、より完全な燃焼をもたらし、その結果、本発明によるシリンダヘッドを装備した内燃機関の排ガス排出をかなり削減することができる。
【0013】
結果として生じるスワール運動と、結果として生じるスワール運動とは異なる給気のさらなる運動とは、接線(方向)ダクトの形態の第1の吸気ダクトの実施形態、および/または(適量)空気の方向を変化させるように構成された第2の吸気ダクトの実施形態で、特に満足のいくように達成することができ、方向変化は、特に、第1の吸気ダクトを通ってシリンダに流れ込む(適量)空気の方向に対して反対の方向に設定される。
【0014】
(適量)空気の方向を変化させる第2の吸気ダクトの費用のかからない製造において、前記第2の吸気ダクトは、好ましくは第2の吸気ダクトの吸気開口の領域に平面部を有する。
【0015】
本発明によるシリンダヘッドを用いて行われる上記の給気運動の強化は、第1の吸気ダクトの第1の弁揚程が、第2の吸気ダクトの第2の弁揚程と異なるように設定されることで達成することができる。吸気弁の弁揚程の非対称性が結果的に得られる。これは、異なる圧力が吸気開口の領域に広がることを意味し、その結果、シリンダの現在の吸気の対応する運動は、圧力平衡化に至るまで行われる。第1の揚程が第2の揚程よりも高い場合に、特に有益な給気運動が得られる。
【0016】
本発明によるシリンダヘッドのさらなる改良形態では、吸気ダクトの吸気開口の領域に形成されたカバー面は、燃焼室から離れる方向に向くように形成されたマスク、または燃焼室の方を向くように形成されたマスクを有する。すなわち、言い換えると、カバー面は、突起または窪みを有する。前記マスクはさらに、出っ張り状(lug−like)と表すこともできる。前記マスクの利点は、燃焼室の改良された給気運動を行うことができるようにするために、吸気ダクトから流れ出た(適量)空気の流れ方向の目標通りの変化を引き起こすことである。
【0017】
第1の吸気ダクトから離れる方向に向くように配置されたさらなる吸気開口の領域にマスクを配置することは特に有益である。すなわち、言い換えると、マスクは、逆タンブル運動を引き起こすために設けられた吸気ダクトの吸気開口の領域に配置される。このようにして、燃焼室内で、結果として生じるスワール運動と、全体構成としての給気運動とを強化することができ、これは、特に、弁揚程が小さい場合である。さらなる利点、すなわち、燃焼室内の給気運動のさらなる改良は、マスクが、さらなる吸気開口から第2の排出ダクトまで延びるシリンダ縁部から、さらなる吸気開口と第2の排出ダクトとの間に延びるように形成される場合にもたらされる。
【0018】
本発明によるシリンダヘッドは、内燃機関の行程/内径比(a stroke/bore ratio)が0.85以下の値を有する場合に特に有益であることが分かった。行程とは、シリンダ内でのピストンの最大限の可能な軸方向移動を表し、内径とは、シリンダ径を表す。本発明によるシリンダヘッドは、特に、内燃機関の行程/内径比が0.75以下に適している。
【0019】
本発明のさらなる側面は、内燃機関を動作させる方法に関し、内燃機関はクランクケースを有し、クランクケースは、クランクケースのシリンダ内で往復運動する態様で移動するピストンを有する。さらに、内燃機関は、少なくとも1つの排出ダクトと、2つの吸気ダクトとを備えたシリンダヘッドを有し、排出ダクトが排出弁を用いて開閉され、吸気ダクトがいずれも1つの吸気弁を用いて開閉されることが可能である。シリンダヘッドは、シリンダおよびピストンを用いて構成される燃焼室を形成するのに寄与する。弁はいずれも弁揚程を有する。シリンダ内で設定される(適量)燃料の燃焼を行うための全(適量)空気は、シリンダによって吸気ダクトから吸い込まれ、全(適量)空気は、第1の吸気ダクトを通って吸い込まれる(適量)空気、および/または第2の吸気ダクトから吸い込まれる(適量)空気からなり、吸い込まれた2つの(適量)空気は、シリンダ内で特定の運動を行う。本発明による方法は、第1の吸気ダクトを通って吸い込まれた(適量)空気のタンブル運動が、第1の吸気ダクトを用いて引き起こされ、吸い込まれた(適量)空気の逆タンブル運動が、第2の吸気ダクトを用いて引き起こされることを特徴とする。本発明による方法によって動作する内燃機関は、有利にも、排ガス排出の削減、特にCO
2の削減と、特に、全負荷動作時の燃料消費の削減とを特徴とする。
【0020】
本発明による方法の一改良形態では、吸気ダクトの弁の弁揚程は、給気運動を改善するために、異なるように設定される。
【0021】
内燃機関の特に好ましい動力出力と、前記動力出力における内燃機関の特に好ましい排ガス排出とは、内燃機関の低位および中位の部分負荷領域と回転数領域とにおいて、第1の吸気ダクトの弁の弁揚程が、第2の吸気ダクトの弁の弁揚程よりも高く設定された場合に達成することができる。
【0022】
内燃機関の全負荷の0〜30%の負荷領域において、ガス交換段階時に第2の吸気ダクトが閉じている場合に、および、特に、内燃機関の全負荷の20〜60%の負荷領域において、吸気ダクトの弁の弁揚程が異なるように設定された場合に、さらなる改良がもたらされる。
【0023】
本発明のさらなる利点、特徴、および細部が、好ましい例示的な実施形態についての以下の説明から、および図面を使用して明らかになる。本明細書で上記に説明した特徴および特徴の組み合わせと、以下の本文における図の説明で説明する、および/または図単独で示す特徴および特徴の組み合わせは、個々に指定された組み合わせでだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく、他の組み合わせで、またはそれ自体で使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による内燃機関の吸気ダクトおよび排出ダクトを有する、本発明によるシリンダヘッドの細部の平面図を示している。
【
図2】
図1によるシリンダヘッドの細部の斜視図を示している。
【
図3】
図2によるシリンダヘッドの流れシミュレーションの流れ線の斜視図を示している。
【
図4】本発明による内燃機関の弁揚程をクランク角/弁揚程図で示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による内燃機関1は、例として
図1の外形図で詳細に示すように、少なくとも1つのシリンダ3を備えたクランクケース2を有し、ピストン(詳細に示していない)は、シリンダ3内で往復運動する態様で移動できるように、シリンダ3内に受け入れられる。ピストンは、クランクシャフト(詳細に示していない)上でクランクケース2に取り付けられる。クランクシャフトから離れる方向に向くように配置された端部で、シリンダ3はシリンダヘッド4を有し、ピストンとシリンダヘッド4との間に配置された燃焼室5が、シリンダヘッド4を用いて形成される。
【0026】
シリンダヘッド4は、第1の排出ダクト6および第2の排出ダクト7と、第1の吸気ダクト8および第2の吸気ダクト9とを含む。
【0027】
ダクト6、7、8、9は、弁(詳細に示していない)を用いて開閉することができる。弁は、ディスク弁の形態で構成され、いずれも、弁の長手軸に沿って軸方向に移動可能なため特定の弁揚程を有する。第1の排出ダクト6にあてがわれた第1の排出弁は、第2の排出ダクトにあてがわれた第2の排出弁の弁揚程と一致する排出弁揚程HAを有する。
【0028】
第1の吸気ダクト8にあてがわれた第1の吸気弁は、第2の吸気弁9の第2の吸気弁揚程HE2とは異なり得る第1の吸気弁揚程HE1を有し、その結果、吸気弁8、9の弁揚程の非対称性が生じる。
図4によるクランク角/弁揚程図では、第2の吸気弁9の低い弁揚程HE2’および第2の吸気弁9のさらに低い弁揚程HE2”が示されている。内燃機関1は、弁揚程HE2、HE2’、HE2”のうちの1つだけを有することが絶対的に必須ではない。例えば、可変弁揚程は、可変クランクシャフトまたはカムシャフト調整装置を用いて実現することができる。
【0029】
第1の吸気ダクト8は、第1の吸気ダクト8を通ってシリンダ3に流れ込む(適量)空気のタンブル運動として知られているものを引き起こすように構成されている。第1の吸気ダクト8は、燃焼室内での圧縮段階時に、第1の吸気ダクト8を流れる(適量)空気にタンブル運動を付与するために、タンブルダクトとして、または言い換えると、接線方向ダクトとしても知られているものとして構成されている。タンブル運動は、循環運動として公知のものに対応し、その理由は、スワールとして公知のものと対照的に、タンブル運動は、(前記スワールのように)シリンダ軸のまわりに回転する態様で方向付けられる運動に対応するのではなくて、むしろ、その運動は、いわばシリンダ軸10に対して水平に設定されたシリンダ横軸11のまわりに行われるからである。
【0030】
第2の吸気ダクト9は、第2の吸気ダクト9を通ってシリンダ3に流れ込む(適量)空気の逆タンブル運動として公知のものを引き起こすように構成されている。これは、言い換えると、逆タンブル運動の方向は、タンブル運動と反対であることを意味する。したがって、2つのタンブル運動は、吸気ダクト8、9の対応する構造によって、本発明によるシリンダヘッド4を用いて引き起こすことができる。
【0031】
図1および
図2に示すように、特に、第2の吸気ダクト9は、第2の吸気ダクト9を流れる(適量)空気をシリンダ中心と反対の方向に流すために、第2の吸気ダクト9の吸気開口12より上流のダクト入口開口13から始まる逆タンブルダクトとして構成されている。すなわち、言い換えると、第1の吸気ダクト8を流れる(適量)空気は、所定の方向に、この例示的な実施形態ではシリンダ中心の方向に流れ、第2の吸気ダクト9を流れる(適量)空気は、実質的に反対の方向に案内される。方向変化を引き起こすために、第2の吸気ダクト9は、吸気開口12の近くの平面部18を有し、この平面部18は、シリンダ軸10にほぼ平行な伸長軸19に沿って延びるように構成されている。詳細に示さない1つの例示的な実施形態では、伸長軸19は、吸気開口12から離れる方向を向いた態様で伸長軸19上に位置する面部18の面点から、シリンダ3のシリンダ縁部17の方向に傾斜するように設定され、シリンダ縁部17は、第2の排出ダクト7から離れる方向に向くように配置されている。
【0032】
原理的に、逆タンブルダクト9の(適量)空気の燃焼室5への流入方向は、タンブルダクト8と反対に向けられると表すことができる。タンブル運動を行う第1の吸気ダクト8の適量空気と、逆タンブル運動を行う第2の吸気ダクト9の(適量)空気とは、燃焼室5で互いに合流し、運動が反対に向けられたために、さらなる運動が引き起こされる。燃焼室5内で斜めに設定されたタンブル運動と、純粋なタンブル運動、すなわち、シリンダ横軸11のまわりに回転する運動と、結果として生じる、燃焼室5内で移動する(適量)空気のスワール運動との、方向が異なる実質的に3つの運動形態、言い換えると流れが起こる。
【0033】
図3に例として示すように、燃焼室5に存在する(適量)空気のうちのスワール成分を有する、またはスワール運動を行う(適量)空気部分は、基本的に、燃焼室5に対向するように構成されたピストンのピストンクラウン(詳細に示していない)の領域と燃焼室5を区切る、シリンダヘッド4のシリンダヘッド面とに配置され、それに対して、傾斜した設定のタンブル運動は、実質的にシリンダ3のシリンダ壁に存在し、純粋なタンブル運動は、実質的に燃焼室5の中心に存在する。
【0034】
タンブル運動よりも実質的に安定し、タンブル運動および逆タンブル運動の組み合わせを用いて得られるスワール運動の形態の空気運動の実現性は、特に、内燃機関1の低位から中位の負荷領域および回転数領域において、吸気弁の弁揚程HE1、HE2の非対称性を用いて改善することができる。
【0035】
結果として生じるスワール運動は、接線方向ダクトとして構成された第1の吸気ダクト8の弁の第1の吸気弁揚程HE1が、逆タンブル運動を引き起こすように構成された第2の流入ダクト9の弁の第2の吸気弁揚程HE2よりも高い設定である場合に強化される。したがって、タンブル運動を行う(適量)空気は、逆タンブル運動を行う(適量)空気よりも多く、結果として生じるスワール、または結果として生じるスワール運動は、流入ダクト8、9を流れる(適量)空気が等しく多量の場合と比較して強化される。
【0036】
第2の流入ダクト9の弁のゼロ揚程として公知のものは、特に、内燃機関1の最も低い負荷領域において、燃焼室5内に結果として生じる好ましいスワール運動を引き起こす。これは、第1の流入ダクト8を通って燃焼室5に流れ込む(適量)空気がタンブル運動を行い、第2の流入ダクト9が閉じているため、燃焼室5内に広がった伝搬空間が、適量空気にとって利用可能になり、特に、吸気開口12の領域に減圧状態が存在し、その結果、タンブル運動は、結果として生じるスワール運動に変換される。
【0037】
燃焼室5内でさらなる吸気開口14の領域に構成されたマスク15は、特に、第2の吸気ダクト9の弁の弁揚程が低い場合に、結果として生じるスワール運動を強化する。マスク15は、燃焼室5内に突出した出っ張りの形態で構成され、マスクは、シリンダヘッド4にあてがわれた燃焼室5のカバー面16に構成される。マスク15は、シリンダ縁部17から第2の排出ダクト7と第2の吸気ダクト9との間に延びるように構成されている。すなわち、言い換えると、マスク15は、さらなる吸気開口14から第2の排出ダクト7に延びるシリンダ縁部17から、さらなる吸気開口14と第2の排出ダクト7との間に延びるように構成されている。
【0038】
本発明による方法および本発明による内燃機関1は、特に、内燃機関1の行程/内径比が1.0以下の値を有する場合に有利である。
【0039】
内燃機関1を動作させる本発明による方法は、第1の吸気ダクト8を通って吸い込まれた(適量)空気のタンブル運動が、第1の吸気ダクト8を用いて引き起こされ、吸い込まれた(適量)空気の逆タンブル運動が、第2の吸気ダクト9を用いて引き起こされることを特徴とする。これは、対応する形状の吸気ダクト8、9によって行われるのが好ましいが、異なる方法で引き起こすこともできる。
【0040】
特に、有利にも、結果として、内燃機関1の低位から中位の部分負荷領域および回転数領域において排出物を削減するために、吸気ダクト8、9の弁の弁揚程HE1、HE2が異なるように設定され、第1の吸気ダクト8の第1の弁揚程HE1は、特に、第2の吸気ダクト9の第2の弁揚程HE2よりも高い値を有する。これは、言い換えると、内燃機関1の低位および中位の部分負荷領域ならびに回転数領域において、第1の吸気ダクト8の弁の第1の弁揚程HE1が、第2の吸気ダクト9の弁の第2の弁揚程HE2よりも高く設定され、第2の弁揚程HE2は、低い弁揚程HE2’またはさらに低い弁揚程HE2”とすることができる。
【0041】
第1の弁揚程HE1はまた、第1の吸気ダクト8の弁の最大弁揚程とすることができ、その値は変わらないままであり得るが、第2の弁揚程HE2の値は小さくなる。すなわち、言い換えると、低位および中位の負荷領域ならびに/または回転数領域において、第1の弁揚程HE1は、必ずしも第1の吸気弁の最大限の弁揚程である必要はない。吸気弁の弁揚程間の相違は、本発明による方法の利点を得るために絶対的に必要であり、第1の吸気弁の弁揚程が、第2の吸気弁の弁揚程よりも高いことが必要である。
【0042】
本発明による方法のさらなる例示的な実施形態では、第2の吸気ダクト9は、内燃機関1の全負荷の0〜30%の負荷領域において、ガス交換段階時に閉じたままである。すなわち、言い換えると、第1の吸気ダクト8だけが開かれ、適量空気は、シリンダ3によって第2の吸気ダクト9から吸い込むことが全くできない。
【0043】
吸気ダクト8、9の弁の弁揚程HE1、HE2は、特に、内燃機関1の全負荷の20〜60%の負荷領域において、同様に異なるように設定することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 内燃機関
2 クランクケース
3 シリンダ
4 シリンダヘッド
5 燃焼室
6 第1の排出ダクト
7 第2の排出ダクト
8 第1の吸気ダクト
9 第2の吸気ダクト
10 シリンダ軸
11 シリンダ横軸
12 吸気開口
13 ダクト入口開口
14 別の吸気開口
15 マスク
16 カバー面
17 シリンダ縁部
18 面部
19 伸長軸
HA 排出弁揚程
HE1 第1の吸気弁揚程
HE2 第2の吸気弁揚程
HE2’ 低い弁揚程、第2の吸気弁
HE2” さらに低い弁揚程、第2の吸気弁