特許第6770600号(P6770600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770600
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】アイアンゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20201005BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20201005BHJP
【FI】
   A63B53/04 F
   A63B102:32
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-12810(P2019-12810)
(22)【出願日】2019年1月29日
(65)【公開番号】特開2020-120712(P2020-120712A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年7月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土井 一宏
(72)【発明者】
【氏名】前中 健佑
【審査官】 槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−215445(JP,A)
【文献】 特開2013−230280(JP,A)
【文献】 特開2014−30566(JP,A)
【文献】 特開2017−77274(JP,A)
【文献】 特開2017−35191(JP,A)
【文献】 特開2013−169413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース面に複数のスコアラインを有するアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、
隣接する2本の前記スコアラインの間に、ヒール・リーディングエッジ−トウ・トップエッジ方向に延伸し上側のスコアラインと繋がる傾斜溝を少なくとも有する微細構を備え
隣接する2本の前記スコアラインの間をトップエッジ−リーディングエッジ方向に2等分した場合に、トップエッジ側のトウ・ヒール方向の表面粗さ(Ra)は、リーディングエッジ側のトウ・ヒール方向の表面粗さ(Ra)よりも大きい、
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
フェース面に複数のスコアラインを有するアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、
隣接する2本の前記スコアラインの間に、ヒール・リーディングエッジ−トウ・トップエッジ方向に延伸し上側のスコアラインと繋がる傾斜溝を少なくとも有する微細構を備え、
隣接する2本の前記スコアラインの間をトップエッジ−リーディングエッジ方向に2等分した場合に、トップエッジ側のトウ・ヒール方向の表面粗さ(Ra)は、トップエッジ・リーディングエッジ方向の表面粗さ(Ra)よりも大きい、
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
請求項1〜請求項のいずれかに記載のアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、
前記微細構は、略Y字形状をなす、
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載のアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、
前記スコアラインの間を2等分した場合に、トップエッジ側の領域に施された前記微細溝の加工面積が、リーディングエッジ側の領域に施された前記微細溝の加工面積よりも大きい、
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
請求項3に記載のアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、
前記スコアラインの間を4等分した場合に、前記傾斜溝の下端が、下側のスコアラインから1/4の高さよりも上側に位置する、
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアンゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェッジなどのアイアンゴルフクラブでは、天候や温度あるいは湿度など、気候に左右されることなく安定してバックスピンを掛けられることが求められる。雨の日のようにフェース面が濡れた状態でのバックスピン量の低減を抑制するために、例えば、特許文献1には、フェースに設けられたスコアラインの間に、スコアラインよりも細い溝を備えるようにしたアイアン型のゴルフクラブヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−215445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ウェット状態でのスピン性能をさらに向上させるには、フェース上の水滴を、より効果的に排出することが望まれる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、排水性が高くウェット状態においてもバックスピンを掛け易いアイアンゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明によるアイアンゴルフクラブヘッドは、フェース面に複数のスコアラインを有するアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、隣接する2本の前記スコアラインの間に、ヒール・リーディングエッジ−トウ・トップエッジ方向に延伸し上側のスコアラインと繋がる傾斜溝を少なくとも有する微細構を備え、隣接する2本の前記スコアラインの間をトップエッジ−リーディングエッジ方向に2等分した場合に、トップエッジ側のトウ・ヒール方向の表面粗さ(Ra)は、リーディングエッジ側のトウ・ヒール方向の表面粗さ(Ra)よりも大きいことを特徴とする。
また、フェース面に複数のスコアラインを有するアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、 隣接する2本の前記スコアラインの間に、ヒール・リーディングエッジ−トウ・トップエッジ方向に延伸し上側のスコアラインと繋がる傾斜溝を少なくとも有する微細構を備え、 隣接する2本の前記スコアラインの間をトップエッジ−リーディングエッジ方向に2等分した場合に、トップエッジ側のトウ・ヒール方向の表面粗さ(Ra)は、トップエッジ・リーディングエッジ方向の表面粗さ(Ra)よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
これにより、ウェット状態での打球時に、フェースとボールとで潰された水滴を、スコアラインに効率的に排水することができ、ウェット状態でのスピン性能を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウェット状態でもバックスピンを掛け易いアイアンゴルフクラブヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態1によるアイアンゴルフクラブヘッドの正面図である。
図2】本実施の形態1による一の微細構を示す図である。
図3】本実施の形態1によるアイアンゴルフクラブヘッドのスコアライン間の部分拡大図である。
図4】本実施の形態1によるアイアンゴルフクラブヘッドの変形例におけるスコアライン間の部分拡大図である。
図5】本実施の形態1によるアイアンゴルフクラブヘッドの変形例におけるスコアライン間の部分拡大図である。
図6】本実施の形態1によるアイアンゴルフクラブヘッドの変形例におけるスコアライン間の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
図1は、本発明に係るアイアンゴルフクラブヘッド(以下、適宜「ヘッド」という。)100の正面図である。
【0011】
図1において、ヘッド100は、シャフトが接続されるネック部11と、ボールの打球部をなす本体部12とより構成される。本体部12は、打球面をなすフェース13と、ヘッド100の底部を構成するソール14と、ヘッド100の上端縁部を構成するトップエッジ15と、ネック11の下端とソール14とを接続するヒール16と、ソール14とトップエッジ15とをヒール16と対向する位置で接続するトゥ17と、フェース13とソール14との境界をなすリーディングエッジ18とを有している。ヘッド100は、アイアンタイプのゴルフクラブヘッドであればいかなるタイプのものであっても良く、特に、バックスピンの掛け易さが求められるウェッジタイプのアイアンゴルフクラブヘッドであることが好ましい。
【0012】
フェース13には、複数のスコアライン19が設けられている。スコアライン19は、トウヒール方向に、3.5mm程度の上下間隔で複数本設けられている。スコアライン19の幅は、例えば0.76mm以上0.88mm以下であり、深さは例えば0.30mm以上0.5mm以下である。スコアライン19は、鍛造や鋳造あるいは切削などにより形成することができる。
【0013】
各スコアライン19の間には、スコアライン19よりも細い微細溝20が設けられている。微細溝20は、本発明においては、ボールの打撃時に、フェース13に付着している水滴をスコアライン19に排出するための排水路として主に機能する。
【0014】
図2は、本実施の形態1における一の微細溝20を示す図である。微細構20は、フェース13を正面から見た場合の右下から左上方向、すなわち、ヒール・リーディングエッジ−トウ・トップエッジ方向(以下、「HL−TT方向」という。)に傾斜しながら延伸し、上側のスコアライン19に繋がる傾斜溝20aを少なくとも備える。
【0015】
微細溝20において傾斜構20aを設ける理由は以下の通りである。本発明者は、フェース13上に水滴が付着している状態でボールを打撃したときの水滴の動きを、高速度カメラを用いて確認した。具体的には、株式会社ミヤマエ製のゴルフロボット「メカニカルゴルファー」にミズノ社製「T7」を固定し、キャリーが60ヤードになるように設定した。次に、霧吹きを用いてボールに2回、フェース13の表面に2回それぞれ水を吹きかけてウェット状態を再現し、ゴルフロボットでボールを打撃した。そして、打撃時のフェース13表面の状態を、Photron社製高速度カメラ「Fastcam SA−X2」を用いて撮影した。撮影は、0.5ms毎に打撃後3msまで行った。
【0016】
撮影画像を確認した結果、フェース13とボールとの間で潰された水滴はトップエッジ15側に流れていくことを確認した。ゴルフスイング中のフェース13面上には、HL−TT方向への遠心力が生じることより、HL−TT方向に延びる微細な傾斜溝20aをスコアライン19間に設け、かかる傾斜溝20aの上端をスコアライン19に接続させることで、フェース13上の水滴を効果的にスコアライン19に排水することができる。
【0017】
本発明では以上の知見に基づき、HL−TT方向に傾斜しながら延伸し、上側のスコアライン19に繋がる傾斜溝20aを少なくとも備える微細構を、スコアライン19間に設けることとした。本実施の形態1によるヘッド100では、排水性をより高めるために、“Y”字の左側傾斜を傾斜構20aとする略Y字型の微細構20を、スコアライン19間に配置することとした。以下、本実施の形態1における微細溝20を詳細に説明する。
【0018】
図2において、微細溝20は、HL−TT方向に延びる傾斜溝20aと、フェース13を正面から見た場合の左下から右上方向、すなわち、トウ・リーディングエッジ−ヒール・トップエッジ方向(以下、「TL−HT」方向という)に延びる上溝20bと、スコアライン19に対して略垂直に延びる下溝20cとより構成される。微細溝20は、公知のレーザー加工により施すことができる。微細構20の溝幅は例えば0.020mm〜0.150mmであり、深さは例えば0.0010mm〜0.0500mmである。
傾斜溝20a、及び上溝20bは、トップエッジ15側に向けて緩やかに凸状に湾曲している。これにより、フェース13に占める微細溝20の加工面積を大きくすることができ、排水効果を高めることができる。なお、傾斜溝20aと上溝20bは、直線状であってもよく、あるいはリーディングエッジ18側に向けて凸状に湾曲する形状であってもよい。
【0019】
傾斜溝20aと上溝20bとがなす角度は任意の値とすることができるが、後述するように、微細構20の加工密度を高める観点よりは、微細構20の傾斜溝20aが、3本〜5本左側に位置する微細構20の上溝20bと交差できる程度とするのが好ましい。
【0020】
図3は、フェース13の部分拡大図であり、2本のスコアライン19とその間に形成された複数の微細構20を示している。本実施の形態1においては、隣接する微細構20の傾斜溝20aと上溝20bとが互いに交差するように、同一形状の微細構20が連続して配置される。
【0021】
傾斜溝20aと上溝20bは、その上端が上側のスコアライン19に繋がっており、下溝20cは、下側のスコアライン19に繋がっている。なお、下溝20cは、必ずしもその下端が下側のスコアライン19に繋がっていなくても良い。
【0022】
微細構20のY字形状やスコアライン19間における配置間隔は、傾斜溝20aを備える限りにおいて任意ではあるが、好ましくは、スコアライン19の間をスコアライン19に平行に2等分した場合に、トップエッジ15側の領域に施された微細構20の加工面積が、リーディングエッジ18側の領域に施された微細構20の加工面積よりも大きくなるようなY字形状とするのが好適である。これは、上述の通り、フェース13に付着した水滴は打撃時にはトップエッジ15側に流れていくので、2本のスコアライン15間において、トップエッジ15側に多くの微細構20を加工することで、排水効果を高めることができることによる。
【0023】
排水効果を高める観点よりは、傾斜構20aは長いほうが好ましい。一方、ウェット状態の排水性と共にドライ状態のスピン性能をも確保したい場合は、下溝20cを一定の長さで確保しておくのが望まれる。すなわち、下溝20cが短すぎると、隣り合う下溝20cで挟まれた平滑領域の面積が少なくなる。ドライ状態では、フェース13とボールとの接触面積が多いほうがスピンが掛かり易いので、フェース13上には平滑領域が広く存在しているのが好ましい。
【0024】
このため、ウェット状態での排水性とドライ状態でのスピン性能を両立させたい場合は、傾斜溝20aの下端が、スコアライン19の間を4等分した場合に、下側のスコアライン19から1/4の高さよりも上側に位置するように設定するのが好適である。これにより、スコアライン19の間の領域に平滑領域を一定の範囲で残しながら、トップエッジ15側の領域に微細構20を密集させることができ、ウェット状態のスピン性能と、ドライ状態のスピン性能とを両立させることが可能になる。
【0025】
上述した微細構20の形状や配置は、フェース13の表面の算術平均粗さRa(JIS B 0601に準拠する。以下「表面粗さ(Ra)」という。)の観点よりは、以下のように定義することができる。
【0026】
Y字形状の微細溝20をスコアライン19間に設けた場合、スコアライン19間を2等分すると、トップエッジ15側の領域には、スコアライン19に対して一定の角度で傾斜する傾斜溝20a、及び上溝20cが主に加工され、リーディングエッジ18側の領域には、スコアライン19に垂直な下溝20cが主に加工される。このため、トップエッジ15側の領域におけるトウヒール方向(以下「TH方向」という。)の表面粗さ(Ra)は、リーディングエッジ18側の領域におけるTH方向の表面粗さ(Ra)よりも大きくなる。
【0027】
したがって、TH方向の表面粗さ(Ra)の観点よりは、微細溝20は、上側のスコアライン19に繋がる傾斜溝20aを備え、かつ「リーディングエッジ18側のTH方向表面粗さ(Ra)<トップエッジ15側のTH方向表面粗さ(Ra)」の関係を満たすようなY字形状とすればよい。かかる条件(以下、「条件1」という。)を満たす限りにおいて、傾斜溝20a、上溝20b、及び下溝20cの長さ、上溝20bと下溝20cとがなす角度、上側のスコアライン19において測定される傾斜溝20aと上溝20bとの間の長さ、あるいは隣接する微細構20aの間隔等は任意とすることができる。
【0028】
また、微細溝20を略Y字形状とした場合、2本のスコアライン19の間においては、TH方向と、トップエッジ15−リーディングエッジ18方向(以下、「UD方向」という。)のそれぞれの表面粗さ(Ra)を比較すると、TH方向の表面粗さ(Ra)は、UD方向の表面粗さ(Ra)よりも大きくなる。
【0029】
したがって、TH方向とUD方向の表面粗さ(Ra)の観点よりは、微細構20は、上側のスコアライン19に繋がる傾斜溝20aを備え、かつ「UD方向表面粗さ(Ra)<TH方向表面粗さ(Ra)」の関係を満たすようなY字形状とすればよい。かかる条件(以下、「条件2」という。)を満たす限りにおいて、傾斜溝20a、上溝20b、及び下溝20cの長さや上溝20bと下溝20cとがなす角度、あるいは隣接する微細構20aの間隔等は任意とすることができる。
【0030】
2本のスコアライン19間に配置する微細構20は、それぞれの形状が異なるY字形状としても良い。図4は、下溝20cの長さが異なる2種類の微細構20を交互に配置したフェース13の部分拡大図を示している。図4に示すように下溝20cの長さが異なる微細溝20を配置する場合であっても、排水性の観点よりは、微細溝20の形状は、スコアライン19の間をスコアライン19に平行に2等分した場合に、トップエッジ15側の領域に施された微細構20の加工面積が、リーディングエッジ18側の領域に施された微細構20の加工面積よりも大きくなるようなY字形状が好適である。
【0031】
また、ドライ状態でのスピン性能の確保を考慮する場合は、下溝20cが短いほうの傾斜溝20aの下端が、スコアライン19の間を4等分した場合に、下側のスコアライン19から1/4の高さよりも上側に位置するように設定するのが好ましい。さらには、表面粗さ(Ra)の観点よりは、条件1あるいは条件2を満たすようなY字形状とすればよい。
【0032】
本発明による微細構20は以上のように構成され、鍛造あるいは鋳造により成型したヘッド本体にスコアライン19を形成し、スコアライン19間に上述した微細溝20を設けることで、本発明によるアイアンゴルフクラブヘッド100を得ることができる。ヘッド100にはNi(ニッケル)−Cr(クロム)メッキ等のメッキ加工を施してもよく、フェース13面にミリング加工を施してもよい。以上のようにして得られるヘッド100のネック部11にシャフト(図示せず。)を挿入固定し、シャフトにグリップを取り付けることで、本発明に係るアイアンゴルフクラブを得ることができる。
【0033】
以上のように、本実施の形態1によるアイアンゴルフクラブヘッド100によれば、ヒール・リーディングエッジ−トウ・トップエッジ方向に延伸し上側のスコアライン19に繋がる傾斜溝20aを少なくとも備える微細構20を、2本のスコアライン19間に複数配置することとしたので、打撃時にフェース13とボールとで押し潰されてトップエッジ15側に流れていく水滴を、上側のスコアライン19に効果的に排水することができる。これにより、ウェット状態でのスピン性能を高めることができる。
【0034】
なお、上述したように、本発明による微細構20は、HL−TT方向に延び、上側のスコアライン19に接続する傾斜構20aを備えれば良いので、微細構20の形状は必ずしもY字型に限られない。たとえば図5に示すように、HL−TT方向に直線的に延びる傾斜溝20a(説明の便宜上、図5中では1本の傾斜溝20aを太線で示す。)自体を微細構20とし、これを所定間隔で設けるようにしてもよい。この場合、傾斜構20aを短い縦溝で繋ぐことで、排水性能を高めることができる。
【0035】
あるいは図6に示すように、リーディングエッジ18側に向けて凸状に湾曲する浅U字型溝をTH方向に繰り返し配列し、かかる繰り返し配列を所定間隔でずらしながらUD方向に配置することにより形成される、HL−TT方向に延びる連続かまぼこ型の傾斜溝20a(説明の便宜上、図6中では1本の傾斜溝20aを太線で示す。)自体を微細構20とし、これを所定間隔で設けるようにしてもよい。この場合、各微細構20を円弧溝で繋ぐことで、排水性能を高めることができる。
【0036】
<実施例>
本発明の実施例として、微細構20の形状を異ならせた実施例1〜4のヘッド100を作成し、シャフトを取り付けて実施例1〜4に係るゴルフクラブを作成した。実施例1〜4に係るヘッド100はいずれも、ミズノ社製「T7」(ロフト角:52度、バウンス角:9度、ライ角:63度、スコアライン本数:16本、スコアライン間隔:3.5mm)のフェース13上に、レーザー加工機を使用して微細溝20をレーザー加工した。実施例1〜4の微細構20の詳細は以下の通りである。
【0037】
実施例1では、図3に示すように、同一形状のY字型の微細構20を、スコアライン19間に設けた。傾斜溝20aと上溝20bは、上側に緩やかに湾曲させた形状とした。傾斜構20aと上溝20bは、上側のスコアライン19に接続させ、下溝20cは下側のスコアライン19に接続させている。微細溝20は、下溝20cの長さを1.1mmとし、上側のスコアライン19において測定される傾斜溝20aと上溝20bとの間の長さを1.13mmとした。傾斜溝20aの幅は0.103mm、深さは0.0164mmであった。微細構20は、隣接する下溝20cを0.3mmの間隔で配置した。
【0038】
実施例2では、図4に示すように、下溝20cの長さが異なる2種類のY字型の微細構20をスコアライン19間に設けた。傾斜溝20aと上溝20bは直線状とした。下溝20cが長い第1の微細構20は、下溝20cの長さを1.72mmとし、上側のスコアライン19において測定される傾斜溝20aと上溝20bとの間の長さを0.51mmとした。下溝20cが短い第2の微細構20は、下溝20cの長さを1.25mmとし、上側のスコアライン19において測定される傾斜溝20aと上溝20bとの間の長さを0.70mmとした。第1、及び第2の微細構20は、0.35mmの間隔で交互に繰り返し設けている。また第1、及び第2の微細構20のいずれも、斜構20aと上溝20bは上側のスコアライン19に接続させ、下溝20cは下側のスコアライン19に接続させている。
【0039】
実施例3では、図5に示すように、HL−TT方向に延びる直線状の傾斜構20aを、TH方向に1.0mmの間隔で設けた。実施例3では、傾斜溝20a自体が微細構20をなしている。傾斜構20aは、スコアラインに対して約29度の角度で延伸させた。それぞれの傾斜構20aの間は、スコアライン19に垂直な短い縦溝で0.4mm間隔で繋いでいる。
【0040】
実施例4では、図6に示すように、浅U字型溝を繰り返し配列させてHL−TT方向に延びる連続かまぼこ型の傾斜溝20aを、TH方向に0.6mmの間隔で設けた。実施例4では、傾斜溝20a自体が微細構20をなしている。浅U字型の幅は0.6mm、高さは0.3mmとした。
【0041】
一方、比較例1として、ミズノ社製「T7」を用意した。微細溝20を有しない点以外は、ヘッドの詳細な構成は実施例1〜4のものと同じである。
【0042】
以上の実施例1〜4、及び比較例1を用いて、ウェット状態とドライ状態のそれぞれで、バックスピン量とキャリーを測定した。バックスピン量の測定は、株式会社ミヤマエ製「メカニカルゴルファー」を用いて、実施例1〜4、及び比較例1に係るアイアンゴルフクラブを使用して60ヤードショットでのバックスピンの回転数を計測した。ボールのバックスピン回転数は、Trackman社製弾道測定器「トラックマン」で測定した。ボールはミズノ株式会社製「MPS」を使用した。ウェット状態での計測は、霧吹きを用いてボールに2回、フェース13の表面に2回それぞれ水を吹きかけてウェット状態を再現し、ボールを打撃した。
【0043】
また、実施例1〜4、及び比較例1のそれぞれについて、スコアライン19の間の表面粗さ(Ra)を、TH方向、及びUD方向について計測した。TH方向については、スコアライン19間を2等分したときのトップエッジ15側の領域と、リーディングエッジ18側のそれぞれの領域について計測を行った。UD方向については、スコアライン4本目と5本目の間のスコアライン中心において計測を行った。
【0044】
表面粗さ(Ra)の計測は、ミツトヨ社製「SURFTEST SJ−210」を用いて、JIS B0601−1994に基づき評価した。計測条件は、測定長さ:12.5mm、基準長さ:2.5mm、カットオフ値:2.5mmとした。各計測はそれぞれ3回の計測を行い、その平均値を計測値とした。表1にロボットテストの結果、及び表面粗さ(Ra)の測定値を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果より、実施例1〜4はいずれも、ウェット状態のバックスピン量が、ドライ状態に比べて増加していることが分かる。これより、本発明によれば、ウェット状態においてもバックスピンを掛け易いアイアンゴルフクラブを提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0047】
11:ネック部11、12:本体部、13:フェース、14:ソール、15:トップエッジ、16:ヒール、17:トゥ、18:リーディングエッジ、19:スコアライン、20:微細溝、20a:傾斜構、20b:上溝、20c:下溝、100:アイアンゴルフクラブヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6